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【14】家族への報告。

  寝室のカーテンが開けられ、朝日が差し込んで部屋が明るくなると従者の声がして意識が覚醒した。

  「おはようございます。アディード様」

  「あぁ、おはよう。ジャス」

  「本日は陛下と王弟様、姉君様が朝食にお集まりです。ご支度を」

  「何?昨日の今日で集まれたのか?」

  「皆さまアディード様の事をそれだけ心配なされているのですよ」

  「・・そうだな。少々心配が過ぎると思うが・・分かった。支度を手伝ってくれ」

  「畏まりました」

  普段より睡眠時間は短いはずだが、体調はすこぶる良い。

  アヤから譲り受けた首輪を腕に巻いていたお陰だろう。

  ・・・本当は首に嵌めたかったが、流石に彼女以外に見られるわけにはいかないので自重した。

  父から国王の任を引き継いだ長兄は勿論、騎士団の副団長を務める次兄。

  魔術院の中にある魔道具を扱う部門の長を務める姉・・

  皆そこらの貴族より忙しい身の筈だが、私の事となると簡単に優先順位を覆してくる・・

  そんな家族に対し、今までは申し訳ない気持ちが強かったが、アヤのお蔭でそれも変える事が出来るかもしれない。

  そんな明るい気持ちを胸に支度を終わらせ、家族の待つ部屋へと向かった。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  朝の挨拶を短く交わし、まずは静かに食事をする。

  会話は食事後、部屋を移って家族のみの状態になってからだ。

  勿論。魔術的、物理的に情報対策をした上で。

  「こうして集まるのは久方ぶりだな。直接顔を見れて嬉しいぞアディ」

  兄姉を代表して、長兄が会話を切り出す。

  「私も、お会いできてうれしいです。ゼクス兄上。クリス姉上。フィル兄上。双子がいないのが残念ですが・・」

  「何、今の弟妹らは学業優先。学園を卒業したら頻繁に顔を見せるだろうよ」

  「・・確かに」

  不思議と懐いてくれている歳の離れた双子の弟妹に思いを馳せて微笑めば、次兄と姉も同じように口元に優しい笑みを浮かべた。

  「時に、妻が同席出来なくてすまなかったな。あれもアディに会いたがっていたが、上の子が熱を出してな。看病をしたいからと詫びておった」

  「それは一大事ではないですか!王子は大丈夫なのですか?!」

  甥っ子が臥せっていると聞いて、つい大きな声が出てしまった。

  だが長兄の「侍医より問題ないと報告があった。すぐに良くなるだろう」との回答にホッと胸を撫で下ろして「[[rb:義姉上 > あねうえ]]にはお気になさらずとお伝えください」と伝言を頼む。

