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【102】押しの強い冒険者。

  ドスっドスっと重量感のある足音を響かせ、移動宿泊箱を牽く[[rb:劣竜種 > レッサードラゴン]]が縦列で街道を進む。

  列の周りを[[rb:鳥馬 > シュトラオス]]に乗った護衛騎士が随伴して走り、さらにその外側を冒険者が固めていた。

  調査隊の先頭は幌付きの荷車に乗った冒険者。

  そのすぐ後ろに護衛騎士、中程に貴族の乗った箱、次に護衛騎士を挟み最後尾にまた冒険者の荷車といった順で隊列を組んでいた。

  傍仕えが用意した黒羽の鳥馬に跨り、列のほぼ真ん中辺りで前後に護衛騎士と冒険者の鳥馬に挟まれ走る。

  上空には「面布」の姿を写し纏う半精霊が数体飛んでいて、全方向を索敵していた。

  だというのに、更に隣には傍仕えが同じく鳥馬で並走して周囲を警戒している。

  厳重過ぎるように感じるのは走っている位置もあるが・・初めての遠出ということで、傍仕えの警戒度が上がっている所為でもあるだろう。

  視線を上空に向けると、時折半精霊が隊列から離れて飛び去り、また直ぐに戻ってくる様子が見られた。

  恐らく察知した魔物を仕留めに行ったのだろうという予想は、すぐに裏付けられる。

  街道の休憩場で30分ほど休む事になり、鳥馬に水と果物を与えていると褐色の肌を持つ女性冒険者が隣に立つ傍仕えに話しかけて来たのだ。

  「アンタがあの飛んでる[[rb:精霊 > やつら]]の主、「面布のカルセ」だろ?同じ姿してるしな!」

  「ええ、そうですが・・何か用ですか?」

  「おう!アタイは「不屈の砦」所属のキーラってんだ!隊列の頭の方で魔物の索敵と牽制を担当してんだけどさ!アンタの使役精霊、かなり広範囲の魔物を始末してくれただろ?お陰で随分楽させてもらったから、ちょっと礼を言いたくてね!」

  元気よく「助かった!ありがとな!」と感謝の言葉を告げる褐色肌の冒険者に、傍仕えは「仕事ですから」と億劫そうに返す。

  「ははっ!噂通り冷たい奴だなぁ!そのナリで単独活動してるってんだから、アンタ相当強いだろ?!道中、暇が出来たら是非手合わせを!」

  「暇など無いのでお断りします」

  きっぱりと拒絶した傍仕えに、褐色肌の冒険者は「振られたっ!?」と小柄な体全体を使って嘆きの感情を表し、崩れ落ちて地面に伏せた。

  しかし直ぐに跳ね起きて「それでもっ!」と拳を握って見せる。

  「アタイは諦めが悪いんだ!また誘いに来るからその時までに考えといてくれな!」

  傍仕えが返事をする前に、手と膝に着いた土汚れを払い落とした褐色肌の冒険者は「それじゃ!」と手を振り走り去って行った。

  「・・随分と押しの強い冒険者だな」

  口を挟む隙がなく、ただ状況を見ているしかなかった青年は呆気にとられて思わずといった風に呟く。

  「はぁ・・時折、あぁして来るんですよねぇ「手合わせ希望」の人が。好意的だろうと敵対的だろうと、どちらも面倒でしかありません。しかも今は護衛中だというのに・・「不屈の砦」には抗議文を出しましょう」

  早速腰に巻いたバッグから綴り葉を取り出してガリガリと書き付け、半精霊を呼んで持たせる傍仕え。

  ふわりと浮かび上がり飛んでいく半精霊を見送りもしない様子に『相当腹を立てているな』と察して、自分の腰の[[rb:魔法鞄 > マジックバック]]から小物入れを取り出した。

