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憎めない悪の組織 地球侵略日和 第3章 加入とおんぶと

  地下帝国の建設は、ダークのメンバーたちの手によって着実に進んでいた。資材が球地から搬入され、拠点内は活気で満ちていた。各メンバーがそれぞれの役割を果たし、連携して動く姿は、一つの精密な機械のようだった。

  ドルクは設計図を確認しながら、「次は調理場の配管を仕上げる。テンテン、準備はいいか?」と声をかけた。テンテンは元気に手を挙げ、「もちろんよ、ドルク君! この新しい調理場で地球の食材を存分に試してみたいわ」と微笑んだ。

  アルタは全体の進捗を確認し、調和のとれた環境を維持するために仲間たちに指示を出していた。「皆さん、効率よく進めましょう。配管が終わったら次は電力の調整です。これが終われば、いよいよ基本的な設備は整います」

  バーナドは空気循環システムの調整をしていたが、ふと仲間たちの姿を見て微笑んだ。「みんな、本当に頑張ってるんだな……」と小声で呟いた。

  その頃、王子は進行状況を確認しに現場を訪れた。彼はその鋭い目で仲間たちを見渡し、緊張感の中にある活気に心を打たれた。「我々の新たな基盤が、ついに形になっていくのを実感する。皆の努力に感謝するぞ」

  グランは巨大な鉄骨を担いで歩いていたが、王子の言葉ににやりと笑った。「おう、王子。これが完成したら、オレたちの力がもっと見せつけられるぜ」

  地下帝国の建設は、仲間たちの結束と技術、そして地球文化の影響も受けながら、次第にその全貌を明らかにしつつあった。完成への期待は、皆の胸に力強く灯っていた。

  地下拠点の奥まった一室で、王子は部下たちを前にして静かに指示を出した。「行動は急ぐに越したことはない。間もなく店じまいの時間だろう。店主は暇なはずだ。グラン、アルタ、バーナド、お前たちで彼をここへ連れて来い」

  グランは目を輝かせ、「おう、任せとけ!」と元気よく応じ、アルタは冷静に「了解しました、王子」と頷いた。バーナドは控えめに目を伏せて、小さく「はい……」と呟いた。

  この王子の命を受けて、三人は揃って拠点を後にし、夜風に包まれた商店街を歩いてカフェ「狼の縄張り」へ向かった。

  カフェ「狼の縄張り」で店主は静かに店じまいの準備をしていた。カーテンを閉め、最後のカップを片付けようとしていた時、店の扉が突然開き、夜風とともに三人の姿が現れた。グランが明るく「よっ!」と声をかけ、店主は驚いたもののすぐに笑みを浮かべた。

  「こんな時間に君たちが揃ってどうしたんだ?」

  グランは軽く笑って、「お前を呼びに来たんだ。王子が直接話したいってさ」と言い、屈託のない笑顔を見せた。アルタは少し前に出て、真剣な表情で続けた。「店主、お時間を頂くことになりますが、ぜひお越しください。話したいことがあるんです」

  バーナドはその場に立ち、少し視線を泳がせながらも控えめに言葉を足した。「あの……そのついでに、カフェオレとか……飲めたら嬉しい……です」

  店主は目を細め、苦笑した。「私の味を好いてくれて嬉しいよ」と言いながら手早くカフェオレ、コーヒー、特製ココアを準備し始めた。店内に香ばしい香りが広がり、温かな空気に包まれる。

  「グラン様には特製ココア。アルタさんには深い味わいのコーヒー。そして、バーナドさんには甘いカフェオレをどうぞ」と言って飲み物を差し出した。

  グランは一口飲んで「うん、甘くていいな、パフェの方が嬉しいけど ありがとな!」と豪快に笑い、アルタは控えめに「ありがとうございます」と頷いた。バーナドはカフェオレを小さく啜り、「美味しい……ありがとう」と恥ずかしそうに呟いた。

