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玄関を開けて靴を脱いだ瞬間、後ろから霧生の腕が伸びてくる。バランスを崩した身体は、見事にその腕の中にすっぽりと収まってしまった。
「ちょっ、霧生……!」
逃れようと藻搔くも、離さないと言わんばかりに抱きすくめられる。今からこの男に抱かれるのだと、否が応でもわかった。うなじを舐め上げられ、大和の力がふっと抜ける。
「霧生、待て、風呂……」
「待てない」
霧生が耳裏から首筋を余すことなく舐めながら、性急に服を脱がしていく。
「霧生、逃げねぇから」
「大和」
シャツのボタンを外すのさえ煩わしいと苛立つ霧生の指先を大和が掴み、そっと口付けてくる。彼は背中まで赤くなっていて、霧生は目の眩むような興奮にヒュッと喉が鳴った。
「頼む、シャワーだけさせて」
「俺は気にしない」
「俺が!気にするんだっつの!」
振り返って霧生の胸に顔を擦り付けながら、大和が「集中できない」と小さく呟く。それは裏を返せば、霧生との性交に集中したいということで。霧生は破裂しそうな胸を押さえ、あふれるものを堪えるように天を仰いだ。
風呂から上がる頃には、大和は心身共にぐったりとしていた。事前に“そういうこと”をする時の準備などは調べていたのだが、いざやってみると、なかなかに抵抗のあるものだった。手伝うと言っていた霧生を拒んだのは正解だったと思う。あんな姿、とてもじゃないが見せられない。
「霧生、またせ、た……」
バスタオルを腰に巻いて部屋に戻ると、霧生はベッドに四つん這いになり、大和の布団に顔を押し付け、腰だけをカクカクと振っていた。フーフーと荒い息遣いも聞こえる。
自慰をしているわけではないようだ。ズボンも履いたままだし、あそこをベッドに擦り付けているわけでもない。
「フー……大和、大和っ」
その激しい腰の動きが、これから自分に襲い掛かるのだと嫌でも実感させられる。怖くないと言えば嘘になる。が、嫌ではない。それどころか、少しだけ期待している。腰のバスタオルを押し上げている大和の陰茎が、それを表していた。
「霧生」
少し大きい声で呼ぶと、パッと霧生がベッドから起き上がる。振り向いたその顔は完全に熱に浮かされていて、涎が口の端から伝っていた。霧生のズボンにもテントができており、その頂点は色濃く染まっている。
「ごめ、ん、大和……大和の匂いを嗅いだら、堪らなかった」
「ん……別に、お前が俺で興奮してんの、嫌じゃ、ねぇし……」
「大和っ」
霧生が飛びついてくる。ゴリゴリと陰部を擦り付けられて大和の喉がごくりと鳴った。
「俺も、湯、浴びてくる」
「俺は気にしないぞ」
「グルル……だめだ、ちょっと落ち着かないと、大和に酷くしてしまう……」
霧生は狼のように唸った後、足早に浴室へ向かっていった。一人になった大和は、先にベッドに横になる。布団から霧生の匂いがして、腰がズンと重くなった。さっきまでの霧生と同じことをし始めそうで、必死に気を紛らわせようとする。
(俺、今から霧生に抱かれんの、か……。)
当然、気が紛れるわけはなく。はち切れそうなほど大きくなっていた股間を思い出してしまった。あんな長大なもの、はたして自分に入るのだろうか。後孔をそっと人差し指で摩ると、蕾は固く口を噤んでいる。とてもじゃないが収まりそうにない。
しかし、胎の奥がきゅんきゅんと甘く痺れているのも事実だった。番いたいのは大和も同じなのだ。
シャワーの音が止み、暫くして浴室の扉が開く。大和は心臓が口から飛び出るのではないかと思うほど緊張していた。だが、姿を現した霧生の髪から雫が滴っているのを見て少しだけ冷静になる。
「おい、髪の毛乾かせ。風邪引くだろ」
「大和、無理、もう待てない」
「だーっ!俺がドライヤーしてやるから、早くこっち来い!」
嫌がる霧生を座らせ、両足で挟み込んでドライヤーの電源を入れる。途端に耳を塞ぎ、下を向く霧生。人間になった今も、やはりこれは苦手なままのようだ。
「大和のも、大きくなってる」
「……そりゃ、なるだろ」
後ろから身体をくっつけている分、霧生の背中に股間が当たってしまう。腰に巻いたバスタオルに裏筋が擦れて、くちゅっと小さく濡れた音がした。
見れば霧生の陰茎も、今にも弾けそうなほど大きく膨らんでいる。何本も血管が浮いていて、グロテスクだ。
「大和、もう、乾いた……っ」
「ん……」
ドライヤーの電源を切ると、立ち上がった霧生に抱き上げられた。そのままベッドに横たえられ、唇を塞がれる。
「んんっ」
「大和……ん、ん……」
