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エーテル・スフィア 第二話 ~運命の日蓋~

  レウス「あれからもう、1年か・・・時が経つのは恐ろしく早いものだな・・・」

  季節は一巡した、あの時、あの場で経験した死闘、そして交わした約束からはや1年、今日はノアが成したか、それを確かめる最後の日・・・朝特有の肌寒さからそれを実感しながら、レウスはとある写真立てを前に、過去の思い出に耽る。

  その写真立てに映る人物は・・・まだ、答えるべき時ではない。それよりも、今は彼がこの場に来る事に期待しよう。

  「おじいちゃーん!」

  少し遠くの街道から、大きな声が響く、その声色と元気に走り寄ってくるヒト影からは、失敗の薄暗さはなく、真っ直ぐに明るい・・・つまり約束は果たされたのだろう。

  レウス「あの子も、いずれあなたの教えを受けることになる。

  確定したことではなかろうが、何故かそう感じてしまう・・・あの子があやつに似ていると、重ねているからか。

  しかし・・・子どもの独り立ちの寂しさは克服できないものだな・・・全く、歳を重ねるとは難儀なものよ。

  儂の手番は終わった、後は彼らに託そう。同じ魔術師、そして仲間として・・・な。」

  そしてこの日、運命の火蓋は切って落とされる

  第二話 ~運命の日蓋~

  魔術学院入学試験篇 開幕

  レウス「ノア〜、起きろ~」

  ノア「んぅ〜・・・もうくえない・・・もっとよこせぇ〜・・・」

  レウス「相当幸せな夢を見てるな・・・まだ受験は終えてないのによく安心できるものだ。

  おぉ〜っと大変だーUFOがケーキと一緒に空を飛んでるぞー」

  ノア「え!?なに!?どこにあるんだケーキは!!」

  そーんな子供騙しなあまい囁き起きる。

  レウス「残念ながら今のは起こすための方便だ。それより、現在時刻を見ろ。」

  現在、午前3時、魔術学院の試験前日である、学院は遠方にあるため、早めに出発して向こうで1泊、そして試験に臨むという日程である。

  ノア「早くない?寝ていいかオレ、まだ時間余ってるでしょ。」

  レウス「ほんとにそうかな?」

  ノア「・・・へっ?」

  はぁ〜っと大きな溜め息が出るレウス、呆れた表情のまま目の前の[[rb:ノア>おばかさん]]につらつらと説明し始める。

  レウス「・・・儂は事前に説明したはずだが、学院行きの列車に部外者が乗るためには約1時間の手続きと手荷物検査が必須な上学院都市行きの列車は午前5時の列車だけだから午前2時に起きてさっさと支度を済ませておけと・・・」

  ようやく状況を飲み込み、冷や汗を浮かびながら一つ質問する。

  ノア「えーっと、今出発してここから駅まで何時間かかるの・・・?」

  レウス「1時間10分。」

  ノア「ギリギリじゃねぇかァー!?!?!?」

  レウス「だからそう言ってるんだ。」

  この期に及んでついに焦り出す。

  魔術師の卵、大天才が魔術師になれなかった理由が寝坊すけだったからというのは歴史的にはユーモア溢れて全世界が笑いで止まらなくなるがそれ以上にダサい!と・・・ジン類史上最悪のお笑い芸人になるのは回避したいのでノアはついに魔術師への一歩を一風変わった理由で歩み出す、ノアの戦いはこれからだ────!

  ノア「ねぇなんで!?なんでもっと早く起こしてくれなかったんだよ!!?」

  レウス「いや儂はちゃんと午後7時には寝るよう言ったが、それなのにずーっとベッドの上で起きっぱなしで挙句の果てには暇でもう読破した魔術本読み漁ってたのはノアじゃないか。」

  ノア「えーっと・・・それは・・・ね、寝れなくて・・・

  ってそんなことはどうでもいいから早く行かなきゃ!おじいちゃん!連れてって!」

  レウス「やだ。」

  ノア「なんで!」

  レウス「なんでもなにも自分一人で行くって言ったのはお前自身だろう?」

  ノア「ぐぬぬぬぬ・・・」

  寝起きの頭を回しながら思い出すノア、確かに言っていたことを思い出し唸るしかない。

  レウス「というわけでいってらっしゃーい、儂は美味い菓子でも買って待ってるからな〜。」

  今までにないほど超爆速で身支度を済ませ走り去るノア、自分の発言というものは、後から尾を引くもの。今回でそれを知れたのならば、これも無駄な経験ではないだろう。

  レウス「・・・がんばれよ、ノア。」

  そして1時間10分後、駅についていたノア・・・

  駅員「おはようございます、行き先は─────」

  ノア「ここ!ここに行きたい!早く早く!!」

  さて、ノアが手間取ってる最中に色々話してしまおう。

  魔術学院は魔術師を育成する施設、つまり魔術師志望者の学校である、そして魔術学院がある以上、それを設立した組織も当然ある、それが"魔術師協会"だ。

  魔術師協会は"悪意ある魔術の乱用"を禁止するために制度や法を敷く世界全体に多大な影響力を持つ重要組織、魔術師達は彼らが制定した制度に基づき、魔術を犯罪に活用する"黒魔術師"や"魔獣"の取締り、討伐、または魔術を活用した研究・開発などを行う、つまり世界規模の警察や学者というわけだ。

  そんな彼らを育成するための魔術学院は"必ず魔術師協会の支部、または本部の周辺に設置"するというのを筆頭に厳重なセキュリティが設けられているが、その一つが[[rb:侵入>アクセス]]手段の限定である。

  資格のない部外者が立ち入るためには特定の時間で特定の地域を走る魔術列車を長時間の厳重な手続きと検査を通り乗車しなければそもそも学院周辺への立ち入りさえ許可されないというものだ。

  そして列車には特殊な結界といくつもの偽装ルートを展開することで乗客すら位置を把握されないようにするという徹底した隠蔽を行っている、結果として魔術学院の周辺、学院都市に住む者は高い土地代を払えるような上流階級、魔術師協会と提携している組織や協力者、魔術師本人とその関係者、黒魔術師のテロや魔獣の襲撃に遭い故郷を失った難民達など特殊な境遇でなければ入れないようになっている。

  もちろんノアが受験する"ノエル魔術学院"は名門中の名門、当然のように魔術師協会本部周辺に設置されているしその規模は随一、検査も長くノアも非常に焦る焦る。

  さて、さらに"魔術列車"の説明をしよう。

  魔術列車は字面通り"魔術で動く列車"であり、見た目こそレトロな機関車だがその性能はハイスペック、といっても魔術で空中に線路を作り、空を飛ぶように運行するという単純な機構だが、これにより船を使うより手軽に世界中何処でも行けるようになったのだ。

  ・・・っとそんな説明をしているうちにノアも手続きを済ませたようだ。

  ノア「わぁぁぁ!待って待って待て!」

  もう既に発進中、結界を貼る直前に列車の最後尾に飛び乗り、列車の中へと駆け込んだ。

  ※危険乗車は辞めましょう。

  ノア「はぁ・・・はぁ・・・ギリギリセーフっ・・・!」

  周りを見回すと魔術本を読み返したり瞑想したり睡眠を取ってたり・・・各々が試験に備えている、この列車が学院都市行きの列車なのは間違いなさそうだ。

  車内の様子を見て安心したのか・・・その場でへたり込む、まぁ朝から大変だったので丁度いい休憩時間だろう。

  列車に乗車して数時間、次の駅で学院都市につく頃合いだ、外は土砂降り、嵐に巻き込まれた魔力風の中、列車は海上を飛んでいる・・・結界を展開しながら魔力を纏う列車と魔力風や振動で大半の乗客は空間魔力のせいで自分の魔力の平衡感覚のようなものが乱れる"魔力酔い"でダウンしている。

  肝心のノアは・・・まぁ、魔力酔いに関しては問題ないみたいだが・・・

  ノア(お、お腹空いたぁ〜〜〜!!

