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カチャン。とドアの鍵を開けてノブを引く。
中に体を滑り込ませたら、鍵とチェーンを掛けてエコバッグを肩に掛けたまま靴を脱いだ。
トストスといつも通りにパネルを飾ってある廊下を通って、真っ直ぐシンクへと向かい荷物を降ろす。
そのタイミングでちりん、ちりんと風鈴が鳴った。
「はいはーい」と鏡台に向かいながら声をかけ、直ぐに目隠しのタオルを捲る。
「こんにちはアド君。一日ぶりだね!」
出会ってからというもの、毎日顔を合わせていた。
だが、昨日は青年の都合がつかず会えずじまいだったのだ。
この新しい友人は、会う度に新種の気付きや感情を与えてくれる・・
一日会えなかっただけで、何だか損をした気持ちになっていた。
青年は自分にとって、とても稀有な存在だと・・そう実感する。
そんな事を思いながら鏡越しに顔を合わせると、青年は申し訳なさ気に「あぁ。昨日は顔を出せずにすまない」と謝って来た。
「ん~ん?気にしてないよ?色々忙しいみたいで大変だね?」
「あぁ、まぁな。慣れない仕事というのは、どれも似たようなものだろうがな・・・ところで、外出していたようだが・・」
青年はちらと視線をシンク横に置いたエコバッグに向け、心配そうに言葉尻を濁した。
「うん。ちょっと買い物にね。大丈夫だよ、今のところ何もナシ!」
「特に問題はない」と、腰に手を当てて胸を張って見せたが、それでも青年は眉根を寄せて案じる言葉を口にした。
「そうか・・もし何か気になったら隠さずに言ってくれ。アキ殿に頼るのは勿論だが・・私も、話しを聞くくらいは出来る」
「はーい。その時はちゃんと話すよ。ありがとね?」
「あぁ」
感謝を伝えると、青年は眉間の皺を幾分緩めて頷いた。
軽い調子ではあるが、話すと約束した事で少しは安心出来たらしい。
「ところで、何か不思議ないい匂いするんだけど・・何か持って来てるの?」
すんすんと、部屋に漂う嗅ぎ慣れぬ香りに鼻を鳴らして訊ねると、青年は「あぁ。昼食か、軽食にでもどうかと思ってな」と、視界の外に手を伸ばして、掴んだ盆をひょいと手前に置いた。
そこにはつるりとした濃い緑色の葉に盛りっと乗せられた、肉?らしき食べ物?
・・・色が真っ青なので本当に肉なのかあまり自信が持てない代物が・・
上に掛けられているソース?的な液体が補色の黄色なのはワザとですか?
「ごめん、率直な感想「ナニコレ?」って感じなんだけど・・」
青と黄色のウミウシカラーにちょっと引きながら言うと、青年は「さもありなん」といった雰囲気で頷いた。
「うむ。これは冒険者たちがよく口にする屋台で人気の料理でな「焼き[[rb:寄生鶏 > パラサイトコッコ]]」という」
「えっと・・あまり食欲の湧かない名前だね・・」
しかし漂う香りは食欲をそそる・・何と言うか、視覚と嗅覚との不一致が酷い。
「魔物の一種だが、家畜に寄生する事が多く討伐は比較的楽に出来る。味はいいぞ?慣れればどうという事はないが・・こちらでは主にパンに挟んで食す。酒のつまみとしても定番だな」
「ふ~ん・・こっち側ではホント、青い食べ物ってあまり無いんだよね。飲み物とかお菓子くらいでさ。肉が青いとか全くと言っても過言じゃない程に皆無」
「そう、か。なら口にするのは止めておくか?」
「あ、いや。見た目だけで拒否るのはどうかと思うので、まずは試させて下さい」
下げるつもりだったのだろう。青年が盆に手を伸ばした時点で、それを手の平を向けて止める。
「分かった。他にもパンと野菜と、スープもあるぞ?こちらはどうする?」
そう言って手の平サイズの丸いパンと、もっさりした葉野菜の山。
そして赤い粒の混じったとろりとした汁物の三品が乗った別の盆を出してきた。
「へぇ!色々持ってきてくれたんだね!全部試してみるよ!あ、アド君はもうお昼食べた?」
「いや、まだだ」
「お。なら私が買ってきたお弁当食べる?」
「良いのか?!」
「良い良い!交換しよっ♪」
「よし!分かった。交換だ!」
青年はにっ!と何だか幼さを感じる元気な笑みを見せ、ずいと異世界の肉料理をこちらに差し出すのだった。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
と、いう訳で食しましたよ異世界の謎肉!
鶏・・と聞いたけど、食感は想像してたより少し硬め。
どの部位かは分かんないけどね?
