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ジリジリと身を焼き付けるほど眩しい太陽、目を突き刺すほどに濃い青空、ちっぽけな僕が簡単に飲み込まれそうなほどに大きな入道雲、それと耳が痛くなるほど鳴り響いている夏の声。
そんな季節に僕は君に恋をした。
━僕は、夏休み前の試験を風邪で休んでしまった。
再試験も無くて「夏休みの補習に出席しないと評価をださない。」なんて、理不尽を言われて仕方なく補習に出席した、
そんなある日のことだった。
大学へ進学を考えるぐらいには勉強が出来る僕にはこんな補習はつまんなく感じていて、いい復習だと思いこんで受けることにした。
それでも、「やっぱりつまんないな」なんて思っていると隣の席に座っていた君が、
「なぁ?ここどうやってやるんだ?」なんて数学のワークを指差しながら声を掛けてきたから僕は優しく丁寧に教えてあげた。教えてあげると君は、
「教えるの凄く上手いな!」なんて大袈裟なぐらい眩しい笑顔で言われた。言われた僕は、その笑顔から見える、真珠のように真っ白で、ヤスリで削ったみたいに鋭い、そんな牙に真っ先に目を奪われた。
僕もなんでかは知らないけれど、彼から見える牙は他の肉食獣とは違くて何処か特別に感じて、思わず見入ってしまった。
僕は、オオカミの君の牙に恋をした。君はオオカミで、明るく気さくだからかいつも周りに獣が居て、草食獣でヒツジの僕とは全く違う。そんなことをグラウンドに居る君を見て思った。
そんな君を見て、「もっと君と仲良くなりたい」「もっと君と話したい」なんて強くて想うようになっていった。おんなじ性別、違う種族、この想いは絶対叶うはずのない感情なんだとも、同時に思うようになっていった。
…こんなこと誰にも言えない、言えるはずがない。
だって、同じ種族の異性と付き合ったり、結婚するのが普通で、普通から外れる道を行く者はまるで魔女のように扱われる。だから、だから誰にも言えない、もちろん彼にも言えない。
この想いは自分の中で抱え込むことしかできないんだと、そう強く思っていた。「でも、話をするぐらいならきっと許されるはず。」なんて、そんなことを思いながら始まったばっかりの夏休みを過ごしていた。
そして今日も補習で君と出会う。僕を見つけるや否や他の席が空いてるのに僕の隣に座って来ては、
「いや〜、一昨日ぶりだね!」なんて相変わらず眩しくて無邪気な笑顔を見せてくれた。
「…覚えててくれたんだね。」って会えて嬉しい気持ちを奥に押し込めながら君となんともないように会話をした、この時に限っては僕がヒツジで良かったなんて強く感じた。
「おーい、ヒツジのキミ!」
補習もおわって、教室を出ようとしていた僕の背中に、元気な声が突き刺さった。振り向くと、君、オオカミの君が、カバンを肩にかけたまま立っていた。
「なぁ? このあと少し、勉強教えてくれない?」
その無邪気な笑顔に、胸の奥がドクンと跳ねた僕は「……うん、いいよ」って戸惑いづつも応えた。
あぁ、今朝の占いを信じて、ツノにオイルをつけてきて良かった。そんなことを思いながら一緒に誰も居ない廊下を渡った。
放課後の図書室は二疋だけでとっても静かだった。夕方の光が大きな窓から差し込んで、本棚に長い長い影を落としていた。
「ここは、こうして……あっ、違う。こっちを先に……」
君のノートに目を落としながら教えていると、不意に君の爪が僕の手のひらに当たって、僕はびくりと肩を揺らした。
「あ、ごめんごめん、ツメのびてたわ」
彼は笑いながらも、手をすぐさま離した。光が当たって鈍く反射するそれに、僕は言葉を失った。