口の中で霧生の舌が暴れる。歯列をなぞられ、犬歯を愛おしげに舐められる。上顎の粘膜を擽られると、大和の背中が弓形に反った。
キスをしている間に、霧生が大和のバスタオルを剥ぐ。ぷるんと飛び出したそれは案の定しとどに濡れていて、バスタオルとの間に透明の糸が引いていた。
唇を離した霧生が、まじまじとそこを見つめてくる。恥ずかしくてもじもじと両腿を擦り合わせると、無理矢理広げて抱え上げられた。陰茎も陰嚢も、奥まった窄まりまで、全てを晒け出す格好に、大和の全身がぶわあっと赤く染まる。
「やっ、ばか、見んなよぉっ」
「はーっ、はーっ、はーっ」
霧生は息を荒げながら、目を見開いている。そのまま陰嚢に鼻を埋め、スンスンと匂いを嗅がれた。恥ずかしくて恥ずかしくて涙を滲ませながら必死に身を捩る。
「大和……すごい、いい匂い、興奮する」
「ンなわけあるか、ばかぁ……っ」
また新しい蜜がとろりと腹に垂れた。霧生は大和に覆い被さると、尻の割れ目に熱い剛直を擦り付ける。どれほど先走りがあふれているのか、霧生の陰茎が前後する度にぐちゅぐちゅと滑った音が響いた。
「大和……っ、入れたいっ、入れたいっ!」
「ぁ、さすがに、すぐには無理だから……!」
「どうすればいいっ、早く、教えてくれ、大和……ッ」
それはつまり、自分から何をして欲しいか伝えなければならないということで——。
大和はギリギリと歯を食い縛り、羞恥心と戦う。そして、腹を括り、霧生の目を見て口を開いた。
「まず、尻を、濡らして……」
「わかった」
「えっ?!いや、これ、あ゙あ゙ッ?!」
帰り際にこっそり買っておいたローションを手渡す暇もなく、霧生が蕾に舌を這わせる。表面を舐めるのもそこそこに、少し緩んだ隙を見計らって中に侵入された。柔らかい舌で粘膜を直接舐められる感覚に、大和が身体をびくびくと跳ねさせる。
「やッ、霧生、だめ、そんなッ、うああ!」
「ここに、入れる……はあっ、いっぱい、濡らす……っ」
「あ゙ッ、無理ぃ、やばい、それ……ッ」
ぞわぞわとした快感が全身を包む。まるで広げるように大きく円を描きながら、何度も何度も唾液を送り込まれた。熱いものがどろどろと逆流してくる感覚に、全身が総毛立つ。
「あ゙、きりゅ、やばい、やばいぃ……ッ」
「フー、フー、もっと……」
「あ゙あ゙あ゙ッ!も、ケツ、溶けるってぇ!」
自分が後孔で感じるなんて知らなかった。ただ浅いところを弄られているだけなのに、つま先までじんじんと熱を持っている。このまま続けられると頭がおかしくなりそうで、大和は必死に霧生を止めた。
「きりゅ、霧生ッ、も、次、いくから……っ」
「大和、大和」
「だめ、舌、抜け、ぇ」
大和の指示がかろうじて霧生に届いたのか、ずるりと後孔から舌を引き抜かれる。その出ていく感覚が堪らなくて、大和の陰茎からぴゅっと一筋、白濁が漏れた。
「ひ、ぅ……っ」
「大和、入れるか?もう入れていいか?」
「ま、だあッ!」
「グルルル……ッ」
霧生が苦しげに唸り声を上げる。大和の後孔は名残惜しそうにきゅんきゅんと収縮していた。霧生はその窄まりに陰茎を押し付けながら、無理にでも割り開きたい本能に抗っている。
「き、りゅ……指、指入れて」
「指……」
「一本ずつ、増やして、広げ、る」
「わかった」
霧生はすぐさま自身の中指を唾液で濡らし、後孔にあてがった。大和のそこが求めるように吸い付く。誘われるがまま押し込むと、きつく締め付けながらも全てを迎えてくれた。
「うああ……っ」
「痛むか」
「痛くは、ねぇ、けど……変な感じ、ッ」
教えずとも霧生が中で指を曲げ、大和のいいところを探し始めた。内臓を掻き回される感覚。気持ちいいはずないと思っていたのに、陰茎は萎えることなく先走りを腹に零し続けている。
そして。
「んあああっ?!」
ある一点を掠めた瞬間、大和の口から一際大きな嬌声が漏れた。後孔がぎゅうっと収縮し、霧生の指を痛いほど締め付ける。解そうと霧生が指を動かした途端、大和は大きく仰け反って太腿を痙攣させた。
「きりゅ、そこッ、無理……ッ!」
「ここか?ここ、いいか?」
「あ゙あ゙あ゙あ゙、ダメだっ、て!無理無理無理、んあああ!」
神経を直接握られて揉み潰されているようだった。身体が勝手に跳ね、甘い声が出る。たった一箇所、霧生の指が当たるだけで、どうしようもなく思考が快感に塗りつぶされる。涙も涎も止まらない。強制的に絶頂へと押し上げられていく。
「可愛い、大和、可愛い」
「あ゙ーーー!無理っ、霧生、霧生、やばいやばいやばい……っ」
「イくか?大和、尻でイくのか?」
「嫌ぁっ!嫌、きりゅ、あ゙あ゙もう、む、り……ッ!ん゙ーーー!イ、ッく!」
