俺のヒールが人生を変えたそうです③ーいつの間にかハーレム体制だった件ー

  [uploadedimage:21477724]

  討伐はもちろん失敗扱い。だが、オロの右腕を換金して2万ギニーを手に入れた。複雑な思いを抱えつつも、俺たちは再び宿に集まっていた。

  しがないヒーラーの俺、プラチナランカーのガウル、元奴隷のアヴィ。そしてオロから託された、クマ耳の少年――ウルスス種のクー。

  珍妙だった3人組が、いつの間にか珍妙な4人組になってしまった。

  これからどうなる俺たち!?

  いや、先行き不安しかない……。

  正直、ジリ貧だ。

  宿代節約のために、2人部屋を4人で使っている。

  でも、見捨てるなんて選択肢は俺にはなかった。

  今はまだベッドでぐっすり眠るクーの寝顔を、そっと覗き込む。

  泥で汚れたクーの顔を、水で濡らした清潔な布でそっと拭ってやる。額のあたりに、かすかな傷があった。小枝か、岩で引っかいたのだろうか。

  クーの父親の代わりになろうだなんて、これっぽっちも思っていない。でも――せめて今、俺にできることがあるなら、全部してやりたい。

  「ヒール」

  そっと額に手を当てると、指先から淡い光が滲んで、傷口を癒していく。

  その様子を、ガウルもアヴィも黙って見守っていた。

  「俺はここにいるから、二人とも下でご飯食べてきていいよ。歩き通しだったし、疲れてるだろ?」

  そう声をかけても、ガウルは目を伏せたまま動かず、アヴィも小さく首を振るだけだった。 まったく、揃いも揃って強情だ。

  俺は苦笑して、また視線をクーに戻す。

  外はもうとっくに夜だ。

  ガウルとアヴィはひとつのベッドで背を向け合うように眠っていた。

  クーはもうひとつのベッドで静かに寝息を立てている。

  そして俺は、床に敷いた寝袋の中で、天井を見上げていた。

  あたたかい命の重さが、まだ背中に残っている気がして――

  なぜだか、少しだけ眠るのが惜しく感じていた。

  ふと、夜中に何かがもぞもぞと動く気配で目が覚めた。

  寝袋の中が、ほんのりとあたたかくなっている。……いや、あたたかすぎる。

  (……ん?)

  目を開けてみると、すぐ目の前には――

  ぐしゃぐしゃの髪と、丸まった小さな背中。そして、クマ耳。

  「……え、ちょっ、えぇ……!?」

  小声であたふたしてる俺の胸元に、ちょこんと小さな手が伸びてくる。

  ぴとっと服を掴まれて、ぎゅっと引き寄せられる。

  (……いつの間に!?)

  こんなふうに甘えられて、嫌な気持ちになるはずがなかった。

  クーの寝息は少し震えていて、それだけで察してしまう。

  怖かったんだ。寂しかったんだ。

  仕方なく、いや、ほんの少しだけ嬉しくなりながら、俺はそっと腕を回した。

  (……断じて、やましい気持ちはない)

  (でもこれ、ガウルかアヴィに見られたら確実に誤解されるやつ……!)

  胸中ひっそりと焦りつつ、俺は目を閉じた。

  ──そして、朝。

  「ユーマ!! おはよーっ!!」

  破裂するような声とともに目を開けると、視界いっぱいにクーの笑顔が飛び込んできた。

  「……お、おはよう?」

  正直、拍子抜けだった。

  森に帰ると泣き叫ばれる覚悟をしていたのに、まさかの満面の笑み。

  思わず部屋の隅で身支度を整えていたガウルとアヴィに視線をやる。

  「……なんか一晩ぐっすり寝て、吹っ切れたみたいですね。起きた時からその調子でしたよ」

  アヴィが淡々と報告し、

  「……泣かれるよりは助かる」

  ガウルもベッドの縁に腰掛けたまま、軽くうなずいた。

  「ユーマ! おなかすいたっ!!」

  クーが嬉しそうに俺の服を引っ張る。

  (この急展開、寝袋ヒールの効果ってことにしておこう……)