怖くなんてないはずなのに、心臓が早鐘を打ち始める。
でも、それは恐怖とか怖さじゃなかった。ただ…。
「……なんかさ、ツメってかっこいいよね」
僕の口から出たその言葉に、君は一瞬きょとんとしたあと、くしゃっと笑った。
「そーかな?オレにはその大きくて、おっかないツノの方がかっこよく見えるけどな。」
君の口から出たその言葉は、まるで他の言葉のように聞こえて心地が良かった。
勉強を終えて図書室を出ると、空はすっかり色を変えていた。外は分厚い雲に覆われていて、遠くに見える空が明るく見えていた。それはすぐにでも何かが落ちてきそうな気配だ。
その「すぐ」は予想よりも早く来た。パチッ、パチッという音が地面を叩きはじめ、校門から出ようとした僕たちに落ちてきた。
「うわ、マジかよ!?」
傘を持っていないのか、君が笑いながら駆け出し、僕も後を追った。彼の後を追って走るうちに、あっという間に土砂降りに。痛いほどに強い雨のせいでずぶ濡れになってしまった僕たちは、二疋で売店の軒下に避難した。
「はは……ずぶ濡れだな、オレたち」
笑いながら肩をすくめる君の毛は、濡れて少し乱れていた。ふだんより近くに感じる体温、呼吸、そして匂い。
オオカミの、いや君だけの匂いが、雨に混じって僕の鼻をかすめた。
僕は、自分の心臓の音が聞こえないか心配になるぐらいに、彼の横顔を見つめてしまっていた。
ザーザーと強い雨音が鳴り響く中、見つめているいると君はブルブルと頭を振って水を辺りに振り散らすと、「あっ、ほんっとごめん!いつもの癖で」と誤魔化すように笑いながら言うと、「なぁ、これ使ってよ」ってカバンからタオルを出して僕に渡してくれた。タオルで濡れた毛先を拭いてると君がいきなり、「よかったらさ、これからも勉強教えてくんないかな?」って言ってきて、僕は思わず目を丸くしては手が止まってしまった。「ダメかな」と様子を見ては聞いてくる君に僕は、驚きの余韻のまま、「いいよ」と笑って頷いた。
君の顔にほんの少し安心が広がるのが見えた。
そんなことを話してるうちに激しく降ってた雨が気づけば上がっていて、涼しい風が吹き抜けた。
「また今度な!」と軽く手を振る君を見送っては、夏の暑さとは違う温かさが、胸の奥でじっと息づいていた。多分これが恋なんだと知った、僕は君を見送った後帰路についた。
━あの日から、僕たちは時々一緒に勉強をするようになった。教科書を開けば、君は時折いたずらっぽく笑って、僕の集中をあっさり奪っていく。けれど、気づけば春が過ぎ、学年が上がった。
君とは別のクラスになってしまい、話す機会は一気に減った。廊下や中庭で友だちと楽しそうに笑っている君を見かけるたび、胸の奥がざわつく。その笑顔を、僕だけのものにしたいなんて、勝手で子どもじみた感情だってわかっている。それでも、「好き」と言えない自分の弱さは、日を追うごとに形を持って僕を締め付けた。まるでイバラで縛られるようだった。
「君から見た僕はきっとただの友だち」
そんなことばっかり考えてしまう。
そして、半年。季節は巡り、気づけばまた、
君と出会ったあの季節がやってきた。
ジリジリと身を焼き付けるほど眩しい太陽、目を突き刺すほどに濃い青空、ちっぽけな僕が簡単に飲み込まれそうなほどに大きな入道雲、それと耳が痛くなるほど鳴り響いている夏の声。
そんな季節に僕たちは戻ってきてしまった。
戻って来てしまったけど、去年とは違うところがある、そうそれは僕の大学受験があって、もう夏休み中から受験勉強に集中しないといけなくなったところだ。君と離れたくない気持ちを胸の奥底にぎゅっと押し込め、僕は毎日ひとりで机に向かっていた。開いた教科書やワークの文字はぼやけ、ノートの行間が霞んで見えることもあった。頭の中はいつも君のことばかりで、君と缶ジュースを一緒に飲んだ夏のことを思い出しては、問題文に集中できない自分が情けなかった。