びくん、と大きく身体が震える。射精では感じたことのない、長く余韻の続く絶頂。陰茎からは先走りだけがとぷとぷとあふれ、精液は出ていなかった。そのせいで霧生は大和が絶頂できなかったのだと思い、指を増やしてそのしこりを捏ね続ける。
「大和、射精していい。我慢するな」
「も、イッたからぁ!あ゙あ゙ッ、イ゙、てる、イ゙ッ゙でる゙!あ゙っ、やめ、ッ、またぁ、イくの来てる……ッ!イくイくイくッ!あ゙ーーー!!」
大きく背筋を反らせ、何度も痙攣を繰り返す。後孔は狂ったようにうねり、霧生の指に肉ひだを絡みつかせていた。二本の指でそれを掻き分け、霧生がしこりを挟んで小刻みに揺する。
「ぎゃあああああッ!」
もう息もできない。カヒュッと喉が鳴ったのが聞こえ、霧生が慌てて大和に口付けて息を吹き込む。その間も後孔の指は止まらない。いつしか霧生の指は三本になっていた。しこりを挟まれ、優しく抉られ、何度も揺さぶられる。大和の身体がカタカタと小刻みに震え始めた。つま先が丸まり、瞳が潤んで焦点がぼやける。
「ぁ……ぁ……」
「大和?」
「ふ……ッ、ぐ……ぅっ」
霧生の肩を掴んでいた手にぎゅっと力が入った。そのまま静かに静かに深い絶頂に達する。呼吸は浅く、全身が硬直していた。腹筋だけが大きく波打っている。
「大和、可愛い……」
「ふ……ぁ……」
半ば意識を失っていた大和は、後孔の圧迫感がなくなったことで浮上した。霧生が指を抜いたらしい。快楽を知った後孔は生き物のようにうねり、新しい刺激を求めてぱくぱくと口を開いていた。
「大和、もういいか?もう、入りたい。大和と番いたい、早く」
「ぁ、きりゅ……」
「もう、我慢が……」
霧生は自分の手で陰茎の根本を絞っていた。それでも先端からぽたぽたと白濁混じりの先走りが零れている。荒い息を吐きながらこちらを射抜くように見つめる霧生に、大和の胸がぎゅっと締め付けられた。
全身の力を抜き、両手を伸ばす。身体を寄せてきた霧生を抱きしめ、両脚を緩く開いた。ここに入れるのだと示すように、陰茎に後孔を擦り付ける。
「ほら……来い」
「やま、とっ」
霧生が息を呑み、ぐっとそれを押し込んだ。きつい抵抗に逆らい、深く、もっと奥へと、狭い中をこじ開けていく。
「ひッ、ぐ……ぅ……っ」
「大和、ごめん、もう少し」
「ふ、かい、深いッ、ぁ゙、ゔ!」
内臓をいっぱいに押し広げる熱。どくんどくんと下肢全体が脈打っているようだ。指では届かなかった場所が開かれ、余りの圧迫感と鈍痛に冷や汗をかく。息をするのもやっとなくらいだが、目の前の霧生の瞳は燃えるような欲に濡れていた。
「フー……フー……」
「霧生、好きに、動いていいぞ」
「……大和ッ!」
霧生が大和の唇に噛み付くようなキスをし、そのまま大きく腰を揺する。霧生の額にも珠のような汗が浮かんでいた。
「大和ッ、すぐ、出る……ッ」
「いいぜ、ッ、そのまま、出せよ」
「ゔーッ、ぐぅ……!」
余程我慢していたのだろう。抽送は3回ほどだった。霧生が低く唸りながら最奥の肉壁に亀頭を突き込み、そのまま腰を震わせる。
「ッふ……ぅ゙……ぐ……っ」
「ぁ……すげ、出てる……霧生の……」
何度も陰茎が脈を打ち、大量に射精しているのがわかった。中が満たされていく。同時に、大和の心にも温かいものが満ちていくのを感じた。
(これで、霧生と、番いになれた……。)
ぎゅうっと霧生を抱きしめる。いつしか後孔の痛みも消えていた。ただ目の前の男への愛おしさだけがあふれている。
「霧生と番いになれて、嬉しい」
「大和……大和っ」
がばりと霧生にも抱きしめ返される。耳元で、「愛している」と小さく聞こえた。その声はまるで泣いているように震えていて、大和も思わず涙ぐむ。
「霧生はもう俺の家族だ。遅くなってごめんな」
「大和……俺の愛する伴侶」
「ん。これからもずっと一緒にいよう」
「大和っ」
「……え?」
霧生が顔を上げると案の定涙を零していた。指で目元を拭ってやると、その手を取られぎゅっと握られる。そして彼はもう片方の手で大和の脚を抱え直した。後孔に埋まっている陰茎は、なぜかまた固く熱くなっていて。
「えーと……霧生?」
「次は、大和も気持ちよくする」
「えぇっ?!俺は、もう、いいから……!」
身を捩っても霧生の拘束は解けない。熱のこもった視線に射抜かれ、大和はヒュッと息を吸った。
後孔の中の猛りきった熱を感じ、大和は深く息を吐いた。身体の節々が軋んで辛い。足だって攣りそうだ。それでも霧生の真っ直ぐな愛を拒むことは、もうできない。
中に埋まっていた陰茎をずるりと半分ほど抜かれる。排泄に似た感覚に思わず震えると、今度は狙うように小刻みに一点を突かれた。
