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これでも女優のつもりだが、一般的には劇団員と呼ばれる立場だ。
特にこれと言って代表作はない。ローカルCMやカラオケのムービーのお仕事がちょこっとあった以外は、入りのよくない劇団の準主役ぐらいのポジションである。
バイトと併用すれば、なんとか食べていけるのだけど、この先どうしたものか困っていた。彼氏はいない。というか、基本的に男を信用していないと言うのが正しいところだ。
恋愛劇をやって、それなりの表情や仕草は演技できるが、どことなく白々さを感じている。
そんな時舞い込んだのは、着ぐるみのお仕事だった。
正直いやな気分だったが、仕事を選べる立場ではない。
依頼主はサチと言うVTuberだと言う。
聞く話では、事務所閉鎖のごたごたがあって、そのまま完全独立した人だという。尤も、そこそこ人気が出てからの独立なので、わりかし羽振りはいいらしい。
何を思ったのか、着ぐるみを作ってしまったらしく、それを使って動画を作りたいとのことだ。
自分が着ればいいのだろうに……自分ではイメージに合わないらしい。遠巻きに、私がチビだと言われているような気がしている。
実際、映像関係のお仕事では中高生だったりするのだけど……
個人間のやりとりなら気軽だろうと言うので会ってみると、存外感じのいい人だった。
キャラクターは、如何にもロリコンが好きそうなフリフリのキャラクターなのに、見た目は実に大人びているので、なかなかギャップがある。声を出してみるとちょっと引くぐらいだ。
私が言い出す前に、「商談する時なんか、毎回イメージ違うって言われちゃうから」とか言うのだから、そこそこ気にしながらも、そこまで嫌な気持ちでもないのだろう。
全部で四日間のお仕事で、先行して顔の型取り、着ぐるみが出来たら、一日目は打ち合わせと着付け、練習とイメージのすりあわせ、翌日はロケ、そのときの映像の反応を数日見て、夜にライブ配信だという。
打ち合わせで代金を払うと言うのは、如何にもフリーランスらしい発想だ。私もギャランティを貰う身なので、気持ちは分かる。
そんな話をすると、サラリーマンは給料変わらないから分からないんだよねとと笑った。
話をしていると、キャラクターに対する愛情は人一倍あるようで、再生数がどうかと言うよりも、純粋に三次元にキャラクターを出してみたかったと言うのが本音らしい。
尤も、経費で落とした以上、何らかの実績がないと税務署から叱られる。
勿論、ウケがよければ、ずっとお願いをしたいと言われた。まだ着てもないのに。
と、言うわけで、型取りだ。彼女と一緒に工房を訪れ、シリコンでライフマスクを取ると言う。仰向けになって、枠が取り付けられる。そして、耳栓、鼻に呼吸用のチューブを入れて、頭全体の方を取るのだ。
まずは頭の半分を固めて、離型剤を塗ってもう片方だ。
存外さらさらとしている。耳栓がなかったらいろいろ侵入してきそうだ。
硬化は三十分、顔を動かすといけないと言うので、話も出来ない。耳栓をしているので声は遠く、半分埋まった段階でかなり静寂感に包まれる。天井しか見えない。
いろいろなことを考える。この先のことや、この仕事のことなんか。
頭の中でぐるぐるしていると、あっという間に時間が経つ。目の前で合図をされて、頭が完全に固定されているのに気づく。乱暴に動くとやり直しになりそうなので静かにしているけど。
もう半分の三十分は、完全に闇の中だ。
このまま開かなかったらどうなるんだろう。このまま、別の人間に生まれ変われたらいいのではないか。そんなことまで考えてしまう。
型取りは終了して、依頼主は工房と打ち合わせ。
私は一人で帰る事になる。
割と感じのいい人だったけど、私なんかでいいのだろうか? 自分は何もないのだなと漠とした気持ちになる。
数ヶ月後――この数ヶ月、劇団の雰囲気が徐々に悪くなっているのに気づく。劇団の世話をしてくれていた篤志家が亡くなり、存続の危機に陥っているのだ。
後を継いだ倅は、そんなに演劇に興味はないらしい。
仕事の世話も、住処の世話もしてくれたので、いろいろとマズイのだ。
そんなこんなの不安な中での、一日目のお仕事だ。
