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§24 衣装リハーサル

  

  結婚式まで残すは一月半ほど。今日は衣装の試着をする予定だ。

  採寸をしてくれたデザイナーが完成目前の衣装を持って来てくれたので順番に試着し、その中から採用された衣装を完成させるらしい。

  「着る順番はどれからかな?」

  「こちらのお衣装からお願いいたしますわぁ!」

  「はぁい」

  「ちょっっっと待てライゼル。ここで着替えようとするな」

  「え?」

  よいしょ、とシャツのボタンに手をかけたら、グレンにがしっと掴まれ止められた。

  骨張った指が力強く、しかし肌を傷つけない絶妙な加減で手首を掴む。

  なんでダメなの?と目で問い返す俺に、グレンが額を手で押さえ頭が痛そうな表情をする。

  「ライゼル様。意外とグレン様は嫉妬深いですので」

  「ミレイ、注意の方向性が違う」

  「ごめん、グレン。あっちの部屋で着替えてくるね」

  俺はミレイからの指摘を受け、体を小さくする。じわりと首筋に熱が集まるのを感じる。

  そんなつもりはなかったと弁明したい気持ちがあるが、自覚の足りない俺が悪いのは明らかなので黙って着替えることにする。

  両腕からこぼれ落ちそうな量の衣装を持ち別室に移動し、一番に指定されたものを着る。

  真新しい布地が擦れる音と、仕立てに使われた糊の微かな匂いが鼻をかすめる。

  いかにも結婚式と言う感じの白タキシードだが、それぞれ微妙に白の種類が違うようだ。

  

  ひとつ目は黄味がかった白色。

  肌に触れる裏地の滑らかさが、特別な日のための衣服なのだと実感させた。

  パンツの外側に真っ白な縦ラインが一本走っている。ジャケットの背中には大きな花が白糸で刺繍されていて珍しい。ジャケットの襟はパンツのラインと同じ真っ白になっており、ネクタイは光沢のある銀色だ。

  執務室に戻るとグレンは先に着替え終えて待っていたようだ。

  濃い紫色のタキシード。

  思わず息を呑んだ。普段の機能的な装いとは違う、艶やかな色香が彼の全身から立ち上っている。

  ジャケットは光沢がある生地で、金色の刺繍が肩口に施されている。

  「わぁ……グレン、かっこいい」

  「そうか? ライゼルもよく似合っている」

  「ふふ、ありがとう」

  さてデザイナーとミレイの意見は、と二人を見ると、胸元を押さえてしゃがみ込んでいる。

  「二人とも大丈夫!? どこか体調が悪いなら医者を」

  「いえっ、大丈夫です……ちょっとお二人が素敵すぎて胸が痛いだけですわ」

  「ええライゼル様、お気になさらず」

  やっと立ち上がった二人がまじまじと俺たちが並んだ姿を見て頷く。

  二着目を着てきてくださいと言われたので一度退出する。あの二人大丈夫かな。

  

  二着目は遠目では分からないが近くで見ると薄いブルーにも見える白だ。

  とても清潔感のあるタキシードで、シャツは胸元で大きなリボンを作る仕様のもの。

  執務室に戻るとまたしてもグレンの方が先に戻っていた。グレンは着替えるのが早いなぁ。

  「着替えるの早いね」

  「大して変わらん。それもシンプルだがいいな」

  「グレンは薄色の衣装はないのか?」

  「俺は淡い色が壊滅的に似合わないんだ」

  「そう? そんなこともないと思うけど」

  グレンの二着目は濃紺のタキシード。

  先ほどとは丈の長さとデザインが違い、長身が生かされている。動きに合わせて裾が靡く。

  グレンの視線が、値踏みするように俺の全身をゆっくりと往復する。なんだかこそばいな。

  「お二人ともありがとうございます。次をお願いします」

  「これはイマイチだった?」

  「いえ、お似合いなのは試着する前から分かっていて、あとは僅差の戦いなのです」

  「そ、そうなんだ」

  デザイナーとミレイの気迫がすごい。二人ともデザイン画にああでもないこうでもないと感想を書き殴っている。

  

  俺は大人しく三着目に着替える。

  今度は先ほどグレンが着ていたような裾が長いデザインだ。グレンほどの長さはないが。

  全体の色は白だが、パンツとジャケットの裾がそれぞれ紫がかったピンクに染められていて、グラデーションになっている。それ以外は全て真っ白で統一されている。

  執務室に戻ると、俺の姿を見たグレンが固まった。

  ぴたり、と彼の動きだけでなく、部屋の空気そのものが凍りついたかのようだった。彼の空色の瞳が甘く揺らめいた。

  「グレン?」

  「……二人とも、決まったか?」

  「ええ」

  「はい」

  「これだな?」

  グレンの問いかけに大して二人は首がもげそうな程激しく首を縦に振る。

  「こっちへ来てくれ」

  「うん」

  グレンに手招きをされ、間近まで近づく。グレンが着ている三着目は黒のタキシードだ。裾の長さはそこまでではないが、逞しさが黒で引き立っている。

  

  差し出された手を取りデザイナーとミレイを見ると、二人が拍手喝采で目に涙をたたえている。

  「素晴らしいです!!」

  「まさに“花守の騎士”に相応しいお衣装です」

  「なんか恥ずかしいな……」

  「よく似合っているから気にするな。……二人とも、少しいいか」

  グレンは二人が持っている資料を指差し、何やら新しい提案をしている。

  真剣な横顔で、ここを変更すると回った時に花が開くようなデザインになるのではないか、髪飾りは絶対にこっち、マントはこっち、と付属品にまで指示を出している。

  グレンからの提案に二人はすべて頷いている。

  

  俺の衣装に注目しているが、グレンの衣装はどれに決めるのだろう。

  正直俺はどれもよく似合っているなと思ったので決められないのだが。

  「グレンはどれにするの?」

  「これにする予定だ」

  そう言って今着ている黒のタキシードを示す。

  「黒かっこいいからいいな。けど、他のふたつも似合っていたから何かの機会に着てほしいんだけど」

  「あぁ、結婚式も前後で着替えるタイミングがあるからそのつもりだ」

  「やった」

  あとは細々とした装飾を決めるだけとのことで、試着は終わった。

  いつも身につける服より重量があったので少し肩が凝った。腕を天に伸ばした後、首を左右に倒すとパキッと筋が鳴った。

  無性に体が動かしたくなったが、他にも準備がたくさんあるのでそうも言っていられない。

  「ふふ、少しお疲れですか?」

  「ううん、そこまでじゃないよ」

  「本日はここまでにして、少しお二人で身体を動かしてきては?」

  「グレンもいいの?」

  「ジェイド兄様に本日の分の執務は完了していると確認しましたので、問題ないかと」

  「そうか、では言われた通り少し鈍った身体を動かすとしよう。ライゼル、騎士団のところへ行ってみるか?」

  「是非とも!」

  ゼフィロスに来てから騎士団に顔を出したのは片手で数えるほどしかない。それに一緒に訓練をするのではなく見学だけだった。

  今日のグレンの口ぶりからすると、訓練にも参加させてもらえそうだ。思わず浮き足立つ。

  途端に先ほどまでの疲労感が嘘のように霧散していく。血が騒ぐ、という感覚を久しぶりに思い出した。

  

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