「ありがとうございました~」
コンビニを出ていくお客に声を上げた。ついでに外の様子を見るとゆっくりと空がオレンジ色に染まってきている。後少しで仕事が終わると思うとふぅと息を吐いた。頭の中では仕事中なのに今朝見た人の事を考えていたんだ……。
実家から仕事場へのコンビニに行く途中で建築をしている場所があったんだ。家か何か立ててるのかなって、その時はあんまり気にしていなかった。だがその時ふと目に入った人物に思わずドキリとしてしまった。
「今日も暑いなぁ」
「そうっすね、先輩は大丈夫っすか?」
「あん?がはは!俺が倒れるとでも思ってるのか?いや倒れたら仕事サボれるかな」
「何言ってるんすか、ここじゃ先輩が一番役に立つんすから無理にでも動かされるっすよ」
「うえぇそんな期待されても困っちまうんだがなぁ」
カラーコーンが置いてあり、入れないよう紐やネットで仕切られている。その先で上半身裸の虎獣人が首に掛けたタオルの片方で顔を拭いていたんだ。近くの後輩らしき牛獣人と仲良く話をしていた。背が高く、ガタイの良い体は汗で濡れていて日の光を反射しきらきらと輝く。何だか男臭さ感じる雰囲気だけどそこにちょっと魅力を覚えたんだ。素直に格好良いと思った。
わざと歩く速さを遅くしてちらちらと見る。安全の為の黄色いヘルメットに土で汚れたズボン、それに頭に何か巻いているのか、タオルの端がヘルメットの隙間から見えた。近くに置いてあった太い木の棒を担ぐと周りに気をつけながら運んでいく。その棒も長くて太く、俺なんかではとても持てそうにないなと思う程だった。しかしその虎はまるで重さを感じないように軽々と持ち運んでいた。
「(す、凄い……土木建築とかの人って皆あんななのかな)」
徐々に目はその人物に釘付けになる、しかし歩いていればやがてその場所は通り過ぎてしまう。止まって見ていたら変に思われるし、これから仕事だってある。仕方なく前を向くと気持ちを切り替えて仕事場へと向かったんだ。
「ムキムキの体に豪快な笑顔、低い声……格好良いなぁ」
妄想していると自動ドアが開きお客が入ってきた。
「いらっしゃいま……せ!?」
「ん?」
驚いて最後が裏声になってしまった。入ってきたのは今しがた考えていたあの虎獣人だったんだ。俺の変な声を聞いてこっちを見ると頭を下げる。もう一度、いらっしゃいませと言った。するとニコッと笑って、おぉいらっしゃったぞなんて。はははと笑うが心の中では心臓がドキドキしてそれどころではなかった。
カゴを持ち俺の前を通り過ぎる、棚に並んだ弁当を見ているようだ。タオルを頭に巻いていて、流石に今は白いシャツを着ている。そのシャツは土で汚れていて頑張り具合が見て取れた。あの牛との会話を聞くにかなり出来る人みたいだし人一倍頑張っているのかもしれない。口には出さずにお疲れ様ですと言った。
移動した虎おじさんはパンが並んでいる棚を見ているようだ。少し背を丸くすると顎に指を当てて商品を見ている。何だろう、自分で言うのもなんだが一つ一つの動作を凝視して気分を高めている俺は間違いなく変態に思われるかもしれない、今は人が少なくて良かった。
レジに人が来てそれの対応をしながら合間合間で虎おじさんを見る、次は奥の飲み物が置いてある所にいた。場所的にあれは酒類だろう、この人はどんな物を飲むのだろうか?勝手な想像で度数の強い缶ビールを何本も飲んでいる姿を思い描く。酔っぱらったへべれけな虎おじさん……少しだけ下半身が反応してしまう。ここにカウンターがあって良かった……。
ありがとうございましたと頭を下げるとお客は帰っていった。その数分後、あの虎おじさんがやって来たんだ。なるべく冷静さを保つよう心掛けるが、目の前に立っていると思うとそれだけでその冷静さは驚く程簡単に消え失せてしまう。
「あ、兄ちゃんそれ温めてくれな」
「あっ!わ、分かりました!」
「がはは、そう焦んなくても大丈夫だぞ」
「す、すみません」
レンジを開けて中に入れタイマーをセットしボタンを押す、その間に他の物をレジ袋に入れることにした。飯になるようなソーセージやハム等が挟まれたパンと甘いチョコがかかった菓子パン、スルメイカに缶ビールが三本だ。全てバーコードで読み取ると袋に入れる。値段が表示され虎おじさんはトレイの中に二枚のお札を乗せたんだ。少し待って小銭を出す様子がない事を確認するとそれを受け取りピピっとボタンを押す。お釣りが出てくるとトレイの上に乗せてお渡しした。そうしているうちにレンジがチンと鳴り、中の弁当を取り出すと弁当用のレジ袋に入れて渡す。
「ありがとな」
「こ、こちらこそ来てくれてありがとうございます!」
虎おじさんは一瞬ん?と首を傾げる。それを見て、俺は何を言ってるんだ~~!と心の中で叫んでいた。来てくれてありがとうございますって。今まで色んなお客来たけど初めて言ったぞ。汗を流しながらへへへと間を繋ぐ為に笑う。多分顔が引きつってたと思う。
「おぉ、また来るな」
そんな俺の馬鹿みたいな言葉に虎おじさんは豪快に笑うと手を上げて帰っていったんだ。自動ドアが閉まるとそこでようやく深い息を吐いた。
「ドキドキした……変に思われたかな。これで来なくなったら嫌だなぁ」
そんなことを思いながら残りの仕事をしていた。
暗くなり始める時間、仕事が終わると着替えて帰路につく。歩いているとあの建築している場所に来たんだ。流石に時間も時間で人はいないようで中から音はしない。薄暗くて分かり辛いがまだ作業し始めてそこまで経っていないように思える。枠組みだとか土台だとか、細かいことは分からないけど家みたいな形にはなっていなかった。だとすると、もしあの虎おじさんがこのまま担当しているならちょっとの間は姿を見れるんじゃないかなんて思ってしまう。そのままずるずると妄想していき、先ほどの笑顔を思い出していた。
「なんか凄いドキドキする、こんな事初めてだ」
果たしてそれが恋心からなるものなのか、それとも単に下心があって性的な意味で見ているだけなのか。断定はできないが、少なくとも好意的な意味を持っていることは確かだった。
家に着くとただいま~と声を出す、横のリビングからお帰りという声が届いてきた。成人してそれなりに月日は経ったけど、今の今まで一人暮らしはしたことがなく実家で暮らしていた。特に何か困った事もないし、家族といると安心するし。親もずっと家にいることに対しては賛成も反対もしていない様子だ、俺の好きにしていいと言ってくれた。ただちゃんと仕事はするんだぞと笑いながら言われて分かってるよ子供じゃないんだから~なんて言った覚えがある、だから俺は多分このままこの家で過ごしていくんだと思う、少なくとも今はそれでいいと思っていた。
手を洗い、一度自分の部屋に行くと着替えて家着になる、疲れた~とベッドで横になると疲労からか、うとうとしだしてしまう。
「虎おじさん……」
ぼそっと呟くと目を瞑る。俺の頭の中では今まさにあの虎おじさんが全裸になっていた。豪快に笑って、豪快に……腰を振って……その豪快さに圧倒されながら俺は――
「ご飯できるわよ、お父さんも帰ってきたから来てちょうだい」
「い、今行くから!」
がばっと起き上がると慌てて声を出す、こんもりと山を作るズボンを両手で隠すと赤くなっていた。
深呼吸して落ち着かせるとご飯を食べにリビングへ。そこで晩御飯を食べるとお風呂に入った。お風呂場では完全に勃起しながら洗ったり温まったりしていたが一人だから大丈夫だ、妄想して軽く扱いたのは秘密だ。
部屋に戻ると明日の仕事の用意を済ます、まぁそんなに持って行く物とかないのだけど。満腹になり体がぽかぽか暖かくすぐにでも眠気が襲ってきたんだ。
「もう寝ちゃおう、早く明日が来ないかな」
会える日を待ち望んでその日は電気を消し寝ることにしたんだ……。
*
次の日になって同じようにバイトに行く、作業現場に着くとまたもゆっくりと歩き出し横を見る、だが虎おじさんの姿は見れなかった。どこかにいるんだろうか?それが仕事を頑張れるエネルギーとなっているのに。勿論完全に俺が一方的に貰っているだけなのだが。相手にはそんな事知ることなんてこの先ないんだろうなぁ。
「あぁっと、そいつはあれだ、あっちの端の……そうそこに置いてくれ。ハンマー?確かここだったかな」
言いながら奥であの虎おじさんが歩いていた、まさに仕事中なのだろう真剣な面持ちで作業している。そこには昨日の休んでいるようなだらけた様子はなく、働く男の姿があった。汗を流し汚れながらそれでも頑張る虎おじさん、ヤバイ……滅茶苦茶格好良い。
相変わらずちらちらと見てはその姿を瞼の裏に焼き付ける、よしよし、今日もエネルギー充電完了だ。元気を貰った俺は一人勝手にテンションを上げながら歩くペースを速めたんだ。これで今日の仕事は乗り越えられそうだ。
コンビニに着いて着替え、品出しやレジ打ちをしながら作業する、流石に朝から晩までずっと考えているわけではない、こんな俺でも仕事はちゃんとするぞ、間違えて失礼のないよう注意しながら対応していたんだ。集中していると時間はあっという間に過ぎていく、毎日変わらず日は落ちて徐々に暗くなり、夕方になる。変化と言えば……。
「いらっしゃいませー」
そう、あの虎おじさんが来るようになったことだ。といっても昨日初めて見たんだけど。今日も来てくれたことに思わず尻尾が揺れそうになる、いかんいかん今は仕事中だ。冷静に、変人に思われないように。
弁当を見て、パンを見て、酒を見る。一つのルーチンみたいに見ていく姿を見て何だか微笑ましくなった、特に大きい体を屈ませて商品を見る姿はどこか可愛らしい。
「すみませんタバコ、えっと53番お願いします」
言われたものを取り出しこちらでいいですかと確認する、全て終わるとレジ袋に入れて渡しそのお客は帰っていく、そしていよいよ虎おじさんの番。カゴから中身を取り出し弁当を取るとそのままレンジへ……あ!
「す、すみません!」
「おぉそのまま温めちまっていいぞ、よく分かったな」
「昨日も温めてたし力仕事しててすぐ食べるのかなって」
「ん?どっかで会ったか?」
「あ……」
俺と虎おじさんはここ以外では話をしていない、そもそも相手は俺がここにいる以外はまったく知らないだろう、だから周りをちらりと見てから少し小声で言ったんだ。
「えっと、ここに来る時にその、おじさんが働いてる所の前を通ってまして」
「おぉそうなのか!全然気づかなかった、何だ声かけてくれればよかったのによ~」
慌ててそんなことできませんと声を上げた、だって真剣にやっているのに邪魔したら怒られそうだし、いわば俺は赤の他人だ、知り合いでもなんでもない、そんな人物から声をかけられたら変に思われるだろう。コンビニで見かけたのでなんて、うん明らかにおかしい。
だが虎おじさんは顔を横に振る、にこにこ笑って楽しそうだ。
「俺は構わねえぞ、コンビニの兄ちゃんの事覚えたしな」
え?と目を見ると腕組みをしてへへへと笑う、コンビニで来てくれてありがとうなんて初めて言われたぞと、印象に残ったようだ。覚えててくれたのは嬉しいがなんか複雑な心境だった。
弁当を温めるとそれを袋に入れて渡す。
「今度は挨拶してくれよ?」
「は、はい!喜んで!」
「がっはっは!兄ちゃん面白い奴だなー」
ぽんぽんと肩を叩くとじゃぁなと言って手を振り店を出ていった、ありがとうございましたと言うとその姿が消えるまで見続けていた。
仕事が終わるといつも通りに帰っていく、現場の横を通ると少しだけ進んだようで土台から形が出来てきているようだ。俺達が住む家は形とかすでに出来上がった物しか見てないから、その過程を見れるのはちょっと面白かったりする。まぁ人もいないし凄く興味があるわけでもない為、その時はさっさと家に向かってしまった。
「ただいまー」
「お帰り~」
帰宅の挨拶を済ませ部屋に行く、そして着替えるとベッドに座り今日の事を考える。
「明日もいるよな多分……声かけていいって言ったけどなんて言えばいいんだろう。普通におはようございますかな?お疲れ様ですとか……今日も来てくださいなんて、言えるわけないよな」
苦笑しながらばさっと倒れた、本当に優しくて話していて楽しい人だ、慌ててどもる俺の言葉を聞いても馬鹿にしてこないし。これでも随分人には慣れた方だと思っていたんだが、案外そうでもないのかもしれない。
「ご飯出来たわよー」
「はーい」
呼ばれて少ししてからリビングに行く、テーブルには晩御飯が用意されていてそのにおいを嗅ぐとぐうとお腹が鳴った、横の椅子には父が背凭れに寄り掛かりながら天井を見上げていたんだ。
「大分お疲れみたい?」
「あ~そうだな、もうくたくただ」
はははと笑う父は肩の一つでもマッサージして親孝行してみないか?とか言ってくる、母が来るまでの間後ろに立つと肩を掴みぐにぐにと揉んだ、途端に父の悲痛な声が響く。
「いてて!も、もう少し優しく!あた!ま、マッサージ終了だ!」
「これはかなり凝ってるねぇ解した方がいいかもよ?」
「老体なんだから少しくらい労わってくれよなぁ」
母が来て席に着くと皆で頂きますと言って食べ始めたんだ、俺の家はわりと食事中も会話をする方で静かになる方が少ない、他愛もない事を話しながら笑ったりむくれたり、小さい頃からそうだった。
「そういえばお前は誰か好きな奴とかいないのか?」
「んっ!ゲホゲホ、何?突然」
「それどころじゃないでしょう、貴方昔から人見知りで自分から声をかけるなんてほとんどなかったじゃない、友達だって相手の子から声かけてきてからようやくって感じだし」
頬を染めながらそっぽを向きもぐもぐと口を動かす。そうだ、子供の時から知らない誰かと会話するのが苦手で、むしろ一人の方が落ち着ける性格だった、だから教室でも誰かと遊んだりなんてせず、むしろ本を読んだりちょっと居眠りしていた方が気が楽だった。中には明るい奴が俺に遊ぼうぜとか言って少し一緒に遊んだりしたけど、それも長くは続かない、それに友達といったって学生生活だけの存在だ、卒業してしまえばそこで終わり、連絡を取り合うなんてこともなく、気づけば疎遠になる。多分相手はもう忘れてしまっただろう、俺もあまり思い出せない、でも今は別にそれでもいいと思っていた。
「恋人を作るよりまず私達以外の他人に慣れるよう練習しなくちゃね」
「いい歳なんだからしっかりするんだぞ」
「分かってるよも~、ごちそうさま」
「はーいお粗末様」
何となく居づらくなって早々に食事を済ませてしまう、食器を片付けると部屋に戻ることにしたんだ。
バタン
「はぁ、そんな事分かってるんだよなぁ、でもやっぱり緊張しちゃうんだ。その相手が、ちょっと気になっている人だと特に……」
ただでさえドキドキしてしまうのに好きかもしれないと思っている相手だと本当に言葉が出てこない、頭が真っ白になるんだ、だからそう見えなくたってかなり頑張っている、これでも頑張っているんだ、虎おじさんに嫌われないように。近づくななんて言われた日には多分泣いてしまうかもしれない。
「頑張れ俺、大丈夫、きっと言える」
ぐっと拳を握ると自分を励ます、明日は自然な挨拶ができるようにと頭の中で台本を作ってお風呂場へと向かったんだ。
*
次の日になって家を出ると少し小走りで建築現場へと向かう。到着すると軽く息を整えてからゆっくり歩きだしてちらちらと横を見たんだ。
「ふぅ暑っついなぁ、こうも暑いと脱ぎたくなるわ」
「それ以上脱いだら捕まりますよ、服着てくださいよ」
「いいだろ別に、仕事ちゃんとしてるんだからよ、お前も脱げ!」
「わっ!セクハラ禁止!」
いた、虎おじさんだ、今日は鰐獣人と休憩中なのか戯れている、仲が良さそうで羨ましい……あんな風にふざけ合ってみたいものだ、だがこうも楽しそうにしていると声をかけづらいもんである。うーん、まぁ見ただけでも十分嬉しいし……。
「ん?おっ!コンビニ兄ちゃん!」
「コンビニ兄ちゃん?」
突然声を掛けられドキッとして驚いてしまう、すぐさま頭を下げると手を振ってくれた。そのまま虎おじさんはわざわざ横から走って出てくると目の前まで来たんだ。
「ど、どうもお疲れさ……あぁいや、おはようございますお疲れ様です」
「おぉおはようアンドお疲れ様だ、俺は体でかいけどそんなビクビクするなって」
「こ、これは違……っ!あのそ、そうじゃなくて!」
両手で肩をぽんぽんと叩くとがははと笑う、考えていたセリフが全てパアになり挙動不審になってしまったが気にしていないようだった。
「今日もコンビニ行くからよ、弁当温めてくれな?」
「は、はい!楽しみにしてます!」
「がはは、おぉなんだなんだ俺が行くのは楽しみなことなのか?何だか照れちまうなぁ」
首に掛けたタオルで顔を拭いている、その仕草や体を見てもう気が気じゃなかった。こんなに近い……しかも上裸。鍛えられた体、汗を沢山掻いているのだろう若干の体臭さえ風で漂ってくる、汗臭さはあるけど顔を顰めるようなものではなく、むしろこの人のにおいだと思うとちょっと……。
うまく目を見て話すことが出来ず目線を下げるとさらに驚いてしまう、ズボンのボタンが外れていたんだ、そしてジッパーが少し下がっていた、そこからはパンツがちらりと見えてしまっている。少しだけなのだがこのパンツを見たということが自分にとってかなりの衝撃だった、だってパンツの向こう側にはきっと大きいものが……っていうか今気づいた、陰毛見えてる、パンツの上に乗っかるようにしてもさっとちりっと。ヤバイヤバイ鼻血出そう。
「どうした?俺の腹に何かついてるか?」
「いぃいやその……」
「おっと、さっき小便しに行った時ボタン付けるの忘れてたわ、ここ見てたのか?」
「ちちちっちち違います違います!そんな……」
「ほうれ」
「わあああ!」
あろうことか虎おじさんはそのままジッパーを下げてしまったんだ、もろんとズボンの上にパンツの膨らみが乗る。今まできつそうにズボンの上からでもよく分かる膨らみがやっと解放されたとでもいうようにパンツ越しに主張していた。これは相当にでかいだろう、そしてパンツが小さいハートマークのプリントだ、可愛いパンツだ……。
「セクハラ禁止ー!」
横からの大声でハッと我に返る、たったっと駆けてくる鰐は虎おじさんの後ろに来ると脇の下から腕を通して羽交い絞めした。
「ぬおっ!」
「朝から何やってるんですか変態おじさん!さっさと戻って仕事しますよ!」
「わぁった!わぁったって!ったくちょっとふざけただけだろう?」
「そのふざけ方がおかしいんですよ、兄ちゃんもごめんな?コンビニって言ってたしこれから仕事なんだろ?」
こくこくと頷くと邪魔して悪かったなと鰐は謝ってくる、だが俺にとってはこれ程僥倖な事はないくらい、むしろ感謝したいくらいだった。まさかまさか生ではないとはいえ、パンツやもっこりを間近で見ることができるだなんて……。
「お、俺もう行きます!頑張ってください!」
「お?おぉじゃぁまたな」
手を振る虎おじさんは少し眉を下げて苦笑気味だった、慌てて振り返って走り出す。流石に今はまずいと思ったんだ。気づかれなくて良かった……だって俺今、勃起しちゃってたから。
「あ~あ嫌われちゃいましたね」
「そ、そんなことねえって!ないよな?ちょっとふざけすぎたかなぁ」
急いでコンビニに入ると更衣室で着替えだす、はぁはぁと呼吸を整えながらなんとか下を落ち着かせようとしたんだ、だけど考えれば考える程硬くなる。頭の中では絶えずあの人の股間が離れない。
「こ、こんな時なのに……」
ごくりと唾を飲み込むとせめてと俺は位置を調整し少しでも膨らみ感を無くすよう務めた、後は作業着で何とか隠れるように。着替え終わるとレジ側の方に行き今日の仕事をし出したんだ。
時間は過ぎて夕暮れ時、そろそろかなと思っていると自動ドアが開く、そこで虎おじさんを見つけると体が熱くなっていった。
「い、いらっしゃいませー」
俺を見つけると虎おじさんは近づいて話しかけてくる。
「おぉ!来たぞ。あのよ、ちょっと確認したいんだがぁ……俺の事嫌いになっちまったか?朝のあれ鬱陶しかった?」
今は笑っていない、本気で心配している顔だ、俺の事も自分の事も気にかけているようなそんな表情だった。勿論俺は迷惑だなんて思っちゃいない、だから少し深呼吸してこれだけはちゃんと伝えようと思った。
「全然そんなことないですよ、あの、楽しかったです。俺し、仕事行く時おじさん見かけてその日のやる気貰ってましたから」
「お!そうなのか!?なら良かった、心配したんだよなぁ嫌われちまったかなって。あのよ、また話しかけてもいいか?」
「お……俺で良ければ好きに使ってください!」
「がはは!好きにしていいのか!そいつぁいいや、じゃぁお言葉に甘えてまた遊んでもらうかなっと」
ありがとなと言ってカゴを持ち商品を見ていく、ほっと息をつくと嬉しくなって尻尾をぶんぶんと振った。今の会話で気分が落ち着き硬かったものが萎んでいく、あぁちゃんと言えて良かった、やればできるぞ俺!
