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響先輩とサーカスデート(序)

  響先輩のことどういう感情で好きなのって?

  そんなの言われても…

  そう言われるとなぁ、うーん…。

  んー………

  …例えばさぁ、部屋用のクッション買う時にね?来客を想定して2個とか3個買ったりするじゃん。

  その時に私の使わせちゃったら大きすぎるかな、でも普通サイズの使わせて私がいちばん大きいの使ってると先輩に対して失礼じゃないかなとか考えたり、普通はこれくらいかな、なんて考えた時に選ぶサイズの基準に頭の中で勝手になっちゃってるというか、まぁあれから先輩も身長変わってなかったら170cmくらいのはずだし。

  色とか生地だって先輩が好きそうなやつ選んだり、ていうか、お客さん、って存在を想像した時にいつの間にか真っ先に部屋に招きたい対象にパッと浮かんでたりとか、そういうの前提で考えたりとか…

  真っ先に思いつくのが先輩っていうか…

  「……ふんふん」

  「…あぁ、そうね?」

  テレビ見ながら頬杖ついた時なんとなしに記憶の中にある手の平の形とか感触を想像しちゃって、先輩と向かい合ってる状態とか隣で一緒にテレビ見てる時とかに手を添えられたりしたらきっとここら辺に触れるかな、って肉球の位置に合わせて自分のほっぺのちょうどいいとこに当たるよう手を置き直したりして。

  先輩の手の形とか指とか思い出しながら手探りで探り探りいい位置探して…

  なんか今のちょっと探すって言葉多かったね。

  それでそれで、バラエティよりはナショナルジオグラフィックとか見るんだろうな、ってそれに近い番組ザッピングしたりね?

  『飛び出せ!科学くん』が好きだって言ってたな。

  「…………」

  「…」

  ルリみたくネイルだってやってみようかな、なんて思うけど『除光液みたいなケミカルな臭いは苦手』って言ってた記憶があるからそれがチラついてやっぱりいいや、ってなっちゃうし…いやこれは言い訳かな?言い訳だね、本当はすごくつまらない理由なんだけど部活の時に『大北はいつもちゃんと爪短く切ってて偉い』って言われたのが嬉しかったから、短くてもお手入れはちゃんとしてるけど今でも柔道やってるからって言うのもあるけど、なるべく爪は短く切ってナチュラルを選んじゃったりして…

  「……………………………」

  「……………………」

  貴方のことが好きですって伝わって欲しいんだけどそういうの自分で伝えたいからさ、伝えられなかったんだけどね。でも当時もほんとにすごく好きで、先輩と会う度に尻尾がぴんって立っちゃうのが変に思われちゃわないように部活以外のところとか学食で隣に座る時とかいっつも何か面白いことあったみたいに話しかけて、振舞って、たまに見切り発車で行っちゃって話題とか用意できなかったから変に誤魔化したりもしたけどそれで笑ってもらえるとその時見れる顔がなんかもう嬉しくて…

  でもそんなことしてたら尻尾振ってるのが当たり前だと思われるわけだから好きって伝わって欲しいのに結局自分でその道を塞いじゃってたんだなって。

  それでどんどん好きだなぁって気持ちが空回ってもどかしいんだけど…

  「~~~~もう!あぁ、ハイハイ、ハイ!わかったわかった分かりましたよ。アタシの負け負け!…すいませーん!グラス下げてくださーい!」

  向かいに座るルリが手を上げてうんざりとした気分を払拭するかのようによく通る声で店員さんを呼ぶと、通りがかったジョッキを何個も重ねて器用に運ぶコウノトリの店員さんがはーい、ただいま!というきもちいい返事をしてくれた。

  そしてため息ひとつ。

  「好きって感情が…もう…やかましいわ!」

  「そっちが聞いてきたんじゃん!」

  ルリの隣に座るヨミコに分かってくれるよね、というアイコンタクトを取るも、彼女は腕を組んで少し目を伏せたあと玉こんにゃくの最後の1個をルリの皿へ置いた。

  軍配は向こうに上がったらしい。

  「いやぁごめん奏音、ご馳走様なんだけど、そこまで行くと正直ちょっと引くわ。4年も前の高校の頃の告ってすらない片恋っしょ?しかも…ねぇ?」

  「え?え?だってだって、しょうがないじゃんそんなの!そのくらい好きでさ、しかも振り切れてないんだし。そんなの簡単に捨てられないよ。」

  「振り切れてないってよりその先輩に振り切られちゃってるっていうか…まず奏音が振り切られるほど響先輩に手が届いてないじゃん。」

  「奏音のさっきの台詞は響きだけなら可愛いんだけどね?21にもなって処女でそれはいつまでも子供の頃使ってたタオルケット手放せないってくらい理解はできても肯定できないからねそれ。」