  急いで来たからご飯食べてないし食べ物もなんも持ってきてないし・・・)

  まぁ、準備もまともに出来ずに走ってきたから当然だ、しかしこれでは腹が減っては戦ができぬという話、とは言うけれど試験は明日なので言うほど支障はないがそれでも心の持ちようは変わるもの。

  それにそんな些細なきっかけがいつ運命の火蓋を動かすか、誰にも分からない。

  「大丈夫?」

  声をかけてきたのは暖かい黄色の毛、独特な剣を背負い、眼鏡をかけた、ノアより一回りくらい大きい少年、どこかで、見たことがあるような・・・?

  眼鏡の少年「あぁ!やっぱりあの時の子だ!」

  ノア「誰オマエ」

  眼鏡の少年「覚えてないのね・・・」

  まぁ、1年前のあの日はノアにとっても鮮烈な記憶だが、特に[[rb:憧れ>マスターウィザード]]との邂逅の印象が強いので覚えてないのも無理はない、それを聞いて「仕方ないか」と自己紹介を始める。

  テル「僕はテル、今は魔術師の弟子として修行してる"魔術師見習い"ってところかな。君は?」

  ノア「・・・ノア。」

  テル「ノアくんね、覚えたよ。

  他の人はみんな魔力酔いしちゃってるみたいだけど、君は大丈夫?魔力酔い・・・ってわけじゃなさそうだけど・・・」

  ノア「えっと・・・オレは別に・・・」

  ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜

  誤魔化そうとしても、腹の虫は正直のようだ。

  恥ずかしそうにお腹を抑えるノアを見て、テルも「ちょっと待っててね」と荷物から包まれたおにぎりが出てきた。

  テル「ごめんね〜、これくらいしか持ってきてないんだ、少しでも満腹になればいいんだけど・・・」

  ノア「あっえーっと・・・ありがとう?」

  ?「ふーん、そんな他人に情けをかける余裕なんてあるの?」

  おにぎりを手渡したテルに投げかけるヒト影がもう一つ、淡いピンク色の毛に耳から伸びる毛をツインテールのようにしている少女が1人。

  ノア「誰だオマエ もぐもぐ テルの もぐもぐ 知り合い? もぐもぐ」

  テル「一旦飲み込んでから喋ろうね?」

  エメ「残念ながらそのお人好しそうなお兄さんの記憶にあたしは微塵もいないと思うわよ、これ[[rb:初対面>ファーストコンタクト]]だし。

  あたしの名前はエメ・フルローズよ。」

  そう名乗った[[rb:少女>エメ]]は続けて、テルに向かい発言する。

  エメ「あなた本当に魔術師目指してるの?魔術師が手渡して食べ物を渡すなんて『私はこの料理に毒を盛っています。』って声高らかに宣言してるようなものよ。

  それに余裕があるならお節介かけてないで少しは準備でもしてたらどうなの?あたし達はこれから限られた席を狙って蹴落とし合うんだから、危機感を持った方がいいじゃない。」

  ノア「そんな言い方っ─────」

  テル「待って。

  君の主張は分かった、一理あると思う、だけど・・・

  僕もこれを間違ってるとは思わないし、後悔出来ない、きっとそんな考え方で魔術師になってもいつか限界が来るんだ・・・

  それに君がこうして僕達に忠告のしてるのも、君がいう"お節介"だと僕は思うけどね。」

  テルの話が終わった後、エメも呆れた声でもう一度話し始めた。

  エメ「はぁ・・・呆れた、いい?魔術師は"正義のヒーロー"じゃないのよ、あたしの同期がこんな[[rb:常識知らず>バカ]]だと不安で頭痛が止まらないわ。 まぁ、あなたたちが本当に魔術師になれるか怪しいけどね。」

  言いたいことを言い終えたのか座席に座り魔術本を捲り始めた

  テル「・・・はぁ、いきなり喧嘩しちゃったな・・・入学できたら次はこんなことないように気をつけないと・・・」

  エメ(バカね、結局魔術界は弱肉強食よ、甘い考え方だと同じ魔術師から見下され最期は黒魔術師に殺される。そんなやり方で生き残れるわけないわ。

  ・・・そんなこと分かってるはずなのになんであたし・・・)

  ノア「・・・なぁ。」

  気まずい空気が流れる中おにぎり食べたノアが口を開く。

  ノア「・・・なんか、変な匂いしない?こう・・・なんか沢山の"何か"が真っ直ぐ迫ってる"魔力の匂い"みたいな・・・」

  エメ「?なによそれ、魔力の匂いって特異体質かなにか?」

  テル「そういうの分かるんだ!すごっ」

  ノアは特異体質であり、"魔力の匂い"がなんとなく分かるのだ、これのおかげで敵の位置が分かったりするのだが・・・

  エメ「まぁ、確かにすごいけどこの魔力風の中ではっきり分かるなら苦労しないわよ。」

  テル「・・・確かにこの状態なら一流でも探知に苦戦するだろうし、現に今探知範囲を広げても─────」

  空気が一変すると同時にテルとエメの表情も変わる。それは焦りと不安、明らかな異常事態の様子を感じ取られる。

  テル「・・・おかしい、魔術列車は外部から存在が感じ取れないよう結界が張ってあるはずなのに!?」

  エメ「なによこれ・・・!凄い多い"何か"が迫ってる!?明らかに敵意があるものよ!もうすぐそこまで来てるじゃない!!」

  パリーンッとガラスが割れる音、同時に誰かの叫び、間違いない、今この列車は襲撃を受けている!

  テル「後続の車両からだ!」

  ノア「急がないと!?」

  エメ「あぁ!?ちょっと待ちなさい!」

  叫びを聞いて駆け出す二人、その二人を追ってエメも駆け出す、そのまま車両の扉を開く。

  魔獣が一人の乗客の受験生を襲っている、あの姿は間違いない、[[rb:飛竜>ワイバーン]]だ!

  あの時戦って飛竜よりは若いのか小さいが・・・

  襲われてる受験生「だ、誰か、助けてくれ!」

  ノア「なんで戦わないんだ!?」

  エメ「魔力酔いのせいで魔力の制御が出来ないのよ!」

  (つまり今この場で戦えるのはあたしたちだけ・・・!)