演技の打ち合わせは、要はオタク受けしやすい感じにやれと言うわけである。
このために、アニメやらアイドルやらの映像を見てきたので、軽く動いて見せただけで、彼女からは好感触を得られた、
そんなわけで、着ぐるみを着る。
思っていたのは、ゆるキャラみたいなゴツイものだったのだけど、実際は肌色の全身タイツとプラスチック製のお面、そして衣装がすべてだった。
ただ、作りは本当にアニメアニメしていて、なるほど、二次元を三次元に持ってくるってこういうことなんだなと思った。
何はともあれ、肌色のタイツを着る。上手く出来ているもので、体の線にピタッと合い、そして、お尻や胸がいい具合にポケット状になっていて、全身のシルエットが綺麗に出るようになっている。
次にお面だ。お面は前後二つのパーツで出来ていて、前後を組み合わせて、その上に糊で固めたウィッグを乗せると言う構造らしい。
着る側としては、それを見ることは出来ないのだけど。
お面をつけた状態で鏡を見ると、全裸の少女が経っていた。
本当にロリコン受けのしそうな、なんか行けないモノを見ているような気になる。そして、顔はアニメから出てきたような出で立ちだ。
ここらあたりから、依頼人の鼻息が荒いがあまり考えないようにする。
そこから衣装を着付けられる。自分では視界不良もあって、上手くいかないだろうと言うわけだ。まさに着せ替え人形のように扱われている。
依頼人は、可愛いとかヤバイとか、声の仕事をしていると言うのに、全く語彙力が足りてない様子がうかがえた。
完成した状態で、軽く可愛い感じになる動きでポーズを取ると、彼女は感激した様子だった。
「ちょっと、待って」
口に手を当て、全く微動だにしない。ただ、目が爛々と輝いていた。
それから、一眼レフを持ち出して、私を取り始め、取りまくり、そして、ビデオカメラを設置すると、もう一度同じ振り付けをお願いされる始末だ。
こんな風なら、ハグの一つでもしてやろうと思ったが、不思議と何も言われなかった。
調子に乗って、手を素早く取って、ぐっと引き寄せると、「ダメ! ほんとヤバイ!」と言って、逃げようとする始末だ。本当にハグしたら死んでしまうのではないだろうか?
落ち着くまでに二時間近く掛かった気がする。否、それでも興奮の度はひしひしと感じる。
とりあえず、声を当てたように動く練習をした。
不思議なモノで、鏡を見ながら、この練習をすると、離人感に支配される。遠巻きに自分がいて、このキャラクターが自動で動いているような感じだ。
同時に、このキャラクターが頭を侵食してきているのも感じる。役に入り込むと言うのは、こういうことなのだろうか? 今までになかった経験である。役者として貴重な経験なのかも知れない。
私が仕事に没頭していたら、外はすっかり暗くなっていた。
「ごめんね!」
脱いだ私に、感謝と謝罪の言葉ばかりだった。彼女は、自分の挙動不審さも含め、予定よりも二時間も使ってしまった事を謝っていたのだ。
翌日は、レンタカーに乗って、許可を取った公園で様々な映像を撮った。
このときは、話す内容は決まっていて、それに合わせて動き、その動きに合わせて声を当てると言う感じの撮影になる。
彼女に関して言えば、私が聞くためのレコーディングと、視聴者に見せるためのレコーディングの二倍の手間が掛かると言うわけである。
お面の代金もあるし、大赤字じゃないかと思えたが、それはいいのだと言う。
着ぐるみを現地で着付けるのは大変だろうと言うことで、私は彼女の部屋で着替えを済ませて、助手席に座って現場に向かった。
現場は、雰囲気のいい庭園のある公園で、晴天と言うこともあり、いい感じの映像が撮れたような気がする。
それにしても、この人、機材の取り扱いも凄いし、何でも出来る人なんだなと言う印象ばかりだ。個人営なのだから、会計経理もやらなくちゃならない。本当に舌を巻く。
尤も、緊急時とどうしても話がかみ合わない時以外は、声は出すなという話だったので、何を思っても口に出せない。
なかなか無茶な言い分だと思ったが、この人は、その点察しもよかった。彼女曰く、私のボディーランゲージがわかりやすい。さすが役者だと褒めてくれたが、そういう部分を含めても、完璧すぎる気がしてきた――着ぐるみの私を見る視線の熱さを除けば。