  ふと、店主は周囲を見渡して客が誰もいないことを確認すると、思わずグランの両手を握った。「君たちが来ると、本当に嬉しいよ」

  その様子を見てバーナドは視線を落とし、もじもじとした動きを見せた。店主はそれに気づき、優しくバーナドに抱き着いた。バーナドは一瞬硬直し、次の瞬間、「……ひゃっ!」と変な声を上げた後、顔を赤くして照れ隠しの怒ったような声を出した。「や、やめてくださいよ……!」

  「はは、すまないね、バーナドくんは、やっぱ可愛いよ、勿論、ありのままの姿の方がずっと美しく可愛いけど」

  「……」

  褒められ慣れないことを誉められ、バーナドは、口ごもった、改めて口に含んだ一口は、何故だかさっきよりもおいしく感じた。

  アルタはそのやり取りを見て微笑み、「店主、お時間いただきますが、拠点へとご案内させていただけますか?」

  「キョテンね……。……きょ、拠点と言ったかい? わ、私なんかが行っていいのかい!?」

  店主は、拠点という余り聞かない単語を復唱して意味を理解した、落としそうになった食器をアルタは、うまくつかんだ。

  こうして店主はダークのメンバーに促され、拠点へと向かうことになった。

  店主はダークのメンバーに連れられ、夜の街を歩いていた。やがて一行が辿り着いたのは、都会の都心部から少し離れたところにある平屋の家だった。外観はごく普通で、セメントブロックの塀に囲まれ、親子5人が住むのにちょうど良いくらいの大きさだった。店主はその平凡な見た目に驚き、「ここが……君たちの拠点なのか?」と声を上げた。

  アルタは穏やかで紳士的な微笑みを浮かべ、「そうです、店主様。ここが私たちの拠点です。外からはただの家に見えるでしょうが、内部は違います」と丁寧に説明した。彼の言葉に、店主は感心した表情を見せ、「なるほど、君たちは思った以上に用心深いんだね」と頷いた。

  グランは大きな声で笑い、「そうだろう? ここなら誰も気づかねぇ!」と胸を張って言った。

  店主はその様子を見て微笑みを浮かべつつ、少し緊張した様子で周囲を見回した。「こんな場所に、グラン様やみんなが住んでるとは思わないな……」とつぶやいた。

  アルタは店主を気遣うように、「中へどうぞ。私たちの素顔を見せる機会を設けられて光栄です」と優雅に手を差し出して案内した。その丁寧な振る舞いに、店主は気後れしつつも一歩踏み出し、家の中へと足を踏み入れた。

  店主が一歩中に入ると、普通の民家らしい空間が広がっていた。木の床にシンプルな白い壁、居間にはソファとテーブルが置かれ、一般的な家庭のリビングと変わらない雰囲気だ。しかし、周囲にいるダークのメンバーたちの存在が、この場所の特別さを示していた。

  「よく来てくれたな、店主」と王子が堂々とした姿で店主に声をかけた。手には、銀色に輝くカモフラジュ・エンブレムが握られていた。「これを持ってみてくれ」と言って、そのエンブレムを差し出した。

  店主は少し戸惑いながらもそのエンブレムを受け取った。数秒のうちに、視界に映るダークのメンバーたちが本来の姿を現した。王子のカリスマ性あふれる威厳、シャンファの美しい黒豹の姿。そして何度見ても心を奪われるグランの堂々たる狼の姿、そして控えめながらも気品あるバーナドの白頭鷲の姿が浮かび上がった。

  店主はその光景に感動し、息を飲んで口を開いた。「これが……本当に君たちの姿なんだね」と目を輝かせた。

  王子は一歩前に進み、「どうだ、店主よ。それが欲しいか?」と落ち着いた声で尋ねた。

  店主は一瞬、喜びを顔に浮かべたが、すぐに少し申し訳なさそうにうつむいた。「でも……先日のパフェの大盤振る舞いで少し赤字になってしまって……これを頂くのは気が引けるんだ」と遠慮がちに言った。

