广告
朝の下駄箱を開けた瞬間、甘ったるい匂いがどっと溢れて、俺は思わず顔をしかめた。
まただ。
茶色い包み。
銀紙。
リボン。
小さなメモまでついている。
――たべて。ぜんぶ。
――今日も効くから。
効く、ってなんだよ。
悠真は手を突っ込んで、中身をまとめて掴み出した。板チョコ。生チョコ。ナッツ入り。プロテインバーみたいな見た目のやつまである。朝からずっしり重い。これでもう、今週だけで何個目か分からない。
「おはよっ」
背後から弾んだ声がして、俺は振り向いた。
すぐ目の前に、相良がいた。短い髪がまだ少し湿っていて、たぶん朝練のあとだ。犬みたいにまっすぐな目で、悠真の手元を見ていた。
「見つけた?」
「見つけた、じゃないだろ。多すぎ」
「えへへ」
相良は笑った。ほんとに、嬉しそうに。
叱られている自覚があるのかないのか、そのへんが怪しい笑い方だった。
俺はチョコの山を持ったまま、廊下の端に寄った。
「おまえさ。なんで毎日くれるわけ」
「だって効いてるし」
「だから、その『効く』ってなんなんだよ」
「チョコって、そういう成分あるんだろ」
相良は当然みたいな顔で言った。俺は数秒、黙った。
「そういうって」
「好きになるやつ」
「……は?」
「ほら。カカオにそういうの入ってるって、動画で見た。どきどきして、相手のこと考えちゃって、好きになるやつ。だから毎日ちょっとずつ効かせたら、悠真、絶対おれのこと好きになるなって」
相良は真顔だった。
本気だ。
その目で分かる。
あほだ。
びっくりするほど、あほ。
でも、かわいい。
俺はチョコの山を抱えたまま、つい笑った。
「おまえ、それで俺が好きになると思ったのか」
「うん」
「毎日」
「うん」
「それでこんな量」
「早く効いたほうがいいかなって」
言い切る。迷いがない。
そのくせ、次の瞬間には不安そうに眉を下げた。
「……まだ、効いてない?」
…………むっ、
好きになってほしくて、毎日まじめにチョコを入れてたんだろう。律儀に、種類まで変えて。たぶん相良なりに調べて。
俺はもともと、相良のことが嫌いじゃない。かなり好きだ。
小さくて筋肉のつき方がえげつない体も。
懐き方も。
汗くさいのに、なぜか清潔な感じがするところも。
「効いてるよ」
言うと相良の目が、ぱっと開いた。
「……ほんとに?」
「うん。かなり」
言いながら、俺はあえて一歩近づいた。
相良の肩がびくっと揺れる。
犬みたいだ、やっぱり。
懐いてるくせに、急に手を伸ばされると緊張する顔をする。
「おれのこと、好き?」
「好き」
「どのくらい」
「チョコ毎日食わされても笑えるくらい」
そこで相良は、耳まで真っ赤になった。
分かりやすい。
嬉しくて、でも信じきれなくて、頭が追いついてない顔だ。
たぶんこいつは、今日もまた様子を見るつもりだったんだろう。
まだ効いてないかな、とか。
もう少しかな、とか。
あほみたいにまっすぐに。
俺は抱えていたチョコの山を相良の胸に押しつけた。
空いた手で相良の頬をつまむ。
「じゃあ放課後。話ある」
「え」
「逃げるなよ」
「逃げない」
「ほんとか」
「うん。絶対」
その声が弾んでいて、俺はまた笑う。
[newpage]
一時間目から、落ち着かなかった。たぶん糖分のせい。
朝から板チョコ半分食った。相良が机の中にこっそり追加していた生チョコも食った。
甘い。
甘すぎる。
体が熱い。
授業中、相良が何度か振り向きそうになるのを堪えているのが分かった。
背中で分かる。
意識してる。
昼休み、購買の前で捕まった。
「悠真」
「ん」
「これも」
「まだあるのかよ」
差し出されたのは小箱だった。
手作りっぽい。
雑に結ばれた紺のリボン。でも箱はちゃんとしてる。
中を開けると、一口サイズの丸いやつが並んでいた。
