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皮モノ令嬢 ~継母と義妹に虐げられる伯爵令嬢の中身はスラム街の浮浪者でした~ 的な、令嬢ものの皮を被ったお話

  [chapter:プロローグ]

  伯爵家の屋敷の廊下で、アリア・クローヴェルは膝をつき、雑巾で床を拭いていた。

  金髪は汗で乱れ、灰色の粗末なドレスは汚れでくすんでいる。

  貴族の血筋に固有魔法が発現しやすいこの国でも、有数の魔法の名家として知られていたクローヴェル伯爵家。しかし前伯爵だったアリアの祖父の子供は娘一人だったため、婿入りしたダンが爵位を継ぐこととなった。

  ある時からアリアとダンの折り合いは悪かったが、病弱だったアリアの母が生きていた頃はまだ良かった。実母の死後、ダンが浮気相手のグレータと連れ子のリリアを屋敷に連れてきて、一緒に暮らすようになってから、すべてが変わった。

  グレータとリリアは伯爵家の金で贅沢三昧で、ダンはそれを放置。

  アリアがグレータに虐げられ始めても、ダンは見て見ぬふりをしていた。

  日に日に傾いていく伯爵家の財政状況。母親の形見の銀の髪飾りや絹のスカーフはグレータに売り払われ、アリアの手元には何も残らなかった。

  見るに見かねたアリアが領地経営の手伝いを申し出て、しばらくは持ち直したものの、それからダンは領主としての仕事をアリアに押し付けるようになった。

  グレータとリリアにこき使われる傍ら、領主の仕事。

  社交などする暇もなく、夜遅くまで働く日々。

  それが、16歳になったアリアの日常だった。

  「アリア、何かよこしな」

  重い足音とともに、グレータがやってきた。

  熟した肉体を黒いドレスで締め上げ、豊満な胸がゆったりと揺れる。

  化粧の濃い顔は無表情に近いが、目は冷たくアリアを射抜く。

  「手持ちがちょっと無くてね。まだ売れるものは残ってるだろう? さっさと吐きな」

  落ち着いた、だが侮蔑に満ちた声が響く。

  グレータは、深い谷間をさらけ出し、熟女の色気と威圧感を漂わせていた。

  アリアは雑巾を握りしめ、震える声で答えた。

  「お義母様……もう、何も残っておりません」

  その言葉に、グレータの目が細まる。

  「役立たずが。嘘をつくんじゃないよ!」

  グレータの手がアリアの髪を強く掴み、頭を引き上げる。

  次の瞬間、平手がアリアの頬を打ち、鋭い痛みが走る。

  アリアは唇を噛み、床に倒れ込んだ。

  グレータが指を小さく動かすと、グレータの固有魔法の「拘束魔法」が発動する。

  光の鎖がアリアの手首と足首を締めつけ、身動きを奪った。

  「もっと痛い目にあいたいのかい?」

  グレータは髪をさらに引き、爪をアリアの首筋に食い込ませる。

  白い肌に赤い痕が浮かび、アリアは小さく喘ぐ。

  その時、軽やかな足音が廊下に響き、リリアが現れた。

  ピンクのドレスに身を包み、ピンクブロンドの髪を二つくくりにしてリボンで飾る。

  華奢な体を揺らすように歩き、13歳の愛らしい顔は無垢な人形のよう。

  だが、目はアリアを嘲る光で輝いていた。

  「うふふ、お義姉さまったら、またお母さまに叱られてるの~?」

  リリアはクスクス笑いながら、スカートをひらりと翻す。

  そしてドレス越しに、ふくらみかけの小さな胸を見せつけるかのように胸を張った。

  アリアは拘束されたまま、リリアを見上げる。

  「ねえお義姉さま、聞いて聞いて~!」

  リリアはわざとらしく手を叩き、目を輝かせる。

  「お父さまがね、お義姉さまを前公爵のガストン様に売るんですって! あの好色で有名なおじいちゃんの愛人にするって! うわぁ、かわいそ~!」

  彼女は身をくねらせ、いたずらっぽく笑う。

  「ふふ、誰も助けの来ない屋敷で、毎日おじいちゃんに抱かれるんだね? お義姉さま、頑張ってね~!」

  リリアの甘い声は、毒のように鋭い。グレータが静かに笑う。

  「さすがは旦那様だね。せいぜい高く売れればいいがね」

  二人の笑い声が廊下に反響し、アリアの耳を刺す。

  アリアは床に這ったまま、拘束魔法の締め付けに耐える。

  髪は乱れ、頬は赤く腫れ、首筋には爪痕が疼く。

  彼女にとって、絶望するに然るべき状況なのは間違いない。

  しかし、なぜか。

  彼女の視線は、グレータの妖艶な腰のライン、深い谷間、そしてリリアの小さな胸、身をくねらせるたびに揺れる華奢な太ももに吸い寄せられていた。

  屈辱と痛みの中で、アリアの心を支配するのは、獣のような劣情だった。

  彼女の視線は、グレータの肉感的な谷間、ゆったり揺れる腰を舐めるように這う。

  リリアの華奢な太ももの奥に隠れた部分を想像し、アリアの唇が震える。

  (ふふ、グレータお義母様の……あの豊満な胸を押し潰し、熟れた下半身を貪れたら、どれほど甘美でしょう? あの汗ばんだ股間を指で掻き回し、お義母様の口から淫らな喘ぎを引き出す……なんて刺激的なのでしょう! リリアの……あの小さな胸の先をつまみ、こねくりまわせば、あの甘い声でどんな喘ぎを漏らすのでしょうか? 小さなあの子の大事な部分に、顔を突っ込んだら……どんな香りが漂うのかしら? 誰にも暴かれていない幼気な体を堪能するのは、たまらない快楽ですわ…… わたくし、なぜ、こんな下劣な欲望を?)

  体の奥で熱い疼きが蠢き、アリアは自分の思考に混乱する。

  二人が嘲笑を続ける中、アリアの視線はひたすら二人の身体の上を這っていた。

  [newpage]

  夜の伯爵家、アリアの自室にて。

  侍女のアンが軟膏を手に取り、アリアの手当てをしていた。

  「お嬢様、おいたわしや……」

  アンは悔しげに呟き、柔らかな手でアリアの頬に軟膏を塗る。

  簡素な服から覗く豊かな胸が動くたびに揺れ、薄い布越しにその柔らかさが分かる。

  アリアの心臓がドクンと跳ね、熱い疼きが体の奥で蠢いた。

  「表立って助けられず、申し訳ございません……」

  アンは目を伏せ、声を詰まらせる。

  屋敷の使用人の人事権は、グレータが連れてきたエドワードという執事が持っており、アリアを助けようとした使用人は、みな紹介状もなく辞めさせられてしまったため、アンは思うように動けないでいた。エドワードは「忘却魔法」という人の記憶を操れる固有魔法を持っており、その魔法を利用して使用人達を掌握していた。

  「アン……ありがとう。もう大丈夫よ」

  アリアは穏やかな声で言うが、内心は落ち着かない。

  (最近のわたくし……何かおかしいわ)

