「んー……これじゃあ終わらんなぁ」
デスクに座ったまま、大きく伸びをする。目の前には山積みになった報告書。それら全てに目を通し、内容をまとめて書類と資料の作成をしなければならない。
ため息を吐く。オフィスチェアに沈むくらい思い切り腰を掛け直し、デスクのパソコンに目をやる。いつの間にかスリープモードに入ったモニターには、くたびれた顔の虎獣人が映っていた。
自身の顔を見て、彼は自嘲気味に苦笑する。疲れ目になっており、目つきが悪い。肩幅の広い堂々とした体つきと相まって、ガラの悪い印象だ。デスクワークとはいえ、表情を引き締める。
溜まった仕事を誰かに頼みたいが、生憎そうはいかない。オフィスは彼のデスクを除き消灯しており、皆帰宅している。彼はそう思っていた。
「島地係長、お疲れみたいですね」
不意に名前を呼ばれ、虎の大男――島地大介は驚きつつもそちらに振り向く。そこには同じオフィスで働く、コリー種の女子社員の姿があった。
「佐伯君も残業かい?」
「いいえ」
否定すると、彼女は大介に歩み寄って腰を曲げて視線を合わせてくる。アンダーリムのメガネが似合う、若い女性。
今年入ったばかりの新入社員の彼女は、大介と十以上も歳が離れている。身だしなみに気を付けているためか、ブランド物の芳しい香水の匂いがしていた。黒と白のハチワレの毛皮も艶やかで、長いまつ毛も整っている。
「妻と子供がいると、休日出勤は避けたいからね。君は……用がないなら帰っていいんだぞ」
「お手伝い、しようと思って」
「それは嬉しいが……若い子にやらせるわけにはいかん」
この場には大介と彼女だけ。流石に男女二人っきりでの残業を許可するわけにはいかなかった。むしろ、そんな申し出をする佐伯に大介は疑問の目を向けていた。にこやかに微笑む彼女。しかし、自然と大介の視線は下がっていた。
中腰で立つ彼女は、胸を強調させている。女子の制服がきつめの作りのため、彼女はよく男性社員の目を集めていた。その男たちの中に、大介も存在している。
しかし、その大胆とも言えるアプローチに、大介はどうにも違和感が拭えない。彼女は女子の同期と連れ立って行動することはなく、課の中でも影が薄い。艶のある毛皮や細いマズル、またその身体も魅力的であるが、物静かな性格からか大介も仕事以外で会話することがない。
にもかかわらず、今日の彼女はわざとらしい姿勢を取り続け、居残っている。どこか挑発的で、大介は大きく咳払いしてもう一度断ろうとした。
「……ほら、もう遅いから君は――えっ!?」
「こういうお手伝いは、嫌いですか?」
突然の感触に大介は声を上げた。腕を取られ、手の平にあったのは柔らかいゴムまりのような弾力。彼女の胸に、触れていた。
制服越しでも伝わる柔らかさ。大介の野太く、毛むくじゃらの手を胸に押し付けている。
思考がフリーズして、大介は目をぱちぱちと瞬かせるばかりだった。あまりにも強烈で、言葉を失う。
イタズラだとすれば、悪趣味が過ぎる。こんな中年をからかって、遊んでいるのだろうか。妻子ある身で、会社の女性に手を出したとなれば問題だ。どこに人の目があるか分からない。
大介は深呼吸して怒鳴ろうとした。肩をいからせ、立ち上がろうとすると――。
「んっ……!?」
唇を、塞がれた。ぷっくりとした、柔らかい肉厚の感触。彼女の細長いマズルの先端と、大介の短いマズル同士がくっ付いていた。
彼女は既に大介の手を離し、彼の両肩を押さえている。突然のキスに、喉まで出掛かっていた大介の怒号が、一気に引っ込んだ。
鼻も擦り合い、彼女の吐息がかかる。そして彼女は口を離すと、舌を少し伸ばしてぺろ、と唇を舐めた。
「佐伯、くん……?」
「係長、溜まっているんですね」
「君はいったい、なにを……」
「だって、ここ」
彼女の視線を追う。その先には、こんもりとスラックスを押し上げる大介の愚息。胸と唇の感触だけで、彼の雄は刺激されたようだ。
「我慢しないで、任せてください」
「や、やめてくれ! 私には、妻がっ……!」
彼女の両手が、大介のベルトを掴む。それを振り払おうとする大介だが、不思議なことに力が入らない。まるで自分でもその先を望んでいるかのように。
あたふたする大介をよそに、彼女はスムーズにベルトを緩める。いや、留め具を外さなくとも引っ張られるだけでするすると脱げていく。大介が腰を上げなくとも、まるで滑り落ちるかのように。
柄の付いたトランクスが、晒される。中心は盛り上がっており、今にもはちきれんばかり。それも妻以外の女性に見せない下着姿だ。大介は苦い顔を浮かべ、頬が熱くなる思いだった。
しかし何のためらいもなく、彼女はトランクスに指を掛ける。急かしているのか、彼女が欲求不満なのか、すぐに下着も下ろされた。
「係長の、こんなに大きいんですね。奥さん、羨ましいです」
「佐伯君、その……どうする、つもりだい……?」
露出した逸物に、彼女はうっとりと見つめていた。対して大介は、面映ゆくなって丸耳を揺らして尻尾も落ち着かない。股間を間近で見られ、全身がこそばゆくなる。
大介のそれは彼女の言う通り、立派なものだ。硬く厚みのある太ももに釣り合う、野太い剛直。弓なりに怒気を張り、長さも十分なもの。幹には血管が浮き上がり、びくびくと脈動している。
しかし勃起しても包皮が亀頭の半分を覆い、その亀頭もあまりくすんでおらずまだ若々しい猛りを残していた。経験豊富、というわけではないことを物語っている。
「大丈夫です。すぐ、気持ちよくさせてあげます」
「あっう……! さえき、くんっ……!?」
彼女はすぐさま、大介の亀頭に口を付ける。そのまま、生温かい口腔で大介の怒張を包み込んだ。マズルにぴったりと嵌まるかのように、彼女は口をすぼめて舌を絡ませていた。
逸物も握られて、ゆっくりと彼女が動き始める。肉球がぐに、ぐにと太い根元を揉み、少しずつ擦り上げていく。そして優しく吸引され、亀頭が舐め回されていく。ちゅう、と音を立て飴玉をしゃぶっているかのようだ。
大介は股間を突き出し、額にしわを寄せていた。鼻腔が開き、力んだ表情は恥ずかしさで消え入りたい感情を必死で隠している。こんなにもまじまじと逸物を、並みの男より自慢出来るデカブツなのに子供っぽい面影のある仮性包茎を、部下に弄ばれているのだ。
妻との情事はご無沙汰であるし、子供が出来てからは女ではなく母として見る機会が増えた。暫くぶりで、大介の雄が覚醒する。
その相手が、若い女子社員。しかし何故だか罪悪感が湧かない。むしろ背徳感が、大介の性欲を刺激していた。
彼女の口は慣れたものだった。大介が時折鑑賞するAV女優を思わせる口遣いで、すぐにでも果てそうだ。
「奥さんとは、こんなことしないでしょ」
「あっあぁぁ……こんなの、初めてだ……」
彼女の口調が、態度が豹変する。化けの皮が剥がれたかのように、フェラチオがますます淫靡なものになっていく。
深々と逸物が咥えられ、包皮がずるりと剥かれる。そしてじゅる、と汚らしい水音を立てながら彼女は亀頭を啜っていた。吸い付いたまま、鼻から抜ける彼女の艶めかしい掠れ声。大介の耳には、毒ともいえる程の過激なものだ。
股間にそびえる巨根が締め付けられる。そのサイズゆえに、彼女の口内では窮屈すぎて亀頭も竿も、根の張った血管も圧迫されていた。しかし彼女は愛撫を止める気配がなく、上下に頭を動かし大介をついばんでいる。
「あ、あぁ……きもち、いいっ……んはっぁ……!」
「じゅる、んじゅっ……もっほ、きもひよふひまふね」
「おあっおおおおぉぉ……!!」
逸物を咥えたまま、舌足らずな口調で彼女は言う。彼女の舌は、絡め取った巨根を獲物のように弄んでいた。亀頭を舐めるだけでなく、裏筋を舌で弾き、また敏感な雁裏を唇で挟んではしごく。掻痒感と快感が同時に襲い掛かり、大介はオフィス内に反響するほどの喘ぎ声を上げていた。
普段スーツ姿を強制させられているオフィスで、下半身を丸出しにして声の限り叫ぶ開放感。既に大介の恥じらいは、快楽が上回っていた。
そして激しい口淫で、大介の筋肉質な太ももが震えていた。若い頃、ラグビーで鍛えた名残がある太ももが、限界が近いことを知らせている。
とろんとした表情で、だらしなく口を開けっぱなしにする大介。瞼に力が入らず、凛々しさは欠片もない。
「さえき、くんっ……! も、もう出そう、だっ……! と、とめてく、れ……!!」
悲痛な叫びを伝えるが、変わらず彼女はじゅぽじゅぽと大介の逸物をしゃぶり続けている。サディスティックな一面があるのか、機械的な動作を繰り返していた。
だが大介はもう耐えられない。尿意に似た感覚が下半身をぐるぐると循環し、今まさに下半身からそれがせりあがっていた。
声は届かない。大介の顔がしわくちゃに歪み、牙が剥き出しになる。鼻息が噴き出し、頬に赤みが差した顔は、必死に昇天を堪えていた。口に出すなんて無礼だと、理性が無理やり止めさせる。そんな大それたこと、出来ようもない。
大介はガタン、とイスから慌ただしく立ち上がり彼女を突き飛ばそうとした。すると、彼女はにんまりと、妖艶な笑みを浮かべていたのを大介は目撃する。小悪魔、という単語が脳裏をよぎる。
そして見計らったかのように彼女の口が離れ、ちゅぽ、という小気味いい音と共に、大介の逸物がぶるんと跳ね上がった。その衝撃が、大介の射精欲に追い打ちをかける。全身が硬直し、意識が股間に集約された。
「あっあぁぁううっぅぅっ……!!」
甲高い、咽ぶような喘ぎを上げながら大介の逸物が暴発する。彼女の顔面目掛けて、紐のように太い精液が一直線に吐き出され、べっとりと付着すると勢い余って飛沫を上げて広がった。更に逸物が上下にびくん、びくんと躍り二発目も放つ。それは彼女の顔だけでなく、メガネや黒い鼻、質の良い毛皮や制服にまで己の痕跡を残していた。
あまりの心地良さに身悶えする大介だが、その表情は処女のようにはにかんでいた。足がガタつき、震えから動けず彼女を汚している事実。しかし雄の快感に嘘をつけず、半ば錯乱状態に陥っていた。
まだ逸物から、白濁液がこぼれる。鼻を突き上げるには十分な青臭さが漂う。大介でさえ感じる臭いだ、彼女に至っては息が詰まるだろう。だが彼女は、涼しい顔で受け止めていた。
「はあっぁ……あ……。さ、佐伯君、す、すまないっ……!」
少し波が引き、快感から引き戻されると大介はすぐに謝る。だが、足が棒になった感覚からは抜け出せず、赤い亀頭に精液の残滓が滴って格好がつかない。それでも頭を下げた。
彼女からの返事はない。すると彼女は顔に掛かったザーメンを指に付けると、ぺろりと舐めた。メガネと制服の染みも拭い、舌を伸ばし、見せつけるように嚥下する。
「係長の、とってもおいしいですね。臭くて、男っぽくて」
「た、頼む……他の皆には、その……」
彼女の妖しげな態度をよそに、大介は焦っていた。現実に引き戻され、とんでもないことをしでかしたと意識する。
部下に手を出したと知られれば、会社での立場が危うい。家庭を抱える男にとって、穏便に済ませたかった。
それを聞いた彼女は、未だ白濁に淀んだメガネをくい、と掛け直すと大介に伝える。
「じゃあ、係長のお尻もいじりたいな」
「し、尻……? 私の……? え、ちょ、ちょっと待ってくれっ!」
彼女の手が大介の股ぐらの下を通り抜け、きゅっと締まった尻を撫でる。そのまま縦に割れた秘裂に、指が食い込む。
大介の背筋がぞく、として凍り付く。だが、彼の萎えかけていた逸物が大きく弾んだ。さながら、期待に打ち震えるかのように。
「や、やめてくれ! 私にそんな趣味はっ……!! あっ……んあっは……あああっ!!」
声の限り叫ぶ。彼女の肉球がぴと、と菊門に触れる。未知の扉が、開こうとしていた。
大介は恥も外聞もなく、拒絶を露にする。男としての尊厳を保つため、男であるために。
するとその瞬間、視界が急激にぼやけた。彼女の輪郭が霧のように飛散し、尻に触れていた感覚が消える。
そのまま、暗黒に包まれていく。そして大介の淫らな情景が、終わりを告げた。[newpage]
ぱち、と目を開く。飛び込んでくるのは、見慣れた寝室の天井。
いやに頭がすっきりとしており、目も擦らないで良さそうだ。壁にかかった時計を見ると、朝の六時。いつもの起床時間より、三十分ほど早い。
ふと隣を見れば、寝息を立てて眠る虎の子。幼い顔立ちはまだ猫とそうそう変わらない。その隣には毛皮とは別に、淡黄色の短髪が似合う虎の女性。大介の家族だ。
シングルベッドを二つ並べた寝床。親子三人で川の字になって寝る部屋が、ようやく現実だと理解させる。大介は、ほっとした――のも束の間だった。
じんわりとした湿り気、べとつく粘り気。股間のひんやりした感触に、大介は愕然として、顔が強張った。
彼は物音を立てぬように、ベッドからゆっくりと下りる。妻と子供が起きる気配はなさそうだ。
それから、通勤用に使うカバンも持って部屋を出ようとしたそのときだった。
「ん……パパ、今日も早いの……?」
背後から声を掛けられ、毛皮が逆立った。後ろを見やると、寝ぼけまなこを擦る妻の姿。
大介は、平静を装った。
「あぁ、今日も朝の会議があるから……。朝ごはんは適当に済ませるから、子供のほう、頼むよ」
「会議、多いのね。ここ最近、ずっとじゃない?」
「今が、忙しいからな。寝てていいから」
「そう、分かったわ」
会話を終えると、妻は再び布団を被り二度寝に入った。それを確認すると、大介は部屋から出て、トイレに駆け込んだ。
鍵を閉め、ため息を吐く。寝起きだと言うのに、身体が熱い。胸の奥が燃えるようで、流れる血が沸騰しているかのようだ。顔を触ってみると、毛皮越しでも熱い。
少しばかり頭を冷やそうと、大介は深呼吸して落ち着こうとする。しかし焼け石に水だ。羞恥で火照った身体を冷ますには至らない。
それに、股間は不快な冷たさがあった。大介は、物憂げな表情で寝間着のズボンの裾を、トランクスごと前へと引っ張る。
「……畜生。またやっちまった……」
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吐き捨てるように言い放つ大介。彼のトランクスの内側は、精液がべとべとに張り付いていた。股間は白地の毛皮に包まれ、毛先が絡み合っている。亀頭を覆う包茎も、まるでコーティングされたかのように精液まみれだ。夢の中で出した量だけは現実も同じで、太ももまで滴り、トランクスを貫通してズボンにまで付着している。
虎の大男の背中が、頼りなく、切なげだった。
「もう何回目だこれで……。昨日は一発、風呂で抜いたってのに……小便垂れのガキじゃねぇんだぞ」
愚痴を吐いても事態は変わらない。大介は下を全部脱ぐと、トイレットペーパーを適当に千切って股間を拭く。絡んだ毛の塊、太もも、トランクスとズボン。そして包皮とその中身も。それでも完璧に拭き取れず、いくらか染みを残していた。
シャワーでも浴びて汚れを落としたかったが、大介は朝風呂に入る習慣がない。寝汗をかく季節でもないし、妻に不審に思われなくなかった。
大介はこのところ、夢精に悩まされていた。始まりはおおよそ一か月前だ。やはり淫らな夢を見て、ぐっしょりと濡れた感触に起こされたのだ。それまで、夢精とは縁のなかった彼は焦り、処理に手間取った。今では皮肉にも後始末に慣れ、汚れたパンツを包むビニール袋と替えのパンツを通勤用のカバンに忍ばせている。もしもの際は朝、トイレで済ませられるようにと用意したものだが、このところその頻度が増えて常態化しつつある。
初めは週に一回、しかし多いときは週に三回も粗相をするようになった。流石におかしいと思い、泌尿器科にかかったが健康と診断されただけだ。
「やっぱり、あのメールが原因か……?」