「ゔあ゙あ゙!」
「大和、ここ、っ、好きだろ……っ」
「そこ、ッだめ!そこ、すぐ、イく、からぁっ」
あのしこりだ。指で擦られるだけであんなにおかしくなったのに、霧生のもので抉られて平気なはずがない。大和はがくがくと身体を痙攣させながらすぐに迫ってきた絶頂感にぎゅっと目を瞑る。
「あ゙……!きりゅ、それは……ッ!」
柔らかくなったままだった陰茎も、霧生の手で包まれてしまった。そこは思い出したかのように勃起し、すぐに蜜を滴らせ始める。陰嚢の中で精液がぐつぐつと煮立っている。後孔はもっともっとと霧生に強請るように陰茎に絡みついて激しく蠢動した。前後からの快感に大和の歯がガチガチと鳴る。
「あ゙あ゙無理ッ、も、イく、霧生、イ、ぐっ!」
「好きなだけ、イけ」
「うああああ、ッん゙ん゙!」
霧生のものがしこりを潰し、手のひらが亀頭を覆った瞬間、大和は大きく仰け反り硬直した。霧生の手の中で陰茎が爆ぜる。勢いよく精液が噴き出るたびに、大和は腰を突き出し霧生の手に鈴口を擦り付けた。
「ゔっ、ん゙ん゙ッ……はあっ!」
「……ッぐ!」
後孔はすっかり性器と化し、霧生のものを愛おしげに咀嚼していた。精を求めるように引き絞り、奥へ奥へと誘う。絶頂の余韻で力が抜けている大和を見ながら、霧生はもう一度ゆっくりと最奥へと進んでいく。
「はぁ……ぅ」
「大和ッ、すごい、絡みつく……っ」
ちゅぷ、と最奥の壁に辿り着くと、霧生はぶるりと身体を震わせた。動いていなくとも肉ひだが亀頭に吸いつき、蜜壺全体が扱くようにうねっている。完全に名器だった。
唇を噛んで射精欲を堪えながら、ゆっくりと奥の壁を捏ねる。大和が唇を戦慄かせながらぽろりと涙を零し、縋るように霧生に手を伸ばした。
「大和、奥は痛いか?」
「ちが……っ、こわ、いっ!そこ、変……っ」
「大丈夫だ。ゆっくりする」
「やぁぁッ、そこやばいっ、やばいっ、無理無理ッ、あ゙っ」
胎の底からぞわぞわと何かが這い上がってくる。前で達するのとも、しこりで達するのとも違う。足元から奈落に落ちそうな、逆に天にも昇るような、とにかく自分がわからなくなるほどの快感に絶え間なく襲われる。
「大和、可愛い。イッて、イッて」
「ゔーーーっ!あ゙あ゙、あ゙あ゙あ゙ッ!」
こんなでかい男が、顔をぐちゃぐちゃにして泣き喚いている姿など可愛いはずがないのに。それでも欲情しきった顔で霧生にそう言われると、胎の奥がぎゅんと切なくなって、熱の溜まった身体が内から爆ぜた。
「ーーーーーッ!ぁ……っ、お゙、ぉ゙……ッ」
「き、ついっ、出、る……!」
感じたことのない絶頂に、大和が白目を剥く。後孔は狂ったように痙攣し、霧生のものを食い千切らんばかりに締め上げていた。ギチギチになったそこを、射精寸前の陰茎がむちゃくちゃに前後する。もうこれ以上ないと思っていたところから、さらに押し上げられる。
「ぉ゙、ぉ゙……っ」
「あー、出る、大和、出る……ッゔ!」
最奥の壁に大量の精液がぶちまけられた。射精される刺激だけでまた達する。頭の中でぶちぶちと何かが切れている音がした。もう何も考えられないし、言葉にもならない。
「あぁ……っ、吸われる!射精が、止まらな、い……!」
大和はほとんど意識を失いかけているのに、蜜壺だけは別物のように激しくうねり続けていた。とろとろに蕩けた肉ひだが霧生の亀頭に吸いつき、射精をねだってくる。霧生は魂が抜けていく気さえするほど、長く、大量の精を放った。それなのに治まらない。焦点の合わない目で虚空を見つめ、時折大きく痙攣する大和。確かにもう離してやらないといけないと思うのに、腰は勝手に前後し始める。
「大和ごめん、次で、終わる……絶対……」
「はぁっ……ぅ゙……んん……」
大和からは返事がない。涎を垂らして霧生に与えられる狂おしいまでの快感を陶然と受け止めている。
最初こそゆっくり、大和を気遣いながら振っていた腰も、すぐに余裕がなくなった。奥に亀頭を擦り付けるようにして小刻みに捏ねると、蜜壺が締まって堪らない。大和はしきりに陰茎から透明の液体を撒き散らしながら、静かに涙を流していた。
「大和……大和……っ」
「ふ、ぅ……ッ、ぁ゙……」
「はあッ!大和、また、出るッ!出す、大和の、中に!」
ぐん、と大きく突き上げ、霧生はまた吐精した。ごぷごぷと音を立てて、中から精液が逆流してくる。それを許さないというように、何度も何度も、塗りつけるように腰を押し付けた。
「ぁ……きりゅ、も、はらいっぱ、い……」
「大和……ッ!」
「ああっ、おしり、とける、ぅ……やだあっ」