表面が少し白く粉を吹いている。
たぶんトリュフ。
「昨夜作った」
「おまえが?」
「母さんにちょっとだけ手伝ってもらった」
「ちょっとだけ、って顔してないな」
「けっこう手伝ってもらった」
相良は箱を持つ俺の手ごと、そっと押した。
「これ、一番効くやつ」
「なんで」
「中に、なんか、そういうの混ぜるといいって」
「そういうのって」
「……刺激になる粉」
そこでようやく、俺はこいつの「効く」がただの思い込みだけじゃないと気づいた。
体が熱い。腹の底がむずつく。視線が相良の唇や首筋に吸われる。
甘い匂いの奥に、汗の塩っぽい匂いが混じってくると、舌が疼く。
「おまえ、それ何入れた?」
「合法のやつ」
「安心できねえ言い方だな」
「ネットで調べた。カカオと相性いいって」
「何」
「マカ、とか。唐辛子、ちょっと。あと……えっと」
「もういい」
箱を閉じる。
完全に馬鹿だ。
でも悪気はゼロだ。
好きになってほしくて、検索して、材料買って、夜に台所で丸めたんだろう。
そう考えると、愛しい。
糖と香辛料と、期待と暗示。
その全部で、頭が少しふわつく。
相良もたぶん、同じものを味見してる。
やけに目が潤んでいる。
呼吸も浅い。
「放課後まで我慢できる?」
俺が低く言うと、相良は固まった。
耳が赤い。
視線が一瞬、俺の股間に落ちる。
すぐ戻る。
でも見たのは分かった。
「……がまん、する」
「いい子」
「っ、う」
その短い呻きだけで、今日、帰すのは無理だと思った。
[newpage]
放課後。
部活に行く生徒の流れと逆に、俺たちは旧校舎の階段を上がった。
使われてない視聴覚準備室。
鍵は壊れていて、引けば開く。
知ってるやつは少ない。
薄暗い。カーテンの隙間から、斜めの光。埃っぽい匂い。機材の古いプラスチック臭。
ドアを閉めた瞬間、相良がこっちを見た。
期待と不安が半々。
たぶん、告白の返事を改めて聞く場だと思ってる。
ある意味、そうだ。
「相良」
「うん」
「キスしていい?」
「え」
返事を待つ前に、肩を掴んで引き寄せた。
ぶつかるみたいに唇を重ねる。
相良が息を呑む。
柔らかい。
少し乾いてる。
でも数秒で熱を持って、すぐ湿る。
「ん、……っ」
「口、開けろ」
ほんとに従順だ。
唇を割って舌を差し込むと、相良の喉がひくっと鳴った。
甘い。さっきのチョコの味。奥に、昼のパンとミルクの匂い。
舌先で上顎をなぞる。
歯列を押す。
逃げる舌を絡め取って、ねっとり吸う。
唾液が一気に増える。
ちゅ、じゅる、ぬる、と音が静かな部屋に響く。
息継ぎさせずに深く貪ると、相良の指が俺のシャツを掴んだ。
「ぁ、んぐ、っ……は、ぁ」
「可愛い声出すな」
「だ、って……っ、悠真、きす、すご」
また塞ぐ。
今度は角度を変えて、もっと深く。
顎を支えて逃がさない。
舌を絡めて、唾液ごと飲ませる。
相良も必死に返してくる。
下手だ。
でもまっすぐだ。
吸われれば吸い返す。
舐められれば追いかける。
好きなやつにどうにか応えたい、って感じが舌に出る。
口を離すと、銀糸みたいに唾液が伸びた。
相良がはぁ、はぁって肩で息をする。
胸板が上下する。
ブレザーの前が少し張る。
中も、もう立ってるんだろう。
「効いてる?」
俺が聞く。
相良はぼんやりした目でうなずいた。
胸の奥がじわっと熱くなる。
単純だな、俺も。
「じゃあ付き合おうか」
「……え」
「だから。俺と、付き合えよ」
言い終わる前に、相良の目が潤んだ。
「……いいの」
「よくない理由ある?」
「おれ、毎日チョコ入れてたし」
「知ってる」
「ちょっと変だし」
「かなり変」
「っ、じゃあ」
「それでも好き」
次の瞬間、こいつのほうからぶつかってきた。
胸に額を押しつけてくる。
硬い。小さいくせに、詰まった筋肉の塊だ。