パンツを穿き替え、汚れたトランクスはカバンから取り出したビニール袋へ。後はどこかのごみ箱に捨て、コンビニで新しい下着を買えばいい。大介の頭には、この異常に一つだけ思い当たる節があった。このまま、不便な生活を強いられるわけにはいかない。下手をすれば、自宅外でこの不可解な生理現象に出くわす可能性がある。
ズボンを穿き、トイレを出て大介は出勤の準備に取り掛かる。スーツを着て、ネクタイを締め、くせっ毛を整え、マンションの一室を出ていく。目尻を上げると眉間の皺が深くなり、いつもより硬い表情で虎の大男は会社へと向かった。[newpage]
「えぇ、在庫の補充をこちらで手配します。それから新商品の案内を……えぇ。では、失礼します。次はメールのチェックに……」
首に社員証をかけた大介は無駄なく働く。このときばかりは朝の失態を想起せずに済んだ。むしろ、記憶を封印するかのように熱心に打ち込む。
ある企業の営業課係長、それが大介の姿だ。もっとも、仕事は営業事務を主として外回りに出ることは少ない。
朝の仕事が片付き、大介は肩の力を抜く。電話対応をする女子社員、見積もりの作成に取り掛かっている男性社員。毎日目にする、見慣れた光景だ。
そして視界の隅に入る、メガネの女子社員。夢に出てきた、佐伯その人だ。彼女は資料作成中なのか、パソコンにデータを入力している。
あれが夢だとは、大介自身、重々承知している。そして恐らく、脳が勝手にAV女優の所作を彼女に重ねたのだ。あまりにもリアリティで、おかしな点があったのに夢から抜け出せなかった。
だというのに、大介は気まずそうに彼女から目を逸らす。クラスメイトの女子に恋する、思春期の男子生徒のように。思い出したくなかったのに、鮮明に蘇る。
そして、机の下で大介の愚息が猛り始めた。俯いて、股間を押さえつける。自分を戒めたくなるが、身体は性欲に素直なようだ。
「係長」
「は、えっ!? あ、な、なんだ佐伯君」
素っ頓狂な声を上げ、前を見ると、佐伯が目の前にいた。彼女は少し身を引いている。
大介は咳払いするとイスを前に引いて、股間を悟られないようにする。
「今度使用する会議資料ですが、ご確認を」
「あ、あぁ……分かった。見て、おこう」
資料を渡され、手にする。その際、彼女の細い指を大介はじっくりと注目していた。
容姿端麗な彼女は、爪を短く切りそろえておりネイルも施していない。肉球もピンク色でとても柔らかそうだ。
思わず、触ってみたくなる。あの指が尻を撫で、道ならぬ所を侵食しようとしていた。その顔とは裏腹に、性に貪欲なのだろうか。
「あの、係長。お時間がかかるようなら次の業務に移ります」
「あ、あぁそうだな。また、後で来てくれ」
「分かりました」
軽く会釈してデスクに戻る彼女は、心なしか素っ気なかった。大介の視線に感づいたのか、それとも彼女の元々の性格か。どちらにしろ、現実の彼女は、大介に毛ほども好意を持っていないだろう。
張り詰めた緊張が、ズボンの圧迫感と共に抜ける。
「駄目、だな……。どうにも……」
資料をデスクに置き、項垂れる大介。彼女が目に入り、急激に仕事に身が入らなくなった。あの淫夢を、連想させるからだ。少し休憩を取るべきか、と思った時に肩を叩かれる。
「おう島地。来週の火曜だけど、取引先に予算の打ち合わせがあるから、お前も同行頼むわ」
「葭切……か」
話しかけてきたのは、深い海色と色褪せた白の肌を持つ、サメの男。大介の同期であり、同じ課の係長の葭切だ。彼は専ら、外回りの営業担当で大介はその補佐と言ったところだ。
言われて、大介は胸ポケットからスケジュール帳を取り出し、予定を埋める。すると、大介の顔を見て、葭切は不敵に笑いながら耳打ちしてきた。
「お前、浮かない顔だな。さては嫁と喧嘩でもしたか? それとも、さっきのコリーに振られたな?」
「生憎ウチは円満な家庭だ。キャバクラと風俗通いがバレて嫁に土下座させられるどっかのサメとは大違いでな」
「仕方ねぇだろう接待だったんだよ。んで、実際どうした」
軽口を叩き合いながら、葭切は真顔になる。調子の良い彼から見ても、大介の様子はおかしいようだ。
大介は周囲の様子を窺う。ちょうど、近くを通る者はいない。大介は声を潜め、葭切に話す。
「……前に言ったろ。夢精、するって。あれが、治まらないんだ」
「ったく、それかよ。二人目作るチャンスじゃねぇの?」
「そういう話じゃない。第一、ここんところは風呂場やトイレで抜いてる。けどな、それでもやらかすんだ」
「つーことは、前に言ってたメールってやつか? ちょっともっかい確認させてくれよ」
葭切は大介の事情を知っている。こんなことを話せるのは長い付き合いがある、同じ男にしか出来ない。当初こそ、大介は彼に相談しようかしまいか迷ったが、仕事の支障も考慮し、意を決して打ち明けた。呆れられて相手にされない可能性もあったが、彼は信用してくれた。一応、仕事上のパートナーだから彼なりに気を遣っているようだ。
大介は葭切の要求に応え、スマートフォンを取り出す。そこから、メールアプリを立ち上げて受信メールの画面を出した。
するとそこには、画像が添付されているメールがずらりと並んでいる。その画像のどれもが、女性の裸で埋め尽くされていた。それもただの裸体ではなく、男のペニスを咥えていたり、大股を開いて局部を見せつけていたり、或いは大量の精液をかけられている極めて卑猥なものばかり。
「これを見て性欲がとんでもないことになりました、ってわけじゃねぇんだろ?」
「当たり前だ。電話帳に登録してあるアドレス以外のメールは見ない。それに、その画像の女は年齢も種族もバラバラで俺の好みに当てはまらん。だったら自分で動画なり画像なり探す」
「変に生真面目なやつだよお前は。しっかし、いたずらにしちゃ幼稚だ。案外、相手はガキんちょかもな?」
「んなわけあるか。受信拒否に設定してもアドレス変えて送って来るし、逆に俺がアドレス変えても特定してくるんだぞ」
「そしたら流行りの……なんつったか。ネットの匿名犯罪グループとかか?」
「ハッキングとかクラッキングするやつらのことか? それも変だろ、ただのサラリーマンに固執する理由もないだろうし」
およそ一か月前から、大介はこの件に悩んでいた。あまりにも質が悪い、悪戯の限度を超えた嫌がらせ。
送信者のアドレスはいずれも別々のものだ。ただの迷惑メールなら拒否すれば問題ない。しかし、猥褻画像を送りつけてくる相手はいくつものメールアドレスを用意しているのか、爆撃のようにメールを送ってくる。大介も自身のアドレスを変えたが、その回数が十回に達したところで諦め、放置している。だからほぼ毎日、彼のスマートフォンにはいたずらメールが送られているのだ。
「に、してもだ。これが来たからってお前の夢精と関係ないとは思うんだが」
「ちょうど時期が重なるし、それしか考えられん。第一、最初は画像なんて送られてこなかった」
「最初はなんて書いてあったんだ?」
「もう削除したから画面は残ってないが、確か――」
そのとき、大介のスマートフォンが震えた。メールの受信画面に切り替わり、大介は頭を抱える。恐らく、件のいたずらメールだと察しがついたからだ。
「なんだこれ?」
画面を見た葭切が怪訝な声を上げた。大介も不本意ながら画面をチェックする。映っているのは、サイケデリックなロゴマーク。極彩色が詰まった、意味不明な画像だ。しかも、文章が綴られていた。
『知られざる悦びを』
それが目に入った瞬間、大介は頭痛を覚える。何か、画面から訴えかけてくるかのようだ。
そしてやはり、メールには猥褻な画像が添付されている。しかし今度は画像ではなく、動画ファイルだ。静止画面のままだが、それを見た葭切は顔をしかめた。
「おいおい、次は男の裸だぜ? お前のこと、ホモだと思って送って来たんじゃねぇのか?」
「そんなわけ、ないだろう」
狼の男が裸で横たわっている画面。それだけ確認すると、大介はさっとメール画面を閉じる。
そして間を置かずして、彼はイスから立ち上がり、デスクから離れていく。
「どした、男の裸でも見て気分が悪くなったか?」
「あぁそうみたいだ。ちょっと、トイレに」
大介は足早に、オフィスを出ていく。唇を結び、その顔には苛立たしさが見られた。眉を釣り上げ、彼の通り道を皆が退く。
しかし誰も虎の表情を窺ってばかりで気づかない。大介が鼻息荒く、その尻尾が膨らんだまま直立していることに。
廊下に出て、真っすぐトイレへと進む。中に入ると、使用者はいなかった。そして、すぐに手近な個室に大介は駆け込んだ。
「くっ……!」
大介は悔し気に呻く。歯を食いしばりながら、目線を下ろす。そこには、テントを張った彼の股間があった。少しずつ体積を増し、密閉された空間を圧迫していく。
そしてあっという間に、スラックスのしわが引き延ばされるほど彼の股間が膨らんだ。痛みを覚え、大介は便器に腰かける。
「あぁまただ……! 何なんだ……あのメールを見た瞬間に勃起して……!」
理解不能だった。突然過ぎて、全く対応できない。しかし、トイレに駆け込めたのが幸いか。
大介は下腹部の苦しみに耐えながら、もう一度メール画面を開く。しかしやはり、狼の裸の画像を目にすると心臓が大きく鼓動した。
性欲が掻き立てられ、収まりがつきそうにない。それは、佐伯が瞳に映ったときと比べ物にならないものだった。だが、社内で自慰が出来るものか、と必死で自分を律する。すぐにメール画面を閉じようとしたが、またもメールを受信していた。
「クソッ、いい加減にっ……!?」
また画像が送られてくるかと思いきや、そこには先ほどの派手なロゴマークと共に文章が書かれているだけだ。しかし内容は、大介の行動を見抜いているかのようだった。
『ちんぽを扱け』
はっきりとした命令口調。他には何も書かれていない。あまりにも馬鹿馬鹿しい、無価値な文章。さっと閉じればいい。そう頭で理解する。
だがその一言だけで、大介は固まった。
じっと画面に釘付けになり、つばを飲み込む。無言のまま、後押しされたかのように狼の裸の動画を再生し始めた。
動画はおよそ五分程のものだ。画質が悪く、固定カメラでの撮影らしく被写体である狼の映りも悪い。だが、大介はフルスクリーン画面に切り替え、更には個室から漏れぬ程度に音量も上げた。
冒頭、ベッドに寝そべっていた狼が、四つん這いの体勢になってカメラに肛門を向ける。そこはぽっかりと開き、ピンク色の肛門を大介の目が捉えた。いわゆる素人撮影によるものだから、修正が入っていない剥き出しの映像だ。
すると、狼の手には黒い物体が握られていた。大介の知る限り、淫具のバイブに近いものだ。しかし棒状のものだが、先端が先細りでくびれがいくつもある。そしてそれを、肛門に突き立てた。
「なっ……!?」
堪らず、表情が強張る大介。目を見開き、食い入るように画面を見つめる。
棒状の物体が、ずるずると狼の肛門に侵食していく。時折、彼の甲高い呻き声が漏れる。明らかに指よりも太いそれが、半分ほど彼の中に沈んでいく。息を呑む大介だが、画面の狼は悦んでいた。何せ、陰嚢まで丸見えの彼の逸物が、ぶらぶらと揺れていたからだ。
しかも悲鳴が艶やかになり、狂喜に満ちた声だと、大介の耳が認識する。
そしてめり込んだ黒い棒をずぶずぶ、と狼は何度も出し入れしていく。慣れているのだろうが、足が痙攣し始め、尻尾も直立したまま震えていた。
大介にとって、未知の世界だ。尻を弄る自慰があるらしいと知っていたが、その手の映像を見たことがないのは当然で、方法も知らない。興味すら抱かなかった。しかし、それを実際に目の当たりにして、大介の股間が更に刺激される。
こんもりと盛り上がった彼の股間の先端から、小さな染みがじわりと広がり始めた。触らずとも、動画の臨場感だけで逸物が反応する。大介の生真面目な理性が、野蛮な本能に屈した。
大介はもう、我慢の限界だ。彼は腰を浮かせると、慌ただしくベルトの留め具を外し、パンツごと一気にズボンを下ろす。
勢いよく現れた彼の逸物がびん、と反り勃ち、腹に打ち付けた反動で雫が飛び散る。色鮮やかなピンクの亀頭が半分ほど包皮に覆われ、血管が脈動する巨根包茎。
そのまま大介は、便座に座り直すと手持無沙汰だった片手で逸物を握り締める。手が回りきらない、自慢の巨根。どくどくと、手の平に熱と脈動が伝わる。
『はっぁっ……! あおっおおぉぉぉ…………はうっん!!』
狼は尻を突き出し、耐えきれなくなったのか腰を振り出す。しかし尻奥まで深く根差した淫具は外れず、むしろそのまま飲み込んでいくようにさえ見えた。彼の喘ぎも、腹の底から絞り出したような地鳴りを思わせる震え声だ。だが、呼吸する度に漏れる吐息が大介の雄を刺激する。
いつの間にか、大介は自分の逸物をゆっくりと擦り上げていた。皮を引っ張り、ぎゅうと後退させて扱く。既に先走りが溢れ、とろとろとピンク色の亀頭が潤う。バキバキに屹立し、凶悪な肉の槍と化す。
いつも彼が行うオナニーだが、逸物の硬度が全く異なった。夢精を避けるため、作業的に行っていた自慰は半勃ちのまま射精することが多かったのだ。だが、彼の逸物はまるで十代の思春期のペニスの如く反り返り、大木のように太くそびえている。
『あああっああぁぁぁ…………!! ちん、ぽぉ……ちんぽ、ちょう、だいよぉっ……あおおおっ……!!』
恥ずかしげもなく、淫語を連発する狼。尻を向けているから表情が分からないものの、イヌ科の長い舌が垂れて顔を伏せているようだ。ベッドには唾液が滴っていることから、恐らく鼻水も垂れて、顔面はぐしょ濡れだろう。
「そんなに、気持ちいいものなのか……」
疑問を口に出すと、大介は今朝の夢を思い出す。佐伯に、尻を弄られる寸前で目覚めた夢。
画面の狼がこんなにも痴態を晒すのだから、普段の自慰の比ではないのだろう。更に、画面に変化が訪れる。
萎れたままの狼のペニスから、つぅ、と白濁の糸が滴り落ちていた。勃起している様子もなく、涎のように滴下する。だが、それは一向に途切れない。
がくがくと狼の全身が小刻みに震え、両足に至っては痙攣しているようだ。立てそうにも見えない。
大介は頭が熱くなり、集中し過ぎて額に汗が滲む。そして、逸物をぐっと握り直してずりずりと扱く。皮が雁を擦り、竿に浮かぶ血管をごりごりと締め付ける。
毛皮がくすぐり、こそばゆい。そして年輪を重ねた硬い肉球の感触。二重の刺激が襲い掛かり、包皮口にたっぷりと蜜が噴き出していた。
「くっん……ふ、うんっ……!!」
しかし、それだけでは満足出来ず、扱いていた手で亀頭を入念に撫で回した。手が先走りまみれになり、にちゃにちゃと粘っこい音を立てる。
普段、包皮に覆われたそこは刺激に弱く、大介は堪らず内股の姿勢になった。しかし巨根は一切角度を落とさず、むしろ活発化する。
急所を責め、自虐的とも言えるオナニーだ。だが、得られる快感が苛烈で、大介は胸を張るほどの息遣いをしていた。
すると、動画がぶつ、と途切れる。五分の短い動画ゆえ、最後まで映っていないのだ。
しかし大介は、躊躇いなくまた最初から再生する。それもシークバーを操作し、狼の挿入場面から映す。彼はもう、狼の虜になっていた。
「んっ……はっぁ……!」
呼気と共に、喘ぎが漏れた。他の社員が入るかもしれない、会社のトイレだというのに。
もう大介の五感は、画面の狼を意識していた。
「ぐっぅうううんっ……!!」
スマートフォンを持つ大介の腕と指がぶれて、画面が安定しない。逸物を握る手も、乱雑で力任せに圧迫し、まるで痛めつけているようだ。
下腹部に、波が立つ。もう絶頂が近く、すぐにでも爆ぜそうだと身体が告げる。大介は、手の動きを加速させてスパートをかけた。
狼を睨むような目つきだが、頬がひくついて口角も釣りあがり、ひどく上機嫌な様子だった。
しとどに先走りが溢れ、ずちゅずちゅと湿った音が個室内にこもっていた。逸物がびんびんに滾り、薄紅色の亀頭が熱く、包皮がなめらかに剥けていく。