子供連れの人などにも愛嬌を振りまき、こんな一日は過酷であったが、かなり充実した一日となった。
特にアクシデントはなく、やりたいことも一通り終わったので、部屋に戻ると、感じのいい彼女は、私をねぎらった。
それで、脱ぎましょうと言う状態で少しサービスしたくなった。
両手を広げて、ハグを求めると、かなり逡巡しているのが見て取れた。
だが、最終的には欲望に屈服したのか、強く抱きしめて、何も言わず、そして深呼吸の声だけが聞こえた。
その状態でどれだけ時間が経ったのか分からないが、思ったよりも悪い気分ではなかった――少なくとも、芝居で男に抱きつくよりはいい気分だったと思う。
それから、彼女は今日の動画を編集して、数回に分けてアップロードしていくと言う。
一週間後にまた来てくれと言う。念のために連絡先を交換した。
さて、その一週間が問題であった。
座長が、劇団のためにパトロンと寝ろと言い出したのだ。
最初は冗談めかしていたが、徐々に本気になり、周りもそういう目で見てくるようになった。
最終的に、ご本人登場で、嫌なら出て行けよと言われたのが、まさにハイライトである。
「じゃぁ出てきます」と言ったところで、腕を捕まれたので、大いに騒いで、それからいろいろとぐちゃぐちゃになって、荷物一つで追い出された。
幸い貞操は守られた。
完全に行き場をなくし、三日ぐらいは漫画喫茶で過ごしたが、しかし、金は続かぬ。
風俗嬢にでもなるしかないのかなぁと思った。どーせ寝るなら自分の金になるほうがいいだろうと、破れかぶれになっていたのだ。
そんなとき思い出したのが、彼女の事だ。
ちょうど、お仕事の話が出ていた日だからである。
予定通りに部屋へ出向くと、かなり驚いた顔をされた。
それから、「どうしたの? 何か酷い目に遭ってない?」と尋ねられる。
劇団に連絡したら、辞めたの一点張りで、彼女が来ても何もするなと言われたという。
事を察して、各所で情報を探していた最中に私がのこのこと現れたらしい。
のこのこのとは絶妙な言い方ではあるが、私は嫌な顔をされるだろうと思っていたぐらいだから、こういう慣用句の方が正しい気がしている。
何はともあれ、話が済むと、彼女は劇団に連絡し、自分が私を保護する。何か邪魔したら、法的措置に出ることも辞さないと激高していた。
「元々ファンの弁護士さんがいるんだけど、事務所閉鎖のごたごたの時、ものすごくよくしてくれた人がいるの」と言う。
後に、この件を調べると、なかなか凄い人ばかりが出張ってきてたらしい。人が言うには、弁護士は金のために仕事をしている時よりも、金以外の為に仕事をする時の方が怖いと言う。
結果的に、私は後者の恩恵にあずかることになったのだが、それは本論ではないので、軽く触れるだけにしておく。
何はともあれ、何か、私の身柄が、彼女の元に勝手に移された気がしている。
自分で聞き出すのもアレだし、彼女は言わないし、不安定な状態でいたら、「ねぇ、うちの子の専属にならない? そうしたら、ずっとウチにいていいから」などと言われる。
後になって思えば、人間が不安定なときに囁きかけるなんて悪魔的なんだが、その時には藁をも掴む気持ちだったし、実際、そこを飲まなかったら、今頃どうなっていたか分からないだろう。
しかし、それにしても、そんな不安定な状態の人間を引きずり出して、いきなり動画配信をやってしまうのも、なかなかなモノである。
着ぐるみを着ると、思考が切り替わるのを感じる。おかげですっかりともやもやが晴れてしまった。
彼女は「好きに遊んでくれればいいから。声とかそういうのは適当に合わせるし、言ったことから好きに考えて動いていいから」と言う。なんだよ、この信頼度。下手なことしたら、キャラクターのイメージを損ないかねないと言うのに。
戸惑ってると言う動きをすると、「大丈夫、今までの動きで分かってるから」と、余計にプレッシャーが掛かるような事を言ってくる。
四の五の言っても、演じる運命は変えられないらしい。
放送は、第一に近況報告と前回までのコメントやお便りの紹介、第二にゲームを楽しんで、最後に今日のコメントを読む流れという。