抱きとめると、体温が高い。
ブレザー越しでも熱が分かる。
「悠真、すき……っ」
「うん」
「ずっと、好きだった」
「知ってた」
「知られてた……」
「丸わかり」
腕の中で、相良がへにゃっと笑う。
たぶん、今日までずっと半信半疑だった。
チョコを渡して、効いたか確認して。
効いてると信じたくて。
でも怖くて。
こいつのそういう一直線さが、俺にはもう可愛くて仕方ない。
だから、もう一回キスした。
今度はもっと深く。
告白の返事代わりじゃない。
恋人になった証拠みたいに、容赦なく。
舌を差し込む。
相良がすぐ口を開く。全身で懐いてくる。
ちゅ、じゅる、ぬるっ。
唾液の音が濃い。
舌を絡めるたび、相良の膝がかすかに揺れる。
腰に手を回すと、びくっとした。
敏感な場所になってる。
耳まで真っ赤だ。
分かりやすい。
たぶん今、何しても喜ぶ。
恋人って言葉だけで頭がいっぱいになってる。糖分と香辛料で体も浮ついてる。
俺は相良を古い机の端に押しつけた。
ごとっと音が鳴る。
びくん、と相良が跳ねる。
「こわい?」
「……ちょっと」
「やめる?」
「やめない」
「何したい」
「悠真と、いっぱいしたい……」
最後、消えそうな声だった。
それでもちゃんと聞こえた。
欲しいって言ってる。
俺を。
それだけで、下半身がずしっと熱を持つ。
ズボンの前を軽く撫でると、相良が「あっ」と小さく喘いだ。
もう硬い。
でも俺も同じだ。
朝からチョコを食わされて、こいつばっか見てた。
我慢の限界はとっくに過ぎてる。
「脱げる?」
「う、ん」
「手、震えてるぞ」
「緊張してるから……」
シャツのボタンを外そうとする指がもたつく。
焦ってる。
早く触ってほしいんだろう。
でもうまくいかない。
俺はその手をどけて、代わりに外した。
ひとつずつ。
白いシャツが開くたび、日焼けした皮膚が見える。
鎖骨。
分厚い胸。
部活で鍛えた丸い肩。
小柄でも、上半身はちゃんと雄だ。
乳首はもう少し硬くなってる。
たぶん寒さじゃない。
「すげえ身体」
「悠真のほうが、すごい……」
「比べてない」
「でも、好き」
「俺も」
シャツを剥ぐ。
汗の匂いが一気に立つ。
濃い。
塩っぽい。
若い雄の匂いだ。
制汗剤じゃ消えない、生身の熱の臭気。
俺はそれを吸い込んで、頭がくらっとした。
興奮する。
本能で来る。
首筋に鼻を埋める。
くん、と嗅ぐと、相良がぞくっと身をよじった。
「ぁっ、な、なに」
「匂い、好き」
「っ……はず、かし」
「いい匂いしてる」
「汗、くさいだけ」
「それがいい」
言うと、相良の太い首が赤く染まる。
首を舐める。
塩辛い。
汗の膜を舌で掬うと、相良が「んぐぅ……」って潰れた声を漏らした。
耳たぶを噛む。
乳首を指でつまむ。
胸筋がぴくぴく動く。
「ここ感じる?」
「わか、な……っ、あぁ♡」
「分かったじゃん」
「今のは、反則……」
面白い。いかつい胸してるのに、反応は素直だ。
乳首を擦るたび、腹筋が硬く縮む。
へそ下までしっかり割れてる。
それなのに顔は泣きそうに甘い。
俺は自分のシャツも脱いだ。
相良の視線が胸に吸いつく。
腹筋。
腕。
肩。
露骨に見てる。
憧れと欲情が混ざった目だ。
「触る?」
「……いいの」
「恋人だろ」
「っ、うん」
恐る恐る、でも大事そうに俺の胸を撫でてくる。
手のひらが熱い。
指先が少し汗ばんでる。
筋肉の輪郭を確かめるように、ゆっくり触る。
「悠真、かっこいい……」
「今さら」
「ずっと思ってた」
「じゃあ、いっぱい見ろ」
そう言って、ベルトを外した。
金具の音に、相良の喉が鳴る。
視線が落ちる。
期待してる。
ズボンを下ろす。
下着越しでも分かるくらい、俺のモノは張ってる。
相良が息を止めた。
