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【トリスタ】世界で一番鬼畜さま【ほのぼのコミカル】

  

  スキルを覚えることもなく

  攻撃力をあげることもなく

  周囲の力で戦うことなく一次転職

  そういう鬼畜な龍にわたしはなりたい

  

  「だからこれは、鬼畜な俺が望んだ姿なのだ!」

  

  桃色髪の自称鬼畜な一次龍は一人台所で夕食の準備をしながら叫んでいた。

  

  

  

  ++ 世界で一番鬼畜さま ++

  

  

  

  

  そろそろ帰ってくる愚かな我が家族達。

  「おにいちゃん、ただいまー!」

  「ただいまー!」

  ピンクの毛まみれで勢いよく扉を開ける間抜け顔の兎は我が愚妹。

  その後ろについてくる土まみれの半ズボン獅子は我が愚弟。

  今日も夕食前に風呂決定の汚れっぷりだ。

  「愚妹……お前はまたヤムクイーン狩って遊んでたのだな」

  「えへへ~。見て見て!ピンクの毛玉いっぱい取れたよ!」

  自慢げに大量のヤムの毛玉を見せてくる。

  そんなものに価値を見出すのは貴様くらいだ!

  「おにいちゃんのお顔、もふもふにしてあげる~♪」

  俺の顔に毛玉ぐいぐい押し付けるな!!ぞわぞわするわ!!

  この愚妹は度々メガロの森へとヤムの毛玉目当てに狩りに行く。

  一度行ったら延々三時間は狩り続けているらしい。

  結果、銀行の貴重な置場の一つがこの毛玉で占領されている。

  二次転職を済ませた者のやる事とは思えない。まさしく愚かな妹。愚妹。

  そんな愚妹をじっと見つめるは我が愚弟。

  「あのねあのね、この髪飾りをおねえちゃんにあげるの」

  今までの流れを全く意に介さず、プレゼントを渡す愚弟。

  「わぁ、可愛いピンクのお花の髪飾り!」

  あれは確か、破魔のかんざしといった髪飾りだったか。

  上機嫌で早速つけている。毛玉まみれでも一応女の子というわけか。

  と、愚妹がこちらを見て目を光らせる。

  あれはまともな事を考えていない時の目の光だ。

  「おにいちゃんにも似合うと思うの~。つけてみて!」

  「やめんか貴様!!離せえええ!!」

  攻撃型の馬鹿力には鬼畜の俺でも敵わない。

  鬼畜にそんな可愛らしい髪飾りをつけるなあああ!!

  「おにいちゃん、かーわいい!ピンクの髪にピンクのお花似合うっ」

  可愛くない!こんなもの鬼畜には似合わない!似合ってたまるか!!

  ふと横を見やると、満足げな愚妹とは逆に愚弟の瞳には涙が溜まっていく。

  「そ、それおねえちゃんに似合うと思っ……て……。うわああん!おにいちゃんの馬鹿ー!」

  「俺のせいなのかー!?」

  やったの愚妹だろうが!お前見てただろ!!

  姉の暴挙に対して何の疑問も持たないのか!?最終原因全部俺!?

  「泣かないの~。いい子いい子」

  愚妹が頭を撫でると態度一変。嬉しそうに尻尾をぱたぱたさせる始末。

  愚弟め……。

  この姉馬鹿っぷりがなければ優秀な稼ぎ頭だというのに!

  今日堀って売って稼いだ金もこの忌々しい髪飾りに費やしたに違いない。

  俺がコーラルビーチ掘ってコインや10ゲルダクーポン拾い集めて

  毎日の食材や生活用品をタイムセール狙って買っているというのに!

  とにかく少しは家に金をいれろ!

  こいつらは若葉マークの頃から全く成長していない。

  俺がいないとまともに生活もできないのだ。本当に愚かな弟妹なのだ!

  

  

