好奇心は虎の尾を踏むに似たり

  起章・・・欲望と苗床

  トレーニングジムには様々な目的を持った人々が集まる。健康の維持や増進、心身の鍛錬、或いは・・・・・・

  馬獣人の青年が一人、トレッドミルを使って走り込みをしていた。設定された傾斜と速度から相当な負荷を自身に与えていることが伺える。しかし、その表情に一点の苦悶も無く、蹴り出す度に玉のような汗が弾けていた。やがて規定の距離を走り終えたことを告げるアラームが鳴り響くと、トレッドミルの傾斜と速度が徐々に下がっていった。青年は呼吸を整えながら機械から降りると、シャワー室に向かった。ロッカーに仕舞っていたタオルで身体を拭き、ボトルの水を容器から絞り出すように一気に飲み干した。

  「よっし!先週よりもいいペースで走れたな・・・・・・!これなら再来週のマラソン大会で優勝間違いなしだな。そうすればあのコもきっと・・・・・・・・・・・・」

  「夜遅くまで随分と熱心に活動されているんですね」

  青年は携帯端末に送信されたデータを眺めて鼻の下を伸ばしていると、どこからともなく一人の竜人の青年がトレーニングルームにやって来た。はちきれんばかりの筋肉で満たされているスーツの隙間からは、逞しく白い肌と、それを覆い尽くさんばかりの黒い入れ墨が見えた。

  「どちら様ですか・・・・・・?」

  「あぁ失敬。この時間帯に来る人は珍しかったもので、つい・・・・・・。私はシュオワン。近くの学校で教師をやっている者だ」

  確かに先生なら夜遅くまで学校に残って仕事をしている事もある。帰る前に寄る形で来ることもあるのだろうと、馬獣人の青年は独り合点した。

  「成程、それでこの時間帯に・・・・・・」

  シュオワンと名乗った青年は申し訳なさそうに馬獣人の青年に会釈をすると、近くで着替えを始めた。シャツのボタンを外し、綺麗に折りたたんでからロッカーに仕舞う。シャツの隙間から見えていた入れ墨は腕全体を覆い、まるで彫刻作品を思わせるような筋肉と入れ墨に、馬獣人の青年は思わず見入ってしまった。

  「どうしました?」

  「あぁ、す、すみません!あまりに逞しい筋肉だったものですから、つい・・・・・・」

  馬獣人の青年は慌ててシュオワンに謝った。プライベートな場所とはいえ、初対面の大人相手にその身体をジロジロと見られるのはいい気分はしないだろう。しかし、本人はさして気にしていない様子だった。

  「ありがとう。君の鍛え上げた足腰も中々の仕上がりだ」

  シュオワンは青年の太ももをなぞるように見つめていた。鍛錬にかかる労力と変化が釣り合わない下半身の逞しさを褒めらたことは今まで数える程しか無かった彼にとって、シュオワンへの信頼感は一気に高まっていくのだった。

  「・・・・・・だから君は素晴らしい苗床になるだろうな」

  「え?」

  青年はシュオワンが言わんとしている事の意味を理解する前に、黒い蛇のようなものに身動きを封じられ、近くのベンチに押し倒されてしまった。

  「な、何を・・・・・・!?」

  身体には自信のあった馬獣人の身体は、シュオワンの腕と黒い蛇のような何かによってビクともしなかった。青年の衣服は黒い蛇たちによって綿菓子のように引きちぎられ、鍛え上げられた肉体を露わにした。

  「手早く済ませよう。力を抜かないともっと苦しむからね」

  黒い蛇たちが青年の尻孔に潜り込むと、青年は喉奥から悲鳴を搾り出した。

  「やっぱりここは『初めて』みたいだね」

  ぬるりと蛇が青年の尻孔から飛び出すと、孔は乾きをヒクつかせた。自分の鼓動がじんじんと響く感覚と共に、股間に血流が集まってくるのを感じた。

  「流石は馬獣人だ。でも、『ここ』は使わないからね」

  シュオワンが青年の逸物を軽く指で弾くと、ズボンのベルトとチャックを外し、自身の逸物を青年の腹に載せた。すると滑らかな表面に血管が浮き出し、脈打つたびにその逸物は熱と硬さを増していった。青年はこれから始まる行為を本能的に理解した。