自分の股間も、ぴくっと反応したのが見える。
「見せて」
「お、おれも?」
「当然」
制服のズボンを引き下ろす。
下着の前がきつく盛り上がってる。
小柄だけど、そこも筋肉みたいに主張が強い。
手で押さえて隠そうとするのを、手首掴んで止めた。
「隠すな」
「だって、恥ずい」
「可愛いから見せろ」
「っ、あ……」
下着ごと擦る。
ぬるっと先走りが滲んでる。
もうこんなだ。
触ってほしいんだ。
下着を下ろすと、弾かれたみたいに肉棒が跳ねた。
太い。
思ったよりずっとしっかりしてる。
低身長に似合わず、雄っぽい作りだ。
裏筋もくっきりして、先端が赤く濡れてる。
「……でか」
「や、見るな……っ」
「無理」
「ぅ、ぅう……」
泣きそうな声。
でも、見られて興奮してる。
先端を指で撫でると、びくんっと腹が跳ねた。
「敏感」
「さわ、るなって……あっ♡」
最後まで言えずに、肩で息をする。
俺は亀頭の割れ目を指先でなぞった。
先走りを掬って、腹に塗る。
てらっと光る。
いやらしい。
「ぁ、ぁあっ……」
「綺麗」
「言わないで……」
「なんで」
「余計、やば、っ……」
俺は自分の下着もずらした。
肉棒が解放されて、相良の目が大きくなる。
視線が釘付けだ。
ごくり、と唾を飲む音が聞こえた気がした。
「触ってみる?」
「……うん」
「両手で」
「お、おれ、下手」
「それでもいい」
握らせる。
相良の手は小さいけど、筋肉質で掌圧がある。
熱い手の中で、俺のモノが脈打つ。
上下に動かそうとして、ぎこちなく止まる。
かわいい。
手コキすら必死だ。
「もっと力抜け」
「こう?」
「ん、いい」
手本みたいに腰を少し振る。
その動きに合わせて、相良がしごく。
じゅる、と先走りが広がる。
俺は相良をしゃがませた。
膝が床につく。
目の高さに俺の肉棒。
相良が頬を赤くしたまま見上げてくる。
「舐められる?」
「……やる」
「無理なら言え」
「無理じゃない」
言葉は強い。
でも唇が震えてる。
さすがにこれは緊張も興奮も桁違いなんだろう。
先端を唇に押し当てる。
ちゅ、と軽く吸う音。
その瞬間、俺の背筋がぞくっとした。
「はぁ……」
「ん……」
相良は恐る恐る舐める。
裏、横、先端。
味を確かめるみたいに、丁寧に。
先走りを舌で掬うたび、目を細める。
たぶんこれは俺の味を飲みたくて仕方ない顔だ。
「もっと口開けろ」
「ん、ぅ」
ぐっと頭を押さえる。
亀頭が口内に入る。
熱い。
唾液がねっとり絡む。
相良はむせそうになりながらも、頑張って飲み込む。
喉が動く。
その健気さに、腹の底がじわっと痺れた。
「いい子」
「んぐ、ぅ……♡」
「ちゃんと舐めてる」
「ゆ、まの……ちん、ぽ……」
言葉にしただけで、相良の耳が赤くなる。
卑猥な語彙にまだ慣れてない。
でも俺に合わせようとしてる。
そういうところも、いちいち可愛い。
少しだけ口を使わせたあと、引き上げた。
今度は俺がしゃがむ番だ。
相良の太ももを掴んで開かせる。
「ひゃ、っ」
「こっちも舐める」
「え、そこ!?」
答えずに、内腿から舌を這わせた。
汗ばんだ皮膚。
筋肉の張り。
ぴくぴく震えてる。
膝の裏まで舐めていくと、相良が腰を逃がす。
でも机にぶつかって逃げきれない。
玉を口に含む。
「ぁあっ♡」と高い声が出た。
濃い。
若い雄の匂い。
袋の裏まで舌で転がすと、肉棒がびくびく跳ねる。
根元を握って、竿をゆっくり舐め上げる。
先端にたまった汁を吸う。
相良の腹筋がぎゅっと縮む。
手は机の端を掴んで白くなってる。
耐えてる。
でももう無理だろうなと思う。
「おれ、もう……っ」
「イく?」
「だめ、まだ、っ……ゆう、」
最後まで言わせず、先端を深く吸い上げる。
相良の腰が跳ねた。
「っあ、ぁ、むり……っ」
「いい。出せ」