  「処っ…」

  「ビンテージだからっていつまでもおんなじデニム履いてるの自慢する男くらいキモいかんねそれ。」

  「あんたパッと見可愛い第一印象のうちだけだからね、その乙女ちゃんが許されてるの。」

  「あとはその胸に備わったパトリオット2対のおかげだってことを忘れなさんなよ。」

  「ふ、2人して人の初恋をそんなに言いたい放題…」

  あと胸は関係ないじゃん。

  「キスの味よりさきに焼酎ロックで[[rb:海鼠腸 > このわた]]を流す妙味を知ったオッサン女が『初恋』なんて言葉を使うんじゃない!」

  「いいぞルリちゃん言うてやれ言うてやれぇ!その無い乳の憎しみ分も上乗せして言うてやれぇ!」

  「胸は関係ないでしょ、てかヨミコだって似たようなサイズじゃん?」

  「最近ランジェリーショップでちゃんと選んでもらったらCあるの判明したもんね。」

  「そういうのよく聞くけどさ、背中や脇の肉とかを無理やり寄せて胸に詰めたとかでしょどうせ?それをバストサイズっていうのなんなの?欺瞞じゃないそんなの。」

  「Aカップのやっかみは酒が進むねぇ。」

  「初恋がダメなら…か、『片恋慕』とか…」

  「別に焼酎の銘柄っぽく言えばいいってもんでもないのよ。それに、元はと言えば自分から『他の男の人とかともデートしてみるべきなのかな…』とかボヤいてたのが発端でしょ?」

  「ボヤいたけどマッチングアプリ勝手に登録したのはルリだし男の子と日時まで勝手に選んだのはヨミコだったじゃん!」

  「まぁ初マッチが無事上手くいかなかった反省会と傾向対策を練るって名目で集まったんだよね。今のとこ奏音の片恋慕聞いてるだけだけど。」

  「そうだよ、いやそうじゃないよ。でもそれでね、響先輩…」

  「…ちょい待って、注文するから。ヨミコは?奏音は?おかわり?白ご飯まだ要らない?」

  「(ヨミコちゃん迫真のあの長い語りまだ続きがあるのかよ…の表情)」

  「あ、ごめん。お米まだ要らないや、梅サワーだけ。あ、海苔ポテトとチーズチヂミも。」

  「ガッツリ炭水化物やん。あ、カクテキ食べたいかも。」

  「はいはい。あ、すいませんまず飲み物が…」

  大北奏音は社会人21歳。

  とある地方都市で警察官として任命され3年。

  警察学校で一緒になった同僚もいつの間にか数が減ってしまって、7匹くらいいたグループで非番の日は入れ替り立ち替りご飯を食べに行ってたけどいつの間にか私含めた3匹になっていた。

  それぞれがそれぞれの片田舎から都市部に集まってきて、街が輝いて見えていた最初のうちは当直明けの非番でもそのまま遊びに行ってたけどそれが今では定番の居酒屋でおしゃべりするくらいがちょうど良くなってしまっている。

  別に、キラキラした生活が嫌ってわけじゃないけど夜勤をやっていると他の子より長く夜を過ごす分、老け込むのが早くなってしまうのかもしれない。

  トークの内容は普通の恋バナだけどね。

  …私にとっては恋バナなんだけどなぁ?

  「せっかく登録させたマッチングアプリで結構上物の背高ノッポとマッチしてデート行ったのにヌン活シバいて2時間で終わりって。しかもハウンド系とかイケメンの代表じゃん。そんなに高校いた時片恋してた先輩がいいかね?私にそのハウンド寄越してよ。」

  「ルリはまた今カレと上手くいってないの?」

  「……あんまし。やっぱ男って胸が大きい方がいいのかな?いいんだろうねー!」

  …私の胸を睨まれても困っちゃうよ。

  普段からしっかりしてるインパラのルリはモテるのに意外と上手く続かないことが多い。

  同じ草食の同僚と1年目ですぐ付き合ってたけど半年で別れて、翌日元カレとなった子が凹みながら働いてたのに対しルリは通常運転でキビキビしてたことは今でも語りぐさだ。

  「いやー、ルリは良い女だけど逆に良い女過ぎるね。悪く言えば可愛げがない。尽くします!みたいな顔して愛嬌振りまくんじゃなくてさ、さっきも当然の顔して空いた皿寄せてくれてたじゃん?そういうとこよ、おっぱいなくてもいいから私が抱きたいもん。」

