近くの河川敷を、俺は歩いていた。
人ッ子一人居ないこの場所は、登下校に最適だ。忙しい喧騒は無いし、空が良く見える。
途中で高架下を通り、左手の階段を降りれば家は直ぐそこ。
今日もいつも通り。
隣のクラスの奴が喧嘩したとか、同じクラスの女子が口論して泣いたとか、いざこざがあった。
何で、そんな面倒な事をするんだろうな。
何も事件に巻き込まれず、平和に過ごすのが、一番なのに。
他人なんか気にしたって、何も得は無い。
「晩メシ何かな…」
さあ、早く帰ろう…
ドゴッ!
「うっ!?」
突然、頭に酷い鈍痛が走った。思考する間も無く第二の衝撃が過り、俺は地面に倒れた。
学生鞄が落ちる。俺は額に、生暖かいものを感じた。
…血…
俺は声も出さずに…
死んだ。
ピピピピッ!
「うわあっ!?」
鳴り響く時計の音で盛大に目覚める。手を伸ばして音を止めて、カーテンから射し込む光に目を細めた。
「気味わりい…!」
起床して第一声がこれ。
河川敷で、頭に衝撃が来て、倒れて死ぬ。そして目が覚めたんだから当然だろう。
何故か気絶とかではなく、死んだというのはハッキリ分かる。河川敷も実際にあるし、俺の通学路だ。
だからこそリアルで気持ち悪い。今の夢…俺は、誰かに殺されたのか?
後ろから、殴られたような気がする。
勿論、現実で誰かに殺されるような事はしてない。15年間真っ当に生きて、真面目に勉強して、人並みに学校通って、家もごく普通の一般家庭。
俺自身、目立たない程度の位置に居る、普通の学生。
幾ら思い悩んでも夢は夢。キリが無い。俺はベッドから降りて、洗面所に向かおうとした…
スッ
「俺の名前はユオウ。お前の願いを一つだけ叶えてやる。」
「うおおおお!?」
びっくり仰天。
ベッドの前に何かが現れた。
長い髭に鱗と蛇の様な胴体、角と牙と爪。
龍!?今、俺の前に、絵画やアニメで見る龍が、居る!?
「な、なんだよ!まだ夢を見てるのか俺は!?」
「これは夢じゃない、現実だ。」
龍が俺の独り言に反応して返して来た。
夢に決まっているが、何故か感覚は全部リアル。
もしかして、俺の頭がおかしくなったのか。寝起きだし、そうかもしれない。
「う、うわぁああ!」
俺は頓狂に叫び、龍から逃げた……
「河川敷通りたくねーな…全部夢のせいだ。」
一般通学路を歩いて独り言を言う俺。歩道は狭いし、曲がり角は危ないし、車の排気ガスはすごいし、近くの学校の小学生はうるさいし…
正直此処は通りたくない。
だが、やはりああいう夢を何度も見てると正夢になりそうなので、河川敷には行けない。
小心者だなあ…俺は…
まあ、いつもトラブルは避けて平和に生きてきたし…
事件に巻き込まれるのは御免だ。
つーか。
「お前の願いは何だ?」
「何でまだ居るんだよお前…」
ユオウと名乗る謎の龍は、まだ消えていなかった。
寧ろ俺に付いて来て、やたらと同じ質問を続ける。
ユオウは壁や地面、人も透明人間みたいにすりぬける。
しかも周りの人が何も言わない事から、俺以外には見えないし触れないし聞こえないらしい。
ああ、俺はいつからこんな幻を見るようになったんだ…
「ん?」
ざわざわ
「ねえ、聞いた?」
「怖いわよね……親子が…」
道端で主婦が集まり、世間話をしている。しかし深刻な顔で。
まぁ特に気にもせず、俺は歩いた。
その時。
ドゴッ!
「うっ!?」
…嘘だろ。
俺の頭に、夢の時みたいな衝撃が走った。
俺は目を見開き…前に倒れる。
「きゃああああ!」
主婦の悲鳴。
そして殴打の音。
俺は…意識を失った…
ピピピピッ!