竿を握る手を速めて、口の中で亀頭を転がす。裏筋を舌でなぞるたび、相良の太腿がびくびく震える。腹筋は硬く張って、呼吸はもう滅茶苦茶だ。見上げると、泣きそうなくらい潤んだ目で俺を見下ろしている。
「悠真、っ、すき……だいす、き……っ」
「うん。分かったから、イけ」
その瞬間、相良が声にならない声を漏らして果てた。
熱いのがどくどく舌に当たる。白濁が喉の奥に流れ込んで、甘ったるいチョコの残り香と混ざる。どうしようもなく興奮する。全部飲み込むと、相良は膝から崩れそうになって、俺は慌てて腰を支えた。
「は、ぁ……っ、ぁ……」
「大丈夫か」
「やば……ほんと、やばい……」
顔がぐずぐずだ。赤くて、汗で濡れて、でも嬉しそうで、見ているだけで胸が詰まる。
俺は立ち上がって、相良を机にもたれさせたまま、自分のを握る。もう限界だった。相良はぼんやりした顔でそれを見て、すぐにまた熱を帯びた目になる。
「見てろ」
「……うん」
さっき口に入っていた熱がまだ残ってる気がして、二、三度しごくだけで腰が痺れる。相良の視線がまとわりつく。
「悠真、かっこい……」
「っ、おまえ、それ今言うな」
笑い混じりに言ったのに、すぐ息が詰まる。腹の奥が強く縮んで、そのまま出た。白が腹に跳ねて、指の間を汚す。どろりと熱い。相良が小さく息を呑む音がした。
しばらく、そのまま二人で荒い息を整える。
古い部屋は静かで、遠くで運動部の掛け声だけが聞こえていた。西日が少し赤くなって、埃がきらきらして見える。
相良がそっと俺の腹に触れた。
出した跡を指先でなぞって、少し恥ずかしそうに笑う。
「……ほんとに、効いたんだ」
「まだ言うか、それ」
言うと、相良はへへ、と力なく笑った。
その顔が可愛くて、俺は適当に脱ぎ散らかしたシャツで腹を拭いてから、相良の口元も拭ってやる。おとなしくされるがままになってるのが、もう完全に懐いた犬みたいだった。
服を着直す。
ボタンを留める相良の指はまだ少し震えていて、俺が途中から手伝った。
「明日も入れる?」
「何を」
「下駄箱」
「量減らせ」
「じゃあ、一日一個」
「多い」
「半分?」
「刻むな」
相良が声を殺して笑う。
俺もつられて笑う。
着替え終わるころには、さっきまでの熱も少し落ち着いていた。けど、相良の頬はまだ赤いし、目元もとろい。こんな顔で廊下を歩かせるの、だいぶ危ないなと思う。
ドアに手をかけたところで、袖を引かれた。
振り向くと、相良が少しだけ不安そうに俺を見ている。
「……ほんとに、付き合ってる?」
「今さら確認すんな」
「夢みたいで」
「夢じゃない」
俺はその額を軽く小突いてから、今度は優しくキスした。短く、確かめるだけのやつ。
「これで分かったか」
「……うん」
ぱっと笑う。
その笑顔を見た瞬間、ああ、もう駄目だなと思う。
たぶん俺はこれから先、相良に何個チョコを詰め込まれても、結局甘やかす。
旧校舎を出ると、外はもう夕方だった。
グラウンドの土の匂い。オレンジ色の光。部活帰りの生徒たちの声。いつもの放課後なのに、隣にいる相良の肩が時々ぶつかるだけで、全部違って見える。
「次からは、ちゃんと俺にも選ばせろ」
「一緒に買う?」
「それもあり」
相良の顔がまた嬉しそうにほどける。
そんな顔されると、こっちまで甘くなる。
校門を出て、並んで歩く。
夕焼けの中で、相良がそっと俺の小指に自分の指を引っかけてきた。
俺はそのまま握り返す。
「悠真」
「ん?」
「明日も好きって言って」
「何回でも言う」
「……じゃあ、おれも毎日言う」
相良は照れくさそうに笑って、それでもまっすぐ前を向いた。
その横顔が、夕日に染まってやけに綺麗に見える。
俺は繋いだ手に少しだけ力を込める。
チョコなんかなくても、こいつは最初から、俺に効きすぎてた。
广告