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「あ…ここは…。」
私は病院のベッドに寝かされていた。隣には柴さんがいる…多分彼がここに連れてきたのだろう。病院に連れてきてくれたのはいいけど…。
「た…猛?心配したんだぞ?働きすぎだから息抜きもさせないとな。今度は俺がいい所に連れて行ってやるからな。とりあえず一週間は安静らしいから…その間俺が一緒にいてやるからな。」
「虎縞さんと熊本さんには連絡したんですか?」
「多分しても来ないだろうな…。俺はこれから猛の着替えを持ってくるつもりだ。一度シェアハウスに戻るからな…少し淋しくなるが待っててくれ。」
私はまだ起き上がることが出来ないのでそのまま頷いていた。柴さんは心配そうな顔をしながら病室を出ていった…その入れ替わりに看護師さんが入ってくる。
「貴方のお父さん…かっこいいですね。あ、すみません…診察始めますね。」
看護師さんは柴さんを私のお父さんと思っていたらしい。同い年だと言うのを言いそびれていたのだけど…とりあえずそういうことにしておこう。
「大分良くなりましたね。お父さんが来たからでしょうか。熱もないですし…一週間と言いましたけど明日で退院出来そうですね。お父さんに電話を掛けますので少しお待ち下さい。」
看護師さんは早速柴さんに電話をかける。大人しく寝ていようと思っていたが看護師さんは数分もしない内に私に電話を渡してきた。
『看護師から聞いたぞ、明日退院するんだって?』
「はい…。」
『なんでそんなに元気ないんだ?俺達とまた一緒に暮らしたいんじゃないのか?』
「はい…そうですけど…。」
『もしかして看護師が俺を“お父さん“と言ったからか?猛から見たら俺はそうなのだろうけど同い年だと言いそびれていたのもある。なんか恥ずかしいが…それよりこれから病院に行くから待っててくれよな。』
返事をする前に切れてしまった。柴さんにどういう顔をして逢えばいいのだろうか。そう思っている内に看護師さんは柴さんをここに連れて来ると言って部屋を出ていってしまった…。
「井上様、お父さんが来てくれましたよ。」
数分もしない内に柴さんが来てしまった。その後ろには虎縞さんと熊本さんもいた。多分柴さんが必死に説得して連れてきたのだろう。私はというとシーツに包まって顔を見ないようにしていたが…柴さんにあっという間に引き剥がされてしまう。
「猛?なんで俺達を見てくれないんだ?」
「…看護師が俺を“お父さん“と呼んだからだ。同い年なのを言わなかった俺も悪い。」
「すみません…同い年だったのですね。私はてっきりこの方のお父さんだと思ってました…。ところでその二人は…この方のお兄さんですか?」
今度は虎縞さんと熊本さんを見てお兄さんだと言った看護師さん…彼らから見て私は幼いと思っているようだ。もうそれでいいから早くここから出たくなってきた…。
「さっきも言ったように明日退院出来ますので大丈夫ですよ。退院するまでは出入り可能ですのでいつでも来て下さいね。ではごゆっくり…。」
「猛、機嫌を直してくれ。」
と言いながら私の体を抱く柴さん。モフモフの体で少し落ち着いた…私は柴さんにお礼を言おうと思って彼の方を向き声を出そうとした。しかし…
「猛、今日はみんなここにいてくれるそうだ。明日に備えてゆっくりと休んでくれよ。」
そう言いながら柴さんは私にキスをしてきた。しかしすぐに二人に引き剥がされてしまう。私は更に言葉を発するタイミングを逃してしまった…。[newpage]
柴さん達が病院に来た時にはもう外が暗くなっていた。シェアハウスのことは真白さんにコンビニは黒葉さんに任せて来たらしい。まあ明日になったら復帰できるのだけど…三人に仕事を控えてくれと言われてしまったので素直に頷くしかなかった。
「猛、俺はお前がいないと楽しくないんだ。折角シェアハウスに誘ってくれたのだからこれからも楽しく過ごしていこう。それで頼みがあるんだが…俺の部屋に家具を置きたい。テーブルとベッドだけだと淋しいと思って…本棚を置きたいと思っているんだ。」
「そうですか。じゃあ退院したら一緒に見に行きましょうか。私は食器棚と食器が欲しいと思ってたんです。」
「俺はデートしたいな。それから猛がしている事は俺達で分担してやるからゆっくり休んでくれよ。」
「食事と商品を作るくらいならいいですよね?」
「確かに…家事が出来るのは猛だけだ。じゃあその二つは任せる。その代わり完全に回復するまでは俺がコンビニで仕事するからな。」
みんなやりたいことを考えてくれていたようだ。真白さんと黒葉さんもまだ逢ったばかりなのに…私のためにここまでしてくれなくてもいいんですよ?
