2.昏睡

  救急車が病院に着くと、すぐにストレッチャーが運ばれて行く。

  俺はただ走って着いていった。

  「こちらでお待ちください」

  「何でですか、俺も一緒に…っ「ここからは医療関係者しか立ち入ることが出来ません。

  診察や治療が終わり次第声を掛けますので、」

  そう言って、看護師はストレッチャーを追って入っていき、静かな廊下に俺一人が残された。

  不安を胸に抱き、廊下を右往左往していると、不意に救急搬送口の方に1台のパトカーが止まった。

  車から1人の男性が降りて、こちらへ向かってくる。

  「……黒木くんで、合っているかな」

  その警官の顔を見て、俺は心の中で首を傾げた。

  どこかで見た気がしたのだ。

  「あぁ、ごめん。

  俺は捜査一課の泉宮 涼介。

  千秋とは高校時代からの友達でね。

  少し前、千秋に頼まれて富士川漁港の倉庫に様子を見に行ったんだけど…覚えてないか」

  漁港の倉庫って…もしかして…

  『涼介…ぁ、さっき話した知り合いの警官の人ね……』

  千秋さんが言っていたのはこの人だったのか…。

  「…千秋があんなことになって、動揺しているだろうし何より辛いと思う。

  そんな時に悪いんだけど、、捜査に協力してもらいたいんだ。

  何があったのか説明してくれないかな。」

  涼介さんの言葉に、俺は唇を噛み締める。

  暗闇で見た人影。

  もしもあいつが犯人なら、捕まえてもらいたい。

  その一心で記憶を辿りながら全てを話した。

  「分かった。

  目撃者がいなかったかも含めて、もう一度整理してみる。」

  そう言って涼介さんは立ち上がった。

  「……君のせいじゃない。

  あまり気に病まないように。」

  それだけ言い残して、涼介さんは去っていった。

  暫くして医師の雨宮と看護師が俺の元へ来た。

  「っ千秋さんは…」

  雨宮は複雑な表情で俺を見つめた。

  「鉄パイプが当たった衝撃で、身体のあちこちに痣は出来ているものの、大事には至らず、命に別状はありません。

  しかし…大量の鉄パイプが当たったことで意識を失い、そのまま地面に倒れたことで頭を強く打っており、今は昏睡状態です。」

  「……ぇ…昏睡、って……」

  昏睡って詳しい意味なんて知らないけど、よくテレビとかで見るものでは、中々目が覚めないんじゃなかった、?

  そうなってるってこと?

  「いつ、目覚めるんですか…」

  「…今の所は、なんとも言えません。

  いつ目覚めるかという見当も付きません。

  ただ、待つことしか……」

  ショックでふらついた俺を看護師が支える。

  なんだよ…それ……

  じゃあ千秋さんは、いつ目覚めるか分からないってことか。

  もしかしたら、ずっと目が覚めないことも、あるってこと、かよ…、?

  そんなの……そんなの…っ

  「ひどすぎる……」

  雨宮について行って通してもらった病室。

  白いベッドの上で、千秋さんは静かに眠っていた。

  頭には白い包帯が巻かれ、酸素マスクをつけて、点滴をしている。

  千秋さんの左手をそっと握る。

  その指には、倒れた時までつけられていた指輪がなかった。

  慌てて探していると、横から看護師がそっと指輪を手渡してくれた。

  俺は、千秋さんの手と、指輪を握り締めて泣いた。

  ねぇ、千秋さん。

  何で千秋さんなの?

  何で、俺じゃなかったの、?

  何で…貴方がこんな目に遭わなきゃいけないんだ…。

  こんなの…信じたくないよ…

  ねぇ、嘘だって言ってよ…

  そう言って抱き締めてよ……。

  千秋さん…貴方の声を聞かせて……。

  続く