  「さぁ、始めるよ」

  シュオワンは青年の腰に手を添えると、一息に逸物を青年の尻孔めがけて突き入れた。排出以外に何て使わない筈の孔を乱暴にこじ開けられる絶叫は黒い蛇たちによって塞がれ、熱を帯びた逸物で突き上げられる度に馬獣人特有の陰茎が自分とシュオワンの腹に打ちつけられては切っ先から透明な蜜を滴らせていた。

  「初めてにしては良い反応だね。やっぱり君には苗床の才能があるよ」

  苗床の才能なんて碌なモノではない事だけは、痛みと圧迫感を感じるだけで頭がいっぱいの青年にも理解できた。しかし、男同士で子供なんて生まれる訳が────。

  「男同士だからデキないとでも思ったかい?」

  頭の中を見透かすような言葉に、青年は目を丸くした。そして肉壁がシュオワンの逸物をぎゅうっと締め付けていった。すると、腹の奥から熱くドロリとしたもので腹の中が満たされるのを感じた。

  「僕の身体に飼っている悪魔たちは、僕の精子を介して雌雄に関わらず孕ませられるんだ。だから腹が膨れたり乳が出るけれども安心して。すぐに生まれるからね」

  シュオワンはそう言いながら何度も青年の腰に自分の逸物を奥へと打ちつけ続けた。

  「そんな、まさか───」

  青年の身体に筋肉に覆われていた腹を、内側から押し上げるような圧迫感と重みを増していく。そして腹の中で何かが蠢くような感覚と共に、胸からは白いものが滴りだした。

  「流石は僕の見込んだ通りだ・・・・・・苦しいと思うけれど、もうじき臨月になるから我慢してね」

  シュオワンは繋がり合ったまま膨れ上がった青年の腹を優しく撫でた。するとドクンッと腹の中で何かが蹴り、程なくして腹の奥で生温かい液体が弾けて流れ出すのを感じた。

  「どうやら破水したみたいだね。もうじき生まれるから踏ん張りなよ」

  シュオワンが青年の尻孔から陰茎を引き抜くと、精液と羊水の混じりあった液体が溢れ出し、奥底から赤黒い塊のようなものが肉壁をかき分けるように外へと這い出ようとしていた。出産の痛みは快感に変わり、産み落とされる度にそそり立った青年の陰茎からは子種が何度も吐き出された。シュオワンは青年の腹から胎盤が出たのを確かめると、へその緒も切れていない異形に手をかざした。しかし、その表情はあまり芳しいものでは無かった。

  「数が少ない代わりに魔性は強いが、肉体強度はまぁまぁと言った所か・・・・・・事後処理は家の者に任せるとしよう。次の母胎候補が待っているからね。さようなら」

  シュオワンは着替えを済ませると、掃除用具入れの中から清掃中の看板を出入り口に立てかけた。

  程なくして、大柄の虎獣人がトレーニングジムにやって来た。彼女の名前は「獅子喰 虎狛(ししばみ こはく)」。ここ最近、奇妙な淀みが発生しては消えているという報告を受けて調査に訪れた「流し」の土地神である。

  「土地神」とは本来、その土地に根付く形で自然や人々を陰ながら守る存在である。根付いている分、表立った行動には制限がかかってしまう。そこで、腕に覚えのある土地神が各地を放浪して異変の調査や解決に当たる「流し」の役職が与えられたのだった。

  虎狛はジムの扉に手をかざすと、ぱちんっと薄い膜のようなものが煙のように消える音と共に、張り紙が剥がれて燃え尽きた。ジムには誰もおらず、エアコンの音とBGMがうっすらとかかっている音だけが満ちていた。