「シェアハウスやコンビニで“獣人限定“にしてあるのは猛の所だけで…それを見た時俺は嬉しかった。それで何か出来ないか考えてたんだが…それくらいしか思いつかなかった。何しろ俺はレスラーだからな…。」
柴さんの言葉に虎縞さんは頷いていた。虎縞さんはボクサーをしているので柴さんのことはよく分かっている。
「最初に猛に逢った時俺はホームレスだった。アパートやマンションを探そうにも金が足らなかったし…“獣人お断り“の看板が建っている所が多くて困っていた所に猛が声を掛けてくれたんだ。シェアハウスに連れてきてくれた猛には本当に感謝している。猛のためならなんだってやってやるからな。」
熊本さんは未だに仕事を探しているのだけどなかなか見つからないようだ。その間私が勤めているコンビニで一緒に働いてくれている。それは私も感謝しているけど…いつまで一緒にいられるか分からない。そう思っている間に声が出なくなってしまっていた。三人はすぐに気づいてくれたけど…私は暫くこのままかもしれない。
「猛?声が出ないのか?」
「ストレスが原因でなるやつだな…こういう時は蜂蜜だな。実は高山に行った時こっそりと買ってたんだ。焼酎に入れようと思ってたんだけどな…退院したらすぐに治してやるからな。」
「ストレスが原因か…それならこうすればいいんじゃないか?少しくらいなら軽減出来るかもしれない。」
柴さんは再び私の体を抱く。それを見た二人も負けじと私に抱きついた。モフモフが三倍になるとかなり強烈で…私は耐えられず意識を失ってしまった。私が倒れたあと三人が口喧嘩していたのは言うまでもない。[newpage]
そして退院当日…私は未だに意識を失っているため柴さんにお姫様抱っこされていた。看護師さんにはまだ入院していた方がいいのでは?と言われたけど三人に反対され私は病院から連れ出された。
「とりあえず寝かせてやろう。まだ疲れがとれてないんだろうな…俺達といたらすぐに元気になってくれると思うけどな。猛が寝ている間俺達で分担するんだったな?ただ…自炊出来るのがいないから外食でもするか?」
「それもいいけど真白君か黒葉君が自炊出来るならやってもらったらどうだ?猛の料理には劣るがないよりはマシだと思うぞ?」
「俺は猛が起きるまで断食しようと思う。猛の料理しか食べないと心に決めてるからな。」
三人とも意見がバラバラである。起きた時誰の意見を尊重したらいいか迷ってしまいそうだ…でも私は三人のことはもっとよく知っておきたい。因みに全員野菜よりも肉や魚が好きなのはわかっているのだ。多分真白さんと黒葉さんも一緒なんだろうな…。そんなことは三人には伝わらずシェアハウスに戻ってきた。
「やっと帰って来たんですね。今昼食を作って食べようと思ってたんですよ。黒葉君も自炊をしていたそうなので手伝ってもらってます。猛さんのよりは劣りますけど食べますか?」
「意思疎通してるな…折角作ってくれたんだからもらおうかな。柴さんと熊本さんもどうだ?」
「俺はさっきも言ったが猛の料理しか食べないからな。俺は猛を部屋に連れて行くからな。」
熊本さんはそう言うと私をお姫様抱っこし自分の部屋に運びベッドに寝かせる。そして上着を脱いで上半身裸になると私の隣に寝そべって抱きついた。
「猛…俺はずっと一緒にいるからな。たとえ柴さん達が出ていってもだ。そうだ、彼らが試合に出ている時こっそりと二人で何かしよう。遊んだり…デートしたり…旅行もいいな。それからもう仕事を見つけるのも止めようと思う。俺は…猛のことが好きなんだから…。そうだ、蜂蜜を持ってきてやるから待ってろよ。」
熊本さんはベッドから下りて部屋を出る。すれ違いで柴さんが入ってきてベッドに座る。
「ぐっすり寝てるな…相当疲れが溜まってたんだな。猛…さっきの話を部屋の外から聞いていた。俺も熊本さんと同じことを考えていた…多分虎縞君達も同じだろう。熊本さんに言われてしまったが俺も猛のことが好きだ。やりたいことは全部言われてしまったが俺は猛と恋人として付き合いたい。これからも…一緒にいような。」
柴さんは私の口にキスをする…と同時に体を抱き寄せベッドへ倒れ込む。柴さんの体の温かさとモフモフで私は彼の匂いに包まれていく。さっきまでいた熊本さんの匂いは上書きされて柴さん一色に染まる…その熊本さんが蜂蜜を持って部屋に戻ってきてしまった。
「猛、蜂蜜を持ってきたぞ…って柴さん!?」
「ハハハ…熊本さんが猛と一緒にいると思うと羨ましくてつい…虎縞君もそのうち同じことしようと思ってここに来ると思うぞ。」
「やっぱり来ていたか…二人だけずるいぞ。俺だって猛と一緒にいたいのに…。」
「噂をすればなんとやらだな。猛は未だに寝たきりになると思うが明日には元気になってくれるはずだ。今日はここで猛と一緒に寝ないか?」
「そうだな。だけど俺達全員でベッドは無理だから猛を床に運んで川の字で寝よう。」
私を挟んで熊本さんと柴さんが寝そべる…と同時に体を抱いて自分の匂いをつける。虎縞さんは私の頭の方に周るとそこに座りおでこにキスをする。実はもう起きているのだけど三人の好きにしよう…と思った私だった。
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