  そんないつも通りのぐだぐだを経て夕食は始まる。

  食べながらも愚妹愚弟の行動には目を光らせるのが鬼畜の務め。

  「こそこそ……はいっ、このテンタ菜炒めあげる」

  「ありがとうおねえちゃん!」

  やはりやったか。

  「そこ、嫌いなものを愚弟に押し付けるんじゃない!」

  「わ!……見つかっちゃったぁ。ごめんなさい~」

  愚弟が睨んでいるが鬼畜だから睨まれるのもよくある事なのだ。

  この俺が栄養バランスを考慮しての完璧な食事。

  それを好き嫌いで弟に押し付ける愚妹も1ミリ程だけ鬼畜の素質がある。

  到底真の鬼畜たる俺には及ばないがな。

  「ねぇねぇ、三人でピクニック行こう!」

  「はぁ?」

  愚妹は思い付きをそのまま口に出す。

  ピクニックか。そういえば随分とこの家の周囲から動いていないな。

  愚妹から奪ったドラゴンの証で一次転職をしにアステカへ行ったのが最後か。

  そうなると半年は前だ。たまには遠出も悪くない。

  「鬼畜だが付き合ってやらんこともない」

  「わーい!」

  「わーい!」

  単純な事ですぐに喜ぶ。だから愚妹愚弟なのだ。

  「場所はパンパイアキャッスルの中!すっごく綺麗な所があるの」

  「あんな危険な場所に俺を連れて行く気か!」

  最新版カバリアガイドマップを見る限り、こちらから手を出さなくても

  襲い掛かってくる鬼畜揃いの場所ではないか。

  しかもそこに辿りつく前のローズガーデンにも凶暴な野獣や踊るヘンテコリンどもがいると聞く。

  「二人で護衛するよ!」

  「するよ!」

  「むう……」

  自力では行けないその地に少しの興味があるのも事実だ。

  愚かではあるがレベルはある愚妹愚弟がいれば俺も安全か?

  「仕方がない。鬼畜な俺をしっかり守るのならついていってやる」

  「やったー!おにいちゃんの特製お弁当ね♪」

  「おいしいの作って!」

  お弁当お弁当とはしゃぐ姿。もしや……。

  「貴様ら、そっちが目当てか!?」

  

  

  

  

  ピクニック当日は絶好の行楽日和。

  とは言ってもバンパイアキャッスルという建物の中に入れば関係ないな。

  何でも不思議な魔力働く建物の中から見える景色は常に夜のものらしい。

  楽しみだな……などとは鬼畜だから思っていないぞ!

  ところで愚妹よ。俺の為の強力な防具はあるのだろうな?

  「はい、HP合成してあるラブキャップとビスケットシールド」

  なんという鬼畜らしさのない可愛らしい装備。だが命を守るためには仕方あるまい。

  安全地帯に行ったら即外してやるぞ俺は鬼畜だから!

  「……しかし、もう少し上のレベルの装備はないのか?」

  「あるけど可愛くないから駄目」

  「安全より見た目優先!?」

  文句を言ってもまともな装備を出してくれるとは思えない。

  鬼畜だがここは諦めるのだ。戦略的撤退なのだ。

  「私達で周囲にいる敵倒していくから、おにいちゃんはあまり離れずについてきてね」

  「狩り残すなよ!鬼畜にかすり傷ひとつつけないようにするのだ!」

  「かすり傷なんてつかないよ。一撃でも当たったら致命傷だもんねっ」

  「……」

  悪意ひとつないのだからこの愚妹は愚かなのだ。

  「さっさと行くのだ!」

  

  そこからの歩みは危険との隣り合わせ。

  真横に野獣や犬が即湧きした時など終わったと思ったのだ。

  よりにもよって愚妹や愚弟ではなく鬼畜の真横に湧くとは卑怯なのだ!

  しかも二体同時湧きとは卑怯戦隊!鬼畜いじめなのだ!

  愚弟の範囲攻撃で難を免れたがな。愚弟もこういう時は頼りにな……使えるのだ。

  俺はパニック……ではなく、初めての場所なので最初目的地に着いた事すら気がつかなかった。

  「おにいちゃん、着いたよ」

  「おおっ、ここか……」

  

  本当に窓からの風景は日の出ている時間であっても夜なのだな。

  何か不思議な力が働いているのか、バルコニー近くのその場には敵の姿がない。

  そっとバルコニーから身を乗り出して外を眺める。

  驚くほどに月が近い……。

  手を伸ばせば届くだろうかなどと勘違いしてしまいそうになる距離。

  ふと下を見やれば雲が足元を流れていくかに思える。

  眼下に臨む森の木々は薄く霧がかって何とも幻想的な雰囲気を醸し出している。

  

  「鬼畜の俺でも感動ものだな……なぁお前達もこちらでこの景色を」

  「私、フラタコスウィンナー!あっ、味付玉子もある!LOVEたまごー♪」

  「僕、おかかおにぎりー!フライドチキンも!」

  こら!何で外も見ずに勝手に弁当あけてるんだお前ら!!

  鬼畜特製五段重ね弁当が気になる気持ちは分かるがな。

  「けほけほ、苦しいよ~。おにいちゃん飲み物どこー?」

  「急いで食べるからだ。飲み物は愚弟に渡してあったはずだぞ」

  あ!と小さく悲鳴をあげる愚弟。まさか……。

  「……忘れちゃった。おねえちゃんごめんなさい」

  愚妹限定かい。

  「じゃあ私、下の敵が落とす生のいちごジュースとってくるよ~」

  「僕もいく!」

  「駄目駄目。万が一ここに敵が来たらおにいちゃん守らなきゃ」

  「ええ~……」

  愚弟!不満そうな目をこっちに向けるな!連れてきたの貴様らだろうが!