  「最近王子は俺に師事して剣も振り始めましたから。生活の習慣が変わった所為もあるかもしません」

  「かも、ではなくて恐らくそれが原因ですわよ。最初から飛ばし過ぎたのでは?」

  「中々に筋が良かったもので。少しばかり速足だったのは否定しませんよ」

  姉の言葉に次兄がにこりと笑いながら答えた。

  「何。あの子も楽しんでいたからな。自業自得だ。しかし、自己の体調管理も教育の一環。此度の事で学び、次からは自分で加減するだろうよ」

  「では熱くなりそうな時は止めるとします」

  「そうだな、頼む」

  そこで会話が途切れ、皆で同時に用意されていた茶を口に運ぶ。

  「さて・・二日前に報告のあった異界と繋がったという鏡の件だが、進展があったそうだな?」

  長兄の言葉により一瞬で場の空気がピリリとしたものに変わった。

  自身も居住まいを正し、緊張気味に口を開く。

  「はい。昨夜、あちら側の者と再度交流を持ちました」

  「それで、話してみてどうだった?」

  「はい・・話の中で、非常に信じがたい事が幾つもありました・・」

  アヤとの会話で知り得たあちらの世界の話を一つずつ述べていく。

  大変美味な食事と酒。

  金属の容器で長期保存可能な飲料。

  僅か数分で料理を完成させる不思議な箱。

  また、食品類を冷やす事の出来る箱。

  部屋の中を真昼の如く照らす揺れぬ明り。

  高品質なガラス製品と、それが安価で出回っている様子・・

  繋がった先の者は海に囲まれた島国に住んでおり、そこは素晴らしく治安が良い事。

  何より、国力としての指標となる人口の多さ。

  「成程・・あちら側は様々な技術が進んだ世界、という訳か・・」

  アヤから借り受けたガラスの器を手に、長兄は眉根をぎゅっと寄せて難しい表情だ。

  国王として、この千載一遇の出来事を如何にして役立てようかと思案しているのだろう。

  「確かに、素晴らしい技術力だと思います。ですが、どうやら彼方では魔力の存在を認識出来ていないようなのです。それと「人」以外の種族が存在しないと言っていました」

  「ほう?では魔術的にはこちらが有利だな」

  「彼方は魔法を使えないという事でございましょう?しかも人種以外の種族が存在しないということが事実なら、軍事力はそこまでの開きは無いのではないかしら?」

  「魔力そのものは存在するのですね?彼方の者には感知できる能力が欠如しているのか、体のつくり自体が違うのか・・こちらの者と比較してみたいですね」

  「魂を有する存在は行き来出来んらしいからな。比較は難しかろう」

  「ですわね。あの鏡が魔道具として[二つの世界を繋ぎ固定][言語の相互変換][無魂物の行き来]の三つの能力を有している事は確実だと思いますわ。後は詳しく調べてみない事には何とも言えませんけれども」

  「うむ。引き続き調べてみてくれ。しかし興味深い世界だ・・上手く利用する手立てを検討すべきだな」

  兄姉らは真剣に彼方の世界を利用する方向で話を進めている。

  王族として、国を守る者として当然の対応だ。

  だが・・

  「申し訳ありませんが、あちら側を一方的に利用するのはお止めください」

  自分のこの言葉で、場の空気が不穏なものへと変じ、テーブルを囲む三人から鋭い眼光が向けられた。

  「・・どういう事だい、アディ?」

  「珍しいね。俺達に意見するなんて・・」

  「確と理由あっての事ですわよね?おそらく・・昨夜遅くに用立てた空の魔石が関係しているのではないかしら?」

  姉に指摘され、一呼吸置いて頷く。

  「・・はい。彼方の者・・「異界の魔女」より契約書を交わす提案があり、それを受けました」

  ざわりと部屋の空気がさざめき、三人からの圧が強くなった。

  無言で先を促され、続きを口にする。

  「・・事後報告になりました事、誠に申し訳ありません。契約内容は・・「異界の魔女」の要望に私が付き合い、対価に知識を得るというものです」

  「こちらがその契約書になります」と、懐に忍ばせていた契約書の原本を取り出し机に差し出した。

  「・・随分と[[rb:遊 > ・]][[rb:び > ・]]を持たせたな。対価が知識?しかも悪用を禁ずるとは・・」

  「責をアディ一人で負うのですか?それは、あまりにも・・」

  「名前が読めませんわね。解れば魔術的に何らかの縛りが可能でしたのに・・」

  そう訝しむ兄ら、残念そうな姉に未だ話していなかった事実を語る。

  「勿論、そのような形での契約には理由があります。彼方は魔力を必要としない技術が進んでいるようですが、それは知識の深さから来るものらしいのです」

  「ほう?・・その片鱗を感じたから、という訳だな?」

  「・・・はい。魔女曰く「水を[[rb:詳 > つまび]]らかに語れる」と」

  そう言った途端、三人の顔が驚きに変わった。

  「水でも火でも、対価として知っている事は教えてくれると言質はとりました・・そして、彼方の進んだ技術は知識あってこその物と判断しました・・知識さえ得られれば、全く同じとは行かずとも、こちらで活用することは可能だと思います。責については、私自ら提案しました」