  テル「今助ける!」

  先陣を切ったテルが剣を抜く、片刃に曲がった刀身、しかしシミターやシャムシールと言われる曲剣とは少し違う細く華奢な刃・・・つまりは日本刀と言うやつだ。

  『剣技・[[rb:斬芯>ざんしん]]』

  的確に急所のみを撫でるように斬る、その斬撃を喰らった飛竜は動かなくなった。

  テル「今のうちに逃げて!」

  受験生「あ、ありがとう!」

  這うようにして逃げる、もうこの車両にいた者たちは既に逃げたようで現状は三人だけだ。

  エメ「まだよ!気配は間違いなく複数あった!第2波に注意して!」

  ノア「・・・っ」

  (あの時は一体だけでいっぱいいっぱいだったのにこんな不安定な場所で複数を相手にしなきゃいけないのか!?)

  そして再び、叫びとガラスが割れる音が絶え間なく響く、今度は前方の車両からだ。

  テル「数が増えてる!」

  前方の車両には三体の飛竜、しかも逃げ遅れた受験生たちが沢山いる。

  テル(数が多い・・・!刀もこの狭い場所と人数だと大振りの技は使えない!)

  ノア「オレが・・・っ!」

  (ダメだ・・・このままだと人数が多すぎて何人か巻き込む・・・もし全力で撃ったら・・・オレじゃ・・・オレじゃ・・・!)

  エメ「どきなさい!」

  エメは弓のようなものを取り出し、ピンク色をした魔力で出来た矢のようなものを放つ、それは華麗に受験生たちを避け、飛竜へと吸い込まれるようにホーミングする。

  エメ「なにボサっとしてんのよ!さっさとこいつら倒さないとみんな食われちゃうわよ!」

  テル「ご、ごめ─────」

  そんな会話をしている暇はない、また一体また一体と飛竜はやってくる。

  ノア「これ・・・先頭に近づくほど増えてないか・・・!?」

  テル「もしかして、先頭の魔力タンクを狙われてるんじゃ!」

  エメ「なによそれ!?」

  テル「魔術列車の動力になってる魔力が貯まってるんだ!もしそれが壊れたら・・・」

  ノア「・・・この列車は落ちる!?」

  今現在この列車は海のど真ん中、その上空を走っている、もし壊れれば車内のニンゲンは全員海に投げ出されるだろう。

  エメ「一旦先頭車両まで急ぐわよ、結界を強化して飛竜の侵入を防がないと!」

  先頭車両に向けて三人で走る、幸いエメの"魔法"が相性が良かったようですぐに先頭車両に到着した。その過程で第2波は全滅したようで少し余裕ができた、今のうちと先頭車両の様子を確認しに行く。

  テル「すみません!緊急事態に失礼します!」

  乗務員「は、はい!」

  先頭車両に積んである魔力タンクを見る、まだ穴ひとつないようで全員それを見てほっとするがそんな暇はない。

  ノア「なんで魔術列車の位置がバレてるんだ!?」

  車掌「魔術列車に積まれた結界の魔術式が何らかの影響で不調になっているんだ、これのせいで飛竜どもが群がってやがる・・・」

  エメ「なら早く余ったリソースを防御結界に注ぎましょう!これなら今より被害を─────」

  テル「ちょっと待って。」

  制止したあと少しの間思考する。そしてとある提案をする。

  テル「・・・余ってる魔力リソースを全部速度に回してください、飛竜の群れを撒いて次の駅まで持ち堪えれば・・・」

  エメ「ちょっと待ちなさい!」

  エメの声がテルの提案を遮る。

  エメ「なんで今速度を上げる提案をするのよ!今は防御を上げるのが即決でしょ!?」

  テル「・・・冷静に考えてみて、単純に認識阻害の結界効果だけが出力低下してるだけじゃなくて、結界の魔術式全てに問題がある可能性がある以上、防御結界を張ると魔力の無駄になる可能性がある、だから今は速度を優先すべきだと思う。」

  エメ「・・・」

  エメは沈黙を挟んだ後テルを真っ直ぐ見据えながら問いかける。

  エメ「信じていいのよね?」

  テルがこくんと頷いた後、すぐにみんな動き出す。

  車掌「了解した、すぐに取り掛かる。エンジンに全ての魔力を回せ!」

  結界の出力を低下させ、余剰分がエンジンに集まり、速度がみるみる上昇する。これで少しは到着まで早まるだろうが・・・

  エメ「これでギリギリどうにか・・・はならないわよね。」

  テル「・・・飛竜はまだ沢山いる、こいつらから列車を守らないといけない、結界の強度は下がってるからむしろさっきよりも防御は脆いはず。」

  エメ「オッケー、[[rb:テル>あなた]]は列車の屋根で近づいてくる飛竜を切りまくりなさい、あたしは列車の中で侵入してきた飛竜をやるわ、閉所じゃ剣は振りにくいと思うし、あたしの攻撃は射程が長いから車内のほぼ全てカバー出来る。」

  テル「わかった、そっちも気をつけて。」

  ノア「待って!オレは・・・オレはなにをすればいい?」

  エメ「・・・[[rb:ノア>あなた]]はここで待ってなさい。」

  ノア「なんで!?」

  エメ「あなたはまだ子どもよ、戦わせるわけにはいかないし、裏で控えてもらった方が利がある。」

  ノア「納得できるか!オレだって戦える!オレがいたらもっとはやく─────」

  エメ「本当にそうかしら。

  確かに"魔力量"や純粋な出力ならあなたがこの場で一番強いし、戦闘で言えばあなたにあたしたち二人がかりで挑んでも、多分負けるでしょうね。

  でもこれは単純な話じゃないわ、あなたは強い、けどあなたはその強さだからこそ"周囲を巻き込まない戦い"ができない、だからさっきも周りを気にして魔術を放てなかった・・・違う?」

  ノア「うっ─────」

  残酷な意見だが、確かに的を得ている、ノアはその才能故に火力は高いが開けた場所や広い場所でなければ周りを巻き込む前提で戦わなければまともに戦えない、出力を落として戦うこともできるが、ノアは自分の[[rb:魔力>リソース]]を惜しみなく使い、超火力で手早く終わらせる戦闘以外に慣れていないので、今度は周りの足を引っ張りかねない。

  正論を前に黙るしかないがそれでも自分が動けるのになにもさせてくれないことに納得できないようだ。

  テル「なら、僕がノアと一緒に戦う。」

  ノア「えっ?」

  それを見兼ねたのか、テルも一つ提案をする。

  テル「正直僕と君二人だけで飛竜の群れを対応するのは難しいと思う、確かに君の言う通りノアはこの状況だと全力で戦うのは難しいかもしれない・・・それでもたった二人で戦うよりはきっと楽になると思う、それに僕だって自分の身は自分で守れる、ノアの足は引っ張る気はないよ。」

