2 両家ご歓談!舅獅子・狼同士の酒飲ませ合い意地張り合い!
ウルクと手を握り合いながら睨み合っていると、レオとワーフが声をかけてきた。
レオ「親父、どうしたの?ウルクさんが素敵な人だからってそんなに手を握ってたら迷惑だよ」
ワーフ「ウルクさんに力比べでも挑んでる?父さん、今日は顔合わせで来てるんだからね」
さすがに睨み合いながら手を握り続けていたのは不自然だったのか、互いの息子が気にかけてきた。
ワシはウルクと睨み合う視線は切らさずに、テーブルの席に座った。その後は運ばれてきた食事を口にしながら、酒を飲み歓談してレオとワーフと雑談をしたり、ウルクとも表面上は穏やかに話を合わせていた。
レオがウルクに親しげに話しかけ、ウルクも満更でもなそうにしているのが癪に障る。レオも向こうの家族行事や旅行に一緒に行っていたようじゃ。
息子達が軍人であるせいか、互いが元軍人だということはすぐに息子たちに紹介された。
ウルクは戦後、色んな部隊と土地を転々としながら、情報将校として今の土地に落ち着き、狼族の旦那と出会い結婚したとか。ワーフ君はウルクの子種を元に、ウルクの旦那が産んだとのことじゃった。
ウルクもワシが“金の勇者”だということには気付いているようじゃが、さすがにこの状況で場の雰囲気を壊すようなことはしたくないのだろう。
じゃが、ウルクとワシの間では静かな火花が散っていた、ウルクが強い酒をグイと飲み干すと、ワシを睨みつけてくる。酒の強さを比べ合うのは、戦場での兵士の力比べのようなものだ。
ウルク「いやぁ!こんなめでたいことですから、つい飲んでしまいますね~」
ライオ「ええ!ワシも歳だから控えようとしているんですがねぇ」
ワシも酒を飲み干すと、ウルクに見えるようにグラスを置く。
ウルク「まあ、息子さんがこんだけ大きくなったんだったら、歳をとりますし控えたほうが良いでしょうねぇ」
ライオ「いえいえ、立派な白髪をお持ちのあなた程じゃあないようじゃがな」
ウルクもそれを見ると、ウェイターに更に強い酒を頼む。
ウルク「ご冗談を、私はまだまだ現役の兵士にも負けない若さですよ」
ライオ「ほう?そうやって歳のことを忘れてしまうくらい歳を重ねたいものですじゃ」
負けじとワシも同じ酒を頼むと、2人の手元に同時に酒が運ばれる。
ウルク「あなたもあの戦に従軍してたなら、私と同い年でしょうに。きっと新兵だったんでしょうねぇ」
ライオ「何を?ワシの勲章を見ればそんなことはないと分かるでしょうになぁ!」
ワシとウルクは互いにそっぽを向きながら一気に飲み干す。どうも酒の強さは相手も中々のものじゃ。
ワシは少し嫌がらせをしようと思いついた、ウェイターを呼ぶとウルクに向けて酒の注文をした。
ライオ「獅子の国の伝統じゃった酒です、どうですか一杯?」
ワシら獅子の国伝統品として伝わる酒は、獅子軍人の戦場での士気を上げ、狼国の領土でも故郷の味を思い出させる貴重品として、配給品や獅子の軍人酒場で定番となっていた。戦場の獅子軍人からは、前日の夜に戦前の宴で飲んだこの酒の匂いが溢れ出していたのを鋭い嗅覚で感じた狼軍人達は嫌ったそうだ。
その酒を、息子と婚約者の前で、相手の父親からの好意として頼まれたからには断るわけにはいかない。苦々し気にこちらを見つめるウルクの顔を見て、ワシはニヤリと笑った。
だが、ワシの注文を取り厨房に戻ろうとしたウェイターをウルクが引き留めて酒を注文する。
ウルク「狼の国に伝わる歴史ある酒です、祝いの席ですしどうぞどうぞ」