  王子はその反応に少し微笑み、「いらん。先日のパフェのお礼として、これをお前に贈る。ただし、条件がある」と言葉を続けた。

  店主はその言葉に眉を上げ、「条件……ですか?」と聞き返した。

  「忠誠心を誓うこと。我らダークの監視下に入ること、隠し事はしないこと。そして、お前を守るために防犯カメラを数台設置することだ。それでも欲しいか?」王子は鋭い眼差しで問いかけた。

  店主はその条件を理解し、深く息を吸ってから力強く頷いた。「はい、喜んで、拷問にかけられようが裏切りません!」と震える声で答えた。

  グランはニヤリと笑みを浮かべ、アルタは、安堵のため息をつき。バーナドは目を伏せたまま小さく微笑んで店主の決意を見守っていた。

  店主がダークの拠点に案内され、改めて仲間としての挨拶が行われることになった。王子は全員を見渡しながら静かに言葉を発した。

  「皆、こちらが新たな仲間となった店主だ。彼は今後、我々と協力していく」

  その言葉に、シャンファが一歩前に出て、冷静な目で店主を見つめた。「店主、歓迎するわ。あなたの存在が、我々の計画をさらに前進させるでしょう」

  店主は感謝の気持ちを込めて「ありがとうございます、シャンファさん」と返し、手を差し出した。シャンファはその仕草に少し首をかしげてから、「これが地球の文化、握手というものなのね」と興味を示した。店主は「はい、親しみや敬意を示すものです」と笑顔で説明した。シャンファは理解したように頷き、軽く手を握り返した。

  次にグランが店主の前に立ち、「おう、店主! これから面白いことが増えるな!」と笑い声を上げながら手を握った。その勢いに店主は少し驚いたものの、温かさを感じて微笑んだ。「グラン様、こちらこそよろしくお願いします」

  バーナドは少し緊張した面持ちで店主の前に来て、「……よろしく、店主」と小さな声で言った。店主は優しい笑みを浮かべて、「バーナド君、ありがとう」と手を差し出した。バーナドはその手を一瞬見つめた後、そっと握り返した。

  その時、遅れて現れたのは、土竜の怪人ドルクと、アライグマの怪人テンテンだった。ドルクはサングラスを軽く押し上げ、落ち着いた声で「おう、よろしく頼むぜ」と言った。その低い声と堅実な雰囲気に、店主は自然と「ドルクさん、頼もしいですね」と返しながら、小柄な彼を抱きしめたくなる衝動を抑えていた。

  テンテンはその様子を見て明るく微笑み、「これから楽しくなりそうね」と言い、愛らしい耳を揺らした。その仕草に店主は目を輝かせ、「テンテンさん……可愛い」と心の中で思いながらも、同様に抱きしめたい気持ちをぐっとこらえた。

  店主は皆との挨拶を終えると、改めて王子に目を向けた。少しもじもじした様子で、「お、王子……すいません、良いですか?」と遠慮がちに尋ねた。

  王子はその意図を察し、「好きにしろ」と短く答えた。

  「グラン様ー! わーっ、もふもふだぁー!」店主は声を上げてグランに抱き着いた。グランは一瞬驚き、「お、おい! 急に来るなよ!」と豪快に笑った。

  その光景を見ていたバーナドは、胸の奥に小さな嫉妬を覚え、口をきゅっと結んでいた。アルタはその様子に気づき、さりげなく店主に耳打ちした。「店主、バーナド様も喜ばれると思いますよ」

  店主はその言葉を聞いて理解し、不自然にならないタイミングでグランから離れ、「バーナド君、美しいよ」と優しく言いながら抱き着いた。

  「な、何を……!」とバーナドは一瞬抵抗したが、やがて嬉しそうに表情を和らげ、腕をそっと回して抱き返した。そして、照れ隠しのように少し声を張って言った。「あ、あくまでアルタや他の戦闘員と同じ立場だ。お前は……我々怪人のはお前の上司なんだからな……バーナド様と呼ぶんだぞ」

