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追憶

  その駅にもう列車は来ない。

  鉄骨のアーチを蔦が覆い、ガラスの天井を伝う雫が、途切れた線路へと落ちていく。

  けれどその日、雨に濡れた街の果てで、小さな羊の少年だけが誰かを呼んでいた。

  「……おかあさん?」

  その声は、花のように散り、雨とともに駅舎に降りそそいだ。雨は答えの代わりに、古い硝子を優しく叩いていた。

  長く降り続く雨は、線路の凹みに静かにたまりつづけ、今では一面が細い川のようにゆらゆらと揺れていた。

  暗い天井から落ちる雫が、その水面に波紋を広げるたび、途切れたレールはまるで水底に沈んだ橋のように歪んで見えた。

  雨音にまぎれて、

  どこかで金属が軋むような音がした。少年はぴたりと息を止め、耳をぱたぱたと震わせた。誰もいないはずの駅の奥、

  闇の向こうで、何かが動いた気がしたのだ。

  「……だれ?」

  返事はなく、ただ雨が一定の調子で屋根を打ち続けるばかりだ。しかし、確かに“気配”だけはあった。冷たくはなく、むしろあたたかい。誰かの気配なのか、それともこの駅そのものが息を吹き返しはじめたのか。

  少年は躊躇いながら一歩、気配の方へ近づく。足元の草がかすかに揺れ、しずくを弾く。駅舎の奥から吹く風は、壊れた窓枠をすり抜けながら、まるで少年の名を呼ぶように低く鳴った。

  その瞬間だった。闇の奥で、小さな光がふっと瞬いた。火花のような、蛍のような、けれどどこか懐かしい色。

  少年は思わず手を伸ばした。雨の匂いの中、その光だけが、

  まるでひとひらの花のように、

  確かにそこに浮かんでいた。

  線路をかすかに揺らす光は、少年の前でふっと消えた。けれど、気配だけは残ったままだった。雨の匂いに紛れ、胸の内側をそっと押すような温度が、確かに“向こうへ”と誘っている。

  少年は、水を含んだ草を踏む足に力を込め、ゆっくりと歩きはじめた。雨に濁った線路の川を越えると、そこにはどこまで続くのかわからないほど広い空間が広がっていた。

  柱と柱。かつて多くのヒトが行き交ったであろう巨大なアーチには、蔦が覆っていた。遠くの天井で落ちる雫の音は、まるで無数の時計がずれたまま時を刻んでいるように、一定のリズムを持たない。

  少年は歩く。ひとつ、またひとつと、枕木のように足跡を並べながら。行き先はわからない。

  それでも、立ち止まると胸の奥がざわざわして、“まだ進んでいい”と誰かに言われているような気がした。

  やがて、闇に沈んだホームの奥へ近づくと、濡れた床に映る自分の影が、ふいにふたつに揺れた。

  少年ははっとして振り返る。

  だが、背後にはただ終わりの見えない駅の広がりがあるだけだった。雨が線路の川を流し、遠くの柱の向こうで、風が誰かの名前のようにかすれた音を残していく。

  ――誰かが、いる。

  そう思わせるには十分なほどの“気配”が、確かにこの巨大な空間に満ちていた。

  少年は、遠ざかる気配を追うように、雨に当たらないように、ホームを歩きはじめた。水たまりを踏むたびに、小さな波紋が広がっては消えていく。

  駅舎の奥は思っていたよりもずっと広かった。ホームは幾つも枝分かれし、どれも闇と雨に溶けて、端が見えない。ガラス天井の向こうの空がどれほど暗くても、雨だけは途切れることなく落ち続け、その音が、駅全体を満たす大きな海の胎動のように響いた。

  少年は、ずっと誰もいなかったはずの場所で、それでも“誰かが自分より先にここを歩いた”気配だけを頼りに進む。

  時折、遠くの天井で雫が落ちる音が反響し、まるで巨大な獣が息をしているようにも聞こえた。だけど、不思議と怖くはなかった。あの光が、ずっと前を歩いて待っている気がしたからだ。

