朝、目が覚めると、外は土砂降りだった。
珍しいなと思いつつ、今日出掛ける予定がなくて良かったとほっとする。
段々目が覚めてきた時、突然低い雷鳴が響き渡った。
「っ……」
ドクドクと騒ぎ始めた心臓に手を置き、身体を強ばらせる。
俺は昔から大きい音がダメで、雷も物の倒れる音とかも怖かった。
思わず千秋さんに抱き着くと、目が覚めたのか、千秋さんがほんの少し笑って俺の髪を撫でた。
今日は千秋さんもオフの日だから、久々にゆっくり出来る。
何度も息を呑む俺に、千秋さんは優しい声で呟く。
「…大丈夫、大丈夫。」
強ばった肩を摩られ、お腹をトン、トンと軽く叩かれるうちに、俺はまた深い眠りへと落ちていった。
「……ん…」
次に目が覚めたのは昼頃だった。
ベッドサイドのテーブルに置いてあるCollarを持って、千秋さんを探す。
もう千秋さんは起きていて、リビングのソファーでパソコンを開いている。
思わず少しムッとしてしまった。
俺が寂しいからと、千秋さんと作ったルール。
オフの日は、仕事はしないこと。
俺からの一方的なわがままに、千秋さんは笑って約束してくれた。
なのに……
じとーーって不機嫌な視線を送っていると、千秋さんは俺に気付いてハッとした顔になった。
「ぁっ、ごめん……
すぐ片付けるね💦」
慌ててセーブだけしてパソコンを閉じた千秋さんに、俺は静かに抱き着いた。
千秋さんはゆっくりとCollarを付けてくれる。
「フフ、今日雨凄いね。
雷、結構鳴るかもだけど、怖い?」
窓を見ながら千秋さんが問う。
俺は無言で頷いた。
途端、電気の付いている部屋が謎に光った気がして、思わず窓を凝視する。
数秒後響いた音に、俺は盛大に肩を跳ねさせた。
「大丈夫、大丈夫だよ。」
千秋さんが何度も背中を摩ってくれるが、雷の方がペースが速い。
「っ〜〜……ふぇぇ……」
一際大きい音が響いて、俺は堪らず泣き出した。
「あら……」
千秋さんは困ったように、でも愛おしそうに笑って、そっと俺の額に口付けする。
「っうぇぇん……」
泣きながら千秋さんにしがみつくと、千秋さんは俺を抱き上げてキッチンへ向かった。
2人分のカップを出して、その中にココアの粉を入れている。
お湯を沸かして入れれば、ホットココアの完成だ。
何を作るかは分かっていながらも、思わず目で追っていた俺は、少し泣き止んでいて。
千秋さんは俺にホットココアを手渡して、俺を膝の上に座らせた。
一口飲めば、その温かさにほっと息が漏れる。
幸せだなぁと思い、少し笑顔になった俺を見て、千秋さんは安心したように微笑んだ。
「貴和、Playする?」
背中や頭を撫でていた千秋さんの一言に、俺は小さく頷く。
最近、千秋さんの仕事が忙し過ぎて、ろくにPlayが出来ていなかった。
二人とも無理にする時間もなく、電話でも出来ず、なんとか薬で保っていた。
「し、したい…」
少しワクワクしながらそう言うと、千秋さんも瞳を光らせた。
「もうしても平気?
まだ抱っこしてる?」
千秋さんに聞かれて、窓を見つつ、もう大丈夫だと伝える。
多分これからもまだ雷はなるだろうけど、千秋さんが傍にいるもん。
「分かった。
……じゃぁ、始めようか。」
俺を少しだけ離れた、千秋さんの正面に立たせると、千秋さんはゆっくりと口を開いた。
「……貴和、“Kneel”。」
千秋さんのGlareを帯びたCommandに、息が荒くなる。
腰が落ちるように座った俺を見つめたまま、千秋さんは微笑んだ。
「“Good boy”、貴和。」
褒められて、胸が、心臓が痛いほどに切なくなる。
その感覚に思わず涙が滲んだ。
ずっと欲しかった感覚だった。
待ちわびていたものだ。
見つめられているだけで興奮し、息が上がる。
そんな俺を見て、千秋さんもまた、少し満たされているようだった。
「…貴和、“Come”。」
俺はゆっくりと体勢を保ちながら千秋さんの足元まで進む。
千秋さんの熱を帯びた視線が俺を包み、俺はもうどうしようもなくなってビクビクと身体を震わせてしまった。
「……感じてるの?」
千秋さんの言葉に、俺は赤面する。
そうなのか。
俺は千秋さんの視線に、Glareに、感じているのか。
だって、久しぶりなんだ。
こんなにも満たされて、幸せで……
「っん……ぁ……」
ふと千秋さんが手を伸ばし、俺の乳首を服の上から弾いた。
ピクンと腰が跳ねる。
「フフ、乳首だけで感じるなんて、よっぽど意識してるんだね。
いいよ、“Feel more”。
乱れなさい。貴和」
「は、ぁんっ……っぁ……」
千秋さんの強力なCommandに、俺はグズグズに溶かされていく。
快感が腰を、足を、全身を這い上がる感覚に、身をよじる。
千秋さんはそんな俺を見て、意地悪く笑っていた。
「……貴和、」
名前を呼ばれて、ゆっくりと顔を上げる。
千秋さんは俺の顔に手を伸ばし、頬に触れたままCommandを出した。
「“Cum”。」
「っぁ"、あ……っ〜〜」
ビクビクと身体を震わせて達した俺を見て、千秋さんは落ち着いたように微笑む。
そっと千秋さんの手に口付けると、千秋さんはそのまま俺の口に指を入れた。
「ふぁ、……ぁ、はっ……」
上顎、歯の外側。
案外触られると気持ちいい場所は多いようで、クチュクチュと耳に届く音もなんだかえろくて、俺は顔を真っ赤にしながら耐えていた。
恐らくそれが一番千秋さんに刺さるのだろう。
暫くして指を引き抜いた千秋さんは、立ち上がるとどこかへ行ってしまった。
置いていかれた俺は『Kneel』のまま待機する。
やがて戻ってきた千秋さんの手にあったのは、木製のパドル。
ぞっとして後退ろうとしたら、千秋さんは意地悪く口角を上げて言った。
「Commandかかってるのに、動いていいの?」
硬直する俺に、千秋さんはソファーに戻るとそっと膝を叩いた。
「貴和、“Ride”。」
逆らえるはずもなく、膝に乗る。
そっとズボンとパンツを下ろされて、いよいよ視界が滲む。
怖い。俺、何か悪いことしたっけ。
ちゃんとCommand聞けてなかった、?