  「人払いの結界か。24時間営業で無人だから気付かれにくい訳だ」

  虎狛は意識を集中させると、奥の部屋に気配が集まっているのを感じた。その中心には赤黒い淀みの塊が漂っているのが見えた。気配を殺して「清掃中」の看板が立てかけられていた部屋の奥に進むと、黒子のような装束を纏った人々が赤黒い塊と馬獣人の青年を取り囲んでいるのが見えた。人払いの結界に舞台劇でもないのに黒子装束とは只者ではない。虎狛が部屋の灯りをバチンと落とすと、黒子達にざわめきが起こった。虎狛は暗闇を縫うように一人、また一人と無力化させていった。

  「これで最後だな。さて、被害者の保護に───ッ!」

  灯りのスイッチに手を伸ばそうとした刹那、空を切ったナイフが虎狛の手首を掠めた。

  「まだいたのか」

  沈黙だけが流れた。灯りを付けようとする刹那を狙う気配だけはひしひしと感じられた。長い睨み合いが続くかと思われた瞬間、窓ガラスが割れる音が響き渡った。そして黒い塊が窓の外に飛び出すのが見えた。虎狛は一足飛びに後を追いかけようとしたが、すぐに踏み止まって部屋の灯りを付けた。そこにはベンチに横たわる馬獣人の青年と、自分が仕留めた黒子が転がっているだけだった。強烈な気配は、床に刺さっているナイフから発せられていた。

  「囮か・・・・・・」

  虎狛は馬獣人の青年の鼻先と胸に手をかざした。命に別条が無いのを確かめると、近くにあった大きなタオルで馬獣人の青年を包み、足首にお札を巻き付けると、お札から狩衣を纏った人形が現れた。

  「念のため護衛にアタシの眷属も同伴することになってるけど、護送、頼んだよ」

  人形がこくりと頷くと、馬獣人の男を担架に乗せてどこかへと走り去っていった。

  虎狛は後始末に無力化させた黒子を部屋の隅に固め、床に刺さっていたナイフを解呪して、上から姿隠しの呪詛を流し込んで壁に突き刺してからジムを後にするのだった。

  承章・・・接敵と交渉

  一仕事を終えたシュオワンは、研究室で回収部隊からの報告を受けていた。その内容は不愉快であると共に興味深いものでもあった。回収部隊が何者かによって無力化させられたというのだ。幸い、産み落とされた魔性は回収が完了し、記憶処理も済んでいるという。しかし、人払いの結界を突破したのは兎も角、「闇討ちで瞬時に無力化させた」とあっては警戒せざるを得ない。

  「まるで野生動物に闇討ちにでも遭ったみたいだな。一度くらい顔を拝んでみたいものだが・・・・・・」

  シュオワンの携帯端末に、回収部隊が接敵した者の現在位置が送信された。

  「成程、今ソイツはここにいるのか。車を出せ」

  シュオワンは部屋着から仕事着に着替えると、研究室を後にした。

  虎狛は護送の見送りを済ませると、近くにあった焼き肉店に立ち寄った。値段の割に食べ物の種類が豊富で、家族連れや学生にも人気のレストランであった。体格相応以上に食べる彼女にとって、ここは絶好の食事処でもあった。虎狛はお皿に料理や肉をそれぞれ取り分けると、自分の席で肉や魚を焼き始めた。お肉が焼き上がるのを待ちながら料理を食べていると、色白の竜人が近くの席に案内されるのが見えた。白衣にスーツと仕事帰りを思わせる服装だったが、どこか気品が拭えないちぐはぐさが感じられた。色白の竜人は、その体躯からは想像できない程の肉や料理を皿によそってテーブルに次々と並べていった。そして焼き網いっぱいに肉を敷き詰めて焼き始めた。