  エメ「・・・そう、なら好きにしなさい。

  もう時間が無いわ、さっさと持ち場に行くわよ。」

  テル「ちょっと待って!」

  エメを引き止めると、テルの背後から翼竜などとは少し違う、所謂東洋龍の姿をした使い魔が現れる。

  テル「僕の式神・・・使い魔だよ、一人じゃ負担が大きいだろうからその子だけでもサポートに置いておく、ある程度自律行動が出来るから上手く使って。」

  エメ「わかったわ、それじゃあ気をつけて。」

  作戦会議を終えた三人と一匹は散開した。ノアとテルは屋根の上で飛んでくる飛竜の迎撃、エメはテルの使い魔と共に列車に侵入した飛竜の撃退。

  この場で初対面、正式な魔術師ですらない三人の列車護衛作戦が始まった。

  そしてそれぞれの持ち場につき、第3波に備える。

  ノア「・・・ありがとうテル。」

  テル「気にしないで、今はみんなを守ろう。」

  雨に打たれながら、飛来してくる飛竜を真っ直ぐ見据え、剣を構え戦闘態勢に入る、幾度かの心拍を挟んだ後・・・第3波がやってくる。

  数にして数十体、それも見えている範囲で、見えない範囲を含めればまだ大量にいるだろう。

  列車に辿り着いた飛竜との交戦が始まる。

  テル「来るよ!」

  爪で襲い掛かる者、牙で食いつこうとする者、火を吹いて炙ろうとする者、ただ本能に身を任せた戦い方ではなくなにか統制がとれている。

  『ブレイドバーン』!

  『奥義・[[rb:嵐國神将斬>らんごくしんしょうざん]]』!

  背中合わせになった二人が放った技が飛竜を薙ぎ払う、剣に乗せた炎を遠心力で飛ばすように振り回し、広範囲を焼き尽くす熱波が近づく影を襲う、それから逃れた生き残りを荒れ狂い猛るような暴風と、溢れる怒りのような雷撃を纏った攻撃が刈り取る、たった数瞬の間で列車に辿り着いた飛竜の群れの八割を討伐する。

  テル(凄まじいな・・・列車の端から端をカバーするほどの範囲の薙ぎ払い、範囲が広いってことはそれ相応に単体に対しての攻撃力が低くなることが多いのにそれでも半分以上の飛竜を吹き飛ばした・・・列車の中だと全て焼き尽くしかねない、周囲を巻き込むことを懸念することも頷ける。)

  ノア(強いな・・・多分だけど一瞬の俊敏さと魔術の出の速さなら、オレよりも早い・・・あとすごく力のコントロールが上手い・・・なんか悔しい!)

  しかし未だに飛竜どもは第4波と第5波と続く、テルもノアもまだ余裕があるが、果たしてこの防衛戦に勝つことが出来るのか・・・

  魔術列車、車内。

  エメ「・・・車内に飛竜が全然やってこないわね、二人とも見た目以上だったってことかしら・・・これは私も評価を改めないといけわねっと。」

  現れた飛竜を矢で射抜く、急所を撃ち抜き、脅威を的確に退ける。

  エメ「あなたはご主人サマのとこにいかなくていいの?二人のおかげでここはあたしだけでも保ててる、あなたもここで何もしてないよりも、力になってあげなさいよ。」

  そう言葉を向ける相手はテルが召喚した龍、青色の鱗に黄色の毛が靡いてる、あとかわいい。

  エメに仕事取られて何もさせて貰えないので、つぶらな瞳を向けながらエメの傍から離れない、拗ねてるのか、サボってるのか、別に役割があるのかは喋れないので分からない、本来は結構役に立つ使い魔のはずなのだが。

  まぁ、離れる気がないのなら仕方がない。

  エメ「・・・はぁ、話が通じてるのか通じてないのかも分からないわ、テルに会話の仕方でも教えてもらえばよかったわ。」

  エメは死闘を繰り広げる二人とは違い少し気の抜ける会話をしているだけのちょっぴり和む時間を過ごしている。

  エメ「・・・」

  そんな時間を過ごすうちに、なにか感じていたが、回答を出し損ねていた心の突っかかりに、少しだけ目を向けていた。

  「それに君がこうして僕達に忠告のしてるのも、君がいう"お節介"だと僕は思うけどね。」

  エメ(・・・別に、あたしがかけようと思ってかけたお節介なんて一つもないわよ、これまでも、多分これからも。あなたたちみたいなの安直な連中がいつもあたしの行動を善意だと勘違いしてるだけ、勝手にありがたがれてもあたしにはいい迷惑よ・・・)

  「いいわねエメ、わたしはあなたのことすごく優しい子だと思ってる、でもあなたの"善意"は少し分かりにくいのよ、だからあんたの[[rb:善意>それ]]を汲み取れる友達のことは、大切にしてあげなさい。それはきっとあなたの財産になる。無理に"ヒトのため"だなんて思わなくていい、"あなたのため"でもいいのよ。」

  思い返した一人の少年の言葉に引き出されるように、零れた薄れた記憶のヒトカケラ。

  大切なヒトから託されたある一つのおまじない、見ようとしなかった、見れなかったたった一つ、たった一つ少女の心に打たれた楔。

  エメ(・・・あたしがかけようと思ってかけた善意なんて一度もない、分からないものを大事になんて出来るわけない、"ヒトのため"とか、"あたしのため"とか、それ以前の問題よ。あたしがたまたま助ける形になっただけなのに、みんなあたしを聖人君子サマだと勝手に勘違いして、勝手に失望してくる、みんな"善いあたし"だけ好きになって、"本当のあたし"を誰も見ない、なら善意なんてかけないまま嫌われた方がいいに決まってるじゃない・・・それなのに・・・)

  戒めたはずの[[rb:善意>それ]]を、心で分かっているはずなのに行ってしまう自己矛盾、魔術師になって、一つ段階を踏み超えれば、この矛盾がなにかわかるか?

  ベシッベシッ・・・考え事をしてるうちに誰かが後頭部を叩いてくる、そうだった、まだ戦闘中だった。

  エメ「ちょっなに!?いたっ!?」

  振り返ると、なにか緊迫感を感じる表情を助けを呼び訴えるような視線を送る龍がいた、車内に飛竜はいない、仮になにかあるとすれば、彼と繋がりを持つ魔術師になにかあったのだろうか?

  次の瞬間、凄まじい振動が列車を襲う。

  エメ「きゃぁ!?な、なによ!?」

  ・・・嫌な光景が脳裏を横切る、ただ危険なだけなら自衛に入ればいい、自分たちが命を賭ける必要は本来はない、それを無理に決行したのはアイツら、自分はそれに巻き込まれただけ、二人を見捨てたら、自分だけは助かるかもしれない。

  ・・・それを理性で理解しつつも今の彼女にそれが出来るほど余裕はなかった。

  深呼吸を挟んで冷静を取り戻しつつも、なにか決意をしたような表情を浮かべる。そして使い魔の彼に向かい聞く。

  エメ「・・・二人になにかあったの?」

  魔術列車、屋根上。

  テル「第5波、撃破・・・!ようやくまともに数えられる程度まで減った・・・!」

  場面はテルとノアに移り、エメが使い魔と漫才している最中も順調に飛竜の群れを討伐出来ている、単純な広範囲高火力のノアと、瞬発力と精密性に優れるテルの相性が良く、ノアの弱点をテルが支え、テルの足りない物はノアが持っている、現状最高の組み合わせと言えよう、ただし、この試練を楽勝に越えられるほど簡単な現実は存在しえない。

  ノア「はぁ・・・はぁ・・・」

  テル「大丈夫?息が乱れてるよ!」

  ノア「だ、大丈夫!」

  テル(明らかな痩せ我慢だ・・・!魔力量はあってもノア自身の体格が小さいし、身体能力が特別高いわけじゃないんだ・・・!)