「はぁっ!?」
弾けるように体が起き上がる。周りを見渡すと、開きっぱなしの雑誌と散らかったカードやゲーム。
此処は…俺の部屋。
汗だくだ。無理も無い。たて続けにあんな夢を見るなんて、ついてない。
「っ勘弁してくれよ…!」
恐怖が身に染み付いている。まさか、夢から覚めて夢を見るとは…しかも、全部覚えてる。
こんなの初めてかもしれない…
つい、今は夢か現実か確かめる。お決まりの頬をつねり、痛みを確認した。
外は晴れ。太陽が眩しい。壁に貼られたカレンダーの日付を見れば平日。
俺は胸を抑えて、学校の用意をしようとした…
スッ
「俺の名前はユオウ。願いを一つだけ叶えてやる。」
「うぉおお!?」
夢から覚めた筈なのに、俺の前に現れる龍。
俺は布団を盾にして、目を見開いた。
「な、何でまたお前が!?ま、また夢の中なのかよ!?」
「…これは現実だ。」
「現実なわけねーだろ!」
しかし幻とちゃっかり感情むき出しで会話している俺。
もしかして疲れているのか。だが、また感覚、感触、音もリアル。
気持ちが悪い。
気持ちの整理が付かない。俺はまた、ユオウから離れる為に逃げ出した……
歩きながら、やけに周りを警戒する。通学路も行かず、遠回りして商店街を通る事にした。
此処なら賑やかだし、人通りも多い。不審者が居れば、必ず見付かる。いつも煩わしい喧騒が、こんなにも安心するなんて。
「龍とか、殺されるとか、何なんだよ一体…」
情けない。ただの夢なのに。誰かに恨まれる事はしていないのに。
俺は溜め息を吐いた。
「ねえニュース見た?ほら昨日の…」
「可哀想よねえ…まだ幼い子だったんでしょう。」
「此処も治安悪くなったなあ…」
どうでもいい情報が耳に入る。俺はそれより、殺されないか心配していた。
「きゃああー!」
「逃げろー!!」
「!?」
緊張が、恐怖が、俺を押し潰してきた。突如上がった叫声に、瞬時に心臓が跳ねた。
何、何だ。何だよ。何が、あったんだよ。
「居たッ!死ねー!!」
「ひっ!!?」
そして、現れた。鈍器を持って顔をマスクで隠した見知らぬ男が、俺目掛けて走って来た。
俺は足がすくみ、動けない。
ドゴッ!
気付いた時には、鈍器の先が、俺の頭に刺さっていた…
ピピピピッ!
「ッうああああ!!」
叫び飛び起きた。ガクガクと体が震えて、汗どころか涙まで出ていた。
おかしい。おかしい。おかしい。
何かがおかしい。絶対おかしい。
「だ…めだ…外出たら…殺され…る…!!」
恐怖から声を振り絞り、俺は急いで雨戸を閉めてドアに鍵を掛けた。
電話の電源を切り、家族からの呼び掛けを無視して布団にくるまる。
夢だ。全部夢だ。夢の筈だ。なのに。なのに何で?俺は、俺は、俺は殺されてる。
何もしてないのに。どうして。
「………」
一人無音の暗闇に耐えきれず、テレビだけ電源を付ける。そのボタンを押す指も震えていた。
ピッ
「…ニュースです。昨日夕方頃、○○市の河川敷の高架下で、親子の遺体が発見されました。親子は打撲された跡があり、辺りには血痕が飛び散っていて争った形跡があり、警察では殺人事件として捜査しています…殺害されたのは○○市に住む○○歳の○○さんと、その娘の○○ちゃん、○歳で…」
「ッ!こんな時に!」
ガシャ!
高架下とか殺人事件とか、見聞きしたくない。敏感になっていた俺は乱暴に電源を消してリモコンを投げた。
よりによって、俺の通学路の河川敷だなんて…
スッ
「俺の名前はユオウ。願いを一つだけ叶えてやる。」
「ひい!!」
心臓が飛び跳ねる。恐怖に汗ばんだ手を前にして頭を庇う。
しかしそこには、また、龍のユオウが居た。
俺の思考はこんがらがる。出口の無い迷路に絡めとられて、混乱の末に激情がユオウに対して湧いた。
そうだ、こいつが現れてから、何もかもがおかしくなったんだ!!