  「どうしたんだい?」

  色白の竜人が虎狛に話しかけた。

  「悪いね。見た目よりもいい食べっぷりだなって思って、つい見惚れちまってたよ」

  虎狛はそう言いながら皿に盛りつけた寿司や揚げ物を平らげた。

  「仕事柄、沢山食べないとやっていけないからね」

  青年も大盛のカレーライスをあっという間に平らげていた。

  「アンタこそ珍しいね。自分からこの辺に座って話しかけてくるなんてよ」

  彼女が座る席の周りには、客は青年以外に座っていなかった。彼女の全身には今までの「荒事」で刻まれた古傷が包帯や髪の隙間から覗いていたのだ。

  「仕事柄、そういう人たちを多く見てきたからね。見た目で態度を変えるようなことはしないさ」

  「へぇ、最近の若者にしちゃ関心だな」

  それから二人は他愛ない話を交えながら食事を楽しんだ。虎狛は旅先で見聞きした出来事や寄り道で見つけた発見を語りだした。青年もまた楽しそうに相槌や質問を混ぜながら会話が弾んだ。

  制限時間が終わりに差し掛かった所で、青年が話を切り出した。

  「君さえよければなんだけれど、この後に時間はあるかい?」

  虎狛はアイスとプリンを平らげた後に、かけうどんを啜っていた。

  「仕事はもう終わってるし、別に空いちゃいるけど・・・・・・どうかしたのか?」

  「飲食代とタクシー代は出す代わりにと言っちゃなんだが、君の話がもっと聞きたくなってね。近くにいい店があるんだけど・・・・・・どうかな?」

  「へぇ・・・・・・随分面白いじゃないの。それじゃあ、ご相伴に預からせてもらおうかね」

  虎狛はたらふく頂いたお腹をぽんと叩いて提案を快諾するのだった。

  「そういや名前を聞いてなかったな。アタシは獅子喰 虎狛。アンタは?」

  「僕はシュオワン。今夜はとても楽しめそうだ」

  シュオワンは口角を釣り上げて笑みを貼り付けていた。

  転章・・・土地神と魔性

  虎狛はシュオワンが乗ってきた車に乗せられて、ホテルのような場所に到着した。シュオワンはここのお得意様なようで、受付の蛇人に二、三と言葉を交わしただけで高級そうな部屋まで案内されてしまった。部屋の中は間接照明で薄明るく、石鹸の香りが微かに漂っていた。ここに美味しいお酒でもあれば話が弾み、風呂にでも入ればあっという間に眠りにつけてしまいそうな雰囲気を漂わせていた。

  「へぇ・・・・・・最近の店ってのは宿屋も兼ねてるのか」

  虎狛はふかふかのソファにどっかりと腰かけて足を組んだ。

  「ここは僕のお気に入りでね。部屋の雰囲気もいいし、美味しいお酒が揃っていてね」

  シュオワンは棚に収納されていた酒瓶とグラスを取り出すと、器に注いで虎狛に差し出した。

  「確かに良い部屋だな。それに酒も旨い」

  虎狛はグラスを回して色や香りを確かめた。薄明かりに映える夕焼けのような色味に燻したような匂いが鼻腔をくすぐった。

  「毒なんて入れてないさ」

  シュオワンは一息に酒を煽ると、再びグラスに注いでみせた。

  「飲む前に色々と味わおうと思ってね」

  虎狛は乾杯の仕草を取ると、一息に飲み干した。口の中で転がすと焦がれた糖蜜のような甘味と苦みに、胡椒や生姜を思わせるピリッとした刺激が広がり、飲み込んだ瞬間に胃の中でぐわっと燃え立つのを感じる強い味わいをしていた。