カンペと言うか、何を読み上げるかどうかは、彼女と同じ画面を共有して、それを見ながら、しゃべり、リアクションするのだ。
大体、一段目はこんな感じのことを話すという事は伝えられているし、第二弾はテキトーにプレイしていれば、上手いことアテレコすると言う。
最後は、もう、ぶっつけ本番でやるしかないので、これはどうしようもない。
目の前にある大型テレビに映し出されるコメントや、彼女の指示を見ながら、演技をしてみる。
リアルタイムのコメントがガンガン流れてくる。
着ぐるみ回を喜ぶ人のコメントが並ぶ……嫌な人は見に来ないか。
一段目を無難にこなしていくと、問題になったのは二段目である。
やると言ったゲームが地味に難しいのだ。正確に言うと、彼女と私ではプレイスキルに違いがありすぎて、どうしようもなくグダグダになる。
中の人頑張れと言われる始末だ。
焦れば焦るほど上手くいかないのだが、彼女の声の演技はなかなかそれに合っていて、人ごとじゃないのに感心するしかなかった。そして、軽くメタな話題を振りつつ、ファンサービスを忘れない。
なんか、この時点で、精気が抜けたような気分になったが、放送はぶっ続けでシメのコーナーに入ってくる。
サチでエゴサーチすると、中の人は本人なのかどうなのかで、かなり議論が紛糾していたが、今回の放送で結論は出たようだ。
予想以上に、「中の人」に言及する人がいて、嬉しいやら嬉しくないやらである。
彼女は、その辺を匂わせつつも誤魔化しながら上手い具合に話を捌いていく。ああ、地頭力も高い人なんだなと、更に感心するしかなかった。
私の読むフリ、しゃべるフリに、声を合わせてくれるし、心配したほどのトラブルは起こらなかった。
結果的に言えば、放送は成功で、また時々やりますねと言う話で終わった。
勿論彼女は大満足で、放送で言った「時々」はリップサービスにするつもりはないらしい。この部屋で暮らす条件と考えるなら、それは仕方ないことか。
その後も、似たような放送がされ、「中の人」のファンまで出てくる始末である。
着ぐるみを使ったPR映像の撮影依頼も来ているらしく、そろそろこの家から抜け出すことは出来そうになくなってくる。
実際、仕事を見つけるまでと言いながら、居心地がいいので、仕事を探しに出かけていなかったりする。
お給料は、家賃を差し引いた程度のお金がもらえるし、空いていた部屋は宛がわれるし、交代で家事を済ますと、一人暮らしよりもずっと仕事が少なくて済むことが分かる。
彼女も彼女とて、私を手放すつもりはないのだ。
それにしても、彼女に男の影がないのは不思議だった。
VTuberになっているのも、別に顔が不細工だからとか、そんなことはなく、容姿の上ではむしろ私よりもずっと上だ。
一緒に暮らしてから二ヶ月ほど経つが、金遣いの荒さが見えることもなく、遊びに行くとしたら殆ど、私と同伴だったりするほどだ。
仕事で出ることはちょこちょこあるが、夜になることは滅多になく、その例外も、公私ともに仲のよい別のVTuberに会いに行くぐらいだった。
彼女は、しばしば、私に着ぐるみを着せて、それを眺めたり、ハグしたりして、ストレスを解消しているので、多分、自分が好きなのか女の子が好きなのかのどちらなのかも知れない。
少々ボディタッチが過剰かなと思うけれど、一線を踏み越える事はないので、自分の優越的地位を弁えているのだろうなと思っている。
あれで、自分とセックスしろと言い出したら、それこそ、例の劇団のようになってしまう。
一人になる時は、好きに遊びに出ていいと言われているが、インドア派なので、誰かに連れ出されない限り、延々と家の中でグダグダしているのが性分に合っていたりする。
で、そんな時に、時折生じるのが、オナニーしたいと言う欲求だったりする。
「あの子は、どうやって発散しているのだろう?」
まぁ、オナニーしたくなってしないと済まされない方が異常なのだろう。
本題に入る前に一つ触れなくちゃいけないのは、最近はサチの事が愛おしくなってきたと言うことである。
着ぐるみを着て、没入している時に、鏡などを見ると、結構持って行かれそうになる。
そういうことで、このところ、オナニーするとなると、着ぐるみを着る事になるのだ。
