私の特異な体質

  私、大河リコ(オオカワ リコ)は幼い時からちょっと変わった、いやかなり変な体質をしている。

  「ふぅっ…ふっ…ふうぅ……」

  これから晩御飯をいただこうとしていたところであり、今はまさにその変な体質の症状が出ている真っ最中でもある。

  息を荒くし、着ていた仕事用のスーツを全て脱ぎ、裸になった私は両手をテーブルの上に置き、これから起こる現象に備えて楽な姿勢をとる。

  ビキビキッ…バキッ

  手足の爪がひび割れていき、その下からは丸みを帯びた爪が新しく生え始めていた。手は激しく震え、置いていた机も揺らし、乗っていた食器達もカタカタと唸り始める。

  血はでたりするが痛みはとうの昔に慣れていた。

  ググググッ…

  爪が生え変わるのと一緒に、私の手足には得体の知れない力が入り、血管を浮き上がらせながら細身の腕や足が太く筋肉質になっていく。

  後ろ足に関しては足の甲が伸び、人の形から離れていっていた。

  グッグキッゴッ

  「ふぅー…ふぅー…ふぅー……」

  重い音を立てながら背中が浮き上がって、自然と体は前に倒れていきながら猫背になる。

  この瞬間は呼吸が苦しくなり、歯を食いしばりながら必死で息を吸ったり吐いたりする。

  歯の隙間から息が漏れ、スースーと勢いよく出ていく。

  ビキキッ

  「ぐぎぃ…!」

  そんな噛み締めていた歯が段々伸びていく。

  歯茎を押し広げるように両端の前歯が伸び、先端が鋭く尖っていく。

  ビキィッグキッグキッ…バコッボコッ

  筋肉が膨らんで私の体は大きく膨らんでいく。至る所の筋肉が盛り上がっていき、腹筋も割れていって、ボディビルダーのように体が大きくなっていく。

  「おっ…おおぉ…」

  得体の知れない力が私の体から湧き上がってきて、勝手に開いた口からは変な声が漏れ、自然と涎が垂れる。

  ピクッ

  「ぉあっ…♡」

  次に尾てい骨の先端が動き、くすぐったくて恥ずかしい声が漏れる。

  ビクッズニュッグググググッ

  「あっ…あっ…あぁ♡」

  尾てい骨の先端が引っ張られるように皮膚と一緒に伸びていき、尻尾のような形になっていく。

  変な声が漏れているがくすぐったいからであって他意はないのでそこのところよろしく。

  グイッググググッ

  今度は顔の横についていた耳が上へ上へと押し上げられていき、頭の上に楕円に近い形の山のようにに変わっていく。

  モサモサモサッ

  ピクップルンッ

  やがてその耳は私の頭の上まで持っていかれ、形が整うと黄色い毛で覆われていく。

  変化が止まると弾くように耳が揺れ動く。

  「はふっ…はっ…はっ…はっ……」

  とまぁこんな感じで一通り体の骨格の変化が終わる。

  お次はというと…

  ファサファサファサッ

  「んっ…んんんっ…♡」

  痒みと共に動物のような黄色い毛が体の至る所から生えてくる。

  場所は手、足先、胸、腰、首元など、至る所から段々と生えてくる。

  体の大部分は黄色い毛で覆われるが、体前面は白い毛が生え、また黄色い毛の中に黒い毛が混じり、それが体に縞模様を描くように生えてくる。

  あまりのくすぐったさに甘い声が漏れてしまうのが少々恥ずかしい。

  グクッ

  「んごぉっ…!」

  毛が全身を覆っていき、最後に顔も毛で覆われそうになった時、最後の変化がやってくる。

  鼻先がムズムズし始め、裸足色が桃色へと変わり始めたのがわかる。それと同時に鼻先と口が硬い足が割れる様な音と一緒に前に伸び始める。

  ガコッグクッグギギギッ…

  「おっ…ごっ…えハッ…アァ……ンォ……」

  口が前に押し出され、顔の骨格も大きく膨らみ、猫科の動物の様な頭になっていく。

  次第に声も低くなり、女性的な高い声が低く獣の様な唸り声へと変わりながら、窮屈そうに声を上げる。

  「アエェ…ヘェ…ヘェ…ヘェ…ヘェ……」

  一通りの変化を終えた私は、二回りほど大きくなった頭と、クリームパンの様にパンパンに膨らんだ黄色い手をテーブルの上に乗せて、息を整える。

  幼い頃は一瞬で終わり、変化も人型で収まっていてここまで大きくはなかったが、年齢と共にその変化は大きくなっていき、今では意識や思考すらも定まらなくなっていた。

  「ウゥ…グゥウ…ガルルルァ……!」

  呼吸も整い、いよいよ待ちに待った瞬間がやってきた。

  食事の時間である。

  私はどうしても空腹が過ぎるとこのようになってしまうらしい。

  遺伝ではないのだけれど、恐らく昔行った動物園で触れ合った虎の赤ちゃんに噛まれた事がきっかけかもしれないが、よく覚えていない。