  どれくらい歩いたのだろう。時間も距離も、雨に溶けて曖昧になっていく。

  ふと、闇の向こうに——この廃駅には似つかわしくない“温かい色”が、

  ぽつりと揺れていた。

  橙色の、やわらかな灯り。

  少年は思わず息をのんだ。駅舎の天井から落ちる冷たい雫の光とは、まるで違う。ヒトの手が宿した、小さな火の明かり。

  灯りは、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。その周りだけ、雨音が遠のいたように静かだった。

  やがて、ぼんやりと影が浮かび上がる。逆光の中で揺れる毛並みは黒く、

  胸元には白い模様が、

  雨に滲んだ影の中でもはっきりと浮いて見えた。

  少年と同じくらいの背格好の、ボーダーコリーの男の子だった。

  ランタンの火が少し揺れ、少年の輪郭がようやくはっきりした。

  「やっと見つけた!」ボーダーコリーの子は、息を弾ませるように言った。

  「こんなところにいたんだね。雨、触ってないよね?」

  羊の子はこくりと頷いた。雨に触れないよう、ずっと柱の陰を縫うように歩いてきたのだ。そのせいで目の前の広い駅がどれほど広いのかも、どこまで来たのかもわからなくなっていた。

  「よかったぁ……この雨、危ないからさ。ぼく、向こうの改札の方に向かってたんだ。そっちはまだ屋根がしっかりしてて安全だって聞いたから。でも途中で変な音がして、誰かいると思って戻ったんだ」

  ボーダーコリーの子は、耳をぱたぱた揺らしながら笑った。その明るさは、広い駅の闇の中で小さな太陽みたいだった。

  羊の子は、彼の言葉を静かに聞きながら、胸の奥がすこしだけあたたまるのを感じていた。

  「きみは……どうしてこんなところに?」ボーダーコリーの子が首をかしげる。

  羊の子は、少し迷ってから小さく口を開いた。

  「……お母さんに、『先に行ってて』って言われて。気づいたら、ここにいて……それから、迷って…」

  「そっか。じゃあ一緒に行こう!」その返事はあまりに自然で、迷いがなかった。彼はランタンを少し持ち上げ、羊の子に向けてほっとするような光を照らした。

  「ぼく、リーフェ。きみは?」

  羊の子は、胸の奥が少しだけ締めつけられるような不思議な感覚を覚えた。名前を言えば、ようやく自分がここに“いる”と確かめられる気がした。

  だから──ほんの少しだけ息を吸って、静かに答えた。

  「……レヴァ、だよ」

  ランタンの火がふっと揺れ、[[rb:二疋 > ふたり]]の影が寄り添うように重なった。雨が降りしきる街で、ほんの小さな出会いが生まれた瞬間だった。

  差し出された手のひらは温かく、どこか雨の世界には似つかわしくないほど

  “生きている”手だった。

  ランタンの灯りは揺れながら、二疋の足元に淡い金の道をつくった。レヴァはその光から外れないように、

  そっとリーフェの横を歩く。

  二疋は改札へ向かいながら、壊れた売店や、止まったままの案内板の下をくぐっていく。遠くで雨が落ちる音は絶えず響いているのに、

  この小さな灯りの周りだけは、不思議なほど静かだった。

  「こっちの方、あんまり来たことなかったけど……ほんとに広いんだね、この駅」リーフェが軽く笑いながら言う。その声は軽やかで、暗闇をひとすじ裂いて進んでいくようだった。

  レヴァは小さく頷く。柱の影ばかり選んで歩いてきたせいで、どれだけの距離を進んできたのか、もう感覚が曖昧だった。床にはところどころ草花が生い茂り、レールは川のように雨水を運んでいる。どこまでも同じ景色が続き、まるでこの駅そのものが果てのない迷宮のようだった。

