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幕間2

  『やぁやぁ、よく帰ってきたねぇ』

  真っ白な空間。

  無数にモニターが浮かんでは消える空間に、ヴン…と、ブラウン管テレビが起動するかの様な音と共に、黒い外套を纏った男が姿を現す。

  心做しか、外套に小枝や葉っぱに塗れているところを見ると、草木の生い茂った場所を歩いてきたのだろう。

  『随分と荒事やってたみたいだけど…うん、スゴいねキミ!ノノ…いや呪術かな?それすらも操れるなんて!』

  「…正直、無我夢中で覚えてない。というかそもそも、あのシールドは僕がだしたものなのか?」

  「おっと、覚えてないときたか…まぁ、そうだと思うよ?少なくともあの場で力を使ってたのはキミだけだし」

  仮面の男の言葉に対し、外套の男は自身の手を見つめながら、何度か握り開く。

  「…これも、アレの影響なのか…それとも、僕がこうなったからなのか…?」

  『さぁ?でもまぁ良いじゃないか!キミはあの子達を守り、導き、物語を紡ぐ文字通りの黒子になった!カンペキじゃないか!』

  仮面の男は両腕を掲げる様に広げると、そのまま椅子でクルクルと回転する。

  そんな様子を気にする素振りもなく、外套の男は自身の手から視線を上げ、喜ぶ仮面の男を見つめる。

  「…あれで良かったのか?あの女の子をタラニスへと合流させるのであれば、俺がずっとそばで守ってやったほうが…」

  『いやいや、あれで充分さ!あのおかげで物語はきちんと整合性が取れた上に、あの二人が合流する未来は確定したんだ!』

  仮面の男は椅子を回転させながらひとしきり手を叩いて喜んだ後、ピタリ、と椅子を止め、外套の男に向き直る。

  『…最も、道中ちゃんと生きているかは分からないけどね?』

  仮面の男は、表情の伺いしれない仮面の奥の瞳からニヤリ、と微笑むような声音で告げる。

  「…だが、生きている未来もある、と」

  外套の男がそう告げると、仮面の男は『そう!』と椅子から身を乗り出しながら、興奮した様子で矢継ぎ早に言葉を紡ぎ出す。

  『そうなんだよ!あの時点で合流するという事象は確定したが、なんと幸福にもその生死はそれに関わるほどの影響を持ったバタフライ現象では無い!そして、それがアトラクタフィールドによるターニングポイントでもない以上、死の確定という世界線収束は起きていないんだ!あぁ…!なんと素晴らしい!!なんと無限の未来の可能性!!!』

  仮面の男は興奮した様子で椅子から立ち上がりつつ、何かを捧げるかのような大仰な動作で動き回りながら、いつの間にか取り出した指揮棒を振るう。

  「…お前にとっての、物語の大筋…いや、譜面が完成しつつある、という事か?」

  『まさしく!その通りさ!』

  未だ興奮冷めやらぬ、といった様子で踊る様に指揮棒を振るう仮面の男に、ハァ、と外套の男は溜め息を吐く。

  「…これまでの物言いと言い、その動作といい…まるで音楽家、作曲家…」

  そう言いかけて、ふと何かを思い出したように外套の男は告げる。

  「…いや、むしろ全てを兼ねる総指揮者─マエストロ─だな」

  『[[rb:総指揮者 > マエストロ]]?』

  「ああ。我ながらピッタリだと思う。それに、いつまでも"お前"じゃこちらも呼びにくい」

  『総指揮者…フフ…マエストロか…』

  仮面の男─マエストロ、と呼ばれた男は少しずつ笑い声の声量を上げていきながら、やがて大声で笑い始める。

  『クククッ、アハハハハ!!いいねいいねぇ!!マエストロ!!気に入ったよ!!!』

  マエストロはひとしきり笑ったあと、優雅な所作で椅子に座りながら脚を組み、肘当てに片肘を置いて頬杖を着く。

  そして、ほくそ笑むように告げる。

  『僕は総指揮者─"マエストロ"─この世界の─』

  [newpage]

  「…ところで、楔はどうなってる?印象としてはそれなりに残せたハズだが」

  マエストロの興奮がある程度収まったと見た外套の男は、コンソールパネルが誤動作しない様に軽く身を預けながら尋ねる。

  『あぁそれかい?おかげさまでバッチリさ!キミの行動の全てが、僕の譜面に華を添えている…!点数で評価するならそう…90点さ!』

  「…90?」

  イマイチ腑に落ちなさそうな声音で外套の男が尋ねると、マエストロは肘掛けに頬杖を着きながら、

  『おや?100点の方が良かったかい?』

  と、ふてぶてしく答える。

  「いや、点数に特段拘っているわけじゃない。ただ、理由が知りたいだけだ」

  『ん~まぁそうだね…強いて言うなら、もう少し楽しませてほしかったかな?例えばそう……あの犬の少年に、初めてのヒト殺しをさせた所を救ったり…とか!』

  年甲斐(?)もなくはしゃぐ様に答えるマエストロに、外套の男は苛立ちをやや滲ませる。

  「…悪いが、例え悪人であろうとヒト殺しはダメだ。ましてや、年端も行かない少年だぞ?…乱暴な結果になったが、あの場はあれが最上だ」

  『ハハ、まぁムキにならないでくれ。というかもちろん、キミの言う通り点数なんかどうでもいいのさ。大切なのはそう、時間と事象の固着化と、キミ自身のそうした意志による行動だよ』

