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【56】兄姉たちに異世界の菓子を。

  自室で友人とお茶しながら、自分の身に起こった事を隠さず伝えた。

  あ、勿論エロ方面は伏せてますがね?

  「そんで?アコは相手を訴えないの?」

  「しないよ?てか、どうやって訴えんのさ」

  「証拠隠滅しちゃってんのに」と言って、二杯目の紅茶を傾ける。

  「いや、解ってるけど・・腹立つじゃん。泣き寝入りとかさ」

  私を想って、そう不快そうに唇を尖らせる友人に「それがさ」と報復の件を伝えた。

  「アド君が「死なない程度に呪いで痛めつける」って言ってるんだよね」

  「呪いぃ?あっちにはそんなモンまであるの?」

  「みたいだね。呪詛師って職があるみたいだし?」

  「っはー。凄いね異世界。しかしさぁ、呪いがこっちでも有効だったら・・それって「凄い」だけじゃ済まないかもね」

  「まぁ・・ね。まだ私も半信半疑だし・・成功しちゃったら完全犯罪になっちゃうし・・」

  本当にこのまま進めてしまっても良いのだろうか?

  不安と罪悪感が鎌首をもたげるが、友人があっけらかんと「まぁ、あたしだってやり方知ってたら呪うけど」とか言うので、驚いていつの間にか俯いていた顔を上げた。

  「アキ?」

  「だってそうでしょ?腹立つじゃん。大事な親友傷つけられて、なんで泣き寝入りしなきゃいけないのさ!アコ、死んでたかもしれないんだよ?!」

  言葉を紡ぎながら、徐々に興奮して声を荒げる友人。

  自分は、何と身勝手な幸せ者なのだろう。

  親友が自分の事で怒り、他人を呪う姿を嬉しく思ってしまうのだから。

  こんな自分を、宝物のように大切に想ってくれる事に、幸せを感じてしまうのだから。

  ちょっと泣きそう。

  「へへ・・。うん。ありがと」

  「何笑ってんの!アコはもっと怒っていいんだよっ?!」

  「うん。けど、アキとアド君が代わりに怒ってくれたからさ・・割とスッキリ、かな?」

  そう言って、ぽり・・と頬を掻いたら、友人はぱちりと瞬きをした。

  続いて呆れ顔で溜息を吐き「アコがそれで良いなら、いいケド」とそっぽを向く。

  「てかさ、アド氏と交流してまだそんな経ってないよね?」

  「うん?多分。一週間くらいじゃないかな?」

  「・・・なのにアコが嬉しいと思えるくらい刺された事怒ってたの?」

  「だね「友を傷つけられて腸が煮えくり返る」みたいな事言ってた」

  「ふぅん・・「友」ね」

  遠くを見る様にして目を細める友人に首を傾げたが、直ぐに「何でもない」と首を振られた。

  「それじゃ、明日仕事の前にカメラとタブレット持ってきて良い?置いといたらいつでも使えるでしょ?」

  「え?一緒に実験しなくて良いの?」

  「全然いいよ。先に試しちゃって」

  「そ?ありがと。じゃあ新しいの買うまで借りるね?」

  「何で新しいのをわざわざ・・」

  「だって、破損とか怖いじゃん」

  借り物壊したり、鏡の向こうで盗難とか紛失とかされたら目も当てられないよ?!

  私物だったらどうとでもなるしさ。

  「分かった。分かった。じゃあそれまで貸しといてあげる」

  「うん。よろしく」

  「じゃあ行くね。あ、預かった金貨。換金できるか判ったらすぐ連絡するから」

  「はーい。それもよろしくお願いします。あ、衣装制作の手伝いが必要そうな時は連絡してね?」

  「ありがと、そん時はよろしく」

  会話している間に玄関に辿り着いた。

  靴を履き、バッグの位置を調整した友人はドアチェーンを外してノブに手を掛ける。

  「じゃ、また明日」

  「うん、気を付けてね?」

  「アコもね」

  「勿論。部屋から一歩も出ないよ」

  「うん、暫くはそれで良いんじゃない?外出は落ち着いたらで」

  「ありがとう。そのつもり」

  「おっけ。したらね」

  ドアを開けた友人に「はーい、また」と手を振り見送る。

  半自動で閉まったドアに鍵を掛け、チェーンも掛けたらまた独りになった。

  ・・洗い物なんかは後回しでいいや。

  善は急げ。早速密林で注文掛けないと。

  そのままぺたぺたとクローゼットを回り込み、スマホを片手にベッドに横になる。

  アプリを立ち上げて、商品検索にぽちぽち打ち込んだ。

  ・・・電気屋に行ったらもう少し安く買えるのかもしれないけど、今はまだ外出が怖い。

  あれから一歩も外に出ていないが、ネットがあれば特に困らなかったしね。

  ヒキオタばんざい。

  色々比較する為に幾つか候補をお気に入りに登録した。

  が、そこで以前にお気に入り登録した品々に目が留まる。

  ・・・ローション買い足しとかないとね。

  何故か最近消費が激しいから。

  何故かね。

  大事な事だから二度言いました。

  あと、ダメにした羽箒と・・筆も何本か買っとこ。

  ・・・・うん。これも便利そうだな・・あ、気になってたコレと。コレも・・

  いろいろポチってたら、カートがアダルトグッズで一杯になりました。

  それとおすすめがエライ事に。

  ・・・良いんだよっ!資料にもなるからっ!