  やがて、天井の高い広間に出た。途端に、空気が変わる。

  ここだけ、まるで別の建物の中に入ったようだった。高くそびえるアーチ形の天井には古い装飾が残り、壁は雨のせいで落ちた塗料がかつての色をわずかに示している。吹き抜ける風が、長い時間の中で眠っていた塵をふわりと舞い上げた。

  レヴァは思わずリーフェの袖をつまんだ。

  「……ここ、すごく広い……」

  「だよね! ほら、見て」

  リーフェがランタンを少し掲げる。光が上へ上へと吸い込まれていくように照らし、やがてその先で、巨大な影がゆっくり姿を現した。

  それは、朽ちかけたオルガンだった。以前はきっと、この場所の心臓のように響いていたのだろう。今は鍵盤のいくつかが欠け、パイプは雨で錆び、ところどころ蔦が絡みついている。

  けれど、風が吹き抜けるたびに、

  パイプのどれかがわずかに鳴り、そのたびに背筋がふるりと震えるような音が広間に響いた。

  「……ひとりで歩いてたら、絶対こわかった」レヴァがつぶやくと、リーフェは胸を張って笑う。

  「大丈夫! ぼくが一緒だからね。ちゃんと安全なとこまで連れてくよ」その声は、この静まり返った空間の中で、いちばん生きた音だった。

  ふたりはしばらく、古いオルガンを見て立ち尽くした。天井の高みから微かな光が落ち、雨の降る外とはまるで別世界のように、この空間は深い息をひそめていた。

  レヴァとリーフェは、ゆっくりとオルガンに近づいた。近くで見ると、それは想像以上に大きく、そして壊れていた。鍵盤はところどころ沈み、パイプの一部は曲がり、踏み板も雨の湿気で歪んでいる。