  気の抜けた朝。だけど悪くない。

  きっとこの先も、こんなふうに振り回される日々が続くのだろう。

  「よし! ひとまず飯だな!!」

  俺の掛け声とともに、一階の食堂で4人並んでテーブルを囲む。

  ……うーん。こうして冷静に見ると、なんだか遠足の引率担当というか、保父さんになった気分でちょっと笑えてきた。

  「ユーマ! コレもたべたい!」

  「うんうん、好きなだけ食べていいよ。ガウル、よろしくな!」

  「……だから、なんでだ」

  元気になったのはいいけど、やっぱりクーは食いしん坊だった。

  ふと、ふざけ合う手を止めて、俺は口を開く。

  「……ちょっと気になったんだけどさ。オロとクーがいた施設と、アヴィのいたとこって、同じだったりするのかな」

  「オロさんが言ってた、“魔法省が戦闘兵器を作ってた”って話ですよね」

  アヴィはスプーンを置いて、軽くうなずいた。

  「……可能性は高いと思います。僕のいた施設にも、魔導師がいました。実験用の魔道装置も、たくさん……」

  一瞬だけ、アヴィの表情が翳った。

  「……だったら、オロの体が“ああ”なった理由と、アヴィが“奴隷”になった理由、同じ根っこかもしれないな」

  (……なんかこの国、ヤベェ匂いがプンプンするな)

  魔法省の裏で、何かとんでもないことが動いてる気配はする。

  でも今は――それを暴くより先に、やるべきことがある。

  目の前には、クーとガウルとアヴィがいる。

  生まれた場所も、背負ったものも――きっと、俺には計り知れない。

  だけど、それでも守りたいと思ってしまったんだ。

  ……問題は、俺の実力がまだ全然追いついてないってことだけど。

  ヒールしかできないし、財布の中もいつもスカスカだし。

  でも、だからって立ち止まるわけにはいかない。

  笑っていてほしい。

  その笑顔を守るためなら、どんな依頼だって、俺は――受けてみせる。

  「よし、稼ぐぞ。なあ、みんな!」

  パンの欠片を最後に口へ放り込み、俺は勢いよく立ち上がる。

  珍妙な四人組、再び出発準備だ。

  ――この世界は理不尽だけど。

  それでも俺たちは、命のために、ちゃんと戦って、生きていくしかない。

  クーの装備を整えてやるために、俺たちは、もう何度目かの防具屋の扉をくぐった。

  その瞬間、クーの目がきらきらと輝き出す。

  「わぁっ……! すごい、かっこいい!! ねぇユーマ、みてみて!!」

  その無邪気な声に、俺は自分の財布をぎゅっと握りしめる。あれだ。テーマパークで子どもがグッズ売り場に突撃した時の親の気持ち、たぶんこんな感じだ。

  「ガウル、アヴィ。どういうのがいいと思う?」

  「動きやすい装備。素材は軽めの革が理想だ」

  「魔法耐性も少しはあった方がいいですね」

  「そもそも、クーって戦えるのか?」

  ガウルがふと立ち止まり、クーの手を取った。

  「……この手の感じ。握り方と、指の皮の厚み。クーは弓使いだな」

  「え!? それで分かるの!?」

  「ユーマ、オレ、弓使える!! おとうさん、教わった!」

  「弓に決定だな。あとは……肘を守る革籠手、軽装の胴着、矢筒……このへんならセットでちょうど9,800」

  俺は財布の中をのぞいて――軽く目眩がした。残金、14,970ギニー。オロの右腕(※換金済)よありがとう……。

  俺の財布は軽くなったが、クーは大喜びで、何度も鏡に向かってくるくる回っている。

  獣人というだけで、道具扱いされるこの世界。

  子どもだろうと、“戦えなければ生きられない”なんて空気の中で――それでも、クーは笑ってる。

  「……よし。これでクーも、ちゃんと戦えるな」

  俺は軽くクーの頭を撫でた。

  クーは驚いたように瞬きをして、それから照れ臭そうに笑った。

  「うんっ! オレ、ユーマとたたかう!」

  その言葉に、自然と頬が緩んだ。

  (……大丈夫。あとは、俺が絶対に守る)