ウルクが頼んだのは狼軍人達が飲み楽しんでいたことで有名な酒だ。満月の夜にこの酒を飲んで宴を上げるべく、狼軍人達の士気も高揚し、戦っていた身としては手ごわくなった。忌まわしき敵が飲んでいた酒として、戦場で戦っていた獅子軍人の間には今でも飲まない者も多い、ワシもこの酒は苦手だ。
本当なら飲みたくもない苦々しい思い出が蘇る酒だが、レオとワーフ君の前で勧められた以上飲まないわけにもいかない。ワシはせめてもの抵抗としてウルクを睨みつけると、ウルクは口元を上げニヤリと笑った。
二人が頼んだ酒は同時に運ばれてくると、レオとワーフがウルクとワシに話しかける。
レオ「ウルクさんといると、俺のレオ親父のようで安心できます。なんだか俺の“親父さん”になってもらえるなんて感慨深いです。」
ワーフ「レオさん、なんだかウルク父さんに雰囲気が似てると思っていたけど結婚してからは本当に僕の“お父さん”なんですね」
互いの息子が憎い宿敵の事を父親である自分のように尊敬している、なんて悪夢だ。酒でも飲まなければやっていられない。この際ならば、どんな酒でもいい。
ワシとウルクは同時に酒を掴むと、グラスを傾け飲み始める。さっきまでのグイグイ飲み干す姿とは異なり、互いに嫌な思いがある酒だからか、飲む速度は遅く、砂時計が全部落ちるのを見続けるかのように時間がかかった。飲んでいる間ワシとウルクは互いを睨み合っていた。
飲むとワシの身体からは、かつて戦場で犯し合っていた狼獣人達と同じ匂いが漂う。なんだか狼軍人達に身体を犯されているみたいじゃ。鼻が利くウルクにとっても、獅子軍人の匂いを思い出させる酒を飲まされてさぞ不快じゃろう。
飲み慣れていない酒を飲んだせいか、ワシの身体は熱くなり、グラスに反射して映る顔は赤くなっている。ウルクも同様に赤くなる。互いに合わない酒を飲んだせいか酔いが回ったようだ。ウルクがまくしたてるように話す。
ウルク「この酒は相変わらず、美味しいですねえ。私が兵士の頃、捕虜収容所で獅子軍人から嫌がらせに飲まされて以来ですよ。まあ返り討ちにして脱走したから勝利の味ですかねえ」
ライオ「ワシは犯した狼軍人の補給品を奪って飲んだ時以来じゃのう、まあ飲めるもんじゃなかと。どうせ元の持ち主たちは捕虜にしたから飲めないし、勿体ないから飲み干したんじゃがな」
ウルク「ほう、だとすると獅子軍第5部隊の所属でしたか?獅々谷の戦いの時にも?」
ライオ「ああ、あんたもその口ぶりからすると、戦いにはいたようじゃな。とは言ってもその時の戦いでは狼軍は負けたようじゃがの」
ウルク「どうやら、とんだ勘違いをしているようだ、その後捕虜収容所から脱走した我が軍の情報を元に押し返したことをお忘れで?」
ライオ「いやいや、とんでもない。ワシら獅子軍もすぐにやり返したことを覚えていないのはあんたのほうじゃろ?」
ワシとウルクはふとしたきっかけから過去の戦いを掘り返し、どちらが勝った負けたの言い合いを始めてしまった。最終的には両国の総力を挙げた犯し合い決戦で相打ちとなり和平が結ばれたが、そんなこと関係はない。もし今互いに戦場にいるなら、こんな回りくどい嫌がらせをせずに犯してしまえるのに、と互いに思いながらも
レオ「また始まったよ、ウチのオヤジの戦自慢」
ワーフ「俺も父さんの自慢話をまた聞かされる身にもなってほしいよ」
レオとワーフ君はいつものことか、という素振りでワシらのことなど気にも留めてないようだ。ワシも昔の武勇伝を良く語るが、ウルクもよっぽど過去の栄光を掘り返すのだろう。