そして、大介の息が止まる。下腹部に溜まっていた禁欲が、一気に駆け上った。視界が真っ白になるような、凄まじい快感が爆発する。
その瞬間、大介の身体が前のめりになって、便座がガタン、と大きな音を立てた。
「ぐっんぅううっぁああああっ…………!!」
大きく脈動した大介の逸物から、びゅぶ、と白濁液の激流が迸った。トイレのドアに跳ね返り、ぼとぼと、とかすかな衝撃音が響く。更に何発もドアに自らの種を飛ばし、白濁のペンキがどろっと垂れていく。床にも精液が一直線に、太い筋を描いていた。
大介はぎゅうと瞼を閉じ、雄のよがりを晒す。全身は硬直したまま、巨根だけが猛り狂っていた。発射の度に飛距離が衰えるが、雄汁が幾度も床にこぼれる。線状だった精液が、小さな小さな水溜まりを形成していた。
大介の赤らんだ顔は恍惚に染まっており、その心地良さは快楽の高みに到達したっきりだ。作業的な自慰でもなく、起床した時のパンツの処理もしない、久々に純粋な爽快感が宿る。
ぱっくりと開いた鈴口からは、雫となった精液が漏れ、裏筋へ滴った。やがて亀頭には、ぷくっと粒となった精液が浮かんだ。
しかし疲労感が一気に圧し掛かった。肩で息をするが、その疲弊も心地良いものだと感じる。達成感すらあった。
そしてようやく、大介は目の前の惨状を直視する。精液が飛び散った床に、質の悪いイタズラのように汁がかかった壁。
「掃除……しないとな……」
思い切り息を吐き出し、重い腰を上げる。まだ水平の角度に半勃ちしている逸物は、ちゅる、と粘液と亀頭を皮に包み込まれながら包茎に戻っていく。トイレットペーパーを十分に取って、自らの股間を拭き取り、床と壁の汚れも同様にする。
「これじゃ、朝と変わらんな……」
自嘲気味に言って力なく笑う。会社のトイレで、一枚の扉を隔ててこんな惨めな姿をしているとは誰も思うまい。
致している間、トイレが無人だったのが幸いだろうか。すんすん、と鼻を啜れば濃厚な青臭さ。同じ男ならば、すぐに気づく異臭だ。
拭き取った紙を便器に流し、ようやく落ち着く。そのとき、大介はふと思い出した。一番最初に来た、悪戯メールの内容を。
「確か……『夢見心地を』だったか……? 馬鹿馬鹿しい、起きてみりゃ、パンツの始末しなきゃいけねぇんだぞ」
記憶の引き出しを念入りに調べてもそれ以外に添付ファイルはなかったはずだ。あるとすれば、猥褻画像とは関係ないおどろおどろしいロゴマーク。そのメールを削除した翌日から、様々な猥褻画像が送り付けられた。
そうやって記憶を漁っていると、トイレの出入り口が開く。誰かが、個室の前に立ったようだ。
「おい、島地!」
「うおっ!? よ、葭切……か?」
個室のドアがドンドン、とノックされ名前を呼ばれる。唐突だったので、大介は思わず肩が引き攣った。
声の主は、先ほどまで喋っていたサメの葭切だ。
「お前、休憩が長すぎるぞ。まさか、本当にマスかいてたわけじゃねぇだろ?」
「そんなこと、するわけないだろう! ただ、少しくらくらきて……すぐに、出る」
実際、大介は少しばかり頭が重く眩暈を覚えた。激しかった動悸が射精を迎えて急に沈静したからだろう。急いで、パンツとスラックスを引き上げてベルトを締める。
「ならいい。お前の部下が探してたからな。早く戻れよ」
「あ、あぁ。分かった」
それだけ言い残すと、葭切がトイレから出ていく。手早く後処理をしたお陰で、彼は大介の臭いに気付かなかったようだ。
すると大介は緊張の糸が切れて、再びどすんと便座に座り直す。ため息が漏れ、顔には疲労の色がありありと見えた。肝が冷えて、身体中に痛みが走ったかのようだ。
そのとき、大介は疑問を口にする。
「俺、男のケツでシコったのか……? なんで、だ? ……ちっ、またメールが」
しかし熟考する時間を与えてくれなかった。スマートフォンがバイブし、メールの受信を知らせる。どうせあの出処が不明のメールだろうと、大介は開く前から理解した。
このメールも削除するしかない。大介はそう思ってメール画面を開いた。
「……あ? なんだ、これ」
メールは、大介がトイレに入った直後のものと同様だ。目障りなロゴマークと、文章だけ。
『尻を弄れ』
たったその四文字。命令に次ぐ、命令。しかし大介は迷わずメールを削除し、効果がないと知りつつも相手のアドレスを受信拒否に設定した。頭も身体もすっきりしているせいか、余計な考えが発生せず事務的に処理する。
「さて、仕事だ仕事」
個室のドアを開け、手洗いをしてからオフィスへ戻る。トイレに入る前とは打って変わって大介の表情は晴れやかだ。
しかし、仕事中、彼の脳裏にある画がちらついていた。狼の痴態に、息吹いているかのような肛門。見慣れない映像だったからだろうと、それ以上深く考えはしなかった。
帰宅し、家族と穏やかな時間を過ごしながらも、しかし何故だかふとした瞬間に思い出す。そして大介は一つ、奇妙な考えを抱いていた。
尻を弄るのは、逸物を擦るよりも気持ちいいのか、と。
その思案が欲望に変わるなど、大介はこのとき、露ほども思わなかった。
――彼の肉体と精神は、未だ蝕まれている。[newpage]
その日は休日だった。また、大介の妻は子供を引き連れ、地区の子供会に参加している。そのため、朝早くから大介の住むマンションの部屋は静まり返っていた。
休日となれば、大介は家族とショッピングモールへ買い物をしたり、日帰り旅行に出かける。或いは健康づくりのため、会社の有志が所属するクラブ活動に参加していた。
しかし今日はそのどちらも予定がない。完全に空いた一日だ。だからか、大介は昼頃に起床した。
そして彼は今、寝間着のまま、居間に置かれたデスクトップパソコンの前に座っている。傍から見れば、暇つぶしに見えるだろう。
だが、ただの暇つぶしではなかった。彼はパソコンの前から離れられず、到底、外出など出来なかった。
「んっ……くっぅ……!!」
パジャマのズボンと、パンツを下ろし、イスに尻を直接つけたまま座る大介。そして、モニターを凝視しながら逸物を握り、必死に扱いていた。自慰の、真っ最中だ。
色鮮やかに充血した、真っ赤な亀頭が包皮から露出と被覆を繰り返す。ぬちゃ、と粘ついた音が響き、先走りが滑らかな手淫を手伝っていた。竿がパンパンに膨れ上がり、包皮の上からでも目立つ分厚い血管が何本も浮かび上がっている。
パソコンからは大きな喘ぎ声に水音が漏れていた。そして画面には性器に薄っすらとしたモザイクがかかっただけの、全裸の男女が映っている。紛れもなく、AVだ。
家族は外出中。だから大介は音漏れを気にせず存分にAV鑑賞しながら、自慰に耽っていた。
動画は垂れ流しで、大介は両手を使って手淫に夢中だ。右手は指の回りきらない巨根を握りながら、雁裏を強く擦る。やすりで磨き上げるかのように、ずりずりと扱かれた肉竿はすっかり熱を持っていた。
そして左手は鶏卵程の大きさに膨らんでいる陰嚢を持ち上げ、蟻の戸渡に指を這わせている。イスに体を預け、大きく股を開き、普段は閉ざされているそこを爪先で穿っていた。皮膚の薄い、陰嚢の裏側に触れると大介は苦悶の顔を浮かべ、まるで切迫しているようだ。
逸物を締め付けては擦り上げる刺激と違って、くすぐったい感触。しかし、鼠径部を撫でると、ゾクゾク、と戦慄が走る。今まで意識していなかった部分だったが、そこを弄ると逸物では得られない性感を覚えた。
そして大介はそのまま、中指を突き立て、会陰部を押し上げる。
「おっぁ……! あっ……かっはぅんっ……!!」
性感とは程遠く、軽い鈍痛を覚える。しかし、大介の尻尾はぴん、と立ち上がり、逸物も萎える様子がない。
そして彼の胸や腹が、大きく弾んでいた。呼吸に合わせて膨らんではへこみ、荒々しい呼吸が更に彼の体温を上昇させる。
一家の父として見せられない、雄の恥ずかしい姿。股間にそびえる、肉槍を鞘に納めては剥き出しにし、粘液で磨く。
逸物が先走りに満遍なく塗られ、亀頭や包皮がぬらぬらと妖しい光沢を放っていた。彼の手にも汁がべっとりと付着し、肉球と毛皮が湿っている。
『あっあっぁ……!! ゆ、るし、てぇっ……!!』
大介は画面に釘付けだ。大音量の喘ぎ声がやかましく響き、大介はモニターを介してではなく、実際にその場にいるような臨場感を覚えている。
しかし、彼の見ているAVは、いつも視聴しているモノと全く異なっていた。獅子の男優が四つん這いになり、カメラに下半身を映されている。そして、その男優の尻を猫の女優が責めているものだ。
だから嬌声は男優のもので、女優は彼を罵倒している。画面の中では、女優が男優の尻に指を突っ込み、そのまま手を大きく震わせていた。
そしてカメラが男優の尻をアップにすると、大介の手つきが一気に早くなる。彼は身を乗り出してイスから立ち上がった。
中腰の姿勢で必死に逸物を擦る。手は加速を続け、乱暴気味な独り遊びだからか床にぽつ、ぽつと雫が滴り落ちていた。それでも彼は下半身を開けっ広げ、欲望に忠実に従う。
「はあっ……!! んっくっ……ふっん……あぁっ……!!」
大介も男優の声にあてられたのか、声を自重しない。パソコンから漏れる艶めいた声と、大介の上擦った吐息が混ざり合う。
そして、獅子の男優の声がピタッと、止まる。すると直後に、彼の肢体がガタガタと、まるでバネになったかのように激しく身悶えし始めた。
カメラが更にアップし、男優の股間を映す。縮こまっているペニスから、先走りも漏れず、白いつゆがとろ、とこぼれた。
瞬間、大介の脳にその光景が強烈に印象付けられる。まるで、眩い閃光と共にカメラのシャッターが切られたかのような。
と同時に、大介の全身がぶるりと震え、彼は手元にあったティッシュ箱からティッシュを乱雑に引っ掴む。彼の肩がびく、と引き攣り、顔に苦悶の皺が刻まれた。
「あっああぁっぐっぅうん……!!」
大介は力みながら声を荒げ、手に取ったティッシュの中に精液をぶちまける。手の平に伝わる、己の熱と劣情の塊。何枚も重ねて厚みを増した紙だが、噴射する度に貫通しそうな勢いだ。精液が尿道を駆け上り、心地良さが全身を巡る。大介は、開放感に包まれていた。
射精が落ち着き始めると、大介は肩を落として一息つく。既にティッシュの中には大量の精液が張り付き、雄汁の澱みを作っている。またあまりにも濃厚だったのか、ゼリー状の色濃い精液も吐き出していた。
寸でのところでティッシュが間に合い、床に零れ落ちることはない。大介は精液を出したティッシュを、更に何重にもティッシュに包む。鼻を啜り、ようやく臭いがしなくなったところで、近くのごみ箱の奥底に突っ込んだ。
「これも、拭かないとな……」
床にこぼれた先走り。妻にばれたら、なんと言われるか。急ぎそれも拭き取り、同じようにごみ箱へと始末する。
すると、大介は手の平の跡に気付く。射精した量が量だけに、大介の手には精液が染み付いている。
そこから香るのは、生臭さ。チーズを更に発酵させたような臭いとも、腐った魚介のような、異臭が混ざり合ったもの。また、汗や塩気をたっぷりと含んでいるような臭いも感じられた。
つんとした臭いが立ち上る。しかし、大介は顔を背けなかった。一度臭いを嗅ぐと、また鼻を啜る。
どこか癖のある臭い。鼻が慣れており、忌避するものではなかった。何せ、男が精通を迎えた日から嗅いでいる臭いでもある。
まだ、大介の逸物はびんと反り立っている。手の平に焦点を合わせ、更に鼻に寄せていた。そして、大介は何のためらいもなく、べろりと舌を伸ばす。
「んっ……」
大介は喉を張って、眉をしかめる。舌の上に広がったまま張り付き、とても飲めたものではない。唾液を含んでも、なかなか流し込めないからだ。
苦味と塩気が口の中を支配する。慣れない味と舌触り。
だが、大介は、もう一度手の平を舐める。青臭くて、喉がイガイガして嚥下しにくい。決して好きとは言えない味。それでも大介は無心で口の中を、己の子種で満たす。
舐めなくていいと分かっているはずなのに、一度口をつけたら止まらない。まるで、中毒性があるかのようだ。手の平が、精液から唾液に上塗りされていく。
そして、流れっぱなしの動画から激しい喘ぎが部屋中に響いたところで大介はハッとした。
「……ああクソ! 俺、なんで……!」
手を拭うとすぐに動画のプレーヤーを閉じ、パソコンを落とす。途端に自分の行為を恥じらい、大介は顔を赤くした。
「やっぱり俺、変だ……。男のケツに興奮して……」
視線を下げ、股間を見下ろす大介。そこには、少しずつ皮が戻りつつある彼の巨根包茎。しかし、一向に勃起したままで、太竿に絡みつくように浮かんだ血管が、どくどくと蠢いている。それは思春期の性欲どころではなく、まるで精力剤を服用したかのように溢れる獣欲だ。
また、それだけではない。大介は、むず痒さを覚え、引き締まった尻に手を伸ばす。太い尻尾の下、双臀のあわい。そこに指の先端を少しだけ食い込ませた。
「あっぅ……おっぉ……」
逸物がむちのようにしなり、大介は思わず股間を突き上げた。割れ目が熱く、じっとりと汗ばんでいる。触っただけで、痛くも気持ち良くもないが、隙間を埋める妙な充足感があった。
肛門の周辺は毛が薄まり、皮膚が露出している。くすんだ紅色のそこに、少しばかり爪を立てると、またも大介は気の抜けた声を上げた。
しかし弄れば弄るだけ、大介の心臓が早鐘を打つ。身体中の毛の一本一本が、ざわめき立つように感じる。まるで、禁忌を犯すかのような異常な高揚感。
「何なんだ……! 俺は、こんなんじゃ……!」
浅ましい自分の姿を顧みて、歯噛みする。しかし、彼の股間は正直に反応し、興奮したままだ。
大介は、ふとした昂りが弾けたから、自慰を始めたわけではない。
あの日、会社のトイレで致してから、大介の夢精はぱったりと止まった。最初こそいつ訪れるか分からない粗相に怯えていたが、快眠が一週間続いたところで大介は確信する。もう替えのパンツを買わなくて良い。起床時に後始末をしなくても良い。それは大介にとって、喜ばしい事態だった。
それから暫くは以前の生活に戻ったかと思われた。だが、夢精こそしなくなったものの、彼は急にスイッチが入ったかのように劣情を催すことが多々あった。出勤中の電車の中やデスクワーク中、また家族と食事しながら等、時と場所を選ばない。
夢精と違い、まだ対処できるだけマシだと大介は考えていたが、しかし彼は奇妙な感覚をその都度覚えたのだ。
逸物を扱くだけでは物足りなく、尻が切なく疼く。射精の後にやって来る虚無感と同時に、釈然としない不満を覚える。
そして、変わらず謎のメールが送られてくる。それは猥褻画像の類が添付されないものの、まるで今の大介を把握しているかのようなメール内容だった。
そのどれもが、〝肛門を使った自慰〟に関するものだ。道具の使い方に、尻の弄り方が載っているウェブサイトのアドレスが貼られたり、或いは本文に長々と綴られていた。
無視をすればいい。そう決め込んだ大介だったが、いつの間にか必ずメールに目を通すようになった。そして今では、知りえなかった尻の性感帯、そしてそれ専用の性玩具に関しても頭に入っている。
しかも、それで終わりではなかった。
大介の足元に、通勤用のカバンが置かれている。彼は、中を開けるとそこから何かを取り出した。
「……こんなもんまで、買っちまって」
大介が手にしたのは、黒々とした、シリコン製の棒。しかしその形状は、男性器そのもの。いわゆる、ディルドと呼ばれる大人の玩具。エラを張っており、またびっしりと絡みついた血管も模していた。根元には吸盤と陰嚢も備わって、それが土台代わりになっている作りだ。
サイズは大介の怒張よりも、小さい。立派なものだが、成人男性の平均よりも下回るだろう。
「……脅迫だ。相手は、俺の住所も会社も知っている。だから、これを指示通りに買っただけだ……!」
大介の言葉に嘘はない。彼は実際に専門店へ赴き、初心者用のモノを買ったのだ。