タイツは、何着も洗い替えがあるし、乾燥機にかけてしまえば、跡形もないので、存分にオナニーをすることが出来る。
慣れれば、一人で着替える事に困ることはないので、余程彼女にバレる心配もない。
それに、彼女が帰ってくるときは、必ず一報を入れてくれるぐらいだから、それも安心ポイントである。
と、言うわけで、姿見をソファーの前に置いて、プレイスタートである。
可憐な衣装を身にまとい、一人の少女がはしたない遊びに興じている姿は、なかなか背徳的だ。
それをのぞき見ている気になる自分と、自分自身がそういうはしたない女の子であると言うのが重なり合って、気分はどんどんアガっていく。
流石に、おもちゃの類いは手に入れがたいので、私の両手が相棒となる。
片手を股間に、もう片手を胸に宛てがい、密やかな愛撫をサチに行う。
感じているはずなのに、顔はいつまでも笑顔で輝いている。
呼吸が荒くなって来るけど、決して声は出せないでいる。その苦しさと切なさが、鏡越しで伝わる。
そうしていると、あっという間にイってしまう。
余韻に浸っていると、もう一度やりたくなってくる。
今度は下着姿で遊んでみる。
少女が下着姿で部屋をうろついているだけでも、結構にえっちなシチュエーションだ。
こちらもあまりにも可愛くて、そして可哀想で、すぐにイってしまった。
合計二回もヌケば、随分と満足している。おかげで股間はヌルヌルである。
さて脱ごうと、頭を取り外そうとしたときである。
何か「カチっ」と言う聞き慣れない音がした後、いつも通りに外れるウィッグが全く微動だにしなくなってしまった。
これはかなり焦る。
鏡を見ながら、悪戦苦闘するのだけど、何がどうしてこうなったのか分からない以上、本当に、どうしようもなくなってしまった。
尤も、そういう風に苦しんでいる姿もまた可愛く見えてしまうのが、非常によくない傾向あるのも確かなことである。
さて、どれほど着ていたか分からなくなった頃、私は観念することにした。
衣装に着替えて気持ちよくお出迎えできたら、若干誤魔化せるのではないか? そんなことも考えていた。
と、その時、部屋の扉が開いた。
「返事がないから急いで帰って来ちゃった!」
息を切らして入ってきた彼女は、半裸のサチを目にすることになった。
下着姿で、股間がカピカピになっている。部屋には姿見が鎮座していて、これは、何の申し開きも出来ない状態だ。
脱げないことに気を取られていて、スマホの通知に気づかなかったのだ。
説教だろうなと思ったのだけど、「好きだったら好きって言ってくれたらよかったのに」と、意外であるような、意外でないような反応が返ってきた。
「折角だから、私にもえっちな事をしてよ」
かなり直接的なソリューションだった。
これが彼女からの純粋な提案だったなら、かなり軽蔑すべきことなのだろうけど、自分が人のキャラクターを使ってオナニーをしていた以上、主導権は相手にあったのだ。
完璧に生殺与奪の権を握られてしまった瞬間である。
「じゃぁ、始めるね」
彼女の寝室に連れ込まれると、ベッドの脇に立たされた。
「お姉ちゃん、甘えていい?」
サチの声で自分の方へ来るように"命令"した。
「おいで」
ここから、彼女の二人でやる一人芝居が始まった。
まずは、自分の各部を指して、「お姉ちゃん、触っていい?」と指図するのだ。
これで手を抜いたら、「もっといい?」と言われるし、いい加減にやると「強すぎた?」と言う。思考を強制されている感覚だ。
彼女は、サチにして欲しい事を、サチの声でつぶやくだけで、相手がその通りに動く事を利用して、私の体を乗っ取っている。
サチの身体が自分である事に浸りきっている私にとって、この命令は抗いがたい。そうしているうちに、思考と命令がシンクロしてくるような錯覚に陥る。否、洗脳されていると言っても過言ではないだろう。
そうして、サチの言葉の通りに――もはや、自分自身の意思と区別の付かないように――彼女を責め続けていると、彼女は彼女の声で嬌声を上げるようになる。それでもサチの声になると冷静で冷酷だ。
後々考えれば、彼女もトランス状態だったのだろう。
イったと思しき後でも、サチが頭から抜けないのか、攻守が逆転した。