言われた通りに出来てなかった?
使えなかったからお仕置き?
混乱と恐怖の中で、俺は考える。
何がダメだったのか、全然分からない。
「…貴和、」
ごちゃごちゃした頭で必死に考えていたら、千秋さんに名前を呼ばれて思考が止まった。
「ん?お返事は?」
パシンと叩かれて、肩が跳ねる。
「は、はぃっ……」
慌てて返事をすると、千秋さんはまた優しい声に戻る。
「これは、お仕置きじゃないよ。
Playの一環としてやるだけ。
簡単に言うなら、甘えられるようにする為の準備。
分かる?」
何となく、分からないでもない。
じゃぁ、俺がどこか悪いって訳では無いのか?
「ぅ、ぁの……ぇと……」
何て言ったらいいのか分からず言葉に詰まる俺に、千秋さんは優しく噛み砕いて説明してくれた。
「お仕置きじゃないから、貴和が反省する所は特にはない。
空気が空気だから、ごめんなさいしてもいいけど、貴和が悪い訳では無いよ。
まぁ勿論、途中で叱るべきことが出てきたらその時は自然とお仕置きになるけどね。」
たまにはこんなのも良いでしょ?
そういう千秋さんに、戸惑いながらも頷く。
「じゃぁ、始めるよ。
20回ね。」
意外に多い回数に、身構える。
パシン、パン!
パチン、パン、パァン!
「っぅ、ぃ……」
何度も叩かれるうちに、段々とお尻が熱くなる。
バシン!パァン!
バチン!パシィン!
「あぁっ……い、た……なさ……ごめ、なさっ」
怖くて、痛くて、思わず謝る。
「うん、怖いね。」
千秋さんが、俺の心の声まで拾ってくれる。
バチン!パァン!
バシン!べチン!
「っあぁあっっ……も、やだっいた、いぃ……」
しゃくり上げ、首を振り、膝から降りようともがく。
だけど千秋さんの力には勝てなくて、逃げようとしたことを叱るように、足の付け根にパドルが落とされ、一際重く、鋭い痛みが襲う。
「ぃだぁぁぁあっ……ぅぇぇ……も、やぁぁっ
ごめ、なさぁ……ごめ、なさぁいいぃ……」
泣きながら謝り、もがいていると、そっとお尻を撫でられた。
なでなで、労るようなその動きに、涙が止まらなくなる。
「ぅ、ふぇぇ……いだ、いぃ……」
終わったのか分からず、お尻を撫でる手にさえ怯える俺に、千秋さんは優しく終わりを告げた。
「もうおしまい。
終わったよ、貴和。
良く逃げずに耐えたね。偉い偉い。」
そう言いながら俺を膝の上に跨らせ、向き合う形にすると、背中や頭を沢山撫でて、いっぱい褒めてくれた。
「“Good boy”、貴和。
いい子、いい子。
付き合ってくれて、ありがとう。」
優しく耳に届く声に、安心してわぁわぁ泣き出すと、千秋さんは俺を優しくあやし、抱き締めた。
「わぁぁぁっこわ、かっ……ちあきさ……ちあきさぁぁっ」
久々のPlay。
甘えるのも、久しぶりな気がして。
お尻が痛い、千秋さんが怖かった、何でいきなりパドルなの、もうされたくない、痛い、怖かった……
叩かれたお尻を理由に、甘え続ける俺を、千秋さんは叱らなかった。
そうだね。痛かったし、怖かったよね。
ごめんね、怖い思いさせて。
辛かったね、よく耐えたね。いい子、いい子だね。
大丈夫だよ、冷やそうね。
ほら、おいで。落ち着くまで抱っこだね。
沢山、たくさん甘やかしてもらって、俺は心の底から満たされた。
甘えていいよと言っても、素直に甘えることが出来ない俺を思うが故の、愛情。
本当に、千秋さんには敵わない。
「あり、がと……」
泣き笑いの表情でそう言うと、千秋さんは優しく微笑んだ。
「どういたしまして、泣き虫さん。」
END