ある日、彼の元に届いたメール。それは、自宅と会社の途中駅にある、性玩具専門店の場所を知らせる物だった。
同時に記されていたのは、真っ黒なディルド。今まさに、大介が手にしているそれを、買えと書かれていた。
大介は、その時初めてメールの相手に恐怖したのだ。相手は自分の居場所を熟知している。相手の詳細は、依然不明だ。何をされるか分かったものじゃない。通報なんてすれば家族にも危険が及ぶと考え、大介は命令に従わざるを得なかったのだ。
そしてディルドも、家族に発見されてはまずい。だから通勤用のカバンに仕舞ったのだ。
「尻を弄れなんて、何を考えてんだメールの相手は。自分でケツを開発出来るのは難しいなんて、ネットでそんな記事いくらでも見たぞ。馬鹿げてる」
吐き捨てるように言うも、股間はやはり硬いまま。そして尻が、ディルドを見てからより疼いたように感じる。決して口には出さないが、大介自身、期待と不安の最中にあった。
大介は更にカバンを漁り、そこからローションも取り出した。同じくそれも、性玩具店にて購入したものだ。
そして壁掛けの時計に目を向ける。時刻は、二時半を回ったところだ。家族が帰ってくる夕方まで、まだ時間がある。独りで過ごせる時間は、そうそうない。
またディルドに視線を戻す。ただの性玩具だというのに、その凝った作りが大介を誘う。手にしっくりと来る重さ。卑猥が、形になったかのように感じられる。
尻が、きゅうと疼いた。大介は深呼吸すると、ゆっくりと口を開く。
「……一度だけだ。それで痛い思いをすれば、忘れられる」
無理に欲求を抑えつけるのはかなわない。好奇心にも抗えない。だから、彼は家族がいない間に、未知の世界に踏み込もうと決意した。
大介はディルドとローションを持ったまま、浴室に向かう。洗面所で手早く服を脱ぎ、中へと入った。
風呂場に備え付けられた鏡。そこに映されるのは、大介の生まれたままの姿だ。
身長180cmを超す身体は厳つく、肩幅も広い。かつて学生時代にラグビーで鍛えられたから、二の腕や太ももは張りがある。股間のモノも、惚れ惚れするサイズだろう。
しかし少しばかり下っ腹が丸みを帯びていた。あのメールが来てから会社の運動クラブに参加する機会が目に見えて減っており、中年太りの兆候が出始めている。意識的に会社での人付き合いを避けた結果だ。
そんな自らの失態に、大介は悔恨の念に駆られた。
「さっさと、終わらせよう」
大介は床に膝をつき、ローションの容器を開ける。逆さにひっくり返し、中身を手に垂らす。ひんやりとした、粘ついた液体が手の平に広がった。
少し指を動かせばにちゃにちゃ、とローションが擦れ合う音が浴室内に響く。親指と人差し指を離せば、どろりとした糸が引いていた。
「これを……ケツに塗って……」
大介はメールに記載された尻の解し方を思い返す。彼の頭には、もう嫌と言うほどその知識が詰め込まれていた。
左手を壁につき、股を大きく開く。それでも筋肉と脂肪が合わさった、むちっとした彼の尻は縦筋を引いたままだ。双丘の間のクレバスは、全く見えない。
それから右手を臀部に押し付ける。そしてそのまま、割れ目へと食い込ませていく。
「んっ……くぅ……!」
毛の薄いすぼまりへと指をあてがうと、大介の全身がぶるっと震えた。火照る身体とは対照的に、ローションは冷たく、そして粘ついた妙な感触だ。彼の息が、僅かに上ずった。
大介の手が硬直する。肉球が筋のような部分に触れ、肛門周辺の小じわの密集地帯だと分かった。臀部とは感度が段違いで、そこに到達すると膝が硬直し、首や胸も締まる。
鼓動が早くなりつつあった。まだ痛みはない。しかし、初体験ゆえに大介は踏ん切りがつかなかった。
そっと視線を横にずらすと、鏡が目に入る。そこには、自身のあられもない姿が映されている。本番はこれからだと言うのに、極度に疲弊した虎の顔。不安と緊張が募り、額には脂汗が浮かんでいた。
しかし、腹に沿うように勃ち上がったままの逸物が、ひくついている。この状況でも、彼の雄の本能は淫蕩にまみれていた。それに、尻尾も上向きのまま萎える気配がない。
まるで辱めを受けているかのようだ。己の下劣な恰好に唖然とした。だが、同時にこれを望んだのは自分だと、大介は自身に言い聞かせる。
瞼をぎゅうと閉じ、深呼吸を繰り返す。もう後には引けないと、大介はそのまま指をゆっくりと差し込んだ。
「んくっ……うっ……!」
ずず、と人差し指が侵入する。力を抜けば、指一本程度ならなんとか挿入できるようだ。
ローションの冷たさと、それに覆われた人肌の指の生温かさが交互にやって来る。
そして、人差し指にも自分の直腸の温かさが伝う。口と同じく体内だけあってか、ねっとりとした熱を持っている。
「このまま、肛門、を……」
腰を突き出して、一度指を引き抜く。そしてまたローションを手にべっとりと塗りたくり、再び指を尻にあてがう。
今度は左手で尻を持ち上げ、くぱ、と肛門を開帳させる。既にローションの滴っているそこは、艶やかな光沢を帯びていた。剥き出しの皮膚はやや赤黒く、放射状のしわが刻まれており、その中心にローションをとろりと吐き出す肛門がある。
くすんだ色とは言え、未使用の穴だ。解れてもいない、正に純潔。
そこへちゅぷ、と指を挿れ、少しずつ動かす。上下左右、と出入り口を拡張していく。
薄目を開き、大介は床に置かれたディルドを見やる。サイズが小さいとはいえ、指より遥かに大きい。こんなものが入るのだろうか、と彼は半信半疑に尻を弄る。
「んおっ……おっぉ……!!」
指を思い切り突き立てると、大介は苦悶の声を上げた。
痛みはさほどでもないが、異物感が大きく、声を上げずにはいられなくなる。だが大介はなんとか踏ん張り、稚拙な動作だが尻の愛撫を続けた。
第一関節まで入った指を回し、肛門をこじ開ける。括約筋が締まり、本能的に指を追い出そうとしていた。それに抗うように、更に指を飲み込ませる。
「あおっ……おおぉぉ……!」
ごり、と第二関節まで挿入したところで肛門が締まる。指の先端も硬い腸壁にぶつかり、初めて激痛が走った。
大介は目を見開き、必死に食いしばる。額とマズルに、大小のしわがよじれ込む。鼻息が一気に荒くなり、片膝が床についた。
彫刻のように固まり、呼吸が乱れる。指が挿入されたまま、しかし大介は決して引き抜かなかった。
「これさえ、耐えりゃ……あんなに、気持ち良くなれんなら……」
大介の眼前に浮かぶのは、これまで自慰のオカズにしてきた男たち。誰もが尻を弄られ、また自ら性玩具を突っ込んで快感を得ていた。そして逸物を扱くそれと異なり、絶頂を迎えても数分、或いは数十分もその高みにいたのだ。
スマートフォンで見た狼の動画も、鮮明に思い出せる。通勤中に仕事中、家族との食事中も、いついかなるときでも想像してしまうのだ。それだけ大介は、痛烈に惹かれていた。
もう少しであれが体験出来るならば、と大介は姿勢を変える。指を引き抜き、今度は四つん這いになって尻の愛撫に戻った。
そして手だけでなく、腰にも直接ローションをどっぷりとかける。尻や太ももにべっとりと滴り、また尻の溝にも垂れていく。その冷たさに慣れたのか、大介は小さく吐息を漏らすだけだ。
腹の下から股間へ腕を伸ばし、会陰部に指を這わせると、ぬるぬると滑る。そのまま指を、肛門へスライドさせた。
「んおっぉおっ……! おあっあ……!」
大量のローションが潤滑油として役立ち、狭い肛門に容易に指が侵入する。
硬く、骨太の第二関節まで潜り込む。指を取り囲むように腸壁が圧迫し、侵入を拒もうとする。
「ふっぅ……! うっく……んっ……!」
大介は床に顎を擦りつけ、左手を床から離すとローションを取る。そして肛門に右手の指をかけたまま、そこへ更にローションを追加していく。
突き上げた尻に垂れた粘液が、少しずつ、ゆっくりと肛門に付着する。そして下へと落ちるように、直腸へ入り込んでいく。
窮屈だった肛門が、擦れて拡がりを見せていた。大介の人差し指の根元までずぷぷ、と音を立てて埋もれていく。
そして腸壁をなぞりながら出し入れする。引き抜くと中で温められたローションがとろりとこぼれ、それに反応してか肛門がぴくぴくと妖しくひくつく。
未だ、快感には遠い。大介の逸物も、痛みや息苦しさからすっかり萎えて、垂れ下がったまま先端まで皮を被り先細りの形になっていた。
しかし大介の顔は苦痛に歪んでいるわけではない。呆けたような表情に、瞳が潤んでいるがやはり顔は赤らんでいた。
痛みに慣れ、抽送運動が早くなる。彼の息遣いと、グチュグチュと泡立った音が大きくなりつつあった。
「ふんっくぅ……!!」
時折、大介は直腸に挿れた指の関節を曲げる。ぐぐ、と指をL字に曲げ、まとわりつく腸壁を更に拡げていく。圧迫感が尋常ではなく、大介の額だけでなく身体中から汗が噴き出す。
しかしそれでも尚、傍に置いたディルドが入るか疑わしい。それを横目にしながら、大介はもう一本、指を突き入れようと試みる。
「ふぅっ……! ふんっぅ……!」
既に人差し指が差し込まれた肛門に、中指の先端をあてがう。肛門を捲り、またローションを出し切る勢いでどっと振りかける。
両足をこれまで以上に開き、尻も天井に向けて肛門を晒した。太ももは電流が走ったかのように震え、必死に巨体を支えている。
中指を肛門に引っ掛け、大介は無理やり貫こうと力を込めた。二本目の指は、まるで採掘のように岩盤を掘り進めていく。今まで排泄するための器官を、外から弄るのだから大介の身体にはひどく負担がかかっていた。しかし、もう大介は中断するという選択肢が浮かんですらいない。
「ううっんぅうっ……ぐぅんっ!!」
大介は指を震わせながら、ようやく中指も突き立てる。そして僅かな隙間を縫うように、指先が引っ掛かると、間を置かずに二本の指を奥までめり込ませた。すると筋肉が張って指も、尻穴もずき、と痛みが走る。
指を差した状態で、何度も挿入を繰り返す。中のローションがぐちゃぐちゃにかき混ぜられ、堰を切ったように肛門から液体が垂れ流されていた。まるで涎のように、つぅと肛門の襞を濡らし、会陰部から裏玉に少しずつ滴る。
そして大介の身体に、変化が訪れた。
「んあっ……!? あっぁ……おぉっ……!?」
大介の巨躯がびくん、と弾んだ。
肩がつりあがり、同時に息が止まる。尻尾も固まり、その顔には困惑が見て取れた。
一転して、驚きの声を上げる。そして縮まっていた逸物がしなり、肉付きの良い腹が揺れて波紋を立てた。
ひゅう、ひゅうと風を切るような、脆弱な呼吸をする。
「こ、ここが……男の、Gスポットなの、か……?」
逸物の奥に位置する前立腺。そこを刺激すれば、長時間の絶頂が続く。
指先にほんの少しだけ当たる、硬い感触。それに触れた瞬間、まるで雷に打たれたかのように、凄まじい快感に襲われた。
一秒にも満たないのに、頭の中身が吹き飛んだよう。試しに、大介はまた奥へと指を伸ばす。だが、彼は先ほどと同じく苦しい悲鳴を上げた。
「んぐっううぅっ……! 腕が……うぐっ……! 姿勢を、変えてみるか……」
無理な体勢を維持していたせいか、体のあちこちが軋む。腕が攣りそうになり、足もガタついていた。かつてラグビー時代に味わったシゴキよりも、今は重くのしかかっている。尻の痛みが、思ったよりも体力を消耗させていた。
大介は指を引き抜くと、四つん這いから仰向けになり肩を壁につける。浴室に寝転び、楽な恰好を取った。そして両足を開けば、彼の解れたアナルが丸見えだ。
肛門を囲むようにぷっくりとした肉襞が形成され、フジツボのように盛り上がっている。絶えず、ローションを吐き出し続ける様子はおねだりを思わせていた。愛液代わりのローションを漏らしながら、挿入して欲しい、と女性器のように息づいている。
下準備が整い、大介はディルドを手に取った。後は、これを突っ込めばいいだけだ。
弛み始めた腹と、皮被りの自身を見やりながら両足の間にディルドをあてがう。左手で肛門を左右に押し拡げ、入り口を最大まで開くとじゅぷ、とディルドと肛門が擦れて音を立てる。その時になって、大介は童貞を捨てたときのことが頭をかすめた。[uploadedimage:101847]
胸の鼓動が止まらない。怖気が立つのに、拒否する気はなかった。挿入される側は、こんな気分なのだろうか。
頭を振り払う。余計なことを考えないように、意識を集中する。そして大介は、自分の中へと雄棒を突っ込んだ。
「ぐっ……くぅっ……!」
みちみち、と肉が裂けるかのような拡張音。精一杯の深呼吸の後、ディルドの角度を変えたり或いは回しながら穿つ。
だが入念に解したかいあってか、最初よりも痛みは薄らいでいた。
勢いづかせて、強引に侵食させる。指よりも主張の強い質量が、腹の中に入って来ようとしている。
額から滲む汗が垂れ、汗ばんだ身体はじっとりと濡れていた。呼吸すれば、緊張のせいで渇いた喉に外気が突き刺さる。
ディルドの吸盤部分に持ち直し、とにかくアナルを掘り進めた。亀頭部分が大介の身体に隠れ、雁まで飲み込んでいく。
最も太い部分まで突っ込むと、より腹の中が重くなる。石でも詰め込まれたかのように異物感が激しくなり、呼気を出さないと苦しさが増した。
しかしずぶぶ、と挿入がスムーズになり、竿部分が詰まりもせず受け入れられる。既にディルドの半分ほどが、大介の中に消えていく。
「も、もうすぐ、か……?」
大介にもはや不安はなかった。またあの感覚を心待ちにしながら、獣欲を露にしている。疲労が見られる顔は、どこか輝いていた。普段の渋い中年面に出ない、子供のような無邪気な表情。
大介は尻を弄る前、痛い思いをすれば忘れられると言った。それで身体に学習させれば、疼きから解放される。だが、実際は違った。大介はむしろ自分から求め、縋りつくように知られざる秘部を目指している。
そして、大介の表情が崩れた。晒すのは、アクメの顔だ。
「はぅっ……!? ひうっん……おおっん……!!」
視界が大きくぐらつく。身体が振動し、まるで地響きを体感したかのようだった。
あの感覚が、蘇る。膀胱の裏にある硬いものにディルドがぶつかり、身体中の血が湧き立った。
大介は間の抜けた、だらしない顔を浮かべる。目尻に溜まっていた雫が頬を濡らし、半開きの口を開けっぱなしにしていた。
そして怒涛のように押し寄せる快感に、大介は抵抗する間もなく飲み込まれた。
「あっあっあっ……!! ふっん……うあっ……あっ!!」
めり、めり、とディルドが陰嚢と吸盤部分を残して、全て挿入される。そうやって犯しているのは自分だと言うのに、身体は犯されていると誤認していた。
喉から奏でられるのは、艶やかな雌の声。前立腺を突かれる度に、否が応でも声が漏れる。
痒いところに手が届く、なんてものじゃない。それとは比較にならない心地良さと快楽。脳内麻薬が溢れているかのようだ。
痛みが失せ、得るのは悦び。凹が凸にしっかり噛み合い、足りなかったものが完成した爽快感。
直腸がずぼずぼ、とディルドの形に拡がり、奥の前立腺も穿たれる。排泄の際に気持ち良く感じるそれが、延々と続く。射精と似て非なる絶頂が、大介の身体を支配していた。
そしてディルドを抜けば、返しとなった雁が襞を擦る。その摩擦ですら、大介に狂熱を与えた。ずるずると、竿部分を引くと腸内にぽっかりと空間が作られ、弛緩したところにまた突き上げられる。
「あおっんおっぉおおおおっ!!」
大介の声が反響する。彼の身体が、おのずから体勢を変えていく。
両足がぐぐ、と持ち上がり、太ももが腹に密着する。恥部と言う恥部が丸出しにされる、いわゆるちんぐり返しの姿勢だ。
そして大介の腹にぽと、ぽと、と白濁の雫が垂れた。巨根包茎の先端から、玉粒の精液が漏れている。ところてんのように、前立腺を突かれじわじわと射精したのだ。だが、彼は気付かない。オーガズムを味わい、逸物に意識が向かないからだ。
「こ、んなっ……ぉぉおおっ……! と、まらなっ、あっぁぉおお!!」