噛みしめると程よい歯ごたえで「肉食ってる~!」って感覚が強い。
思っていたよりは良い感じ。
味も良い。
若干獣っぽいというか、野生を感じるのは下処理が足りなかったのかな?
まぁ、そんな気にする程ではないけど。
味は正体不明の香草で付けられた、食欲をそそるガツン系。
鶏本来の旨味もしっかり感じる。
後味にほんのりピリッと来るのは、成程お酒が進みそうだ。
・・見た目に目を瞑れば、ね。
パンはこっちの物よりだいぶ硬かった。
と言っても、バゲットより少し硬いくらいで、嚙み切れない程じゃない。
聞けば、冒険者たちは手持ちのナイフで好みの厚さにスライスしながら食べるそうな。
なにそれ、異世界っぽくてカッコイイじゃん。
食感はもさもさしてる。口の中の水分が持って行かれる系。
味の方は酸味が強いかな?所謂黒パンってヤツが近いのかも知れない。
葉野菜はちょっとえぐみが強くて、そのまま生で食べるのは無理だった。
青年に断って、軽く塩ゆでして灰汁抜きをする。
で、流水にさらして絞って・・醤油と鰹節で簡単おひたしにしました。
そしたらほうれん草っぽくなって、パクパク食べられましたよ。
スープは少しとろみのついた何かの動物の出汁が効いた塩系のお味。
具は正体不明の肉の切れ端と、薄緑の葉っぱ。つぶつぶした実?豆?が入っていて、鶏に使われていたのとはまた別の香草で香り付けされていた。
私的には、今日の品の中ではこのスープと青色の謎肉が美味しく食べられた、かな?
青年には私が食べるつもりで買ってきた牛丼をあげました。
でも量が足りなかった様なので、冷凍のピザとエビピラフも追加。
あと、青年が持参したご飯も私だけでは食べきれなかったので、そちらも分けて食べました。
成程。これだけ食べられるから、あの立派な体を維持できてるんだね!納得っ!
「ところで、アド君家って割とお金持ち、だよね?ポンと金貨の山を渡してくるくらいだし」
「?・・。まぁ、そう・・だな。裕福ではある」
「んでも今日持って来たご飯はあんまりお金持ち向けというか高級志向?ではなさそうだよね・・何か理由があったりすんの?」
食事を終え、麦茶でさっぱりしながら問う。
気遣いの出来る青年の行動としては腑に落ちない。
この前持ってきてくれた高級お菓子のように、料理も手の込んだ物を持ってくるなら分るのだが・・
青年は「理由、という程ではないが・・」と前置きをして答えた。
「アヤがそちらの日常風景を「がぞう」で見せてくれただろう?私もこちら側の様子が分る物を何か見せようと思ってな。考えた結果、一般的な食事をという答えに至っただけだ」
「成程・・一般的な食事を、ね・・」
うん、確かに。
凄まじく異世界を感じられるシロモノでしたわい。
これがカルチャーショックか。実体験すると衝撃が凄いわ。
「・・すまない。気に入らなかったなら・・」
「あ、いやいや違うよ?!嫌だとか気に入らないとかじゃなくて、世界というか、食文化の違いにビックリしてただけだからっ!」
「誤解させたんならごめん!」と、シュン・・と凹んだ様子の青年に慌てて謝る。
「・・そうなのか?」
「うん!見た目もだけど、味も食べた事無い感じで「成程異世界!」って実感しちゃった!お肉とスープが特に美味しかったよ!」
語りながら『言い訳っぽいな~』と自分の説明下手さ加減にげんなりする。
アド君が良かれと思って持ってきてくれたご飯だというのに、自分は何故笑顔で「ありがとう」と言わなかったのだ!
うぅ、自己嫌悪。気を悪くしてたらどうしよう・・
だが青年はこちらの不安を払拭するような優しい笑みを浮かべて、嬉しそうに言った。
「そうか!気に入ったのなら、また次も持ってこよう!それとも別の料理を試すか?」
「お、おぅ。ありがとう・・そだね。折角だから別のをお願いしたいかな?」
「分かった!それなら魔物を使った料理が良いだろうな!そちらには居ないのだろう?」
にこにこと跳ねるような雰囲気を振り撒いて、青年は次に持って来る料理について話し出す。
・・・良かった。マイナス感情は持って無いっぽい。
ほっと胸を撫で下ろして、少し緊張に強張らせていた肩から力を抜いた。
新しく縁を結んだ友人を、早々に失いたくはない。
他人との関り方が下手な自覚がある分、気負い過ぎないようにしなくてはと自分を戒める。
気を遣いすぎて空回り、自滅するのが落ちだから。
『少しでも長く、互いに楽しい時間を過ごせるようにしたいな』
そう思って、異世界の食事について話す青年に笑顔で相槌を打った。
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