  アリアは鏡台をちらりと見た。自分は確かに伯爵令嬢のアリアのはずなのに、鏡に映る顔が、時折自分でないように感じることがあった。

  また、大事なことを忘れているような感覚もある。それに、周りの女性への不埒な想像が頭を支配し、その度に股間に奇妙な圧迫感があるのだ。

  (なぜ、こんな不埒な考えを抱いてしまうのでしょう)

  目の前で揺れるアンの胸に、アリアの目は吸い寄せられていた。

  それのみならず、自分の体にまで情欲が湧き、無意識に太ももを擦り合わせる。

  股間の圧迫感が強まり、何かが抑えつけられているような感覚が彼女を苛む。

  「アン、もう下がっていいわ。少し、一人になりたいの」

  アリアは微笑み、アンを下がらせる。

  ドアが閉まると、彼女は鏡台の前に立った。

  鏡に映るのは、白い肌、優美な曲線を描く体。

  金髪が肩に流れ、薄い寝間着が胸の形を浮かび上がらせる。

  心臓がドキドキと高鳴る。

  「わたくし、こんなにはしたない女だったかしら……」

  小さく呟き、震える手で寝間着をたくし上げる。

  滑らかな腹部、細い腰、柔らかな胸。

  この体、なんて淫らなのかしら?

  指が胸の頂をなぞり、痺れるような快感が走る。

  「んっ……!」

  高い喘ぎ声が漏れ、頬を染める。

  手が下半身へ滑る。秘部に触れると、熱く湿った感触が指に絡む。

  指がゆっくり動くにつれ、股間の圧迫感も強まる。

  薄い膜に包まれている何かが出ようとしているような、異質な感触。

  「この感じ……何なのかしら」

  徐々に激しく、貪るように指を動かす。

  胸を揉みしだき、秘裂を掻き混ぜる。

  「ああっ、何か、出そう……!」

  興奮が頂点に達し、強烈な圧迫感が股間を襲ったその時。

  鋭く裂ける音がして恥丘の皮が破れ、硬く屹立した肉棒が飛び出した。

  「――!?」

  アリアは目を見開き、息を呑む。

  それは女の体にはありえない、脈打つ男の器官。

  「えっ……なに、これ!?」

  握るとそれはぐぐっと膨らみ、手に馴染んだ感触が脳を刺激する。

  すると、アリアのものでない、別の記憶が洪水のように押し寄せてきた。

  スラムの街並み、スリとった財布を抱えて逃げる自分、慕ってくれる弟分の顔、そして――幼い頃、見惚れた女の子の笑顔。

  「わたくし……いや、俺、は……!?」

  彼は自分が何者であったのかを思い出した。

  スラムで暮らす浮浪者のスミス。歳は20になるかどうか。

  表立っては言えない犯罪行為をして何とか生きながらえている、社会のゴミ。

  だが、かつてはこの伯爵家の執事見習いだった。

  両親はどちらも伯爵家の使用人だったが、アリアを庇ったためにエドワードに解雇され、生活苦からか両親はどちらも早逝してしまった。

  身寄りのないスミスは、行く当てもなくスラムへ。

  幼かったアリアにせがまれて一緒に遊んだことを、スミスは大事に覚えている。

  初恋の、相手だった。

  どうして今こんなことになっているのか、スミスは思い出せなかった。

  覚えているのは、スラムで自分たちを追い出した張本人であるエドワードを見かけ、激情に駆られて襲おうとしたところまで。

  そこからの記憶は途切れて、気付いたら「アリア」をやっていた。

  そこまで考えて、思い出したように鏡台へと視線を向ける。

  目の前には成長したアリアの体。白い肌、柔らかな胸、濡れた秘部。

  そして、そそり立つ見覚えのあるペニス。

  娼婦を買う金もなく、随分女に関してはご無沙汰だった。グレータやリリアに向けた情欲も、欲求不満がアリアの皮越しに漏れ出していたのだろう。

  初恋の女の裸体を前に、スミスは我慢できようもなかった。

  唸りを上げ、胸を貪るように揉みしだく。

  同時にペニスを握り、激しくしごく。

  破れた皮が湿った膜のように絡みつき、ゾクゾクと背筋を震わせる。

  高い喘ぎ声がスミスの興奮をさらに煽る。

  胸の頂をつまむと甘い快感、ペニスをしごくと野蛮な快感が脳を灼く。

  男女の境界が溶け、倒錯感で頭が沸く。

  スミスは秘裂に指を沈め、愛液を掻き混ぜる。

  ペニスをしごく手も加速し、女の性感がそれに絡み合う。

  絶頂が迫る中、かつての彼女の笑顔が浮かぶ。

  だが、快感がすべてを押し流す。

  「アリア……っ!」

  咆哮とともに達し、熱い飛沫がアリアの……スミスの全身に迸る。

  愛液も太ももを伝い、スミスの体は汁まみれになった。

  荒い息をつき、鏡を見つめる。

  冷静になったスミスの胸に、罪悪感が広がる。

  初恋の少女の身体を穢してしまった。

  アリアのことを考えて、そういえば、と思い至った。

  虐げられ、そして売られるアリアの現状がスミスの脳裏に蘇る。

  何とはなしに、破れた股間の皮を指でなぞる。

  なぜこうなっているのかはわからない。

  でも、今の状況を利用すれば、今度こそアリアを守れるのではないか。

  あるいは、アリアの代わりに……?

  ぶるぶるっ、と首を振るスミス。

  何はともあれ、スミスはアリアのために動こうと決意した。

  [newpage]

  それから数日。スミスはアリアの記憶を頼りに、アリアとして生活していた。

  本物のアリアは所在不明だが、自分のせいで恥をかかせたくないと考えていた。

  彼は書類の山に向かい、アリアがやっていたように書斎で計算を始める。

  しばらくして、書斎のドアが開き、リリアが軽やかな足並みで入ってきた。

  ピンクのドレスが華奢な体を包み、小さな胸がドレスをわずかに持ち上げている。

  「うふふ、お義姉さま、朝からお仕事~? えら~い!」

  クスクス笑いながら、彼女は書類をわざと床に落とす。

  「あら~、ごめんなさぁい!」

  スミスの胸に怒りが沸く。

  だが、いちいち反抗したところでアリアの立場が良くなるわけでもない。

  スミスは黙って書類を拾い、拳を握りしめる。

  「あら、お義姉さま、怒ってるのぉ? でも、あたしには手出しできないもんね?」

  その時、重い足音が響き、長身で厳めしい顔の執事、エドワードが現れた。

  両親と共にスミスを追い出した、仇ともいえる男。

  「リリア様、このような行為は伯爵家の品位を落とします。貴女の振る舞いは……」

  エドワードはくどくどと説教を始めた。

  スミスはそれを訝しく思った。こいつ……そんなこと言うヤツだったか?