ずちゅずちゅずちゅずちゅ、と結合部から淫猥な音が反復する。がむしゃらにディルドを突っ込み、抉り、望むままに快楽に支配される。
頭の中が空白になり、桃色に染まる。射精と違って、一向に終わりが見えてこない。火照って興奮したまま、鎮火する気配がない。小突けば小突くだけ、もっと刺激が欲しいと身体がねだる。
「ひゅっ……ふおっんおおおおっ!!」
大介の叫びは遠吠えだ。理性が吹き飛び、本能だけで尻を弄っている。
浮遊感を覚え、まさに夢見心地だ。人生で、こんなにも多幸感に包まれたことはあるだろうかと、ただただ歓喜する。
重かったはずの身体が、軽々と飛び立っていくよう。腹を抉られ、臓器がディルドに圧されているというのに充足感に変換される。
足の先が反り返り、ぴくぴくとしきりに震えた。ディルドが肛門から直腸まで貫通し、前立腺を責める。そして、前立腺から四肢や脳天に至るまで被虐心が芽生えた。
滅茶苦茶にされたい。大介は、そんなことを抱きながら一心不乱に尻の自慰を愉しんでいた。[newpage]
「は、あ……あうっ……」
シャワーを浴びている大介の身体は、痙攣しっぱなしだ。タガの外れた大介は目覚めた獣性に全てを委ねた。その結果、痺れが鎮まらず、未だオーガズムの波が引かない。
尻からまだローションが垂れ、ぬるぬると床に滴る。蕾だった秘部が開花し、弄り過ぎたせいかまだ締まらない。逆に力んで排出しようとすれば前立腺を刺激し、却って性欲を煽る。これ以上は中年の身体に毒だというくらい、彼は疲労している。
それに包茎の皮を剥いてみると、包皮口に溜まっていた精液が糊のようにこびりついていた。十分に果てたのか、洗っている最中に逸物がみなぎることはなかった。
窓から外を窺うと太陽がオレンジがかっており、夕暮れを知らせる。それだけ長い間、没頭していたのだろう。
腰を擦る。筋肉痛には慣れっこの大介だが、少なくとも運動に使わない筋肉を酷使したためかずきずきと痛む。しかしそれでも、身に宿る昂りが痛みを和らげ気持ちの良い疲労と認識させた。
「くっう……! ヤり、すぎた……」
自省しても遅い。大介は壁に手をついており、支えがなければ生まれたての小鹿のように足がぶるぶると震えていた。
汗にローション、そして精液が床のタイルへ落ちて排水溝に飲まれていく。汚れを落とし、毛皮がすっきりしても、彼の精神は泥沼に浸かっていた。
気怠さと深い陶酔が交互にやってくる。意識が朦朧とし、気を張ろうにも精根尽き果てていた。
「それに、これをどうしたら……」
大介はディルドを掴んだまま、立ち尽くす。使った後は洗えばいいが、乾かす暇がない。もうすぐ家族が帰ってくる時間だ。それまでになんとか処理できれば、と大介が考えようとしたとき。
不意に、浴室の扉が開かれた。
「あ、パパお風呂入ってたの?」
「んっ!? か、帰ったの、か……?」
そこにいたのは、大介の妻だ。扉から顔を覗かせている。
大介は心臓が跳ね上がり、全身が引き攣った。しかし彼は笑顔を取り繕い、顔だけ後ろに振り向く。無論、ディルドは持ち抱え、自らの陰に隠す。
「さっきチャイム鳴らしたのよ。それで、今日は子供会で疲れちゃったから外食しようって子供と話してたの。それでいいよね?」
「あ、あぁうん。そうしよう。折角の休みだし、な」
「良かった。それじゃあ今日は外食にしましょ。それと携帯電話、鳴ってたから洗面台に置いといたからね」
「分かった、助かる」
「あと……パパ、ちょっと太った? 最近、会議ばっかりで運動してないから、お肉が付いてきてない?」
「あ、あぁ今が忙しいから。それが終われば、大丈夫だ」
「それ、この前も言ってなかった? もう、あまり無理しないでよ」
扉がぴし、と閉じられた。直後に、大介は壁によりかかる。
心拍数が上昇し、胸が痛む。少しでも浴室に入るのが遅かったら、少しでも長く尻遊びに没頭していたら、と大介は恐ろしい想像をした。
しかし妻の反応を見るに、大介が自慰をしていたとは感づいていないようだ。
「……タオルに包んで、急いでカバンにしまうか」
家族が帰ってきたのだからそうする他ない。もう大介の頭に、それを捨てる、という考えはなかった。
ゆっくりと足を踏み出し、浴室から出て身体を拭く。この瞬間にも、家族が来るのではないかと大介は気が気でなかった。
「そういえば、携帯がどうとか言ってたな」
腰にバスタオルを巻き、洗面台にあったスマートフォンを取る。見ると通知を知らせるランプが点滅していた。大介は急いで通知の内容を確認する。
メールの受信のようだ。何の気なしに、受信メールを開いたとき、大介は嫌な予感がした。しかし既に人差し指の肉球がメールアプリをタッチし、察した時にはもう遅い。
サイケデリックなロゴマーク。大介の予感は的中した。また、あの悪戯メールだ。
画面を閉じようにも、大介は顔を背けずにはいられなかった。恐らく、また何か命令が下り、そして自分を脅迫に至らしめる何かが添付されているかもしれない。
「……何だ、これ?」
しかしメールの内容に目を通した大介は、きょとんとした。それは大介の予想だにしないものであり、意図が理解できなかった。少なくとも、今は。[newpage]
「あの、係長? 係長?」
「ん、あぁ……どうした佐伯君」
役職を呼ばれ、大介は無意識に返事をした。瞼が重く、薄目を声の主に向ける。デスクの前には、きつそうな胸をしまい込んだ女子の制服。そこから視線を上げると、赤メガネのコリーの顔があった。
頭が働かない。コリーの輪郭が定まらず、揺れているように見える。
「係長。あの、大丈夫ですか!」
「んっ……!? あ、あぁすまない。ボーっとしてた」
語気を強めた佐伯の声に、ようやく大介は現実に引き戻された。はっきりと視界に捉えた佐伯の顔は、明らかに不機嫌だ。他の社員の視線が、一斉に大介に集まっていた。
大介はばつが悪くなり、謝罪を重ねる。
「営業担当の方の報告書をまとめましたので、目を通してください。それでは業務に戻ります」
「分かった、ご苦労」
佐伯は軽く頭を下げると、そそくさと自分のデスクに帰っていく。素っ気ない態度に、しかし大介は自分に非があると思い何も言えなかった。
渡された報告書を斜め読みするが、全く手につかない。目が滑ってまるで落ち着かなかった。
「今日は……ダメだ。なんで、こんな」
大介は悩ましげな顔を浮かべる。報告書を一旦置くと、彼は下半身に手を伸ばす。
柔らかなスーツを挟んで、硬い感触。しかも、それはトランクスの薄生地ごと出っ張っていた。大介は、イスに座り直しデスクの下に下半身をきっちり入れる。
トイレに立った時だろうか。用を足した後に、チャックを上げ忘れたらしい。指を掛けて、社会の窓を閉じようとして――その手を止める。
このまま、トランクスの穴からも露出したら気持ちいいのだろうか。皆が働き、女子もいる中で、ちんぽを出して仕事をするのはどんな心地良さなんだろうか。
そんな思考が、大介の頭を駆け巡る。だが、鬱積した欲を吐くように咳払いすると、誰にも見られぬようにそそり勃つ愚息をスラックスへ力づくで押し込み、チャックを上げた。
地に足がつかない感覚だ。だから目の前の仕事にも身が入らない。それが、数日続いている。
初めて尻を開発してから一週間、大介はミスを連発していた。ネクタイを忘れたり、ボタンを掛け違えたり、時にはオフィスに着いてからパンツを穿き忘れていたことに気付いた。それに、変わらず仕事中にも性欲が滾り、昼休みの時間をトイレにこもって自慰に費やすことも常態化している。
だが、そうであってもあの尻の快感がぶり返す。発散しているのに、禁欲しているかのような日々。尻を弄るには、場所も時間も足りておらず、切なげにきゅうと締まっている。独りの時間が、欲しい。
すると大介のもとに、怪訝な顔つきでサメの葭切がやって来る。
「島地、どした熱でもあるのか?」
大介の様子を不審に思ったのだろう。最近の失態は葭切も把握している。どれも致命的なものでないにしろ、異常だと察したかもしれない。
事情を打ち明けず、大介は平静を装った。
「葭切か。いや、そんなことはない。多分疲れが溜まってるだけだ」
「夢精が治った、って話は前にしたよな。それとも、家族サービスのしすぎじゃねぇの?」
「まぁ、そうかもな。うちは妻とも子供とも仲が良いからな」
「へいへい。ところで、今日飲みにいかないか。ここんところ、飲んでなかっただろ」
「あー……今日は、ダメだ」
大介はよそよそしく視線を逸らす。それを見てか、葭切は予想通りの返答だったのか事務的に流した。
「あい分かった。そうだ、前の悪戯メールの件はどうなってんだ? 最近、ネットの記事にもなってなかったか? メールがしつこく送られてきて、色んな命令をさせられるってやつ。確か、警察に通報しようとするとそいつの悪事や犯罪を晒しあげられるってやつだ。警察が捜査してもなかなか手が回らないみたいでよ」
葭切の話に、大介は眉を釣り上げた。僅かに、口がぷるぷると震える。
その記事自体は、大介も読んだことがあった。そして、脅迫の内容は悪行や犯罪だけに留まらないことも、充分に体感している。だが、それを口には出来ない。
数秒の沈黙が流れる。オフィスの喧騒がうるさく感じられた。大介は焦燥感に駆られ、咄嗟に返事をする。
「あれか、あれも、終わったよ。第一、そいつらってどうやってターゲットを調べてるんだろうな」
「何でもサーバー上のデータベースとか、規制強化とかで街中に防犯カメラが取り付けられてるだろ? そこにハッキングして、データを入手してるって話だ。それに、ネットで作られたグループだから世界中にメンバーがいるみたいだ。この近くにもいるんじゃないか?」
「……でも、いくら街中の防犯カメラって言っても限度がないか?」
「さぁな。噂には稼働音の少ないドローンにカメラを取り付けたりだとか、あらゆる場所に隠しカメラを設置してそれをメンバー全員が共有しているとか。お前、やけに食いつくな」
「い、いや……それこそ、葭切のほうが詳しくて、もしかして、お前がその犯人グループじゃないのかなってさ」
話題を逸らそうと、大介は冗談を放つ。下手に葭切に現状を悟られるわけにはいかない。相手は、個人情報を把握しているだけでなく、顔も見えない連中なのだから、うっかり口を滑らせて被害を拡大しかねなかった。
だが、葭切は冗談として受け止めていないようで、さも面白くなさそうな顔をして、言い返す。
「生憎、犯人じゃあねぇよ。大体、SNSとかで調べりゃそういう説がわんさか出るだけだ」
「そ、そうか悪い。聞き流してくれ。俺はこういうの全く分からなくてさ」
「へいへい。ま、こういうのは長続きはしないだろうよ」
「そうなのか?」
葭切の自信ある断言に、大介の耳がぴこ、と立つ。思わず、食いつく。
「あぁ。どうせ給料や報酬も出ない連中の組織だ。そんで互いに恩義もなさそうなやつらだろう。ネットで集まってるなら、人間関係が希薄でボロが出たらすぐに瓦解する」
大介は話を聞きながら頷いた。
営業係長である葭切ならばいかにパイプを繋ぎ、コミュニケーションを維持することの大事さを理解している。彼の見立ては間違っていないだろう。
しかし、大介は一刻も早く解決を望む。その組織が壊滅するのはいつになるか、問い詰めたい気持ちを腹に収める。
「ま、飲みの方はとりあえず、また誘うからそんときは空けといてくれよ」
手を振りながら、大介のもとから去る葭切。その後ろ姿を見送ると、大介は俯いてぎりぎりと歯の根を鳴らした。
その顔色には、怒りが見て取れる。
「話が本当なら、犯人をとっちめてやらねぇと……。いや、あんなメールを送って来たんだから、今日こそ……!」
葭切に助けは求められない。話したところで解決の糸口すら掴めないからだ。犯人は恐らく、葭切の言う通りネットを活用した悪質な集団。彼らの所業が、大介の現状と酷似している。そうであれば、八方塞がりだ。
しかし大介は、ある考えがあった。彼はこの日、毅然とした態度で仕事をこなした。股間の猛りを、必死に隠しながら。[newpage]
「ここで、いいんだよな」
大介はスマートフォンの地図アプリと、周辺の様子を交互に確認する。終業してから彼は、いつものように自宅の最寄り駅に降りたが、そのまま帰宅せずある場所に来ていた。
そこは寂れた神社だ。自宅のマンションとは反対方向に歩き始め、駅からおよそ十分ほどのところに位置する。辺りは閑静な住宅街に囲まれ、日が落ちると人通りが全く見受けられなかった。大介もこんなところに来るのは初めてだ。
神社は不気味に静まり返っている。社務所が見当たらず、賑わいを見せない。草木も手入れされておらず、鬱蒼とした印象だ。あまり管理されていないのだろう。
大介は参道を歩き、拝殿に向かう途中である小屋を見つける。青地の男性と赤地の女性のマークが描かれた立て札がかけられている、トイレだ。
男子トイレは薄明りが点いており、開放されているが、女子トイレはシャッターが下りている。夜間の暴漢対策だろう。
迷わず、大介は男子トイレに足早に駆け込む。
「うっ……」
入った瞬間、大介は鼻を押さえる。お世辞にもトイレは綺麗と呼べない状態だった。
かび臭さとアンモニア臭が鼻をつく。地面のタイルは黒ずんだ染みが点在して、元は白かったであろう小便器も黄ばんでおり、視覚と嗅覚に暴力を振るわれる。
掃除がされていないのか、或いは滅多に手が入らないのか。いずれにしろ、不衛生だ。
大介は三つある個室の内、真ん中のノブをひねる。ギィ、と立て付けの悪い音を軋ませながら開くと、そこもやはり近寄り難い。壁に卑猥な単語が落書きされ、出会い目的かいたずらなのか見知らぬ電話番号も書かれている。また、ドアの他に左右の壁を良く見ると、穴が開けられていた。とてもじゃないが用を足す気にならない。
悪戯にしては、あまりにも度が過ぎた。
だが大介は、個室へ入ると便座に腰かける。一刻も早く、ここから逃げ出したい。そう思いながらも、彼にはのっぴきならない事情があった。
改めて、大介はメールを開く。ちょうど一週間前、彼が自宅の浴室で尻を開発した直後に受け取ったメール。そこに書かれていたのは、とあるアドレス。そしてこう書かれていた。
『一週間後、退勤後にここの男子トイレの真ん中の個室に入れ』
当初、大介はこのメールの意味が理解出来なかった。アドレスのリンクはこの神社を指示し、すなわち男子トイレの個室とは、今まさに大介のいる空間。それまでの辱めを指示する内容と大きく異なっている。しかし、その後に送られてきたメールに、大介は度肝を抜かれた。
「くそ……。こんなのバラまかれた日にゃ、表歩けねぇだろうが……!」
メールの添付ファイルは、以前にもあった大量の猥褻画像だ。しかし、その被写体は体格の良い虎獣人の男。やや色落ちした毛皮に鋭い目つき。加えて、通常時は先っぽまで包皮に覆われた巨根包茎に、勃起時は半分ほど剥けて苺に似た鮮やかな紅色の亀頭が特徴だ。
どこかのトイレの個室で逸物を扱き、蕩けきった表情を晒している。射精の瞬間を収めた画像もあれば、下半身を全開のまま後始末をしているものもあった。他にも、放尿している様を撮られている。
極めつけは、風呂場を外から撮ったであろう画像だ。そこには股を広げて尻に異物を挿入している虎の男。
どれも、大介に他ならない。信じたくはなかった。他人の空似、で済ませたかった。
しかし写っている画像の中に、見覚えのある社員証がある。また、尻に突っ込んでいる異物は、大介が持っているディルドと同じだ。
自分の自慰の現場を隠し撮りされている。それは葭切が話した、ハッカー集団の仕業に間違いなかった。しかも、大介は尻の自慰に夢中で気付けなかったが、恐らく浴室の窓からドローン撮影されたのだろう。