バッ!!
「お前のしわざだろ!!痛みも恐怖もある意味の分からない夢の中に閉じ込めて、俺を苦しめているんだろ!ふざけんな!さっさと帰せよ!!」
「…だから、これは、現実だと「うるせぇ!!お前がいなければ、こんな事に……っ!?」
―助けてえぇっ!
ふと、誰かの声が聞こえた。同時に、脳裏に何かの映像が浮かび上がった。
俺はユオウの体を掴んだ儘、映像を見入る。
此処は…外…
誰…小さな女の子…?
もう一人居る…大人の男性…?
―止めてくれ!子供の命だけは!うああっ!
―パパあぁああ!うああぁん!
泣き叫ぶ子供と、怯える男性。
男性が、子供を何かから庇って、鮮血を体から噴き出して緩やかに地面に倒れる。
子供は慟哭して、動かなくなった男性の体を何度も何度も揺すり、叫び続けている。
そんな子供の頭上に、何かが降り掛かる。
次の瞬間…
子供も、真っ赤に染まった。男性に重なるように倒れて、子供は涙を溜めた虚ろな目で、停止した。
俺は…それを…見て…
「…逃げた…」
あ。思い出した。
ガチャン!!
静寂が破られた。真後ろに、雨戸を突き破り誰かが入ってきた。
俺は【誰だか分かった】ので抵抗した。
「待っ待て!止めろ!」
しかし、俺は…
ドゴッ!
「ぐあああ!」
鈍器で殴られて、頭を両手で抑えて床に倒れ込んだ。続けて鈍痛が3度襲い、力を失った。
俺は息も絶え絶えに、意識が途切れる寸前に、小さく蚊の鳴く声を発した。
歪む視界の中に居るユオウに、必死に懇願した。
「…お……願……い……」
「何だ。」
ユオウは眉一つ動かさずに、俺を見下す。
俺は目に涙を溜めて、最後に力を振り絞った。
「…昨…日…に………戻……し……て……」
ちゃんと伝えられたか分からない。
俺はやがてまぶたを閉じて、暗闇に覆われる。
…頼む…
「承知した。」
…………
ザアアアッ!
「!」
風が吹いた。夕陽が空に映えて、誰も居ない河川敷が広がる。
その場所に俺は立っていた。
どうやら、俺の願いが、叶ったみたいだ。
「ユオウ…?」
龍の名を呼び見渡すが居ない。気配も無い。
ただ河川敷の草原を夕方の風がなびかせるだけ。
感覚はリアル。全てがリアル。
そう…全部、現実だったんだ。
俺は自分の持ち物や格好を見た。
「【あの時】の、下校中の俺だ…制服も鞄もその継…!…よしっ!」
俺は気を引き締めて、河川敷を走った。
心の中で、ユオウに感謝していた。
全部、思い出した。
俺は【今日】、下校中に金銭目的の男に絡まれた親子を高架下で発見した。
親子は30代くらいの父親と5歳くらいの小さな女の子。
父親が拒否する内に、男は激昂した。
徐々にヤバい雰囲気になって、俺はずっと橋の陰に隠れて見ていた。
そして…逆ギレした男が鈍器を取り出し、何もしていない親子を殴打して殺害した。
子供を庇う父親を、泣き叫ぶ女の子を、ひたすら鈍器で殴り付けて、動かなくなっても何度も
残酷に殴って、血塗れにして殺した。
俺は、その一部始終を見てしまい、逃げ出そうとした。
その時、運悪く男に見付かり、追い掛けられた。俺は必死になって逃げて、どうにか振り切った。
…だが【明日】。顔を見られた俺は、家を調べられて、口封じの為に、男に殺された。
俺は逃げて、必死に忘れようとして、ひたすら寝た。
だが、夢は覚める事は無かった。
幾ら目覚めても、殺されてしまう。
俺はやっと思い出して、深く後悔した。
いつもトラブルを避けて生きてきた。
自分の平和を一番大切にして、他人の事なんか気にしなかった。
俺はあの時、ただ見ているだけだった。怖くて、巻き込まれたくなくて、何も出来なかった。
でも、もしあの時、勇気を出して止めに入っていたら…
あの親子は、死ななかったかもしれない。
だから俺は【今日】変わる。あの時出来なかった事をやる。
どうして夢や現実がごちゃ混ぜになってるかなんて解らない。
どうしてユオウという龍が現れて、俺の願いを聞いてくれたのかも解らない。
でも、これは、俺の本当の心が、反映されているのかもしれない。
今まで平和に、自分の為に行動してきたんだ。今日くらい、他人の為に行動したい。
タタタッ!