虎おじさんがレジに来ると弁当を出しレンジへ、何も言わずとも朝言われたから分かっていることだった、そして他の物をレジ袋に入れていく、お金を受け取りお釣りを返すとレンジから弁当を取り出し袋に入れた。
「ありがとな、また来るぞ」
「お待ちしてます、あ、ありがとうございました」
結局その日の仕事はまったく集中できなかった、とりあえずミスや失礼なことはしなかったものの、正直どんな事をやったのかあまり覚えていない、頭の中ではちらちらとあの時の光景が残っている、やろうと思えば鮮明に思い出せるしすぐにでも勃起できる自信はあるくらいだ。
「こんなんじゃ良くないよな、良くないのは分かってるけど」
う~、と唸ってしまう、ここまでくるともはやこれがどういうものなのかなんて一目瞭然だ。
「俺、あの虎のおじさんの事好きなんかな、いや……好きなんだろうなぁ」
はぁと溜息をついた、今までで多分初めての感情だ、学生時代の頃は先生とかにちょっと下心でそういう目で見てしまったことはある、でも明確に好きだって思ったのは初めてだろう、生まれた自分の知らない部分に苦しみながら俺は家を目指したんだ。
*
虎おじさんと話してからは朝の挨拶やコンビニでの少しの会話などを頻繁にするようになっていった、慣れるということはないものの、最初程言葉に詰まることもなく何か言われればそれに対してちゃんと考えて会話が出来ていたんだ、やっぱりドキドキするし焦りもしちゃうんだけど。
「おはようございますおじさん」
「おぉ来たか!おはようさん」
まるで待っていたかのようにそこに立ち声をかけると嬉しそうに笑うんだ、何だかもしかしたらこの人も俺の事が好きなのかもと勘違いしちゃいそうになる、そんな自分のありもしない願望に苦笑した。
「最近肉の弁当の売り上げいいみたいだなぁ俺が行くとあんまり数残ってねえんだよな」
「えっと、最近お弁当の質が良くなったようで。それと今は若干増量中らしいです。その影響ですかねえ」
「なに!そうだったのか、じゃぁ今のうちに買い置きしておかないとな!」
俺は肉が好きだからなと笑う虎おじさん、見た目からもかなりの肉食なのが分かった。野菜はどうなんですか?あ~ん、まぁ食えないことはないけどよぉ……言い渋る当たり好きじゃないらしい、そんな朝の他愛もない会話が好きだった。
「それじゃぁ失礼しますね」
「あっと!ちょっと待ってくれ」
呼び止められると奥から走って近寄ってくる、いったい何だろうと首を傾げると頭をがりがりとかいていた。
「あのよ、折角こうして知り合えたんだしどっか遊びに行かねえか?休みの日教えてくれよ」
「え!?」
突然の申し出に驚く、すると虎おじさんも無理矢理には誘いたくないから嫌ならいいぞと言ってきたんだ、当然すぐにでも顔を横に振る、そんなことないですと。携帯を取り出しカレンダーを表示させて自分のシフトを確認する。
「えっと、明日は丁度休みですね」
「お!本当か!?こりゃぁ神様が遊べって言ってるんだな?」
「んと?」
「あのよ、実は俺も明日休みなんだ。どうだ?出かけないか?」
びっくりして本当ですかと聞いてしまう、こくんと頷くのを見て思わず心の中でガッツポーズをしてしまった。こんな素敵な人と一緒にお出かけなんて願ったり叶ったり、むしろ俺の方こそだ。秒で頭を縦に振ると行きたいです!と叫んだんだ、それを聞いて虎おじさんも嬉しそうだ。思わず尻尾をぶんぶんと振ってしまう。
「そうかそうか、よし!じゃぁ明日の朝――」
「おおい先輩!こっち手伝ってくださいっすよ~!」
「あっ悪ぃ今行くから!」
少し唸ると10時くらいにここに来てくれと言ってきたんだ、はいと頷くとガシッと手を掴まれる。
「こんなおっさんに付き合ってくれてありがとな!仕事がんばれよ!」
ばんばんと肩を叩かれると走って戻っていった、少し呆然としてしまったが頭を下げると振り返って仕事場へと向かった。
「明日、虎おじさんとデート……じゃないお出かけ」
未だに現実味がなくてもしかして夢なのではと思ってしまう、だが叩かれて少し痛い肩の感触もまだ残ってるし、あの低い声だって耳の奥で木霊している、試しに頬もつねってみるがやっぱり痛い。これは夢じゃない、俺はあの人と一緒に遊べるんだ、思えば思う程舞い上がってしまう、何だか怖くなってくるくらいだ、良い事が続いてこの先悪い事が起きるんじゃないかと。
「変なこと考えるのは止めよう、明日は沢山遊ぶぞ!も、もしかしたらエッチとかできたりして……」
ぬふふと気持ち悪い笑みを浮かべるとコンビニに到着する、俄然やる気になると今まで以上のエネルギー充填で仕事に備えた。
満たされた俺はその日は仕事に集中できた、最近は何度も話しているおかげか妄想が止まらずやばいなんてことも減ってきた、まぁ外はだけど、家に帰れば妄想しっぱなしだが。夕暮れ時に虎おじさんが来て、来たぞーと声をかけてくれる、商品を見てレジに来ると弁当を温めながら少しの会話をした、明日楽しみにしてるからな!俺もです!そんな風に会話し終わり際に肩をぽんと叩かれ手を振って帰る、その後姿をキラキラした目で見ていた、そうして仕事は終わり家に帰っていったんだ。
*
ジリリリとけたたましい音が鳴り目を覚ます、上半身を起こしながらふわっと欠伸をし背筋を伸ばした、眠い目を擦りながら窓のカーテンを引いて外を見る、徐々に明るくなっていく空を見て時間を確認した、今は7時ちょっと前か。
「今日はおじさんとデートだ」
いつもは目覚ましをかけずとも起きれるのだが今日は寝坊しないよう念の為かけておいた、顔を洗おうかと思ったがどうせなら清潔感があった方がいいと思いシャワーを浴びることにした、着替えを用意し洗面所へ、脱ぐと風呂場へと入っていく。
シャー
暖かいお湯は眠気を覚ますにはちょうど良かった、体を隅々までしっかり洗い脇の下に顔を近づけてにおいを嗅ぐ、うん、臭くない大丈夫だ、何があるってわけじゃないとは分かっているが股間も特に念入りに洗った。何かあればいいのになぁなんて、こんな朝からでも楽々妄想できてしまう、スケベな奴だなぁ俺はと苦笑するとシャワーを止めて風呂場を出た。
あれこれ準備して時間は少し進み8時30分となる、朝ご飯を食べる時間はあるがもしかしたら外で食べるかもしれない、虎おじさんと一緒に食べたいのにお腹いっぱいだと食べられないから抜いていった方がいいかも、他にやることもなくどうしようかと思っていたが、何となくじっとしていられなくてもう外に出ることにしたんだ。
「あら、今日は早く目が覚めたのね、おめかししてお出かけ?」
「うん、ちょっと遊びに行ってくるよ」
リビングに行くと母親が台所で作業していた、じゃぁ朝ご飯はいらない?うん、外で食べるかも。父はすでに仕事に行ったらしい、もしかして好きな子とデート?なんて聞かれて赤くなってそんなわけないよと言う、これ以上根掘り葉掘り聞かれるとまずい気がしてそれじゃ行ってくるとだけ伝えて玄関へと向かったんだ、行ってらっしゃいと言う声が後ろから聞こえた。
バタン
「うわぁ良い天気だ」
空は太陽が昇り眩しいくらいだった、まさにお出かけ日和、雲一つない、気分が良くなると足早にその場所へと向かった、といっても会う時間までにはまだまだあるのだけど。まぁ時間ぎりぎりより余裕あった方がいいよな、待つのは苦手じゃないし。
そう思いながら現場に行くと音がした、あっそうか、虎おじさんは休みみたいだけど他の人は普通に仕事してるんだっけ、何も全員がその日休みで誰もいないわけじゃないか、今日のお出かけで虎おじさんのことしか頭に入っていなかった。だとするとここで待っているのは気が散ったり変に思われたりするかもしれないなぁ、どうしようかと悩んでいるとそこでその場所から人が出てくる。
「ん?お!コンビニ兄ちゃん!」
「あ、おじさんおはようございます」
出てきたのは虎おじさんだ、手にヘルメットを持って首からタオルを下げている、小走りで近寄るとおはようさんと挨拶してきたんだ。
「まだ早いのにもう来てくれたんだな?俺は少し作業だけしておこうと思ってよ、時間には間に合わせるつもりだったぞ!」
「そうだったんですか、忙しいならまだ作業していても大丈夫ですよ」
「何言ってんだ、今日は俺は休みなんだ、他の奴が少しでいいから手伝えってうるさくてよ。でももう今日はおしまい、俺は自由の身だ」
これから急いで帰って支度しようと思っていたらしい。じゃぁここで待ってますね、そう言いかけた時だった。
「悪いが俺の家で少し待っててくれないか?」
「え!?お、おじさんの家!?」
「あぁ、嫌か?」
あまりに突然の自宅招待に大げさに驚いてしまった。だって好きな相手の家って少し気になるし、その場所に行けるってかなり大きなイベントだと思う、それがまさかこんな唐突に訪れるなんて!すぐにでも行きます行きます行きたいですと答えたんだ。
「おお?がはは!そうかそうかそいつぁ良かった、一緒にいるなら急ぐ必要もないな」
それじゃぁ行こうぜと言って横に並ぶと歩き出したんだ。
「あいつが話してた奴か?」
「え?あぁそうっすよ、虎先輩は最近知り合った友達って言ってたっすねぇ」
「ったく、こちとら忙しいってのによ、有能な奴を奪いやがって」
「あれ?熊先輩嫉妬っすか?」
「殺すぞお前」
「いだ~!すぐ殴らないでくださいっすー!」
会話をしながら歩いていると家の場所に到着する、どうやら建築現場から近かったから虎おじさんがあの場所を当てられたようだ。
「小さくて狭いんだけどよ、すぐ終わるからな」
「急がなくて大丈夫ですから。疲れてるだろうしゆっくりしてください」
「は~兄ちゃんはほんとにいい奴だなぁ仕事仲間の奴らにも分けてやりたいくらいだわ」
がははと笑うと玄関を開け中へと入っていったんだ。
案内されたのはすぐ右の和室だった。畳の上に四角いテーブルがあり、角にテレビが置いてある。横には掛け軸がかかってたりその近くに盆水もあったりした。襖は少し空いていて縁側が見える。思った以上に和風を感じる部屋だった。
ちょっと待っててなと言ってどたばたと走っていく、一人になり少し落ち着きを取り戻すと周りをきょろきょろと見回す、後ろにはリビングがありその奥が台所のようだ。こうもきょろきょろ見るのは失礼かもしれないが、初めての人の家ってやっぱちょっと気になっちゃう、別にどこに何があるかを特定するつもりはない、本当だぞ。
「おーい兄ちゃん」
「あ、はい……わっ!」
呼ばれて振り返ると思わず声が出る、そこでは虎おじさんがパンツ一丁の姿だったんだ。一気に体温が上がり鼻息が荒くなる。
「ほんとに悪いんだけどよ、ちっと、少しだけ風呂入ってきていいか?やっぱ汗臭いの嫌だろうし」
「い、いやその!俺は全然気にしないというか!あの、お、おじさんの自由にしちゃっていいんで!」
「そうかぁありがとな、すぐ出てくるからよ!」
言い終わる前に虎おじさんは急ぐようにしてその場から走り去った、一人になってようやくちょっと息が整ってきた、最後に深呼吸をすると胸に手を当てる、そしてすぐさま先ほどの姿を思い出す。まさか目の前でパンツ姿で現れるなんて……あまりしっかり見れなかったけど鍛えられた体や毛深さなどは知ることができた。胸もお腹も膨らんでたり割れてたり、凄かった……体毛も自分が思っているよりずっと毛深かった。腕や胸、腹、太ももなどびっしりと毛は生えていた。獣毛はあるがその上かでも分かるくらい部分的にもさっとちりっとしていた。そんなフェロモンむんむんなお姿を見て興奮しないわけもなく、思わず股間に手を伸ばしてしまう、一瞬でがちがちに硬くなってしまった。
「うぅ……予想外過ぎるって」
悶々としていると十数分して虎おじさんが戻ってくる、今度はちゃんと服を着ていた。黒いTシャツにジーパン姿が似合っている、格好良いと思った。
「悪かったな待たせちまって」
「いえ大丈夫です。時間だってまだ10時少し過ぎたくらいですから」
「兄ちゃんは何でも許してくれるなぁそんな風にすると甘えたくなっちまうよ」
言葉に顔が熱くなる。虎おじさんが甘えてきたらどうなってしまうのだろう、いやむしろ俺の方こそ甘えさせてほしい、よしよしされたいし可愛がられたい。それが単純に愛玩動物のようであってもだ。
立ち上がるとじゃぁいこうかと言って二人で家を出たんだ。
バタン
「朝飯は食べたのか?」
「いえ、まだです」
「そうか!俺もまだなんだ、どっかで軽く飯でも食うかぁ」
歩きながら店を探すと大通りに出る、するとファミレスの看板が見えたんだ。あそこでいいか?俺はどこでもいいですよ。その時腹がぐうと鳴る。これは早く食べなきゃだなと笑うとその場所に決まったんだ。
中はエアコンが利いていて涼しかった。空いているテーブル席に座ると店員が水とおしぼりを持ってきてくれる、それで手を拭きながら横にあるメニューを広げたんだ。さて何を食べようかな。
「どれも美味そうだなぁ兄ちゃんは食べたいものでもあるのか?」
「ん~、恥ずかしいですけどこういう時結構迷っちゃうんですよね」
「その気持ち分かるなぁあれもこれも美味そうだしな、食いたくなっちまうよ」
最初のページには看板メニューだろう分厚い肉が大きく載っていた、飯も大盛りで見ただけで俺だと一日分ありそうとさえ思ってしまう。これ本当に一食分か?後はぱらぱら見ていくがどこにでもありそうなメニューが並んでいる。俺はそうだなぁ、ハンバーグとか美味しそうだなぁ。
数分悩むとお互い決めて店員を呼んだ、どうやら虎おじさんはあのステーキを頼んだようだ、それとビール。俺は先ほど見たハンバーグにコーラを頼む。以上でよろしいですかと聞かれ今の所は互いにそれでいいと頷いたんだ。
「しっかしまさか本当に俺と遊んでくれると思わなかったぞ」
「いつも仕事ばかりでそれ以外特に趣味とかないですし。休みの日は家に居てゲームとか本読んだりとか……何か不健康な生活してます」
「わはは、動いてるんだから健康だ」
料理が来る間は他愛もない話をする、やはりまだ緊張はする俺を見て虎おじさんは話しやすい空気作りをしてくれた。どもったり答えるのに時間がかかっても決して急かしてこないし表情も変えない。にこにこ笑ってるのを見て俺も落ち着いて会話を楽しむことができた。
「まぁ若い頃は好きな奴もいたし告白したり付き合ったりなんてこともしたけどよ、結局別れちまったなぁ長続きしないんだ。がさつだし気が利かなくてよぉ、歩くの早すぎとかもっと女の子の気持ちになってとか言われちまって……」
「それは大変でしたね、おじさんみたいな人凄く魅力的で素敵だし自分だったらすぐにでも付き合っちゃいますよ」
「おいおいあんまり褒めるなって、照れちまうよぉ」
頭をかく虎おじさんは何とも可愛い。その時頭のタオルがずれておっと、と虎おじさんはタオルと巻き直す。そういえば虎おじさんはずっと頭にタオルを巻いていた、コンビニで見る時もそうだし今もしている。してなかったのはさっきのパンツ一丁の時くらいか。気になって慎重に聞いてみたんだ。
「あの、失礼じゃなければちょっと聞きたいんですけど、その頭のタオルって……」
「あぁこれか?これは小さい頃の癖みたいなもんなんだ」
「癖?」
「おぉよ、実家にいる父親は日曜大工とかやっててよ、本職ではなかったみたいだがそういう何か木とかで物作るのが好きだったみたいなんだ、庭でのこぎりぎこぎこやってたなぁ。その時頭にタオルを巻いててな?俺もよく手伝ったりして、その頭のタオルを巻くのを真似してたんだ。するとそれが面白かったのか父親は年がら年中巻くようになってよ、それ見て俺もそれが癖になっちまったようなんだ」
なるほどと頷くと慌ててべ、別に剥げてないぞ!?と頭のタオルを取ってくる、その姿がちょっと新鮮だった。大丈夫です疑ったりしてませんよ。苦笑する虎おじさんは頭にしゅるっとタオルを巻いた。
そんなことをしていると頼んでいた物が出てくる、虎おじさんが頼んだそのステーキの大きさに驚いた。熱々の鉄板の上でジュウジュウ音を立てながら湯気を出している。全部は食えなさそうだが確かにこれはとても美味しそうだ、ごくりと生唾を飲み込んだ。
そして俺の前に出てくるハンバーグ、これもとても美味しそうだった。横にはポテトやブロッコリー、ニンジンなどが小さくカットされて置いてあり、コーンも乗っかっている。飯も結構多く入っていてぐうと腹が鳴った。店員は頭を下げるとトレイを持って帰っていく、それを見て俺たちは箸を取り互いにいただきますと食べ始めたんだ。
「ん、はぐ……はぁ美味いなぁやっぱ肉だよな」
言いながら虎おじさんはバクバク食べていく、俺も腹が減っていたから割とがっつき気味で食べていた気もするがそれ以上だ。あんなに分厚い肉なのにみるみる無くなっていく。明らかに虎おじさんの方が量が多いのに気づけば俺より少なくなっていた。
「んぐっんぐっん……ぷはぁ!あ~朝から飲むビールは最高だぁ」
ジョッキをテーブルに置くとはぁと背凭れに寄り掛かる、先に食べ終わり俺がまだ食事中なのを見てビールを追加していったんだ。大きいジョッキがテーブルに……今届いたので四つ目だ。そんな飲むんですかあなた。
「んぐっん……はぁ、いやぁなんか今日は止まらねえな、悪いなぁこんなダメ親父でよぉ」
「いえいえ、豪快に飲む姿が雄々しくて格好良いです。俺も飲めないことはないんですが……そんなに飲むんですねぇ」
「おぉよビールは美味いからな、それにへべれけになると気持ち良いんだ。兄ちゃんも飲めよ~ほれほれ」
「いやあの、俺まだ食べてて……んん!」
ジョッキを近づけられ口に当てられる、そのまま遠慮なく斜めにしてくるから口を開けるしかなかった。このままだと零れてしまう。目を瞑ると俺は流れてくる液体をごくりごくりと飲み込む。少ししてジョッキが離れると軽く咳き込みながらはぁと息を吐いた。
「ケホ、おじさんちょっと強引ですって」
「がはは!すまんすまん兄ちゃんが可愛くてなぁついからかいたくなっちまうんだよ」
何か言われてるが俺はそれどころではなかった、だって今飲んだのって虎おじさんが口付けた……いわばこれって関節キス、だよな?分かってるのかなあの人。
赤くなりながら残りを食べると横の水を飲もう……としてまた飲まされる。今度はちゃんとジョッキを自分の手で持ってだ。飲め飲めって聞かないんだもん……残っていたビールを飲むとジョッキをテーブルに置く。なぜかお~と拍手された。
「いやぁ楽しいなぁこんな楽しいのは久しぶりだ」
「俺も楽しいし喜んでくれるのは嬉しいんですけど、大丈夫ですか?大分酔ってるみたいですけど」
「ん~?まだまだ序の口よ、もう後5杯は飲めそうだなぁ」
これ以上飲んだら確実にここで倒れそうなのでファミレスを出ることにしたんだ、このまま居たらこの虎さん絶対頼むから。流石にこんな大男担げないし。席を立つとレジへと歩き虎おじさんは言われた金額を見てお札を出す、慌てて財布を出すが虎おじさんは俺に奢られろってと勝手に会計を済ませてしまった。
「なんかありがとうございます。わざわざ払ってもらっちゃって……」
「いいの、俺が払いたかったんだからよ?楽しい分の料金も入ってるんだって。ふぃ~」
軽く背伸びをする虎おじさんは少し足元がふらついていた、いややっぱり危ないって。本当はもっとあちこち行きたかったが酔い具合を見て一旦虎おじさんと家に帰ることにしたんだ。
「え~俺は大丈夫だぞぉ?」
「転んで怪我したりしたら困りますし、おじさん他の人に絡みそうだし」
「おいおい何言ってんだ、今日は兄ちゃんがいるんだぞ?他の奴に絡むなら兄ちゃんに絡むって。こ~んな風になぁ」
「わぁ!か、絡まないでください!」
後ろから抱き着いてきて首や体に腕を巻き付ける。物理的に絡まれて真っ赤になりながら俺は虎おじさんに細やかな抵抗をした。言葉ではそう言っていたけど内心ではかなり喜んでいる。あの虎おじさんと接触している、抱き着かれて体を揉まれている、そう思うともう色々やばい事になってくるんだ。何とか落ち着けと口に出さずに大絶叫する。こんな外で勃起なんてしたら……落ち着け、落ち着けっっ!