単純に自分さえ気持ちよくなればよかったのだから、これは実際、そういう意味だったのだろう。
サチは、自分を慰めてくれるように懇願し、彼女はそれに快く応える。
これが彼女の本性なのかも知れないけれど、愛撫は優しく、そして正しく気持ちよかった。
自然に動く身の捩りに対して、彼女は適切にサチによがらせた。
ここでも、逆転した同調が私を襲ってくる。
声に出さないことが声として聞こえてくるし、声に出したいことも声として聞こえてくる。そういう状態が続くと、その両方が曖昧になってきて、自分の声として受け入れられてしまう。
自分と彼女との状態さえもあやふやになった挙げ句に、彼女の声が引き金となって、かつてないほどの絶頂が私を襲った。
何も私を縛るモノはないはずなのに、雁字搦めにされているような気分での絶頂だった。勿論、私は声など出せなかった。
どれほど経ったのか、二人抱き合ったままでいた。
「そろそろ脱ごうか?」との彼女の言葉まで、私は酔いが醒めなかったぐらいだ。
彼女は、脱がそうと言う手を一旦休めると、「また遊ぼうか?」と聞いてきた。そこでもう一回、私の意識をサチが襲い、その輝く笑顔で縦に頷いたのだ。
頭が外れなかったのは、元々そういう構造らしい。自分で上手く脱げていたのは、正しく被れていなかったからだ。
「危なかったね」と笑われたが、含意が広すぎて苦笑いしか出来なかった。
それから、ことあるごとに……と言うよりも、寸暇を見つければ着ぐるみを着させられる日々となった。
そんなときの話をいくつかお話をしよう。
ある日、当然のように着替えると、カメラの前で、オナニーをしてと言われた。
しないわけにはいかないのだけど、人前でオナニーなんて急にやれと言われて出来るモノではない。
戸惑っていると、戸惑っているなりの言葉を吐きつつ、「お姉ちゃん、見ていてね?」と、恥ずかしそうにサチの台詞を言われた。
恥じらっている言葉をしきりに口にしながらも、嬌声を上げるサチの声は、私にそのような動きを強制した。
次第に高まっていく彼女を演じると、私自身も徐々に気持ちよくなっていく。
声は、完全に相手に依存しているので、自分の声は出なかった。
ふと見ると、彼女もサチの声を出しながらもオナニーを始めていた。
必死になるにつれ、徐々に私とサチ、サチと彼女の境界が曖昧になり、そして、それは全員同時のフィニッシュに至った。
一度火が付くとなかなか終わらない。
二度、三度と続いて、三度目は、もはや、彼女とのセックスになった。
その頃になると、流石に彼女が感じているのか、サチが感じているのか、ごちゃ混ぜになって嬌声を上げるので、まるで彼女一人でセックスをしているようにまで見えた。
尤も、自分も彼女と股間をこすり合わせるたびに、耳元で聞こえてくるサチの声が、まるで自分の声のように感じると、彼女同様に気持ちよさで、境界が消え去っていくようにも思えた。
彼女は、マンネリの気配に敏感なようだ。
それはVTuberとして、新しい企画を考える時などに遺憾なく発揮されたわけだが、夜の遊びの方にも存分に発揮された。
衣装を変えてロールプレイングしたり、拘束具を買ってきたりしてみたりだ。
更に、股間にファスナーが付いているタイプのタイツも買ってきて、もはや、目的を隠さなくなってきた。
衣装に関しては、まだ、放送で使えるが、拘束具やおもちゃの類いは、自分が遊ぶ意外に目的はないのだ。
そんなわけで、実践である。
怯えるサチに手枷足枷をつけ、を壁に固定してあるラックに張り付けにした。
優しく声をかけながらも、彼女の手は、サチのあちこちをなで回し、最終的に股間のファスナーに手をかけた。
ビクビクと身体を震わせながら、ファスナーが開くと、その声でよがってみせる。
それから、ローターやらディルドやらを使って股間がもてあそばれるわ、乳首をいじられるわで、確実に気持ちよくなっていく。
尤も、こちらのテンションを超える勢いで、サチのあえぎ声は大きく強く激しくなるので、それに合わせて演技をしなければならない。
そうやって演技を声に合わせていると、快感もそれに倣うようになってくるのだ。
最終的には、彼女の声が合図で絶頂を迎えてしまった。