  「うざっ! エドワードったら、いつからそんな偉そうになったの~?」

  リリアは目を丸くし、指を軽く振ると、「制約魔法」を発動した。

  制約魔法。それはリリアの固有魔法で、一人に付き一つだけ何かを「させない」ようにすることができるものだ。応用範囲は広く、場合によっては王家の監視対象となることもある強力な魔法だった。

  「あんたは、説教禁止~!」

  エドワードの口がピタリと閉じる。

  リリアは勝ち誇った笑みを浮かべ、スミスに目を向ける。

  「んふふ、あたしの魔法ってやっぱり便利~! お義姉さまも、どんなに怒ってようが、あたしとお母さまには手出しできないしね~」

  リリアはさらに、嘲るような顔で続ける。

  「それに比べて、お義姉さまの魔法は……なんだっけ、あの気持ち悪い魔法? 脱皮するだけの、役に立たないゴミ魔法!」

  その言葉に、泣きじゃくる幼いアリアの顔がスミスの脳裏に浮かぶ。

  ――――こんな魔法、私イヤ! お父様にも、見捨てられて……。

  アリアが発現した魔法は過去に例のないものだったが、脱皮できるだけという、使い道の良くわからないものだった。そのためダンは落胆し、アリアをひどく叱責した後、娘としてまともに扱わなくなった。

  アリアの泣き顔、アリアの痛みを思い出したスミスは、我慢の限界を超えた。

  「てめえ、このやろう!」

  叫びとともに、彼はリリアを押し倒した。

  書斎の床に彼女を押し付けると、華奢な体が驚きに震えた。

  「な、なんでお義姉さまがあたしに逆らえるの!?」

  リリアの目が混乱で揺れる。

  リリアの柔らかい体の感触に、つい股間の皮の下でペニスがいきり立つ。

  「お、お義姉さま……!? 何か、硬いものが……!?」

  さらなる異常事態に、リリアの身体が固まる。

  その瞬間、エドワードが動いた。

  「リリア、貴方が見下した魔法の本当の力、見せてあげるわ」

  冷たい声で呟き、彼はリリアの首元を掴む。

  次の瞬間、リリアの体に異変が起きた。

  彼女の足先が、まるで蝋が溶けるように厚みを失っていく。

  「ひっ!?」

  リリアの叫びが書斎に響く。

  彼女の足首が紙のようにペラペラに変わる。

  変化はゆっくりと膝へ、太ももへと這い上がる。

  彼女のドレスが不自然に萎み、華奢な脚が平らに潰れる。

  「あたしの体、どうなってるの!?」

  リリアは床を掻き、恐怖で目を剥く。

  彼女の指が震え、腕が薄く透き通るように厚みを失う。

  胸がぺしゃんこにしぼみ、ピンクのドレスが床に広がった。

  「いやぁ! お義姉さま、助けて……!」

  彼女の声は震え、涙が頬を伝う。

  変化が首元に迫る。リリアの口が恐怖で歪み、叫び続ける。

  「やめて……! お母さま! 誰か! 助けっ」

  だが、顎が硬直し、唇が薄く固まる。

  彼女の目が絶望に揺れ、最後の叫びは途切れた。

  声が消え、顔まで完全に皮に変わる。

  リリアはその特徴を残したまま、床に広がる一枚の皮となった。

  スミスはそれを呆然と見つめる。心臓が激しく脈打っていた。

  「制約魔法……掛けなおしてくれてありがとね、リリア。お礼に、ドアマットにでもして差し上げましょうか? 素敵な殿方が助けに来てくださるかもしれなくてよ」

  エドワードはそう呟くと、首に手をかけ、顔の部分を脱ぐような仕草をした。

  皮が剥がれ、厳めしい男の顔が消える。

  そこに現れたのは――アリアの顔だった。

  「お久しぶり、スミス。驚いたかしら?」

  本物のアリアが微笑む。

  スミスの心臓は止まりそうだった。

  床には、物言わぬリリアの皮が広がっていた。

  アリアは微笑みを浮かべ、首の皮の境目を指でなぞる。

  「訳が分からないでしょうけど……ちゃんと、説明するから」

  彼女は落ち着いた声で、説明を始めた。

  「わたくしが今どんな状況か……あなたはもうその身で感じて、分かったでしょう? 伯爵家を離れ、愛人として売られる……そんな運命、受け入れるつもりはないの」

  アリアは静かに続ける。

  「だから、動き始めた。この家の毒を、根こそぎ取り除くために」

  彼女は唇を噛み、言葉を続ける。

  「役に立たないと言われ続けた、わたくしの魔法。『皮魔法』。でも、こんな状況になって、絶望した時――魔法が覚醒したの。使い方が、分かった」

  アリアはリリアの皮に目を落とし、冷たく笑う。

  「この魔法には、三つの能力があるわ。一つ目は、今みたいに、対象を皮に変えること。意識は皮に宿ったままで、その皮を着れば、皮になった対象の記憶も読めるし魔法も使える。ただ、無意識の振る舞いなどに影響が出てしまう」

  彼女は次に、自分が着ている皮を示した。

  「二つ目は、対象から皮を剥ぎ取ること。剥がされた者は、動けないけど意識はある肉人形のようになる。その状態で別の皮を着せると、癒着して二度と脱げないし、破れもしない。剥いだ皮を着れば、魔法は使えるけど、記憶は読めない分、練度が落ちるわ。ただ、皮に影響されることはない」

  彼女は次に、スミスを指さした。

  「三つ目は、わたくしが脱皮すること。わたくし自身の皮を脱ぐことができて、何度でも脱げる。誰かに着せた時、使える記憶や能力を制限することもできるわ」

  彼女は自分の顔に触れ、皮の境目をなぞる。

  「ひどい能力でしょう? 人を人とも思わない、醜い魔法……」

  自嘲するような声に、スミスの胸が締め付けられる。

  「でもわたくしは決めたの。自分を、伯爵家を守るために、どんな非道も厭わない」

  アリアの声は鋭く、覚悟に満ちている。

  「伯爵家を取り戻すには、もうこれしかないのよ」

  スミスは整理しきれない頭で、気になっていることを聞いた。

  「アリア、エドワードはどうしたんだ?」

  アリアは小さく笑った。

  「エドワード? 彼には、ふさわしい役目をあげたわ」

  彼女の瞳が暗く光る。

  「今頃、牧場で草を食んでるんじゃないかしら」

  **

  エドワードは、後悔していた。彼女を、侮っていたことを。

  グレータに牛乳の買い出しを頼まれたと言われ、付き添いを頼まれて。

  哀れな小娘だと鼻で笑って承諾したが、ただ付き合ってもつまらない。

  荷物を持つと言って取り上げ、さっさと歩いて必死に付いてくるのを見て楽しむ。

  だが、牧場に付いた時突然、首に痛みを感じた。

  「エドワード、貴方に暇を出します」

  アリアの冷たい声。次の瞬間、皮膚が裂ける音が響き、彼の皮が剥ぎ取られる。

  エドワードは肉と筋が露出し、動けなくなった。

  恐怖が彼を飲み込み、動かぬ肉の塊のままアリアを見上げる。

  すると彼女は分厚い、毛むくじゃらの皮を持ち出した。

  「これが、貴方の新しい役目よ」

  アリアは無表情で呟き、皮をエドワードの頭から被せた。

  ゴワゴワした毛が顔を覆い、鼻孔を塞ぐ。

  皮は肉に吸い付くように絡みつき、骨と筋に食い込んだ。

  指が溶け、腕が太く短くなり、背骨が軋んで四つ足に曲がる。

  顔が伸び、鼻が濡れた牛の鼻先に変わる。

  エドワードは声にならない叫びを上げる。

  いやだ……! 俺は人間だ!