どうにかこうにか虎おじさんを解くと肩に回された腕を掴みながら歩いていた。
「あ~まぁあれだ、言った通りちょっと酔ったな」
「ちょっとですか?」
「ちょ、ちょっとだよちょっと。いや!やっぱり酔ってない!これぐらい酔った内に入らない!」
やれやれと苦笑すると虎おじさんの家に着く、靴を脱いで上がると朝居た和室の部屋に移動したんだ、そこで虎おじさんは雪崩れ込むようにして地面に横になってしまった。眠たそうな顔をして大あくびをすると横になりながら服を脱いで上半身裸になってしまう。
「あ~……」
「おじさん風邪ひきますよ?」
「今日は暑いから大丈夫だって。お前も一緒に寝ろよぉ」
言いながら虎おじさんの瞼は閉じてすぐにでも寝息を立て始めたんだ、ぐうがぁといびきをかきながら完全に眠ってしまっている。途端に会話が無くなり静かになる部屋。
「ね、寝ろって言ったって……」
赤くなりながら地面に座り虎おじさんを見る。こんな無防備で、しかも周りには誰もいない、二人っきりだ。これは俺への悪魔の囁きなのだろうか?悪戯しろって言われているのか?なんて事を考えてしまう。ドキドキして、すぐにでも股間は硬く張り詰めてしまう。
「寝てる……よな」
震える手を伸ばしてゆっくりと体に触る。胸に手の平を乗せてもまるで反応がないのを見て軽く左右に撫でる。しっかりと確認するようにして分かったがでこぼこ感が凄い。まさに筋肉が詰まっているという感じだ、そこに無駄な要素はあまり……いや少し脂肪があるかな?酒とか甘い物とかも結構食べてたりしたっけ。それでも全然鍛えられているという印象だ。
やがてその手は徐々に下がる、ごくりと唾を飲み込むと優しくズボンの上から股間に手を当てる。
「(で、でかい……)」
素材的に結構硬い方と思われるジーパンなのにこのもっこり感、そこはほのかに温もりがあって柔らかかった。一度興奮してのめり込んでしまうと理性だけでは止められず、分かっているのに我慢が出来ない。はぁはぁと呼吸を荒くしながらもう一つの手をゆっくりと伸ばす、フックを外し、ジッパーを下げていくと収まっていたものが飛び出してきたんだ、それを触ると軽く撫でる。パンツ越しだが何だか生で触っているみたいだ。このまま刺激したら勃起するのだろうか……。
それにしても全然起きない、眠りは深いのかもしれない。俺は何度も悪い悪魔に起きないよう祈りながら触り続ける。口は唾液が溜まり喉が渇く。こんな良い天気の中、薄暗い和室で俺は何をやっているんだ。バレたら嫌われるかもしれない、でも……でもっ。
「はぁはぁ」
片手でズボンとパンツをずり下げるとチンコを出す。息を荒くしながら扱き、顔を徐に近づけたんだ。すんすんとにおいを嗅ぎつつそれをおかずに腕を動かす。朝風呂に入ったとはいえ動いているしやっぱり汗臭い、そしてこの人だけの体臭、雄臭くて歳特有の若干の加齢臭みたいなにおい。頭がおかしくなりそうだった。
「ん~」
「っっ!?」
突然の声に驚き固まってしまう。やばいと思うのに体が動かなかった。
「なんだ?兄ちゃん何してるんだぁ?」
「い、いやそのこれは!違くて!あのっほんと違くて!」
涙目になりながら言い訳しようとする俺を見てぽかんと頭にはてなを浮かべる、すると虎おじさんはにこっと笑って両手を伸ばし俺に抱き着いてきたんだ。そのまま地面に横になるとぎゅっと抱きしめられる。
「一緒に寝ろって言ったろ~?」
「え、えっと俺……」
完全に逃げ場を失いどうすればいいか分からない、戸惑っていると目の前の顔はまた目を瞑りいびきをかき始めてしまった。眠ってしまったのだろうか?試しにおじさんと小声で呼ぶが反応しない。今では手に力が入っていないため俺でも退かすことができた。
「良くないよな、やっぱり」
もう十分だ、十分堪能させてもらった、においだって感触だって覚えている、妄想素材としては揃いに揃っているんだ、だから俺はその場から離れようとしたんだ。だが動くと虎おじさんはまるで起きているかのように力を入れる。もしかして眠ったフリなのか?まさかな。
「お、おじさん?」
「……ん~……なんだ?」
呼ばれて起きたのかそれとも起きていたのか、瞼を開けると眠そうな目で見てくる。呼んだはいいが次の言葉が出てこない。眠いなら帰りますよとか、今日はおひらきにしますかとか。色々言えることがあるはずなのに、思ってもそれが口から出てこないんだ。こんなに荒く呼吸して口が開いているのに。
「兄ちゃんの硬いのがぶつかってるな」
「えっ!?」
そういえば俺はずっと勃起しっぱなしだった、それは今も収まっていない。慌てていると体がビクンと反応した。だって今俺は……。
「でかいなぁ」
「おじ……さんっ」
外に出しているそれを虎おじさんは握ってきたんだ。生で扱かれる快感に呻いてしまい、思わず手が伸びる。そのまま虎おじさんを抱きしめているとこつんとおでこをぶつけてきた。
「俺のも触ってくれよ」
「い、いいんですか?」
「触ってほしいなぁ」
視線を下にやると恐る恐るパンツに手をかける、そのまま中に手を入れると萎えた柔らかい虎おじさんの竿を握ったんだ。
「……ぁぁ」
刺激で声を漏らす虎おじさん、俺はとうとうあの虎おじさんのチンコを触っているんだ。何度も妄想した物を現実で触れる、俺の心臓は爆発寸前だった。気を失ってしまうんじゃないかという興奮状態の中互いに掴んでは扱きあっている。
「気持ち良いぞ、ほら、チンコ勃ちそうだ」
「ぁ、おじさん……」
パンツから出てくる竿と玉、それがパンツの上に乗っかって姿を現したんだ。完全に硬くなった虎おじさんのチンコは相当でかかった。しっかり握っているのに数ミリ分親指と人差し指の間に隙間ができる。そんなでかいものを俺は今扱いているんだ。熱くて脈打って……これは本当に現実か?
「エッチなこと好きか?」
「あ、あの俺……今頭が混乱しちゃって」
「はは、こういう時は大好きって言っておくと得するぞ」
「あ……ぅ、あの、えっと、だ、大好きです」
「よしよし、いい子だな。男は好きか?」
「は、はい」
「俺は?」
「すす、好きです。大好きです」
「嬉しいなぁ、ご褒美だ」
「んんっ!」
突然のキスに目を見開く。思考が追い付かないまま虎おじさんはどんどん行動していった。舌で無理矢理口をこじ開け、中に入れてくる。そのまま探るように動かし俺の舌を見つけると絡めてきたんだ。ぐちゅりぐちゅりと音を立てながら唾液を流し込んできて、上手く俺の唾液を拭い取ると飲んでいく。互いに唾液を交換すると味わうようにして飲みあったんだ。
「んっぷは!お、おじさん……」
「折角エッチしてるんだから色々考えるなって。気持ち良い事、欲しい物、それだけを考えろ、な?」
こくんと頷くとご褒美とばかりに顔を耳に近づけてくる。そこではぁはぁと呼吸をしながらわざと低い声を聞かせてくるんだ。虎おじさんの口から出てくる直接的な単語に俺は体が燃えるように熱くなる。もう全身汗だらけだった。この間ずっと優しく扱かれ続けていた。流石にもう我慢できない、むしろ良く持った方だ。
「あっだ、ダメですおじさん、俺……い、イッちゃう」
「おぉそうか、いいぞ?好きなだけ出せって。俺のチンコにぶっかけてくれよ」
「あっあぁぁ!」
ぎゅっと力を強めると激しく動き出す。あまりに気持ち良すぎて虎おじさんのチンコから手を離すと体を強く抱きしめた。肩に頭を乗せぶるぶる震えるとその時が来てしまう。
「い、イクッ!出るっ!あぁおじさん!あっああああ!!」
ドクッドクッドクッ
何の我慢もできずあっけなく射精してしまった。俺の出す精液は虎おじさんの股間を汚し、チンコや玉、パンツに染みを作っていく。そのままだらりと畳に垂れていったんだ。
「よぅしよぅし、エロかったぞ兄ちゃん」
「おじさん……」
「寝ちまえよ、一緒に寝ようぜ」
そう言うとキスをする。射精の余韻に浸かりながら目を瞑ると入ってくる虎おじさんの舌を味わったんだ。凄く凄く幸せで、満ち足りた気持ちになっていた。だんだんと眠気が俺を襲い、思考がぶれていく。先ほどからずっと緊張しっぱなしでその分体力も沢山使ったんだと思う。何を言うでもなくキスをしたまま俺は意識がだんだんと薄くなっていったんだ。
*
「んっ……ぁ、あれ……ここ」
ふと目が覚める、ぼぉっとしたまま体を起こすと周りを見回した。俺はいったい何をしていたんだっけ?見慣れない景色だったが鼻から入る知っているにおいに気づき俺は一気に体が熱くなる。
「もしかして、おじさんの寝室?これおじさんが寝ている布団……」
ゆっくりと体を回転してうつ伏せになるとにおいを嗅ぐ、その布団は染み込んだ虎おじさんのにおいが強く残っていた。それだけで俺は発情状態になってしまう。徐々に思い出す少し前の出来事にまたも股間が硬くなり、慌てて起き上がったんだ。
「え!?いやちょ!俺服着てないんだけど!?」
布団を捲るとなぜか全裸だった。きょろきょろ周りを探すと横に先ほどまで着ていた俺の服を見つけ、慌ててそれを着る。ドタバタしているとがちゃりと音がし扉が開いたんだ。
「お!兄ちゃん起きたみたいだな。何だ服着ちゃったのか」
「お、おじさん!あの俺なんか凄い失礼なことしちゃったみたいで!」
「失礼なこと?された覚えはないが。なぁ腹減ってるか?あっちに弁当買ってあるから一緒に食べようじゃないか」
えっと、いいんです?おぉいいぞ!がははと笑いながら虎おじさんは待ってるからな~と出ていったんだ。あんなに慌てていたのに虎おじさんは至って冷静だ。少し前までエッチなことしてなのに……もしかして酔ってて覚えていないとか?なんか俺だけ騒いで馬鹿みたいだ。
「あれが大人の対応……いやいや、早くいかないと」
着替えを済ますと扉を開けて寝室から出たんだ。
バタン
「あぁ来たな、なぁ唐揚げとハンバーグどっちが食べたい?」
「え?えっと、おじさんが先に――」
「どっちが食いたいんだ~?」
「ぅぅ、じゃぁか、唐揚げの方いただきます」
「よし!じゃぁ俺はこっち貰うな。熱ちち!今ジュース持ってくるからよ、ビール飲むか?」
「いや、ありがたいですけどジュースでお願いします」
「あいよ」
冷蔵庫へと歩く虎おじさんを見る、今はパンツに白いシャツという姿だった。酔っていた先ほどと比べるとかなり落ち着いて見えたしアルコールは抜けたのかもしれない。テーブルの前に座ると虎おじさんを待ち、コップに林檎のジュースを入れて持ってきてくれる。横にパックを置くといっぱいあるから遠慮せず飲んでくれと言われた。ありがとうございます。
「今何時くらいか分かります?」
「ん?あそこに時計があるぞ、6時ちょっとすぎみたいだ」
指を差されると壁に時計が掛かっているのが見えた。ここに着いたのが12時を少し回った頃だったからかなり時間が経っている。何だか長いこと居座っちゃってすみませんと謝るとぽんと頭に手を置かれた。
「なぁに言ってんだ兄ちゃん、俺は楽しかったんだぞ?いや、楽しいだ。兄ちゃんがいいなら泊ったっていい、誰もいないんだしよ」
それは嬉しいが流石に今日は帰ろうと思っていた、親にも言っていないし。電話すればいいかもしれないが、俺の気持ちが全然整っていない。今だってさっきほどじゃないが未だにちょっとドキドキしているし。二人でいただきますと言って弁当を食べながら色々喋っていたんだ。
「はぁ食った食った。やっぱ腹が膨れると良い気分になるなぁ」
「そうですね、ありがとうございます」
「どういたしまして。さっきの事もな」
ゴフッと飲んでいたジュースを吹き出しそうになる。軽く咳き込むと胸を叩いて空気を取り込んだんだ。おいおい大丈夫か?何とかはいと返事するとがははと笑われてしまった。
虎おじさんはこっちに向き直るとテーブルに頬杖をつきながら俺を見ていた。片手にビールを持ってちびちび飲んでいる。
「兄ちゃん、エッチしたことあるのか?」
「ぅぅ、あの……あんなことしたのおじさんが初めてです」
「おっとそうなのか?兄ちゃんモテそうだしヤりまくってるのかと思ったがな」
「そっそんなことできないですよ!前から俺小心者だし引っ込み思案で、友達だって全然作れなくて……」
「そうだったのかぁ苦労したんだな。でも今は俺が友達だな、それに兄ちゃんの初めての相手になれたわけだ」
嬉しいぞ?そんな言葉を言われて思わず尻尾が触れまくる。好きだと思っている相手に嬉しいとか言われたら舞い上がっちゃうって。
「まぁあれだ、ああいう事したってことは一応確認だが、兄ちゃんホモでいいんだよな?」
「は、はい」
「ガハハ!そんなおどおどするなって」
親にも言っていないひた隠しにしていたことが分かってしまうとそりゃ誰だってこうなると思う、今は目もまともに合わせられない。そんな俺のことを見て軽く笑うと酒を飲む。空になった缶をテーブルに置くと甲高い音がした。
「話したと思うが、俺は若い頃は女とも付き合ってな、デートしたり、まぁあれだ、セックスだってした。もし兄ちゃんが俺の初めて欲しかったんならごめんな?こんなスケベ親父だからよ。若い頃からそんな感じだったんだ」
ぽつりぽつりと虎おじさんは昔話を始める。その言葉を俺は不思議なくらいに落ち着いて聞いてられたんだ。さっきはあんなに昂っていたのに、虎おじさんの事が分かると思うとしっかり聞こうという意識になっていたんだ。
「だが、俺にとって初めてといやぁさっきの事だ。女とはやっても男とはやってない、自分以外のチンコ触ったの初めてだぞ?」
「そ、そうだったんですか……凄いドキドキしました」
「がはは!俺もそうだ!正直酔っぱらった勢いでな、ちょっとした悪戯のつもりだったんだ。だけどよ、兄ちゃんがその時まぁあれだ、あ~……色っぽく見えてよ。今まで男見てもその気は湧かなかったのに兄ちゃんを見たらそういう感情が生まれちまった。兄ちゃんとエッチ……いや、セックスしてえなぁって」
「え!?」
虎おじさんはにやりと笑っていた、そしてその後にがははと大笑いしたんだ。
「俺は多分ホモじゃないと思うんだわ、女を見ても興奮するし現にヤれる。男とやりたいかって聞かれると顔を横に振っちまうんだろうなぁ。だけどよ、兄ちゃんは別なんだ。なんでなんだろうなぁ?」
はぁ~と両手を上げると背伸びをする。一度手を下ろすとちょいちょいっと手の平を曲げて俺を呼ぶんだ。近づくとすぐそばに顔が来る。
「もう一回キスさせてくれねえか?」
「お、俺で良ければ」
「よしよし……んん」
お互いに顔を傾けるとキスをする。今度は優しく、ただ口先をくっつけただけだった。数秒かたまって、ゆっくりと離れる。
「っはぁ~なんか緊張するな。やっぱ兄ちゃんは違うみたいだ、全く嫌じゃない。説明はできないけどよ、ほら見てみろ」
「……っ」
「がはは!兄ちゃんとキスしただけでチンコおっ勃っちまったもんな!他の男じゃこうはならねえって」
楽しそうに笑う虎おじさんだが俺の心はあまりついていけてなかった。沢山褒めてくれて俺のことをそんな風に言ってもらえて……凄く嬉しいんだが、それと同時に切なさを感じるんだ。どんどん俺は虎おじさんが好きになっていっている、虎おじさんは俺のことを友達だって言ってくれた、そう友達なんだ。恋人じゃない……あの人にとって俺はそうなりえる存在なのかどうか。それを考えると何だかちょっと悲しくなってきたんだ。今のこれだってきっと、性的な発散目的かもしれない、エッチなことができる友人、たったそれだけ。胸が苦しくなる気がした。
「ん、どうした?何だか泣きそうな顔だな」
「あの、俺……色々考えちゃって」
「そうか、馬鹿な頭だがちょっとは考えることができる。だけど、今は色々言うべきじゃないよな。少し考えてきなよ、慌てることはないからな」
「は……い」
目の前にあるジュースをぐいっと飲み込むと立ち上がる。
「俺、今日は帰ります」
「そうか!よし、じゃぁ解散だな。明日は仕事だけどよ、挨拶してくれよ」
「はい!俺もあるんでちゃんと声かけさせてもらいます!」
「がっはっは!やぁっと元気な顔見れたな、待ってるぞ」
ぽんと肩を叩かれると虎おじさんは立ち上がる、そして二人で玄関に行くと靴を履き、俺は外に出たんだ。振り返ると虎おじさんが見送ってくれる。
「また明日な!」
「はい!ありがとうございました、また明日!」
「おぉ!」
頭を下げると家へと向かって歩き出したんだ。
気分の昂ぶりからか走って家に帰る。玄関前に行くとはぁはぁと呼吸をし一旦深呼吸してから中へと入っていった。
「ただいま~」
*
あの日から俺は本気で自分の気持ちと向き合うことにした。好きかもしれない、きっと好きなんだ……そんな曖昧な事をじゃなく、好きだとしたら付き合えるかどうか、付き合ったとしてちゃんと釣り合える自分になれるかどうか、しっかりあの虎おじさんと幸せになれるかどうか。挨拶をして、仕事をしながらちょっとずつ整理を付けていったんだ。
「おはようございます!」
「おお兄ちゃんおはようさん!」
数日経って変わらず挨拶をする、当たり前のように出てくると頭をがしがしと撫でてくれた。子ども扱いしないでくださいよ~とは言うが傍から見てもすり寄ってるのは明らかだ。
「兄ちゃんは可愛いなぁ」
「恥ずかしいですって、お仕事頑張ってください!」
「おぉありがとよ、兄ちゃんも――」
「おいクソ虎!さっさとこっち来て仕事しやがれ!」
突然の怒号にびくりと体を震わせた。声のした方を見ると同じ作業着を着た熊の獣人が立っていたんだ。腕組みをして眉間にしわを寄せて怒っているような顔だった。
「おいおい少しくらいいいだろ?何もサボろうって――」
「言い訳してんじゃねえ仕事しろ!」
「……ちっ、分かったよ今行く」
心底五月蠅そうにな顔をすると眉を下げてごめんな、コンビニ行くからなとだけ言って戻っていった。虎おじさんのあんな顔初めて見た……本気で面倒くさそうで、舌打ちなんて想像できなかった。状況についていけないでいると更にびくりと体が震える。
