魔導士を目指す少女がオークの魔女に洗脳されて同族化させられるお話

  [chapter:第一章 見習い魔導士の目指す道]

  今日は記念すべき門出の日になるはずです。小さい頃からの私の夢のスタートラインにようやく立つことができる記念すべき日になるはずなんです。

  何度この日のことをイメージしたでしょうか。魔法の特訓をしながら、教本をめくりながらこの日この時のために私は今まで頑張ってきたんです!

  私は緊張と恐怖で胸いっぱいになりながらも掲示板の前までたどり着きました。掲示板の前には100人以上の受験者たちによる人だかりが出来上がっていてあちこちから泣き声と歓声がきこえてきます。その声を聞くと私の心臓はこれまで以上に早く脈打ちました。

  私の手に握られたのは「555」番という数字が刻まれた受験票です。あまりにも見つけやすくてわかりやすい番号。結果はすぐに一目瞭然になってしまいます。

  私は恐る恐る掲示板へと目を向けてみます。

  500番の数字を発見し、私の視線はだんだんと下へ下へと降りていき、520、530、540……そして550。一歩ずつ道を踏み締めていくように私の視線はさらに降りてきて……。

  「う……あ、あぁ……」

  553番の次に見つけたのは562番でした。

  何度も、何度も確認しても、何度も何度も受験票を読み直しても私の番号は555番で、掲示板にあったのは550、551、552、553、562……。

  視界がぼやけて掲示板が見えなくなりました。だんだんと視界が震えて、滲んで、気がつくと私は涙を流していました。それと同時に声ならない嗚咽が私の口から嫌でも漏れ出してきました。

  止めようとしても止められません。

  情けない。

  情けないから嫌なのに……。

  それなのに……。

  私の声は、止まりませんでした。

  「うぅ……私……うぁ……」

  この日、見習い魔導士のルミナ・クレセントは王立魔法学院の校門を潜ることはありませんでした。

  魔導士、それは超常の力である魔法を扱い人々を助ける存在です。ある魔導士は研究と教育のため、ある魔導士は祖国と戦いのため、ある魔導士は冒険と商売のため、魔導士には人それぞれに目的はあるけれどそのほとんどが人々のために魔法の力を扱ってきました。

  まあ、例外的に「魔女」や「魔人」と呼ばれる存在がいるとは聞いたことがありますがそんなのは一部の人たちです。

  私、ルミナ・クレセントもそんな魔導士に憧れて努力を続けてきた人間の一人でした。

  王都の人間は名前も知らないような田舎の村で生まれ育った私は幼少期から魔法の才覚に恵まれていました。農夫をしていた両親のために得意の水魔法を使ったり、怪我をしている友達に治癒魔法をかけてあげたりとこれでも地元じゃ有名だったと思います。

  そんな私は正式に魔法の勉強をするために王立魔法学院への入学を目指して研鑽を続けてきました。王立魔法学院に入れば魔導士としての仕事が得られるだけでなく、自分の長所を伸ばすための研究や魔導士の仲間にだって巡り合うことができます。

  魔法が扱える人なら誰もが一度は憧れる魔法学院……私も魔導士の卵として生まれたからには憧れずにはいられませんでした。

  二週間ほど前、十五歳の誕生日を機に両親と村のみんなが背中を押してくれたおかげでようやく私は魔法学院受験のためにはるばる王都までやってきました。長い旅路にはそれなりの苦労もありましたが、憧れの学院の門を叩くために諦めずに乗り越えることができました。

  「次に帰る時は立派な魔導士になって帰って来ますから!」

  そんな風に息巻いて出発した私でしたが、結果は散々なものでした。井の中の蛙大海を知らず、という言葉がある通り、まさに私は田舎の村で魔法の何たるかを知らないまま育った未熟な見習いに過ぎなかったのです。

  知識の問題である座学は、有名な教本を手に入れていたこともあって難なくこなすことができたと思っています。もちろん、算術のように苦手な分野もありますが、魔法の知識なら十分に身につけていたはずでした。

  そう、知識だけは。

  どれだけ豊富な知識を取り揃えていてもそれを活かす方法を知らないなら無知と同じだというのに。

  実技の試験は散々なものでした。治癒や農耕に特化していた私の魔法は試験には殊更不向きで、水魔法の基礎の基礎すら疎かなままでした。

  知識が半端にあるせいで「できている」と思っていたことでさえ、それは私の思い込みに過ぎませんでした。

  魔法の技術をまともに教えられぬまま独学で教本片手に勉強してきた私が魔法の英才教育を受けた人々に勝てるわけがありませんでした。

  比べる相手がいない地元じゃいちばんでも、魔法学院試験では私は注目に値する生徒にはなれなかったのです。

  そして今日、不合格という形で私の挑戦は終わってしまったのでした。

  「ありゃ〜ダメだったか〜……」

  「はい……うぅ…」

  「ほらほら、鼻水を拭きなさいな」

  王都の中心街からは少し離れた宿屋に私は宿泊していました。親戚のマムおばさんが経営するその宿に帰ると泣き腫らした私の顔を見ておばさんはすぐに事態を察してくれたのか慰めの言葉をかけてくれました。

  「まあそういうこともあるさね。べつに人生で一回しか受けられない試験じゃないんだろう?」

  「そ、それはそうですけど……うぅ…村のみんなにどう報告すれば……」

  魔法学院の入学試験は年に一回だけ実施されます。そのため一回の試験の倍率は並々ならぬものであり、話によると王都の騎士団に入るよりも遥かに難しいらしいです。

  ですから有名な魔導士でも過去に何度か入学試験に落第したという話は聞いたことがありました。

  でも、あれだけみなさんに期待させておいて、あんなお祭り騒ぎで送り出してもらって、私どうしたら……。

  「なんだい、弱気になるんじゃないよ。報告したくないんなら誇れるような結果を取ってから報告すれば良いじゃないか。おばさんと違ってまだ若いんだからどうにでもなるよ!」

  「うぅ……ありがとうございます、おばさん……」

  そう……ですよね。

  たった一回で諦める方がみんなに申し訳が立たないですよね。チャンスがなくなったわけじゃないんですもんね。今年ダメなら来年……ですよね?

  私はおばさんの言葉に背中を押されながらようやくみっともない鼻水と涙を止めて前を向く決心を固められました。

  今までだって簡単な道のりだったわけじゃないんです。それでも私は夢を諦めませんでした。なら最後までその信念を貫かなきゃ情けないですよね……!

  仕事でも何でもして食い繋いで来年の試験でもう一回ちゃんと結果を手にしてみせます……!

  問題点も明白なんです。

  「私、もう一回頑張ってみます!」

  「そうそう! その意気だよ! それでこそルミナちゃんらしいんだから!」

  私はおばさんに強く頷き返して自分がやるべきことを考えることにしました。

  決意新たに来年の試験と戦うことを決めた私が向かったのは王都の魔導士ギルドでした。本来は学院を卒業したり、それに相当する実力がある人間が仕事を斡旋してもらうために利用する組合だけれど、ここでは魔導士に関する情報も収集できるらしいです。

  うぅ……こういう情報もしっかり収集していく必要がありそうです。

  田舎だった私の村にはギルドの関連施設は無いので利用するのは今回が初めてになります。どこかの商館かと見間違えるほど立派な木造建築の玄関を潜ると、酒場に似た広いスペースが広がっていました。

  たくさんのテーブルや給仕をしている人の姿、どこもかしこも賑やかで厳かな雰囲気のある学院とは全く違うと感じました。

  そこには様々な身なりをした魔導士たちがひしめいていて、食事をしたり、お酒を飲み交わしたり、雑談に耽ったり、それぞれの過ごし方をしています。

  私は少し緊張しつつもいちばん目立つ受付カウンターに腰掛けた女性へと話しかけることにしました。

  「あ、あの〜……」

  「ようこそ、魔導士ギルドへ! お仕事をお探しですか? それともお食事ですか?」

  「あ、い、いえ! 実はここに来れば魔法学院の入試に関する情報を教えてもらえると聞いて、初めて…」

  「ああ! 魔導士見習いの方ですね! どうぞこちらへ」

  受付の女性は思いのほか親切に私を案内してくれました。私はお姉さんの案内を受けて魔導士たちが食事をするテーブルのうち一つに腰掛けお話を伺うことにしました。

  どうやら私みたいな人は珍しいわけではないようで他の魔導士たちは気にしているそぶりもありませんでしたし、お姉さんも慣れた様子でした。

  「魔道学院受験について……でしたね。何からお話ししましょうか?」

  「あ、えっと、実は……」

  何を話すか少し迷ったけれど、ここで見栄を張っても仕方ないと思った私は自分の悩みを洗いざらい相談することに決めました。

  独学で魔法の勉強をしてきたこと、魔法学院の入学試験に落ちたこと、これからどうしたら良いか見通しが立っていないこと、全てを話しました。

  「そうですか……。まず厳しいお話になりますが結論から申し上げます。学院の独学での学院の受験は限界があります」

  「そう……ですよね…」

  それについては私も十分に理解しているつもりでした。いくら頭の中で理屈を理解していても実技が上手くいくわけじゃない。試験を受けて、技術と知識はやっぱり別物だと思い知らされました。