大和は幼児返りしたかのように身を捩って駄々をこねた。抜いて抜いてと繰り返すので、霧生がぐっと唇を噛んでゆっくりと引き抜こうとする。
「あ゙ぁ゙ーーッ!やあああッ!」
「ゔ、大和、締めるな、ッ」
抜けるのを引き止めるように、蜜壺が霧生を絞り上げる。大和は陰茎から何かわからないものを吐き出しながら目を見開いて絶叫した。がくんがくんと大きく仰け反って痙攣を繰り返す。
「ぬく、なぁッ!やああッ、なか、イ゙ぐ、ずっと、イ゙ッ゙でる゙、無理ぃッ!きりゅ、たすけて、ぇ!」
「はあっ、わかった、抜かない……ッ」
ずぷり。もう一度全てを埋めてやると、大和は一層身悶え、髪を振り乱した。
「うああああん!おく、おくだめッ、だめだめ、そこッ、また、イぐぅ!」
「大和の好きなところ、ずっとしてやる……!ほら、ここ、ゆっくりすると、イくの止まらないだろ?」
「ゔ~~~~~!」
大和が力の入らない手で霧生の首に手を回して引き寄せようとする。霧生が顔を寄せてやると、大和から震える唇でキスされた。大和から求められるのは、心臓が痛くなるほど嬉しい。霧生が思わず激しく舌を吸うと、大和の中の締まりがきつくなった。また込み上げてきた射精感に、ピストンのスピードが上がる。
「大和、大和、また、奥に、出す……っ」
「きりゅ、好き、好き」
「大和ッ!うああッ!」
霧生が衝動のままに奥で精液をしぶかせると、大和は嬉しそうな顔でまたキスをしてきた。快感と興奮で霧生の腰が震える。もう出ているかいないかもわからない。それでも大和の蕩けた最奥の肉壁は、霧生を柔らかく包み込んで離さない。
——搾り尽くされる。
大和の足が絡んできて、腰が引けない。さっきまでもう嫌だと泣いていたはずなのに、今や彼は目元を赤く染め、妖艶に腰を揺らしていた。
「きりゅ、の、まだ固い……」
「大和の中が良すぎる」
「ぁ……嬉し……」
蜜壺も嬉しそうに蠢動する。霧生は気怠いはずの腰が勝手に動き始めるのを感じて、天を仰いだ。
「あぁ……気持ち良すぎて、腰が止まらない……っ」
「霧生、いっぱいして……全部ちょうだい……」
二人は本能に任せ、互いを貪った。休むことなく、ただただ愛する者に溺れていく。それは、陽が落ちて、新しい陽が上るまで続いた。
目を覚ました瞬間、全身が鉛のように重かった。
「んっ……」
寝返りを打とうとするも、身体が思うように動かない。まるで関節という関節が軋んでいるような感覚だ。少しでも動かそうとすると、腰から下に鈍い痛みが走る。
(なんでこんなにダルいんだ……。)
ぼんやりとした意識の中で記憶を辿り、昨日の出来事を思い出す。
──あぁ、そうか。霧生と、番になったんだった。
「……っ」
思い出した途端、全身に熱が広がる。
この気怠さと筋肉痛、そして肌触りの悪いシーツが、あれが夢ではなかったと示している。霧生に何度も貪られ、何度も快楽の波に溺れた。自分は霧生に付き合ってやるくらいのつもりだったのに、結局最後は完全に流されて、自らも縋るように求めていた。
「俺、やば……」
自分の口走った言葉や痴態が浮かんできて、顔が熱くなる。恥ずかしくて、もう二度と霧生の顔をまともに見られないのではないかという気すらしてきた。
「……ん」
微かな寝息が耳元で聞こえる。そっと視線を向けると、霧生が穏やかな表情で眠っていた。銀髪が陽の光を浴びてきらきらと輝いている。昨夜の激しさが嘘のように、今はただ静かに大和の隣で安らいでいた。
相変わらず大きな手がしっかりと大和の腰に回って、抱き込まれている。目の前の胸に耳を当てると、トクトクと鼓動の音が聞こえて、大和はもう一度目を閉じた。
(やっぱこいつ、あったかいな……。)
この腕の中は、酷く安心する。心地よくて、何もかもが満たされる。けれど、そんな自分が擽ったくて、胸の奥がむず痒い。
時計を見ればもう正午を過ぎている。さすがにそろそろ起きようと、大和はそっと霧生の腕を退けようとするが、それだけの動きでも身体中がじんわりと痛んだ。
「くそ、マジで動けねぇ……」
どうにか上半身だけでも起こそうとするが、体勢を変えただけでビリリと電流のような感覚が腰に響いた。
「……んん」
その気配を感じ取ったのか、霧生が目を開ける。
「……大和」
低く甘い声が耳元に落ちる。掠れた声が昨日の情事を思い出させて、後孔がきゅんきゅんとひくついた。
「おはよう……」
「……おはよ」
「やはり、身体が痛むか?」
霧生はまだ完全に覚醒していないのか、ぼんやりとした表情で大和の髪を指で梳く。傷んだ金髪が指に絡むのを、少しずつ解される。
「……あんだけやって、痛くねぇわけねぇだろ、バカ」