「おいそこの奴!」
「は、はい!」」
「お前が来るとあいつがサボりたがる、少しは気を遣え。仕事の邪魔なんだよ」
怒られると俺はしゅんと項垂れる。す、すみませんと謝るとふんと熊は去っていった。その場にいるのが怖くて慌てて逃げるように走り去ったんだ。
怖かった……まさかあんなこと言われるなんて。そりゃ邪魔してるかもとは思ったけど、今まで誰も何も言ってこなかったし虎おじさんも嬉しそうにしてたし。でも周りから見たらそうじゃなかったのかもしれない、いや……そうだよな、仕事中なんだ。それなのに声をかけてる俺の方が変なのかもしれない。
「あの熊の人怖かった、気を付けよう」
今度からは軽々しく声をかけるのは止そう。そうだ、何もあの場所以外でもコンビニでも話せるじゃないか。来てくれるんだ、要は邪魔にならなければいい。言い訳っぽく自分に言い聞かせると気持ちを切り替えるようにしてコンビニへと向かった。
だが結局俺の気持ちはそのままだった、頭にそれが引っかかっていて仕事に集中できない。なぜ今になってあんな風に怒ったんだろう、もしそう思うのなら最初から言ってくるはずだ。なにかあったんだろうか。
「いらっしゃいま、あ、おじさん」
入ってきたのは虎おじさんだった、片手を上げるとにこにこ笑っている。近づくと俺に眉を下げて話しかけてきたんだ。
「朝悪かったな、怖かっただろう?」
「まぁ、少しは……」
「あいつ性格悪いんだ、口も悪いし。ごめんな?こんな事もうないよう言い聞かせるからさ」
顔を横に振ると大丈夫ですと答えた、むしろ俺の方こそ邪魔してしまってと。あの熊の言い分も分かるから。間違ったことは言っていない……と思う、多分。だが虎おじさんはえ~と不満な声を漏らす。
「俺は話しかけてもらいたいぞ」
「で、でもあの熊の人怒るし、よくよく考えれば仕事してる最中に声かけるなんて――」
「兄ちゃん言ったよな?エネルギー貰ってるって」
「え?」
「俺もなんだよ。朝兄ちゃんと話すと、仕事がんばるぞーって気持ちになれるんだ、だから俺にとってはプラスになるんだ。他の奴だってあいつ以外は別に何とも思ってないしよ」
頼むよ、な?そんな風に言われると断り辛いものだ。じゃ、じゃぁ様子を見て大丈夫そうならと言った。するとおじさんは心底安堵したように息を漏らしありがとうなと言ってカゴを持ったんだ。その後ろ姿を見てこの選択が本当に正しいのかどうか悩んでしまう。俺は話せて嬉しい、けど虎おじさんが迷惑になりそうなら俺はそっちの方が嫌だ。あの場所に居づらい、空気が悪くなるなら我慢する。たとえ虎おじさんが欲していたとしてもだ。
レジに並び、虎おじさんの番が来ると弁当を温める。そして商品を袋に入れ弁当が温まるとそれも袋に入れて手渡した。
「今ちょっと忙しくてなぁ中々時間が取れないんだ。だけどよ、また遊ぼうな?」
「はい、俺で良ければいつでも!」
「がはは!そうこなくちゃな、それじゃぁまた明日な」
「はい、お疲れ様でした!」
頭を下げるとひらひらと手を振って帰っていった。色々考えたけど少し話すと俺の考え過ぎなのかなって思ってしまう。恐るべき虎おじさんパワー……どんだけ好きなんだと苦笑すると残りの仕事を終わりにしたんだ。明日も挨拶できるといいな、そう思いながら。
*
それは突然だった。
朝いつものように支度し家を出て建築現場の前を通る、だが虎おじさんはいなかった。ゆっくり歩いて様子を見るのだがどこにも見当たらないし出てくる様子もない。他の作業員は特に変わりもなく働いている。変だな?いつもだったら虎おじさん自分から来るのに。
忙しいって言ってたしたまたまかもしれない、奥の方にいて気づかないのかも。そう思って残念だけどそのまま行くことにした。まだ後で会えるだろう、そう思っていたがそれが間違いだと気づいたのは夕暮れになった時だった。
「……来ない」
虎おじさんは来なかった。俺が仕事の時は絶対と言えるほど来てくれたのに。そう、虎おじさんが休みの日でさえ来るんだ。休みじゃなかったんですか?って聞くと会いたいからって。嬉しかった、でも今日は来ない。変に思いながらも作業をする。体調を崩したのかとか、流石に疲れてて来れなかったとか、色々理由を考えてみるがどうもしっくりこない。何かあったのだろうか?
結局その日は一度も会えなかった。もやもやした気持ちを胸に残したまま家に帰り、それはとれることはなかった。
そんな日がもう三日続いた。この三日、一度も会っていないんだ。流石におかしいと思い次の日、俺は思い切って現場に行き話を聞こうとしていた。だがいざ行くと皆忙しそうに仕事していて話しかける余裕がない。しかも誰に聞いたらいいのか、おどおどするばかりで先に進まないんだ。
「ん?あ、もしかして虎先輩の友達っすか?」
「え、あ、えっと……そ、そうです」
話しかけてきたのは牛獣人だった。確かこの人虎おじさんと楽しそうに話していた人だと思う。近づいてきてあ~と声を出すと視線を逸らす。
「多分虎先輩のことっすよね、ちょっと言いにくいんすけど……」
「な、何かあったんですか?」
「まぁあれっす。分かりやすく言っちゃうと、事故ったんす」
驚いて言葉が出なかった、体から一気に血が引いていくのが分かる、寒くて毛が逆立ちそうなくらいだった。そんな俺にもう少しだけ話を続けてくれる。
「ほら、上の方あれ見えるっしょ?あんな風に鉄の板や階段使って上って作業したりするんすよ」
指を差された方を見ると犬の獣人が高い所で作業していた。その足元は鉄の棒や板で登れるよう作られている。見た目は随分しっかりしていそうなのだが……。
「理由は分かんねっすけど、虎先輩足を滑らせてそのまま下に落っこっちまって、しかも不幸なことにヘルメットが外れちまってたみたいで……」
「どど、どうなったんですか?」
「今は入院中っす。結構重症のようで意識がなくて、すぐ病院に運ばれて。俺も面会に行ったんすけど……」
はぁと溜息をつくと頭を振った。凄く言い辛そうにしていて横を見る。体中から冷や汗が出て胸の部分の服を掴む。ドキドキして、この先の事を聞くのが怖かった。
「記憶、ないんす。先生は一時的なものかもしれないとは言ってたんすけど、絶対戻るとも言えないみたいで……俺の事分からなかったっす」
「そ、そんな……」
「もし会いに行くなら病院の場所教えるっす。っつってもこの辺だと近場は一個だけだから知ってると思うんすけど。会うならそのつもりでっす。多分……兄さんの事も分かんねっすよ」
体が震えた、理解がまるで追いつかなかった。あの時会えなかったのは事故で落ちて運ばれたから……その時にはすでに病院に行って、今はもう三日過ぎてる。その間も入院中で、落ちた衝撃で記憶が飛んで……俺のことは分からないかも……そんなの、そんなのって。
「ば、場所を……聞いてもいいですか」
携帯を出すとメモ帳を開く。牛の人はゆっくりと教えてくれた。場所と、部屋の番号。震えて中々押せず時間がかかったがそれでも何度も教えてくれた。記録するとありがとうございますと頭下げる。
「そろそろ行かないと熊先輩に殴られるっすから。あの、慰めにもなんないと思うすけど……元気出してっす」
「す、すみませんありがとうございます」
「俺も頑張るっすから!それじゃぁ!」
走っていく牛獣人を見ながら未だに動けないでいた。動悸がして呼吸が荒くなる。
「おじさん……事故、記憶がない?俺のこと、仕事、仲間のことも全部忘れた……?」
ようやく歩き出せた俺はふらふらとしながら何度も言われたことを頭の中で思い浮かべていた。それとともに徐々に涙が出てきて、やがてそれは止まらなくなる。すれ違う人は怪訝な顔を浮かべるがそれを気にする余裕なんてなかった。今の俺には何の余裕もない。
胸が苦しくなって、気づいたらコンビニにいた。更衣室に入るが着替えられず俺はその場でしゃがみ込んでしまう。
「っと、あれ?おはよ……ど、どうしたんだ?」
一緒に仕事をしている人が時間になってやってくる。更衣室に入ると俺を見てびっくりしていた。
「大丈夫か!?」
「お、俺……ぐすっ、ちょっと今仕事、で、出来そうにない……です」
「何があったか分からないが休んでろって。俺がやるから、もし無理そうなら何とか一人でやるからよ、帰って落ち着けてくるんだ」
「す、すみません、迷惑かけて」
その人は背中をポンポンと叩くと安静にしてくれよと言って着替えだす。そのまま俺を気に掛けつつも更衣室を出ていったんだ。
「こんなのって……こんなのってないよ。どうして、なんでこんな……」
声を押し殺しながら鼻を鳴らす。膝を抱えて一人ぐすぐすと泣いていた。もうまともではいられず頭がおかしくなりそうだった。
十分二十分と時間は過ぎ少し落ち着いたころには外は夕暮れとなっていた。いつもは働いていて虎おじさんが会いに来てくれる時間だ。当然今日も来ない、入院しているのだから。気怠い体を引きずるようにして立ち上がると更衣室から出る。一緒に働いている人に帰ることを伝えるとしっかり休養するんだぞと言われた。こくんと頭を下げるとコンビニから出て歩き出す。
「……病院」
携帯を出すとメモ帳を開き教えてもらった事を確認する。
(会うならそのつもりでっす。多分……兄さんの事も分かんねっすよ)
「俺が行っても……俺の事が分からない」
それでも、そうだとしても確かめたかったんだ、もしかしたら記憶が戻ってるかもしれない、絶対じゃないと言っていた、ならもしかしたら……携帯を握りしめるとその場から走り出して病院を目指した。
自動ドアを過ぎると受付に向かい、面会できるかどうかを聞いてみる。友人だということを伝え、仕事仲間の人に教えてもらったと伝えて部屋番号を言うとナースの人は確認し合っていることを教えてくる。その場所への行き方を説明され、ありがとうございますと言うと部屋へと向かったんだ。
ゆっくり、歩いて近づいていきにつれて俺の心臓はどんどん速くなっていく、そしてついにその部屋の前まで来た。ぎゅっと服を掴むと唾を飲み込んで引き戸を引いていく。
「お、お邪魔します」
「ん?」
虎おじさんは起きていた、カーテンが引かれていて上半身を起こしている。頭には包帯を巻いていて前開きの病院用の服を着ていた。開いた胸元から体にも包帯がしてあるのが分かった。
「だ、大丈夫ですか?面会に来たんですけど」
「おぉそうなのか!ありがとうな!えっと……」
苦笑しながら頬をかくおじさん。やっぱりだやっぱり――
「ごめんな、俺君の事が分からないみたいだ。うーん君だけじゃなくてな、俺がどこで何してたのかとかどんな奴と知り合いだったのかとかが思い出せなくてなぁ」
目の前にして現実を見せられ俺は絶望する。分かっていたのに、いざ見てしまうと受け入れきれない。また涙が出てきてまともに前を向くことさえできなかった。折角虎おじさんがいるのに、折角会えたのに見るのが苦痛だった。
「だ、大丈夫か?」
「すみません、俺……抑えきれなくて」
「そうか、悪いな、多分原因は俺だよな」
そんなことはない、そう言おうと思って前を見ると虎おじさんは腕を広げていた。
「こんなことしかできないが、俺の胸で良ければ貸すぞ?」
「おじさん、おじさん……っ!」
一歩一歩近づくとそのまま抱き着いてしまう、そうなるともう我慢が出来なかった。涙もぼろぼろ流れてきて声も出てくる。
「うわぁ……あっぐす、ふぐ、おじさん……」
「……本当にごめんな、何も思い出せなくて。多分泣いてくれるってことは俺にとって大事な人だったんだよなきっと」
頭を撫でられ、それが嬉しく、懐かしくてまた涙が出る。何か言いたいのにそれは全て涙声に代わる。こんな姿見せたくなかった、だらしない泣き顔なんて。でもダメなんだ、抑えようとすればするほど溢れてくる。
「俺はここにいるから。大丈夫だ」
泣き止むまでずっと撫でられ、落ち着いた時には胸がびっしょりに濡れていた。ティッシュを貰い顔を拭くとおじさんを見る。近くに椅子があった為それを持ってきて座ったんだ。
「聞いてもいいか?俺と君との関係を」
こくんと頷くと今までの事を話した。俺が虎おじさんを初めて見た日、その日から胸に引っ掛かりを覚え意識し出したこと。虎おじさんはコンビニに来て、徐々に仲良くなって朝の挨拶をして。一緒に遊んだことも話した。流石に恥ずかしくてエッチなことしたのは話さなかったけども。
「そうだったのかぁ。じゃあ俺と君は友達だったんだな。はぁ、なんで忘れちまってるんだろう」
天井を見上げる虎おじさんは溜息をつく、少ししてから虎おじさんは俺を見た。ごめんな、もう少しだけ付き合ってくれ。そう言うと次は仕事の事を聞いてきたんだ。だがこれは俺に言えることはほとんどない。傍から見た様子でこんな風でしたと簡単に伝えるとなるほどと腕を組んだ。
「少し前に牛の奴が来てな、仕事仲間だって言われたよ。そいつも君ほどじゃないが凄く落ち込んでる顔でな。だが俺には何一つ分からないんだ、そいつも君も、どうして落ち込んでいるかも。与えられた情報でしかなくて俺は今一現実味がなくてな」
「俺もそうです。あんなに楽しく話していたのに、今目の前にいるおじさんはその……記憶なくて、いわば初めて会った他人の状態で……思い出は俺ばかり持ってて」
「そうだよな、辛いと思う。俺も何とか思い出せるように努力してみるからよ。だから落ち込むなって。な?」
「……また泣きそうです」
「おいおい、大丈夫だ。きっと何とかなる、まぁ根拠はないが……ないけど多分大丈夫だ!がはは!」
「おじさん……」
その笑顔を見てようやく少しだけ落ち着いた。記憶はないけど性格や話し方は虎おじさんのままだった。
「じゃぁよ、折角会えたんだ。もし万が一記憶が戻らなくても、また友達になってくれるか?」
「え?」
「初めからになっちまうけどよ、君は……えっと、兄ちゃんって呼んでたんだっけ?兄ちゃんは俺の事もう知ってるしよ、助けにもなると思う。だから俺の面倒見てくれよ」
そう言われて俺は嬉しくなったんだ。そうだ、何もここで全て終わるわけじゃない、またやり直せばいいじゃないか。今までの思い出は俺だけになるけど、これからの思い出は二人で共有できる。そうだ、また一緒に頑張ればいい。勿論ですと俺は頭を縦に振るとぽんと肩を叩かれる。
「ありがとうな、兄ちゃん良い奴だなぁ。本当こんな素敵な奴を忘れるなんて勿体ないな俺は」
がはは笑いに釣られてまったくですよも~と言いながら笑う。泣きながらも笑っていたんだ。俺はまだやれることがある。またやれることがあるんだ。
頃合いを見て椅子を片付けると立ち上がる。
「そろそろ帰ります。外ももう真っ暗だし」
「そうか、今日は来てくれてありがとうな。明日も来てくれると嬉しいぞ、待ってるな?」
「はい、また来ます。それじゃぁ失礼します」
軽く手を振り合うと病室を出る、ふぅと息を吐くと病院を出て家へと向かった。
「やっぱり記憶はなかったけど、思ったより元気そうだった。それがなによりだよな、生きてるんだもん。虎おじさん、嬉しそうだった。良かった、また友達になれるんだ」
独り言を言いながら自分に言い聞かせる。もう大丈夫だ、切り替えるとかそういうのはまだまだ時間かかるけど、コンビニにいた時みたいに泣き崩れて動けなくなるなんてことはない。それよりもこの先のことをもっと考えて今を頑張らないと。ぎゅっと拳を握ると走り出して家へと向かう。
「ただいま~」
「お帰りー」
家に着き中に入るとリビングへと向かう。そこではご飯がすでにできていてラップがしてあった。
「今日は遅かったのね、残業?」
「ううんそうじゃないんだけど、ちょっと用事があって」
「そうなのか、まぁお前も大人だから何かしらあるかもしれないが、心配だから遅くなるなら連絡するんだぞ?」
「はーい」
用意された晩御飯を持つとレンジに入れて少し温める。炊けた米をお椀に入れると今日は自分の部屋で食べると伝えた。食べ終わったら食器持ってきて中に入れて置いてちょうだいね、うん分かったと頷くとその場を後にする。
バタン
「……はぁ」
テーブルに置くと箸を持っていただきますと言って食べ始める、だが正直あまり食欲はない。口に運んで食べるのだが何だが味があまりしないというか、普段なら美味しいと食べているのにあまり美味しく感じられない。腹は減っていたから喉へは通るのだが、何だかそれが無理矢理飯を食っている感じがして気分が良くなかった。
全て平らげるとそのままにして横になる。天井を見上げると白い壁におじさんとの思い出がスクリーンに上映するように映し出される。数々の楽しい思い出……おじさんとの会話や笑顔、今でも鮮明に思い出すことができる、その全てはもう俺の中にしかない、俺だけが知っている記憶……本人の虎おじさんとも共有できない。
「やっぱり、やっぱり寂しいよ……」
落ち着いていた感情がまた燃え上がり、布団を掴んで抱きしめると泣いてしまう。これから多分俺は何度もこんな風に泣いてしまうのだろう。いつかどこかで受け入れなきゃいけないとしても、それは当分先の話になるだろうな。
「……疲れた」
数十分ぼぉっとすると眠気がやってくる。今日は色々なことがありすぎた。疲労もいつもの何倍も感じていた。今日はもう寝よう、そう思って力の入らない体を無理矢理動かし風呂場へと向かったんだ。明日は今より少しマシになってるといいなぁ……。
*
次の日になって仕事へ行く。途中で通る建築現場はもう家のシルエットが出来始めていた。この家も虎おじさんが復帰する前に完成するのだろうか。あんなに頑張っていたのにその過程を知らず完成する瞬間も見られないことが残念に思えた。
「ん?」
「……してんだ、牛野郎!