  「初対面の相手に水みてぇに飲める旨い酒を出す奴はいるけど、アンタみたいに初っ端からガツンとしたものを持って来るのは気に入った。」

  「気に入ってもらえて何よりだ。僕のお気に入りだけど、大抵は呂律が回らなくなっちゃうんだ」

  「確かにコイツは強い酒だな。アタシ好みの味だけど、飲みすぎたら次の日に響きそうだ」

  虎狛はそう言いながらテーブルに置かれた酒瓶のラベルを眺めてから、再び酒をグラスに注いだ。

  「随分と味のある筆跡とラベルだけど、この店のオリジナルなのかい?」

  アルコールと満腹感、部屋の薄明かりと匂いで眠気が襲ってきたのか、ラベルの文字が揺らいで見えた。

  「えぇ、数種のスパイスを調合して漬け込んだ強い酒でね・・・・・・名前も気に入っているんだ」

  「へぇ・・・・・・何て名前なんだい?」

  虎狛は表情を綻ばせながらシュオワンに尋ねた。シュオワンは待ってたとばかりに口角を釣り上げた。

  「好奇害死猫(ハォツゥイ ハイス マォ)。好奇心は猫を殺す。聞いたこと位はあるだろう?」

  虎狛は奥歯を噛み締める力も無く、意識をソファに預けてしまうのであった。

  ガンガンと響く頭痛で目を覚ました虎狛は、自分がベッドの上で大の字になって全裸体で拘束されている事に気付いた。手足を縛りつけている赤黒い蛇には目もくれず、酔いが回って汗ばむ身体の不快感に眉をひそめ、下腹部に濡れそぼった違和感は無い事に安堵のため息をついた。

  「どうやら一晩の過ちはやらかさずに済んだみてぇだな・・・・・・」

  「随分と余裕そうだね」

  シュオワンの声が奥のシャワー室から聞こえた。拭きあげられた身体からは水滴が滑らかに滴るのが見えた。腰に巻いたタオルの隙間からは凶悪そうな膨らみが浮かび上がっていた。

  「ちゃんと髪乾かしてから寝ろよ?あと、素っ裸で寝るんなら腹は冷やすなよ」

  「・・・・・・お気遣いどうも」

  虎狛は身動きの取れない手足を握ったり開いたりしながらシュオワンに言った。言われた本人は眉間に微かに皺を寄せつつも笑みを貼り付けていた。

  「このまま寝ても良いんだけどよ、寝るんならアタシもシャワー浴びさせてもらってもいいかい?」

  「それなら心配いらないよ。これから君には苗床として穢され犯されてもらうんだからね」

  シュオワンは腰に巻いたタオルを解くと、陶器の彫刻を思わせる滑らかな陰茎に血管が脈打ち、自身の腹を叩いてみせた。

  「苗床?アタシをかい?随分と物好きだねぇ」

  「謙遜しなくていい。君の強さは回収部隊から聞いたよ。君ならあの男よりも強い魔性を産んでくれそうだ」

  虎狛は彼の言葉を聞いて大凡の事情を把握した。

  「へぇ、アイツらのお偉いさんって訳か。魔性を増やしてどうするつもりなんだい?」

  「君が知る必要は無いよ」

  シュオワンは冷たく言い放つと、屹立した逸物を虎狛の腹に何度も打ち付けた。

  「おいおい、前戯も無しでイこうなんて随分とせっかちさんだね。まぁいいけどよ・・・・・・ンッ」

  虎狛は身をよじらせると、自身の割れ目からとろりと蜜が零れた。

  「自分からお膳立てをしてくれるなんて随分と余裕そうじゃないか。その余裕がどこまで通じるか楽しみだ」

  シュオワンは虎狛の秘部に自身の逸物を狙い定めて、一息に突き入れた。相撲取りのようなふくよかな体躯からは想像できない程の締りに、自身の逸物が食いちぎられるかのような快感が走った。

  「見た目に反して随分と欲しがりさんな肉壺だな」

  「何事も全力で楽しむのがアタシのモットーでね。アンタ、随分と腰振りが激しいけども、もう中で出そうに、なってんじゃないの」

  腰がぶつかり合う度、虎狛の乳房と腹が波打つように揺れた。シュオワンはそんなものに目もくれずに快感を貪っていた。タールのようにドロリとした獣欲が尿道からせり上がってくる。