「オラァ!金出せっつってんだろクソジジイ!」
「だ、だから金なんて無い!」
「うあああん!うああああん!」
高架下に着き、親子と男を発見した。途端に動悸が早くなる。恐怖に身を覆われる。
男は女の子と父親を逃げられないように壁際に寄せて、睨み付けて凄む。
女の子の父親は恐怖で泣き叫ぶ女の子を抱きしめて、冷や汗を垂らして対応していた。
「うるせーんだよクソガキ!ぶっ殺すぞ!!」
ジャキッ!!
「うあああん!うあああん!」
「!!やっ止めてくれ!!」
キレた男が鈍器を取り出した。女の子が救心の思いで更に叫び、父親が慌てて庇う。
俺を夢で、現実で、殺したあの男。見覚えのある、尖った鈍器。
怖い。
すごく、怖い。
心が引き千切られそうだ。
「……っ……!!」
それでも俺は、深呼吸をして、自分に言い聞かせた。
怖じ気つくな!助けるんだ!
目の前に、困ってる人が居るだろ!!
「うおぉおお止めろおおぉお!!!」
ダダダダ!!
「ああ?」
「!!」
俺は腹の底から声を出した。喉が枯渇する程、相手を怯ませる為、恐怖を超克する為に叫んだ。土を蹴り、砂埃を舞わせて男に飛び掛かる!
ドシャア!!
「なっ…!誰だてめえ!邪魔すんなクソが!」
「この人達が困ってるのが分からねーのか!物騒な物出すんじゃねえ!!」
俺は男から鈍器を奪おうと必死に腕を押さえ付ける。相手は大人だったが、渾身の力を入れた。
「このクソ野郎!ぶっ殺してやる!!」
ゴッ!
「うぐ!!」
俺は頬を拳で殴られた。血の味が口内に広がり、歯列から赤い血が顎に伝う。
それでも、離してたまるか!!
ググッッ!
「鈍器を…棄てろ…!」
「っしつけぇな!」
ガッドッゴッドガッ!
「がっあっぐ!」
抵抗されて、何度も殴られる。痛みが顔にも体にも来る。でも離さない。震えて力を入れる。
腹を蹴られようが、顔面を殴られようが、血を流そうが、俺は絶対にこの親子を守り抜く。
そうだ。
「はあっはあ…っ守るんだ……!!」
「この…!死ね!!」
バッ!
体力の消耗した俺から、男は一気に力を入れて腕を離して、鈍器の持つ腕を自由にした。
そしてその腕は相対する俺に向かい、振りかぶった。
しまった!!
ドンッ!
「ぐはァ!?」
「さ、させるか!…君、ありがとう!助かったよ!!」
「あ…!」
女の子の父親が、間一髪で男に突進して倒した!
あ…危ねー…!助けてくれた…!
そして俺に向き、笑みを見せて礼を言ってくれた。
その僅か数秒が、俺に勇気をくれた。
俺はすかさず倒れた男にのし掛かり、鈍器を奪い、押さえ付けた!
ドッ!
「ぐお!?退きやがれ!離せ!殺す!殺す!全員殺してやるあぁあああ!!」
「だ…黙れ!ぐっ…!」
ガッドガッドガガッ!