  「ですから、最も効率的なのは学院の受験を専門にしている私塾に入校することです」

  「そういうものがあるんですか!?」

  「ええ。王都にも幾つかございます。もちろん、私どもで私塾にお話を通すことも可能です」

  「本当ですか!? そ、それなら――」

  「ただし、これくらいの金額が必要なりますが……」

  受付のお姉さんは器用にそろばんを弾いて紙に金額を書いて見せてくれました。

  ええっと、いち、じゅう、ひゃく、せん、まん…………!?!!?!?

  「そ、そ、そそそ、そんなにっ!?!?」

  「はい……」

  そこに明示された金額は旅費を含む私の所持金では1割にも満たないとんでもない額でした。働いて稼ぐとしても数ヶ月、下手したら一年分は給金が吹っ飛んでいくくらいの金額です。

  「特に王都にもなると魔導士志望者の数は跳ね上がりますから。しっかりとした指導を受けたいと考えるのであればこれくらいの金額が必要になります」

  もはや現実的な話ですら……。

  学院に入りさえすれば稼ぎのいい仕事が見つけられますが、入る前からそんな馬鹿みたいな額を支払っていたんじゃ身が持たなくなります。

  どうりで私の住んでたような村から魔導士が出ないわけです……。お金がありませんから……。

  「第二の方法がルミナさんがこれまでされてきたように独学で戦うというものです。ですが、これもまた現実的ではありません」

  「うぅ……それじゃあ、私には……」

  お金も、才能もない。

  改めて突きつけられた現実。諦めないと心に誓っているのに押し寄せてくる絶望。

  「で・す・が!」

  私の心が再び折れかけようとしたその時、受付のお姉さんがそんなふうに話を切り出してきました。

  「ですが、まだ方法はあります。それは、私塾にも――いえ、ギルドにすら所属していない魔導士に直接教えを請うという方法です」

  「……え!? そ、そんなことできるんですか!?」

  「残念ながらこれについては魔導士の噂はお伝えできてもコネを作ることはできません。ですからご自身で直談判して熱意を汲んでもらうという形になります。うまくいけば学院の入学はおろか、卒業生に匹敵する学びを得られるでしょう。ただ……」

  「ただ……?」

  お姉さんは気まずそうに俯いた後、神妙な面持ちで話を続けました。

  「ただ、講師として私塾に登録すらしていない魔導士は我々ギルドというしがらみの外にいる存在です。正確な人となりはおろかどのような魔導士か、何を専門としているのかも噂程度にしか確認できません。単にギルドのような組織を嫌う魔導士ならまだマシですが、最悪の場合「魔女」や「魔人」になっているケースも……」

  魔女、魔人……その言葉を聞いてぞわぞわと嫌な寒気が体を襲いました。噂にしか聞いたことがない恐ろしい存在。魔法の力に魅了され人のために魔法を使うという使命を忘れ、自分の欲望のままに魔法を使い、人間を害することもあると言われる魔物に近い魔導士。

  魔女や魔人になった人物から教えを請うということは下手をすると自分もその道に魅了され、引き摺り込まれてしまう可能性があるということです。

  魔女や魔人が世間を騒がせたという事件のいくつかは私の住んでいたような田舎の村にすら轟いてくるほど危険かつ有名な話です。

  確実に魔女や魔人だと決まったわけではないとはいえ、その可能性もある人たちに指導してもらうなんて……恐ろしい、けど……!

  恐ろしいけど私に残された最後の選択肢だとも思えました。だってこのまま独学で勉強を続けていてもきっと同じミスを繰り返し続けることになります。かといってお金を貯めて塾へ入るのも難しいこの現状、選べるものは一つだけです。

  一か八かに賭ける、それだけが希望です。

  「お話、聞かせてください! 私、それでも頑張ってみたいです! 危険でも、難しくても希望が少しでもあるなら――!!」

  「わかりました。私どもが噂を掴んでいるギルド外の魔導士はそう多くはありません。情報を吟味し、ご自身の納得がいく挑戦をしてください」

  「はい!!」

  私はお姉さんから数枚の紙を受け取りました。

  そこにはそれぞれ魔導士の目撃場所や身なりなど簡単な噂が書かれています。あまりに漠然としていて実在しているのか確証も持てない程の情報ばかりでしたが、今の私はこれに縋るしかありません。

  ええっと、なになに……?

  破壊の魔導士に、降霊の魔導士、それに熱砂の魔導士……、どれもこれも何だか物騒で恐ろしい名前だらけです。煉獄に、氷刃に、呪詛なんてものもあるみたいです。

  私の適性は水魔法――つまり、回復や治療、農耕なんかを専門にしたいのですが、流石にそんなにうまい話は……。

  と、紙をめくっていたところで一人の魔導士が目に留まりました、

  「豊穣の魔導士ブブゼラ」。お姉さんがくれた紙の中では珍しく名前まで判明している魔導士でした。目撃場所は……王都から船を乗り継ぎ山を越え、一月ほどはかかるかもしれない辺境の地でした。

  「あ、あの、この人は……?」

  「豊穣の魔導士ブブゼラですね。ある程度情報が残っている方です。学院在籍時は水魔法を中心に治癒や精神など医療に近い魔法を専門にしていますね。ただし、在籍時から黒い噂もあったようで交友関係は無さそうです。結局、学院を卒業後にギルドに所属することなく行方をくらませたそうですね」

  豊穣の魔導士。専門は私にピッタリですがやっぱり魔人だと疑われてしまうような人なのでしょうか。

  「最後に目撃されている場所はここからだとかなり遠いですね。それにかつてオークと呼ばれる魔物が住み着いていた地域でもありますからおそらく治安も……」

  オークの住んでいた地域……。

  オークとは豚に似た人型の魔物で数十年前に王都の騎士団の遠征で壊滅したという噂を耳にしたことがありました。

  危険がなくなったとはいえ、そういう魔物が暴れていた地域には人も寄り付きにくく、どうしても治安も悪くなってしまいます。

  「とはいえ素性が最低限明らかになっているだけマシと言うべきでしょうね。彼女の実力は確かなようですから」

  「え!? 彼女? この方、女性なんですか?」

  「ええ。肖像画などは残っておりませんので確証は持てませんが在籍時の情報では女性ということになっています」

  怖い…怖いけど……!!

  他の魔導士たちはどうみても私に合うような人ではなさそうだしこの人しかないかもしれないです。

  本当に一か八かの賭けですが、いま得られる情報を聞いた限りではいちばん頼れそうです。

  辺境の地ですし、行ってすぐ戻ることもできませんし、相手がもし魔女になっていたら私もタダでは済まないと思います。

  それでも……それでも私は諦めたくありませんでした。

  「き、決めました! 豊穣の魔導士ブブゼラに会いに行ってみます!!」

  [newpage]

  [chapter:第二章 豊穣の魔導士ブブゼラ]

  王都を離れ、慣れない船旅を越えて……。

  それに多くの魔物に遭遇して笑えないほど危険な状況に陥ったことだってありました。

  そうしているうちに、いつのまにか試験からひと月が経過していました。豊穣の魔導士ブブゼラの情報をなんとか辿って旅をした私はようやく信頼できる情報に至ることができました。

  ある森の中にどんな病も治してしまう素晴らしい魔導士が住んでいるということ、その魔導士は農耕や医術の知識に長けていて森に隠れ住みながら時折人々を助けているということ。

  まさに私が想像する豊穣の魔導士の姿そのものでした。私の心は長旅の疲れを忘れて踊っていました。まだ弟子にしてもらえると決まったわけでもないのに、まだ魔女じゃないって証拠も得られていないのに、それなのに私は居ても立っても居られない気持ちになりました。