  ノアは魔術面の才能は一級品である、特に魔力量に関しては異常とすら言える域に達しており、単純な量の話ならテルとエメの魔力量を合算しても手も足も出ない程だ。

  しかし、ノアも完璧じゃない、ノアの弱点は"身体能力の低い"ことだ、ノアは年齢にして11歳、もちろん体格も小さく体力もそこまで高いわけでもない、魔力による肉体強化により誤魔化しが効く分野ではあるが肉体の素の強度もある程度求められる上にノアは朝のゴタゴタに加えもう一つ、ノアは周囲を巻き込まないよう慣れない慎重な魔力制御を行ってるため、それにもさらに意識が割かれ、結果として疲労が溜まるのが早まってしまったのだ。

  テル(ノアに無理をさせるくらいなら下がらせた方が良かった・・・いや、後悔してる暇なんて無いんだ、これは僕の責任、死ぬ気でノアを守らない・・・と─────)

  ノア「・・・?どうしたんだ?テル?」

  テル「っ!?ノアっ─────」

  巨大なナニカが落ちてくる、その影はノアとテルを抉り取ろうと殺意を込められた爪を向けたまま飛来してきた。

  直前で気づいたテルがノアを庇い、ギリギリで回避出来た、少しでも遅れたらミンチになっていたかもしれない。

  目を上げて影を視認するとノアにとっては見覚えのある巨体、成体の飛竜がそこにいた、この個体こそが飛竜の群れを率い、統率を取っていた元凶だ。

  ノア「大人の飛竜・・・!?なんでここに・・・って、テル!」

  テル「・・・大丈夫、ちょっと掠ったけど利き手はやられてない・・・!」

  飛竜の親玉「██████ーーー!!」

  簡単な安否確認をする、ノアは軽い擦り傷くらいだがテルは庇った際に受けた傷で肩にダメージがあるけど、損害は軽微なようだ。安否確認が済めばすぐに目の前の[[rb:難敵>もんだい]]に目を向ける。列車を震わせるほどの咆哮、状態はあの時よりも悪く、そして飛竜は群れを率いれるほど強い個体、それを今この場で倒さなければ列車は海に落ち、皆仲良くあの世行き、そんな極限状態で果たしてノア達は勝てるのか・・・

  ノアに向かって爪を振り下ろす、剣で受け止めるが、列車への被害を考慮して力をセーブしてるため、あの時のように容易に弾き返せない。

  ノア「うっ─────ぐぐぐっ─────」

  飛竜の親玉「██████!!!」

  しかし攻撃の手は緩まない、咆哮を上げるとさらにワイバーンがノアに無慈悲に追撃する。

  『剣技・[[rb:霜断>しもだ]]ち』!

  追撃しようとする飛竜とノアの間に割って入り、飛竜を切り捨てノアを守る、そしてそのまま巨体の飛竜の爪にも斬撃を与え、弾く。

  テル「大丈夫!?」

  ノア「う、うん!」

  テル「いったん戻って!ここはもう僕一人でなんとかする・・・!」

  ノア「そんなの無茶だ!二人でも結構ギリギリなのに・・・!」

  テル「大丈夫・・・僕もまだ手の内が─────」

  そう言って、飛竜の前に楯突くように右手で剣を構え、もう左手を眼鏡に手を伸ばし─────

  テル「─────っいつ・・・!」

  しかし眼鏡に手をかけようとした瞬間、肩が痛み、思わず抑えてしまう、その隙を飛竜たちは見逃さず、すかさず攻撃しようとする。

  「バン!!」

  ノアが指を指した場所を中心に起きる爆発、テルを狙い急襲をしようとした飛竜をノアは撃ち落とし、親玉はその威力を前に怯んだ。

  ノア「やっぱり一人で戦うなんて無茶だ!オレもここに残る!」

  テル「・・・ごめん。」

  ノア(雨のせいで分かりづらいけど血の匂い・・・やっぱり掠り傷なんて嘘だ!目立たないだけで結構大きい怪我だ!)

  テル("水属性"の魔術で止血は出来てるけどそれでも痛いものは痛い、ノアを守らないといけないのに・・・逆に守られて・・・情けない・・・!)

  疲労と負傷が溜まり、双方とも本来の力の半分も出せていない、これ以上戦いが長引けば限界を迎え勝機を失う、短期決戦を仕掛ける他ない!

  テル「・・・策がある、手短に話すから準備して。」

  ノア「なんだ?」

  テル「ノアは息を潜めて力を溜めて、僕はその間飛竜たちから隙を作り出すから、合図を出したら飛び出して僕と同時に攻撃して仕留めて。」

  ノア「ちょっと待て!それだとテルが・・・」

  テル「大丈夫、脚はまだ動く・・・!」

  ノア「でもっ──────」

  テル「頼む・・・!」

  ノア「・・・信じるからな。」

  少しの作戦会議の後、ノアが後ろに下がり、列車の上からギリギリ見えない、死角へと魔力を抑えた状態で潜伏した。

  飛竜たちの前に立ち塞がるテル、一対多、常識的に考えるならどうしようもない絶望的状況下で、テルは勇気を振り絞り、前へ、前へと・・・

  テル(気圧されるな・・・!脚を止めるな・・・!此の身をただ、刀に委ねろ・・・!)

  数拍の沈黙の後、そして─────

  飛竜の親玉「█████████ーーーっ!!」

  巨体の咆哮が周囲の若い飛竜たちの闘志をより一層強く焚き付ける、テルもその咆哮を聞き届け、身を引き締めて、力強く魔力を込め走り出す!

  右手側から一体の突進、左手側から肩から胸にかけて爪で切り裂こうとする二体、真上から急降下からの蹴りを喰らわせようとする二体、地上にその身体を爪で固定し火で炙ろうと[[rb:吐息>ブレス]]を放とうとする三体、計八体の飛竜による攻撃を前にテルは技でそれを受ける。

  『剣技・[[rb:鞍馬絶風>くらまぜっぷう]]』!

  刀の切っ先から放たれた風の刃が八体の攻撃を見事に相殺した、それどころかその天狗が如き[[rb:捷>はや]]さの刃はいとも容易く飛竜たちの鱗を斬り裂き、道を切り開き、そして親玉直々に繰り出された攻撃を跳躍して回避、急接近、刃が届くあと一歩まで近づいた。

  しかし、口から火を迸らせ、テルをそのまま炙り、食い散らそうとその顎を向け、灼熱を纏った噛みつきを喰らい、そのまま口の中へと・・・そう見えた。

  『技宝・[[rb:鏡花水月>きょうかすいげつ]]』

  テル(まだだ!片腕の傷のせいで僕は全力で刀を振れないから致命傷にはならない!だから・・・)

  『技宝・[[rb雷公>らいこう]]の[[rb:怒槌>いかづち]]』!

