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[戦場のフーガ if]幕間 1

  白。

  まるで永遠に地平線が続くかのように真っ白く広い空間に、それは居た。

  まるで音楽家のような朱色の燕尾服を纏い、ペストマスクの様な大きな嘴の付いた仮面を着け、更に黒いシルクハットをやや目深に被った[[rb:人物 > それ]]は、およそこの白い空間には似つかわしくないような黒い背もたれつきのイスに腰掛けながら、貴族のように優雅な所作で左手に持ったコーヒーソーサーから右手でコーヒーカップを取り、口元へと運ぶ。

  その周りには、無数のモニターがホログラムのように空中へと投影され、ありとあらゆる場面を写しては消え、また再び現れては消え…を繰り返していた。

  その人物は、椅子の向きを時折変えながら、そのモニターの出現と消滅を眺めつつ、ふと自身の目の前にある大仰な機械─何かのコントロールパネルであろうか、無数のボタンとヒトが両手を広げても収まらない位のキーボードが半円状に取り囲むもの─のボタンが明滅を繰り返しているのに目を留める。

  「…おや?」

  すると、突如として男の背後からヴン…という、まるでブラウン管テレビが起動するかの様な音が響く。

  その音に、仮面の男はイスに座ったまま音の方向へくるり、と向き直る。

  「随分早かったねぇ?もう終わったのかい?」

  仮面の人物─声からして男だと推測できるその人物は、再び右手でコーヒーカップを口元へと寄せて口に運ぶような動作をしながら声を掛ける。

  声を掛けられた男─ジンの元に現れた人物と同じ黒い外套を羽織った男は、その声に淡々と言葉を返す。

  「ああ。楔は打ち込んだ」

  「へぇ…まぁ見てて正直驚いたよ。あんなにスムーズに出来るなんてね」

  「次は?」

  「随分仕事熱心だねぇ」

  仮面の男はコントロールパネルの平らな部分の上にそっとコーヒーカップとソーサーを置くと、すぐさまパネル上のキーボードへと指を躍らせ始める。

  「時間はある。だがこの先何処でどうなるか分からない以上は迅速にやるべきだ」

  「…ついでに外に繋がりそうな穴も見つけてくれると嬉しいんだけどねぇ?」

  仮面の男は、やや嘲る様な声音で呟きながら、姿勢を変えずに首だけを後ろに傾けるようにして外套の男を見やる。

  だが、外套の男はそんな嫌味も一切気にしていない様な素振りで淡々と、しかしハッキリとした声で返す。

  「そんな物があったら、この場所は特定の時間軸と世界線に結びつくことになる。あったとしたら即潰す」

  「…やっぱり自力で何とかさせてもらうよ」

  「賢明な判断だ」

  ハァ…と落胆の色を一切包み隠さずに呟いた声にも、外套の男は一切気にする素振りも見せずに答えた。

  「さて…次だけど、正直どこでもいいよ?君が行きたい様に行って好きな様にやればいいさ」

  そう言うと、

  「ふむ。ならば…」

  外套の男はゆっくりとコントロールパネルに立ち、暫し熟考する素振りを見せた後…キーボードを数回叩き、

  「次は、ここだ」

  そう呟くと、画面上に[転送]と表示された文字が数回点滅した後、外套の男は再びヴン…という音と共に全身をノイズのようにブレさせたあと、ブラウン管テレビの画面が消えるかの様にプツン、とその場から消滅した。

  仮面の男は、その様子を見送ったあとにモニターに目をやる。

  [転送中]と表示された文字列の下にゲージが表示され、それが反対側まで伸び[転送完了]と表示されたのを確認すると、男はコントロールパネル上に置いてあったコーヒーセットを再び手に取る。

  『フフ…良い旅を─Bon voyage(ボン・ボヤージュ)』

  そう呟き、コーヒーカップを乾杯するかのように軽く掲げた。

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