  店主は微笑み、「わかりました、バーナド様」と真剣に応じた。その瞬間、バーナドはわずかに顔を赤くしながらも、心から嬉しそうにしていた。

  そのアルタの咄嗟の気配りに、ドルクやテンテンは関心していた。

  店主は、いつも通りカフェ「狼の縄張り」で忙しく働いていた。昼過ぎの穏やかな時間、ふと視線を上げると、白頭鷲の獣人――バーナドが店の隅に座っているのが見えた。彼は静かにこちらを見つめていて、目が合うとそっぽを向く。その仕草は、無表情な中にも少しの緊張感と不器用さを漂わせていた。

  「おや、バーナド君。今日はどうしたんだい?」店主は声をかけながら、心の中では彼を抱きしめたい衝動を抑えていた。彼の気品ある姿を見ていると、自然と愛おしさが込み上げるものの、仕事中であり、客が入ってくる可能性もあるため、ぐっと耐えた。

  バーナドは一瞬だけこちらを見てから、そっけなく「ちょっと見回りだよ。新しい配下がちゃんと従順かどうか確認しなきゃならないからね」と言い放った。だが、その声にはわずかな照れが混じっていることを店主は見逃さなかった。

  「そうかい、それはお疲れ様だね。何か飲むかい? カフェオレなんてどう?」と店主は優しく声をかけた。

  バーナドは少し口を開いてから、つんと顔をそむけた。「……別に、頼まなくてもいいけど、出してくれるならもらうよ」と、小声で答えた。

  店主はそのツンデレな態度に微笑みつつ、カフェオレを準備し始めた。ふと、彼の仕草や表情から、心の中に隠された優しさや不安が感じ取れた。作り終えたカフェオレをバーナドの前に置くと、彼は一瞬驚いた顔を見せ、その後すぐに無愛想な表情に戻った。

  「まあ……ありがと。別に、すごく嬉しいわけじゃないけど」と、バーナドはカップを手に取り、目をそらしながら言った。

  店主は思わず笑みを浮かべ、彼に気づかれないように息を整えた。「いつでも、君が来てくれるのは嬉しいよ。仕事中で、こんなに距離をとらなきゃいけないのは残念だけどね」

  その言葉に、バーナドはわずかに眉を動かし、カップの中をじっと見つめた。店主の言葉に隠れた思いやりを感じたが、彼は素直になれず、照れ隠しのように「だから、見回りだって言ったろ? 配下がちゃんとしてるかどうか、チェックしないと……」とつぶやいた。

  その言葉を聞きながら、店主は心の中で微笑んだ。バーナドが本当は自分にもっと会いたくて来てくれたのだと分かっていたから。

  夜の静寂が町を包み込む頃、カフェ「狼の縄張り」のドアが静かに開いた。入ってきたのは130cmほどの小柄な影、土竜の怪人ドルクだった。太陽が苦手な彼にとって、夜の訪問は自然なことだった。店内は客もおらず、店主はカウンターで掃除をしていたが、ドルクの姿を見るやいなや、カモフラジュ・エンブレムを手早く装着した。

  「ドルクさん、いらっしゃい!」店主が明るく声をかけると、ドルクは頷いて中へ進んだ。カモフラジュ・エンブレムが視界に溶け込み、男の子のような姿から土竜怪人の本来の姿へと変化する。