  「一回で、終わると、思わないでくれよ・・・・・・ッ!」

  虎狛の足を掴む手に力が入り、シュオワンは彼女の一際奥に子種を吐き出した。陰茎から背筋に快感が走り、濁流のように子種が次々と精製されては彼女を満たしていった。

  「アンタ、中々いい量出すじゃないの・・・・・・。これなら、大体の雌なら孕むだろうね」

  虎狛の身体はじっとりと汗ばみ、腹の中を満たす温かさに恍惚の表情を浮かべていた。シュオワンは彼女の言葉に耳を傾ける事無く、一心不乱に子種を注ぎ続けていた。

  腰を打ちつけるのが止むと、シュオワンは萎えかけた陰茎を彼女の秘部から引き抜くと、泡立った子種がこぽりと二人の間に細い橋を架けてシーツに消えた。半ば固形となった子種は虎狛の子宮を満たし、殆ど溢れることは無かった。

  「ふぅ・・・・・・もう終わりかい?手足は縛られて腰振りは荒っぽかったけど、まぁまぁ楽しめたよ」

  虎狛は子種で満たされた自分の腹を見つめながら呟いた。シュオワンは冷蔵庫からペットボトルの水を取り出すと、蓋を開けて中身を一気に飲み干した。

  「これで終わりだと僕は言ったかい?まだまだこれからだよ」

  シュオワンは飲み終えたボトルを細長く捻ってゴミ箱に投げ捨てると、子種の詰まった彼女の腹に手をかざした。注がれた子種がぐらぐらと煮えたつように熱を帯び、やがて自身の卵子に精子たちが食らいつく感触と共に、命が自分の腹の中で芽生えたのを確かに感じた。

  「僕の飼っている悪魔たちがこんなに反応するなんて珍しい。きっといい魔性を産むだろうね」

  「退魔師の類がまさか悪魔憑きとは思わなかったよ」

  人払いをするための結界術が使える時点で退魔師の類なのは予想できていたが、自身の身体に悪魔を宿しているのは予想外であった。彼の口ぶりから察するに、彼が吐き出した子種は彼自身のものではなく、悪魔の子種なのだろう。それも「たち」と言った時点でまともではない。

  「脱出も抵抗もしないのかい?」

  「ジタバタしてたら、生まれてくる子に響きかねねぇだろ?」

  瞬く間に視界は自身の膨らんだ腹で埋め尽くされ、内側から圧迫される感覚は胸からも湧き起こった。乳首からぴゅるりと母乳が噴きだし、シーツと毛皮にじんわりと染み込んだ。自分の鼓動が、腹の中で育ちつつある命に注ぎ込まれているのを感じる。久方振りに腹の中で感じる命の鼓動に、虎狛はうっとりとした表情を綻ばせていた。

  「随分と余裕そうじゃないか」

  「そう見えるか?」

  「その表情がどこまで持つのか楽しみな位には・・・・・・ね。さぁ、そろそろ臨月だよ」

  シュオワンが虎狛の秘部に指を突き入れると、生暖かい液体が精液と共に堰を切ったように溢れ出した。そして波打つような痛みが虎狛の全身に走った。

  「がっ・・・・・・ッ!」

  陣痛で肺の中の空気が搾り出される。丸々と育った胎児が狭い産道をギチギチと潜り抜けるのが分かった。虎狛は全身でベッドに踏ん張りながら、命を産み落とそうと、寄せては引いていく痛みを逃しては力むのを繰り返していた。