  ギニーは減った。でも、装備を整え、戦える仲間がひとり増えた。

  それだけで、十分すぎるほど、価値のある買い物だった。

  ――さあ、物語はここからだ。

  それからは、ギルドで依頼を受けてはこなし、また次の依頼へ。

  ささやかだけれど、確かに前へ進む日々が始まった。

  ガウルが前線で剣を振るい、アヴィが滑るように敵の懐へ入り、クーが後方から正確に矢を射る。

  俺にできるのは、ヒールだけ。誰かが傷ついたとき、回復魔法をかける。それだけだ。

  ──そのはずだった。

  ある日、ギルドから舞い込んだのは、農地に現れた低級モンスターの群れを討伐してほしいという簡単な依頼だった。

  どう見ても雑魚だ。俺でもわかるレベル。

  「アヴィとクー。お前らだけでやってみろ。小手調べだ」

  ガウルが剣の柄に手を添えながら言うと、二人は即座に前へ出た。

  「了解です」

  「いくよー!」

  相手は小型のリザード数匹。アヴィは滑るように距離を詰め、敵の足を素早く払う。

  バランスを崩したところへ、クーの矢が鋭く空を裂いた。

  ピンポイントで命中――見事な連携だ。

  「わーい! ユーマ、見た!? オレたち、すごい!」

  「上出来です。僕が教えたとおりに動けてますね」

  「……なかなか筋がいいな」

  ガウルも小さく頷く。

  俺は、三人のやりとりを微笑ましく眺めながら、どこか取り残された気分になっていた。

  (……俺は、これでいいのか?)

  本当に、ヒールしか脳がないのか?

  もっと他に、できることはないのか――?

  自問自答する俺に、その答えはすぐにやってきた。

  森で遭遇したのは、猪型の中型魔獣。低級とはいえ、さっきの雑魚とは桁違いだ。

  戦いは拮抗していた。アヴィが牽制し、クーが矢で援護し、ガウルが二人を指導役として見守る。

  けれど――

  「くっ!」

  クーの矢がわずかに外れた。アヴィの動きも届かない。

  その刹那――。

  「クー! 危ないッ!!」

  思わず声が出た。

  猪の巨体が、クーへと突進する。唸るように振り下ろされる前脚。

  クーは、その声に即座に反応し、飛び退いて難を逃れた。

  (……なんで、俺、今あんなタイミングで叫べた?)

  ただの偶然? 違う。

  もっと深い、確かな“感覚”があった。

  視界の中で、仲間たちと敵の位置が白と黒の石のように並んで見えた。

  次にどう動くか、どこを守り、どこを捨てるべきか――

  これは……囲碁だ。

  俺が昔、漫画にハマってなんとなく始めて、ちょっとかじっただけの趣味。

  大会に出るわけでもなく、飯の足しにもならず、誰にも理解されなかったアレ。

  でも、まさか――

  「……まさか、こんなところで役に立つなんてな」

  誰にも聞こえないように、そっとつぶやいた。

  「アヴィ、二歩下がって、左へ回り込んで。クー、そのタイミングで撃て!」

  叫んだ指示に、二人は一瞬戸惑ったが、すぐに従った。

  その矢は、敵の隙間を突き抜けて、急所を貫いた。

  ――命中。

  (……見える。盤面が、見える)