しかし、何というか、その時の彼女の表情を見ると、この人は、これで自分を疑似体験しているのではないか? と言う疑問が浮かんでくるのだ。そう、Sではなく、Mなのではないかと。
さて、楽しみつつももやもやする日々を過ごしていると、ある日、「コラボ放送が決まったから今すぐ着替えて」と言われた。
コラボって何だよと思いながら、着替えていると、彼女は放送機材を設置し始めた。
すべての準備が整った頃、一人の女性と一体の着ぐるみが部屋を訪れた。
女性の声は、よくサチと一緒仕事をすることが多いヒバリそのものであり、そして、着ぐるみはその子であったのだ。
ヒバリの声の人は、小柄な方であるが、キャラクターは巨乳のお姉さんキャラと来ている。
雰囲気的に言えば、我が主と声を取り替えたら、何も不自然ではなくなるというと、わかりやすい。
しかし、すでにお芝居は始まっているようで、ヒバリの声で挨拶すると、ヒバリが頭を下げ、そして私が頭を下げると、サチの声で挨拶すると言うややこしい事が起こっている。
もう、これは没入するしかないなとなって、それからはもう、自然に状況を受け入れた。
放送が始まると、事はスムーズに行く。ヒバリもなかなか演技が出来ているので、同業者なのではないかと思う。
とはいえ、中の人は詮索するものではないなと言うことで、楽しく遊び、楽しくトークをして、番組は終了した。
没入する前から、ヒバリの事は可愛いと思っていたから、オタクにウケのいい、ちょっと強めのスキンシップも気にならずにやれた――とはいえ、途中でサチに「胸触っていい?」とか言わせるのはいかがなモノかと。
相手の中の人は、どう考えても戸惑っていたが、声は快諾していたので、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、その巨乳を触ったのだ。
ヒバリの着ぐるみは、今回が初お披露目なので、中の人は明らかに興奮していた。それもあってか、かなり奇妙な感じに思える。
元々、セックスアピールしがちなキャラクターであったが、明らかに中の人が置いてけぼりになっているのを感じる放送ではあった。
勿論、そのことは、視聴者にもそこそこ感づかれていた――それがいいと言う意見込みで。
嫌な予感は前からしていたが、これだけでは済まされないなと思っていた。
"お姉ちゃん"が「ちょっと遊んでいかない?」と、ヒバリの声の人に言えば、「いいねぇ」と応えた。
含みのある言葉に対して即答すると言うことは、意味が分かっているのだろう。
「私から攻めさせないでくれ」と心から願っていたら、キャラクター性もあるのか、「触らせたんだから、私も揉ませて?」とヒバリからの攻撃となった。
この後気まずくなるなら、胸なんていくらでも揉ませてやろうと思ったのだけど、声に反して彼女はそうするフリだけで済まそうとしている。
私も彼女に応えて、揉まれている演技をしているのだが、私のお姉ちゃんと、それに連んでいる女性が、多分、そんなことで満足はしないだろうなと思った。
予感は的中して、「気持ちよくなってきたから、ヒバリちゃんもね?」と私にも胸を揉むことを強要してくる。
私の胸は小さいから"フリ"はいくらでも出来るが、彼女の胸だとそれも敵わず、声に誘導されるままに揉みしだく事になる。
そうなってくると「変な気分になっちゃうね」とヒバリはいい、「押し倒しちゃおうかなぁ」と命令を下したのだ。
中の人は明らかに動揺しているのだが、彼女も彼女なりに弱みを握られているのか、反抗はしないようだ。
ヒバリはこちらを正面に捉えると、軽く頷き、私はそれへの答えのつもりで、手を広げた。
私は、ヒバリの来るのを待ち受け、ゆっくりと倒れ込んだ。
さて、そこからどうしようか? 声の主は、どちらも何も言わない。
あまりにも意地悪だなと、心の中で独りごちた。
これは、あの二人を満足させない事には、終わらないなと悟った。
とりあえず、乳を揉んでやって、相手の出方を見るしかない。
と、言うわけで、この豊満な胸を手にして、好きにいじっていく。
彼女の本心なのか、それとも声に導かれてなのかは分からないが、如何にも感じている風な動きをする。
ここで少々疑心暗鬼になる。これは演技か? 本気か?