  「流石の君でも、産みの苦しみには抗えないみたいだね」

  「あったり、前だろ・・・・・・!でもな、コイツらだって、頑張って生まれようとしてんだ。アタシが頑張らなくてどうすんだよ!!」

  何かの頭、いや、腕かもしれない。命の門をくぐりかけているのを感じると、手足を拘束している赤黒い蛇たちがブチブチと悲鳴を上げるのも気にせずに力を込めて踏ん張ってみせた。ややあって腹にあった重みがいささか軽くなったのを感じると、腹の先で産声が上るのが聞こえた。それは「おぎゃあ」という赤子の産声よりも鋭い声音をしていた。再び陣痛が走り、今度は広がり切った子宮を滑るように一回り小さい赤子が産声を上げた。そして最後に腹の奥で眠っていた赤子が子宮口を更に大きく拡げるようにして産道を潜り抜けようとしていた。虎狛は残った力を振り絞るように力むと、手足を縛りつけていた蛇たちがズタズタに千切れるのと同時に一際大きな塊がベッドの上に転がり落ちた。一連の儀式を眺めていたシュオワンは笑みを浮かべて生まれ落ちた魔性を品定めしていた。

  「数は少ないが、どれも優秀そうだ・・・・・・どれ、少し調べさせて───ッ!?」

  伸ばした指先があらぬ方向に捻じ曲がっていた。

  「汚ぇ手で触んな」

  虎狛は全身にぐっしょりと汗を浮かべながら、産み落とした赤子を一人残らず抱きかかえていた。初めに生まれた赤子は虎獣人の黄色い毛並みに赤い隈取と縞模様が刻まれていたが、その尻尾は蛇のように鱗が生えていた。一回り小さい二人目は鱗に覆われた蛇人(ナーガ)のような体躯で、肘から先と首元には黒い体毛で覆われていた。最後に生まれた一際大きな赤子は黒い体毛に金色の縞模様が浮かび、胴体は鱗に覆われた竜のような体躯をしていた。虎狛はシーツで身体を拭いてやると、一人ずつに初乳を与えて体温が下がらないように毛皮で温めていた。

  「母親にでも、なったつもりか・・・・・・!?」

  突然の拒絶と痛みに激昂したシュオワンは、両腕の入れ墨から蛇のような塊を解き放った。両腕に赤子を抱いた虎狛は、残った口と身のこなしだけで襲い掛かる蛇たちを喰らい潰して見せた。

  「母親だよ。この子達のね」

  「魔性の子を産んだのにか・・・・・・?」

  「可愛くってしかたねぇって事なら、確かに魔性だな」

  虎狛はあっけらかんとシュオワンに言ってみせた。

  「何を、バカな・・・・・・」

  シュオワンは膝に力が入らず、堪らずソファに尻餅をついてしまった。

  「馬鹿?確かに親バカだな。見ず知らずだったヤツとの子を産んでも可愛いって思ってる位には」

  どこで算段を誤った。どこで会話を違えた。今から彼女を崩せる脆弱性は無いか。シュオワンの視界はまるで強い酒を浴びる程に飲んだようにぐわんぐわんと揺れ動いた。

  あり得ない。認めない。断じて違う。そんな筈が無い。自分が、自分がこんなにも───

  「彼女の腕の中ですやすやと寝息を立てる子供たちの姿に」嫉妬していることに。

  「強姦同然に孕ませたのに、愛しい我が子」と受け止められていることに羨望していることに。

  「穢れも魔性も、彼女にとっては命の形の一つでしかない」事に呆然としていることに。

  シュオワンの中で精緻に組み慣れたパズルが、音を立てて崩れるのを感じた。

  「それはそうとアンタ、虎の尾でタップダンスなんざ踊りやがったお仕置きはしなくちゃな」

  虎狛はそっとベッドに子供たちを寝かせると、ソファで身動きが取れずにいるシュオワンを押し倒した。

  「何をする気だ」

  虎狛の股座には、彼女の腕程はあろう逸物がずっしりと彼の腹に突き立てられていた。

  「よせ、やめ───────────────ぁッ」

  骨盤が軋むような激痛に、シュオワンは意識を手放せ───なかった。両腕は彼女の全体重をかけた片手で拘束され、空いた手は自分の腹に触れていた。そこから流し込まれる力によって、シュオワンが痛みから逃れられずにいたのだ。補足も筋肉質な腹は彼女の逸物の形にこぽりと膨らみ、時折ビクビクと中で脈打つのが不快感を増していった。

