鬼は外

  今日は、節分。

  だけど鬼が怖い俺は、毎年鬼がいない所に豆をまいて終わらせる。

  煎った大豆は好きで、沢山食べるけど、鬼は怖い…。

  今年も千秋さんが鬼かなぁ。

  なんて思いながらスマホをいじってたら、千秋さんからLINEが来た。

  そこにTwitterのURLが貼ってあったから、ページを移動して……

  「っひ……」

  びくりと身体が跳ねてスマホを落とした。

  その画面には鬼がいたから……。

  「っ、、」

  “意地悪!”

  落としたスマホを拾い上げてそう送ると、直ぐに既読が付いて…。

  “出張鬼サービスっていいね。

  今年は二人で鬼に豆まく?”

  って返信が来た。

  “やだ…鬼いらない…怖い”

  そう送ると、さっきの暴言に対して、千秋さんが怒ったスタンプを送ってきた。

  “こら。意地悪なんて言う悪い子は?

  鬼さんにお仕置きしてもらうかな?”

  「っ鬼は千秋さんだ……」

  ぼそっと呟いて、でも怖いから傍にあった大きめの柔らかいクッションに顔をうずめる。

  “鬼さんにぺんされたら、鬼さんと同じくらい真っ赤になっちゃうね笑”

  “やだ…笑い事じゃないもん”

  “帰るまでいい子でいてね”

  “…うん…”

  今日の千秋さん、やっぱり意地悪かな。

  …本当に、鬼呼ぶのかな…、

  色々考えたら怖くなって、俺は千秋さんの部屋のベッドに潜り込んだ。

  本当はあんまり入っちゃいけないんだけど、書斎よりは厳しくない。

  ほんのり千秋さんの匂いがする布団に包まれて、俺はちょっと笑ってしまった。

  肌触りの良い掛け布団に段々眠くなってきた俺は、そのままゆっくりと微睡みに溶けていった。

  「…和、貴和。」

  揺すり起こされて、目が覚めた。

  千秋さんは仕事して来たからなのか、ちょっと疲れが顔に出ていたけど、それでも笑顔だった。

  「ん…千秋、さ……疲れて、る…?」

  俺の言葉に、千秋さんはちょっと驚いた後、そんな事ないよと笑った。

  気付いてないのかな。

  その笑みにさえ、滲む疲れに、、

  不安になった俺は、そっと千秋さんの唇にキスをする。

  「ん……フフ、どうしたの?