  さらに詳しい噂を辿ること十数日……私はある森の奥深くに一軒の家を見つけました。

  その家は不思議な魔力で周りからは見えないように偽装されていました。しかし、魔導士である私の目には不思議としっかりと家の姿が確認できました。

  「ま、まさか、ほんとうに……!!」

  恐怖もありましたが喜びの方が勝っていました。私はすぐさまその家の玄関らしき扉に近づき数回ノックをしました。

  王都の建物よりは小さいですが、私の暮らしていた村やこれまで通ってきた町の建物に比べるとはるかに大きな家です。扉も広いし、木造ですが外装もとても整っています。この様子だと室内も相応に広くて豪華なのではないかと推察できます。

  ノックをしてから程なくして屋内から「はーい」という穏やかで少しの太い女性の声がしました。ドタバタ……いえ、ドシンドシンという大きな音が近づいてきて玄関が開かれるとそこにいたのはとても大柄な女性でした。

  マムおばさんより二回りも、三回りも大きな体格で魔導士のローブを身につけているのにその太り具合がわかってしまうほどです。汗だくの丸い顔に細い目、ツンと吊り上がった鼻、玄関の扉を開ける手も指も太くて足音から体重も物凄いことは容易に想像できました。

  女性はちらと私の方を見ると驚いたような顔をして言いました。

  「あら? 見かけない顔ね〜。よくこの家の偽装魔法を見抜けて――ってもしかしてそのローブは魔導士!?」

  「えっ!? あ、えーっと、はい……」

  「まあ! まさか魔導士のお嬢さんが訪ねてくるなんて思いもよらなかったわ!」

  女性は頬を真っ赤にして喜んでいる様子でした。よかった……、話は通じる方のようです。

  「あ、あの、急にすみません! わ、私は豊穣の魔導士ブブゼラ様をお探しして……」

  私の言葉を聞いて女性は少し考えるような顔をしてから「ああ、そういうことね!」と笑いました。

  「ふふっ♡ ええ、そう呼ばれることもあるわね。アタシがブブゼラよ。立ち話もなんだし、部屋へどうぞ」

  「ええ!? 王都からわざわざアタシを尋ねに!?」

  「は、はい!」

  ブブゼラさんはとても親切な方で私を自宅に迎え入れてくれただけでなくお茶も用意して話も聞いてくれました。

  私は来歴を洗いざらい話し、魔法の実践について悩んでいることを打ち明けました。

  「ルミナちゃんを弟子に……」

  ブブゼラさんは少し悩んだような表情で沈黙してしまいました。それもそうです。だっていきなり見知らぬ魔導士が押しかけてきて「弟子にしてほしい」だなんて、虫が良すぎるにも程があります。

  ブブゼラさんにはブブゼラさんの研究もあるはずなのに……。私はブブゼラさんに謝罪をしてこの場を去ろうと思い言葉を探しました。

  しかし私が口を開くよりも前にブブゼラさんが何か決めたように大きく頷くと話出しました。

  「弟子……にするかどうかは置いておいて、数日アタシの家で生活してみない? もしそこで本当にアタシの弟子になりたいと思えたならルミナちゃんを歓迎するわ!」

  思わぬ言葉につい私は俯いていた顔がブブゼラさんの方に向いてしまいました。事実上の弟子入りの許可、いえお試し弟子入りとでも言うべきでしょうか。

  ブブゼラさんは快く私の滞在を受け入れてくれました。

  「いいんですか……!?」

  失礼を承知で私は聞き返してしまいました。

  「ええ! アタシもルミナちゃんには興味があるし♡」

  「ありがとうございますっ!!!」

  こうして私は数日間のお試しとして、ブブゼラさんのお世話になることにしました。

  「そうだ! せっかく二人で暮らすんですもの! 夕飯は豪勢に行きましょう♡」

  私は空き部屋の一つを間借りすることに決め、ようやく肩の荷を下ろすことができました。これまで長い旅でしたがようやく地に足をつけて魔法の勉強が出来ると思うと……!!

  胸がときめく様な幸せな気持ちでした。

  旅の荷物も片付けたあと、ブブゼラさんの呼ぶ声に従ってリビングへ戻った私を待っていたのは……

  「わぁ……!! す、すごいっ! こ、このお料理全部ブブゼラさんが作ったんですかっ!?!?」

  「ふふっ♡ そうよ〜。ほら、アタシこんな図体でしょう? ご飯が大好きで人一倍食べちゃうから♡ それに今日は二人ですもの。ルミナちゃんにもお腹いっぱい食べてもらいたいしね♡」

  ブブゼラさんは満月みたいに大きなお腹をバシバシ叩いて笑っていました。

  「あ、そういえばアタシの専門について詳しく話してなかったわね」

  食卓についた私の向かいの椅子に座ったブブゼラさんは思い出したようにそう言いました。たしかにブブゼラさんの専門については噂程度で尋ねてきてしまったけど、実際のところどうなのでしょうか。

  「アタシの専門の魔法は……これよっ♡」

  そういうとブブゼラさんは指をひょいと軽くふりました。瞬間、食事がたくさん用意された目の前のテーブルの上に煙が立ち込め甘い香りが漂ってきました。煙が晴れるとそこには先ほどまでは無かった大きなホールケーキがどんと鎮座していました。

  「……!?!?」

  「アタシの専門は食事。そこから派生して農業やら医療にも紐づけられるってワケ。このケーキはアタシの家にあった料理の原材料にいくつかの魔法をかけて生成したってカンジ♡」

  料理を生成……!?

  私は持ちうる知識を総動員してブブゼラさんの魔法の仕組みを解釈してみようとしました。考えられるのは……

  「も、もしかして料理の手順を全て魔法だけで再現したんですか!? そ、それも即座に!?」

  「あら、さすがルミナちゃん♡ 優秀ね。そうそう、アタシは自分の頭の中にあるレシピを魔法で即座に再現できるの。それだけじゃないわ。空気中のマナを操って組み換えれば……」

  そう言ってブブゼラさんはケーキに手をかざしました。するとまた煙が包み込み、そして……

  「け、ケーキがもう一つ!?!?」

  「そう♡ これは複製魔法ね。理屈は簡単だけどマナ操作の塩梅が難しくてアタシ以外にできる人は少ないと思うわ♡」

  複製魔法……確かに教本に載っていた。緻密なマナ操作を経て物体を複製する高等魔法。理論上は可能だという話は聞いたことがありましたが本当にできる人がいるなんて……!!

  「と言っても、アタシはご飯にしか使えないけどね」

  とブブゼラさんは自嘲気味に笑いました。ブブゼラさんはそんなふうに言っているけど、こんなとんでもない魔法を扱えるなんてまさに神業というしかありません!!

  わ、私は今からこの人に教えてもらうんだ……。

  「さ、話は置いておいてご飯にしましょ! いくら食べてもお代わりは無限にあるから安心してね♡」

  「い、いただきますっ!!」

  私はブブゼラさんのご厚意に甘えて食事に集中することにしました。

  ブブゼラさんの料理はどれも絶品でした。魔法で手順を省略していると普通、それなりに歪みが生じてしまうものですがブブゼラさんの料理にはそんなものが一切感じられないほど美味しかったです。

  「はぐっ…もぐもぐ……! すごいっ! このお肉とっても美味しいです! 肉汁が溢れてきて止まらないっ!」

  「これはハンブルグっていう料理ね。アタシも大好きよ〜。ほら、こっちのパスタも美味しいわよ〜。アタシ好みにすこーしこってりしているけど絶品だから食べてみて!」

  「ずるずる……むしゃむしゃ……!?!? すごいっ! これ、卵とチーズですか!?」

  「ええ。あとは牛の乳を混ぜ込んでるの。ベーコンも入ってて美味しいでしょ? ほら、こっちのピザも王都の名店にも負けないんだから!」

  そんなふうにブブゼラさんに勧められながら食事は楽しく過ぎていきました。私はここまで質素な長旅を続けてきたこともあって胃袋はすっからかんでついつい食べすぎてしまいました。

  でもブブゼラさんは私の数十倍は食事していた様に思います。ブブゼラさんは自分のことを「アタシみたいにでっぷりした女」と笑っていましたがこれだけ美味しい料理を無限に作る力があるならそれも仕方ない様に思えます。

  ブブゼラさんとの楽しい食事は終わり……。

  「げぇぇぇっぷ♡ あら失礼。ついついいつもの癖が出ちゃったわ♡」

  「げぷぅ……しあわせぇ……! こんなに美味しい料理を食べたのは初めてです!」

  「ふふっ♡ よかったわ〜。ほらほら、お腹がパンパンすぎてローブがはだけてるわよ〜」

  「す、すみませんっ///」

  自分でもびっくりするくらいご飯を食べてしまったせいかお腹は膨れてローブがキツいくらいです。もっともブブゼラさんはもっと食べてましたけど。

  「さ、お腹もいっぱいになったしおやすみなさいな。お試しとはいえ、明日から色々教えることもあるし!」

  「はいっ! おやすみなさい!」

  私は満腹のお腹をさすりながら部屋に戻りました。ブブゼラさん、いい人でよかったなぁ〜。この人となら楽しく勉強ができそうです!