  「たまには孕まされる側も味わえ」

  虎狛が腰を引いて一気に突き出すと、シュオワンの腹が二回りも大きく膨らんだ。溶けた鉄のような熱さが腹を埋め尽くし、それに押し出されるようにシュオワンの陰茎からは透明な汁が弾けて虎狛の顔にかかった。しかし、彼女はそれも気に留めずに彼の腹に手をかざし続けた。やがて満足したのか、萎えかけた陰茎を一気に引き抜いてシュオワンを開放した。シュオワンは生まれたての子鹿のように床に転がり落ちると、シャワー室に向かう虎狛の背に悪魔を飛ばそうと手を伸ばした。しかし、彼の体内で飼っていた悪魔たちは注ぎ込まれた彼女の精気に当てられたせいか、軒並み機能不全に陥っていた。

  「クソッ、役立たずが──────ッ!?」

  全身に波打つような激痛が走り、床にのたうち回る事しかできなかった。まさか、この張り裂けそうな痛みは──────。

  「だから言ったろ。孕まされる側も味わえってちょっとシャワーとタオル借りるぜ」

  虎狛はそう言ってベッドに寝かせていた赤子たちを抱きかかえてシャワールームへと入っていくのだった。それからシュオワンは虎狛と赤子たちが身体を洗って身体を乾かし終えるまで、激しい陣痛にのたうち回り続けるのだった。

  結章・・・名付けの儀式

  シュオワンとの一件から数日後、子供たちは虎狛の拠点となっている社で育てられることになった。絶滅したかと思われていた魔性との間に生まれた子とあって、最初こそ各地の土地神たちは珍しがっていたものの、調査の結果、一般的な子供と比べて知能や体の発達が少々早い以外に変わった特性は確認できなかった。

  虎狛は急激な出産と、シュオワンに課した天罰による激しい消耗で三日三晩は眠ってしまったが、命に別状は無く、目覚めてすぐに大盛の食事を要求していた。

  シュオワンはこの一見以降、目立った動きや淀みは観測されなくなったものの、引き続き経過観察をするという運びとなった。

  虎狛は子供たちと共に、社の奥で装いを整えられ、その時を待ちわびていた。

  「おっきいところ・・・・・・」と虎獣人の少女が辺りを見渡していた。

  「私達、ここで暮らすの?」ナーガの少年は物珍しそうに見守る人々の視線に落ち着かない様子だった。

  「おなかすいた・・・・・・まだ始まらないの?」黒い毛並みの竜がお腹をさすりながら虎狛を見つめた。

  「アタシもだ。だけど、今オヤツ食ったらお昼が入らなくなるから我慢な」

  しばらくすると、社の奥から荘厳な装束を纏った蛇族の女性が巻物を持って現れた。

  「これより、名づけの儀を執り行う。獅子喰 虎狛が長女『狛乃(ハクノ)』、前へ」

  「はい」虎獣人の少女が一歩前に進み出た。

  「次男『鱗牙(リンガ)』、前へ」

  「は、はい!」ナーガの少年がおずおずと進み出た。

  「三女『藍那(ランナ)』、前へ」

  「はい」黒い毛並みの竜が前に進み出た。

  蛇族の女性は三人の姿を丁寧に確かめると、名前の書かれた巻物を見守る人々の前に掲げて高らかに宣言した。

  「以上三名を、獅子喰虎狛の子として正式に認め、我々一同で大切に育てていくことを宣言いたします!」

  彼女の言葉に、見守っていた人たちは割れんばかりの拍手で歓待した。緊張の面持ちを浮かべていた子供たちはどっかりと虎狛の元に寄り掛かった。

  「さ、堅苦しいのはここまでにして、早速食事にしようか」

  虎狛が指を弾くと、自分と子供たちの祭礼の装いは動きやすい普段着に切り替わった。窮屈そうだった衣服から解放された子供たちは、我先にお祝いが始まっている中に駆けていった。虎狛は、子供たちに差し込むうららかな日差しに、思わず目を細めるのだった。