  飛竜の親玉「████████████ーっ!」

  飛竜の目玉に落雷が落とされる、その攻撃に怯み、攻撃が止む、仰け反り腹から胸あたりまでががら空き、どこからどう見ても今の奴は隙だらけだ。

  テル「ノア!」

  合図を送り、それを聞いたノアが飛び出し、懐に飛び込んだ、そして・・・

  ノア「これでも・・・喰らえっ!!!」

  腹から首元にかけて一閃、下から上へと跳躍の勢いを乗せた大剣による強烈な切り込み、それは鱗と皮膚を容易く突き破り、突き刺さり、隠れていた際溜めていた潤沢な魔力による内部から放出された莫大な火炎の追撃も加え、致命傷を与える。

  ノア「や、やった!」

  言うまでもなく、ノアたちの勝利だ。目の前の障害を乗り越えた、司令塔が倒されたのを見て周りの飛竜も固まっている、もう誰も敵はいない。誰もがそう確信していた・・・

  そう、油断していた。

  ズルッ

  ノア「─────え?」

  事故は起きた、戦いの中で蓄積した疲労、戦いが終わり感じた安堵による緊張からの解放というのもあっただろう、飛び上がったノアが着地しようとした瞬間、滑り転んだ、滑落するノアを受け止める[[rb:地面>もの]]は何も無い、このまま海の真ん中へと投げ出されてしまうだろう。

  次の瞬間には既に落下に身を委ねるしか出来なかった、時間が止まったように遅く感じる、これ以上ないほど呆気ない最期の光景に理解が追いつかないまま、そのまま目下の大海へと─────

  テル「ぐ、あぁぁ!」

  ノア「テル!」

  列車から全身が既に飛び出しそのまま真っ逆さまに落ちてしまうというところで、間一髪テルが全身を列車の外に乗り出し手を掴んだ。

  テル(腕が・・・!駄目だ、負傷した腕じゃノアを引っ張り上げれない!)

  テルは右腕で列車に刀を突き刺し、負傷した左腕でノアの手を掴み引き上げようとしている、しかし痛みと疲労で力が入らず辛うじてノアの手を離さないよう掴み続けることしか出来ない。

  ノア「テル!このままだとオマエだって!」

  テル「僕は大丈夫!今・・・助けるから!」

  ノア「そんな腕で大丈夫なんて嘘だ!もういい・・・!オレのことはいいから!」

  テル「死んでもいいなんてこと言わないで!死にたいのか!?」

  ノア「死にたいわけないだろ!怖いに決まってる・・・でもオレのせいで二人とも死んじゃうのはもっとやだ・・・!」

  テル「なら二人で生き残るんだ!だから君を死ぬ気で助ける!死なせたりなんてするもんか!」

  思ったより元気だけど言い争っているこんな時でも刻一刻と命の危機が迫る極限状態に変わりは無い、痛みに耐え、助かるために思考を絶やせば即死亡だ。

  テル(このままだと引き上げれない・・・!魔力風のせいで体外でまともに使うには溜めが必要だけど魔術で・・・!)

  ノアの手を握りしめている左腕はほぼ動かない絶望的状況下でありながらも、一刻も早く引き上げなければと、テルはまだ諦めない。

  しかし、残酷にも運命の女神は二人には微笑まなかった。

  飛竜の親玉「███████████████ーーー!」

  傷を受けた飛竜が力なく倒れ、その巨体は列車に叩きつけられる、その爪先が不幸にも、テルが列車に刺した刀へと触れ、その衝撃により・・・

  テル「─────あっ」

  刀が抜け、列車の外へ投げ出された。

  テル(・・・体外で魔力の制御は魔力風のせいで溜めなしだとどうにもならない、なら魔法で出した使い魔を・・・いや、あの子は今列車の中にいるから無理か・・・

  ─────詰み、なのか?)

  列車との距離が開きすぎた、刀はもう届かない、そのまま海へと落下するだろう、残された可能性は全て望み薄、かつてないほど絶望的なこの状況下で見た最期の光景に不思議と納得感とやるせなさがごちゃ混ぜになりながら、なにもかもが終わりを迎えようとしていた、その時だった。

  列車の中から手が伸び、テルの手を掴む。

  「車内に突撃してくる飛竜が急に増えたと思ったら・・・!」

  エメ「こんなとこでなにしてんのよ!バカ!」

  テル「エメ!?」

  エメ「いいからさっさと引き上げるから!絶対に離さないでよ!」

  中から飛び出したのはエメ、あの時テルの使い魔からのSOSを聞き、いてもたっても居られなかったのだろうか、そしてそのまま二人は引き上げられた。

  三人「はぁ・・・はぁ・・・」

  ノア「・・・た、助かった?」

  テル「みたいだね・・・」

  エメ「・・・」

  列車の中、息も絶え絶えになりながらも、三人共生存することができた。

  テル「ありがとうエメ、君がいなかったらどうなってたか・・・」

  エメ「・・・違う。」

  テル「え?」

  エメ「あの時、引き上げたのはあたしじゃなかった・・・引き上げようって引っ張る直前に急にあたしごと引っ張られる感覚があったのよ・・・」

  ノア「ただの気のせいじゃないのか?」

  エメ「いや・・・たしかにあの時─────」

  安堵もつかの間、もう一度なにかガシャンと大きな揺れが起きた、しかし今度は何かを叩き付けられた感じではなかった。

  エメ「ちょ、こんどはなに!?」

  テル「待って、列車の速度が落ちてる!?」

  ノア「えっ!?」

  急いで外を確認したテル、列車の速度が落ちてることに気づいた、まだ事態は終息していない。

  テル「・・・とにかく乗務員さんに聞きに行ってみよう!」

  ノア「わ、わかった!」

  エメの疑問は後回しにして事態の終息に向かう。乗務員がいる先頭の車両に行くとなにやら乗務員たちがあたふたしている、頭を抱えていたりあちこちから物をかき集めてたり忙しない。

  テル「なにかあったんですか?」

  車掌「あぁ、最悪なことに、さっきお前さんらが討伐した飛竜が倒れた時にしっぽがタンクにぶつかっちまって穴が空いちまった・・・そのせいで漏れたせいで炉の内部が魔力不足なんだ、このままだとギリギリ到着まで足りねぇ計算だ。」

  エメ「そんな・・・!?」

  考えうる限りで最悪のシュチュエーション、魔力は今すぐ必要十分が供給出来る訳でもなく、飛竜のように物理的に退けることが出来る訳でもない、もはや打つ手なし、そう思っていた・・・そう思われていた。