大和が拗ねたようにそう言うと、霧生はくすりと微笑んだ。
「そうか……大和があまりにも可愛かったから、止まらなかった」
「……っ!」
思い出させるな、と言いたかったが、言葉にならない。思わず身じろぎをした瞬間、散々中に吐き出された霧生の体液がとぷとぷとあふれてくる。ぞわりと肌が粟立つ感覚に、大和が小さく身震いをすると、霧生が優しく抱きしめてきた。
「なぁ、大和」
霧生がゆっくりと顔を近づけてくる。
「……もう一回、番いの確認を」
「~~~~~!お前、いい加減にしろ!!!」
大和の怒声が、暖かい部屋に響き渡った。
季節は巡り、霧生が人間になってから一年が経った。大和もなんとか進級し、今年は就活も進めていかねばならない。
戸籍の取得にはやはり時間がかかったが、大和の両親の伝手で頼んだ弁護士のお陰で手続きは順調に進み、今では正式に「霧生」という名で戸籍が登録されている。書類上の「両親」の欄は空白のままで、名字もないが、それでも一人の人間として存在を認められるというのは、やっと大和の家族になれた気がして嬉しかった。
「お前、もうすっかり人間の生活に慣れたよな」
スーパーで買い物をしながら大和が何気なく言うと、霧生は小さく首を傾げる。
「飯は箸で三食しっかり食うし、風呂も毎日入るし……あんなに最初は色々やらかしてたのにな」
「……最初は?」
「手掴みで食おうとするし、風呂は水浴びだったし、裸のまま外に出ようとするし?」
「……ふむ」
「あと、満月の夜は——」
言いかけて大和が口を噤む。霧生はバツが悪そうに軽く咳払いをして、少しだけ歩みを速めた。
レジへ向かう前に雑誌コーナーの前を通りかかる。大和がふと視線を向けた瞬間、そこで見慣れた顔が目に入った。
「……お」
思わず足を止める。平積みにされたファッション誌。その表紙に、霧生の顔が大きく載っていた。銀髪を無造作に流し、鋭い眼差しでカメラを見つめる霧生。思わずページをめくると、数ページにわたって特集が組まれている。
「お前、めちゃくちゃカッコつけてんな」
大和が笑いながら言うと、霧生が隣で雑誌を覗き込む。
「カメラマンの指示に従っただけだ」
「そうかよ。すっかりカリスマモデルみてぇな顔してんぞ」
霧生は、街でスカウトされて以来、駆け出しのモデルをしている。本人にその気はなかったのだが、「せっかくの美貌を活かさないのはもったいない」とスカウトマンに熱心に口説かれ、大和も「人間としてちゃんと生活するために仕事は必要だから」と後押しした。
元々顔立ちが整っている上に、どこか神秘的な雰囲気を持つ霧生を、世間が見逃すはずがなかった。今では業界でも注目されつつあり、こうして雑誌に載る機会も増えてきたらしい。そのため今もウィッグとサングラスを着け、目深に帽子を被って目立たないようにしている。
「モデルの仕事は楽しいか?」
「着替えるのが面倒くさい。でも稼げる」
「ファンが聞いたら泣くぞ」
そう言って、大和は真顔で雑誌を見つめた。随分と有名な雑誌に載るようになったものだ。
「……まあ、お前がちゃんとやってるならいいけど」
そう言いながら、雑誌を棚に戻す。正直、霧生がどんどん世間に知られていくのは、少しモヤモヤする時もある。霧生は俺だけの霧生だったのに——なんてことは、ダサいから言わないけれど。
「大和、買わないのか?」
「買わねぇよ。お前の顔はいつでもいくらでも見れるし」
大和がすたすたとレジへ向かうと、霧生が後をついてくる。霧生の載った雑誌をこっそり集めているのは、大和だけの秘密なのだ。
スーパーを後にし、二人は並んで帰路についた。その道すがら、大和はなんとなく霧生の手を握る。
言葉はなく、ただ手を繋ぐだけ。大和から恋人らしい仕草をするのは珍しく、霧生は少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに嬉しそうに指を絡めてきた。
(……まあ、いいか。)
霧生がどれだけ世間に知られようと、どれだけ人の目を引こうと。
霧生の隣にいるのは、霧生の手を握っているのは、自分なのだから。
そんなことを考えながら、指をなぞるようにさすり、大和は梅雨の気配の混じる、湿った空気を吸い込んだ。
時は経ち、大和が二十歳になった日、二人は朝から実家近くの市役所へと向かった。
「この書類を提出すれば、正式に大和と家族になれるんだな」
霧生の手の中にあるのは、養子縁組の届出書。戸籍を得てから数ヶ月、準備を重ねてきた。
「まあな。んじゃ、一旦実家に帰るぞ」
大和はそう言って、書類をカバンにしまい直す。霧生が何も言わずにじっと書類を見つめているのを見て大和はふっと息を吐くと、ゆっくりと歩き出した。