  ヒールしかできない俺が、戦場の“目”になれるかもしれない。

  この瞬間、確かに俺は「戦術家」としての目を持ち始めていた。

  ミディアムソードを構えたガウルが前線を切り開き、双短剣を操るアヴィが影のようにすり抜け、クーの矢が正確に敵を討ち抜く。

  その隙間を縫うように、俺は走る。仲間の背中を追いかけ、傷ついた者にヒールを放つ。

  この世界に転生してきてから、回復魔法ひとつしか使えない俺なんか、誰にも相手にされなかった。誰かに何かを託されることも、必要とされることもなかった。

  でも、今は違う。

  「クー、もう一歩前に出て! 角度、右に五度!」

  「うんっ!」

  「ガウル、背後に回る! オレがヘイト取る!」

  「任せろ」

  「アヴィ、飛び込むよ!」

  「了解、タイミング合わせます!」

  声を重ねる。

  信じて託せる仲間がいて、俺は、俺なりのやり方でこのチームの一部になれている。

  空を裂く咆哮。出現した大型個体のバジリスクに、ガウルが斬りかかり、アヴィが翻り、クーが矢を連射する。

  俺は足元の土を蹴り、転倒したガウルに手を伸ばす。「ヒール!」 眩い光が彼を包み、次の瞬間、彼はまた前に踏み出していた。

  それが俺にできるすべてで、それで十分だった。

  一日にいくつもクエストをこなし、討伐、護衛、探索、なんでも屋のように受けていく日々。  決して余裕があるわけじゃない。資金繰りはギリギリ、装備は中古で繕いながら、報酬の分配だって細かくやりくりしている。

  それでも、不思議と心は折れない。

  みんなの背中があるから。

  誰かが倒れそうになれば、俺が立て直す。それが俺の役目。

  夜、宿の安い二人部屋に四人で詰め込まれて、寝袋や毛布を譲り合いながら過ごす日々。  ちょっとずつ育つ信頼と絆。

  クーが笑ってくれるだけで、アヴィが小さく息をついてくれるだけで、ガウルが黙って頷いてくれるだけで、俺はヒーラーでよかったと、そう思える。

  この力が、誰かの命を守れるのなら。

  この場所が、みんなの居場所になるのなら。

  何度でも、俺は立ち上がる。

  俺は、ヒーラーだから。

  そして今夜もまた、俺たちは次のクエストの依頼書を手に、光の射す未来へと歩き出す。

  ***

  ギルドのお姉さんが、書類にささっとサインを入れて、俺に向き直った。

  「ユーマさん、アヴィさん、クーさん――ギルドは三名を、ブロンズランクへ昇格と認定いたします」

  お姉さんの言葉に、しばし現実感がなかった。

  俺の手の中には、確かに色の変わった冒険者タグ。

  “アイアン”だったプレートが、ちゃんと“ブロンズ”になっている。

  (……ほんとに、上がれたんだ)