「す、すんませんすぐやりますっすから!」
「さっさとしろ!」
近づくにつれて声が聞こえてくる、奥の方からだ、何となくだがあれは牛の人と熊の人だろうか。あの熊獣人また誰かを怒ってるんだ。怖くなって虎おじさんもいないしさっさと通り過ぎようとする。すると俺を発見した熊は近づいてきたんだ。
「おいお前!」
「え!?は、はい!」
明らかな怒り顔を隠しもせずじろりと睨んでくる。
「なんてことしてくれたんだ!お前のせいであのクソ虎が使えなくなっただろうが!」
驚かないわけがない、虎おじさんの現状が俺のせいだって言われたんだ、まるで意味が分からなかった。俺は何もしていない。それなのにこの熊は起った事故が俺が原因だと言う。慌てて違います何もしていませんというが熊は腕を組んでふんと鼻から息を出す。
「あの虎はお前が来てからやけにお前の話をしやがる、仕事中もお前の事ばかり気にかけていた。目に見えて仕事をサボっていたんだ。お前が来てからあいつの注意が散漫し出した。お前のせいだ」
まったくもっていい加減な話しだ。何だか無理矢理今回の事を俺に擦り付けてる気がした。流石に俺もむっとして止めてくださいと、それとこれとは関係ないですと言ったんだ。だが熊は青筋を立てると拳を握り怒号する。
「言い訳するんじゃねえ!使える奴が使えなくなったのは大きな痛手なんだよ、全くどうしてくれやがる!あいつがいなくなってこっちは余計忙しくなっちまった。あの虎がいたから俺が楽できたってのに……」
それを俺は聞き逃さなかった。何かおかしい……この熊は何か考えがあるようだ。あの虎おじさんは有能らしかった、それゆえに多分仕事も任されるんだろうなと思っていた。だがもしかしたら少し違うのかもしれない、あの虎おじさんがやることによって他の誰かが楽になる、もしかしたらサボれたり――
「聞いてんのか!」
「ひっ!あ、す、すみません!」
「いいか、もう近づくんじゃねえぞ。俺達は大事な仕事をしてんだよ、お前みたいな奴が来るところじゃねえんだ。分かったらとっとと失せやがれ」
熊はそれだけ言うとくるりと振り返って帰っていった。俺は慌ててその場から離れると少し距離を取ってから振り返り、耳を立てる。
「これはお前の仕事だ!やれ!つべこべ言わずやれ!」
「おいおい俺さっきあれやったばかりで――」
「言い訳せずにさっさとやれ!殴られたいのか!」
「はぁ……分かったよ。あんたも仕事しろよ」
「してるだろうが!俺は違う所をやってくる、サボるなよ」
やっぱり……あの熊は偉い立場にあるのかどうか分からないけど都合よく怒鳴ったり殴ったりして仲間に無理矢理きつい仕事をさせてるんだ。そして空いてる楽な仕事をしている。もしかしたらしているなんて嘘でどこかでサボっているのかもしれない、虎おじさんもこうやって利用されていたんだ。自分の為に。それが今回いなくなって自分が面倒なきつい仕事をしないといけなくなったから怒っているんだ。
「あくまで予想だけど、もしそうだとしたら……最低じゃないかそんなの」
何か言わなきゃと思う。だけど俺が何か言ったって多分怒鳴られるだけ、俺はきっとその声を聞くとすくみ上って何も言えなくなってしまうだろう。他の人は気づいているのだろうか?
「もしかしたらあの上に登ってやる作業ってあの熊だったんじゃないか?虎おじさんが文句言われて、変わって……落ちた。まさかそんな、おじさんを事故と見せかけて落とすためにとか……いや流石に……でも……」
俺の中でどんどん疑問が浮かんでくる。虎おじさんの話を聞くに熊とは日頃から話をしているっぽい?というか口喧嘩みたいになってそうだ。性格悪くて口悪くてって言ってた……それを知っているくらいには見ているんだろう。だとしたら喧嘩してやり返そうとして?でもここまでするだろうか、下手したら死んでいてもおかしくないようなことをするか?
「ダメだ全然纏まらない。もっとちゃんと考えよう……怖いけど、このままにしてはいけない気がする」
一度深呼吸をすると仕事場へと向かっていった。
黙々と仕事をし夕暮れ時、仕事が終わると真っ先に面会しようと病院へと向かう、そして虎おじさんの病室に行くと中へと入っていった。そこには先生らしき人物が横に立っていた。
「あ、すみません」
「いえ大丈夫ですよ、面会ですか?」
「はい」
近づくと俺はこの人の友達だと伝えた。先生は虎おじさんの現状を俺に教えてくれる。
「傷の治りは思ったよりもいいです。体が鍛えられていたのでそこまで深刻なダメージではないようです。ただやはり依然として記憶の方はこうだと断定できませんね。何かきっかけがあれば多分……」
「きっかけですか?」
「強い感情や思い出があればそれをきっかけに芋づる式で思い出すことがありますが、そのきっかけとなる思い出をどうにかして思い出す必要があると思います。ただぁ本人にとって何がそうなのか分からない以上今の所ちょっと難しいかもしれません」
「そうですか、ありがとうございます」
お礼を言うと先生は頭を下げて部屋から出ていった。
「来てくれてありがとうな」
「いえ、会いたかったですから。それにしても今の先生の説明聞きました?」
「あぁ聞いていたぞ、思い出かぁ……綺麗さっぱり抜けちまってるかなぁ。兄ちゃんが泣いてくれるくらい大事な思い出もあっただろうに、その兄ちゃんとのことも忘れちまってるからなぁ」
椅子を用意して座るとうーんと頭を傾けている、それを見て無理に考えなくていいですよと言ったんだ。一生懸命考えると逆に頭が痛くなるかもしれない。虎おじさんはそうかというと笑っていた。
「がはは……は?あれ、ちょっと待て」
「どうしました?」
「仕事、確か建築現場で働いてたって教えてもらったけどよ。そのことは忘れてるんだけどぉ、なんか引っ掛かるんだよなぁ。何だろうなぁ、俺気に入らない奴がいたかもしれない」
もしかしてと思いそれは熊の獣人でしたかと聞く。う~んう~んと唸るおじさんは少し待ってくれと言っていた。
「熊ぁ……熊ねぇ……。なんかそいつに怒鳴られたり殴られたりしたようなぁ」
「もしかして思い出せるかも!あ、でも無理しないでくださいね」
「ありがとうな気を使ってくれて、ただぁここまでだなぁ。多分だが居たと思う、で、俺はそいつが気に入らなかった……と思う。これももしかしたら間違ってるかもしれないけどよ」
虎おじさんはそう言うが俺はそれが間違いではないと確信していた。だって今日の朝だって見てきたから。怒鳴り散らして、周りをこき使おうとしてる熊を知っているから。大丈夫、ちゃんといますよと伝えると虎おじさんは不思議そうに俺を見た。だが次第にその顔は笑顔になって行く。俺間違ってないんだな、じゃぁこれは覚えておく、ありがとうな。ぽんと頭を撫でられてすり寄った。
その後も思い出話に花を咲かせる。どちらかというと俺が喋ることが多かったが、それを聞いておじさんは嬉しそうに笑ってそうかとか、なるほどなって言ってくれた。
「聞けば聞くほど兄ちゃんと俺楽しんでたんだなぁ」
「楽しかったですよ、また今度一緒に遊ぼうって言ってくれて嬉しかったんですから」
「そりゃそうだ、だって一緒にエロいことしたもんな」
「あの時はおじさんが……え?」
「ん?どうした?」
驚いて虎おじさんを見るが分かっていないようだ。
「お、俺おじさんにそのこと話してないです。おじさんの家でえ、エッチな事しましたけど恥ずかしくて言えなくて……」
「そうだったっけか?いや、確かに兄ちゃんと横になってなんか抱き合ってた気がするんだ。その前後はまるで分からないが、俺にとってそれ凄く楽しかったようなぁ」
「おじさんもしかして少しずつ思い出しているのかも!」
立ち上がると息まいて怒鳴るように声を上げる、はっとして座るとすみませんと謝った。虎おじさんはハハハと笑い顔を横に振る。
「気にするなって、兄ちゃんは俺のこととなると本気だなぁ。よく分からないけどもしかしたら言う通りなのかもな。でも時間かかるかも、待っててくれるか?」
我慢できず虎おじさんの手を掴んで握りしめる。待ってますずっと、どんなに時間かかっても待ち続けますから。潰えたと思っていた希望、ないと思っていたことがあり得るかもしれないんだ。今はまだそれはほんの小さなものかもしれないが、もし本当に戻るなら俺はどんなことでもする。どんなきっかけさえ見逃さずそこから広げていくつもりだ。
「よし、とりあえず俺は熊の奴が気に入らなかった、そして兄ちゃんとエロいことした。これは覚えて置くぞ」
「う、まぁ……なんか恥ずかしいですけど」
「がはは!可愛いなぁ」
「からかわないでくださいよ~」
病室には俺たちの笑い声が響いていた。
時間と外を見てあまり遅くなり過ぎない内に椅子を片付けて帰ることを伝えた。虎おじさんは少し名残惜しそうにするが、また明日来ますよと伝えると笑って待ってるな尻尾を振る。お互い手を振ると病院を後にした。
家に帰り、今度は夕食に何とか間に合わせる。最近遅く帰っているが両親は特に理由を聞いてこない。詮索をしてこないのは俺にとってありがたかった。ただ夕食時には間に合うようにと苦言を呈されてしまった。気を付けます。
ご飯を食べて風呂に入り、自分の部屋に戻る。それらの行動中は頭の中で色々と考えていた。俺にできることはある、あの熊の様子を見ることとどんな事が記憶を思い出すきっかけになるか考えることだ。まぁこればかりはあれこれ話しまくるしかないと思うけど。とにかく虎おじさんと喋ることが大事だと思ったんだ。
*
「本当ですか!?やったー!」
数日経ち仕事が終わって面会に行った時だった。病室に入ると虎おじさんがベッドの横で座っていたんだ。服もちゃんと着替えてて見慣れたおじさんの姿だった、と言っても作業着なのだが。俺が近づくと嬉しそうに立ち上がって片手を上げる。慌てて大丈夫なんですかと聞くともう動いても大丈夫らしい。頭や体の包帯も取っていて軽く体を捻って見せる。こんなに動いても痛み一つないぞ、喜ぶ俺は虎おじさんに抱き着いた。
そして聞けばなんと今日退院できると言うじゃないか。嬉しくなって万歳をする俺を見てがははと笑う。どうやら俺のことを待っていたらしい。赤くなってありがとうございますと言うと俺の方こそなと手を握ってくれたんだ。
二人で病室を出るとナースを探しこれから退院することを伝える。少し待って先生が来るとそこで虎おじさんと二人で話をしていた。大丈夫にはなったがそれでも念のため激しい運動とかはしないようにと。徐々に慣らしていくように言われていたんだ。後はお金のこととか色々あるけどそれは後でいいらしく、一旦家に帰って準備が出来たら病院に来てくださいと話していた。
「終わったぞー」
少し離れて待っていると虎おじさんは小走りで近寄ってくる。
「走らなくてもいいんですよ、気を付けないと」
「おいおいもう大丈夫だって、心配性だなぁ兄ちゃんは」
なんだろう、こうしていると記憶がないなんて嘘みたいだ。俺と仲良くしてくれるし一緒に並んで帰ろうと言ってくれる、言わなければ分からないくらい以前と同じような雰囲気だった。
薄暗くなり道を歩いていると虎おじさんは俺が働いていた場所を見たいと言ってきたんだ。案内してその場所に到着すると顎に手を当てて見上げていた。この場所もあと少しで完成するのだろう、それを見れて良かったと思う。
「ここなんだなぁ、う~ん……」
「思い出せそうですか?」
「うぅ……と、ちょっと中入って見てみないか?」
流石にそれはまずいのでは?少なくとも俺は部外者だし、入るなら虎おじさんだけの方が……一人で入るのは危ない気がするけど。
「こんな時間だしどうせ誰もいないだろ?さぁ行こうぜ」
「わっとと!」
腕を掴まれると敷地内へと入っていく、ちょっと強引な所がそれっぽくて笑ってしまった。
カラーコーンを超えて中に入り近くで見るとより分かりやすかった。扉や窓などまだついていないがそれでも外側の壁はほぼ出来ている。
こんな風になっているのかぁと興味が沸いて見ているとふと音がしたんだ、それは俺達の向こう側から聞こえた。俺や虎おじさん以外に誰かいる?作業員だろうか、だとすると俺怒られそうだなぁ。
ザッザッ
「ん?てめえは!」
「あっ!」
思わず声が出る、そこにいたのはあの熊だった。作業着を着ていて何かやっていたのが分かる。俺達を見ると眉間にしわを寄せて睨んできたんだ。
「ガキとクソ虎!なんでここに居やがる!」
「なぁ、あいつが兄ちゃんの言ってた奴か?」
「えっと、そ、そうです」
「ふーん……性格悪そうだな」
「んだとクソ野郎!ぶっ殺すぞ!」
拳を握ると熊は怒っていた、ふんと鼻から息を出すと腕組みをする。
「てめぇ記憶ねえんじゃないのか?」
「あぁ俺には以前の記憶なくてな、働いてた場所がどんな所だったのか気になって来てみたんだ」
「そうかよ、だが今のてめぇはここに居場所なんかねえよ。さっさと帰れ」
俺の耳は熊の言葉をしっかり聞いて逃さない。小さく、死んだと思ったのに……と呟いていたんだ。
「別にいいだろ?俺は作業していたんだし」
「記憶ねえ奴が何言ってやがる、それは前のてめえだ、今のてめえは違うんだよ、それにそっちのガキはまるっきり関係ねえじゃねえか。こんな所に使えねえ奴を連れてきやがって」
近づいてくる熊はさっさと帰れと言いながら手を伸ばす、眼前に迫ると俺の肩を掴んで思い切り押したんだ。力強くて肩が痛み、その場でしりもちをついてしまう。
「あっ大丈夫か!何しやがるんだ!」
「うるせぇ怒鳴るな!てめぇには何もしてねえだろうが!」
ぎろりと睨むが虎おじさんは臆さない。俺に手を伸ばして掴ませてもらいその場で立つとぱっぱっと土を払う。虎おじさんは俺の前に出ると怒りを露にして熊を睨んだんだ。
「なんだよ、やるってのか?」
「過去の俺がどうだったか知らないが、今の俺はお前が気に入らない、俺の大事な人に手を出す奴は許さない」
「許されなくて結構だ」
顔が近づきにらみ合う、まさに一触即発な状態だった。まさかこんなことになるなんて……どうしたらいいか分からずあたふたしてしまう。
「前からてめぇの事気に入らなかったんだよ、俺に反抗的でよ、邪魔だったんだ。だがお前は仕事ができた、だから許してやってたのによぉ。記憶がないお前はここじゃ役に立たねえ、俺の為に動けない奴はいらねえんだよ。だからよ……用済みな奴は消えろ」
言うと熊は俺の方を向き片手で胸を押す。
「あっ兄ちゃ――」
「ふんっ!」
ドゴッ!