「おかえり、大和!霧生くんも!」
実家の玄関を開けた瞬間、母が笑顔で迎え入れた。父も陸人も揃っていて、既にテーブルには大皿料理が並んでいる。
「ただいま……って、ちょっと、何だこれ」
「大和の成人のお祝いに決まってるでしょう!」
母は当然のように言う。大和は苦笑しながらも、心がぽかぽかと温かくなるのを感じた。
「で、貰ってきたのか」
父の問いに大和は頷いて、先ほどカバンにしまった封筒を取り出す。
「これ、養子縁組の届。証人欄に名前を書いてほしい」
霧生と家族になるために、父と母に証人になってもらいたい。大和は前もって二人にそう伝えていた。父は真剣な表情で封筒を受け取る。母もそっと覗き込み、向き合った。
「大和、霧生くんのこと、本気なのね」
「うん。生涯霧生と一緒に生きていくつもりだ」
後ろにいた霧生が大和の腹に腕を回し、ぎゅっと抱き着いてくる。普段なら離れろと騒ぐ大和だが、今はその腕にそっと手を重ねた。
「霧生くんはモデルとして大事な時期だと思うけど、今なのね?」
「俺はモデルである前に大和の伴侶だ。大和以上に大切なものはない」
「そう」
母はふぅっと息を吐いて、カチッとボールペンの芯を出した。
「二人が本気なら、私が反対する理由なんてないわ」
「藤崎霧生、か……いい名前だな」
父も頷きながらぼそりと呟く。そして母と一緒に証人欄にサインをした。
紙の上に並ぶ“藤崎霧生”の名前を見つめる。霧生が人間になって二人で想いを確かめてから今まで、生涯添い遂げると心に決めていた。けれど、こうして改めて正式な書面でその名前を見ると、本当に“家族”になるのだと肌で実感する。大和の胸の奥にじんわりと温かいものが広がる。嬉しくて、安心して、口元が緩むのが堪えられない。
「ありがと……」
俯いたまま礼を言うと、霧生も両親も、陸人も皆嬉しそうに小さく笑った。
「さーて、早く提出しに行きたいだろうけど、先にご飯にしない?」
母が手を叩いて立ち上がる。返事をするように霧生の腹の虫が大きく鳴り、満場一致で食事の時間となった。
食事を終えると、霧生がトイレに行くと言って席を立った。それを見送ると、大和はおもむろにカバンを探り始める。先ほどの養子縁組の届が入っていたのと同じ封筒を取り出し、三人に改めて向き直った。
「……実はもう一つ、お願いがあるんだけど。今度は陸人にも」
「なあに?」
母が穏やかに問いかける。大和は唾を飲み込みながら、テーブルに書類を置いた。
「これも……証人になってほしい」
母が封筒を開き、中の書類を確認すると、目を丸くした。
「……婚姻届?」
父と陸人も目を通し、驚いたように眉を上げる。
「養子縁組っていう形になったけど……本当の俺らは伴侶だから」
「大和……」
「……実は、前から考えてたんだ。受理してもらえないのはわかってるんだけど、どうしても、その、自分の中のケジメとして持っておきたくて」
母が感慨深げに微笑む。父も、少し口元を緩めた。
「兄貴、ここ、証人欄って二人しか書くところないよ?俺どこに書けばいい?」
「三人目は枠外に書くんだと。悪いけど、空いてるとこに書いてくれ」
「わかった!」
そもそも本当は未成年者は証人になれないのだ。しかし、どうせ今提出するわけでもない。霧生を新しい家族として受け入れ、歓迎してくれた三人。これからもずっと見守ってほしいという願いを込めて、頼んだのだ。
三人は霧生が戻ってくる前にと急いで記入してくれた。
「せっかくなんだから式も挙げましょうよ。家族だけでもいいから」
記入済みの婚姻届をカバンにもう一度しまいながら、大和はこめかみをぽりぽりと掻く。
「それも一応考えてて……招待したい人が二人いるんだ」
「あら。いいじゃない」
「そのあたりは、まだ霧生にも話してないし、おいおい決まったら連絡するから」
その時、戻ってきた霧生が四人を見て不審そうに首を傾げた。
「何を話していた?」
「別に、大したことじゃねぇよ。ほら、早く行くぞ」
大和は、ほんの少しだけ笑って立ち上がった。家族に見送られながら、二人はもう一度役所への道を並んで歩く。大和はポケットに片手を突っ込み、ひそかにぎゅっと拳を握った。
市役所での手続きは拍子抜けするほどすぐに終わった。
「確かにお受け取りいたしました。本日より正式に戸籍上、家族ということになります」
その言葉を聞いた瞬間、霧生はゆっくりと息を吐き、大和の手を取ってぎゅっと握った。
「……やっと、大和の家族になれたんだな」
微かに震える声。戸籍の取得から始めて、一年以上かかった。これまでずっと抑えていた感情が遂にあふれたのだろう。大和はそっと霧生を見上げる。霧生はすぐに目を伏せたが、目元がわずかに赤くなっていた。