  「やったー!!」

  クーが満面の笑みで小さく飛び跳ねる。

  アヴィは、少し驚いた顔で「……早かったですね」と呟きながら、いつもの調子で静かにタグを眺めていた。

  「いや、これも――みんなのおかげだよ。……特に、ガウル」

  そう言って振り返ると、当の剣士はいつもの無表情のまま、わずかに目を伏せた。

  「……違う。あれはあんたの実力だ。たまには、自分を認めてやれ」

  少しだけ低くて優しい声音だった。

  「……ガウル、ありがとう。アヴィも、クーも。ほんとに、ありがとな」

  クーが満面の笑みで跳ねるように言う。

  「ユーマ、すごい! 次は金色だなっ!」

  すかさずアヴィが静かにツッコミを入れる。

  「……それは“ゴールドランク”です。あと数年は努力が必要かと」

  「わあ、現実見せてきた……!」

  俺は思わず笑って、手の中のブロンズプレートを見下ろす。

  プラチナランカーに口説かれて(?)始まったこの珍妙なパーティーが――

  気づけば、ちゃんと「チーム」になっていた。

  最初はただ後ろから見てるだけだった俺が、今じゃ前線の動きを見て指示出したり、ヒールで支えたり、ランクまで上がっちゃったりして。

  ……すごいじゃん、俺。

  ――って思いたいけど、正直まだまだだ。

  ヒールしか使えないし、財布はいつもスカスカだし、頼れるのは理性と囲碁の知識だけ。

  それでも。

  目の前の誰かのために、何かができるって実感できたのは、たぶん人生で初めてだ。

  帰る家は、まだない。

  でも――ガウルも、アヴィも、クーも。

  みんなが少しずつ俺のそばに居場所を作ってくれて、

  気づけば、その場所に帰ってきてくれるようになった。

  ……なら、俺もその「帰る場所」になってみたい。

  そんなの、似合わないって笑われるかもしれないけど――

  それでも、今の俺には、ちょっとだけ誇れる気がするんだ。

  「さーて……。次の依頼、何にしようかね」

  肩の力を抜いて笑った俺の声に、いつもの仲間たちの足音が、背後から重なってくる。

  ***

  その日、ユーマはギルド直営の簡易銀行に手続きをしに出かけていた。

  仲間との連携が板につき、依頼の成功報酬が少しずつ積み重なって――ついに、彼の財布が膨らみはじめたのだ。

  残されたガウル、アヴィ、クーの三人は、いつものように食堂の片隅でテーブルを囲み、昼食を取りながらユーマの帰りを待っていた。

  湯気を立てるスープとパンの香りの中、ふとアヴィが口を開く。

  「ガウルさん、クーさん。……ちょっと、ご主人様のことで話したいことがあって」

  クーはパンをもぐもぐしながら、きょとんとした顔で首を傾げた。

  ガウルは無言で視線を向ける。

  場の空気が、ほんの少しだけ引き締まった。

  「ご主人様のヒール、ちょっと普通のヒールと違うような気がしませんか?」

  嬉しそうにクーが身を乗り出す。

  「おとうさんのコトバ戻った! ユーマのおかげ! ユーマのヒール、オレ好き!」

  その言葉に、アヴィはそっと視線をガウルに向けた。

  ガウルは、少しだけ視線を落としたまま黙り込む。

  やがて、ゆっくりと顔を上げると、微かに目を細めて頷いた。

  「……あいつのヒールは――俺の人生を変えた」

  「……やっぱり。僕の気のせいじゃなかったんですね」

  「……ああ。あいつはいつも、『気のせいだ』って流すけどな」

  ガウルは視線を落とし、静かに続ける。

  「だが、あれは……ただの治癒魔法じゃない。癒す力が、どこか深くに届く」

  アヴィが真剣な面持ちで問い返す。

  「僕もそうでした。……本当に、ご主人様はただの回復術師なのでしょうか?」

  ガウルは少しだけ間を置いて、ぽつりと答えた。

  「……分からない。だが、“普通じゃない”ってことだけは、確かだ。当の本人は……まるで気づいてないがな」

  「ユーマ、すごい……」

  クーがぽそっと呟く。

  テーブルの上にはまだ湯気の立つスープ。静かな食堂の片隅で、3人だけの小さな会話が、確かな手応えと共に、ひとつの予感を含んでいた。

  「たっだいま〜〜!! ギルドの金庫にパーティーの資金預けてきたよ」

  ユーマが元気よく手を振りながら戻ってくる。小さな通帳をパタパタ振り回していた。

  「なになに? 俺のいない間に何の話してたの?」

  「……あんたの話だ」

  ガウルがぼそりと呟く。

  「やだ……!? 俺のヒールより、やっぱりオ◯ナインの方が効くよね! ってそういう話……!?!?」

  「違いますよ。ご主人様が、すごいって話をしていました」

  アヴィはスプーンを止め、にこりと微笑んだ。

  「ユーマ、すごい! ヒカリ、ぽかぽか!!」

  クーは両手をぶんぶん振って、パンくずをそこら中に飛ばす。

  「えっちょ……やだもう……なんなのこの空気……結婚式? 表彰式? え、泣いていいの!? 泣くよ!?

  てか、全員俺のこと好きすぎじゃない??」

  「…………」

  ガウルはわずかに視線をそらし、

  「……まあ、はい」

  アヴィは頬をほんのり赤く染め、

  「すき!!!」

  クーは両手を広げて、満面の笑みで叫んだ。

  「……あ! おかみさーん! お子様ランチとプリン3つずつ追加で!!」

  「やったー!! ハンバーグ、ハンバーグ!!」

  無邪気に喜ぶクーを横目に、

  ガウルとアヴィは、こっそり小さくため息を吐いた。

  「……お子様ランチ、か」

  「……プリンも3つでしたね」

  ふたりの胸のうちにあったのは、ささやかな落胆だった。

  「ガウルさん。あとで一杯やりましょう」

  「……ああ」

  ガウルは苦笑しながら、満足げに笑うユーマの横顔を見つめ、静かに目を閉じた。