「…千秋さん、」
「……」
「…千秋さん、、」
「……」
「千秋さんっ」
「……」
「…あ"ぁもう!」
そう言って俺は千秋さんに巻き付けていた腕を解くと、両手で千秋さんの頬を挟んだ。
パチン。
小さな音と共にやっと千秋さんが俺を見る。
「ぅわ、びっくりした。どうしたの?貴和」
「…いるのに」
「うん?」
「……もういい…」
「あ、貴和…」
今日は千秋さんがお昼も食べずに部屋でお仕事してるから、だから少しでも一緒にいたくて千秋さんの膝の上に座ったのに…
千秋さんに抱き着いてたのに…
何で、何で見てくれないの…。
今週、ろくにPlayをしていない。
そのせいか、いつもより甘えたいし、わがままだ。
本当は千秋さんのお仕事中は、部屋に入っちゃいけないのに、千秋さんは全部分かってて許してくれた。
構ってあげられないから、その分わがままを許して…。
だけど、足りない…。
これさえわがままだけど、足りないんだ…。
「っうぅ"ー……」
イライラして、モヤモヤして、小さく唸る。
いっその事イタズラでも出来たらいいのに…お仕置きが怖くて出来ない。
俺は部屋の布団にくるまって、いつの間にか眠ってしまった。
「……ん、」
鼻を掠める美味しそうな匂いで目が覚める。
ぼんやりしながらリビングに出ると、キッチンで千秋さんが料理をしていた。
肉の焼ける音と香ばしい匂いが重なる。
「…凄い…」
テーブルの上には白いクロス、果物の飾ってあるバスケットと、用意された飲み物は俺の為にシャンメリーか、そして、俺の席に、わざわざクッションまで用意して乗っているのは……
──新しいCollarか。
「っ……千秋さんっ……」
思わず、料理中の千秋さんに抱き着く。
「っこら、危ないでしょ。」
そう言いながらも料理の手を止めて、俺を正面から抱きしめてくれる。
お尻を軽く叩かれるけど、それでも。
幸せ過ぎる…
愛されてるんだと、そう自覚できる。
仕事の埋め合わせをしようとしてくれていた事が嬉しかった。
「っ……ありがとう…」
幸せ過ぎて、嬉しくて、震える声に、千秋さんは笑って「どういたしまして」と答えた。
「美味しい!」
千秋さんが作ってくれた肉料理は、どんなレストランの料理にも勝るほど美味しかった。
デザートには俺が好きなバニラアイスを沢山使った、ジェラート。
おかわり自由だよ、なんて言って、ジェラートを食べる俺をにこにこしながら見ている千秋さんは、とても幸せそうだった。
食事と片付けを終えると、千秋さんが俺を呼んだ。
その手には、新しいCollarが握られている。
「…貴和、“Kneel”」
千秋さんのCommandに、素直に膝が折れる。
カクン。
ぺたりとお尻を付けて座った俺を、千秋さんはいっぱい撫でてくれた。
「……えへへ…」
ちょっと恥ずかしくて、凄く、幸せ。
「貴和、“Come”」
千秋さんの膝の上に頭を置くと、千秋さんが顎の下や頬を撫でてくれる。
俺は静かに目を閉じた。
暫くそのままでいたが、動いた気配に咄嗟に首を手で覆う。
怖い。
また、Collarを切られるかもしれない…。
「…大丈夫。貴和、大丈夫だよ。」
千秋さんの声に、不安で千秋さんの顔を見上げながらも、ゆっくりと手を離す。
千秋さんは俺を安心させる為に、片手で俺の手を握り、もう片方の手で俺のCollarを器用に外していた。
新しいCollarはシンプルな黒。
だけどやっぱり内側に、出会った日付と二人の名前が筆記体で入っている。
渡されたCollarの内側の文字をなぞっていたら、ふと取り上げられた。
「っ……」
縋るように手を伸ばせば、ふわりと微笑まれる。
「……首に付けるから、渡して?」
ゆるりと縋っていた手を下ろすと、千秋さんは優しく俺の頭を撫でた。
「良い子。…“Good boy”、貴和。」
撫でる手が心地よくて、自然とうなじを晒す。
「少しだけ、上向いてくれる?」
ふわふわするし、不安だし、怖い。
千秋さんの声は聞こえなかった。
「貴和、…貴和、」
俯いていると、千秋さんの手が頬に触れた。
ハッとして千秋さんを見る。
「…そう、そのまま、私を見ていて。“Look”、貴和。」
Command通りに千秋さんを見ていると、ふわふわしたのが強くなって、Sub spaceに入った。
「フフ、おやすみ、貴和。」
俺が意識を手放す前に聞いたのは、千秋さんの甘く優しい声だった。
翌日、洗面所の鏡を見て気が付く。
新しいCollarは、俺の首周りを美しく装飾している。
輝かんばかりのそれは、俺を落ち着かせた。
「気に入ってくれたみたいで良かった」
千秋さんがそう言って、俺の頭にキスを落とす。
「…前のCollarも、取っておきます」
俺の言葉に、千秋さんは鏡越しに俺を見たが、そう、とだけ言って、歯を磨き始めた。
何か、変なこと言ったかな?
気にしつつも顔を洗って、歯を磨く。
朝食を終えてソファーに座った千秋さんの膝の上を占領した俺は、千秋さんの胸にスリスリと顔を擦り付けた。
ギューっとしがみついていたら、千秋さんはフフと笑って俺の髪を撫で、回した腕に力を入れる。
千秋さんは今は在宅ワークだから、パソコンで仕事をしている。
ちゃんと構ってくれたことが嬉しくて、にこにこしていたら、千秋さんがポツリと呟いた。
「貴和、相変わらず甘えんぼだね笑
でもそれを許してる私がいるんだよねぇ〜」
耳に届いた言葉に、俺は笑みを深くしながら千秋さんとキスをした。
「これからも、ずっとずっと甘えていてね。
貴和」
END