  「それと・・」と少し言い淀んで、僅かに照れを含み続けた。

  「彼女とは魔力の相性が素晴らしくて・・人柄も好ましく・・その・・好き。に、なりました・・」

  成人しているとはいえ、想い人が出来たと家族に告げるのは妙に気恥ずかしく、声が尻すぼみになってしまった。

  下げていた視線を上げて兄姉らに目を向けると、何故か驚愕の表情で固まっている。

  あれ?と思った瞬間、三人同時に椅子を跳ね飛ばして立ち上がった。

  「「「それを先に言いなさいっ!!」」」

  ゴッ!と圧を感じる程の声量で怒鳴られ、鼓膜を庇う為咄嗟に手で耳を塞ぐ。

  「アディに「妖精が淡色を告げた」だとっ!!」

  「まぁまぁまぁ!なんて素敵なのかしらっ!お相手はどんな方ですの?!」

  「とうとうアディが!魔女と言いましたね?性別は?男ですか?!」

  「止めろ愚弟!そっちの道にアディを誘うな!」

  「失礼ですね兄さん!愛に性別は関係ないではないですか!」

  「お兄様たち!性別などどちらでもよろいしですわ!大事なのはアディの気持ちですのよっ!!」

  姉の言葉にハッとした兄らは言い争いを止め、こちらに視線を集中させた。

  「・・あの。女性で・・年上、ですね。多分・・えっと、何をそんなに・・」

  「女性なのですねっ!髪は?目の色は?体格はどのような感じですのっ!お好きな色は何かしら?早速装飾品を作ってお贈りしなくてはっ!」

  「おい愚妹!何勝手に気に入られようとしてる?!」

  「うるさいですわね!早い者勝ちですわよっ!」

  言い争いの相手を変え、ぎゃいぎゃい騒ぐ長兄と姉を尻目に、次兄はそっと傍に寄って来て告げた。

  「お相手が女性ではあまり役に立てないかもしれませんが、困った事があっても、無くても、何時でも相談してくださいね?」

  「はぁ・・ありがとうございます、フィル兄上。それで、あの、この状況は一体・・」

  「無論!我ら皆アディを心配していたからだ!」

  小声で話していた筈なのに、耳聡く反応した長兄が声を上げた。

  「仕方が無い事とはいえ、お前は家族に遠慮してばかり・・自ら進んで事を成そうにも、難しい状況が続いている。せめて伴侶くらいは好きに選ばせてやりたいと、我らは常々話し合っていたのだ」

  「お相手が異世界の方とは予想外でしたが、俺達はアディを応援しますよ」

  「新しく妹が出来るだなんて!なんて素晴らしいの!!」

  上の兄姉たちが、それぞれの言葉で祝福してくれているのが解って、胸の奥が熱くなる。

  何と言葉を発したものか、声を出せずにいると兄らは騒がしく話を続けた。

  「あぁ・・とうとうアディも我らの手を離れる・・時が・・」

  「何泣いてんですか。お付き合いも始まっていないのですから、もう暫くアディは俺たちの可愛い弟で居てくれますよ」

  「はぁ・・とっくに成人しているというのに、この愚兄と愚弟は・・そろそろ弟離れしませんと、いい加減嫌われますわよ?」

  「それは嫌だ!」

  「それは嫌ですねぇ・・」

  胸に灯った温もりを自覚しつつ、しかしいつも通りの兄姉らの様子に苦笑して言った。

  「嫌いになどなりませんからご安心を・・あぁでも・・」

  そこで言葉を途切れさせ、口元だけを微笑みの形にして続ける。

  「彼女や、あちら側に対して何か、害を及ぼそうというのなら・・」

  「いや、その心配は不要だ」

  強い決意と共に繰り出そうとした台詞は、あっけらかんとした長兄の言葉に遮られた。

  「アディの想い人だぞ?害するなど・・そのような事、あってはならぬ」

  「そうですね。こうなった以上、情報を遮断していて正解でした」

  「ほんとよね。どこぞの強欲貴族に知られれば、無理難題を言って来るのが目に見えているもの」

  まさか、恋した事をこんなにも喜び、受け入れてくれるとは・・

  どころか、自分だけでなく、想い人まで気にかけてくれるとは、思ってもいなかった。

  だが、良かった。

  これなら何の憂いも無く、彼女と良い関係を築いて行けそうだ。

  「ゼクス兄上。クリス姉上。フィル兄上・・ありがとうございます。まだ、彼女の方が私をどう思っているかは分かりませんが・・気持ちが通い合うように、頑張ってみようと思います」

  そう感謝の気持ちを込めて告げると、兄姉ら三人は力強く頷く。

  こうして、一先ずは望んでいた通りに話は進んだ。

  異界の知識を得ながら想いを成就させるべく、暫くの間向こう側に関わる事は全て一任してもらえることが承諾される。

  当然ながら、異界に関する事柄はこの四人でのみ共有し、全て秘匿事項とすることが決定した。

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