  心臓が締め付けられ、意識は牛の頭蓋に閉じ込められた。

  乳房が腹に膨らみ、ずっしりと重い。

  皮膚が癒着し、乳牛の皮は彼の肉と一体化した。

  屈辱が胸を焼いたが、すでに叫びは人の言葉とならなかった。

  「ブモォ……!!」

  牧場に連れられたエドワードは、牛舎の藁の上に立っていた。

  俺は、伯爵家の執事だったのに…… 屈辱が彼を苛む。

  農夫たちが近づき、粗野な手で乳房を掴んだ。

  「いい乳出してくれよ~」

  笑い声が響く。やめろ! 俺に触れるな!

  エドワードの心が叫ぶが、乳房を強く引っ張られると、意識が揺らぐ。

  「モォ……!」

  牛の鳴き声が喉から漏れ、人間としての叫びは埋もれる。

  乳が絞られ、温かい液体がバケツに滴る。

  こんな、恥辱……! 農夫の無垢な笑いが彼を辱める。

  だが、乳を搾られるたび、思考が断片化する。

  俺は……誰だったっけ……? おれ、にんげん、だったよな……。

  乳搾りのリズムに合わせ、牛の本能が意識を侵食する。

  おれは……エド……なんだっけ?

  必死に思考を止めまいとするが、次の一搾りでまた意識が薄れる。

  「モォ~……」

  自我が溶け、その牛は虚ろな目で農夫を見上げた。

  人間だった男は、ただの家畜に飲み込まれていった。

  **

  「話を続けるわ」

  アリアはスミスを見つめて、再び話し出した。

  「怪しまれずに動くためには、しばらくの間、伯爵家内の人以外で、わたくしの代わりになってくれる人が必要だった。誰か、信頼できる人が……その時、貴方の顔が浮かんだの」

  スミスの胸がドクンと跳ねる。

  あの宝物のような時間。アリアも大事に思ってくれていたのだろうか。

  アリアは目を細める。

  「エドワードの固有魔法――『忘却魔法』を使って、貴方の記憶を封印して、皮に残した記憶でわたくしとして振るまえるようにしたの」

  彼女の声が柔らかくなる。

  「貴方が知らない、これまでのわたくしをさらけ出したうえで、現状をその身で感じて、判断してほしかったから」

  息を呑んだスミスに、彼女は真摯な瞳を向けた。

  「スミス、改めてお願い。私に力を貸して。伯爵家を取り戻すために」

  スミスは即座に頷く。

  「ああ、わかったよ、アリア。俺は……今度こそ、お前を守る」

  その声に迷いはない。

  アリアは、花開くように満面の笑みを浮かべた。

  「ありがとう、スミス。さっそく、お願いしたいことがあるの」

  彼女はリリアの皮を拾い、スミスに差し出す。

  「この皮を着て。貴方にリリアになってもらって、制約魔法を使えれば、強力な武器になるわ。それには、皮にある程度馴染んでもらう必要があるのだけれど……」

  スミスは目を丸くする。

  アリアは少し目を逸らし、頬を赤らめる。

  「早く馴染むには、着た状態で刺激を与えるのがいいの。痛みとか、強い感情とか……その、気持ちいいことでも大丈夫だから。終わったら教えてね」

  彼女は恥ずかしそうに顔を隠し、急いで書斎を出ていく。

  スミスはリリアの皮を手に呆然と立っていた。彼女の言葉が頭を巡る。

  それは、そういうことでいいんだよな……と、スミスはひとりごちた。

  スミスは書斎の鏡台の前に立つ。

  アリアの姿――粗末なドレスを着た、美しいが疲れの見える姿――が映る。

  彼はドレスを脱ぎ、背中に手を入れる。

  背中にあった小さな穴を広げ、足を抜く。

  滑らかな皮膚が剥がれ、金髪が床に落ち、スミスの元の体が現れる。

  痩せているが身長は高く、その目ばかりがギラギラとしている、男の肉体が。

  リリアは皮となって床に広がっていたが、意識だけは未だに残っていた。

  動けない状態で、必死に状況を理解しようとする。

  (身体が……変。見えるし、聞こえる。床の感覚もある。でも、全く動かせない。背中に穴が、開いてる? お義姉さまがさっき言ってたことって……もしかして、この男が今から、あたしを着るの!?)

  スミスはリリアの皮を手に取る。

  薄く、冷たく、微かにしっとりした感触。

  スミスはリリアの皮の背中の穴を広げ、震えながら足を入れた。

  冷たい皮が足首に吸い付き、ピリピリとした感覚が走る。

  「うっ……何だ、これ……!」

  (あたしのナカに、何か入ってきた……! いやっ、内側、なぞらないでぇ!)

  皮が肉に絡みつき、締め付ける。足が縮み、リリアの華奢な脚に変わる。

  皮膚がピンクがかった白さに染まり、小さく整えられた爪が揃う。

  熱い脈動が足を這い上がり、太ももが柔らかく丸みを帯びる。

  「おっと……!」

  片方の足の長さが変わり、スミスはよろめいた。片方の華奢な女の子の足に比べ、もう片方は痩せているといえど大の男の足。バランスを崩すのも無理からぬことだ。

  すべすべでもちっとした小さな足で踏ん張る状態となってしまい、慌ててもう一方の膝を曲げてバランスを取った。

  (ひっ……! 足が、勝手に動いてる! あたしはピクリとも動かせないのにぃ!)

  もう片方の足を入れ、皮を腰まで引き上げる。

  骨が軋み、腰が細く締まっていった後に現れたのは、なめらかな腹部。

  皮が股間に達し、スミスの男根に絡みつく。

  冷たい皮が締め付け、皮を突っ張る圧迫感。

  徐々に男根が縮み、肉が内側に吸い込まれるように溶ける。

  (おふっ……♡ ナカから大事な所っ、突かれてっ!? あれっ、あたしにっ、生えてっ!? 違っ、溶けて!? わかんないわかんない、あたし壊れちゃうよぉ!)

  ゾクゾクと背筋を震わせる感覚の中、股間が平らになり、湿った蜜壺が形成される。

  その微かな疼きがスミスを惑わせる。

  皮を首まで引き上げると、肩幅が縮まり、一回り小さくなる。

  平らな胸はぎゅっと絞られてからわずかに膨らみ、頂点にピンク色の乳首が現れた。

  スミスは息を荒げ、鏡に目をやる。鏡に映るのは、異様な姿だった。

  首から上はスミスの武骨なひげ面。だが、首から下は小さな女の子の身体。

  (うああ……気持ち悪い、気持ち悪いっ! あたしの身体が、こんな男に……!)