「ぐぉっ!」
「お、おじさん!」
いきなり熊は虎おじさんの頬を殴りつけたんだ、構えていなかった虎おじさんは後ろに吹っ飛び地面に倒れる。
「おぉおぉ汚れちまったなぁ。気分がいいぜぇクソ虎ぁ?」
「な、何するんですか!」
「うるせえ関係ねえ奴は黙ってろ!」
叫ぶと俺の方にも拳が飛んでくる。驚き腕でガードするとばしっと殴られてよろめいてしまった。顔を殴るつもりだったのだろう防いだおかげで何とか腕が痛む程度に済んだ。そんな俺の姿を見て虎おじさんはすぐさま立ち上がると拳を握り熊に殴りかかる。それを予想していた熊は両手を構えて虎おじさんの攻撃に備えた。
バゴッ!
「っ!ってぇ、だがまだ本調子じゃねえみたいだなっ!」
「ぐぁ!」
「おぉどうしたどうした!っへへ、お前が傷つく姿は見ていて最高の気分だあ!」
まさに嵐のように何度も拳を前に突き出す。虎おじさんは劣勢で何とか腕で守っている。合間に攻撃しようとするが熊はそれを見て腕を叩き落とすようにして攻撃するんだ。喧嘩慣れしているのか虎おじさんに攻撃の隙を与えない。
「足元が空いてるぜクソ野郎!」
「ぬおっ!?」
足払いをされ姿勢が崩れる、それを見て熊は思い切り下から拳を振り上げたんだ。思わず叫んでしまった。
「おじさあん!」
ゴッ!
「がふっ!」
鈍い音がすると口から唾を吐き宙に浮いてそのまま地面に倒れてしまった。慌てて近寄るとしゃがんで様子を見る、暗くて分かり辛いが痛そうに呻いていた。
「も、もうやめてください!退院したばっかりなんです!」
「ほぉそうかよ、そいつぁ都合がいいなぁ」
「やめ、うわぁ!」
頭を掴まれると横に投げられる、どさっと地面に倒れると背中を強打した。吹き飛んだ俺には目もくれず馬乗りになると虎おじさんを殴りつける。
ドゴッバゴッ!
「へっへっへ!お前に殴られた分何倍にもして返してやる!」
俺の目の前で惨劇が起きる。身動きできない虎おじさんの顔面を何度も何度も左右の手で殴りつける熊。悲痛な声が飛び、ばしんばしんと乾いたぶつかる音が響く。それを俺は震えながら見るしかなかった。力のない非力な俺にこの状況で何が出来ようか。
「止めて、止めてください!おじさんが死んじゃうよお!」
どんなに叫んでも俺の声は届かない、むしろ熊はそれを楽しんでいるようだった。月明かりに照らされる熊は目が光ってまるで悪魔か何かに見える、怖くて体の震えが止まらない。
だけど、だけどこのままだと取り返しのつかないことになる、やっと少し進んだと思ったんだ。記憶が戻りかけてるのかもしれない、そうでなくてもまた友達としてやり直そうって、面倒見てくれって言ってくれたんだ。それなのに、このままじゃまた記憶が無くなっちゃう。あんなに頭を殴られて、そしたらもう二度と思い出さないかもしれない。もしかしたらそれ以上のことだって……。
そんなの、そんなの嫌に決まってる、そんなの……俺は受け入れたくない、受け入れない。
俺がおじさんの面倒を見るんだ!
「止めろぉぉ!!」
「ぬぉっ!」
立ち上がって熊に体当たりをする、衝撃で吹き飛ぶのを見てすぐに虎おじさんに近づいて肩を掴んだんだ。
「おじさん逃げましょう、あんなの相手にしちゃだめですって。折角傷が治ったのにまた――」
「クソガキが!逃がすと思ってんのか!」
「うわっ!や、離して!離せよお!」
「っへ!わざわざ自分から殴られに来るとは、馬鹿なのか……それともどMの変態か?まぁ俺に取っちゃ都合がいいけどな」
バシッ!
「うあぁ!」
顔を殴られ吹き飛ぶと地面に横になる、殴られたのは顔だが体中が痛いように感じた。手加減のない本気の殴りだ、すぐにでも痛みで思考が出来なくなった。涙が出て、こんな事に慣れてるはずもなくてよく分からなくなって。痛みにどう耐えればいいだって分からない。震えながら呻きそこを押さえていると熊は俺の方に近寄ってくる。先ほど虎おじさんにやっていたように俺の腹の上に跨ると片手で頭を掴んだ。
「もうただで帰してはやらねえからなクソガキ、覚悟しやがれ!」
「あがっ!あぁ!」
力強い殴りが俺の顔面に降り注ぐ。痛がる俺を見て熊はまさに至高の瞬間とでもいうように笑っていた。出来ることと言えば怖くて痛くて両手で頭を抱えることくらいだ。
ふと拳が止むころには顔中腫れあがっていたと思う。鼻や口からもきっと血が出てる、味やにおいがしたから。
「なぁ?面白い事思いついた、お前俺の言うことちゃんと従えるか?」
「はぁはぁ……」
「俺の言うこと聞きゃぁこのまま逃がしてやってもいいぞ?どうだ」
「ゲホッ!どうせ、ろくでもない事だ」
怖いのにそれを隠して反発する。本当はその方がいいと思う、そっちの方が楽だし少し我慢すれば家に帰れるんだ。だけど、でも……虎おじさんを置いて帰るなんてしたくないんだ。だから無理矢理自分に嘘ついて気持ちを隠す。
「っへ!さぁて何させようか、お前にあのクソ虎を殴らせようか?それとも、お前の体を使って気持ち良くなろうか?べちょべちょに汚しちまうのも面白そうだなぁ?」
熊はどんどん酷くなっていく、今ではその醜悪な性悪を隠そうともしなかった。ただただ俺達を苛め、傷つけ、悦び、愉しんでいる。これが本当の姿だった。
「ひっ……あぁ……」
「お前は助からねえよ、俺の玩具になるんだ」
両手で頭を押さえてくる。その目を見た瞬間体中の毛が逆立った。こんなの人じゃない、悪魔なんてものじゃない、なんて恐ろしい目をするんだ。俺の中に残っていたほんの少しのあがきたい気持ちは一瞬で崩れてしまう。無理だ、こんな人かどうかも分からない相手に立ち向かうなんて……今の俺には絶対できない。怖い、怖い……!
ガサッ
「あ?」
「そこから降りろよ、熊野郎」
声がした、それは何度も聞いた声、俺に勇気をくれる声だった。それを聞いただけで体の震えは止まり、少しの安心感が生まれる。虎おじさんが気づいたんだ。嬉しくなって痛みじゃない涙が出てきた。
「おぉまだ立つ元気があったのか」
「はぁはぁ、お前の相手は俺だろうが。前からそうだった。お前と俺は喧嘩ばかり」
「何言ってやがんだ、てめぇは記憶がねえんじゃないのか?」
「お前のおかげだよ、沢山殴られてたからな、それに兄ちゃんの声がした」
はっとして両手を前に突き出すと熊の胸を押す。油断した熊は声を上げると後ろに倒れて俺の上から退いたんだ。その隙に立ち上がると虎おじさんの所へ走って近寄る。それに気付くと両手を広げて俺を受け止めてくれたんだ。
「大丈夫ですか!?」
「おいおい俺の心配するなよな?あぁこんなに腫れちまって……可哀そうにな、俺に関わったばっかりに」
「痛いですけどおじさんが無事ならそれでいいです。でもあの熊の人――」
そう言いかけるとぽんと頭に手を置いて撫でてくれる、そして耳にそっと顔を近づけると呟くんだ。
「俺に全部任してくれ、もう大丈夫だ。家に帰って一緒に休もうな?今度はあの悪戯の続きをしよう」
「おじさ――」
「兄ちゃんの服脱がしたのに着ちゃうんだもんなぁ?実はあの時もっと裸見たかったんだぞ。布団のにおい嗅いでたのも知ってる、扉ちらっと開けて覗いたら可愛い事してたよな」
かぁっと顔が赤くなる、それと同時に目を皿のようにしておじさんを見たんだ。へへへと笑う姿はあの時のままだ。あの時の、おじさんが事故にあう前の楽しかった当時の虎おじさんだ。
戻ってきたんだ、虎おじさん……俺の良く知る虎おじさんが帰ってきた……。
「おかえり、なさい」
「ただいま……遅くなったな。またコンビニいくからな」
「はい……」
話をしていると熊が立ち上がって俺達を見る、その目はぎらついた欲望の炎が燃え盛っているようだ。ぱしっと拳を手の平に打つと俺達を刺し殺しそうな目で睨んでくる。
「ふざけやがって、もう我慢ならねえ。ここでお前たちをぼこぼこにして半殺しだ!病院から二度と出てこれねえようにしてやるぞクソどもがぁ!」
背中をポンと叩くと優しく俺に笑いかける。危ないから下がっててな?でも一人じゃ……そう言う俺に顔を横に振る。
「これは俺の問題なんだ。あいつと俺とは馬が合わなくてな、頼む。一人でやらせてくれ、じゃないと本気になれないんだ」
話してる最中でも熊は襲ってくる、その熊を見て虎おじさんは構えると拳を握った。
「死ねやぁ!」
ボゴッ!
「っっっ!」
吹き飛んだのは熊の方だった、土ぼこりを立てて地面を滑る熊は横になって転げまわっていた。いきなりの事で驚く俺を虎おじさんは本当に頼むよと両手を合わせてくる。
「俺な?凄く怒っててさ、爆発しそうなんだ、兄ちゃんをこんな風にして、それを一発二発で許すつもりはない。見てろなんて言わないからさ、後ろでも向いてて、大丈夫!俺は絶対に負けないから、な?」
「……本当はあんまり虎おじさんにそういうことしてほしくないですけど、俺もあの人嫌いですから」
「あぁ、これを最後にする。俺の面倒見てくれんだろ?君を守らせてくれ」
「はぁはぁ、クソ虎がぁ」
俺は虎おじさんの手をぎゅっと掴んだ。
「頑張ってください!申し訳ないけど、俺じゃ何もできないから……おじさんの手で終わらせてください!そして無事に帰ってきて!」
「おぉ!任せとけ!!」
そう言うと俺はその場から離れて見守ることにした。おじさんは振り返ると走ってくる熊に向かって地面を蹴りだす。
「うらぁ!」
「うぉぉ!」
ドゴッ!
二人の激しい殴り合いが始まった。互いに本気になってて熊も殴られたりするがそれでも拳を止めはしない。さすがに虎おじさんも全部かわすなんてできないみたいで顔や腹を殴られる。それでも一歩も引くこともなく拳を突き出す。
「てめっ!クソ虎!ぐはぁぁ!」
「はぁはぁ、本当はよ、お前を殺したいんだ。ぐちょぐちょにしたい、だけどそれを望まない人がいる、俺の大事な人はそんな事してほしくないって……だから!」
バゴッ!
「がああああ!!!」
「はぁ……はぁ……お前が言った半殺しで、済ませてやるよ」
倒れた熊の上に跨ると両手で熊を殴りだす。心苦しいがそれでも俺はそれを見守った。叫んでいたのがちゃんと聞こえたんだ、だから大丈夫。俺は虎おじさんに人殺しになってほしくないから怖かったけど、ちゃんと気持ちは受け取ったから。
「や、やめろ……てめぇ!ぐほっ!後でどうなるか、がっはぁ!」
「舌噛むぞ、大人しく気分が落ち着くまで殴られてろよ」
「ふざけんじゃね、うは!くそ、くそがぁ!」
叫んだ瞬間拳が止むのが分かった。そして虎おじさんは上半身を屈めると熊の顔に近づいたんだ。いや、暗くてかなり分かり辛いけどあれは……首?
「があああああああ!!!」
思わず耳を塞ぐ、まるで断末魔のような叫びが夜空に轟いたんだ、一体何をしたのか、俺の心臓はどくんどくんと速くなる。まさか本当に殺していないよな?やりすぎないで虎おじさん!両手をぎゅっと握りしめると心配になってくる。早く終わってほしい、早くこの状況から解放されたい。俺も虎おじさんも一刻も早く救われてほしい。
「……どうだ?まだやるか?」
「ぁぁ……ぁ、虎……てめぇ」
「そうか、じゃぁもう一度――」
「まて!や、止めろ!くそ!分かった!もういい!」
「……」
「っ、く、クソ虎のくせに……今のてめぇは俺を本当に食い殺しそうだ」
「あぁ、そうしたいんだ、お前の血を見ると体が疼く、その喉笛を食いちぎりたい」
「ひっ!や、止めろ!許してやるからそこをどけ!」
「そうか、じゃぁもう他の奴殴ったり命令したりしないか?しないと約束しろ、そうしないと俺はまたお前の喉に食らいつく」
「……のやろう」
「他の奴にも言っておく、何かあったら俺に言えって。お前に何かされたら俺がやり返すって。これでもうお前は自分の居心地のいい環境が作れなくなるな」
「……」
「感じたことなかっただろう?喧嘩強いし、他の奴らは皆面倒だから命令に従った。そんな奴は怖いなんて感情持つはずがないよな、いつだって自分が一番強かった。だからそう思う必要なかった。今はどうだ?」
「俺ぁ……ひっ!」
「怖いか?俺が怖いか、この喉に食らいつかれて、自分が死ぬんじゃないかって。怖いよな、それでいいんだ。それがお前を抑制する。いつまでもそれを忘れるんじゃないぞ」
「く、クソったれの虎野郎がぁ!」
「もう何もするなよ」
ドゴッ!
どれくらい時間かかったのか、虎おじさんの拳が一回降り注ぐと熊は動かなくなったみたいだ、それを見て虎おじさんは立ち上がると俺の方に歩いてくる。終わったのだろうか?走って近寄ると虎おじさんは片手を自分の頭に置いてがりがりとかいていた。
「ごめんな、思ったよりも時間かかっちゃったみたいだ」
「全然いいんですそんなこと、それより……あの熊の人は……?」
「死んじゃいないさ。死ぬほど怖い思いしたと思うけどな。兄ちゃんをこんな風にした報いには丁度いいかもな」
俺の手を握る虎おじさんは行こうかと言って歩き出す。全て終わったんだと。もう何も気にすることはないと言っていた。
「帰ろう、俺の家に」
「……はい!」
*
プルルル
『もしもし、母さん?』
『あら、随分遅かったじゃない。もう晩御飯も終わっちゃったわよ?』
『うんちょっと帰り際に友達と会ってさ、楽しくなってあちこち回ってたら真っ暗になっちゃって。今友達の家の前にいるんだけど、泊ってっていいかな』
『えぇ構わないわよ、じゃぁ晩御飯はいらないのね?お父さんに食べてもらおうかしら。失礼のないようにね』
『うん分かった。それじゃぁね』
『はーいおやすみなさい』
携帯のボタンを押すと電話を切る。嘘をつくのは気が引けるけど流石にこのまま家に帰ったら傷だらけだし服に血もついてるから騒がれると思う。心配をかけたくなかったし今日の所は虎おじさんの家に泊まることにしたんだ。嬉しそうに笑う虎おじさんは俺の電話が終わるとすぐに俺の手を握ってくる。さぁ入ろうか!俺の家だ!教えたり案内したりせず虎おじさんはしっかりと自分の記憶を頼りに家へと戻ってきたんだ。
玄関を開けるとお邪魔しますと言う、しかし虎おじさんはえ~と口を尖らせた。
「ただいまって言ってくれよ」
「だってここおじさん――」
「ただいまは~?」
「た、ただいまです」
「お帰り!」
それだけなのだがやたら虎おじさんは嬉しそうだ、尻尾なんかぶんぶん振っちゃってさ。案内されたのは横の和室。俺とおじさんがエッチなことをしたところだ。そこに座るとおじさんは服を脱ぎだす、見ていたら俺も脱げって言うんだ。服を洗おうって。どうやら替えの服を持ってきてくれるらしい。
「もしかしたら俺のにおいがついてるかも」
「構いませんよ、気にしないですから」
「そうだよな?好きだもんな?」
「か、からかわないでくださいって!」
「がはは!」
上と下を脱ぐと虎おじさんは一度廊下に出ていき、少しして戻ってくる、手には作務衣を持っていた、普段家にいるときはこういうゆったりとした締め付けのない物を着ているらしい。手渡されてそれを着るとなんだかちょっと新鮮味を感じる。こういうの来たことなかったなぁそういえば。
「おぉ中々似合うじゃないか」
「ありがとうございます。でもやっぱりぶかぶかですね」
「まぁ俺基準だからなぁ」
かなり大きいサイズなのだろう手なんか半分隠れてしまっている。それでも虎おじさんの服だっていうのが嬉しくて何だかうきうきしてしまった。虎おじさんはその後タオルを数枚濡らして持ってくる。お互いかなり殴られて痣や血も出てるからって。流石に今日は風呂に入れなさそうだ。染みるだろうし滅茶苦茶疲れたし。一枚受け取るとゆっくと自分の顔に当てる。
「うぅ痛たぁ……」
「そうだよなぁごめんな?俺がいたのに」
「気にしないでください、それに俺よりおじさんの方が酷いじゃないですか。大丈夫なんですか?」
「ん?まぁ痛いけどよ、正直まぁちょっと慣れてるからな」
はぁと息を吐くと虎おじさんは頬をかく。俺の話、しておこうかって。それは虎おじさんとあの熊の人の関係みたいだ。記憶を思い出した今、昔のこともしっかり覚えているらしい。あんまりいい話でもないしろくでもない思い出だけどよと苦笑していた。
「俺は結構長い事この仕事してて、あちこちで作業してたんだけどよ、その度にあいつがいたんだ。たまたまだったのかそれとも上の奴が一緒にさせてたのか分からないけどな、同じ現場で作業することが多かったんだ。あの熊の性格だろ?俺とは何度もいざこざあってな、流石に今日ほどじゃないけど、やっぱり口喧嘩やちょっと殴ったりとかもあったんだ」
温厚な人に見えたからまさかそんなことをするなんて思わなかった。意外と手とか出すんですねと言うとそりゃそうだと言った。気に食わない奴にいちゃもんつけられたら俺だって手が出るって。多分俺だと文句の一つや二つ言うくらいだろうなぁ、それでだめなら従っちゃう、殴られたくないし痛いのは嫌いだ。でも虎おじさんはそうじゃなかったと。納得いかないことはちゃんと向き合って自分の意見を言っていたようだ。
「ただぁどんなに俺が言ってもあいつの性格は変わらないし変えようともしない。本当はな、分かってたんだ。あいつが他の奴に命令して自分が楽してるの。そのことについても言ったが俺は知らないの一点張りだ。何だか馬鹿馬鹿しくなっちまってよ?他の奴が苦労するの可哀そうだし、ならその頼まれた奴の代わりに俺がやろうって思ったんだ」