演技だろうが何だろうが、こんなヒバリの姿を見て何も思わないではいられない。こちらも、もっと入り込むべきなのだろうか?
ヒバリは床に突っ伏した状態であるので、私に手出しは出来ない。だから、何もしないでいるのだろうか?
このままでいても終わらないというのもあるので、ヒバリを抱きしめるようにして引き寄せ、抱きしめ合う状態にした。
声の主たちはすぐさま反応して、それに合うような言葉を囁き始めた。
ヒバリも自然に私を抱きしめ、そして身体をさすり合い始めたのだけど、これは声に反応したからだろうか? 一瞬のことで、区別が付かない。
それでも恐らく、二人は満足しないので、私は起き上がり、体位を組み替えて、対面座位に移行した。
ここにきて、ひとつだけ気がかりなことが出来た……股間に明確な突起物らしきモノを認めたのだ――今までは身長差やら何やらで全く気づかなかったが、股間と股間が接していれば、もう、気づかないではいられなかった。
これには混乱したのだが、その混乱さえも気取られ、逆手にとって攻撃を仕掛けてくるのが、あの二人であった。
「凄い! おちんちん!」
言うことは分かっていたが、この発言から、もう、それを無視して進む事はできない。
嫌だ嫌だと思いつつも、ヒバリの衣装をめくり、ショーツの上部に浮き出ている亀頭を目にした。
「中を出していい?」との質問に、ヒバリは不承不承に頷くものだから、「えーい、ままよ!」と頭の中で叫びながら、その逸物を取り出したのだ。
不思議というとナンだが、股間にはあるべきモノがなかった。
竿はあれど、玉がない。ああ、なるほど。
そうもなるなら、もう、これは何でもアリなのだなと思った。
完全に罠に嵌まって、抵抗も虚しくなる。所謂学習性無力感だ。
ぼろんと出たモノをさすりながら、さて、どうしたものか。
前戯もなく挿入するのはしんどいし、かといって、相手はそれほど乗る気でもなさそうだ。
本気で頑張り続ければ、このまま手コキで射精させるまではやれるのかもしれないが、多分、彼女たちの期待はその他にある。
手を休め、もう一度倒れ込んで、先とは上下逆の位置で抱きしめる。
これには、声の主も理解して、淫語たっぷりに「おまんこヒクヒクする」とか「気持ちよくなりたいの!」とか囁きかけた。
相手もやる気が出たかな? と思ったので、脇に避けて立ち上がってみた。当然というか、ほぼ義務みたいなものだが、ヒバリも立ち上がり、そのばで抱きしめ合う。
二人して、お互いの股間を慰め合い始める。
ここでも、漫画かなにかのような恥ずかしい台詞をを吐き続ける二人のせいで、私はヒートアップしていく。
我が主は、私の事を本当によく知っている。そろそろ挿れて欲しいと思ったタイミングで、「そろそろおちんちん欲しいの!」と叫んだ。
ここで止まるなどと言うことがあるだろうか?
私は無事挿入され、そのまま最後まで行った――といっても、射精感は殆どなくて、私がイったぐらいに、相手も身体をビクビクとさせていたので、無事に二人で達成したのだなと考えたぐらいだ。
もう、いろいろとクタクタになったところで、この狂気の小芝居は終了した。
ふと二人を見れば、この二人も軽くレズプレイをしていたのが分かる。なんと言う連中だろう。
何はともあれ、変態どもが四人揃った訳である。
今後、何が起きても、驚くことはないだろう。
そして、現実、この路線がお互いに上手くいっている以上、破綻もなさそうであるのだし。
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