  身長はスミスの半分ほど、華奢なシルエットがピンクのドレスに包まれ、細い腕、わずかに膨らんだ胸、きゅっと締まった腰。

  それらすべてが、ひげ面とのアンバランスさを強調していた。

  だがそれが、スミスに倒錯的な興奮を掻き立てさせる。

  背徳感と興奮が絡み合い、彼は震える手でリリアの頭の部分の皮を持ち上げた。

  二つくくりにした髪が揺れ、光を映さない瞳が彼を見つめる。

  (あ……あ……お願い、やめて……!)

  リリアの声はスミスには届かない。ゴクリと喉を鳴らし、頭をはめる。

  皮が顔に吸い付き、熱い圧迫感が目、鼻、口を包む。

  視界が揺れ、骨が縮む感覚に頭が軋む。

  ピンクブロンドの髪が肩に流れ、甘い香水の匂いが鼻をくすぐった。

  鏡に映るのはリリアその人。

  この小さな体に、大の男の身体が押し込められている。

  「俺、本当にリリアになっちまった……」

  スミスは自分の声の高さに驚き、鏡を見つめた。

  そこに映っているのは、戸惑ったような顔の、小さな女の子。

  客観的に見ても、かわいかった。

  自分のものとなった、リリアの身体に目が落ちる。

  華奢な腕、ドレスに擦れる胸の頂、細い腰。熱い衝動が股間を疼かせる。

  彼は震える手を伸ばし、鏡を見ながらリリアの胸に触れた。

  ドレス越しに柔らかな膨らみを押すと、鋭い感覚が脳を突き抜ける。

  「うっ…!」

  (やだやだ、あたしのおっぱい触らないでよっ……! でも、何、この感覚……)

  ゆっくりと揉んでいくうちに、喘ぎ声が漏れ出す。

  「あっ…これ、すげえっ……!」

  (イヤなのに、気持ち、いい……?)

  胸を揉む手つきが、粗々しい動きから、繊細な動きに変わっていく。

  指先が胸の頂をそっとなぞり、軽く摘まむ。

  「あっ、とってもっ……気持ちいいっ」

  (こんなのっ、知らないっ……!)

  ピンクブロンドの髪が揺れ、半開きになった唇からは喘ぎ声が漏れる。

  その鏡に映るリリアの姿が、スミスをさらに煽る。

  彼は片手を股間に下ろす。ドレスをたくし上げ、リリアの秘部に触れる。

  熱く湿った感触が指先に広がり、激しい快感が背筋を駆け上がる。

  「これが……女の子の快感なのっ……!?」

  (あたしっ……大人になっちゃうのっ……!?)

  スミスの声色が徐々に変わりだす。

  「ああんっ……! たまんねぇ……!」

  (ああんっ……たまんないっ……!)

  指が秘部を撫でる度に、腰が勝手にくねる。

  繊細な手つきで、スミスは秘部を愛撫する。

  快感が頭を突き抜けるたび、リリアの意識がスミスに流れ込んでいく。

  そして、スミスの与える快感が、リリアをスミスに同調させていった。

  「やぁん……こんなとこ、ダメなのにぃ~!」

  (やぁん……こんなとこ、ダメなのにぃ~♡)

  口調も仕草も、リリアへと近づいていく。

  スミスは快感に夢中で、その変化に気付かない。

  下腹部が疼き、膨らんだ胸の頂がドレスに擦れるたび、頭が白く弾ける。

  身体が勝手に反応し、腰が震え、甘い喘ぎ声が漏れる。

  『あんっ……! あたし、イっちゃう……ダメ、ダメぇ~♡』

  スミスの叫びと、リリアの声なき叫びが重なる。

  快感の波が頂点に達し、スミスは絶頂を迎えた。

  そこで、リリアの意識はスミスに溶け出し、途切れた。

  叫び声が書斎に響き、身体がガクガクと震える。

  鏡に映るスミスの顔は紅潮し、髪は乱れていた。

  スミスは息を荒げ、鏡台に手を突く。

  頭にリリアの記憶が流れ込む。

  彼女の幼少期からこれまでの記憶――そして、制約魔法の使い方。

  スミスは成功に息を吐くが、ふと鏡を見る。

  彼はニコリと微笑み、慣れた仕草で乱れた髪を直す。

  綺麗に整えた後、鏡に向かって胸を張った。

  「ふふん、さすがあたし、今日も最高にカワイイ~!」

  無意識に出た言葉に、スミスは凍りつく。

  今自分がしている胸を張る仕草も、リリアがやっていたことだと気付く。

  スミスは恥ずかしさで顔を熱くし、ごまかすようにぱたぱたと手を扇いだ。

  彼は慌てて書斎を出て、アリアを呼びに行った。

  廊下でアリアを見つけ、声を上げる。

  「あ、お義姉さま……じゃなくて、アリア! 制約魔法、覚えられたよ~……コホンッ、う、うまくいったぞ」

  スミスは慌てて咳払いをして、無意識に出てしまう口調をごまかす。

  「うまくいったけどよ……これ、なんとかなんねえか?」

  何をしゃべるかを意識して、リリアの口調が出ないように気を付けてアリアに尋ねる。しかし、うっかり片手でくくった髪を弄っているのに気付き、慌ててぱっと手を後ろにやった。アリアはにっこりと微笑む。

  「あら! 可愛いし、そのままでも大丈夫じゃない? 直接皮にしたものを着ると、影響受けちゃうのよね」

  からかうような声に、スミスは真っ赤になる。

  「ぷんぷんだよ! あっ」

  抗議するが、咄嗟に話した言葉は、リリアの口調で出力されてしまう。

  スミスは恥ずかしさに身を縮めたが、その姿もまた可愛く映った。

  アリアはクスクス笑い、一言付け加えた。

  「大丈夫。思考までは影響受けないはずだから」

  「根本的な解決になってな~い!」

  [newpage]