  今日は積極的だね。」

  ニコニコとした千秋さんに、俺は諦めたように笑みを向けた。

  「……ね、ねぇ…千秋さん、」

  カチャカチャと食器の音が響くリビングで、俺は沈黙に耐えられずに声を掛けた。

  「?なぁに?貴和」

  「ほ、本当に…鬼、呼ぶの…?」

  「ん〜、貴和、今日良い子だった?」

  いい子って言うのは、やる事やったとか、そういう事かな…。

  「多分…」

  「そう。なら呼ばない。

  今年も私が鬼で、豆まきしよう?」

  そう言ってふわりと微笑む千秋さんに、俺は何を返せるだろう。

  「っ……ごめんなさい、いつも」

  「どうして謝るの?」

  俺は、何時だって…貴方に何も返せていない…。

  貴方が与えてくれる温もりにくるまって、甘えてばかりだ。

  「…貴和、甘えていいんだよ。

  私は、私の意思で貴和をパートナーに選んだ。

  生涯愛する人にね。

  例え貴和がどこまでも甘えようが、わがままを言おうが、それが迷惑だと思う日は、今後一切、一瞬でも来ることは無いよ。

  何故なら、貴和のわがままも、甘えも、苦しみも、哀しみも全部を、私が半分背負うって、私が決めて、貴和を選んだから。

  貴和の手を、取ったから。

  私には受け入れる責任があるし、何より、貴和を支えたい。

  そしてね、貴和の笑った顔を見ることが、私の生きがいなんだよ。

  貴和といれるなら、他のどんなものでも差し出すよ。

  この家だろうと、お金だろうと、車だろうと。

  私の腕の中で、貴和が笑ってくれているなら、それでいい。

  それ以外、何もいらない。

  だから、貴和は何も心配しなくていいよ。

  ただ、側にいて。」

  千秋さんの暖かい言葉に。

  俺を愛していると表す態度に、俺の瞳から大粒の涙が溢れ出す。

  あぁ…俺は、、この人の傍にいていいんだ。

  この人が、俺の事を捨てないって、安心していいんだ。

  そう思えて、安心したら、もう涙なんて止まるはずがなくて…

  「あらあら…(苦笑)」

  困ったように笑った千秋さんが、隣に座っていた俺を抱き上げて膝の上に跨らせる。

  「安心していいからね。

  貴和の事は、何があっても守るから。

  だから泣かないで…?」

  そっと千秋さんは俺の涙を拭う。

  その手に、俺は擦り寄った。

  「っグズ……千秋さん、」

  「なぁに?」

  「愛してますっ」

  「…私も、愛してるよ。貴和」

  「っグズ……ありがとう」

  俺に居場所をくれて。

  俺に生きる意味を与えてくれて。

  俺を拾ってくれて。

  ……─俺を愛してくれて、本当に。

  ありがとう。

  「鬼はー外〜♪福はー内〜♪♪」

  「っグズ…ひ……ふえぇっ……」

  「貴和〜、鬼さん、こっちだよ〜」

  「うええぇっ……」

  「投げてごらん、ほら、パラパラって」

  「怖いっ怖いぃっ……」

  「うん、怖いね〜(苦笑)」

  バラバラ。

  「投げれて偉いけど、そっちじゃないのよね〜笑」

  「うええぇん……無理ぃっもうやだぁあっ!」

  「そうだね(苦笑)

  じゃぁ、あと一回バラバラってして終わりにしよ?

  ね?一回だけ投げてごらん?」

  「っふうぅ……っ」

  バラ、パラパラ。

  「うんうん!ちょっと当たった!

  お疲れ様、貴和♪」

  「ふ、えぇっ抱っこぉ!ぢあぎさぁん!!」

  「分かった分かった笑

  よしよし、よく頑張ったね〜、もう鬼さん居ないからね。

  痛いよ〜って言いながらお外行ったからね〜」

  「うええぇ"っもうやらぁ!

  豆まぎもうやらないぃ"!」

  「(苦笑)

  そんなに泣いたらお目目が溶けちゃうよ〜

  ほら、貴和の好きな大豆、いっぱい食べよ?」

  「っグズ……ひっく……ぅんっちあきさ、も…食べるっ」

  「うんうん、じゃあ一緒に食べよう?笑」

  それから千秋さんの膝の上で一緒に大豆を食べた俺は、少し落ち着いてきた。

  床に落ちている鬼のお面が憎らしくて、ひっくり返したまま投げ捨てる。

  「こら。」

  「っ…💦」

  「物投げていいの?」

  「……」

  「貴和」

  「っふ、ぇ……」

  「泣いてもダメ。いいの?」

  「よ、くな……」

  「分かってるのにやる子は?」

  「っふえぇ……」

  「どうなるの?」

  「うぅ……ぉ、しおきぃっ……ふえぇ…」

  「…おいで。貴和」

  「っやらぁ…お膝やらぁ!」

  「貴和。」

  「やだぁあ!も、や……嫌いぃ…」

  「はぁ……貴和、“Come”」

  「うえぇ"ん!やらあぁ!」

  最近Prayしてなかったから、時々忘れるけど、一応俺はSubだから、Commandに逆らえない。

  なんて悲しい身体なんだ…。

  抵抗も虚しく膝に乗せられると、お尻を出された。

  パン!パン!パチン!

  「うええぇ"ん!やらぁっ」

  お面をって言うか、物を投げたから、貴和を膝の上に乗せてお仕置きする。

  豆まきをしてる時からだいぶ泣いてたから、もうギャン泣き…(苦笑)

  だけど、物投げるのはダメって言ってあるし、もしそれでカップを割って、貴和が腕を切ったら、貴和が痛い思いをする。

  だから最初のうちから厳しく叱っておかないといけないんだ。

  「も、やっ……げほっはんせーしたぁっ」

  「してるように見えないよ?」

  パチン!パン!パン!

  と言っても、苦手な豆まきを頑張った貴和にあまり厳しくは出来ないから、ほぼ力を込めてないんだけどなぁ。

  甘えモードかなぁ?

  怖かったもんね。

  だけど、ちゃんとごめんなさい言えないなら、お膝からは降ろせないよ?

  「わあぁああ"っもうやらぁ!嫌いぃっ!」

  「そんなこと言ううちは、お仕置き終わらないね。

  嫌いって何が?」

  「っううぅ"……」

  私とか言わないでね…?

  好きで叩いてる訳では無いから…💦

  「…どにがくやだっ」

  「貴和、ごめんなさいは?」

  「じないっ」

  「しないの?」

  「うん"……」

  「…そっかぁ…反省は?」

  「っしなぃ……」

  「……分かった。降りていいよ。」

  静かにそう言って貴和を膝から降ろした私に、貴和は混乱したように涙がいっぱい溜まった瞳で私を見つめた。

  可愛いけれど、反省する気がない子を叩いても、意味がないからね。

  「ごめんなさいも言わない、反省もしないなら、お仕置きの意味が無いから。

  これでお終いね。」

  優しくそう言って、リビングに散らばった豆を拾って、夜ご飯の片付けをしていると、暫くして状況が理解出来たのか、貴和の泣き声が聞こえてきた。

  「うわああぁん!」

  お仕置き、お終いにされた。

  もういいって言われた。

  分からない。

  何がダメなの。

  とにかく、見捨てられた気がして。

  怖くて、寂しくて。

  わんわん泣く。

  涙は枯れなくて、後から後から溢れてくる。

  袖で拭ってたら、袖がびしょびしょになった。

  「ぢあきさあぁん!!」

  いつもは俺が1人なだけですぐに来てくれるのに、今日は来てくれない。

  何で?何でほっとくの?