  私はお腹いっぱいのふわふわした頭に任せて眠りにつきました。明日から頑張ります……!!

  [newpage]

  [chapter:第三章 飽食の魔女]

  深夜、ルミナが寝静まったあとリビングに仄かな灯りがついていた。リビングで蠢くのは一人の……いや一匹の豚だった。

  「ぶひっ♡ ぶふっ……♡ ルミナちゃん、可愛いわね♡ んっ……♡ ぶひゃんっ……♡ このルミナちゃんが、アタシ好みに…っ♡ ああ……♡ 想像しただけでイっちゃいそう♡ ぶひひっ♡」

  その姿は紛れもなく豊穣の魔導士ブブゼラ。

  だがよく見ればその顔立ちに――いやこの場合は目鼻立ちに違和感を覚えることだろう。

  ブブゼラの鼻と鼻穴は普段より大きくなっておりまるで豚のように楕円形に膨らんでいた。それは人間が持つ顔ではなかった。

  そしてブブゼラは一糸纏わぬ姿で自分の豊満な腹肉や胸を揉みしだきながら、まるで豚の様な声をあげて乱れていた。

  ブブゼラは魔法で生クリームを生成し自分の体に塗りたくっていく。クリームに塗れた肥満体を揺らし、揉み、味わう。そこにいたのは食に溺れた醜い豚だった。

  ブブゼラの頭にあるのはルミナだけ。

  美しく華奢で何より純真無垢なルミナ。

  そしてもう一つ、豚の様に食と性欲に溺れ乱れ狂う肥満体のルミナ。

  豊穣の魔導士ブブゼラ。彼女はそう呼ばれている。

  彼女自身、その呼称を一つの名前として認めてはいる。だが彼女は一度たりとも自らその名を名乗ったことはない。

  なぜなら豊穣という彼女の名前はある種の誤謬だからだ。

  ならば彼女が自らを称する時、どの様にするのか?

  「ふふっ……♡ ルミナちゃん、ようこそ飽食の世界へ……♡」

  彼女が名乗る唯一の名は「飽食」。

  『飽食の “魔女” ブブゼラ』

  

  ――それだけが彼女の名前である。

  [newpage]

  [chapter:第四章 修行のはじまり]

  「おはようございます!」

  私がリビングへ出て行くともうブブゼラさんは起きていました。

  「おはよう、ルミナちゃん。まずは朝ごはんにしましょうか」

  そう言ってブブゼラさんは昨晩と同じ様に食べ物を魔法で生成してくれました。相変わらず普通の人よりは遥かに多い朝ごはんでしたが、無駄にするものよくないので私はなんとか口に詰め込もうとしました。

  しかし実際に食べてみると思ったよりも余裕で、ぺろっと平らげてしまいました。

  一人でパン一斤とベーコンエッグ五皿、ホットケーキ10枚は流石に無理だと思いましたが味付けをコロコロ変えてくれるおかげで無理なく食べられました。

  ちなみにブブゼラさんは私の5倍食べてました。

  お腹も膨れたところでブブゼラさんが早速魔法の講義を始めてくれました。この講義がなんとも分かりやすくて、質問もしやすかったのでたった二時間でしたがすぐに過ぎ去っていきました。

  今日教わったのは魔法で食事を作る方法でしたが、そう簡単にはうまく実践はできず……。と、私が悩んでいるとブブゼラさんがすぐにコツを教えてくれました。

  そうこうしているうちになんと今日だけでベーコンエッグの再現に成功してしまったのです!

  ブブゼラさん曰く、私は水魔法の適性も十分ある様ですがそれよりもマナ操作が上手いという話でした。マナ操作なんて教本でもただの基礎レベルしか載っていないので自分では気づきませんでしたが、どうやら筋がいいそうです。

  「これなら複製の方もできちゃうかもしれないわね」

  「ほ、ほんとうですかっ!?」

  今まで私にとって教科書の上の事例でしかなかったものに挑戦することができる……それだけで嬉しかったです。

  今まで独学でやっていたのがどれだけ無理のあることなのかよく分かりました。教えてもらうだけで、疑問をその場で解消できるだけでこんなに違うなんて――!!

  

  集中しているうちに時刻はお昼。またまたブブゼラさんの大量の料理を味わって次は――

  「ごめんなさい! 午後はアタシも自分の研究を進めなくちゃいけないのよ……」

  残念なことに午後はブブゼラさんもご自身の研究を進めたいとのことで教えてもらうことはできない様です。

  「そういえば普段はどの様な研究をされてるんですか? やっぱり食事の研究なんですか?」

  「ええ。それはもちろんなんだけど……あ、せっかくなら研究部屋見てみる?」

  「い、いいんですかっ!? ぜひっ!!」

  魔導士にとって研究部屋は自分の命みたいなものです。他人に明け透けにしては研究が奪われる危険もあるというのにブブゼラさんはご自身の研究室に私を招いてくれました。

  ブブゼラさんの研究室はそれほど大きくはない部屋でした。リビングの半分くらいの部屋にはいくつかの書籍や実験器具、それに魔法陣やら色々なものが設けられていました。

  本格的な研究となるとさすがに私の教本の知識だけでは全く理解できず困惑していると……

  「今のメインテーマの一つは食事の栄養素ね。いくつかの魔法道具を活用して一回の食事から得られる栄養素を増加させようっていう研究よ」

  栄養素の増加……確かにそれができれば貧しい人でも少ない食事で生活していけそうです。

  「もう一つの研究は……秘密♡ こっちはアタシの趣味に関するものだからあんまり実益はないわね♡」

  「趣味?」

  「そう♡ いずれルミナちゃんも同じ考えに至ったら教えてあげるわ♡」

  残念ながらもう一つの研究についてはよく分かりませんでした。

  「研究室はいつでものぞいていいわよ♡ アタシが一体何の研究をしているのか、身につけた知識で解き明かしてみるのもためになると思うわ♡」

  「あ、ありがとうございます!!」

  もう一つの研究の方もいつか自分でたどり着いてみたいと私は決意を新たに気持ちを引き締めました。

  とはいえ今の私が見てもわからないと思うので、今日の午後は独学の時間に充てることにしました。ブブゼラさんからは魔法の本をいくつかお借りしてそれを読んでみることにしました。

  今日借りたのは……栄養学や家畜の肥育の研究ですね。農協の知識で読み解ける部分もあって、それなりにわかりやすい本でした。

  魔法で栄養を倍加…確かに家畜の肥育に仕組みは似ているのかもしれません。家畜の肥育については確か魔法で技術が確立されていますしもしかしたらブブゼラさんの研究が実るのはもうすぐなのかも……。

  [newpage]

  [chapter:第五章 計画]

  一人になった研究室で魔女ブブゼラは微笑んでいた。たった1日教えただけでさまざまな知識を吸収して行くルミナの才覚に喜んでいるのでは無い。ルミナの貪欲な精神と疑いのない眼差しに邪な感情を抱いているだけなのだ。

  見極めるために時間が必要だとブブゼラは思っていた。魔女かもしれないと噂が立ってしまっている以上、ルミナの疑心がいつ火種に変わるかわからなかった。

  だがそれは杞憂に過ぎなかった。

  魔女は確信した。

  ルミナはすぐに目覚めると。

  背中を押してやるだけでルミナはすぐにこちら側にたどり着くと。

  無垢な心に少しだけ植え付けてやればいい。

  欲望の芽をほんの少しだけ植え付けてやれば、彼女の知識欲と頑張りと諦めない心がその邪悪な花を咲かせてくれると確信した。

  待つ必要などなかったのだ。

  「ぶひひっ♡」

  一人では完成し得なかった研究。

  魔力も足りず、マナの扱いも一人では限界があった。そして何よりまだ色の塗られていない真っ白なキャンバスが必要不可欠だった。

  例えばそう――魔法の最先端である王都に生まれず、魔物への恐怖や嫌悪に直面する冒険者の身分でもなく、自らの命題を見出した学院の魔導士とも自らの欲望を見出した魔女たちとも違う存在を求めていた。