  数日後の夕暮れ時。グレータの部屋は静寂に包まれていた。

  グレータはけだるげな様子で、豊満な身体をベッドに横たえる。

  そこへ、扉を叩く音がした。

  「入りな」

  入ってきたのは、リリアとエドワードだった。

  グレータは訝し気に問いかけた。

  「何の用だい、リリア? エドワードまで連れて……」

  リリアは肩を揺らし、甘えたような声で答える。

  「ねぇ、お母さまぁ? あたし、紹介したい人がいるのぉ~!」

  グレータが眉を上げる瞬間、扉が乱暴に開いた。

  そこに現れたのは、汚らしい男。

  ボロボロの服、脂ぎった髪……すえた臭いがツンと鼻を刺す。

  およそまともな身分ではあるまい。

  彼はニヤリと笑うと、一目散にグレータに突進してきた。

  「この……無礼者が!」

  グレータはすかさず拘束魔法を放つ。

  光の鎖が男を縛り、床に叩きつける。

  「この汚らわしい男は、何なん……」

  グレータが怒鳴るが、その叫びは途中で途切れた。

  突進する男を隠れ蓑に、エドワードが静かに接近していた。

  再び拘束魔法を発動する間もなく、エドワードの指がグレータの首に触れる。

  「わたくしの勝ちよ、お義母様」

  冷たい声の後に皮膚が裂ける音が響き、グレータの皮が剥ぎ取られる。

  肉と筋が露出し、グレータは身動きが取れなくなった。肉の塊が崩れ落ちる。

  エドワード――の皮を着たアリアは、倒れている男に目を移す。

  「ガンツ、次はあなたよ。少し我慢してね」

  彼女の指が触れ、ガンツと呼ばれた男の皮が剥がされる。

  アリアはグレータの皮を拾うと、その皮をガンツに被せた。

  すると、皮が吸い付き、肉に食い込んでいく。

  ガンツの骨が軋み、身長が伸び、女性のシルエットを形作る。

  胸が大きく膨らみ、金色の髪が流れる。

  そこには、紛れもなく妖艶な女の身体があった。

  「へっ、うまくいったッスね、兄貴!」

  その女は、グレータとは似ても似つかない表情と口調で、リリアにそう言い放った。

  リリア――の皮を着たスミスは、ピンクの髪を揺らし、きゃらきゃらと笑う。

  「お母さ……お前、外見と合ってなさすぎて笑っちゃう!」

  それはまるで、一見何でもない親子の語らいのようだった。

  母親がやたらとへりくだっているのを抜きにすれば、ではあるが。

  ――数日前、アリアとスミスはグレータを排除する計画を話し合っていた。

  その中で、アリアはスミスに、信頼できて、かつ今の境遇から抜け出したがっている者を知らないかと尋ねた。スミスは一人だけ、それに思い当たる者がいた。

  スラム街で、唯一心の救いとなっていた弟分のガンツ。ガンツは、スミスの気まぐれで窮地を救われてから、スミスに懐き、いつも後ろを付いてきていた。

  要領は悪いが、良くも悪くも純粋さを持っており、殺伐としたスラムの中で、唯一信頼できる男だった。ガンツも、スミスのことを兄貴分のように慕ってくれていた。

  事情を説明し、他人の身体になってもよければ俺に付いてきてくれ、とスミスが頼むと、どんな姿になっても兄貴の行くところに付いていきますぜ、とガンツは答えた。

  そして、今に至る。

  「さて……」

  顔を引き締めたスミスは、横たわるグレータに近づき、制約魔法を発動した。

  「アリアに危害を加えるような行為を、禁止する」

  制約魔法の発動を確認したアリアが、ガンツの皮をグレータに被せる。

  すると皮が吸い付き、グレータはすぐさまガンツの姿に変わってしまった。

  「くっ……伯爵夫人の私にこんな真似をして、ただで済むとでも……」

  グレータはガラガラ声で恨み言をアリアにぶつける。

  「あら、今のお姿を確認なさいな? ただの浮浪者ではございませんか。まあ、すぐにそんなことは関係なくなりますけど――自分が誰かを含めて、何もかも忘れなさい」

  アリアは無表情のまま、忘却魔法を発動した。

  グレータの目が虚ろになり、光が消える。

  「それじゃコレ、スラム街に捨ててくるわね」

  アリアはガンツの姿となったグレータを連れ、部屋を出る。

  部屋に残されたスミスとガンツは、しばらく無言で佇んでいたが、おもむろにガンツがドレスの胸元を無造作に引っ張り、自らの豊かな胸部を覗き込んだ。

  「うひょお、この身体、めっちゃそそる……兄貴、俺もう我慢できないッス! このオンナの身体で気持ちよくなりてぇ! 兄貴も一緒にどおッスか?」

  鼻の下を伸ばしてそんなことを宣うその姿は、グレータの面影もない。

  スミスはやれやれといったように肩をすくめて、ニヤリと笑った。

  アリアを虐げたこの二人に、俺流の仕返しといこう、とスミスは考える。

  「まったくこいつは……しょうがねえなあ、付き合ってやるよ」

  ガンツはワクワクした様子でドレスを脱ぎ捨て、その豊かな胸を露出させた。

  スミスはガンツに近づき、細くなめらかな指でその曲線をつつーっ、と撫でる。

  「うわぁ、おっきい……でけえなぁ、お前がちょっとうらやましいぜ」

  自分の胸部を見下ろしながらそう呟き、スミスはガンツの胸の頂をつまむ。

  ガンツは腰をくねらせ、熱を持った吐息を漏らした。

  「ううっ……男の乳首なんか、目じゃないッス……!」

  スミスはしばらくガンツの胸を弄んでいたが、ふと動きが止まったかと思うと、おもむろにその胸の頂を、かぷっと口に含んだ。そのまま、ちゅうちゅうと吸い始める。

  「あっ、兄貴~、くすぐったいッス……! あっ、でもなんか下の方が熱くなってきたッス……」

  スミスは舌先で膨らんだ胸の先を転がし、時折吸う動作を続けた。

  そのうち、その行為に安心感を覚えている自分に気付く。

  それはリリアの記憶によるものなのか、かつて失った母のぬくもりを求めてのものかは分からない。少し気恥ずかしくなったスミスは、乳首から唇を離し、胸の谷間に顔を埋め、ガンツの下半身の湿った茂みに手を伸ばした。

  「ここからあたし――今の俺が産まれたってことだな……なぁ、ガンツ?」

  スミスはちょっとおどけた様子で話しながら、溝に沿ってさすり続ける。

  「あ、ふぅ……お、俺が兄貴を産んだんッスか!? 俺がママってことッスね……それじゃ、ママが気持ちいいこと教えてあげるッスよ~」

  ガンツはスミスのドレスをたくし上げ、指でスミスの秘部に触れた。

  そこはすでに、若干熱く湿っていた。

  「もう濡れてるなんて、兄貴の身体もえっちッスね~!」

  スミスは人に秘部を触られる初めての快感に喘ぎ、太ももをすり合わせた。

  「やぁん♡ チッ、変な声出ちまったじゃねーか……」

  ガンツはスミスの小さな胸を撫でつつ、指でクリトリスを執拗につつく。

  「兄貴に、もっと気持ちよくなってほしいッスから、頑張るッス……!」

  ガンツの豊満な身体がスミスを包み込み、ガシガシと手を動かす。スミスは取り繕う余裕をなくし、ガンツの股間に手を押し付け、可愛らしく喘ぎながら攻めに転じた。

  「あん♡ ダメぇ♡ あたしのあそこは繊細なんだから、気を付けてナデナデしなきゃ、ダメなのぉ! お返しだよ! お母さまも、もっと気持ちよくなっちゃえ!」

  スミスの手の動きが激しくなり、水音が大きくなる。

  二人は互いの股間と胸を弄り合い、絡み合った。

  それは、母娘の淫らな饗宴。

  二人は高まり合い、同時に絶頂を迎えた。

  「ああっ、イグ、イクッス、いぐっ……はぁ~」

  「ああんっ、ダメっ、ダメっ、何か来ちゃう、あ、はぁん♡」

  書斎はしばらくお互いの激しい息遣いに満ちていたが、スミスはそっとガンツに身体を寄せ、ぎゅっと抱きしめた。

  「お母さま……しばらくこうしてても、いい?」

  ガンツはニカッと笑う。

  「お安い御用ッス! 俺は兄貴のママなんスからね!」

  書斎では、それからも母娘の親密な睦み合いが続いていた。

  [newpage]