こんなものを送り付けられては、大介は服従せざるを得なかった。葭切にも、相談出来ようもない。自分が日中、スーツ姿のままオナニーするだけでなく、尻を弄っていると、告白するようなものだ。
いつでも社会的に抹殺できる、そんな警告だろう。犯人の狙いは不明。だが、大介はむしろ好機だとポジティブに考えた。
「ここで脅迫するなら、とっちめるしかねぇ」
夜、ひと気のない通り。そして足元がおぼつかない寂れた神社。絶好の脅迫場所だろう。大介は、犯人がここで接触してくると結論に至った。
スマートフォンをいつでも通報出来るようにセットする。相手の顔を撮るために、カメラのアプリも即座に起動出来るように準備した。
言いたいことは山ほどある。何故、自分に悪戯メールを送り付けたか。あのメールに何を仕込んだのか。自分の何が狙いなのか。
大介の腹の虫が収まらない。それに、まだ彼の性の昂りは冷めない。尻の絶頂から一週間経ち、身体があの欲望を求めている。まるで禁断症状だ。これも、早く解決したい。
しかし、相手から場所と日付は指定されたが、正確な時間までは不明だ。それまで、個室に篭るほかない。
「早く、来い……――んっ?」
かつ、かつ、と足音が聞こえてくる。大介はそっと立ち上がり、便座にカバンを置いた。
そして扉に近づくと耳をそばだてる。犯人だろうか。それとも、ただ用を足しに来た一般人なのか。
息を殺し、向こうを窺う。やがて、大介はちょろちょろちょろ、と切れの悪い水音を耳にした。
大介はホッとする。目当ての人物ではないようだ。脅迫を前に、呑気に用を足すとは思えない。
すると、また一つ足音が追加される。同じように放尿の音が聞こえ、大介は少し訝しんだ。
何せ駅方向に向かえばコンビニがあり、多少我慢すれば駅のトイレも使える。ここよりもずっと清潔だ。余程切羽詰まっていたのだろうか。
大介は一度、便座に座り直す。一般人がいるのであれば、脅迫者もまだ現れないに違いなかった。
気を揉み、少しばかり苛立ちが募る。今後の人生に関わるやり取りを控えているからだ。無意識のうちに、目尻がつりあがり鬼のような形相になった。
しかしそんな大介の剣幕も、驚愕に変わる。
「んっんぅっ……ん。はぁっあ……あぁっ……!」
扉の向こうから、呻き声。大介は身構えた。不吉な想像をして、大介は背筋が凍える。
あまりにも不自然な声。先ほどの一般人二人が、何かに巻き込まれたのだろうか。いずれにしろ、外が気になる。
そんな大介の目に飛び込んでくるのは、正面の穴。おあつらえ向きに、立った時の目線にちょうど良さそうだ。
「……不本意だが」
大介は再度、扉に歩み寄り、身体を密着させ穴から外を覗き込む。そしてそこに広がっていた光景は――。
「――えっ……!?」
大介は一度扉から顔を離す。目を瞬かせ、息が詰まったかのように立ちすくむ。
驚きで、心臓が高鳴る。目に映った光景が、信じられなかった。しかし大介は、取り乱さないように、ネクタイを締め直すとまた外を窺う。
そこにいたのはスーツ姿の獅子と、ジョギング中だったのか上下ジャージ姿の鰐。どちらも中年で、獅子は毛艶が落ちてところどころ毛皮が薄い。鰐は丸々とした身体で、鱗が一部剥げていたり、瞼が垂れ気味だ。
そしてあろうことか、獅子が鰐の逸物をしゃぶっている。鰐のジャージズボンが膝まで下ろされ、その前に獅子が屈んでいた。
鰐が獅子のタテガミに突っ込む様に手を置き、股間を突き出している。しかめっ面を浮かべているようにも見えるが、口吻が閉じては開いてを繰り返し、息遣いが激しい。顎を上げ、艶気を含んだ低い声を漏らしている。大介が耳にした声は、彼のもののようだ。
そして獅子は鰐を見上げながら、彼の逸物を口に含んでいた。鰐のスリットからはみ出したそれは赤く充血し、包皮のない雄棒。それを咥える獅子の顔は蕩けており、頬に朱が差していた。
獅子は鰐の腰に手を回し、頭を前後に動かす。じゅぽ、じゅぽ、とフェラチオの音が響く。そして鰐の喘ぎが合わさる。
レイプ現場に出くわした、わけでもない。彼らはまるで同意の上で行為を始め、場所をわきまえずに乱れている。大介は、目が離せなかった。
「もしかして……ハッテン場、ってやつか……?」
ふと大介が思い浮かべたのは、尻の開発を調べる内に見た、男性同性愛者が集う場所。ひと気のない場所や時間帯を利用し、そこで気の合った者同士で性行為に及ぶというものだ。自分がまさか、そんなところに呼び出されたとは。
大介には、二人が恋人同士に見えなかった。会話もなく、淡々と口淫が続く。それに盛るなら、もっといい場所があるだろう。
至近距離で見るそれは迫力があった。鰐が尻を撫で回され、尻尾の付け根部分を掻き毟られると、彼ははしたなく叫ぶ。そして身体をくねらせ、腰を振る。
アンモニア臭が鼻につく。彼らが排尿したそれが流されていないのだろう。当然、鰐の逸物は小便を出したてで臭うはずだ。だが、獅子はお構いなしに彼の逸物を根元までしゃぶり尽くし、ぢゅぢゅぢゅ、と吸引する。
「い、イグ……!」
鰐の身体が小刻みに震え、彼は射精を伝える。その瞬間、獅子が口を離した。そして鰐の逸物を掴み、顔を逸らす。
「イ、イグ、イグぅううう!!」
重低音の効いた叫びは断末魔のようだ。大介の毛皮が逆立ち、緊張させるほどの荒々しい声。
そして彼の雄棍から、びゅるるる、と精液が放たれた。あっけなく絶頂に達したためか、あまり飛距離はないがどろどろの濃い精液が、タイルに付着する。
トイレの悪臭が、一気に嗅ぎ慣れた青臭さに上書きされた。大介は、二人の動向を見つめる。
「俺のも、やってくれよ」
そう言って獅子が立ち上がり、ズボンを脱ぐ。そして鰐に見せつけるのは、褌姿の下半身。既にモノは怒張しており、白い布を押し上げている。
下着にしては珍しい。しかし鰐の下着も、大介が見たことのない物だ。ラグビー時代に穿いていたサポーターに近く、尻尾の付け根を囲むが尻が丸見えになっている。
その下着も、自分が同性愛者だと証明するための物なのだろう。
「そ、それじゃあ……」
鰐が獅子の股間に手を掛けようとする。しかし、その手を獅子が止めた。
「外で、ヤろうぜ。他の客の迷惑になっちまう。それに、外の方がまだ汚くねぇだろ」
「そ、そうかい」
気弱そうな鰐は、獅子に言われるがままに外へと出ていく。穴から覗ける範囲に、二人が消えてトイレにまた静寂が戻った。
しかし、大介はすぐ便座に着座しない。その股間が、痛いほど勃起していたからだ。
「ほんとに、俺……ホモになっちまったのか……? ……メールだ」
自分の身体の変化に、心が曇天に覆われるのを感じる。頬を伝う汗を、シャツの袖で拭う。こんなにも胸の内が揺さぶられるのに、しかし彼らの情交を目の当たりにして股間がすっかり臨戦態勢に入っている。
だが悩む暇はなかった。スマートフォンを取り出し、大介は便座に座ってメールを見る。
受信メールは、やはり脅迫相手だ。飽きるほど見た、気味の悪いロゴから先をスクロールする。
『奉仕しろ』
文面は、それだけ。大介は、すぐにスマートフォンをしまう。
「ここには、来ないのか……!」
もうすぐでこのトラブルが終わりを見せる。それを目論んでいたが、まだ先は長い。
いっそ、こちらからメールを送って相手とやり取りをするべきか。しかしすぐに思いとどまる。それでは完全に相手の思う壺なのだ。
それに命令の意味が分からない。〝奉仕〟とは、何か。男が犯される映像に興奮するようになり、尻を弄るようになり、そして男の営みに本能を狂わせる。それでもまだ、痴態を要求されるのか。
全身が火照る。首を締めるネクタイが、体にまとわりつく下着とスーツが邪魔に感じる。逸物が、精液を吐き出したいと訴える。
大介は我慢の限界だった。男なら、誰でもいい。メールが、呪いのように作用し、果てのない性欲が、こみ上げてくる。
「もう、ここから出るぞ……――っ!?」
ゴン、ゴンとノックの音で大介は顔を上げた。個室に、誰か入ろうとしている。
立ち上がって穴を覗き込もうとした。だが、すぐにまたノック音。それは、正面ではなく、左の個室からだ。
そちらに顔を向ける大介だったが、彼はあるものに目を奪われた。先ほど確認した、左右の個室と繋がった穴。それは腰辺りの位置に出来たものだ。
そこから、逸物が飛び出ている。包皮の剥けきった、赤黒いペニス。
大介の頭が、混乱する。だが、少し整理すれば状況を理解出来た。
ここはハッテン場で、そして通路側からも大介の個室を覗ける。大介を品定めした物好きが、隣の個室に入り、フェラチオを要求しているのだろう。
それが恐らく、メールの〝奉仕〟という内容。だが、そんなもの無視すればいい。カバンを持って、さっさとここから立ち去れば何の問題もなかった。不潔なトイレなのだから、尚更ここにいる意味がない。
そう、自らに言い聞かせる大介。だが、彼の足は棒のように固まり、あろうことか、ぶら下がった逸物を前に生唾を飲み込んだ。
パンツが、冷たく濡れている。ギンギンに勃起した逸物から先走りが漏れていた。
大介の頭が、目の前の男根しか考えられなくなる。間近で男性器を見る機会など、そうそうない。それに、触ることも、口にすることも。
使い込んだような色具合。傘をきっかり開いた、成熟したペニス。サイズは大介のものと同程度の巨根だが、淫水焼けしたそれは蠱惑的に映る。
胸の高鳴りを押さえつけられず、大介は差し出された逸物の前にしゃがんだ。雄の臭いが、漂う。汗や脂の、すえた臭い。口を近づけ、息がかかるとびくびく、と逸物がいやらしく震えた。
壁越しに呼吸音が聞こえる。相手の顔はおろか、年齢も体型も職業も、下手したら学生なのかも分からない。ただ無防備に、逸物を晒すだけだ。
それを大介は、恐る恐る舐めた。亀頭に舌をあてがい、アイスキャンディを味わうかのように雁裏からすくい上げて。
塩気が、広がる。燻製肉のような、発酵した味。それに僅かな苦味が舌の上に走った。皮脂と老廃物、そして小便滓が付着しているのだろう。それらが合わさった臭いが、大介の鼻を刺激する。
生臭く、苛烈だ。しかし大介はますます目の前の逸物に陶酔した。雄が雄たる所以の、性臭とフェロモンの塊。それを前にして、誘惑に逆らえなかった。
口をつけたまま、逸物の根っこを掴む。そして亀頭を唇で挟むと、ぷっくりとしたそれを舌で扱く。べろり、と舐め回すと、口の中で相手の逸物がむくむくと鎌首をもたげ始めた。
それが大介にとっては、悦ばしかった。初めての口遣いに、相手が興奮している。大介の奉仕の心に、火が点く。
竿に舌を這わすと糸ミミズのように腫れ上がった血管が自己主張する。どくどく、と血の滾りを感じた。
「んは……あむっ……んじゅ……」
鼻から取り込む臭いだけでは物足りない。雄臭を肺に溜め込みたい。
大介は逸物の根元まで一気に咥え込む。そしてじゅるる、と吸引しながら頭を引く。独特の味と臭いが、大介の感覚を支配する。
ラグビー時代に体験した、むせかえる熱気。そして泥と汗まみれになった仲間と着替えた臭い。記憶の奥底で眠っていたそれも、途端に濃厚な色香として蘇る。
それが大介の性欲を喚起し、夢中になってしゃぶり、独占欲に駆られた。もうモニター伝いに見る男性器では満足出来ない。ディルドと違って熱く、官能を催すスパイスにまみれているのだ。これを知っては、戻れない。
「もう我慢、できん……!」
これ以上は無理だと、大介はチャックを下ろしてそこへ手を突っ込む。トランクスの前開きをこじ開け、引っ掻き回すように自身の逸物を取り出す。
露出したそれはもう十分に湿っていた。真っ赤な亀頭から蜜がこぼれ、少しだけ剥けた包皮の口に透明な淀みを作っている。
右手でしっかりと自分の包茎を握り、左手で相手の露茎を押さえる。そして同時に、刺激を与えていく。
扱きやすいように、床に膝を立てる。ズボンが汚れる、そんなことは大介には些細なことだった。
包皮を捲り、限界まで剥く。ちくちく、としたこそばゆさ。そして亀頭を覆い被さる勢いで握り締め、雁を圧迫する。もう何十年の付き合いにもなる行為が、ペニスを頬張っているせいで欲情が止まらない。
「ふはぁっ……んちゅう……」
大介は口を離すと、竿の根元からちろちろと舌を滑らせる。蛇のように早い舌遣いで、しかし先端だけを沿うように。
半ば当然のように、相手が悦びそうな口の遣い方をする。AVの真似事だが、もう素人のそれとは似ても似つかなかった。
そうすると相手の逸物がびくびく、と震えながら隆起する。上向きに反り、立派なペニスを大介の前に披露した。
血管が蠢き、亀頭が膨れ上がっている。他人の勃起を目の前にすると、同じ大きさと言えど大介も見惚れた。
すると更に、にゅるん、と逸物が覗き穴から伸びる。どん、と軽い衝突音も同時に聞こえた。
「はぁ……あぁ……!」
そして相手のかすれ声が漏れる。甲高い声は、元の声色が分からず、やはり年齢不詳だ。しかし、大介にとってはもうどうでも良かった。相手が、自分の口で勃起している事実。それに彼は壁に両手をついて、堪えきれず腰を突き出している状態なのだろう。それらが今の大介を至福のひと時に感じさせた。
大介に磨かれた逸物は肉の粘度が増し、薄明かりでも淫靡な光を放つ。小刻みに動き、先走りがぷく、とこぼれている。
出来上がった状態のそれを、いつまでも放置出来るはずもない。大介は、根元まで逸物を咥えるとすぐに頭を前後に揺らした。
「あああぁ……あっおっおぉおおお……!」
今まで自制していたとばかりに、歓喜の雄叫びが響き渡る。口の中で逸物が跳ね、先走りが吐き出された。
口の中が逸物で満たされ、大介はディープスロートをする。歯を立てぬように、舌も引っ込めて、かぶりつく。唾液と先走りが混じり合った体液を飲み込み、そのまま下劣な音を立てて逸物を吸う。
マズルをすぼめ、露茎を蹂躙する。その全ての動作が、雌になっていた。
大介も自分の逸物をぐっと掴み、ひたすらに扱き上げる。充血しきった股間はもういつでも発射できそうだ。射精の感覚が、近い。
すると大介は雁を唇で思いきり挟み、喉を張るほどの吸引をする。そのバキュームのような吸い付きに、逸物が大きく弾んだ。
「あぁっあぁああ……いく、い、くぅ……!!」
切なげな声を聞き、大介もスパートをかける。先走りに濡れた手が、竿をぐちゅぐちゅに揉んで、皮をぎゅうと引ん剥く。
痛みと性感が、全身に駆け巡る。そして、股間から熱いものが噴き上がった。
「いく、いく、あぁあイくっ!!」
「んっ……んぶっうっ……!!」
絶頂の瞬間は、二人ともほぼ同時だった。大介の口に、びゅびゅびゅ、と精液が放たれて口蓋や喉にべっとりと張り付く。そして大介の逸物からも、壁を打ち付ける勢いで精液がどっと噴いた。壁にべちゃべちゃと付着すると、どろっと垂れ落ちる。
口にするのは青臭く、きつい苦味。それは以前に舐めた、自分の精液とひどく似ていた。だからか、大介は鼻の付け根辺りにしわを立たせたが、吐き出さずにすんだ。
逸物を咥えたまま、唾液と共に嚥下する。男の種汁など喉を通すべきものではない。だが、大介は吸い続けていた。幸いにも口からこぼれず、顎やスーツを汚さずに済んだ。
そうやって逸物の汚れを舐め取ろうとすると、つるんと口の中から引き抜かれた。
荒々しい呼吸をする大介。興奮が、収まらない。出しっぱなしの自身の巨根は、皮が雁を覆うが屹立したままだ。
口の中が寂寞感を覚える。すると、向こうからからんからんと無機質な金属音。トイレットペーパーホルダーの音だろう。
そして水洗の音がすると、扉の開閉音。足音が、遠くへ行く。用が済めば、それ以上の相手をする必要がないと言いたげに。
大介は、口以外にも寂しさを覚えた。舌を伸ばし、彼の残滓を指に取る。自分が男をしゃぶり、射精させた事実。
だがもう、不快と嫌悪などない。この臭いがまだ欲しいと望む。何より、逸物が満たされても尻の疼きが冷めていないのだ。
「誰も、来ないのか……」