その間に女の子の父親が急いで警察に連絡した。
土を抉り青筋を浮かべ狂気に満ちた双眼を見開き暴れる男。
俺は精一杯、男を押さえ付けて、歯を食い縛る。
「離せ!離せ!殺してやる!殺してやる!!」
「離すか!!お前なんかに、殺させねぇ!頭を冷やせ!馬鹿野郎!!」
「っ!?」
俺の一喝に、男が怯んだ。
誰かを傷付けた時点で、許される事じゃない。
俺は怒りを込めて、一層強く、力を入れた。
それから間もなくして、警察が到着した………
…………
ファンファンファン…
「本当にありがとうございました!!」
「いえ…無事で良かったです…」
警察のサイレンがけたたましく鳴り、河川敷には人が集まっていた。
男は駆け付けた警察に身柄を確保されて逮捕。女の子の父親は擦り傷で済み、女の子は無傷だった。
女の子の母親も後から駆け付けて、二人の無事を確認すると安心して泣いた。
女の子は暫く泣き続けてたが、今は嗚咽程度で随分落ち着いた。
そして今、応急処置した俺は親子に感謝されて河川敷で話していた。
「貴方は命の恩人です。何と礼を言っていいか…!」
「うっうっ…本当に、本当にありがとうございます…!」
「いやいや…」
なんだかこそばゆい。俺、あんなに緊張して怖い思いしたのに、なんだか気分がスッキリしている。
やっぱり、誰かを助ける事が出来たからかもしれない。
こんなに怪我したの、初めてだ…
「お兄ちゃん…ありがとう…!」
「…うん。」
女の子が、俺を見て言った。俺は笑顔で、頷いた。
良かった。勇気を出して行動して、正解だった。
この家族を、大切な命を守れて、心から嬉しい…!!
「願いは叶えたぞ。」
「!!あ、ユオウ!!」
ふと、人混みから離れた場所に見覚えのある龍を見つけた。
俺は走り、誰にも見えないユオウに話し掛けた。
「ありがとう、ユオウ!俺、お前の事勝手に勘違いしていて…悪かった。…でも、これは夢じゃないよな?」
「ああ。…今一度、話そう。俺の名前は夢王。人の夢や欲望に現れ、願いを叶える魔物だ。」
「ま、魔物!?…ほぇえ、でも、今更だし、信じるぜ。」
ユオウの正体は魔物だったのか。
しかも夢を叶えるって!
「ただ、俺が願いを聞いた者は全員、自分の私利利欲のみだった。
そんな中、お前の欲望を見付けて、中に入ってみた。そこには、お前の後悔と、本当の願いがあった。
俺には未来も見えた。だから、お前の心を気付かせる為に心に入り込み、未来を見せて願いを聞いた。
そして、ようやく、お前の願いを聞けた。お前は私利利欲でなく、誰かの為に願いを言った。
もしお前が、願いを言わなければ、未来は死を迎えていた。」
「うげっ!?そ、そうだったのか…なんかよく解らないけど、助かった…」
ユオウが居なかったら、記憶を都合よく失くしたままで、死んでいたのか…
考えると背筋がゾッとした。…話していく内に、ユオウの体が透けて、俺からも見え辛くなっていった。
「ユオウ?」
「俺の役目は終わった。お前みたいな奴は、初めてだ。他人への愛情。それを見れただけで、満足だ。…じゃあな。」
「あ…!」
パァアアァアアア
ユオウの体が、消えた。
別れも言えず、元の風景が広がる。
俺は、空に叫んだ。
「ありがとうー!ユオウー!!」
………
それから、俺は夢もユオウも見なくなった。事件も傷害事件に変更されて、警備が強化された。
あの家族は幸せに暮らしていて、俺も平和に暮らしている。
あと、俺には一つ、変化があった。
今までトラブルを避けて生きてきたが、誰かを助けられるなら、手を差し伸べて助けるようになった。
よく考えれば、俺だって色々な人に助けられて生きてるんだ。今までも、これからも。
だから
自分だけでなく、誰かの為にも、俺は行動する。
「今日も、良い天気だなあ…」
俺は通学路を歩き、笑顔で青い空に呟いた。
終