  その中から包みの両端が捩じられた飴を1個摘まみ出して、傍仕えに声をかける。

  「カルセ」

  「はい、何でしょうアド様?」

  「これでも口に入れて少し落ち着け」

  「・・はい、ありがとうございます。お気を使わせてしまい申し訳ありません」

  素直に飴を受け取った傍仕えはそう言って包みを開き、面布で隠された口へと運んだ。

  「っ?!甘いのに、塩味も感じます・・美味しい・・」

  「そうか、私も試してみるかな」

  静かに口の中でコロコロと飴を転がす傍仕えに、「自分も」ともう一つ同じ飴を取り出し黄色い文字の入ったその透明な包みを開いた。

  現れた丸く、やや透き通った茶色の粒を口に含む・・

  まず感じたのは甘味・・だが、甘味に包まれた舌の中程で塩気も感じた。

  甘さと塩気という対立しそうな味覚が、手を取り均衡を保ち不思議と癖になる味を生み出している・・

  この飴、勿論[[rb:異世界 > あちら]]の品だ。

  渡された食料の中には、こういった一口で食べられる菓子もまた、文字通り山のように入れられていた。

  ・・お陰で鳥馬での移動中でも手軽に口に出来るこれらの菓子には、本当に助けられている。

  自然と口角が上がってしまう菓子を口にする度、彼女を想う。

  『少しでも快適な旅になるように』と、色々な品を集めてくれた事がこんなにも嬉しい。

  多少は期待しても良い、だろうか?

  ・・・いやいや。これぐらい、まだ友だちに対する態度の範疇だろう。

  気持ちを向けてもらうには、こちらから行動あるのみ。

  その第一歩として、遺跡にあるらしい転移陣の研究が少しでも進展するよう、水竜討伐に力を入れるとしよう。

  気持ちを新たにしたところで休憩終了の合図が耳に届く。

  傍仕えと頷き合い、飴の包みを小袋に回収すると鳥馬の手綱を引き、劣竜種の隊列へと足を向けた。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  「うちのモンが迷惑をかけた。すまない」

  「すぃませんでした・・」

  その日の晩のこと。

  野営地で声を掛けて来たのは「不屈の砦」のリーダーである冒険者の女と、傍仕えに手合わせを申し込んできた褐色肌の冒険者だった。

  どうやら半精霊が届けた抗議文は効果覿面だったらしい。

  2人揃って謝罪に訪れたようだ。

  「これは詫びの品だ。納めてくれ」

  そう言ったリーダーに促され、緑の葉に包まれた包みを差し出す褐色肌の冒険者。

  「アタイが狩った[[rb:旨鳥 > うまどり]]。貰ってくれ、ください。下処理はしたから、焼いたら直ぐに食べられる、ます」

  頭を下げ、ずいと包みを差し出してくる冒険者に最初は迷惑そうな雰囲気を醸していた傍仕えだったが、肩を竦めて小さく息を吐くと思いの外素直にそれを受け取る。

  「・・いいでしょう。今後、こちらに構わないと誓うのなら謝罪を受け入れます」

  「あ、ありがとう!ます!」

  ばっ!と顔を上げた褐色肌の冒険者は、軽くなった両手を体に添えて再度勢いよく頭を下げた。

  「感謝する。行くぞキーラ」

  「あ、も少し待ってリーダー!」

  立ち去ろうとしたリーダーに一言告げ、褐色肌はこちらへと近づく。

  「はい!たぶん、アンタにも迷惑掛けたと思うから、これやる!」

  そう言ってこちらの手首を掴むと、上を向いた手の平に小さな包みを押し付けてきた。

  「いや、私は」

  「遠慮すんなって!アンタ冒険者にしちゃヒョロイからな。しっかり食って体作れよ!」

  気遣い、なのだろうが・・一言二言余計だ。

  手の平に収まるその包みを開いて確認すると、中からは焼き菓子らしき薄茶色をした四角い塊が何個か出て来る。

  「・・これは?」

  「ん。アタイのおススメ焼き菓子!まだいっぱいあるから、遠慮せずに受け取ってくれな!」

  「そんじゃ!」と元気よく立ち去ろうとする褐色肌の冒険者。

  一歩踏み出したところで、「待て」と呼び止めた。

  「一つ聞きたい」

  「ん?何?」

  動き出した体をピタリと静止させて、振り向く褐色肌の冒険者。

  「カルセと手合わせしたい理由は?」

  「え?強くなりたいからだけど?」

  「そうか」

  『他に理由があるのか?』とでも言いたげに首を傾げる相手を前に、僅かの間思案した。

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