「おう。やっと、だな」
答える自分の声も滲んでいる。涙腺が緩んでいるのを感じて、思わず笑いそうになりながら、霧生の手を握り返した。そして互いに潤んだ瞳で見つめ合い、くしゃりと笑った。
市役所での手続きを終え、正式に「藤崎霧生」として大和の家族になった霧生。人の目も気にせず手を繋いだまま実家への帰路に就く。
「……なあ、ちょっと寄り道しねぇか?」
とある分かれ道。大和がふと立ち止まり、霧生に問いかけた。
「どこへ?」
「白霧神社」
霧生は少し驚いたように目を瞬かせる。
「お前との思い出の場所だし。……なんとなく、今、行っておきたい」
「行こう」
霧生は深く頷き、大和と並んで歩き出した。
久しぶりに訪れた神社は、以前と変わらず寂れていた。拝殿の柱はところどころ剥げ、鳥居の赤も褪せている。しかし、見慣れない、見事に朱に染まった紅葉の木が一本立っていた。
「こんな時期に、紅葉?」
「……朱峯の神力の象徴だな。今ここは朱峯が管理しているらしいから」
「そっか」
変わっていないと思ったが、霧生という神を失い、ここも変化しているのだ。
子どもの頃、一人でよくここに来た。孤独だった自分にとって、唯一安心できる場所だった。そして、ここで霧生と出会い、約束を交わした。
霧生が今、隣にいるのも——すべて、ここから始まった。
霧生もまた、静かに神社を見上げていた。
「この神社は、俺の“家”だった」
「……うん」
大和は拝殿に向かい、一礼をした。
「色々あったけどさ、お前が人間になって俺と生きるって決めてくれて、本当に良かったと思ってる」
「大和と一緒にいられることが、俺にとって何より幸せだからな」
霧生は静かに大和を見つめる。そしてきゅっと唇を引き結ぶ。瞳には強い決意が浮かんでいた。
「……なあ、霧生」
「なんだ?」
大和はポケットに手を入れ、そっと何かを取り出した。
「左手、出せ」
「……?」
霧生が言われたとおりに手を差し出す。
その指に、大和は小さな銀色の指輪をそっと嵌めた。
「……こ、れは」
驚いたように霧生が目を見開く。
「俺たちは番で、伴侶だから……ちゃんと、形にしたくて」
大和は少し照れくさそうにしながら、もう一つの指輪の箱を取り出す。それを霧生に渡し、「俺にも着けてくれ」と言った。
自分の指に光る同じデザインの指輪を見て、大和が微笑む。
「これからもずっと、一緒にいような」
霧生の手が震える。目元が熱を帯びる。
「……大和」
次の瞬間、霧生が強く大和を抱きしめた。
「愛してる」
耳元で囁かれ、大和は少し顔を赤くしながらも、ぎゅっと抱き返す。
「……俺も、お前を愛してる」
二人の間に爽やかな風が通り抜け、紅葉が枝を揺らした。まるで朱峯に祝福されている気がしたが——彼の嫌味な笑顔が思い浮かんで、大和は気のせいかもしれないと笑った。
しばらく抱きしめ合った後、大和がカバンから封筒を取り出す。
「もう一つ、お前に見せたいものがあって」
書類を広げると、霧生の目が見開かれた。
「……これ」
「婚姻届」
驚いて顔を上げた霧生に、大和が声を出して笑う。
「養子縁組じゃなくて、本当はこっちなのにな」
霧生の心臓が大きく跳ねる。
「いつか本当に夫婦になれる日が来たら——その時は、これを一緒に提出しようぜ」
「……ああ」
霧生の目からは堪えられない涙があふれていた。端正な顔はくしゃくしゃに歪み、鼻水まで垂れている。
「あはは、汚ねぇ顔!」
「大和のせいだ……っ」
持っていたティッシュで顔を拭ってやる。霧生は大人しくされるがままになりながら、大和の服の裾を掴んで離そうとしなかった。
「今度は俺が大和を泣かせる」
「絶対泣かねぇ!」
「……今夜は覚悟しておけ」
「おま……そっちかよ!変態!」
一通り騒いで、笑って、抱き合う。一瞬の静寂の後、二人はただ静かに唇を重ねた。
こうして、孤独だった二人は家族になった。
何も変わらない、けれど、今までとは違う二人の生活が、始まる。
「神の契りは解けない」終わり。
番外編はアルファポリスにのみ掲載しています。18歳以上の方で、気になる方はご覧いただけますと嬉しいです。
[[jumpuri:「番外編;満月の夜に」はこちら(アルファポリスに移動します) > https://www.alphapolis.co.jp/novel/776274039/298940162/episode/9404010]]
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