  ブブゼラは自らが綿密に記録した研究書を愛おしそうに撫でる。学院では否定され、ギルドにも彼女が求める人材はおらず、魔導士として研究しても見つからなかった逸材。

  ブブゼラは決意した。

  「ぶひひっ♡」

  飽食の魔女はその豚鼻を鳴らした。

  「あら、もうこんな時間だったのね!」

  研究室から出てきたブブゼラさんは窓の外を見て驚いていました。よっぽど没頭していたのでしょう。

  ブブゼラさんはすぐに夕飯の用意をしてくれました。といっても昼と同じで魔法による調理なので瞬く間に出来上がるのですが。

  昨晩のパーティほどではないですがたくさんの料理(おもに揚げ物やお肉)を思う存分堪能させていただきながら研究の進捗をお聞きしたり、魔法のお話を聞いたり……とにかく有意義な食事でした。

  パンパンになったお腹のせいで幸せな苦しみを味わいつつ、私がまた本を開こうとしているとブブゼラさんが思い出したように話を切り出しました。

  「あ! そうだ! 昨晩はお風呂の案内をし忘れてたわね……! アタシとしたことがごめんなさい!」

  「い、いえ! 昨日は私もそのまま寝てしまいましたし……」

  「今日はちゃんと案内するわ! ついてきて♡」

  「??」

  ブブゼラさんはそういうと家の外へと出て行きました。お風呂なのに、外? と疑問に思ってしまいまたがすぐにその問題は解消されました。

  「アタシは体が大きすぎるからお風呂は外に作ってるのよ〜」

  家の裏手にあったのは大きな温泉でした。おそらくブブゼラさんの魔法の力で水が湧き出るようになっているんだと思います。

  温泉からは暖かそうな湯気が立っていました。

  すぐにでも入らせてもらいたい……と思いましたがよくよく考えるとここは森のど真ん中、つまりお外なわけで……。

  「大丈夫よ! だーれもこないから! ほら入りましょう!」

  「え、ええっ!? ブブゼラさんっ!?」

  ブブゼラさんはその場でローブを脱ぎ捨てて裸になりました。あまりに大きすぎるおっぱいとお腹のお肉がぶるんと揺れてすごいことになっています。

  食事のすぐ後だったこともあってブブゼラさんのお腹は膨れていてまるで妊婦さんみたいです。正面は大きく張り出しているのに脇腹は段々になっていて何だかすごいです……。

  ここまで太ったのはやっぱり食事の研究をしているからなんでしょうか?

  「ふふっ♡ 大きいでしょう?」

  そう言ってブブゼラさんは両手で抱えきれない大きさのお腹をブルンブルンとゆすってきました。目のやり場に困った私が顔を背けていると……

  「もうっ♡ こんなおばさんの太った体に照れちゃって……♡ それなら仕方ないわね♡ ほらちゃんとこっちを見てみなさいな♡」

  ブブゼラさんにそう言われて私は仕方なく顔をブブゼラさんの体の方に向けて――

  「それっ……♡」

  「え……?」

  ブブゼラさんの指が私の目の前で指揮棒を振る指揮者のように揺れました。なんのことだがわからず私の目線はその指を追いかけ……て……

  おい…かけ…て……?

  あ……れ…?

  あた…ま……が…なん…だか……

  [newpage]

  [chapter:第六章 洗脳]

  「ふふっ♡ ルミナちゃんはいい子ね♡」

  飽食の魔女は催眠状態に陥ったルミナを前に不敵な笑みを漏らしていた。

  「催眠魔法の耐性は無いのね♡ ごめんなさいね、ルミナちゃん♡ 本当は我慢しようと思ったんだけど無理みたい♡ 欲望を抑えて先生をやるなんてアタシには向いてないわ♡」

  欲望のままに飽食の魔女はルミナに刷り込みを開始する。己の真の目的を果たすために。

  「さぁ、ルミナちゃん、これから新しい扉を開くのよ……♡ うまくいけばアタシのようになれるわ♡ そう、アタシのように♡」

  ブブゼラはただルミナに見せるだけ。自らの体を曝け出し、肉に塗れた飽食の体をルミナに見せつけるだけだった。催眠状態のルミナの脳裏には段々とブブゼラの豊満な…いや豊満すぎる肉体が焼き付けられていく。

  催眠状態のルミナはもちろん無抵抗。

  ただひたすら脳裏にブブゼラの痴態を焼き付けて行くだけ。

  「ぶふぅ……♡ んっ♡ ほら、ご覧なさいルミナちゃんっ♡ これが飽食の果てに得られる体よ♡ 全ての食べ物が肉に変わり、脂に変わっていく体よ♡」

  いやらしい豚喘ぎをしながらブブゼラは真っ白なルミナの脳に色濃く全てを刷り込んでいく。

  ブブゼラという優秀な魔導士への憧れがもっと強い感情へ、もっと深い感情へ、もっと汚れた感情へと花開いて行くように魔女は願いながらひたすらにルミナの前で痴態を晒す。

  「ぶひぃぃっ♡」

  ブブゼラの鼻は絶頂と共に豚鼻へと変貌を――いや、豚鼻へと戻って行く。その姿はまさに豚。いやもっと正確に表現するなら豚に限りなく近い「魔物」だった。

  かつてこの森には「オーク」と呼ばれる魔物が暮らしていた。略奪と暴力に溺れたその魔物たちはある時、王都の騎士団に目をつけられこの世界から姿を消した。

  だが、実はオークの中で唯一「知恵」に傾倒した個体は騎士団の攻撃を免れ生延びた。知恵はやがて知識となって実を結び、魔法として花開く。

  そして、オークにして魔導士という異質な存在が誕生したのだ。

  「ぶひひっ♡ さぁ、ルミナちゃん。頭に焼き付けるのよ♡ 肉の悦び、肥満の悦び、そしてオークの悦びを♡ そして――」

  オークの魔女は決意したのだ。

  武力に溺れて滅んだオークではなく、知識と欲望に溺れて自由に爛れた小さな世界をいつか築き上げると。

  何にも汚されていない無垢なる少女を――オークの色に染め上げて見せると。

  [newpage]

  [chapter:第七章 ブブゼラのために]

  「ルミナちゃ〜ん? のぼせちゃったかしら?」

  「……はっ!?」

  私はブブゼラさんの呼びかけでようやく我に帰りました。確か私は……そうだ、ブブゼラさんに誘われてお風呂に入ってたんでした。

  あれ……? でもいつのまに私裸になって……。

  いえ、お風呂に入るんですから裸になるのは当たり前ですね。ブブゼラさんの前で裸になるのはすこし恥ずかしいなんて思ってましたが、実際は何てことありませんでした。

  隣を見ると心配そうな表情のブブゼラさんが私の顔を覗き込んで――

  「大丈夫?」

  どくん、と私の胸から不思議な拍動がしたような気がしました。ブブゼラさんの大きな丸顔と細い目が私の目と合ったその時、なんだかすごく……幸せな気持ちになりました。

  ブブゼラさんが私のことを心配してくれてる…♡

  これってもしかして凄く嬉しいことなのかも…。

  「だ、だいじょうぶですっ!」

  私はすこし遅れてそう返事をしました。

  「ふふっ♡ ならよかったわ♡」

  ブブゼラさんは安心したような顔に戻って、お風呂のお湯を自分の体に……ああ…ブブゼラさんの体……ブブゼラさんの大きなおっぱいにお湯が滴って……ブブゼラさんの弛んだお腹が水面に浮かんだ小島みたいになってて……太くて短い足が水の中で寛いで大事なところが丸見えで……凄く…美しいです…。

  ――はっ!?

  わ、私は自分の先生の裸を見て何を想像しているんでしょうか!?

  いくらブブゼラさんが魅力的な女性だからって同性の、それも今お世話になっている方に邪な感情を抱いてしまうなんて……!!!