  「お前さんがそうやって迎えてくれるのは、ありがたいことだな。」とドルクは口角をわずかに上げた。

  「どうぞ、お好きな席へ。」店主が言うと、ドルクは小さく頷きながら問いかけた。「わしはダークの中では年長者だが、正直なところ、お前さんはどう思う?」

  店主は少し戸惑い、言葉を探したが、ドルクの真剣な表情に応えるように、少し冗談めかして答えた。

  「普通に可愛いです、めちゃくちゃ可愛いです。小さい爺ケモとか最高ですよ。」店主の言葉に、ドルクは少し驚いたように目を丸くした。

  「爺ケモ?」と首をかしげるドルクの表情を見て、店主は照れくさそうに笑った。

  その時、ドルクがふと口を開き、低い声で問いかけた。「可愛いっつーと、あれか…グランちゃんやバーナド君みたいにギュッってしたいとか、そんな感じなのか?」

  店主は目を輝かせ、興奮した様子で「していいんですか?」と身を乗り出す。ドルクは一瞬だけ顔を赤らめ、そしてため息をつくように首を振った。「ダメだ。」

  「失礼しました。」と店主はがっかりした声を漏らした。だが、ドルクは小さく笑いながら、「そうだな、失礼ついでに何か奢れ。わしは夜型だからな、今取りかかっている地下拠点の設計図を見直そうと思ってたんだ。」と話し、テーブル席に座って設計図を広げた。

  店主は「かしこまりました」と微笑み、コーヒーを手際よく淹れてドルクの前に置いた。湯気がほんのりと上がり、二人は静かな夜の中でたわいもない話を交わし始めた。

  ドルクはコーヒーとケーキを食べ終え、思わず深いため息をついた。小さな土竜の怪人は、満ち足りた気持ちに包まれながら、ふと心の奥で何かが動くのを感じた。ここまで美味しいものをもらっておいて、ただで帰るのは気が引ける――そんな気持ちが芽生えたのだ。

  「なあ、店主。これだけもてなしてもらって、何も礼をせんのは気が済まん。何かしてほしいことはあるか?」とドルクが尋ねると、店主は一瞬目を見開いて驚いた。

  店主はしばらく迷ってから、恥ずかしそうに言った。「じゃあ……抱っこハグ、なんてどうです?」

  その言葉に、ドルクはほんの一瞬息を吐いてから「いいぞ」と短く答えた。店主は驚きで固まりかけ、慌てて笑いながら「なんちゃって……」と後頭部をかいたが、すぐに顔を上げて確認するように尋ねた。「ほ、本当ですか?」

  ドルクは微かに笑いを浮かべ、目を合わせた。「ああ、本当だ。」

  店主は一瞬喜びで跳び上がりそうになり、目が輝いた。静かなカフェの中で、そんなささやかなやりとりが温かさを広げていった。

  店主はそっとドルクに近づき、少し緊張した手で抱き上げた。丸っこい体にじんわりとした温かみが広がり、店主の頬が自然と緩んだ。「ドルクさん、本当にありがとうございます……!」

  ドルクは照れ隠しにわずかに目を伏せ、長く伸びた爪を少し動かしながら、「お前さん、ほどほどにしろよ。爪が引っかかって危ないぞ」と言ったが、その声にはどこか温かさがにじんでいた。

  「すみません、ドルクさん。でも、つい……」と店主が呟き、思い切って頬を寄せた。わずかに感じる獣の匂いが鼻先をくすぐり、心地よい温もりが全身に広がる。

  ドルクは少しの間じっとしていたが、ふと目を細めてため息をついた。「……まったく、大の大人がこんなことして、呆れるな。」

  店主は頬ずりをやめて照れ笑いを浮かべ、「それでも、幸せです」と嬉しそうに言った。ドルクは小さく苦笑しながらも、決して居心地が悪いわけではなかったことを感じていた。

  カフェは静かな夜のまま、優しく温かな空気に包まれ、二人の心には小さな絆が芽生えていくようだった。

  夜が更けたカフェ「狼の縄張り」を後にするドルク。店主は一度見送ったものの、ふと心配が胸をよぎった。「ドルクさん、少し待ってください。こんな時間に出歩いて、もし警察に補導されたら面倒ですから。」

  ドルクは一瞬戸惑ったが、「確かにそうだな……人間の130cmっていったらまだ子供か」と小さく笑った。店主はカフェの明かりを消し、しっかりと施錠してからドルクの夜の散歩に付き合うことにした。

  夜の静けさの中、店主は少し照れ笑いを浮かべて口を開いた。「いえ、むしろちょっと嬉しいです。でも、ドルクさんをこうして見送っていると、自分が面倒を見ているような気分になりますね。さながら親子ですかね?」