淫売だと言われてもいい。身体が雄を求めている。この堕ちた欲望を吐き出したい。
大介は、物憂げな視線を天井に向ける。
すると、背後から強いノックの音。乱暴気味なそれに、すぐに大介は振り返った。
そして、驚愕と困惑を露にする。
「でかっ……!?」
さっきと同じく、反対側の壁から逸物がぶら下がっている。それだけであれば、大介の表情も固まらなかった。
だが、穴から飛び出したそれは、規格外のものだ。どす黒い、魔羅というに相応しい肉柱。先ほど口にした、ずる剥けの逸物を超える大きさだ。
華奢な子供の腕ほどはあろうかという太さ。覗き穴が僅かな隙間を残す程度で、その見栄えは女性器に挿入された男性器を内部から観察しているかのようだ。長さも正確には分からないが、勃起していないにもかかわらず20cm近くはあろうかというもの。
そしてその色具合と皮の被り具合も、化け物じみている。包皮は黒ずんでおり、先端が色濃く、根元にいくにつれてまだ赤みを残している。その経験豊富さを物語る包茎は、おちょぼ口のようにひどくよれていた。それに雁首の形がうっすらと見え隠れするくらいに、分厚いようだ。
まるでサツマイモだ。そのアンバランスな形状に、グロテスクな印象すらあった。
「こんなの……」
大介はこれまでの人生で見てきた中で、最大のものだと断言出来た。自分のモノもそれなりだと自負できるが、これは比較にすらならない。
反射的に、尻が、きゅうきゅうと疼く。大介の逸物が、ぐん、ぐんと、と弾む。社会の窓の開放だけでは窮屈そうで、上着のへそ部分まで打ち付けている。
全身の体毛と尻尾が逆立つ。この巨根包茎を前に、身体が屈服していた。自分よりも立派過ぎるそれに、雄としての意地ではなく、雌としての服従心が強く働く。
ドン、と催促のノックに、大介は突き動かされた。急ぎネクタイを緩めて、上着ごと荷物掛けのフックに吊るす。そしてズボンとパンツも脱ぐと便座の上に無造作に置いた。
Yシャツと靴だけの恰好になると、カバンからディルドを取り出す。そこに、同じく常に忍ばせていたローションをどっぷりとかけ、それを尻に挟む。
「んっ……!」
久々の冷たく粘っこい感触。下準備を済ませると、蹲踞の姿勢になって醜怪な代物の前に跪く。ずん、と下半身にディルドが響いた。
肛門にシリコン製の亀頭が食い込む。尻を解していないが、大介は逸る気持ちを抑えきれなかった。
凶悪な肉筒に手を添える。すると、指が回りきらない。スチール缶のような太さに、圧倒される。ぶよぶよとした肉塊はそうそう扱える機会がない。大介は慎重に指を絡ませた。
そのまま皮を後退させ、口を開けて近づける。香るのはやはり蒸された肉の臭い。
だが、亀頭が見えたところで大介は眉に蜘蛛の巣状のしわを寄せ、顔をくしゃくしゃに歪ませた。
どす黒い皮に包まれていたのは、赤錆色の亀頭。どれだけの口に咥え込まれ、またどれだけの穴に突っ込んだのだろうか。だが何より大介が顔をしかめたのは、べっとりと付着している恥垢だ。
白濁の滓がこびりつき、醜悪な臭いがこれでもかと立ち込める。皮むきされた果実の中身は、過熟して不純物にまみれていた。
今日一日、いや数日分は溜め込んだものだろう。相手は浮浪者か、それとも根っからの風呂嫌いか、或いはそういった偏屈な趣味を持ち合わせているのか。
しかし大介は口を大きく開いた。まるで奴隷の如く、汚物を口に運ぼうとする。いかに垢臭いと言えど、もう二度とお目に掛かれないかもしれない凶器。皮が被り過ぎても堂々としており、その悠然とした佇まいに惹かれる。
舌を伸ばし、皮と亀頭との間に差し込む。ざら、とした感触。消しくずのようなそれは最悪の舌触りだ。そしてぴり、と舌を痛めつける苦味。腐臭に近い、酸味も感じられた。
吐き気がこみ上げてくる。唾液に絡ませながらも、それは嚥下しないように舐め取っては指で拭おうとする。亀頭だけでもかなりの滓が覆っているのだから、雁裏や幹も同様だろう。
鼻の臭いが取れなくなりそうだ。粘膜に張り付くような強い臭気に、汚染される。いっそ、すぐに恥垢を取った方がいいかもしれない。
すると大介はついばむ様に口と舌を深々と入れる。まとわりつく、雄々しい臭い。口をすぼめる必要がなく、萎えたままのそれが大介の口に嵌まる。
そして大介が顔を動かすと、急激に逸物が暴れ出した。
「ふんっごぉ……!? んっおほっぉおっん……!!」
喉奥を突かれ、大介は思わず仰け反った。しかしくぐもった悲鳴が更に続く。
汚泥まみれの巨根の持ち主が、一気に腰を振ったのだろう。それが引き金となって、受け止めた大介が尻餅をつきそうになる。そのまま、尻にあてがっていたディルドがぐぼ、と穿たれた。
尻の割れ目が拡がり、大介の足はM字に開脚せざるを得なかった。経験の浅い肛門が、予想外の事態にこじ開けられ、激痛が走る。そしてすぐにディルドが前立腺に到達し、出したことのない叫びが口腔に絞り出された。
視界が明滅を繰り返し、膝が笑う。思考が単純化し、快感しか覚えられない。一週間ぶりの、雌として味わう絶頂。
大介の逸物が上下にびくんびくんとしなり、膿のような少量の精液を漏らした。断続的にちょろ、ちょろ、と垂れて竿を伝い、股間を濡らす。
だが相手は大介を気遣う素振りすら見せない。小刻みに口の逸物が前後し、ピストン運動が始まる。
こうなると大介は逸物を吐き出せなかった。奉仕もままならず、まさに便器のように使われる。しかし、快楽の極致にいる大介はそれで良かった。どれだけ粗雑に扱われても、絶頂が続く限り極太の巨根にひれ伏すしかない。
「んむっんっ……おぉっんほっお……!!」
大介は少しだけ腰を浮かし、そしてまた腰を落とした。
ずずん、と下半身に響く圧力。まるで目の前の逸物に突っ込まれているかのような錯覚。大介の身体が、妄想を交えて感度が最高潮に上り詰める。
自ら尻を振る様は遅々としておらず、むしろ焚きつけられたかのようにぐぽ、ぐぽと直腸を掘り進めた。
すると口も荒々しいながらも、必死に黒々とした巨根に食らいつく。ただ口腔を貸し与えているだけで相手が抜き差しする。また、大介はあれだけ嫌悪感を剥き出しにしたが、もう舌が、そして頭が麻痺して自ら恥垢を啜っていた。
分厚い包皮にむしゃぶりつき、亀頭を舐める。そして過保護過ぎるベールを脱がせて、肉棒を吸引した。
「ふおっ……んんむっん……!!」
大介が息苦しくなる。顎が外れそうなほど、巨根が肥大化して口腔を満たした。
最早500mlサイズのペットボトルに迫るほどだ。
大介は片手だけでは足らず、両手でしっかりと握る。逸物はまるで鉄のように硬直したままで、びくともしない。
主導権は完全に向こうにあった。それが堪らなくて、大介の股間は雫を垂れ流し、歓喜の涙を浮かべている。
弾力ある亀頭が喉奥まで突っ込まれ、一気に口蓋と舌を擦りつけた。ピストンは全くスピードを緩めず、大介の口を削るかのような勢い。性行為だと言うのに、暴力を伴った腰遣いだ。
更に大介の口に、大量の先走りが塗りたくられる。並外れた逸物には、それに釣り合った量の汁がどんどん溢れ出す。
飲み込もうにも、大介は呼吸するのがやっとだ。口に溜まった先走りが唾液と一つになり、許容量を超えた。マズルの端から透明な粘液が漏れ、顎に滴る。しかも摩擦されたそれは泡立ったまま毛皮に張り付いていた。
大介の口は蜜壺と化している。ぬめった肉穴が熱くなり、おぞましい巨根がしがみついて離れない。
雄としての本能をかなぐり捨て、今だけは雌として、そして物のように扱われるのが、これ以上ない悦びだった。
口に注ぎ込まれるだろう種汁。こんなにも桁違いのモノからはどれだけの量が噴き出すのか。どれだけの濃さなのだろうか。
その瞬間を、大介は心待ちにしていた。奉仕の口吸いが、終わる時を。
「あぁ、ああー、ああああああーー」
抑揚のない声。初めて、相手が声を発した。だが大介は一心不乱に口を遣う。耳に入るのは、相手が喘いだということ。
そのときが近づき、大介は壁に向かって前傾した。深々と突き刺さる、逸物。
喉を精一杯張って、頭を引く。すると両の手の平に、びく、と力強い振動が伝わった。
まるで合図のような揺れに、大介は目を瞑る。
「あああーっ、あああっああーーー!」
逸物が、ポンプのように膨らんだ。ぶるぶる、と激しく口腔を叩く。そして彼の射精を、大介は受け止めた。
「んっん!? んんうっむぅう!!」
しかしそれは大介の想像をはるかに超えた。熱いものが流れてきたかと思うと、あっという間に口が塞がれる。一度の噴射で、どばっと雄汁が跳ね飛んだ。
真っ黒な砲身から次々と吐き出される粘液は、無限に感じられた。弾の尽きぬ巨砲が、大介の口を容赦なく白濁に染める。
大介は息が詰まり、堪らず口を離そうとした。咥えていた巨根から顎を外し、大口を開いたまま首を後ろに倒す。
「うあ、あっ……!」
だが尚も黒光りの逸物から精が溢れていた。それは大介の顔にまでかかり、白濁の奔流が毛皮にびちゃ、と付着する。生臭く、熱い雄の塊に顔があっという間に汚されていく。
放物線を描きながら射精する逸物。それを、大介は放心状態で見つめていた。鼻や顎だけでなく、Yシャツにも精液が降りかかったが、膨張と伸縮を繰り返しながら噴流する様に釘付けになっている。
最後にひと雫がこぼれると、巨根はひくつきながら角度が落ちていく。同時に、雁にひっ掛からずににゅるん、と亀頭を覆い隠した。
そして大介のことは用済みとばかりに、彼もすぐさま逸物を引っ込める。やはり簡単に処理を済ませると、隣の個室のドアが開けられ、そのまま足音が遠ざかった。
大介は間の抜けた顔を浮かべ、置物のように鎮座するばかりだ。疲労もあるが、しかしその内面も手籠めにされた。毒牙に掛けられ、その毒液が思考も破壊したかのようだった。
不衛生な床に、膝を倒す。ただ一点、ぼんやりと映る穴の先には、無人の空間しかない。雄の名残も、存在しなかった。
「……俺、は……」
いよいよ狂ったのかと自覚する。精液にまみれて、我欲のままに下半身を全開にした。その上、男のモノをしゃぶりながら自分も逸物を扱き、あまつさえディルドを突っ込んで犯される妄想に浸る。
現実的ではない、夢なのかと疑いたくなる。
大介は俯き、空虚感に包まれた。先ほどまでの昂りとの落差に、身体が、頭が働かない。まだ半勃ちの逸物が弾み、下腹部の熱が冷めないが、手持無沙汰で口も落ち着かなかった。
「……電話、か……?」
ぶるる、と小さなバイブ音が聞こえた。大介は顔も拭えず、壁に手をつきながら満身創痍の身体をなんとか起こす。
ふらふらとした足取りで便座に置いたズボンのポケットをまさぐる。確かに、スマートフォンが震えていた。
ナンバーディスプレイには、大介の妻の名前。それを目にした大介は、冷水を浴びせられたかのような衝撃を覚え、正気に戻る。
すぐに着信を受け、まだ口に粘つく粘液を唾と一緒に吐き出した。
『パパ、今どこ? 今日は残業じゃないんでしょ?』
「すまん、同僚と飲んでて遅くなった。あと20分もすれば家に着く」
『そしたら前もって連絡入れてよね。パパの分の夕飯、用意しちゃったんだから、早く帰って来てね』
「あぁ。すぐに帰るよ」
通話を終えると、大介は罪悪感めいたものが背後から駆け上った。自分には愛する妻と子供がいるのだ。いつまでもここでうつつを抜かしている場合ではない。
だが大介はしくじった、と自身の過ちを認めた。
「30……いや40分は考えとくべきだった」
顔に手をやると、糸を引く精液。口に残る不快感。尻に、未だ挟まっているディルド。それにYシャツも台無しだ。妻に気付かれぬように帰るには、面倒な後処理が山積みだった。
足も覚束ない。また、後で妻に怒られるな、と大介は苦笑する。
しかし大介が最初に取った行動は、メール画面を開くことだった。そして、〝奉仕しろ〟と送ってきたメールに返信をする。
『頼むから、やめてくれ』
情けない、屈服者の懇願。だが背に腹は代えられない。相手がどんな手段に出るか、予測不可能だ。次に送られてきたメールの内容によっては、犯罪に手を染めるかも分からない。それも恥辱を受けることだろう。公衆の面前で自慰を強要されたり、オフィスに盗撮された写真や動画をばら撒かれたり、と。
しかし相手が人工知能でないなら、話が通じるかもしれない。万に一つの可能性だが。大介は、それに賭けた。独り身の体では、ないのだ。
メールを閉じ、大介は後処理を開始する。幸いにも、他にトイレの利用客は訪れなかった。しかし帰りが遅くなり、妻に説教を食らったのは言うまでもない。
以降、大介は相手のメールを待つこととなる。スマートフォンがバイブする度に身体が強張り、腫れ物に触るようにメールを開く。いつ投下されるか分からない爆弾に、怯えながら。
だが、悪質なメールはぱったりと途絶えることとなる。不思議と、大介もその間、以前のような体調に戻る。夢精も、強烈な性欲も、挙句、男の裸体を進んで見ようとはしなかった。
そして、二週間が経った。[newpage]
「島地、見たか昨日のニュース」
「あぁ、見たよ」
朝の業務を終えるや否や、葭切が大介のデスクへやって来た。心なしかその顔は妙に疲れを見せている。
「逮捕されたんだったな、例のハッカー集団。しっかし馬鹿だよな、メンバーの一人が清掃業者に成りすまして盗撮用のカメラ設置してるときにばれるとか。それで芋づる式に摘発らしいぞ」
まさにそれは青天の霹靂だった。大介に数々の仕打ちをメールで命令してきたと思われる犯人グループが検挙されたという。
悪事を秘匿した人物に目を付け、個人情報を不正アクセスで入手するとそれをネタにゆすり、多額の口止め料をせしめていたという話だ。また、盗撮用の小型カメラを各地のメンバーが仕込み、それをネット上で全員が共有していたとのこと。そしてそこに映った映像も、脅迫に利用したとのことだ。中には、トイレやホテルの一室など、プライベートの場面が撮られていたという。
その手口が、大介の被害にも当てはまった。だが大介は、怒りなど湧かず、むしろホッとした。
二週間もの間、相手からの連絡がない。相手は逃げた、もしくは捕まったのだろうと推測する。それだけで十分だった。警察に被害届を出すなど、毛頭ない。もう関わり合いたくないというのが、本音だった。
「ウチの会社に被害がなくて良かったな。ところで葭切、なんか元気ないな」
大介はため息を吐きながら葭切に問う。彼の顔を一瞥し、胸元を注目する。彼もまた、大介と同じ運動クラブに所属しており体格が良い。スーツの下に隠れている体型は筋肉質で、胸板も厚いことを大介は着替えの最中に目撃している。
ちらっと窺った葭切は、調子が悪そうだ。少なくとも軽口を叩きそうにない。
「どうにもこうにも、午前の外回りに行く先々で持ち込み検査やら何やらを受けてさ。その例の集団ハッカーの影響で、警備員に止められてよ。ったく、厄介なことだ。暫く続くかも知れねぇ」
「なるほど、ご苦労さん。ハッカーのせいでコンプライアンスが強化されたってわけだ」
「ところで、お前も前に悪戯メールに悩まされてただろ。もしかして送り主はそのハッカー連中で、弱み、握られてたんじゃねぇのか」
「そんなわけないだろ。確かにちょっと前にメールが止まって、送信者はそいつらの誰かかもしれんが、俺はネタになるようなものは持っていない」
大介は昨日のニュースを知った直後、自分の知る限りの匿名掲示板やSNSを漁った。最後の悪あがきとして、自分の痴態がネット上に拡散されていないか不安になったからだ。
自分が発見出来なかっただけかもしれないが、少なくともそれらしいものは見つからなかった。
「そりゃ良かったな。何でもこの近くの飲食店やオフィスにも盗撮カメラが仕掛けられてたみたいだし、解決して良かったな」
葭切の言葉に、大介は膝に置いた拳を握る。ズボンの生地が、よれる。
「……そう、かもな。ところで葭切さ、あのハッカーのエンブレム、見たよな」