  失礼にも程がありますよね……。

  それにどうして急にこんな気持ちが……。

  お昼だってあんなに近くで修行をつけてもらって、研究室まで見せてもらって、それに一緒に食卓を囲んだり、たくさんお世話になっているのに私は――!!

  だ、第一、ブブゼラさんとの関係はまだ2日目なのに……たった2日なのにこんなに魅力的な方だってわかるなんて……じゃなくて…うぅ…私は一体どうしてしまったのでしょうか……?

  頭の中がブブゼラさんでいっぱいで……。

  「ふふっ♡ どうしたのルミナちゃん。アタシの体をそんなにじっと見て」

  「あ、え、あ、いえっ! そんな! 見ては……」

  「わかった! アタシみたいなデブは珍しいから面白がってるのね〜?」

  「そ、そんなことは絶対にありませんっ!!」

  「本当にぃ〜? ほら、こんなにおっきくて太ったお腹は珍しいでしょ〜? ほれほれ〜」

  ブブゼラさんは意地悪そうに微笑んで私の手を無理やりご自分のお腹に当ててきました。

  どくん、と私の心臓がまた激しくなりました。

  血液が沸騰していくような感覚が全身を貫き、わたしの頭がどんどんとぼーっとしていきました。

  そして無意識に……

  「ひゃんっ♡ こら、アタシの腹肉モミモミしちゃダメよ〜?」

  私はブブゼラさんのお腹を揉んでしました。

  お腹を触らせたのはブブゼラさんの悪戯だったとはいえ人のお腹を勝手に揉むなんて私――っ!!

  「す、すみませんっっっ!!!!」

  「ふふっ♡ いいのよ〜♡ 減るもんでもないし。いえ、むしろこれでアタシの腹肉が減るならもっと揉んで欲しいくらいよ♡ ほらほら、いいのよ〜?」

  「――っ!? す、すみませんっ!!! のぼせちゃったみたいで……わ、私、もう出てますねっ!!!」

  このままここにいたらどうにかなってしまいそうでした。私は足早に温泉から離れて部屋に戻りました。

  「……ぶひっ♡ ちゃんと刷り込まれてるようで安心したわ♡」

  帰り際、ブブゼラさんが何か呟いたような気がしましたが私はそれどころじゃありませんでした。

  うぅ……私はどうしてしまったのでしょうか?

  ブブゼラさんにあんなやましい感情を抱いてしまうだなんて……。きっと頭がのぼせあがってしまっているんです。だ、だからこの気持ちは決してやましいものではなくて……。

  自室に戻ってもこの悶々とした気持ちは頭から焼き付いて離れませんでした。

  それどころか考えないようにするとむしろ頭の中にはブブゼラさんの姿が浮かんできて……。あのおおきなおっぱい、抱き着いて顔を沈めたら気持ちよさそうなお腹、どっしりとしてかっこいい手足、少し上向きのツンとした鼻、全部が私の思う理想の女性像で……。

  いったいいつからこんな風になってしまったんでしょうか。

  今まで自分がブブゼラさんみたいな女性にあこがれを抱いていただなんて思ってもみませんでした。もちろん、魔導士としてのブブゼラさんには憧れていますが女性としても魅力的だなんて最初に会ったときは思っていませんでした。

  それもこれも全部温泉でブブゼラさんの裸を見てからで……。

  「ふーっ♡ ふーっ♡ んっ♡ ダメッ♡ やめなきゃっ♡ でもっ♡ んぁっ♡」

  私の火照った身体は温泉のせいじゃありません。私は間違いなくブブゼラさんの裸に欲情していたんだと思います。否定しようとしても私の身体は嫌になるほど正直で、アソコを自然に弄ってしまいました。ブブゼラさんの裸を思い浮かべて、自分の手に残ったお腹のお肉の感触を思い出しながら私は背徳的な絶頂を迎えました。

  ちゃんと謝らないと、失礼ですよね……。

  絶頂を迎えて冷静になった私はそんなふうに思い始めました。もちろん、ブブゼラさんの裸で気持ちよくなってしまったなんてことは口が裂けても言えませんが、先ほどの温泉での態度はやっぱり失礼だったと思いました。

  私は乱れた服を着直して、ブブゼラさんがいるであろうリビングへと戻りました。しかし、ブブゼラさんの姿はありませんでした。まだ温泉にいるのかもしれないと思いましたが、温泉の方に明かりはついていません。かといってもう寝室に戻っている様子もありませんでした。

  (ブブゼラさん……どこに?)

  私は少し考えてブブゼラさんが行くであろうもう一つの場所のことを思い出しました。そう、昼間に案内してもらった研究室です。もしかしたらそこで研究の続きをされているのかもしれません。

  私は恐る恐る研究室の扉を開きました。

  どうしてノックをしなかったのか、どうして忍び足でもするようにこっそりと扉を開いたのか自分でもわかりませんでした。音を立てずに扉を開いたということは、もちろんブブゼラさんは私がのぞいているなんて微塵も思っていないわけで……。

  「んぁっ♡ ルミナちゃんっ♡ アタシのお腹っ♡ もっと揉んでいいのよぉ♡ この豚魔女のお腹を揉みしだいてぇ♡ ぶひぃぃぃッ♡」

  そこにいたのはあられもない姿で私の名前を呼びながら自慰に耽るブブゼラさんの姿でした。いえ、私の知るブブゼラさんとはどこか違う存在でした。いつものように大きな肉体をさらけ出していることは同じです。でも、ブブゼラさんの顔は——鼻はまるで豚のように大きくて、豚のように荒い鼻息を漏らしていました。

  まるでかつてこの地域一帯で暴れまわった魔物——オークのように。

  驚き――いえ、悦びにも近い不思議な黒い感情が私の中から湧き上がって来て弾けそうになりました。

  あのブブゼラさんが、私をオカズにしている。

  あのブブゼラさんが、自分のお肉を揉んで自慰をしている。

  あのブブゼラさんが、いやらしい声を上げている。

  私の頭の中は爆発したかのようにそんなことだけを考えていました。

  もっと重大なことがあったはずなのに、もっと疑問に思わなければいけないことがあるはずなのに、私は開いた扉の隙間からその光景を眺めていました。

  ブブゼラさんの大きな腹肉が私の名前を呼ぶ声と一緒に震えて、ブブゼラさんの大きなおっぱいからわずかに白いミルクが垂れて、私は、私は——……。

  (ブブゼラさんっ♡ ブブゼラさんっ♡ ブブゼラさんっっ♡♡)

  私は声を押し殺して私をオカズに自慰するブブゼラさんをオカズにしてしまいました。衣服を口に咥えこんで声を殺し、目の前に広がる淫靡な光景に任せて私も自分の気持ちを爆発させていきました。

  「ルミナちゃんっ♡ ぶひぃっ♡ もっと、もっと食べるのよぉ♡ アタシのように贅肉の鎧を身にまとって、もっともっと肥えるのぉ♡ んおぉっ♡」

  ブブゼラさんが理想と思う私になりたい……。

  私の中で大きな気持ちが湧きあがりました。

  ブブゼラさんが望むなら、私はもっと肥え太ることだって――♡

  私は服の下の自分のお腹やおっぱいに手をかけました。あれだけの食事を食べたんです。初日より少しお肉がついたような気がします。でもまだ足りません。

  ブブゼラさんみたいに、もっともっと太ってブブゼラさんが求める私になりたい♡

  理想の姿、それは私が温泉で、そしてここで見たブブゼラさんの姿だと頭の中で誰かが私に何度も繰り返しています。忘れるな、焼き付けろ、私はあんなふうになりたいんだと何度も何度も誰かが私に訴えかけてきます。

  私はその言葉を否定しようなんて思えませんでした。

  (ブブゼラさんっ♡ 私、なりますっ♡ ブブゼラさんの求める私にっ♡)

  魔導士としてじゃなくて一人の女の子として私はブブゼラさんのために変わる決意を固めました。決意と共に達した絶頂は、私の脳裏にとてつもない満足感を焼き付けていきました。

  ブブゼラさんにバレることなく朝を迎えた私はいつものように朝食へと向かいました。ブブゼラさんとあいさつを交わした私は――

  「いただきますっ!」

  勢いよく料理を手に取って口に詰め込みました。

  「あら、ルミナちゃん、お腹空いてるの?」

  「はいっ! はぐっ……もぐもぐ…とっても、お腹空いてて…もぐ…ごくん」

  まずは用意してあったベーグルを幾つか食べて、しっかり飲み込んでから次にベーコンエッグに手をつけます。ブブゼラさんの勢いに負けないくらい……ううん、ここからブブゼラさんに気に入ってもらうためにはブブゼラさんのよりも食べないと……!

