「旅立ち」
翌朝、ブラムとマリは、日の出ともに出発した。
二人は、昨晩の内に準備していた旅用の皮袋を背負い村の入り口に立った。
村の方を振り返ると、見送りに来た村人たちが、こちらに向かって笑いかけながら手を振ってくれた。
身体に気をつけて。
いつでも帰って来いよ。
俺より先に死んだら承知しないからな。
皆、それぞれに思い思いの餞別の言葉をかけてくれた。
ブラムは、思わす目頭を押さえた。
この村にルーシーとやって来たのは、二年前。ブラムが、ちょうど十五歳の頃だった。
短い間ではあったが、村の皆にはずいぶんと良くしてもらっていたので、もはや家族のような間柄だった。
そんな具合にブラムが郷愁に浸っていた時だった。人混みの中から一人の少女が姿を現し、彼の前に立った。
ルークの妹のベロニカだった。
この一週間、父の献身的な看病のおかげで何とか回復したらしい。
彼女の手には、何か光るモノが二つ握られていた。
「二人の旅に、神の御加護があらんことを」
ベロニカは、そう言うと手に持ったブラムとマリの前に差し出した。
それは、腕輪だった。
「旅のお守り。ピーターが、昨日徹夜して作ってくれたの」
ベロニカは、言った。
ブラムは、彼女の手から腕輪を拾い上げると、それを目の高さに上げてじっと見つめた。
無骨で、どこか繊細さも感じられる。いかにもピーターらしい造形だ。
「ありがとう。ピーターは、どこ?」
ブラムは、腕輪を右手首にはめながら尋ねた。
「今日中に仕上げないといけない仕事があるんだって」
ベロニカは、マリに腕輪を手渡しながら、答えた。
人狼は、一瞬ためらうそぶりを見せたが、最後にはそれを受け取った。
「ありがとう。ピーターとやらにも、よろしく伝えておいてくれ」
マリは、ぎこちない様子で言うと腕輪をブラムと同じ場所にはめた。
その時、ブラムは、ある事に気づいた。
彼女の左手の中指には、すでに指輪がはめられていた。
細いリングの表面には、細かい文様が掘り込まれ、中央には、かつて何かしらの宝石を嵌め込んでいたらしい穴があった。
人間の作ったモノではない。
ブラムは、直感的にそう思った。
あそこまで精巧な作りのモノは、人間にはまず作れない。
それに、あの文様。あれは、妖精特にエルフの職人が好んで使う形だ。
そんなモノを持っている彼女とは、一体何者なのだろう?
ブラムが、そこまで考えた時だった。
「どうかした、ブラム?」
ルーシーの声に、彼は、物思いから覚めた。
「あ、いや…。何でもない」
ブラムは、その場を言いつくろった。
本人の前で、持ち物のことをとやかく言うものではないだろう。
「そうか」
ルーシーは、それ以上追及しようとはしなかった。
「それじゃあ、元気でね?」
彼女は、言った。
「うん。ルーシーもね」
ブラムは、師の餞別に答えると、深々と頭下げた。
「それでは、また会う時まで」