「はぁ、おじさん自分から苦労しに行くタイプですね」
「がはは、まぁ仲間がそれで少し楽になるならいいかなと思ったんだよ。あ、あの熊は仲間だと思ってなかったがな!苦労すればいいんだあんな奴」
相当腹に抱えているものがあるらしい。あの熊め、次喧嘩する時は歯引っこ抜いてやる!そんな虎おじさんにはははと笑う。
「俺が事故にあった日な、その前日で俺はあの熊と喧嘩したんだ。俺にとってはいつもと変わらない口喧嘩、まぁちょっと手も出たが俺も殴られたし、別に引きずってなかったんだ。喧嘩してもその時は腹に来るけど、後で忘れちまうんだ。だがぁ熊はもしかしたらそうじゃなかったのかもな。溜まりに溜まった俺への怒りと思い通りにならない事が多分今日のきっかけになったんだと思う。誰かに聞いたか?俺の事故の事」
「えっと、牛の作業員の人と話しました」
高い所で作業していて、理由は分からないけど足を滑らせてそのままって言っていた気がする。その時ヘルメットが外れてしまい、頭を強く打ったと、その衝撃で記憶が抜けてしまった。言われたことを教えるとこくんと虎おじさんは頷いた。
「普段は歩く所はそんな滑るようなことはないんだ、むしろ滑らないようにしてある。ちょっとだがでこぼこしてて水はけも良くしてあるし、俺達の履く靴も滑りにくいゴムがついてる。それなのに俺は滑った。その時な、なんかつるんとしたんだ。物が置いてあったわけじゃないから多分だがぁ、何かそういう滑りやすい液体をわざわざ塗ったのかもしれない。そんでな?あの熊は事故が起きる前、あの高い所の作業をやれやれってあちこちで命令しまくってたんだ。だが他の奴だって今やっている仕事もあるし、前から熊の態度を知っている。勘弁してくれって、今は無理だってな。それを聞いて俺はすぐにでもじゃぁ俺がやるって言ったんだ」
思わず片手で頭を押さえてしまった。明らかにそれ狙いだろ……あの熊は虎おじさんが代わりになることを予想していた、だからわざと他の人に言って、虎おじさんにやらせようとしていた。虎おじさんを事故らせるために……いや、これが本当ならこれは事故ではなく事件だ。やれやれと顔を見ると苦笑しながら鼻先をかいていた。
「だってしょうがないだろ?いつもそうしてたからつい俺がやるって言っちまったんだよ、まさかあの熊がそこまでやるなんて思って無くてな」
「他の人の事考えるのは立派だと思います、だけど自分の事も考えてくださいよ、俺本気で心配したんですから。恥ずかしいですけど、凄い涙出たし、事故の事聞いた時仕事できなかったし」
すると虎おじさんは驚いて俺の顔を見る。なんか変な事いったっけ?首を傾げるとこほんと虎おじさんは咳をする。そして、あ~……と声を上げると視線をそらし何やら言い渋っているようだ。頬も少し赤くなっている。
「ちょっと聞きたいんだけどよ、そのぉ……なんでそんなに俺の為にしてくれるんだ?仕事場にも仲の良い奴はいるけど、兄ちゃんみたいにそこまで入れ込んでくる奴いないし」
「それは!その……だ、だっておじさん友達、だし……」
今度は俺が視線を泳がす、顔が熱くなって今言った事を若干後悔した。気持ちとしては虎おじさんの事が好きだ、それこそ大がつくほど好きだ、俺はこの人に恋をしている。だがそれを正直に言えるほどの自信はなかったんだ。結局あんだけ時間があったのに俺は自分の気持ちをちゃんと決められないでいた。好きだけど、この人と付き合って自分が相手で幸せになるのだろうかって。俺の独りよがりになってしまうのではって。
「俺はさ、兄ちゃんと知り合って、ずっとこうやって話しててさ、凄い楽しいし満ち足りた気持ちになるんだ。それでも俺は友達だと思ってた、いや……きっと親友だと思えるくらいの仲なんだと思っていた。だけど、違うんだ……違くて、俺……」
う~、と虎おじさんは唸る。頭を横に振ると違うんだよーと呟く。そして数秒後、ばっと顔を上げると両手を前に出して肩を叩く。割と痛かった。
「兄ちゃん、俺、君の事が好きだ!俺と……俺と付き合って欲しい!」
「えっ!?」
突然の告白に驚くと虎おじさんは手を離し、わざわざ正座までしだしたんだ。真剣な目で俺を見て、軽く汗まで流している。尻尾も横にふらふら揺れて落ち着きがない。
「前にも言ったが誰かと付き合うなんてことはあった、だけど今回は本気度が違う、こんなに緊張したこともなかったし、こんなに誰かを好きになった事もないんだ。兄ちゃんと遊んで、帰っちまうと寂しくなって、家に泊ってって欲しいなって何度も思ったんだ。正直離れるのがつらい、一緒にいてほしい。俺は、君の事が好きだ……君に、恋をしている。君を愛している」
「お、おじさん……」
「いいなら俺の手を握ってくれ!ダメなら……顔いや、顔腫れてるから……て、手を叩いてはじいてくれ!大丈夫、ダメでも俺ちゃんと気持ち切り替えるから!頼むから兄ちゃんの純粋な気持ちで決めてくれ……」
頭を下げると手を前に出す。いきなりの事で頭が追い付いていかなかったが一つ確かなことはあった。
嬉しい、嬉しくて、心臓が爆発しそうだ。
「……兄ちゃん?」
俺はそっと手を握る。両手で。しっかりと、指を絡めて。
「俺も、俺もずっと前から好きでした。もうずっと前から恋をしていました。叶わない恋だと思って諦めかけてはいましたけど。俺、俺嬉しいです、おじさん、俺あなたが好きです!大好きです!」
「兄ちゃん……兄ちゃん!」
ぐっと手を引っ張られると引き寄せられる、そのままがばっと抱きしめてきたんだ。力強い抱擁、俺も両手を伸ばして抱き着く。
「ありがとう、本当にありがとう。一生大事にするから。もう君を傷つけたりしない、俺が守る。何があっても」
「はい……俺も、おじさんの面倒見ます。一緒に、ずっと一緒にいてください」
「あぁ、愛してる」
「俺も、愛してます」
一度顔を離すとゆっくりとキスをした。
少しして体を離す、俺はまだ全然落ち着かなくてドキドキしっぱなし。これが現実なんて信じられないくらいだ。そんな俺とは違い虎おじさんは凄い晴れやかな顔してる。さっきからにこにこで尻尾も動きが止まらない。えへへ、とか言いながらちらちらと俺を見る。
「キスもう一回したい」
「ま、またですか?」
「いいだろ恋人同士なんだから。エッチもしたい」
「……酔ってます?」
呆れると近づいて短めの軽いキスをしてくる。驚いているとへへ!キスしたぞ!と笑っていた。なんか急に子供っぽくなったというかじゃれついてくるというか。からかってくることも前からあったけどもうなんか、遠慮がないというかなんというか。いやまぁ嬉しいけどさ。
その時ぐぅと腹が鳴る。流石にあんだけ動いたし結構しっかりと腹が減っているみたいだ。音を聞かれて少し赤くなると虎おじさんは立ち上がる。
「飯食うか!買いに行こう!」
どこで買うのか聞くと俺が働いているコンビニでと言われた、いつもの場所で買いたいそうだ、あそこでよく会って話をして、お互い距離が縮まった、あの場所は特別な場所らしい、だから恋人になった今日あのコンビニ弁当を夕食にしたいと言っていた。その気持ちが嬉しかったし特にこれがいいとかもなかったからはいと頷いたんだ。
ただ気になったのはあの建築現場の場所を通ること。果たしてあの熊はまだ倒れているのか、それとももう帰ったのか……。
「何があったって俺がいるから、もう何も気にかける必要はない」
自信に満ち溢れた言葉を発するとどんと胸を叩く。頼もしいですねと笑うとそれじゃぁ行こうかと二人で支度して家を出たんだ。
暗い中、二人で手を繋いで歩く、大きなちょっとごつごつした手は暖かく俺の手を優しく包んでくれた。コンビニに着くと思い思いの物を買う。弁当に飲み物、ちょっとした菓子パンと……。
「そんなに買うんですか」
「だって大事な日だろ?パーティだパーティ」
カゴの中には色々なお菓子や煎餅、スルメイカみたいなつまみに缶ビールと盛沢山だった。それを持ってレジに行くと流石に店員も笑ってはいたが引いてたと思う。そんな表情などものともせずおじさんは腕組みをしていた。
大きな袋を何個も持って夜道を歩く、途中であの現場の前を通ったが暗かったしもう今はここに用がないからそのまま素通りした。もし熊が襲ってきたらどうしようかと思いひやひやしているとそんな表情が出ていたのか虎おじさんは俺を見て笑ってくれていた、そのおかげで安心することが出来たんだ。
バタン
家に帰ると早速弁当を温めることにした、その間に買ってきた物をテーブルの上に並べていく。飲み物やつまみ、お菓子も少し。流石に弁当食べた後に全部は食べられないだろうからいくらかは残しておく。
「いやぁこうしてみると中々豪勢だな、こんな風に誰かと盛り上がって楽しむなんて随分なかったなぁ」
「誰か家に呼んだりしないんですか?」
「うーんまぁ誘ってみたことはあったが、皆仕事終わると疲れてそれどころじゃ無くてなぁ。良くて外で飲む程度、わざわざ俺の家に来るよりは自分の家に帰ってのんびりしたいんだと思う」
だからこうして兄ちゃんが居てくれて凄い嬉しいんだぞ?両手で頭をがしがし撫でる。き、気持ちは分かりましたから!ちょっかいださないで~!可愛い可愛い君は本当に可愛いなぁ~。なんだこれ、俺はペットか何かか?
そんなじゃれ合いをしているとレンジが鳴る、弁当を取り出すともう一つ温め始めた。その間は蓋を開けず一緒に食べられるよう待つことにする。数分後、弁当を取り出すと並んで座り、箸を割ると頂きますと食べ始めたんだ。
「そっちの唐揚げ美味そうだなぁ、こっちの肉と一個交換しようぜ!」
食事中でも会話は止まらず、こうして互いにおかずの交換などで盛り上がった。虎おじさんはビールをかしっと開けるとごくごく飲んでいく。飲み終わるとカンと音を立ててテーブルに置き、すぐさま二つ目を開ける。いやちょっと待ってペース速くないか?いやいや待て待て!もう三つ目だぞ!
「ちょちょ!おじさん流石に――」
「いいの!好きなんだからいいだろ!俺が飲みたいんだから。今日は俺達が付き合う初日なんだ、沢山飲ませろって」
「限度がありますよ、何本飲むつもりですか」
「えっと……10本はとりあえず飲みたい」
なんだそのとりあえずって。好きなのはいいと思うし邪魔はしたくない、だけど飲み過ぎて体調壊したりしたら大変だ。具合の悪い虎おじさんは見たくないからと何とか頑張ってとりあえず多くても5本までということにした。それでも多い気がするが。
「んぐっんっはぁぁ~……飯もビールも美味かった~。本当にさ、美味いんだ。いつも以上に美味く感じた」
「そうですね、俺も何だかいつもより楽しく食べさせてもらいました」
「いいよな、こういうの」
目が合うと笑い合う。そして虎おじさんは俺の頭に手を置くと撫でる。優しく、毛を掻き分けるようにして。気持ち良くてすり寄るとそのまま手は頬へと向かう。ゆっくりゆっくり、首筋を触り、やがて見えている胸元へ。おじさんの目はとろんとして欲望の混じった目で俺を見つめてくる。
「なぁ……良い気分だ。少し眠いが、やりたいことがあるんだよ。分かるだろ?」
「あの、多分分かりますけど一つ聞きたいんです。付き合ってくれたことは凄く嬉しいですし、そういうことをしたいのは分かるんですけど……嫌悪感とかないんですか?」
「今更それ聞くのか?」
虎おじさんは若い頃から女性と付き合ったり、女性に対して性的興奮をすることができる、男性を見てもそんなことは起こらない、俺は特別だと言ってくれた。でもそうなるとおじさんはホモじゃない。そのことに対してどう思っているのだろう?するとおじさんはへへへと笑う。
「もう答えが出てるじゃないか」
「え?」
「君は特別、そうだ、君だけだ。言う通り俺は多分これから先も兄ちゃん以外の男には反応しないだろう、でもそれでいいじゃないか、兄ちゃんがいればそれでいい。好きなのは女でも男でもない、君だ。今の俺には君がいればそれでいい、他の男はいらない他の女もいらない、今の俺には、君しかスケベな気持ちにならない」
「お、おじさん……ちょちょっ」
「分かっただろ?俺はもう兄ちゃんが全てだ、兄ちゃんがよ……頭の中それでいっぱいだ、な?兄ちゃんもそうなんだろ?俺が欲しくてたまらない……」
いきなり覆いかぶさってきて押し倒されてしまう、腕を伸ばし横に手をついて捕獲するかのようだった。すぐそばに顔があって俺をじっと見つめている。
「はぁはぁ」
鼻息が荒い虎おじさんは口を開ける。舌を出し、俺の口を舐める。キスがしたい、いや違う。兄ちゃんの唾液飲みたい、舌をしゃぶりたい。欲求に塗れた虎おじさんは我慢できないとばかりにゆっくり顔を近づけて口にかぶりついてきたんだ。
「んんんぅ!」
腕を背中に回し抱きしめながらキスをする。荒々しくて、不器用でがさつなキスだった。もうなにも我慢することがないように、ただただ欲して、求めて。その強引なキスに俺は少しずつ体の力を抜いていく。なすが儘にされ、与えられる愛情を享受していく。
「んぶ、んっぐ……はぁ、んん」
途中で呼吸が苦しくなると一度口を離し息継ぎしてからまたキスをする。もうお互い口の中がべちょべちょでどっちの唾液なのか分からないくらい混じってしまった。それでもお構いなしと舌を絡みつかせ、擦り上げる。
「っぷは!ゲホゲホ!おじさんストップ!し、舌がピリピリしてきちゃいました」
「がはは!悪い悪い、どうにも止まれなくてな。キスがこんなに気持ち良いもんだなんて知らなかった、口の中が感じちまった。兄ちゃんとキスするとそれだけでイッちまいそうだ」
「またまたぁ」
「本当だって!試してみるか?」
迫る顔を両手で押さえていいですいいですと横に避ける。え~?と頬を膨らませるから少し休ませてと頼んだんだ。するとおじさんはべろりと口周りを舐める。キスがダメなら違うことならいいよな?と。俺の作務衣に手をかけると前を開かせる。
両手で俺の腹を撫で、そのまま上へと撫でていく。やがて手は胸に辿り着き、そのまま俺の乳首を指で弄る。
「ぅぁっ、はぁ」
「良い反応だな、色っぽい」
「お、おじさん、手加減してください」
「どうだろうなぁ、今の俺は獰猛だからな。兄ちゃんを気持ちよくさせ過ぎちまうかもな」
言いながら舌を出すとべろりと乳首を舐めあげた。途端に体に甘い刺激が駆け抜け声が出る。こんな事初めてで、たとえここに二人しかいないとしてもやっぱり恥ずかしいもので。必死に歯を噛みしめて声を我慢すると虎おじさんはそれを楽しむようにして笑う。
「我慢しなくてもいいけどよ、そういう顔されると俺の理性がぶっ飛んじまうぞ?ほらほら、どこまで我慢できるんだ?」
「……ぁ、ぅぅ!はぁ、だ、ダメ、無理ですこんなの」
「ほれほれ~もっと可愛い声聞かせろよぉ」
ちゃぷっちゅぷっ
口先を付けるとちゅちゅっと乳首に吸い付いてくる。中で舌を動かし硬くなったそれをずりずりと擦り続けてくるんだ。反対は親指と人差し指でつまみ、軽く引っ張ったりぐにぐにと揉んだりしてくる。あまりに気持ち良くてどうしても嬌声を上げてしまうし、恥じらいも大きくなる。もう耳まで熱い。なんだか軽く涙目になってくる。だめ、待って……まだ心の準備できてないんですよ。だが俺の言葉は全部無視されて虎おじさんは言うことを聞いてくれない。
ようやく顔を離すと俺を見てくる虎おじさん、すでに息は絶え絶えだ。
「う……やばい、はぁはぁ、今兄ちゃんの顔滅茶苦茶エロい。鼻血出そうだ……」
「や、優しくして……」
「ぅぅ兄ちゃんそれ言われると乱暴したくなっちまうって。あ~兄ちゃんにめちゃくちゃしたい、もっと荒っぽく喘がせたい。あぁくそ、ダメだ俺はもうだめだって」
体を起こすといきなり服を脱ぎだしあっという間に全裸になる、そして俺のズボンを掴むとずるずる脱がしてきたんだ。驚ていると次の瞬間には両腕を太ももの下に入れてがっちり掴んでしまう。そのまま顔を股間に押し付けてきたんだ。
「あぁぁ!」
気づいた時には虎おじさんにしゃぶられていた。がちがちに硬くなった俺のチンコをなんの抵抗も見せずしゃぶり込む。口を窄めると舌を巻き付け何度も頭を上下しだしたんだ。
「お、おじさっ、あ!ちょ、ちょっと待って!待ってくださいって!あぁぁ!そんないきなり激しく、ひゃぁぁ!」
「んっんんっんっんっ」
ジュブッジュブッジュブッ
先ほどよりもずっと強くて強烈な刺激が俺の体を支配する。必死になって体を震わせるが正直我慢できているのかどうかすら怪しい。虎おじさんの口は熱くて、分厚い舌はぐるぐると竿の胴体を擦りまくる。かと思えばべろりと舐め上げ、亀頭やカリを攻めてくるんだ。それと同時に口の肉で埋めて上下に動く。口内のでこぼことした感触に体がぞわりと震えて徐々に毛が逆立つ。
「だめ!い、イっちゃう!もう我慢できないですって!あぁぁ!」
虎おじさんは目を瞑るとスパートをかける、さらに早く動いて根元からきつく吸い上げてくるんだ。まるでポンプをくみ上げるみたいにじゅぼじゅぼ動き、口が股間にぶつかると口先や鼻に唾液の糸が出来ていた。それはやがて泡立ち股間を汚していく。
「だっも……い、イクッ!イクッ!あぁぁイクウウウウッッッ!!!」
ドプッドプッドプッ!