  「……」

  「……」

  ほら!こいつと二人きりは間が持たないのだ困るのだ!

  そんな状況を察してか数分で戻ってくる愚妹。愚妹にしてはよくやったのだ。

  「下で狩りしてた狐さんにハニーレモネード貰っちゃったよ!」

  「れもねーど!わぁーい!」

  それで早かったのか。奇特な狐もいたものだ。

  名も知らぬ狐よ本当にありがとう、とは鬼畜だから思わない。

  そうして無事に再開される食事。……メインは結局食事なのだな。

  お前達単に弁当食べたくてこのピクニック企画したんじゃないだろうな?

  美味しそうに食べる様は見ていて嬉し……ではなく、滑稽だがな!

  「さあ、このおやつで食べ物は最後だ」

  俺は大好物の向日葵の種だが、愚妹愚弟にはプリン程度で充分

  「鬼畜特製手作りプリンも残さず食べるのだ」

  「これ大好きー!わぁい♪」

  「わぁい♪」

  何せこだわりたまごのとろけるプリン。愚妹愚弟を虜にして当然。

  この自家栽培の向日葵の種には敵わないがな!

  「おにいちゃんもプリン食べればいいのに。いつも種ばっかりだよね」

  この味は大人の味だ。俺だけの特権なのだ。愚妹愚弟にはやらん!

  

  食べきって満足した様子で寝転がる二人。

  食べた後にすぐ横になるんじゃない!消化に悪いのだぞ!!

  全く……これだがら愚かな弟妹は困るのだ。

  「おにいちゃん、いつもお家かコーラルビーチ近くの初心者ゾーンにしか行かないでしょ?」

  「何だいきなり?当然だろう、鬼畜は安全地帯から出ないものなのだ」

  鬼畜は事前に察知できる危険は回避するのだ。

  こんな危険地帯に一人で来るなどという愚行はありえない。

  「でもね、おにいちゃんきっとここからの景色気にいってくれると思ったんだ」

  ほう……。

  「だから二人で相談してピクニックにして連れてこようって決めたの」

  「うん!おねえちゃんと一緒に相談した!一緒にピクニック!」

  愚弟お前は別に俺がいなくても良かったんじゃないか?

  だが確かに……

  「悪くない場所なのだ。鬼畜だが気にいったぞ」

  やったーなどとこんな事で喜ぶあたりが愚妹だというのだ。

  可愛いなどとはちっとも思わないのだからな。

  

  「では帰りもしっかり護衛をするのだぞ」

  「お腹いっぱいだし、帰りは携帯電話でひとっとび~」

  ……帰るまでがピクニックではないのか。

  「今度は絶対安全でおにいちゃんも安心でしょ♪」

  確かにそうだ。そうなんだが何だこの虚しさ……ココロが虚空に誘われる……。

  「おにいちゃんぼーっとしてる?携帯の使い方忘れちゃった?」

  「忘れてない!!」

  そのくらい長く使わなくても覚えているのだ!

  「おにいちゃん、いっぱい走ったから疲れちゃったよね」

  「馬鹿にするんじゃない!鬼畜はこの程度では……」

  「だから帰りは携帯でいいよね」

  え?

  「じゃあ先に行ってるよ~!」

  「僕も僕も!待っておねえちゃん!」

  二人が携帯使用で移動し目の前から消える。

  急に静けさを取り戻した空間は少し肌寒くなったような気がした。

  「あいつら……」

  目当ては弁当かもしれないが、鬼畜の事を少しは気遣ってくれたのだろうか。

  馬鹿しかやってないと思っていたがあれでも成長したのだろうか?

  最近は食事の片付けや掃除も手伝うようになったしな。

  子供は兄の知らぬ間に成長すると聞いた気がするがそういう事なのだろうか。

  おっと、目頭が熱くなるのは鬼畜らしくないから駄目なのだ。

  鬼畜は愚かな弟妹の事など全く気にかけていないのだからな!

  今までもこれからも、なのだ!

  

  「さて、俺も帰るとするか」

  俺の携帯電話はどこにある?ここか?そこか?どこだ?

  ……あれ?携帯電話がない?

  そういえば俺には普段必要ないから倉庫に入れて……。

  

  

  「あああ!愚妹!愚弟!戻ってくるのだ~~!!」

  

  

  

  鬼畜さの欠片もない悲痛な声が木霊するバンパイアキャッスルの一室。

  その声は数時間後に冒険者が訪れるまで途切れる事無く響き続けたのであった。

  

  

  

  end

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