必ずメールに添付されていた画像。恐らく、彼らのトレードマークだ。昨日のニュースにも、画像が流れていた。
「ん? あの前衛的なやつか? なんかどぎつすぎて、センスねぇなと思ったな。それがどうした?」
「いや、何でもない。ただ、聞きたくなっただけだ」
「そうか。ところで島地、今日は飲みどうだ? この前断ったんだからよ。それに、今回は課長の提案だ。最近あの人、家族と仲が良くないみたいでよ」
葭切が大介の肩に手を回す。そして、首を回されて目線が合う。
大介より肉が薄いものの、筋肉で構成された腕は強固だ。屈強な締め付けに、そして目と鼻の先にあるサメの顔を前に、大介は視線を泳がした。
「……悪い。今日は、子供との約束がある。だから、俺から課長に付き合えないって断っとく」
「ったく。あの人の愚痴に付き合わされるこっちの気持ちにもなってくれよ。今度、飯奢れよ。あぁそれから、午後の営業、ちゃんと来いよ」
「それくらい分かってる」
ぶっきらぼうに大介が返答すると、葭切が離れる。中年の過剰なスキンシップに大介は辟易した。その顔色に、ものの数分の日常会話だと言うのに疲れが見える。鼻腔がむず痒そうにひくつき、額が汗ばむ。
尻尾を股の下に、デスクに腹をつける程、イスを前に引く。そしてその目は葭切の広い背中へと向けられていた。やがて彼の姿が見えなくなると、ふと頭に思い浮かぶのはやはり葭切。
サメの鋭い目つきは、自分の虎の眼とまた違った男らしさがある。そして肉体も、惚れ惚れするものだ。課の中でも、いやひょっとすれば自分の知る限りの中で最も逞しい身体の持ち主だろう。気の合う同僚だけでなく、友人としても頼れる。
不意に、社員旅行のことを思い返す。記憶を手繰り寄せ、広がる光景は風呂場。
自分は包茎が恥ずかしいからと、前を隠していたが葭切はどうだったか。だが、そのとき意識していなかった記憶は、掠れたままで大事な部分にもやがかかっている。
「係長、上の空ですけどどうしました?」
「あ、い、いや……。何でも、ない。何だか、佐伯君にはいつも迷惑かける」
佐伯の呼びかけに大介は背筋を伸ばす。無意識のうちに、首が、そして視線がデスクから外れていた。
「もしかして昨日のニュースが気になりました? 私の友達のオフィスでも業者にカメラ取り付けられてたみたいです。画像とか動画は出回ってないみたいですけど、ショックで寝込んじゃったみたいで」
「それは、大丈夫だ。それに男なら、女よりもそこまで……いや、今のはセクハラかもな。撤回する」
「いいですよそれくらい。でも怖いですよねあぁいうの。係長も、気を付けてくださいね」
佐伯を見送ると、大介は胸がざわついた。あれだけ魅力的な身体を持つ女子はそういない。かつて夢にも現れた、若い肉体。
だというのに、大介は仕事中の葭切を、遠くから見つめる。尻の快感に目覚めたり、或いは雌として奉仕してきた。だが、日中から飢えたケダモノのように〝身近な男を凝視する〟のは今この時が初めてだ。無論、それが異変だと断言出来た。だが、もうそれを止める術はない。
「報道されないんだな……。いや、発症者がそういないんだろう。だから、あの画像に誰も……」[newpage]
『182/89/38/凹 虎 ××駅南の神社のトイレ。21時から』
殺風景なデザインで、時代に取り残された場末のネット掲示板にそう書き込むと、大介はスマートフォンをカバンに入れる。
大介はその夜、二週間前と同じ場所に訪れた。あのハッテン場と化している神社のトイレだ。変わらず、臭いがきつい。床に付着している、白いカビらしきものは恐らく精液が風化したもの。
大介のもとに例のメールは受信されていない。彼は、自分の意思でここに来たのだ。
「クソ、クソっ……! メールや画像なんかじゃなかった……! どうして、こんな……!」
大介の頭に悶々と浮かぶのは、男の裸体。会社の男たちや、かつて学生時代に打ち込んだラグビーの部員たち。それに同じ電車に乗り合わせていた、見ず知らずの男たちの服の下も想像して。
だが、何よりその妄想の大部分を占めるのは、葭切だった。海色と色褪せた、ざらざらした肌を持つサメ。
葭切は女子社員から非常に人気がある。営業係長だけあって話が上手く、その身体も羨望の眼差しを注がれていた。
そして大介は今になってその女子社員からの人気が、邪な想いと共に理解してしまう。
トイレに一歩踏み込めば、肉欲が具現化したかのような異臭に大介の股間が反応する。膨れ上がった股間は歩くたびに揺れ、その摩擦が快感を生んでいた。
大介はトイレが無人だと確認すると、前に奉仕した真ん中の個室に入る。鍵は、掛けない。
「気付いてくれ、あいつらの狙いは、脅迫じゃない……!」
ベルトを緩め、ズボンと下着を下ろす。逸物が跳ね上がり、腹に打ち付けると汁が飛散した。割れた尻が外気に触れて、ぞわぞわと身がすくむ。括約筋が意識せず蠕動し、大介は腰を突き出す。
「早く……誰か、来てくれ……!」
居ても立ってもいられず、大介は先ほど書き込んだ掲示板をもう一度チェックする。そこは、ハッテン場での募集をする掲示板だ。他にも多くの同性愛者の書き込みが乱立し、一見して分からない隠語で書き綴られている。
大介もその例に倣い、一朝一夕で覚えた単語で募集した。まだ、返信はない。
「あぁ頼む、その画像を出すな……!」
目に入ったのはニュース記事。大規模な恐喝事件として、大介や多くの人々を襲った犯人グループのことが報道されている。
そして、トップページに映っているのはサイケデリックなエンブレム。大介がそれを見た瞬間、心臓がどくんと鼓動する。
先走りがとろとろと吐き出されていく。触れてもいないのに、性感を覚える。全身が燃えるように熱い。頭が、男の裸に、逸物のことしか考えられなくなる。尻が切なくなって、股を開く。
すぐスマートフォンを閉じても同じだ。エンブレムが鮮明に刻み付けられ、それに呼応するように雄の魅力に取り憑かれる。それが今まで自分の身に起きていた引き金だったと知るには、遅すぎた。
メールを見ただけで異常な性欲が起こり、また相手の操り人形と化した。大介は、今になってその原因が、エンブレムだと特定した。
一番最初に送られてきたメールは、僅かな文章とエンブレム。その時から夢精が始まり、現在に至る。その原理は不明だが、エンブレムの中に特殊な記号や色彩を織り込み、見た人物を狂わせる効果がある、と大介は考えた。網膜が取り込んだそれを、脳が誤認し、まるで催淫剤や媚薬のように作用し、色情狂にさせられる。
中毒性は少ない。エンブレムを目撃しない日々は、いつもの通りの生活になった。だが、ほんの一瞬でもエンブレムが視界に映りこむと、性欲のタガが外れる。
しかも恐ろしいことに、発症者は非常に少ないらしい。或いは、自分だけが発症したのか。ニュースには、エンブレムに関して言及がなかった。いずれ、解明されるのを願うばかりだ。
しかし、今の大介にとって死活問題だった。この手のエンブレムは面白がって流行する可能性がある。元がネット上の集団なのだから、近い位置にあるSNSを通じて拡散されるだろう。それに国を騒がせた事件なのだから、鎮火しそうにない。
つまり、ニュースなりネットなり、エンブレムが溢れる。大介の日常に平穏が訪れるのは、暫く先になるのだ。
「うぅああっは……!!」
尻に指を突っ込み、肛門を穿る。硬い肉球が腸壁をぐりりと圧迫した。ローションを使っても、ぬめった感触よりも異物感が大きい。久々の挿入に、喘ぎ声が漏れる。
カバンの奥底に眠っていたローションを、また使うとは想像もしなかった。ディルドと共にいずれ捨てようと機会を窺っていたが、まだ厄介になりそうだ。
「早く、来てくれよぉ……ちんぽ、ぶちこんで、くれ……!!」
切羽詰まって大介は後ろの穴を開ける。くぷ、とローションを垂らす小さなすぼまり。まだ本物を受け入れたことのない処女穴だ。二週間ぶりに疼き出した雌穴が、てらてらと光沢を帯びていた。
見せつけるように腰を曲げて、くの字の体勢を取る。便座とタンクを覆うように、奥の壁に手を着けて後は待つだけだ。
大介は今か今かと、耐える。書き込みを見た誰かが相手をしてくれるだろうか。それとも、以前にしゃぶったあの露茎の持ち主か。もしくは、あの化け物のようなサイズの皮被り巨根の持ち主か。
その想像だけで大介は射精しそうになる。ひょっとすれば、相手をするのは一人二人ではないかもしれない。こんな狭い個室だけでなく、外に連れ出されでもしたら――。
「――っ!」
靴音が響く。そしてそれは、大介の個室の前で止まった。
そこには覗き穴がある。仮にただのトイレ利用者であれば、個室の変態を見て立ち去るだろう。だが、来訪者は立ち止まったままだ。品定めをされている。
頼む。便器のように扱って欲しい。
大介は尻を持ち上げると、くぱ、と開いた。そして指を突っ込み、乱暴気味に掻き回す。
「はんあっ……ああっあああ……!!」
はしたない声が個室内に反響する。未使用の穴を晒し、淫売の如く誘っているのだ。
このまま逸物をぶち込んで欲しい。独りではもう、満足出来ないのだ。
すると、ぎぃ、と音を立てて扉が開かれた。これから、詰られるのだろうか。それとも有無を言わさず、犯されるのだろうか。
大介は、湧き上がる期待感と高揚感に、何もかもを委ねようとした。――聞き覚えのある声がしなければ、そうしただろう。
「やっぱり、ここにいたか。島地」
馴れ馴れしく自分を呼ぶ声。淫靡に染まっていた頭が、突如として現実に引き戻される。
大介は、息を呑んだ。そんなはずはない。やつは課長と飲みに行ったはずだ。どうしてこの場所を知っているのか。
歪んだ欲が、成就したとでもいうのか。だが、嘘であってほしい。声は幻聴に違いない。その一縷の望みにかけて、大介は首をねじるようにして振り返る。
「……葭切…………どうして、ここに…………?」
スーツ姿のサメ、葭切がそこに立っていた。あまりにも非現実的な遭遇に、大介は恥部を隠すことも忘れ呆然としている。
頭の中がパンクを起こす。同僚である葭切という存在と、決して知られるはずのない掲示板の書き込みとの整合が取れない。次から次へと疑問が生まれ、質問を投げつけたいが、しかし大介はあるものを目にする。
葭切の手にあるスマートフォン。その画面を埋め尽くす、あのハッカー集団のエンブレム。
「お前……俺の何が、目的なん――がっ……!?」
葭切が距離を詰めて、大介は後ろから羽交い絞めにされる。大介の巨躯は昔取った杵柄とはいえ、流石に衰えを見せていた。また背後を取られ、ズボンを足首にひっかけたままでは迅速に対応も出来ない。
そのまま、肩を押さえ込まれる。少しでも体格差があれば抵抗出来たかもしれないが、同じ背丈で筋肉質の葭切には、かないそうもない。しかも、大介は性欲に溺れて頭がまどろんでいるから、尚更だ。
葭切が、犯人だった。大介にとって、衝撃の真実だ。だが、そんな揺さぶりがあっても大介の逸物は勃起しており、先走りが止まらない。身体は、欲望に忠実だった。
「どうして、俺を狙った。おまえに何かやったか。全部教えろ」
身体は犯されることを望んでいる。だが、相手が同僚であり、信頼を寄せていた葭切ならば話は別だ。
納得できず、腑に落ちない。葭切もハッカー集団と繋がっているならば、なぜ逮捕を逃れているのか。どうして、ターゲットが自分だったのか。
昼の時点で、大介は葭切のことを目で追っていた。肉厚な自分と違って割れた腹筋に、引き締まった精悍な身体。そして脳内で描かれる、運動クラブで汗だくになってシャツが張り付いた肉体。
そうした妄想に、吟味の眼差しを向けていたのは葭切もだったというのだろうか。肛門が、逸物が反応する。小さな窄まりがくぱぁと開き、亀頭を半分ほど被った巨根がびくびくと上下していた。
「課長はさっさとヤケ酒飲んで、すぐタクシーに押し込んだ。それじゃあ駄目か?」
「……俺のアドレスを連中にばら撒いたのか。マンションの場所を教えたり、ドローンでの撮影も、全部、全部……!」
求めている回答ではない。埒が明かないと踏んで、大介は抱いていた疑問をぶつける。
だが、葭切は何も言わない。彼は無言のまま、スマートフォンの画面を大介の目の前に差し出した。
そこに表示されたのは、メールの画面だ。添付ファイルに、あのエンブレム。その瞬間にも、大介の全身が熱くなり、兎にも角にも性欲に傾倒しそうになる。
「それが、一体なんだって……」
「よく見ろ」
耳元で囁かれて、吐息がくすぐったく感じる。身体中の至る所が、性感帯に仕立てられつつあった。
これだけで何が分かると言うのか。大介は仕方なく、画面を睨み付ける。そうやって何かを注目するのも精一杯だったが、大介は気付いた。
葭切のスマートフォンに送られてきたメール。その日付は、大介がハッカー集団と関わる一週間前のことだった。
そして、メールの文面には『男に目覚めろ』と命令文が書かれている。それはほとんど、大介と状況が変わらなかった。
「まさか、お前も……被害者、なのか……?」
「この画像、変な細工があるのは、お前も分かってるだろ。普通のやつらのにはなんてことないが、俺やお前のには特別なパターンが仕込まれている。そんで一度でも発症しちまうと、男が欲しくて堪らなくなっちまうんだ。お前には迷惑かけちまったが……お前のことが、ずっと頭から離れられなくなってよ……!」
肩に圧し掛かっていた重みが消え、ガチャガチャとベルトの金属音が背後から聞こえる。そして、荒い息遣いも。
「最初は、お前の裸やちんぽを想像して、抜きまくって耐えてた。けど、それも我慢出来なくなって、お前のアドレスや住所を連中に教えちまったんだ。本当に、すまん。それから後は、お前がアナニーしたり、外出先でオナニーする写真を送られたり、このハッテン場で男を相手にするって情報が送られてきて……わりぃが、何度も使わせてもらった」
既に大介は、姿勢を保ったまま流れに身を任せていた。葭切の懺悔を話半分に聞きながら、迫りくる雄を待っている。
この恐るべき症状は、大介が身をもって知っていた。葭切も、ハッカー集団に抵抗しようものならば個人情報や何らかの重大な秘密を広められていたことだろう。だが、事件自体はほぼ解決に向かっている。ハッカー集団からの命令に怯える日々はとうに過ぎ去った。
それらは、もはや些細な問題なのだ。葭切も被害者であり、犯人でないのならば、責める必要もない。今の大介にとって重要なのは、葭切が犯してくれるかどうかだけだった。
むしろ、葭切ほどぴったりの人材はいないだろう。同じ、異常性欲に悩まされる者同士、却って都合が良いとさえ感じる。
そして、ぎゅうと大介の尻に硬く、熱気を発するモノが擦りつけられる。腰を抱きかかえられ、それに合わせるように大介は尻を突き出した。
「多分、連中は金目当ての脅迫とは別に、こういう電子ドラッグをばら撒いて、混乱を狙ったんだろうな。性欲が増えたら、男なんて簡単に堕ちるって。……なぁ島地、俺も、お前も同じだ。会社でお前と一緒にあのエンブレムを見たとき、俺はマジで手を出したくて仕方なかったんだぜ。今さら、拒否なんてしねぇよな」
「……ぐちゃぐちゃに、してくれ…………!」
切なげに吐き出し、大介は再び淫売の如く誘う。どくん、と葭切の肉棒が膨らんだ振動が伝って来た。
「あぁ。途中でやめろなんて、抜かすなよ……!」
腰をぐっと掴まれ、尻たぶに挟まれていた肉棒が下りてくる。やがて雁の感触が窄まりに触れる。ローションまみれの肛門が、ちゅぷ、と音を立てた。
「た、頼む。よし、きり……………………――あっ……!」
大介はその晩、葭切からの劣情を受け止める。ただひたすらに、獣のように交尾して、理性を生臭い精液で塗りたくり、よがり声をまき散らす。
それは、彼がようやく待ち望んでいた瞬間であった。
〈了〉