叫んだ瞬間顔は股間に押し当てられる。動かず舌だけを中で動かして俺の射精を促す。じゅるっじゅるっと音を立てながら飲み込んでいき、射精中も亀頭やカリを舐められていた。射精した後のあの敏感な状態だと体が感じすぎてしまう、だめ!許してください!だが虎おじさんは恍惚の顔でひたすら吸い続けるだけだった。
やがて射精が終わるとゆっくりと頭を前後し、尿道の残りもすべて吸い出す、全て綺麗にするとそこでようやく解放されたんだ。
「っはぁ~、兄ちゃんの精液ごちそうさんと。あれだな、初めて飲んだが割といけなくもないな」
「はあはぁ、な、何言ってるんですか、そんなわけ――」
「行けるんだよなぁところが。兄ちゃんだけだと思うけどな。証明してやろうか?」
また舌を出して顔を近づけようとするから慌てて両手でそれを止める。舐めさせろって。いや流石に出したすぐは無理ですはい。俺が持たないって。
何とか我慢させると次は俺が虎おじさんの体を堪能することにした。イった後だし落ち着いてるんじゃないか?気にかけてくれるし確かに少しは性欲が離れた、だがそれはほんの一瞬のことだ。だって目の前にこんな魅力むんむんな体の人が座ってるんだ。一目見ればすぐにまたエッチな思考が戻ってくる。近づいて、両手で虎おじさんの肩に手を乗せる。
「お、おじさん毛深い」
「兄ちゃんは好きか?」
「はい、俺、毛深いおじさんが好きです」
「整えなくて良かった」
肩や腕、二の腕を触っていく。力を抜いていても筋肉の膨らみや溝が分かる、腕はもさり毛が生えてやはり毛深さを感じちた。ゆっくりと撫でていき腕を持ち上げると脇の下を見る、ふさっとした腋毛は男らしさを感じた。
「隙あり」
「わぁっ!」
片手で頭を押されると脇の下に鼻先を押し付けられたんだ。場所が場所だけにちょっと臭い……けど若干興奮するような。すぐに解放されるとおじさん汗臭いですよと文句を言った。まぁにおいフェチではないが、好きな相手だと悪臭に対しても変に感情を揺さぶられるわけで……はい、割とまんざらでもないです。
両手で軽く虎おじさんの胸を押して横にさせる、今度は俺が堪能する番。もさもさっと生えている胸の毛を梳かし、舌を出して毛繕いする、次いで横に移動しおじさんの逞しい胸にあるちょこんとした乳首に吸い付いた。
「ぉぉぉ……はぁ、気持ち良い。思ったよりもずっと気持ち良いもんだ」
乳首はすぐに硬くなり、乳を欲する赤ん坊のようにちゅうちゅうと吸う、汗で少ししょっぱいがそれすら美味しいと感じた。片方が終わるともう片方も。両乳首を俺の唾液でぬるぬるにし、口を離すと指で擦る。すると虎おじさんは身を捩らせて甲高い声を上げた。俺の愛撫で感じてくれるのが嬉しくてついつい顔を近づけてしまう。
胸が終わると手をそのまま下へと撫でていく、こうしてみると本当にあちこち毛深いな……腹筋は割れていてがっちりしていてその中央に線を描くようにもさもさもさっと毛が濃くなっている。へそなんか隠れちゃうくらいだ。そしてへその下からは周りに広がるようにぶわっと毛が多くなる。それでも股間が隠れないのは虎おじさんのチンコや玉がでかすぎる証拠だ。
「我慢できないか?」
「だ、だってずっとおじさんのここ想像してきましたし……」
「おぉそうか、良かったな、今考えていたもんが目の前にあるんだぞ?そして兄ちゃんはそれを好きにできる。何でもしていいんだ」
頭の下に手を置くろにやにやと俺を見ていた。恥ずかしかったがおじさんがそう言ったんだしと顔を近づける。舌を出し、たぷんとぶら下がる大きい玉をべろりと舐めあげたんだ。
「……ぉぉ」
舌の上に乗せ、そのまま口の中に放り込む。大玉の飴を舐めるように舌を動かして味わい、右へ左へと動かしていく。だがこれは飴じゃない、口の中で転がすだけじゃなく吸い込みながら頭を前後する。出したり入れたりし、じゅぶっと吸い込むと口先を根元に押し当てる。
「あぁぁ……凄いな、気持ち良すぎる。キンタマってこんなに気持ち良いのかぁ。チンコだけじゃなくキンタマもチンコ並みに感じる、ぉぉ、ぁ……はぁ、いい、最高だ。兄ちゃんのキンタマフェラ大好きになったぞぉ……」
わざとなのか口から卑猥な単語を連呼する。それが妙にやらしくて耳から入る声の媚薬で俺は更に体を熱くした。痛まない程度に吸い付きを強くし、陰嚢だけを吸って肉の感触を楽しむ。おじさんの玉は皮も厚くて味も濃くて、一瞬で俺の好物の仲間入りとなった。何度も何度も両方の玉を交互に愛撫し、やがて虎おじさんの手が頭に乗ってはストップをかけられる。
「ちょ、ちょいたんま!はぁはぁ、最高に気持ち良いんだがぁ……ち、チンコもしゃぶってくれ。それ以上されるとキンタマだけでイっちまう」
「そんなに良かったんですかぁ?」
「し、仕方ないだろ!兄ちゃんがエロくしゃぶりまくるのが悪い。今はその、俺の全部を味わってほしくてな」
分かりましたと頷くと先走りがだらだら流れてるチンコを握る。血管がばきばきと浮き出て赤黒いこれを改めて見ると頭がくらくらした。なんだこれ、男のチンコってこんなに立派になるのか。硬くて太くて黒くて熱い。においだって一段と強い。味だって……。
「んんっ」
「ぁぁぁぁ……」
ガツンと頭にぶつけられるような味とにおいだ、濃いそれが口内を充満し、鼻から抜けていく。もう完全に理性が崩壊した俺はされたように口を窄め舌を巻き付ける、たまらず激しくすると雄々しく喘ぎ声を上げながら俺の頭を両手で押さえてきた。
「ああああ最高だ!気持ち良すぎる!あぁぁ!あっはぁ!こんなに気持ち良いフェラされたことなないぞっ、ぐおお!しゃぶってくれ!溶けそうなほどしゃぶってくれぇ!」
両手で腰を掴むと更に頭を激しくする、おじさんも手で押さえながら腰を突き出していた。がつんがつんと股間が当たりちょっと口が痛いがそれでも快楽の方が何倍も上だ、そんなのあってないようなもの。こうして顎にでかい玉をぶつけられる幸せの方がずっといい。
ジュボッジュボッジュボッ!
「はぁはぁはぁ!い、イきそうだ!すぐ、すぐイクッ!出るぞ!」
片目を瞑って顔を顰めると両足を開き俺の体を抱え込む。ぎゅっと足で抱きしめると頭を股間に押し付けた。
「おぉっおっぉおおおおおおお!!!!」
ゴプッゴプッゴプッゴプッ!
咆哮すると口の中にダムが決壊したように大量の精液を流し込んでくる。勢いも量も凄くて頬が膨らみ、鼻からぶぴっと精液が飛び出す。何度も飲み込んでいるのだが全然追いつかず、吸い付いているのに口から精液がぼばっと飛び出してしまう。数秒してようやく収まるがその頃には顔は精液塗れ、口周りなんか特にひどかった。虎おじさんも股間や胸元にまで精液が飛んであちこち汚れてしまっている。
「ぜぇ、ぜぇ……ぁぁぁ、最高……こんなの初めてだ、毎日されてぇ」
「ゲホゲホ、お、おじさんが良ければ俺を使って――」
「勿論そのつもりだぞ、はぁ」
いきなり体を起こすと俺に抱き着く。そして顔の精液をべろりと舐めると俺とキスをした。
「ん……はぁ、俺はスケベでエロいことが好き、兄ちゃんもスケベでエロい事が好き。俺は兄ちゃんを求めてるし兄ちゃんも俺を求めてる、そうだろ?毎日セックスするつもりだぞ、どうだ?」
「はぁはぁ、俺は……し、したいです」
「よし!明日もがっつりセックスだ!っと、まだ今日の分も終わってないしな」
言いながらぐっと力を入れて押し倒す。へへへと笑うとおじさんは俺の両足を持ち上げた。
「いいよな?」
「は、はい、ずっとこっち側で想像してきましたから」
「良かった良かった、俺は突っ込まれるのされたことないからな。今日の所は俺に掘られてくれよ?」
言いながら頭を下げると肛門を舐める、本当に何の抵抗もなく男の尻の穴を舐めて舌を突っ込んでくるんだが……ホモじゃないんだよな?本当だよな?
ぐにぐに中に入れて抜き差しし、ちゅぽんと引き抜くとそのまま舌を出し俺の穴目掛けて唾液を垂れ流す、穴周りが唾液で塗れると指を入れようとした。
「あ、お、おじさん」
「ん?どうした……」
「……お、俺……多分指でやらなくても大丈夫です」
「……ほぉ~?」
にや~と助平ったらしい笑みで俺を見る、滅多に見ないドスケベな顔だ、きっと俺の言っている意味もすぐに分かったんだと思う。おじさんと会ってから今日のこの行為に至るまでの間、俺は風呂場で何度も練習した。頑張った結果おじさんの舌だけで十分解れてしまうくらい俺の穴は開発されたんだ。痛かったし時間かかったけどかなり頑張ったと思う、だっておじさんのチンコ相当でかいと思ったし。沢山広がるよう練習したんだ。
そんな俺をずっとニヤニヤ笑いで見つめながらいきり勃つチンコを俺の穴に当てる。
「嬉しいなぁ俺の為に頑張ってくれたんだよな?へへ、なら俺も喜ばせて満足させないとな」
先が入ると俺の腰を掴む。
「言っておくがよ、頭がおかしくなるほどがつがつやっちゃうぞ?」
「こ、壊れない程度に――」
「やーだ」
ズブッ!」
「あぁぁぁっ!」
いきなり奥まで差し込まれて思わず背を仰け反らせる。甲高い悲鳴みたいな声を上げるとすぐさま虎おじさんは腰を振ってきたんだ。
「うぉぉっはぁ、こらすげぇや、柔らかくて熱くてよ!まだまだきつくて……あぁもう最高だ!」
だん!と両手を地面に置いて足を地面につけると上からがつがつと掘ってくる。まるで押しつぶされるようなセックスに意識が飛びかけていた。虎おじさんは完全に肉欲に支配されたようで狩りをする目で俺を見ていた。ふーふーと鼻の穴を膨らませ性行為によって俺を食している。俺は今食べられているんだ……体も、心も精神も。
パンッパンッパンッ!
「はぁっはぁっ!兄ちゃんの尻穴、やばいくらい吸い付いてきて病みつきになったぞ!俺がガバガバにしてやる!俺専用の穴にしてやる!」
「おじさっあぁ!んぁ!おじさんだめ、変になっあぐう!体壊れちゃううう!」
「溺れさせてやる!俺が壊してやる!そしたら直して、また壊す!もう兄ちゃんの心は俺の物だ!体も全部っ、はぁぁ!兄ちゃんの、ぐっチンコも尻穴も、なんもかんも……っっ、はぁはぁ!俺が全部、全部俺の物だぁぁ!」
「あぁぁぁぁ!」
ずしんと奥まで入れるとそのまま伸し掛かってくる。両手で俺の頭を掴むと口を付けて舌を入れてくる。地面に膝をつくと大振りだった腰は細かくさらに速く動くようになった。
グチュグチュグチュグチュ!
「んっんんっんっ!」
「んんんっっぷは!兄ちゃん言ってくれ、俺の事愛してるって言ってくれ!」
「あぁっあ、愛してます!おじさん!愛してますう!」
「うおぉ!はぁ!やばい、言われると俺、頭がおかしくなる!嬉しくて興奮して、どうだ!俺とのセックス気持ち良いか!?俺はもう、これなしで生きていけねぇ!」
「おじさっ好き、気持ち良いです!ぁぁ!はぁ、あぁぁぁ!おじさんのこともおじさんの体も、おじさんに掘られるのも大好きですぅ!」
泣きながら叫ぶ、もう恥もなんも関係なかった。いかに醜態を晒そうとおじさんに気持ちをぶつけられるなら全く構わない、俺の気持ちを全部受け取ってほしいと叫びまくったんだ。
グチョッグチョッグチョッ!
「がぁぁ!イクッ!イクッ!イクッ!ダメだ出るっ出るっ!我慢できねえ!すぐイ……あぁぁ!ああぁぁぁぁぁぁ!」
「おじさっおじさん俺も!あぁ!んはぁぁ!俺もイッちゃいますうう!漏れちゃう漏れちゃううううあああああ!」
ゴポッゴポッゴポッゴポッ……グプッグプッ……ヌプッ……ビュッ……
「ぜぇ……ぜぇ……」
荒々しく種付けを宣言すると体を丸めて抱き着いてくる。ぶるぶる震えながら中で何度も膨れ上がって射精をしてくれた。穴が広がるのが感じられ中で液体の感覚も分かってしまう。刺激とあぁ俺孕まされるんだなとか考えていると感情が昂って情けなく射精をしてしまったんだ、過去一番多く出したかもしれない。快感もやばかった、本気で気持ち良すぎて死ぬかと思った。
「はぁはぁ、に、兄ちゃん大丈夫か?」
「げほ、はぁ……や、やばいです。多分意識失うかも」
「おいおい、せめて寝るだけにしてくれよ?後処理は俺に任せてくれ」
声はしっかり聞こえるが目の前は霞んで見えた、疲労と眠気が尋常じゃないんだ、だがおじさんは言ってくれた、後は俺に任せてくれって。俺が最後にキスを求めて手を伸ばすとおじさんはにかっと笑って俺に口をくれたんだ。
*
「……んぁ、あれ、ここは」
不意に目が覚める。少しぼぉっとして体を起こすと周りを見回した。体を動かす何だか節々が痛むような気がしたんだ、それによって思い出す……あ、この部屋、おじさんの寝室だ。ってことはこの布団……。そう思ってゆっくりと体を動かすと鼻を埋めてにおいを嗅ぐ。
「はぁ、おじさんのにおいだ。あれ、なんかデジャブ感……」
ガチャッ
「おっ兄ちゃん起きたか!今度は服着てないな」
「え?あっ!ぜ、全裸!」
「おぉよ!ほれ、俺も全裸だぞ」
入ってきた虎おじさんはまるでそれが普通だとでもいうように全く何も身に着けていなかった。腰を揺らして萎えたでかいものをぶらぶらさせる。かぁっと赤くなって横を向くともっと見ろよ~……って、いやいや、目に毒ですそれ。
どうやらこれからおじさんも寝るらしい、服着ないんですかと言うと全裸で抱き着いて寝たいと言ってきたんだ。恥ずかしかったがこくんと頷くと素直に喜んでくれた。
「どうする、眠気さめたか?」
「う~ん、いや、まだ結構眠いかもです。あんだけされて疲れ全然取れてないし」
「もう一回したい」
「殺すつもりですか」
今日はもうだめですと言うとえ~と頬を膨らませた。いやちょっとまてあんだけ暴れてあの量出してまだ出るのか、どうなってるんだこの虎さん。本当に人か?
横になる俺を見るとはははと笑い電気を消す。そして俺の横に入ってきたんだ。
「悪いな、布団が一つしかなくてよ。今日は我慢してくれ」
「大丈夫です、気を使ってくれてありがとうございます。明日一緒に買いに行きましょうか」
「あぁじゃぁ明日はデートだな。遊びじゃない恋人同士のイチャイチャデートだ」
「もぉ……口に出さないでくださいよぉ」
恥じらっている俺を可愛いなと言って笑う。そして片手で頭を優しく押すと胸元に押し付けてきたんだ。ふわっとした毛が気持ちよく、おじさんの体臭が俺を落ち着かせてくれる。
「明日も明後日も……これからずっとデートしよう、毎日一緒に笑って一緒に食事して、一緒にセックスして、一緒に寝て……全部二人でやろう」
「はい……愛してます、おじさん」
「俺も愛してる、大好きだ」
互いに囁くとゆっくりと眠りに落ちていったんだ。
*
「おはようございます!」
「おぉおはようさん兄ちゃん!」
数日経った今、俺は家から仕事場へと向かう。そこで虎おじさんと出会ったんだ、今は見慣れた作業着、そして頭にはチャームポイントのタオル。わざわざヘルメットを取って見せつけてくるくらいだ。あの現場はもう最終段階みたいで、あと少しで家は完成する。そしたら虎おじさんはどうするんだろうと思ったがどうやら家の近くでもまだまだ作業することが多いようだ。場所は変わるが虎おじさんはなるべく家からそう遠くじゃない所で作業できるよう頼んだらしい。絶対じゃないがそれでも必ず家に帰れる範囲でだ。どっかに泊まり込みとなると俺に会えなくなるから嫌だって言っていた。だからこの場所が終わっても俺とおじさんは会おうと思えば毎日会えるんだ。
「おい牛!この仕事お前がやれ!」
「え~!?今終わったばっかりっすよ!ちょっと休ませて!」
「うるせぇ言い訳してんじゃ――」
「虎先輩助けて~」
逃げてくる牛は虎おじさんの後ろに隠れる。追いかけてた熊は振り上げていた拳を空中で止め数秒してゆっくり下した
「おぉおぉ元気だな」
「く、クソ虎!そいつを出せ!」
「俺が行こうか?」
「なっ!てめぇ俺と喧嘩してえのか!」
「お~やってもいいぞ」
すると熊は押し黙ってしまい汗を流しながら地面を蹴る。
「クソッ!俺がやればいいんだろうが!飲み物持ってこい牛!」
「な、なんで俺なんすか~」
「がはは!俺が届けてやるよ」
「だぁぁもう俺にかかわるな虎ぁ!もう放っておいてくれ!自分で取ってくるからいい!お前ら皆嫌いだ!」
泣きそうになりながら声を荒げると逃げるようにその場から走り去ってしまった。虎おじさんは俺の方を見るとウインクをする。この分だとあの熊が居ても大丈夫だろう。俺は笑うと牛が虎おじさんからひょっこり出てきて俺に挨拶する。
「ちわっす!虎先輩の事ありがとうございやした!」
「え?」
「何があったか聞いてないんすけど、兄さんが居て虎先輩が俺達のこと思い出してくれたっす。俺はそれが嬉しいっすよ!だからお礼が言いたかったっすよ」
いきなりそんなことを言われて俺は赤くなってしまう、虎おじさんも腕を組んで誇らしげだった。そんなことをやり取りしていると時間に気付く。思ったよりも余裕がなくて慌てて俺は声を上げた。
「自分そろそろ行きます!また後で!」
「おぉ!コンビニ行くからな~」
「俺も行くっすー!仕事がんばってくだせえ~」
手を振る二人に振り返すと俺はコンビニへと向かったんだ。
夕方、仕事が終わりに近づく時間。コンビニの扉が開くと入ってくる。
「待ってました!」
「おぉ来たぞ~」
「お疲れ様っすー」
虎おじさんと牛さんはにこやかに笑う。そして俺に近づくと小声で一言。
「家に泊まりに来てくれよ、愛し合おうな?」
「……っ、は、はい!」
「え?なんすか?何話してるんすかぁ?」
「ひーみつだ、な?」
「ひーみつです」
互いに笑い合うと牛さんはえ~ずるいっすーと頬を膨らましていたんだ。前よりもずっとこの仕事が楽しくなり、楽しみの一つになっていた、それはこれからも変わることはないだろう。
仕事が終わると外に出る。
「お疲れさん!」
「お待たせしました」
虎おじさんは外で待っていてくれるようになった。少しでも俺と一緒に話をしたくてと。たとえ泊りに行かなくても、少し話してまた明日と。そんなことをしていたんだ。それが嬉しくて、泊まらないと思っていたのに結局俺はおじさんの家に行っちゃうなんて事も多くなった。
「さぁ俺の家で酒盛りだ!その後は……ぐふふ」
「外なんだからやめてくださいよその笑い」
「チンコ勃ちそう」
「止めてくださいって!」
暴走気味の虎おじさんをなだめると家へと向かう。これももう一度や二度じゃなかった。
虎のおじさんと出会って、色々なことがあったなぁと思い出す。楽しかったこともあったし、怖い事や悲しい事もあった。だがそれらは全部覚えてる、虎おじさんだって覚えててくれている。そのどれもが大切な思い出だった。今俺は本当に、心の底から幸せを感じるんだ。
「おじさん」
「ん、どうした」
「……愛してます」
「っへへ」
そっと虎おじさんは俺にキスをする。手を繋ぐと俺達の愛の巣を目指したんだ……。
「あ!流れ星!」
空にそっと、一生の愛を願いながら……。
完