  普段はお腹が空かないように携帯食を持ち、小腹が空いたら何かしら口に入れているが、この日は仕事が忙しく、帰りまで携帯食が保たなかったため変化が起こってしまった。

  幸い家に着くまで我慢できて助かった。

  「フッ…フゥ…フゥ…フゥ…♡」

  しかしこの姿になったからにはそのしがらみを抑えるものは無くなり、湧き上がる本能と食欲によって私は心まで虎になってしまっていた。

  目の前には調理の間に合わなかった生肉が置いてあり、鼻先をヒクヒクさせながら匂いを堪能し、段々と人としての理性はぼやけていき、目の前の中に焦点が合っていく。

  「カロロロロ…ガアアッ!」

  ガブリュッ……ミチチチチチッ

  いただきますの挨拶の代わりに喉を鳴らしながら唸り、垂らした涎など気にせずに肉に飛びつく。

  獣の形になった後ろ足に力を入れ、床を強く蹴飛ばしてテーブルの上に体を乗せ、食事に入る。

  「グルルルルルルッ♡」

  肉を噛みちぎろうと何度も口を動かし、鋭く尖った肌何度も噛みながら滲み出る肉汁を味わう。

  低くい声を出しながらも、目は嬉しそうに細まっているのだろう。

  こうなった私自身は記憶がおぼろげになり、何をやったいたのかもよく覚えていない事が多い。

  そんな自分を見ていると、飲みすぎでベロンベロンになって呂律の回らなくなった父が浮かんでくる。父も酔うと別人の様に喋り始めるが、翌朝にはいつも通り無口になる。

  この虎のような姿になるのも、一種の酔っ払いに近いものを感じる。

  グチュッ…グチャッ…

  「ングッ…ンアッ…ガゥッ…」

  ゴクッ

  そんな事など考える余地は無く、私はテーブルの上の生肉を平らげ、咀嚼して細かくなった口内の残りの肉を飲み込む。

  こうして私は人の域から外れた食事を終える。

  「ンラゥ…ンニャン…ナン…♡」

  飲み込みやすいように上に向けた口をゆっくりと下ろし、口周りについた肉汁を舐め回しながら満足そうに声を出す。

  そうしながらテーブルの上に置いた体を下ろし、床にもふもふした手とお尻を付け、犬のお座りのようなポーズを取る。

  「ウッ…ウウウッ…ラウッ……」

  顔を俯かせ、少し声を上げる。

  すると、体が少しずつ萎んでいき、人の姿に近づいていく。

  お腹が満腹になり満足すると獣の本能が治まり、それに伴って体も人へと戻っていくのが、大人になった私の体の変化。

  「フッ…フッ…ふっ…ふうぅ……」

  乱れた呼吸もおさまっていき、低くなった声もいつもの明るい声に戻っていく。

  体の毛や肉球、尻尾、耳、牙などはまだ残ってはいて、半人半獣のような姿をしているが、少なくとも意識はハッキリとしているため、先程までの乱暴な行動にはならないためご安心を。

  「はぁ…なんか疲れたぁ……」

  足を崩してぺたんと床に腰を付け、ほっと一息つける。

  ほぐすように尻尾を唸らせ、変化前までの緊張も解消されたのを表していた。

  「んむっ…スンスン……うぅ…汗と血と毛の臭いが混ざってる……」

  毎度の事ながらこの異臭には嫌気がさす。

  様々な臭いが混ざり、動物園から漂うような独特な臭いが体や毛から鼻を通じて入ってくる。また鼻も発達してしまってより敏感になっているため、普通の人でもわかってしまうその臭いがさらに明確に臭ってしまう。

  「流石にお風呂入らない…と……」

  そう言って立ち上がろうとするが、崩した足が言うことを聞かなかった。

  まだ残っている獣の私が、「このまま寝たい」とわがままを言ってくる。

  「そんな…明日も仕事だから…こんなところで…」

  明日の仕事のことを考えるのは理性である人の私だが、仕事に変身と重なる疲労を取りたいと本能である獣の私は寝るように仕向けてくる。

  次第に体から力が抜け、広げられたブルーシートの上に体を横たわらせる。

  「だめ…このままじゃ…ほんとに…ねちゃ……」

  意識が遠のいていき、口も柔らかくなって声がはっきりと出なくなる。

  すると重くなった瞼とゆっくりと降りていき、店じまいのシャッターのように私の意識も閉じられていく。

  「……すぅ…すぅ…」

  とうとう私は眠りについてしまった。

  服も身につけず、毛で包まれた体を温めようと丸まり、尻尾を蛇のように地面に這わせながら動かす。

  寝息を立てて、疲れと満足感からか涎を垂らしながらぐっすりと眠る。

  この翌朝、完全に人の姿に戻った私が、慌てて飛び起きてシャワーを浴び、朝ごはんを加えながら出勤し、上司に頭を何度も下げる事になるのはまた別の話。