  こちとらエロ作家やぞ?!

  ほっとけ!

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  「お忙しい中、何度も集まって頂いて恐縮です。ゼクス兄上。クリス姉上。フィル兄上」

  隣国に赴く準備を進め、風魔法の訓練の後で夕食時に兄姉たちに集まってもらった。

  いつも通り静かに食事をした後、人払いをしたところで会話が始まる。

  「良い。むしろ集まらねばならん用事を持ち込んでくれて助かるぞ。普段は中々顔を合わせられんからな」

  「そうですよ。アディは俺たちに気を遣いすぎです」

  「全くですわ。もっと頼ってくれて良いんですのよ?」

  「ありがとうございます。その・・努力します」

  丸いテーブルを囲み、お茶を片手に少々硬い会話を交わす。

  「それで?今日の用事はその包みか?」

  「はい。他にもありますが、飲み物もある事ですし先にお渡ししましょう」

  「「異界の魔女」から預かって参りました」と、テーブルの上で「保存」の布を開く。

  出て来たのは未だ冷たいままの茶色の箱が3つ。

  一つずつ配り「どうぞ開けてみてください」と促す。

  「なんと・・」

  「まぁ綺麗」

  「これは美しいですね」

  3人がほぼ同時に上蓋を取ると、それぞれに感嘆の声が上がる。

  「あちらの菓子で、お礼の品だそうです。「助けて頂き、ありがとうございました」と伝えて欲しいと」

  彼女からの言葉を伝えると、長兄は「なんと律儀な」と驚いた様子で菓子に見入った。

  「箱が冷たいですね。冷し菓子とは珍しい」

  「おぉ。ならば早く食した方が良いだろうな」

  「もう少し眺めていたい気持ちはありますけれど、味も気になりますので早速いただきますわ!」

  目を期待と好奇心に輝かせた姉がそう言うと、兄らも同意して手元の小皿に気に入った菓子を取り出した。

  長兄は白い菓子。次兄は黒茶の菓子。姉は赤い実の乗った菓子を選ぶと、フォークとナイフで切り崩し口に運ぶ。

  そして予想していた通り、3人はそのまま固まった。

  そうなのだ。

  あちらの菓子は舌の肥えた王族が食べても、驚愕からその身が固まるほど美味い。

  「なんと繊細な甘さだ・・」

  「素晴らしく複雑で芳醇な香りがします・・」

  「美味しいですわ・・」

  思わずといった感じで感想を述べる兄姉に、ほっとして肩の力を抜く。

  「気に入って頂けて良かったです。「異界の魔女」も喜ぶと思います」

  「あぁ。「良き品を頂き感謝する」と伝えてくれ。しかし美味いな。茶ともよく合う」

  「えぇ。とても素晴らしい品です。また、この冷たさと温かい茶の組み合わせが良いですね」

  「あたくしも気に入りましたわ!見た目と味も然ることながら、食感も楽しくて・・あぁ、余りに美味で最適な褒め言葉が出てきませんわ!」

  長兄がカップを傾けると、次兄もにこにこと微笑みながら菓子を口に運ぶ。

  姉は早くも2つ目を選び始めた。

  「アディも一つどうだ?」

  「ありがとうございます。ですが、私はあちらと交流の度に色々と口にしておりますので、そちらはゼクス兄上がお召し上がりください」

  飲み物だけの自分を気遣った長兄の言葉に他二人のフォークを持つ手も止まるが、姉などは菓子の魅力と弟への気遣いとで葛藤している様子が伺える。

  「その方が「異界の魔女」も喜ぶと思います」と続けると、頷いた兄姉たちは再び菓子を食べ始めた。

  姉は満面の笑みだ。

  正直、自分も初めて見る菓子の味は気になるところではあるが・・

  彼女と会う度に1人美味しい思いをしているのだ。ここは控えよう。

  そのうち、同じような菓子を食す機会があるかもしれないしな。

  異世界の菓子に舌鼓を打つ兄姉たちを微笑みながら視界に収め、青年はお茶の入ったカップを傾けた。

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