  それでも、ただそこに静かに佇むその姿は、この広い駅のどこよりも“生きていた時間”の名残を感じさせた。

  「……あれ?」リーフェが譜面台の方を指さした。

  ランタンの灯りがそこにたどりつくと、埃に覆われた木の板の上に、ぽつんと紙の束が置かれていた。

  古びて黄ばんでいるのに、雨の跡はなく、最近誰かがそっと置いたようにも見える。表紙には消えかけた文字で、かろうじて曲名らしきものが読めた。

  《E…erl…ti…g …or spr…gs》

  「楽譜……?」レヴァが小さくつぶやく。

  レヴァは譜面台にそっと手を伸ばし、

  紙の端を指で押さえた。

  その文字を見つめると、

  どこか胸の奥が、懐かしいような、痛いような、

  そんな温度で締めつけられた。

  そっと手を伸ばし、ぺらりと表紙をめくった。紙は乾いていて、驚くほどきれいだった。五線譜には丁寧な手書きの音符が並び、ページの端だけがほんの少しだけ折れている。

  「置きっぱなし……にしては、変だよね」「うん……誰かが、残していったみたい」

  レヴァは譜面と、壊れたオルガンとを見比べる。ランタンの灯りが彼の瞳に反射して、迷いや不安、それでもどこか“やってみたい”気持ちが揺れていた。

  そして、ぽつりと零す。

  「……オルガン、直せるかな……」

  その言葉に応えるように、ふいに風がパイプを震わせる。

  レヴァは鍵盤にそっと触れた。

  きっともう音なんて──そう思っていたのに。

  ひとつの音が、澄んだ水のように広がった。

  それは古びた駅の巨大な空間すべてを満たすように響き、柱の影へ、崩れた壁へ、遠くの線路の奥へと染み込むように流れていく。

  長い間この場所を覆っていた静寂が、その一音だけでやさしく揺らぎ、眠っていた何かが目を覚ますみたいだった。

  リーフェは目を見開いてレヴァを見た。

  「……直ってる、の……?」レヴァ自身も驚いた顔で鍵盤を見つめる。

  音は止まらない。触れた指の下から、まるで“生きている音”がふたりの胸へゆっくり沁み込んでいく。

  朽ちた駅の闇を、その音色だけが明るく染め上げていった。

  レヴァはもう一度、別の鍵盤に触れてみる。しかし今度は——音が出ない。沈んだ鍵盤は重たく、押し込むほど冷たく沈黙を返すだけだった。

  「……ここは壊れてる」レヴァは、指をもう一つ隣へ。すると、またひとつ、透明な音がふわりと花弁のように舞った。

  壊れた鍵盤と、生き残った鍵盤が、まだら模様のように並んでいる。まるでこの駅そのもののように——朽ちた部分と、まだ息をしている部分が混ざり合っていた。

  レヴァが楽譜を持ち、眺めるとぼんやりと呟いた。

  「……これ、弾けるのかな。でも、ぼく……楽譜、読めなくて……」

  リーフェは一瞬きょとんとしたが、すぐに尻尾を揺らして笑った。

  「ぼくも読めないや!」へへ、と明るい声を出すと、彼はランタンを持ち直し、振り返った。

  「ねえ、コロニーにいる大人たちなら読めると思う!それに、直せる人もいるかもしれない!行こう、レヴァ!ここから出よ!」

  堂内に残った余韻がまだ天井の暗がりで光っているように感じる。レヴァは鍵盤を最後にひとつそっと撫で、小さく返事をした。

  「……うん」

  ランタンの灯がふたりの影を長く伸ばしながら、礼拝堂から廃駅の奥へ、そしてコロニーへと向かって揺れ動いた。

  その影の重なりは、駅舎の静かな暗闇の中で、確かに“これから”を灯していた。

  大広間の静けさを背にして、二疋は再び長い回廊へと戻った。レヴァが胸に大切そうに抱えた楽譜は、歩くたびにかすかに紙の端を揺らし、そのたびにほんの少しだけ、甘い匂いが漂った。

  「こっちだよ。ホームの方を抜けたら、コロニーへの通路があるんだ」リーフェはランタンを掲げながら振り返る。その灯りは、足元の水溜まりを金色に縁取り、二疋の影を長く伸ばしていった。

  戻るにつれ、さっき歩いてきた道がまるで別の世界のように思えた。壁にかかる古い案内板は錆びつき、矢印は読めないほど色を失っている。それでも、ランタンの火だけは迷わず二疋を照らしてくれた。

  やがて視界が急に開け、レヴァは「ここだ」と静かに気づく。最初にいた、雨に沈んだホーム。

  さっきよりも雨脚は強まっていて、線路に溜まった水はもうほとんど小川のようにゆるやかに流れていた。屋根のひび割れから落ちるしずくは白く弾け、触れられないはずの雨が、

  まるで存在を誇示するみたいに光を散らしている。

  「ね、見て……あそこ」リーフェが指さしたのは、駅の壁にぽっかりと開いた側道。暗くて狭いけれど、屋根は途切れていない、

  つまり、雨を避けて進める道。

  「この奥に、コロニーにつながる通路があるんだ。大人たちが『旧連絡区画』って呼んでる場所。ちょっと迷路みたいだけど……大丈夫、ぼくが案内するよ!」

  その言葉はいつものように明るくて力強く、レヴァの胸の不安をそっと押しのけるようだった。

  「……うん。お願い」レヴァは楽譜を抱き直し、リーフェの横に並ぶ。

  ランタンの灯りが揺れ、二疋の影が寄り添いながら側道へ消えていく。背後では、途絶えた線路の水面が小さくざわめき、まるで二人の歩みを静かに見送っているようだった。

  トンネルの中は、ホームよりもさらに深い闇に沈んでいた。レヴァの足元を照らすのは、リーフェが掲げるランタン一つだけ。その小さな光が、濡れた壁にゆらゆら揺れて、二疋の影を長く伸ばしていた。