  「そう見えるのかもな。わしらは、他の生き物みたいに大きくはならないからな」とドルクはぼそりと呟いた。

  店主はその言葉に思い出したように、「そういえば、親父にはよく肩車してもらっていたなぁ……」とつぶやいた。

  その言葉に、ドルクは興味を示して小さく声をあげた。「肩車……か。面白い響きだな。」

  店主は笑って、「でも、爪が伸びているので危ないですからね。おんぶにしましょう。」と優しく言いながら背中を向け、手で合図をした。

  しかし、ドルクは足を止めて、「ところで、肩車とか“おんぶ”って何だ?」と真剣な顔で尋ねた。店主は少し驚きつつも微笑んで説明した。「背中に乗ってもらって歩くことです。肩車は肩に足を乗せる感じで、おんぶは肩車よりも安全ですし、移動に便利なんです。」

  ドルクは一瞬考えて、「それならやってみるか……」と、少し恥ずかしそうにうつむいた。

  店主は膝を折り、「では、失礼します」と言いながら背中を差し出すと、ドルクはゆっくりと背中に乗った。店主がしっかりと支えて歩き出すと、ドルクは初めて見る高い位置からの景色に目を細めて呟いた。「ほぉ、これがお前さんやバーナド君が見る景色か……」

  「どうですか? 普段とは少し違うでしょう?」店主が問いかけると、ドルクは小さく笑みを浮かべ、「ああ、悪くないな。こういうのもたまにはいいものだな」と言った。

  二人は静かな夜の道を進み、心地よい空気に包まれながら穏やかなひとときを過ごしていた。

  店主はドルクを肩車しながら、静かな夜道を歩いていた。ドルクは、視界が広がった新しい高さから周りを見渡し、深い呼吸をするように夜の空気を吸い込んだ。

  「これがバーナドや他の皆が見ている景色なのか……」と、ドルクはしみじみと呟いた。普段は見ることのない視界に、思わず目を細める。

  「どうですか、気分は?」と店主が優しく問いかける。

  「ああ、悪くない。人間ってのはこうして高いところから世界を眺めるんだな。温もりも……悪くないな」とドルクは素直に言い、初めて感じる安らぎに心を委ねた。店主もまた、ドルクの体温を感じ、胸の中がポカポカと温かくなっていくのを感じていた。

  「ドルクさん、こんな夜に散歩すること、ほかの仲間たちは知っているんですか?」と、店主が何気なく質問を投げかけたが、返事がないことに気づく。軽く振り返ると、ドルクは穏やかな顔で小さな寝息を立てていた。

  しばらくして、悪の組織の拠点——見た目はただの一軒家——にたどり着くと、アルタが扉の前で迎えていた。「ドルク様、お帰りなさい。」と声をかけようとしたが、店主は口元で人差し指を立て、シーッとジェスチャーをした。

  アルタは一瞬ぽかんとした表情を浮かべたが、狙い通り幸に発言を止めることに成功する。

  店主は背中を見せると、アルタはドルクが寝ていることを理解した。

  それから店主は、簡単に、シーッのジェスチャーの意味を教えた。

  「では、お預かりしました」と微笑みながら、保母さん的立場のセリフを言いながら店主は、ドルクをアルタにそっと渡した。その瞬間、ドルクがむにゃむにゃと口を動かしながら眠りを続けるのを見て、店主は思わず胸がじんと熱くなった。

  「アルタさん、写真か動画を撮ってもいいですか?」と控えめに尋ねる店主。アルタは一瞬考えたが、「た、多分問題ありません」と頷いた。店主がスマホを構えた瞬間、画面にはカモフラジュ・エンブレムの影響で130cmほどの地球人の子供の姿としてしかドルクは映らなかった。

  がっかりする店主に「どうしました?」と問いかけるアルタ。「エンブレム持ってるから人間の姿でした」

  「嗚呼…なるほど」「でもせっかくだから1枚失礼します」

  それでも店主は微笑んで写真を撮り、帰路につく前にアルタと短い会話を交わした。帰り道、その写真を見て口元が思わず緩み、画面にそっと鍵マークを付けた。

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