  ノア「・・・炉に魔力があったらいいんだよな?」

  車掌「・・・?何をする気だ?」

  ノア「オレが炉に入って魔力供給する、それなら足りるかも・・・」

  あまりにも無茶苦茶な提案、小さな車程度ならまだしも、何両も繋がっているこの質量を動かすには並の魔術師ではすぐに魔力が尽き命に関わる程だ。

  乗務員「む、無茶ですよ!この列車は各駅にある"霊脈"での補給があって成り立ってる!魔術師一人程度では足りないはず、それどころか内部は超高温な環境、命の危険も─────」

  車掌「やらせてやれ。」

  乗務員「なぜ!?」

  車掌「このまま立ち往生してもしょうがない、本気で全員助かりたいのならコイツのことを信用してみたくなっただけだ、まぁ、あの飛竜どもを撃退したんだ、ただなバカのガキじゃあねぇ。

  お前ら!また漏れねぇようタンクの補修に入れ!」

  ノアの無茶苦茶とも言える提案が、また一つ[[rb:希望>みち]]を拓いた。この列車が無事に辿り着けるかは、ノアの手によって託された。

  テル「・・・大丈夫だよね。」

  ノア「大丈夫、今度は"オレのことはいい"なんて言わないから・・・」

  そのまま炉の内部に歩みを進めて消える、炉の蓋は閉じられ、内部は完全に閉鎖された。

  エメ「到着したらすぐに炉から引っ張り出すわよ。あんたなこと言ってるけど痩せ我慢かもしれないから。」

  テル「わかった。」

  炉の内部、ノアも準備に取り掛かる。

  ノア「すぅー、はぁー・・・」

  深呼吸して精神を整える。その次に、遂に魔力を解放し激しく燃え上がる。

  乗務員「エンジン再点火!凄い・・・!さっきよりもさらに早いです!」

  車掌「もたもたするな!タンクの穴から魔力が徐々に漏れ出している!アイツの献身を無駄にするな!補修に入れ!」

  テル「これできっとみんな助かるん、だよね」

  エメ「・・・信じましょう、もしもの時はあたしたちでなんとかするのよ。」

  テル(でもなんだろう・・・この胸がゾワゾワする感じは・・・

  この"眼"が教えている?ならこの予感は─────)

  次の瞬間もう一度激しく揺れ、聞き覚えがある咆哮が聞こえる、予感は的中した。

  エメ「っ!?今の揺れと声って!?」

  テル「・・・エメはみんなを手伝ってあげて、ここは僕が行く・・・!」

  エメ「待ちなさい!一人でどうする気なのよ!」

  テル「大丈夫、僕も死ぬ気はない・・・!」

  そう言って列車の上へと向かう、上に登ると列車の最後尾、そこに必死にしがみつき、這ってこちらへと進む飛竜がいた。

  テル「あの攻撃を受けてまだ生き残ってたなんて・・・!」

  飛竜の親玉「███ーっ!」

  瀕死のまま激しくも弱々しく咆哮を上げる飛竜、もはや自分がどんな状態であるかすら知覚できないようだ。それは乱暴に目の前のテルを挽き潰そうと力を振るう。

  その姿を見てテルも、"先程見せれなかった力"を使う、眼鏡に手を伸ばし、外した。

  ─────眼を見開くとそれは全く別物に変化していた。瞳の中には黒色の虚空、その中で異質な輝きを見せる黄色の小銀河のようなもの、その眼で真っ直ぐに敵を視認して戦闘態勢に入る。

  飛竜の親玉「███ーー!」

  手下の飛竜を突撃させる、その数は数十体、先の戦いの最中に差し向けられた数とは比べ物にならない。対してテルはノアを引き上げようとした際にさらに左腕の負傷が悪化している、全く勝負にならない・・・はずだった。

  上空を飛ぶは飛竜の連星、そこからブレスや突進、爪での切り裂きや蹴り、この全てをテルは的確に避けそして反撃をした。

  『剣技・[[rb:黎明>れいめい]]の[[rb:幽霞>かすみ]]』

  霧のように全方位の飛竜を流れるように次々と切り刻み、その勢いのまま、さらに次々とやってくる飛竜の防壁を全て抜け出し、そのまま親玉の元へと到着した。爪で切り裂こうと親玉も抵抗するが、その全てが今のテルにとっては遅かった。

  『画竜点睛』

  刀に使い魔である龍を纏わせて、テルはノアが付けた傷をより深く、強く抉るように切り裂いた、その攻撃を受けた飛竜はそのまま断末魔を上げ、息絶えた、この列車から脅威はついに去った、あとはノアにかかっている・・・

  エメ「・・・!帰ってきた!」

  先頭車両へと降りてきたテル、エメもそれを見てすぐに安否確認に入ったが、左腕以外傷一つもない。

  エメ「大丈夫、なのよね?」

  テル「僕は大丈夫だよ。」

  エメ「良かったぁ〜・・・」

  テル「まだ安心できないよ、次はノアだ。」

  エメ「・・・こっちの補修は終わったけど、中のノアが今どんな状態か分からない、到着した瞬間すぐにノアを引き上げるって車掌さんは言ってたけど・・・」

  テル「信じよう、今はそれしか出来ない。」

  エメ「・・・そうね。」

  到着までまだ時間がある、その間に不安を募らせながら、ノアがいる炉をただ見つめるだけしかできない、いつの間にか秒針のように彼らの心を揺さぶり続けた嵐の雨音はなりを潜め、晴れ空が列車を照らしつけている。

  ・・・そして、学院都市の駅へと到着した。

  二人「今だ!」

  炉の蓋を開け、内部の高音に耐えながらも急いでノアを引き上げる、外傷はない、見た目は健康そのものだが、果たして・・・

  ノア「つ─────

  疲れたぁ〜〜〜~~!」

  テル「大丈夫!?」

  エメ「どこも異常ないわよね!?」

  ノア「うん!大丈夫だぞ!

  強いて言うならめっちゃ疲れた!!」

  テル「それはまぁ・・・」

  エメ「全員そうでしょ。」

  至って普通なノアに二人とも安堵して気が抜けたまま、列車の外に出る。

  乗務員「他の乗客の確認は我々でします、ゆっくり休憩してください、それと・・・車掌、いえ、"魔術師"殿。」

  ノア「えっ?」

  エメ「えっ・・・今、魔術師・・・って?」

  テル「あぁ・・・」

  困惑している二人となんか納得してるテルを他所に、いつの間にか魔術師の服へと着替えていた車掌が話す。

  車掌?「まず、困惑しているところすまないが、自己紹介をしよう、俺の名はカイザー、"カイザー・アルタイル"、今期のノエル魔術学院の第一試験監督官であり、ノエル魔術学院では教師も担当している。