  夕闇が屋敷を包む中、ダン伯爵が馬車から降り立ち、屋敷へと入る。

  しかし、出迎えの使用人は誰もいなかった。

  財政が厳しく、多くの使用人に暇を出してはいたが、さすがに異様な状況だ。

  「これは、どうしたことだ……?」

  彼は苛立ちを隠さず、グレータに事情を聞こうと夫婦の部屋へと足を向ける。

  夫婦の部屋の扉を開けると、ベッドの上でグレータが佇んでいた。

  グレータはドレスを着崩した半裸の状態で、大きな胸がまろび出ていた。

  「グレータ、いったい何があった?」

  ダンが厳しく問うと、グレータが口を開いた。

  「へっ、待ってたッスよ!」

  グレータらしからぬその言葉にダンが凍りついた瞬間、グレータの指が動く。

  拘束魔法が発動し、光の鎖がダンの身体を縛った。

  「ぐっ、何、を……!」

  鎖が首を締めつけ、ダンの視界が暗転する。

  意識が遠のく中、グレータの異様な笑みが目に焼き付いた。

  これはグレータではない――そう気づいた時には、すでに手遅れだった。

  ――ダンが目を覚ますと、そこは冷たい石の床の上。

  湿った空気とカビの匂いで、ダンは地下室だと気づいた。

  未だに身体は光の鎖で拘束されたままで、動くことができない。

  気配を感じて視線を上げると、目の前に、アリアが立っていた。

  「この企みは貴様の仕業か! 父を拘束するとは何事だ! 直ちに解放せぬか、このグズが! 誰が役立たずのお前をここまで育ててやったと思っている!」

  ダンは怒りを爆発させ、尊大な罵声が地下室に響く。

  アリアは意に介さず、静かに微笑み、ゆっくりとダンに告げた。

  「……お父様。わたくしを前公爵に売るお話、思いとどまりませんか?」

  ダンは顔を歪める。

  「ふざけるな! 我が伯爵家は財政の危機なのだぞ! 役立たずのお前に、伯爵家のためとなる機会を与えてやったのだ! ありがたく思え!」

  ダンは、唾を飛ばして叫んだ。

  アリアは目を細め、冷たく呟く。

  「お金が無いのは、お父様がわたくしの反対を押し切って推し進めた事業が失敗したせいでしょうに」

  その言葉がダンの胸を刺す。

  「黙れ! 貴様如きに何が分かる! いいから私の言うとおりにしろ!」

  ダンが喚くが、アリアの表情は変わらない。

  「それでは仕方ありませんね。『アリア』を売ることにいたしましょう」

  アリアの指がダンの首に触れた瞬間、ダンの皮がずるりと剥ぎ取られた。

  「ぐああ!」

  肉と筋が露出し、動けない恐怖がダンを飲み込む。

  アリアはダンの皮を無造作に床に放り投げた。

  そして次に彼女が持ち出したのは、アリア自身の皮だった。

  「お父様、本当の『役立たず』は、貴方ですよ」

  アリアはダンに対し、皮の頭部分を被せた。

  冷たい皮が吸い付き、顔に食い込む。骨が軋み、顔が縮む。

  唇が柔らかく膨らみ、輪郭が柔らかくなる。

  「……貴様、何をする!」

  声が出せるようになり、甲高い声で叫んだ瞬間、ダンは異変に気付いた。

  うろたえるダンに、アリアは小さな鏡を差し出す。

  鏡に映るのは、アリアの顔だった。

  「なんだこれは……!」

  ダンは驚愕した。自分の顔がアリアに変わっていたことに。

  アリアは無言で皮を着せていった。首、肩、腕――皮が吸い付き、肉が縮む。

  肩幅が縮み、乳房は膨らみ、華奢な腰が形成される。

  だが、股間だけは穴をあけておく形で残され、そこでアリアの手が止まった。

  ダンの剛直が、華奢な女の身体から不自然に突き出ている。

  その姿はアリアそのものだったが、股間の雄の象徴だけがダンの面影を残していた。

  アリアはフッと笑い、ダンの乳房に手を伸ばす。

  「同じ顔同士、素敵でしょう? わたくしたち、まるで双子のようですわね」

  彼女の指が乳房を揉み、柔らかな肉を押し潰す。

  アリアは胸の頂を指でピンとはじいた。

  鋭い快感が突き抜け、ダンの剛直が脈打つ。

  「あふっ……! アリア、お前、何を……!」

  アリアの指がダンの乳房を執拗に愛撫する。

  柔らかな膨らみを揉みしだき、頂の硬く膨らんだ蕾をつまむ。

  「わたくしからの餞別ですよ。これからのお父様のための」

  乳房から伝わる熱が全身を駆け巡り、剛直が熱く膨らむ。

  アリアはもう片方の手でダンの剛直に触れた。

  なめらかな指が根元から先端をなぞり、熱い脈動を煽る。

  「ううっ……!」

  ダンが喘ぐと、アリアと寸分変わらない顔が紅潮する。

  同じ顔同士、互いを見つめ合う。

  異様な興奮がダンを支配し、剛直が今にも射精せんと、膨らむ。

  快感が爆発する直前――アリアが剛直に皮を被せた。

  「さあ、これで完成ですわ」

  冷たい皮が吸い付き、精を吐き出す寸前で圧迫される。

  剛直が縮み、肉が内側へと潜り込む。

  ダンの股間は平らになり、そこには熱く蕩ける泉が形成された。

  乾くことのない疼きがダンを襲う。

  射精寸前の快感は行き所を無くし、蜜の門が反応してひくひくと震える。

  だがその情欲は発散されることなく、いつまでもそこに揺蕩っていた。

  「元に戻せ……! いや、せめて射精させてくれ! ああ、疼きが止まらぬ……」

  終わらない快感に、とめどなく愛液を迸らせるダン。

  アリアは口の端を上げて、冷たく言い放った。

  「もうその皮は癒着しましたわ。一生、そのままですの」

  アリアは呆然とするダンに背を向け、地下室を出ていく。

  「伯爵家のための大事なお役目ですから、ガストン様と仲睦まじくしてくださいね、お父様……いえ、『アリア』」

  ダンは永劫満たされない身体を抱え、発散されない快感と絶望に飲み込まれた。

  [newpage]

  [chapter:エピローグ]

  あえなく、ガストン前公爵の屋敷に送られたダン。

  その白い肌が、燭台の薄暗い光に照らされていた。

  送り出される前、ダンはリリアから制約魔法を掛けられた。

  その内容は、「アリアに不利になる行動を禁止する」こと。

  もっとも自分がこうなっている以上、本物のリリアではないだろうが、とダンは一人考える。アリアによって陥れられたダンは、今ベッドの上で、乳首が透けるような不埒な肌着を着せられ、前公爵ガストンを待つ身だ。

