广告广告
  
§18-1 二人と一頭の夕食

  

  グレンside

  

  その日の夕食では二人の魔法談義に花が咲いた。

  きっかけは昼にライゼルが庭で魔法を使用した事だった。

  食事をしながらライゼルは嬉々として昼間にあったことを話している。

  その横顔は、陽の光を浴びた畑の若葉のように瑞々しい輝きを放っている。

  それをにこやかに眺めながら、執務室へ報告に来たタイクの様子を思い出した。

  「グレン様!!」

  「……何だ、騒々しいな」

  「どういうことがご説明を願います! 何です! ライゼル様のあの強大な魔力は!!」

  「ジェイドといいお前といい、騒ぎすぎではないか」

  息巻いて噛み付いてくるタイクに鼻で溜め息をつく。

  執事としての礼儀よりも、切羽詰まった焦燥が勝っているようだ。どうせ言うことはジェイドとさして変わらないのだろう。

  昼の騒ぎの後、ひとしきり喚き散らしたジェイドは疲れたのかソファに座ってタイクに哀れみの視線を向けている。

  「ジェイド! お前からも何か言ったらどうなんだ」

  「そいつは昼間に今のお前のように騒いだ。もう諦めたらしいぞ」

  「何だと!? 諦めるのが早いな」

  「……お前も王の話を聞けば分かる」

  小さな声で呟いてハハハ……と遠い目をするジェイド。解せない表情のタイク。仕方ないので俺から説明してやることにした。

  「いいか。俺はライゼルの魔法を戦場で見ているから驚かないだけだ」

  「……ん?」

  タイクの丸メガネが少しずり落ちる。彼の顔に刻まれたのは困惑の色だった。

  「昼間の魔法よりずっと規模の大きい広範囲魔法で敵を串刺しにしているのを見た。そこで、彼を伴侶として迎える決心が固まったのだ」

  「どういう流れで!? 相変わらずうちの王は感性が独特だ!!」

  大声で叫んで頭を抱えてしゃがみ込んだタイクから視線を外す。今のはギリギリ悪口だろう。

  「……それを家臣に伝えず事を進めるとは」

  「言っておくが、兵には口止めしていないぞ。気にするのはお前とジェイドくらいのものだろう」

  「ライゼル様が貴方を屠らんとしてこの国にやって来ていたらどうするのです!?」

  タイクの一言で急に部屋の体感温度が下がった。グレンの双眸が鋭く細められ、室内に重厚な威圧が満ちる。

  ビリビリと突き刺さる威圧にタイクの喉がごくりと鳴る。これぞ、王の威厳。

  

  「……俺の見る目を疑っているのか?」

  「そ、んなことは……しかし万が一ということも!」

  「フッ……もし首を取られるようならばそこまでの実力だっただけのこと。王の資格はないとして新王を選ぶのが得策だろうな」

  「縁起でもないことをおっしゃらないでくださいませ!!」

  「……タイク、今日一日ライゼルと共に過ごしてみて、少しでも敵意を感じたか?」

  「それは……感じませんでしたが……」

  「そうだろう。我々獣人族は勘が鋭く、相手の感情を嗅ぎ分けるのが得意だ。俺もそれなりに修羅場を潜ってきた自負があるが、ライゼルからは悪意を微塵も感じなかった」

  グレンのきっぱりとした言葉にタイクは黙るしかなかった。

  二人のやりとりを見ていたジェイドは、グレンの威圧に耐え、言い返せるタイクはやはり流石だと内心思っていた。

  「お前をライゼルにつけたのは彼を守るためだ。肝に命じておけ」

  「……御意」

  王の前から下がったタイクは全てを諦めたような表情で夕食の準備へと向かった。

  そして時は現在に戻り、夕食後のお茶を二人で待っているところだ。

  「ゼフィロスの大地にご挨拶と、魔法を使う許可をいただいたので、明日から本格的に種まきをしていこうと思います」

  「楽しみだな」

  「そして……もしお許しいただけるのであれば、ゆくゆくはゼフィロスの農家にも種や苗を分けていきたいと思っています」

  「我が国としてはありがたい話だが、そのように貴重な技術や魔法をおいそれと他国に渡してしまって良いのか?」

  実は少し前から懸念していたことであった。

  ライゼルが何も考えずに行動しているとは思わないが、側から見ると無邪気に周りを巻き込んで農業を広めることを楽しんでいるように見えるのだ。母国の利益などを考えると慎重になる場面だろう。

  「あぁ! ご心配には及びません。兄たちからは許可をもらっています。判断は私に一任するとのことで」

  「寛大な兄君たちだな」

  「もしスフェーンが災害などで作物が不作の時には、ゼフィロスから少し安い値段で輸入させてくれれば良いとか何とか」

  「……ハハッ、そして抜け目ないな。委細承知した。詳しい貿易の取り決めに入れさせよう」

  「ありがとうございます」

  ライゼルが朗らかに笑ったところで、係が食後のデザートを運んでくる。

  ライゼルが甘味好きであることは先日のパーティーで聞き耳を立てていた料理人たちの耳に入り、こうして食後用意されるようになった。

  俺は出されたものは全て食べる主義なのだが、せっかく手の込んだ甘味を作っても反応がつまらないと言われ、これまで出されることはほとんどなかった。

  「わぁ……! すごく綺麗ですね!」

  「本日のデザートは果実を絞ったジュースを冷やして固めたジュレと、その下にカスタードクリームのムースがあります。ぜひ二層合わせてご賞味ください」

  なるほど料理人たちが気に入る反応とはこういうことか、とライゼルの笑顔に得心がいく。

  よく見ると料理長がわざわざ部屋に来てライゼルの反応を見て喜んでいる。

  ライゼルの無邪気な喜びが、周囲をあっという間に魅了していく様子を間近で見られるのは役得だな。

  

  穏やかな雰囲気の中、突如後頭部を平手で引っ叩かれたような衝撃が走る。

  さすがというべきか、ライゼルも俺の様子の変化と新たな気配を感じ咄嗟に腰を浮かせて傍に置いていた剣に手をかける。

  その動きは迷いがなく、即座に戦闘態勢に入っている。

  「グレン様!?」

  「……大丈夫だ」

  魔力まで使おうとするライゼルを制し、赤い光に包まれて姿を現した気配を見やる。

  ボウッと赤が濃くなると、小さな龍が姿を見せた。

  「俺ちゃん、久々の登場だぞ~っ! グレン! 達者でおったかの? さてそこの甘味を寄越すのだ!」

  「……サノメ。自分から召喚されると城の者が驚くから辞めてくれと言ったはずだが」

  「む。何だ、だから小さい姿で来てやったではないか」

  「気配と魔力が変わっていないから意味がないだろう」

  ライゼルはそんな二人(一人と一頭?)をポカーンと口を開けて見る他無かった。

  

  

广告广告