  私は自分の胃袋をいじめるような気持ちでとにかくご飯を詰め込んで行きました。昨日見せてもらった栄養学や家畜の肥育の本に書いてあったことを思い出しながら、芋類やパンから手をつけて残りの胃袋にベーコンやソーセージを詰め込んで……。

  ローブの上からでもわかるくらいお腹が膨らんでパンパンになりましたが、きっとこれでも消化し切る頃には元に戻ってしまうんだと思います。

  あれだけたくさん食べたのに大した栄養にならないのはすこし残念――と思っていた時、ふと私は昨日のブブゼラさんの研究を思い出しました。

  「あ、あの、ブブゼラさん! そういえば、栄養を増やす魔法はどうなったんですか?」

  「ああ、あれは一応試作段階ね。誰でも使えるように魔法じゃなくて、魔法を込めた薬剤にしようと思って調整中よ」

  「そ、それじゃあ、原型の魔法は完成しているですか!?」

  「ええもちろん。いま苦戦してるのは道具と組み合わせるところだから。それがどうかしたの?」

  「よ、よければその魔法――教えてくださいませんか? 私も、えーっと……そうだ! 私も実家に帰った時に使えたらなって思ってたんです!」

  「ふふっ♡ 両親想いなのね。いいわよ、理屈は……」

  食事中でしたがブブゼラさんは丁寧に魔法の理論を教えてくださいました。農家を営む両親のため――というのは名目に過ぎず、本当は自分の仄暗い欲望のためだなんて口が裂けても言えませんが。

  私はブブゼラさんにお礼を言って、実験と称して料理に魔法をかけてみました。味はあんまり変わったように思えませんし、食感や何かが変わった印象もありません。でも、私は魔法の成功を信じてさらにご飯を詰め込みました。

  [newpage]

  [chapter:第八章 魔女]

  「げぇぇっぷ……」

  食後、幸せな満足感とともにげっぷが漏れてしまいましたが、気にはしません。なんせブブゼラさんのげっぷはもっと大胆で豪快ですから。

  私は食器の片付けを手伝ってから勉強の方に移りました。昨日は魔法の基礎でしたが今回は水魔法――中でも食事に関する魔法を教わることに決めました。

  と言っても基礎にあるのは家畜の肥育や飼育らしいのでまずはそこから勉強する必要があるみたいですが。難易度は昨日のよりも上がりましたが自分にとっても専門分野だったこともあって実践するのはさほど難しくありませんでした。

  これなら家に帰った後も両親の手伝いが――私はそこでふとまたもや暗い欲望が湧き上がってきました。体内の脂肪の量を調節して肥育を促す水魔法、それは確かに酪農をこなす人々にとって力強い助けになる魔法です。

  でも、もしこれを「そのまま」人間に使ったらどうなるんでしょうか……?

  もちろんブブゼラさんが家畜のためにこの魔法を編み出したことはわかっています。でも、ブブゼラさんのために太ろうと思って自己肥育を続ける私はむしろその家畜に相応しいのではないでしょうか?

  い、いえ、何を考えているんでしょうか。

  自分の方が家畜より家畜らしいと自負するなんて我ながらどうかしてました。そんなふうに魔法を応用するなんて……で、でも……。

  ブブゼラさんが席を離れている隙に私は自分のお腹に手を当てていました。そして、先ほど教わった肥育魔法を試してみました。欲望には勝てませんでした。

  もし魔法の力で太ることができたならどれだけ早くブブゼラさんの求める私になれるだろうという考えが消えず、頭の中に響く声が私の背中を押してくれました。

  誰かのためにという欲望はこれまでもありました。

  でも、今の私はブブゼラさんのためだけに太りたいと思ってしまっています。

  私はどうなってしまったのでしょうか。

  一体いつからこんなふうに……。

  いえ、仕方ないんです。挫折しかけていた私がブブゼラさんの情報と出会ったその瞬間からきっと私の中で他の魔導士とは比べ物にならない尊敬が溢れていたんだと思います。

  そして直接出会って、教えを受けて、そしてあの日裸まで見て……そこで私はブブゼラさんの人としての、女性としての魅力に心が支配されてしまったのでしょう。

  だから私はブブゼラさんのために……♡

  手のひらに込めた魔力がどんどんと高まっていって私の体に流れ込んでくる実感がありました。マナを操作する力が秀でているらしい私なら魔法の効果を最大化することだって出来るはずです……。

  もっと…もっと…。

  朝の食事が全て肉に変わるようなイメージを。

  体の中の脂肪が増えていくイメージを。

  ブブゼラさんの姿を頭に思い起こして。

  私は……私は……!

  お腹に当てた手に僅かな弾力を感じました。食事を詰め込んだ後のハリじゃなくて、これは肉の弾力です。

  大丈夫、うまくいく……♡

  私は魔法の出力を高め、どんどんと体の中に脂肪を注入していくような感覚をイメージしました。

  肉がついて、お腹がだんだん大きく……

  「あら? ルミナちゃん、何をしているのかしら?」

  「――!? ぶ、ブブゼラさんっ!?」

  いつの間にかブブゼラさんが戻ってきていて、私が魔法を自分に使っている姿を見られてしまいました。ブブゼラさんはニヤニヤと笑いながら私を止めることもなくただ眺めていました。

  私は急いで魔法を止めて言い訳を考え始めました。

  そうだ…魔法を自分の欲望のために使うこと、それが何よりも危険なことだったのに……。

  「ルミナちゃん、どうしてやめるのかしら?」

  「ま、魔法を欲望のために使うのは、ダメなことで…」

  「ふふっ♡ そうね。自分のために魔法を使うのは良くないことだわ♡ 例えどういう形であれ欲望に溺れて魔法を使ってしまうのはいけないことだわ」

  「は、はい……す、すみません……」

  「ふふっ♡ ねぇルミナちゃん。『魔導士』が『自分の欲望』のために使うのは良くないことなのよ♡ そんなことするのは『魔女』くらいなんだから♡ なら、どうすればいいかわかるわよね♡」

  「…………あ」

  自分が自分のために使うのはだめ。

  魔導士が自分のために魔法を使うのはダメ。

  魔導士が欲望に溺れで自分のために魔法を使うのはダメ。

  魔女ならいくら自分のために魔法を使ってもいい。

  魔女なら私は望む私になれる。

  「私が……魔女なら……♡」

  「そう、ルミナちゃんが魔女になるならどんなことだって許される。例えばそうねぇ、自分の欲望に任せて自分の体を太らせることも何の問題もないわ♡」

  「魔女……♡ 魔女に……♡」

  「ところで……アタシがもう一つ研究をしていたことを覚えてる?」

  ブブゼラさんは不意にそんな質問を投げかけてきました。確かにブブゼラさんは栄養魔法以外にももう一つ研究をしてるって……

  「それはね、真っ白で綺麗なキャンバスを真っ黒に汚す研究なの。例えばね、人を魔の世界に引き摺り込んでしまうような研究……♡」

  「魔…の世界?」

  「今の……アタシの魔法が染み付いて心が変わってしまったルミナちゃんならもう気にしないことでしょうから……アタシの正体をおしえてあげる♡」

  魔法が…染み付いて?

  ううん、そんなことよりブブゼラさんが私に自分の秘密を教えてくれるってこと……?

  そんな、そんな素晴らしいことがあるんでしょうか♡

  ブブゼラさんがパチンと指を鳴らすと一瞬にして彼女の体が変わっていきました。あの夜、扉の隙間から私が見た時のあの姿に。

  私の見間違いでもなく、ブブゼラさんは確かに紛うことなき……

  「オー……ク……」

  「ぶひひっ♡ ごめんなさいね♡ アタシは豊穣の魔導士なんて名前じゃないの。本当は――飽食の魔女ブブゼラ♡ オークとして生を受けた魔物なのよ♡」

  大きな豚鼻、大きな豚耳、熱っていたブブゼラさんの体はほのかに桃色がかったオークの肌に。

  目の前に立っていたのはかつて絶滅したと言われるこの地域特有の悪しき魔物――オークでした。

  私はそんなブブゼラさんを見て恐怖どころか心が躍りました。そして安心しました。

  なんだ……ブブゼラさんも魔女なんだ♡

  それなら弟子の私が魔女でも何にも問題ないですよね♡

  「ぶひひっ♡ 今のルミナちゃんが抱いている感情は私が洗脳魔法で作り上げた偽物かもしれないわ♡ だから太りたいなんて思うのはここにいる悪い魔女が自分のためにやったことかも♡ ぶひっ♡ それでもルミナちゃんは変わりたい? 魔女に……いいえ、」

  私のこの思いが作られたもの…?