  ヨミコがいやらしい目をしながらルリの顎先を撫でるとほっぺたを摘まれていた。

  「そういうのアンタにされたいんじゃなくて彼氏に優しくされたいのよ!てかアンタこそどうなのよ。私ら飲みにばっか誘ってうまくいってんの?」

  「男なんて抱かせりゃ言うこと聞くし抱かせなけりゃ言うこと聞くんだから上手いこと操縦してあげてんのよ。スキを見せるふりと甘えでカモフラージュってね。」

  ヨミコは穏やかな目付きをしたヤギっ子なんだけど、離島出身ということもあって牧歌的な子だと思ってたらなかなかやり手なタイプだった。

  …1度だけ、彼氏と思われる年上っぽいアンダルシアの人とIKEAのポップアップストアを巡ってるところを目撃したことがあるけどどういう出会いをしてるのか気になる。

  「私も先輩に首とか触られたいなぁ…」

  「奏音はどっちかと言えばする側だししなんなら押し倒しちゃうタイプだと思うけどねぇ。」

  「てかこの前写真見せてもらったけど姿も中身も普通のビーグルだったでしょ?よくそんなん好きになったよね。」

  「そんなん言いながらルリだってイケメン嫌いってか自分よりダメな男可愛がりたがるタイプじゃんね。お腹空かせてるような男とか好きじゃん。」

  「…まぁ、好き。…いや、私の性分はどうでもいいのよ。…で?奏音。この前会ってみた男、何がそんなに気に食わなかった?」

  「気に食わないってそんなわけじゃないけど…だってアフタヌーンティーで出てきたお菓子?すごくちっちゃかったしあれ。」

  「食べたもので好感度左右されるの?」

  「ルリが好きなお腹空かせてる系のタイプじゃん。」

  「うっさい。」

  「…話だってプロフ読めば分かるようなことの再確認みたいな会話っていうか…もっと好きになれるような発展性っていうかさぁ…あ、梅しそカツ追加で貰っていいですか?」

  「色気より食い気、ヌン活よりササミカツねぇ…発展性のある会話ってアンタみたいに相手に対して求めがちな奴って結構いるけどそもそも会ったばっかなんだからそんなもんでしょー?アンタこそその人に対してなんか発展の取っ掛りだしてやったの?」

  「ゔ、」

  ❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋

  ❋ 業界全体が斜陽に傾き再起を図ろうとブライダルサロンからアフタヌーンティー店へと舵を切り生き延びた老舗、『シャーンス』にて思い出される、 “かのん”ちゃんと“せいご”君の発展性のある会話❋

  『かのんさん、不定休って書かれてましたけど休みの日とかって何されてるんですか?』

  『柔道ですね、身体動かすの好きなので。趣味も柔道です。』

  『へぇ~…自分も一応身体動かすの結構好きなんですよ!高校の頃の友達とかと今でもバド打ったりしますし!そっちの方とかどうなんですか?』

  『柔道以外はあんまりやらないですね~…球技とかはあんまり。』

  『あ、そうなんですねぇ~。でもやっぱり、僕たちみたいなイヌの感じだと物が飛んできたりした時に結構テンション上がりません!?あ、でもかのんさんはどっちかと言えば飛ばしたい側かな?』

  『…?』

  『…あぁ、なんかほら、どりゃっと投げたりするんですよね?一本背負いとか。』

  『私、足技と抑え込みがメインなので手の方はあんまり…』

  『手の方?』

  『手技って言って結構分かれてて…』

  『そうなんですね……』

  『………はい、分かれてて…………』

  『へぇ~……………………………』

  『はい…………』

  ❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋

  「ぐぅの音は出てないね」

  「そら見た事ですか。いい?奏音。多少つまらなくてもちゃんと知っていこうとしてくれる努力をする男の方が良かったりするのよ?ハナっから軽口叩いてくるやつなんて大抵距離感おかしくてどっかしらでヤバさがめくれるからね。」

  「えー、でもさでもさ、奏音の高校の話聞いてた感じだとやっぱその小車先輩って別に普通じゃんね。優しい人畜無害の安牌マンって感じじゃん。」

  「字面的にはそれあんま褒めれてなくない?」

  「まぁ、無害そうと言えばそうなんだろうけどさぁ?ねぇ?」

  「……でもやっぱ警察学校入ってる時にいきなり教官相手に暴力事件起こしてるわけでしょ?」

  「…うん、そうみたい。」

  「すぐ辞めてそのタイミングで連絡も取れなくなってるならやっぱなんかあるって。」

  「同じ世代の先輩とか、それこそ護國前交番の人たちも結構良い奴だったって言ってるけどあんまよく分かってないらしいしね。サイコなん?」

  「そんなことないもん。…でも結局それで警察学校の食堂の食器が全部陶器からプラスチックに変えられたっていうのはアユさんから私も聞いたけど…」

  「人って案外分からないもんよー?」

  「そうそう。奏音にあんだけしっかりしなさーい!って叱ってるアユパイセン、デキ婚だって。寿退任。」

  「え、嘘それマジで!?相手は!?」

  「うちらの同期でー…」

  「はぁぁ!?歳下いったの!?やるもんだねぇ。」

  「えーっと、それで…」

  「…先輩の話まだ続けるの?」

  「えと、うん、その、」

  スマートフォンを取りだして、社交辞令的なスタンプが送られたトーク履歴を2人の前に差し出す。

  「4日前ばったり会っちゃって、頭整理できなくて訳わかんないまま連絡先聞いて、来週デートになったんだけど私、どうしたらいい?」

  「………」

  「………わぁお。」

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