「集中しなきゃ…」そう言い聞かせるように呟いてみるけれど、何度もため息をついては窓の外を見ていた。夕焼けが燃えるように空を染め上げていくのを眺めながら、僕は君と過ごした日々を思い返す。君の笑顔の温かさ、ふとした仕草、耳に残る唸り声が混じった声の響き。それらが胸の奥底で波のように押し寄せてきて、どうしようもなく僕を攫った。
僕は怖かった、君が僕が居ない間に恋人をつくってしまうんじゃないかと。
「今どうしてる」「最近調子どう」とかメッセージを僕から送りたかった、でも僕は「肉食獣は肉食獣と、草食獣は草食獣と結ばれるべきだ」と、そんな社会の通念に絡まっては、見えない壁を自分で勝手に作っていて、メッセージを打っては消してを繰り返してた。
言えたらどれほど快適な物なんだろう。でも僕の恋は一方的で迷惑なんじゃないか。
そんなことばっかりが頭の中でぐるぐると駆け回っていった。勉強どころじゃない程、心が苦しい時もあって、底なしの孤独も感じる夜もあって、そんなに君が大切なんだと心から思った。
そんなある日、スマホが震えた。画面に浮かぶのはオオカミの君からのメッセージだった。「最近調子どうだい?」
「息抜きにさ夏祭り、一緒に行かない?」
その言葉を見つめながら、胸の中で何かが震えた。「勉強しなきゃ」と理性は叫ぶけど、心は君と過ごす夜を求めていた。迷いながらも、指は震えつつ「うん、行こう」と返していた。
夏祭りの日、夕暮れの街に浴衣姿の君が立っていて、普段着で来てた僕が少しだけ恥ずかしかった。「似合ってるかな…」って、いつもより少しだけ照れたような初めて見る君の笑顔。「似合ってるよ」僕は笑いながら言った。夏の涼しい風が君の毛を揺らし、提灯の灯りが柔らかく二疋を包み込む。
はぐれそうなぐらい人が多い屋台の明かりの中で僕たちはゆっくり歩いた。「離れないで」出しかけていた手をそっとポケットで握りしめた。すると君は出しかけた僕の手を掴んで屋台通りを一緒に歩いて、僕と君は違うんだなと複雑な気持ちになった。子供みたいにスーパーボールすくいに夢中になって袖が濡れていて、不意に見えた無邪気な横顔がとても可愛くて、好きな綿菓子をご機嫌で食べる君を見て、「来てよかった」そう心が温かく感じた。
少し向こうに友だちを見つけたのか、急に背中を向けて歩きだして急に人混みに消える姿。やっぱりこの想いは僕だけの物なんだと、結局偶然は幻だったんだと、強く自分の手を握りしめた。
人混みに消えた君を追いかけるように掻き分けて進んだ。
やっとの気持ちで君に追いつくと、君の手には焼きそばが二つあって、「一緒に食べよ」そう言って僕に一つ分けてくれた。食べてる最中、君と目が合い、思わず笑いが零れる。その瞬間、胸の奥の緊張が少しだけほぐれていくのを感じた。色んなことを話してると花火が夜空に大きく咲き、色とりどりの光が僕たちの顔を照らし始めた。周りのざわめきをかき消して胸の奥まで響くこの音は、一体君にはどう聞こえてるんだろう。
そう思って横目でそっと覗くと、目を丸くして夜空に咲く花に心を奪われている君がいた。
胸の奥まで響く音と眩しい光に背中を押されたように、僕は君に届いたらいいなと思って、「ずっと君のことが好きだ」
花火が咲く瞬間にポツリと震える声を零した。
零した瞬間、咲いた花火が一層鮮やかに見えて、
ずっと胸の中にあったイバラが一気に溶けた感覚がした。
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