  私がオークのブブゼラさんを見てこんなにも心がときめいて、憧れて、恋している感情が偽物?

  なぁんだ。変だと思ってたんです。

  急にそんなふうに思ってしまうなんておかしいなぁって思ってたんです。

  よかった〜。仕掛けがわかったなら安心ですね♡

  それなら私はようやく私の望む方を選べます。

  私がおかしくなってしまったんじゃなくて、ブブゼラさんにおかしくさせられていたんならもう迷う必要はありません。

  何も怯える必要はなかったんです♡

  元の私に戻るのと、今の私を続けるの……どっちが幸せか、それだけでいいんです♡

  操られていても、ブブゼラさんの欲望のためでも、私は、私は――

  「それでもルミナちゃんは変わりたい? 魔女に……いいえ、オークの魔女に♡」

  ブブゼラさんの問いへの答えは決まっていました。

  「さぁルミナちゃん、望む答えを聞かせて♡ もう洗脳魔法は解いたわ♡」

  確かにブブゼラさんに言われたように頭の中は不思議とスッキリしていました。

  スッキリしたからこそより自分の気持ちがハッキリとわかりました。

  どっちが幸せか、考える必要もありません♡

  私は……ブブゼラさんの望む私に……。

  魔女ブブゼラさんの欲望に任せて、私の欲望の先にある私に……♡

  「ブブゼラさんっ♡ わ、私を、私を太らせてくださいっ♡ いえっ、私をオークに変えてくださいっ♡ 私の欲望のために、私のためにブブゼラさんの欲望で私をオークに太らせてくださいっ♡ わ、私、もう我慢できないんですっ♡ 操られてても、おかしくなってても、それでもブブゼラさんのことが好きで好きで憧れでとまらないんですっ♡ 私をブブゼラさんと同じにしてくださいっっ♡」

  私はローブをその場に捨て去ってブブゼラさんの全てを受け入れます。

  「ぶひひっ♡ ルミナちゃん、ずっとアタシもあなたが欲しかったのよ♡ 穢れもなく、純真で、清いあなただからこそ、心の底からオークに染まってくれるって信じてたわ♡ さあ、ルミナちゃん♡」

  ブブゼラさんも裸になってその美しい体を私の前に曝け出してくれました。

  「オークであるアタシの豚鼻に、ルミナちゃんのその小さな鼻をくっつけて♡ そう、キスをしましょう♡」

  私は言われた通りにブブゼラさんの体に抱きついて自分の鼻をブブゼラさんの豚鼻に合わせました。ブブゼラさんの暖かくて激しい鼻息が豚鼻から放たれて私の中に入っていく……♡

  「ぶふぅ……♡ ルミナちゃんも深呼吸しましょう♡ そして想像するの。自分の体が書き変わってオークになっていく姿を……♡ ぶひひっ♡ アタシがアタシの魔力を注ぐわ♡ それを変えるのはルミナちゃん自身よ♡」

  「……はいっ♡」

  私はブブゼラさんの声に全てを預けました。

  「すぅ……はぁ…すぅ……はぁ……すぅ……ふぅ…」

  ブブゼラさんの鼻息を鼻で吸って吐く。

  豚鼻を通して流れ込んできたブブゼラさんの魔力を受け取って私の体を変えていく。自分の選択で私は私をオークにする♡ 私はオークの魔女に…♡

  「すぅ……ふぅ…ぶすぅ……ぶふぅ…ぶひぃ……ぶふぅ……ぶひぃ…ぶぅ…♡」

  「ぶひひっ♡ かわいい豚鼻になってきてるわよ♡ さぁ、もっと魔力を蓄えてぶくぶく太るのよ♡」

  「ぶひぃ……ぶふぅ……♡」

  膨らみ始めてきた体がブブゼラさんのお肉に触れて気持ちいいです。抱きついていることもあってかお肉とお肉が触れ合って、汗と体温がとっても心地いい感覚で……♡

  ブブゼラさんの鼻息を自分の体に溜め込んでお肉に変える……♡ 私の体はもう人間のものじゃないんです♡ だって鼻息がもうふがふがと豚みたいになってますし、それにブブゼラとくっつけた鼻同士がさっきよりも密着している感じがします。

  それはつまり私の鼻もブブゼラさんと同じになってきているということで……♡

  もう鼻息の一つも漏らしません♡

  ぜんぶぜんぶ私の脂肪に変えるんです♡

  「ぶひぃ…♡ ぶひぃ…♡ ぶひひっ♡ ブブゼラさん…私のお腹、おっきくなってます…♡ ぶひっ♡ ブブゼラさんにも私のお肉の圧力感じますか…?」

  「ええ♡ あれだけ健康的で細かった体が不健康なデブオークまっしぐらよ♡ さあ、鼻キスが届かないくらい分厚い体になってちょうだい♡」

  「ぶひぃ♡ ブブゼラさんとキスできないのは寂しいですよぉ……♡ でも、大きくなりたいです♡ ブブゼラさんに負けないくらい、立派なオークに♡ ぶひぃ♡ ……あ♡」

  私のお腹のお肉が分厚くてブブゼラさんの鼻から鼻が離れてしまいました。私は自分のお腹を揉みながら体に今度は自分で魔法を練り込んでいきます。

  種族が変わってしまうくらいに濃い魔法を……私の自慢のマナ操作で最大効率の肥育を……そして私はオークになります……♡

  「ぶひっ♡ ぶひぃっ♡ ブブゼラさんっ♡ 見ていてくださいっ♡ 私、私っ♡ ぶひっ♡ 変わりますからぁぁっ♡」

  私はそう宣言をして再出力の魔力を自分に流し込みました。ブブゼラさんも笑って私の後ろから抱きしめてくれました。

  「ようこそ、オークの世界へ♡」

  「ブヒィィィぃぃっ♡」

  ブブゼラさんの声が私の耳――豚耳に届いたと同時に全身を稲妻のような絶頂が突き抜け私は意識を失いました。

  これが……人間ルミナの最期の瞬間でした。

  [newpage]

  [chapter:第九章 オークの魔女たち]

  人里離れた深い森には二人の優秀な魔導士が住んでいるという噂がありました。

  一人は豚のような肥満体型をした女性で穏やかな物腰と魔導士としての実力から人々に豊穣の魔導士として親しまれていました。

  もう一人も豚のような肥満体型をした小柄な少女で、若く穏やかで気立の良い性格をしており豊穣の魔導士の弟子として、そして豊作の魔導士として親しまれていました。

  「ぶひっ♡ さすがルミナちゃんね♡ 複製魔法もバッチリじゃない♡」

  「もうっ♡ 師匠の教え方が上手なんですよぉ♡ ぶひっ♡ 師匠の教えならどんなことでも……ぶひゃぁっ!? し、師匠っ♡ 急にお腹揉まないでぇ♡」

  「こっちの方も豊作じゃない♡ アタシの教えがうまいのかしらぁ?」

  「ぶひぃ♡ こ、これは私の実力ですぅ♡ 太ることなら師匠にも負けないくらいになって見せますぅ♡ ぶひぃぃ♡」

  人里離れた森には二匹の恐ろしく変態的な豚が――いえ、絶滅したと言われるオークが住んでいるという噂がありました。

  一人はオークらしい肥満体と大きな豚鼻を兼ね備えたメスオークで、自らを飽食の魔女と名乗る強力な魔物でした。

  もう一人はおオークらしい肥満体と大きな豚鼻を兼ね備え、自分の愛するメスオークと豚鼻同士のキスを交わしながら贅肉を蓄えていく少女のオークで、自らを――暴食の魔女と名乗るようになりました。

  そして暴食の魔女――いえ、私は飽食の魔女ブブゼラさんと一緒に今日も醜くも美しい豚の声をあげて乱れていくのでした。

  たった二人のメスオークとして……♡

  「「ぶひぃぃぃぃぃぃっっ♡♡」」

  豚声は今日も森に響いています♡