  「…要するに、これまで通りで良いのか?」

  『バッチリさ。こちらから特に注文や難癖を付けるつもりは無いよ』

  そう言いながら、マエストロは座ったまま半身でコントロールパネルへ向き直りながら、左手でキーボードを叩き始める。

  『そして、どうやらその身体…少しずつ馴染んできてるみたいだね』

  そう言われて、外套の男は自身の手を改めて見つめる。

  その手は、やや毛深い様な、それでいて鋭く硬い白色の体毛に覆われていた。

  しかし、所々肌色が見えており、それが余計に歪さを醸し出している。

  「ああ…正直バケモノじみてるが、だが─なんというか、不思議な感じだ。……ずっと前からこの姿だった様な、妙な一体感というか、馴染み易さというか…」

  バケモノ、という言葉が発された瞬間、マエストロのキーボードを叩く指が一瞬止まり─間を置かずに、再び指が動き始める。

  『…それはよかった。キミが上手く動けなかったから死んじゃった、なんてシャレにならないからねぇ』

  マエストロはケタケタと笑いながら、キーボードのエンターキーを押す。

  すると、コントロールパネルの上部に浮かぶモニターにとある顔が映し出された。

  「…この子達は?」

  外套の男は、モニターを見上げながら、マエストロの隣へと歩み寄り、背もたれへと右手を載せる。

  『とある戦争孤児…ってヤツさ。まぁ、身体を完璧に馴染ませるには中々うってつけなタイミングを見つけたからね』

  「タイミング?…また誰かとカチ合うのか」

  『いや?それは無いと思うけどねぇ。でもキミが望むなら、そこでも─』

  「いや、ここでいい。もう誰かと戦うのは─傷付けるのは御免だ」

  『そうかい?ならイイさ』

  食い気味に言いつつ、ギリ…と奥歯を噛み締めるような音を立てる外套の男に、マエストロは仮面の奥でほくそ笑んだ様な表情を見せると、キーボードを叩き始める。

  『…ところでキミ、身体もだけど…少しずつ自我も出て来たね?』

  「…?何が言いたい」

  『色々さ。キミ、多分気付いてないんだろうけど、自分の事を"俺"から"僕"って呼んでるし、さっきの反論や会話だって、キミが確かな自我を持っていなければ成立しえない会話だったよ』

  「……そう言われても、僕にはそれを実感する術は無い。記憶だって無いのに…」

  『まぁ心配しないでも、これが終わったら身体も馴染むだろうから、その時に教えてあげるよ…キミの事をさ?』

  「っ!?待てお前、僕の事やっぱり何か知ってるのか!?」

  マエストロの肩を掴むように、外套の男は手を伸ばす…が、ヴゥン…というノイズ音と共に、その手はマエストロの身体をすり抜ける。

  「なッ…!」

  外套の男は、そのまま椅子の座面に吸い込まれる様に倒れ込み─そのまま座面をクッションにしたかと思うと、その勢いで椅子が弾き出され、地面へとぶつかる様に倒れ込んだ。

  『アハハ!まぁ焦らないでよ!ちゃんと僕の言う事を聞いてくれてたら、キミの事も、記憶も、知りたかった事も、知りたくなかった事も!全部、ぜーんぶ教えてあげるからさ!』

  その様子を見て、マエストロは椅子がないにも関わらず空気椅子に座ったかのように、先程と同じ姿勢のままで弾ける様に笑い─キーボードのエンターキーを押下する。

  すると、マエストロの足元で蹲ったままの外套の男の身体が、青白い光に包まれていき─転送が始まる。

  「ッ…!クソッ…!」

  自身の身体が消えていく中で外套の男はマエストロへと手を伸ばす。

  とはいえ、蹲ったまま倒れた姿勢では届きはしないし、触れることも出来ない。

  その様子に感化されたのか、マエストロは仮面の下でニヤリ、と笑う。

  『フフ、それじゃあ…』

  そして、マエストロの靴の爪先にその手が触れる瞬間、ヴン…という音と共に外套の男の姿が消えると、マエストロは虚空へと呟いた。

  『ボン・ボヤージュ─』

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