  ダンの顔が屈辱の涙で歪む。その顔は、望まぬ情交に挑む生娘のようだった。

  そこに、重い扉が開き、ガストンが現れる。

  脂肪が付いた巨躯に、脂ぎった肌の裸の老人。だがその目は、威厳を湛えていた。

  好色な視線が、ダンの身体の上を舐め回すように這う。

  「アリア嬢。女の匂いをぷんぷんさせて、準備万端のようではないか」

  ダンは自分はアリアではなく伯爵だと言おうとしたが、制約魔法の効果で、言葉が出てこない。試行錯誤の末、口に出せたのはただ一言。

  「私は……本当は男なのです!」

  ガストンは眉を上げ、イヤらしい笑みを浮かべた。

  「ふうむ、そちらの執事が言った通りとはな。本物のアリア嬢の代わりに、魔法でアリア嬢の姿にした男を送ると聞いておったのだよ。凡庸な女には飽いておったのでな、貴様のような変わり種を味わってみたいと思っていたのだ。女の身体に閉じ込められた男は、いったいどんな声で鳴くのかのう?」

  その言葉に、ダンは凍りついた。

  ガストンが続ける。

  「貴族の娘をあまり食い散らかしては評判に関わるが、今回送られたのは平民の女ということにしておるからな……いかようにも遊べるというものよ。貴様の反応、じっくり味わってやろう」

  ガストンの巨躯がベッドに迫り、ダンを押し倒す。

  「やめ、やめてください! 私は男です!」

  ダンは叫びを意に介さず、ガストンの手が薄布を剥ぎ、形のいい乳房を握り潰す。

  常時火照ったダンの身体は、それだけで股間の湿り気を増した。

  「胸を少し弄られただけでこれとは……本当に男なのかのう?」

  にやにや笑いながら、ガストンはダンを弄ぶ。

  鋭い快感が全身を突き抜け、蜜の門が熱く蕩ける。

  ガストンは乳房を揉みしだき、頂の硬い蕾を指でつまむ。

  「ほれほれ、抵抗してみい。貴様、男なんじゃろ?」

  ガストンの言葉に、ダンは虚勢を張って睨みつけた。

  しかし与えられ続ける快楽に、矜持は砕かれていく。

  「私は、私はぁ……! あ、あああぁあん!」

  息も絶え絶えに、蕩けた声で喘ぐことしかできない。

  ガストンの舌が乳房を這い、湿った熱が頂を転がす。

  「甘い声だのう? やはり貴様、女なんじゃなかろうか?」

  ダンは屈辱に震えるが、全身の疼きが快感を増幅し、何も言えない。

  ガストンの目が愉悦に光る。

  「その顔が、涙で歪む様、この目に焼き付けたいのう……」

  ガストンの手が茂みに伸び、蕩ける泉を執拗に撫でる。

  「すでにこうも濡れておるとはなぁ……こらえ性のない男よ」

  ガストンの嘲笑が響く。

  「ああん、やめてえ……!」

  ダンの腰がくねり、喘ぎ声が漏れる。

  ガストンの剛直が膣口に押し当てられ、一息にダンを貫く。

  「ふっ……ぐううぅぅうう……!」

  叫びはすぐに喘ぎに変わり、ガストンは老体に似合わず、腰を激しく叩きつけた。

  「男のモノを受け入れた気分はどうだ? ほれ、言うてみい」

  ダンはそれには答えなかったが、膣はガストンのものをキュッと締め付ける。

  そしてダンは、一時の絶頂の波に飲み込まれた。

  「…………!」

  ダンは何度もイったが、内側の疼きはいつまでも解消されない。

  ダンは虚ろな目に絶望だけを宿し、身体の疼きを抱えたまま、犯され続けた。

  **

  スラム街の路地裏に、一人の男が蹲っていた。

  その男が目を開け、まず考えたのは、ここはどこだろう、だった。

  次に考えたのは、そもそも、自分は何と言う名前だっただろうか、だ。

  男は自分がどこの誰で、何をやっていたのか、まったく思い出せなかった。

  そこに酔っぱらった男が、馴れ馴れしく話しかけてきた。

  「おいガンツ~。そんなとこで何やってんだよ、スミスはどうした?」

  男が無言でいると、酔っ払いは首をひねって去っていった。

  そうか、自分の名前はガンツと言うのか、と男は思った。

  他に思い出せることはないかと、男は必死に記憶の欠片を掘り起こす。

  すると、記憶の断片が頭によぎった。

  金髪で、豊満な胸を持つ、色っぽい女。

  自分はガンツと言う男だとすると、記憶の女は誰だろう?

  そう考えた男は、多分恋人とか思い人とかだろうな、と結論付けた。

  なにせ、とても親しみを感じるし、股間も反応しているのだ。

  自然と男は男根に手を伸ばし、前後に動かし始めた。

  男はそれから、記憶の女を想いながら、ずっと自慰をして過ごしていた。

  **

  伯爵家の書斎で、アリアは満足げに椅子に座っていた。

  傍らには、リリア、グレータ、それに加えてダンの姿もある。

  しかし、彼女らの中身が外見と同じかと言えば、そうとは限らない。

  「アン、迷惑をかけるけど、しばらくの間、頼むわね」

  ダンの姿をしたアンは、丁寧に答える。

  「お任せください、アリア様」

  アリアは微笑み、椅子に深く腰掛けた。

  「みんなのおかげで、ようやく伯爵家を取り戻せたわ。みんな、ありがとう」

  リリアを着たままのスミスは、華奢な肩を揺らし、顔の前で手を合わせた。

  「やったね! お義姉さま……って、くそ、いつまでこの身体でいなきゃなんねえんだ?」

  無意識に出てしまう仕草を見て、グレータとなったガンツがニヤニヤしながら叫ぶ。

  「姐さん、最高ッス! あ、兄貴も、めっちゃ可愛いッス!」

  スミスは頬を赤らめ、黙れ、と目線を送る。

  アリアはクスクス笑いながら答えた。

  「制約魔法は便利だから、しばらくリリアのままでお願いね。でも、今後は色々な人になって働いてもらうこともあるかも」

  彼女はいたずらっぽく目を細める。

  「私の皮を着てもらうこともあるかも、ね? その時は、自由にしていいわよ?」

  からかうような声に、ガンツが目を輝かせる。

  「姐さんの皮、俺も着てえッス!」

  アリアはウインクをして、指でバッテンを作った。

  「ふふ、今後私の皮は、スミス専用にするから駄目よ」

  スミスは目を丸くする。

  「おい、からかわないでくれよ……!」

  スミスは天を仰ぎ、頬をリスの様にぷくっと膨らませて不満を表す。

  アリアが立ち上がり、スミスの頬に手を当てる。

  「ふふ、かわいいわね。リリアの顔は苦手だったけど、中身があなたなら愛せそう」

  アリアはスミスの唇にそっとキスをした。柔らかな感触がスミスに伝わる。

  スミスの顔が真っ赤になり、目を泳がせて両手で唇をそっと押さえた後、頬に手を当て、真っ赤になった顔を手で隠すように覆ってうつむいた。

  後ろを向き、ピンクのドレスの裾をぎゅっと掴みぷるぷる震える。

  「兄貴、めっちゃ赤くなってるッス!」

  ガンツが覗き込み、囃したてた。

  「ふふ、ほんとに可愛いんだから。さあ、私たちで伯爵家を立て直しましょう!」

  そう言ったアリアの顔は、これからの希望で満ち溢れていた。

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