  もうやだよ。

  1人にしないでよ。

  気付いてるくせに。

  ほっとかないで。

  千秋さんが全然来てくれない事にイライラして、俺は近くにあった電気スタンドを床に投げつけようと持ち上げた。

  瞬間、駆け付けてきた千秋さんの手に電気スタンドは回収され、千秋さんの片膝にうつ伏せにさせられて、さっきの比じゃない平手がお尻に降ってきた。

  「わああぁっ!」

  お尻が痛くて、俺の手を引っ張った千秋さんの強い力が怖くて、俺はわぁわぁ泣き喚くしかなかった。

  「貴和は優しいお仕置きじゃダメみたいだね?

  何でお仕置きされてるか分からない?」

  お尻をバチバチ叩かれながら何か言われるけど、分からない。

  「うわああぁ"ん!いだいぃっ!!」

  ジタバタ暴れながら逃げようとしたら、俺が苦手な、お尻を掬うように叩かれる。

  「あああぁん!!いだい!いだぁいっ」

  暫く叩かれて、千秋さんは俺を目の前に立たせた。

  「う、えぇ……」

  溢れて止まらない涙を拭ってたら、千秋さんに両手首を掴まれる。

  「…何でお尻ペンペンされてるか分かる?」

  聞かれて、戸惑って固まると、千秋さんは真剣な声のまま言った。

  「怒らないから、正直に答えて。

  分かる?分からない?」

  「わ、がらな……ひっく」

  「うん。貴和さ、さっき、豆まき終わった後に、お面どうした?」

  「っひっく……うぅ……投げ、た…」

  「うん。投げたよね、床に」

  「ぅ、んっ…グズ…」

  「それは、ダメな事だよね?」

  「グズ……は、ぃ…」

  「何でダメなのか、分かる?」

  「っわ、かんな、い…」

  「あれがね、紙じゃなくて、コップだったらどうなる?」

  「っひっく……割れ、る…?」

  自信がなくて小さい声でそう言うと、千秋さんは頷いてくれる。

  「割れて破片が飛んできたらさ、貴和が怪我するんだよ?痛いし、血も出るの。危ないよね?」

  「ぅ、ん……」

  「だから、物は投げちゃいけないの。」

  「っは、ぃ……」

  「分かった?」

  「っグズ……(コクン)」

  俺が頷くと、千秋さんも頷いて、俺の涙を拭った。

  「貴和に怪我して欲しくないから、ちょっと厳しく叱るけど、嫌いになった訳じゃないし、貴和が泣いてるのに来なかったのは、自分で気付いて欲しかったからだよ。

  気にしてない訳じゃないからね。分かる?」

  優しく噛み砕いて話してくれる千秋さんの言葉に、何度も頷く。

  「じゃぁ、貴和。もうちょっと頑張ろう。」

  そう言って千秋さんはソファーに移動し、俺の腕を引くと、俺を膝に横たえた。

  「かなり痛いと思うけど、ちゃんとごめんなさいするんだよ?」

  「っはぃ……」

  千秋さんの言葉に不安になりながら、目の前のクッションを握り締める。

  ペチン!パシン!

  「ぁっ……ぃだっ」

  バチン!パシィン!

  「ぅ、ああぁん!!」

  降ってきたのは平手じゃなくて、定規だった。

  「いだいぃっわああぁっ」

  「貴和、ごめんなさいは?」

  「ごめ、なさいぃっごぇんなさいぃっ!」

  パチン!バチン!パァン!

  「わああぁ"っごぇ、なざぁぁっ」

  「うん、もうしない?」

  「も、じないぃ"っわあぁ」

  「じゃあ最後」

  バチン!パシィン!!

  「うええぇ"ん!!ごめんなさぁい!」

  「はい、お終い!」

  「わあああぁ"っぢあぎさぁぁっ!」

  「よしよし、よく頑張ったよく頑張った。

  良い子になったね。偉かったよ〜貴和」

  お仕置きが終わったらすぐ抱っこしてくれて、背中や頭を撫でてくれたりトントンってしてくれる。

  「もう物投げないんだよ?危ないからね?

  怪我しちゃうからね?」

  「わがっだ…わがったぁあ」

  わんわん泣く俺に、千秋さんは苦笑していた。

  だけど、もう二度と物は投げないと思う…。

  めっちゃ怖かった…。

  俺は思う。

  鬼なんかより、よっぽど千秋さんの方が怖いと…。

  千秋さんの中の、鬼は外💦

  END