「密談」
ブラムが旅立ってから最初の夜がやってきた。
マリは、正式に自分の持ち家となったジョンの家で机に置かれた水盆に向かい合っていた。
呪文を唱えながら指を水面に置き決められた形をなぞり、再び指を離す。
しばらくすると、水面が波紋を描きやがて懐かしい顔が浮かび上がってきた。
〈あら?誰かと思えば貴方ね〉
水面の中のジン物が言った。
「久しいな、ルーシー。そちらは、大事ないか?」
マリは、水面に向かって尋ねた。
〈まあ、いつも通りよ。そっちは、どう?ブラムは元気?〉
「それなのだが、今朝方あいつと別れたばかりなんだ。事後になってすまない」
マリは、そう前置きをすると今までの経緯を水面に映るルーシーに話した。
〈なるほどね。ブラムらしいじゃない?〉
話しが終わるとルーシーは満足そうに言った。
〈まあ、あの子は簡単に死ぬようなタマじゃないし、貴方もその様子だと堕心の心配はないようね〉
「やっぱり気づいてたか」
〈私だって、ほんの数年前はストレイだったのよ。知らない方がおかしいわよ〉
「それもそうだな。と言うことは、ブラムはあんたが仕向けた暗殺者ってことか」
〈本人には、それとなくしか言ってないけどね。
でも貴方、どうして堕心してるのに正気を保っていられるの?〉
「それは、私も分からない。
今後、ゆっくり研究してみようかと思うんだ。
もしかしたら、堕心の特効薬も作れるかもしれない」
〈そんなのものがあれば良いけどね〉
ルーシーの口調は、あまり期待してないような雰囲気だった。
「まあ、私も本気でできるとは思ってないさ。
ただ、やれるだけのことは、やるつもりさ。
邪魔をして悪かったな。
そろそろ研究に戻らないと」
〈そう、あまり無理しないでよ。
今の貴方は外科医であってガーディアンでもあるのだから〉
「分かってる」
マリは、そう言うと掌で水面を払った。
波紋が収まると、ルーシーの姿は消えていた。