  今期受験志望者、ノア・ロアーズ、エメ・フルローズ、テル・ツルギ、第一試験突破だ、合格おめでとう。」

  二人「 ゑ 。 」

  テル「やっぱりそうだったんだ・・・」

  二人「えぇーーーーーーっ!?!?!?」

  現れたのは大柄な赤毛の魔術師、カイザー・アルタイルと名乗り衝撃な事実を告げて正体を表す。

  エメ「ちょっと!気づいてたならちゃんとあたしたちにも言いなさいよ!あたしたちずーっと自分たちだけでなんとかしなきゃって必死だったのに!!」

  ノア「そーだそーだ!」

  テル「いやあの!?揺さぶるのやめて!?僕だって別に確証があったわけじゃないし!」

  二人に揺さぶられながら頑張って弁明しているのを傍から見て乗務員?が話し始める。

  乗務員?「実は本当の車掌は僕です。あと、わざと飛竜がたくさんいる海域に突入して結界式の出力をダウンさせたのも僕ですね、かなりキツイ運行になってしまって申し訳ないですけど、そこはカイザーさんが監督官をしていてくれたので万が一も無かったと思います。まぁ、炉の内部に入っていった時は内心かなりヒヤヒヤしましたけど・・・」

  カイザー「まぁ、これも上からのお達しだからな、"許してちょ♡"ってわけだ!ガハハ!」

  エメ「あたしこの人苦手。」

  ノア「オレも・・・」

  テル「というか、あの時僕たちを引っ張ってくれたのはあなただったんですね・・・」

  カイザー「鋭いじゃないか、中々危ない場面があってうっかり手が出そうになった場面もあったからな、っと。」

  話し終えたら三人分の鞄を取り出して、それを預ける。

  カイザー「その鞄の中にはおすすめの宿屋までの地図と試験会場までの地図、他には宿泊費、特別治療費、それと試験当日に着る魔術制服が入っている。無くすなよ!」

  エメ「あれ!?1、2、3、4、5、6、7、8、9・・・宿泊費だけで10万くらいあるわよ!?」

  ノア「こっちも10万くらい入ってる!」

  カイザー「もちろんお釣りは結構出るがいらん、謝礼金みたいなもんだと思ってくれていい。」

  二人「ヤッター!!」

  エメ「・・・あたしやっぱりこの人のこと好きかもしれない。」

  ノア「オレも・・・」

  テル「コラコラ。」

  カイザー「それじゃ、俺が手助けできるのはここまでだ、武運を祈る。」

  テル「はい!ありがとうございました!」

  ノア「ありがとう!助かった!」

  エメ「まぁ、色々思うところはあったけど、ありがとう。」

  その言葉を聞いてそれぞれ礼をしたあと、三人の少年少女と魔術師は別れる、どうか、彼らの健闘を祈って。

  車掌「・・・行きましたね。」

  カイザー「ああ・・・」

  車掌「なにか困り事でも?」

  カイザー「ああ、少し不信に感じているんだよ、今回の件は・・・」

  車掌「分かっていますよ、例年より有り得ないほどに飛竜が活発化していましたし、それにあの群れを率いていた巨大な飛竜は"あの海域に生息しているはずが無い"種です、それに・・・」

  カイザー「どうした?」

  車掌「・・・これはここだけの話ですが、乗客に一人行方不明者がいるんです。それもただ行方不明というだけじゃない、"身元がまるで分からない"んです、本来なら手続きで書いた内容が保存されて[[rb:魔術鏡>マジックミラー]]を通して共有される上に、あの列車に乗るには最低限身分を証明するなにかしらがいるのに、です。」

  カイザー「なんだと?」

  車掌「私も最初は動揺しました、なにせあらゆる駅に確認を取ったのに全員"そのような者と接触したことはない"と言っているんです。偶然乗ってしまってというのは可能性がかなり低いですし、落ちてしまっても一定範囲外から離れたら警報が鳴るよう結界も貼ってありました、当然出力は下げてません、それにカイザーさんが常に気を張り巡らせていましたから落ちてしまって見つからないなんてのも可能性が低い・・・それと・・・」

  事実を話そうとした瞬間言い淀む、少し言いづらい事実であるのだろう。

  車掌「・・・その方、彼らが一番最初に助けて、真っ先に先頭車両に避難された方なんです、私の方にも尋ねられました、姿はフードを深く被っていて良く見えませんでしたが、白い毛の狼系のようでした、もし彼が今回の件に密接に関わりがあるのだとしたら・・・彼らには話さなくて良かったかもしれませんね。」

  カイザー「・・・そうか、わかった、入学後はしばらくは彼らに今回の件を話すのはやめた方が良さそうだな。しかし・・・何者かが故意で列車内に侵入したとすればかなりまずい状況かもしれん、調査を進めなければ、結界の影響を受けない移動方法・・・瞬間移動の類、か。」

  車掌「・・・それなら説明がつきますね、ですがあの飛竜はどうやって・・・ん?」

  空から何かがやってくる、鳥のようだ、手紙を届けに、カイザーの手首へと捕まってくる。

  車掌「なんですか?その手紙。」

  カイザー「列車に付着した飛竜の[[rb血液>サンプル]]を解析に出しておいたんだ、しかし早いな、確認しよう。」

  封を開けて手紙を読み上げる、そしてその内容は・・・

  「飛竜のDNAを解析した結果が出たのでここに記載する、雨で水分が混じり、浸透圧で大部分の細胞がダメになっていたため現状で断言するのは難しいが、現時点での結果を言うならば

  この飛竜は、何者かの手により人為的に改造された個体の可能性が高い、ということだけだ。」

  場面を変え、学院都市外れの街の路地裏にて、[[rb:魔術鏡>マジックミラー]]越しにフードを深々と被った男が誰かと話している。

  フードの男「えぇ、潜入も接触も上手く行きましたよ、いえいえ、ボクはあなたの言った通りの座標に飛んだだけです、身分を証明するデータがないので、多分怪しまれますし、すぐに調査が行われると思いますが・・・もちろん、学院都市の位置も把握しましたよ、驚きましたよ、数百通りの偽装ルートの中から見事本物を見つけたんですから。

  はは、まさか、ボクが引き受けたのは"ノア・ロアーズ"との接触だけでそれ以上は関与してはいけませんので、いくら私的な因縁があるからと言って"すぐに殺したり"はしませんよ、全ては我々、"ヴォイド"の計画通りにってね、彼はまだあなたにとって必要なニンゲン・・・そうでしょう?」

  「おい、テメェ!」

  紺色の毛の小汚いボロボロの服を纏っている大柄の男がフードの男を怒鳴る。

  小汚い服を着た男「いつまでも[[rb:魔術鏡>マジックミラー]]で会話してねぇで俺の相手もしてくれねぇか?お前ごとこの街のニンゲン全員ぶち殺しちまっても文句は言えねぇぞ?」

  フードの男「すまないね、我々も"君との取り引き"についてしっかり話し合わなきゃいけないんだ、ビジネスライクに行こうよ。

  と、言ってもここ数か月は動きがないけどね。」

  小汚い服を着た男「チッ、バックれやがったらただじゃおかねぇからな。」

  明るい希望の光の背後には、いつも不穏な陰りが身を潜めている。魔術師の卵たちが絆を育む間にも、知らず知らずの間に悪は暗躍する、悪夢の片鱗と希望の卵、この日初めてその思惑と旅路が交差し、それはやがて"腐り"となる。

  "運命の日"というものがあるとすれば、ここを指しているのかもしれない。

  to be continued…

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