  雨の匂いは遠ざかっているのに、しっとりとした空気がまだ肌にまとわりついてくる。レヴァは思わず息を呑み、そっとリーフェの服の裾をつまんだ。気づかれないように、

  でも離れないようにギュッと。

  リーフェは振り返らなかったが、歩幅をわずかにゆっくりにした。そのさりげない気遣いが、ランタンの灯りよりずっとあたたかかった。

  「もうすぐだよ。コロニーはこの先を抜けたところにあるんだ」リーフェの声は元気で、けれどどこか守ってくれるように柔らかい。

  しばらく進むと、ざあ、ざあ……と遠い雨の音が少しずつ戻ってきた。屋根の継ぎ目から落ちる雫が、ぽたぽたと一定のリズムで地面に弾けている。

  そして──暗闇の先に、ふっと別の“光”が滲んだ。

  最初は小さな粒のようだったそれが、歩くごとに徐々に増えていき、やがて灯籠のような暖かい明かりが連なっているのが見えてきた。黄色い光はランタンの炎とは違い、どこか“生活の匂い”がして、レヴァは胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。

  「見えてきた。あれがコロニーの入口だよ!」リーフェが尻尾をぱたぱた揺らしながら振り返る。

  灯りは、壊れた駅の闇には不釣り合いなほど優しく、そこに“ヒトが暮らしている”ことを静かに伝えていた。

  レヴァはそっと歩みを早めた。

  トンネルを抜けると、彼らを迎えたのは、薄い霧のように灯りが点々と散る不思議な景色だった。そこは“街”と呼ぶにはあまりに粗削りで、“廃墟”と呼ぶにはどこかあたたかかった。

  古い駅の機材庫をつなぎ合わせた家々は、鉄骨の骨組みをそのまま残し、割れたガラスを板や布で塞いでいる。けれど窓の向こうからは、煮込みの匂い、子どもたちの笑い声、修理用の工具音が漏れ、薄暗い空間に小さな命の色を灯していた。

  レヴァが足を踏み入れると、近くにいた何人かの大人や子どもが、そっと視線を向けてくる。“新しく来るヒト”がここでは珍しいのだろう。興味と驚きと、少しの警戒が入り混じったような気配が、ざわ……と小さく渦を巻いた。

  それでも、レヴァは周囲を見渡すのを止めなかった。「あの……お母さん……」その小さく漏れた言葉に、近くにいた獣々の視線がいっそう集まる。

  リーフェが心配そうに横に立ったその時、少し離れた場所から落ち着いた声が響いた。

  「リーフェ、連れてきたんだね」

  振り向くと、背の高いボーダーコリーの男性が歩いてくる。

  「あっ!おとーさん!」黒と白の毛並みは息子に似ているが、胸元に吊り下げた工具とランプが彼の“責任ある立場”を物語っていた。このコロニーのリーダー、ミカだった。

  ミカはレヴァの前にしゃがみ込み、目線を合わせる。その瞳には警戒よりも、まず“理解しよう”とする静かな光があった。

  「どこから来たんだい?」

  レヴァは小さく息をのみ、指先をぎゅっと握った。自分でも説明できない恐さと、でも伝えたい気持ちが胸の中で揺れる。そしてゆっくりと、言葉を吐き出した。

  「……わかんない。でも……大きい建物から歩いて来た……」

  ミカはほんの短い間、何かを考えるように目を伏せ、すぐに柔らかい声で言った。

  「なるほどな」

  そして立ち上がり、掌を軽く広げてみせる。

  「歓迎するよ、レヴァ。ようこそ、ここへ」

  その言葉は、不思議なほどまっすぐ胸に沁みた。ざわついていた周囲の空気も、ふっと和らいでゆく。

  レヴァはまだ心細いままだけれど、リーフェのそばに立つのがほんの少しだけ楽に感じられた。雨の外とはまるで違う、静かで温かい空気が、二疋のまわりに灯りのように広がっていた。

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