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手合わせを終え野営地に戻る途中、こちらの問にある程度の答えを示した褐色肌は、逆に質問を投げ掛けて来た。
「アドこそ、あの水はどっから出したんだ?入れ物を取り出した様子も無かったし、いきなり現れたぞ?」
「秘密だ。と言いたいところだが・・これから先、戦闘があれば直ぐに露見するだろうからな」
そう口にして軽く魔力を放出し、手の平の上に硬貨程の大きさで水玉を作り出して見せた。
「おいおいおい・・一体どうなってんだ?!魔力を出したのは解ったけど、それで何で水が出てくんだよ?!」
「詳細は省くが、魔力で掌握した範囲から水気を集めた」
「水気って・・おまえ、この辺りにゃ池や川どころか、水溜まりすら無いぞ?!」
「池や川は関係ない。私たちが吸って、吐くこの空気に含まれている水分を集めた」
「何言ってんのか全然解んねぇよ・・」
眉根を寄せ、難しい表情で首を捻る褐色肌にどう説明したものかと暫し考える。
「そうだな。空気の水気を体感するには・・今、手の平は渇いているか?」
「ん?あぁ、アドが乾かしてくれたしな。それがどうした?」
「では、両手で水を掬うような形を作って口を覆い、はぁ~と何度か息を吐いてみてくれ」
身振りを交えて説明すると褐色肌は言われた通りに素直に口を手で覆った。
「そのあと手の平をこすり合わせると、湿気を感じると思う」
「あぁ、確かに。少し湿ったな」
「つまり口から吐いた息には水気が含まれている。同じように空気にも目には見えないが水気が含まれている訳だ。それを集めると水になる」
「確かに・・言われてみれば風が湿っぽいとかあるもんな・・・」
「成程」と頷いた褐色肌は顎に手を当てて何やら考え込み、暫く無言で歩く。
野営地からの声が微かに聞こえる位置まで互いに口を閉じていたが、考えが纏まったのか褐色肌は唐突に質問してきた。
「なぁ、さっきの魔法。湿気があれば、どこででも水が作れるってことだよな?」
「そうなるな」
「・・アタイにも出来ると思うか?」
「さぁな。水操魔法が使えるのなら可能なのではないか?」
「いよっし!じゃあ早速試してみるからちょっと見ててくれ!」
そう言って胸の前で両手を使い器を作ると、ふわりと魔力を放出して見せる。
だが、褐色肌を中心に広がる魔力は薄く、範囲もそれほど広くない。
これでは・・
「ん゛~・・っぷはっ!これ以上は無理!」
そう言って魔力放出を止め、膝に手を突き前屈みのまま荒く息を吐く。
「この辺に水気があるって言われても、魔力で感知なんかできねぇよ・・アドはどうやってんだ?」
「私はキーラより濃く魔力を放出して空間を把握しているから、それが原因ではないか?」
「はぁ?あれより濃密な魔力ぅ?そんなん放出したらソッコー魔力枯渇でぶっ倒れるだろが!」
「いや、私は平気なのだが・・」
「・・・おまえさん、魔力量どんだけあるワケ?」
「日に数十個の魔道具に充填出来るくらい、だろうか」
本当は数百でも平気なのだが、流石にその魔力量が異常なのは理解しているので、桁を一つ減らして伝えた。
だが、それでも私の言葉を聞いた褐色肌は深い深い溜め息を吐き、疲れたように言う。
「はぁ~・・・・アド、それが本当なら、おまえさんの魔力量は2等級並だ。ついでに言うと、2等級の中でもかなり上のだと思うぜ?」
「・・・そんなに、か?」
ほんの数週間前まで魔法が使えなかった身としては、魔力が多いだけでそのような評価になるとは、なんとも理解し難い。
「何でおまえさんが驚くんだよ。はぁ・・そっかぁ・・そのくらい魔力がねぇと水を生み出すのは無理かぁ・・ちぇっ・・」
「なんと言うか・・すまん」
あまりに残念そうなその様子に、つい謝罪が口を吐いて出た。
褐色肌は「ははっ!何で謝んだよ」と小さく笑う。
「まぁ、すっげえ残念だけどしょーがねーよな!自分にどうしようもない事で落ち込んでたら冒険者なんかやってられねーし!それにあの水の攻撃だって、顔に当たらなきゃ致命傷にならねぇもんな!」
後頭部で腕を組み、そう明るく言う褐色肌の言葉の内容が気になって首を傾げた。
「顔?あの時背中にも当たったと思うが・・」
「そりゃ当たったけど濡れただけだったし。顔だと鼻と口塞がれて終いだろ?」
どうやら褐色肌は背中の分を一撃とは数えていなかったようだ。
顔に当たったのが致命傷で戦闘不能と判断していたらしい・・
私は褐色肌の肩を叩き、こちらに視線が向いたのを確認すると無言で水玉を生み出した。
その水玉を鏃の形に変化させ、更には凍らせる。
それから回転を加え、少し離れた岩に向かって打ち出して見せた。
氷の鏃はキュンっ!と甲高い音を立てて目にもとまらぬ速さで飛び、白と灰色の斑模様の岩に当たる。
ガっ!と固い物同士がぶつかる音がして、鏃が完全に岩にめり込んだ。
褐色肌は目を見開いて驚いたが、まだ終わりではない。
開いていた手の平をぐっと握って鏃を昇華させると、岩の内部で爆発的に体積を増やした鏃がバゴッ!と鈍く重い音を立てて爆ぜた。
その衝撃で岩の上部が割れ落ち、頭一つ分ほどの高さを失う。
驚きの表情をぱかりと口を開いた驚愕のものへと変化させた褐色肌は、その顔のままギギギとこちらに視線を向けた。
「い・・今の、は?」
「これも水魔法だな。詳細は秘密だ」
にっ。と笑って言うと、恐る恐るといった様子で問われる。
「・・アド、等級はいくつだっけ?」
「先日登録したばかりの4等級だな」
その言葉を聞いた褐色肌は呆れ顔でちょいちょいと手招きし、「耳を貸せ」と言うので素直に応じた。
前屈みに顔を近づけるとぐいと耳を掴み引かれ、その痛みで更に身を低くした瞬間、すぅと息を吸い込む音が―
あ、まずい。
「こんな事出来る4等級が居てたまるかアホ―っ!!」
大音量で叫ばれ、響いた声でくらくらしている所へ更に追撃が。
「登録したばっかなのは解るけどっ!こんなん周りに迷惑もいいとこだ!実力と等級が全然釣り合ってねーじゃねーか!?」
「わ、私に言われても・・」
「くっそ―!5、6等級からじゃないだけマシかっ!でもその力、絶対4等級の範囲じゃねー!おいアドっ!!」
「な、なんだ?」
「おまえさっさと等級上げろっ!そんな攻撃出来る魔法持ってんだから、真面目にやってりゃ直ぐに昇級実績は稼げる筈だっ!今のままじゃ組合や依頼人にとっても損にしかならねーわっ!・・あとアタイら他の冒険者にもな!」
「ったくっ!冗談にもならねぇっ!」と何やら憤っている褐色肌。
眉間に皺を寄せてぶつぶつと文句を呟いている。
野営の天幕はもうすぐそこだ。
この不機嫌な状態のまま、パーティーメンバーと合流して良いものかどうか・・
そこでふと、手合わせの対価を渡しそびれていたことを思い出し、前日に用意しておいた包葉に移し替えた飴をバックから取り出す。
「キーラ。手合わせの対価だ。受け取ると良い」
「えっ?!あの美味い飴か?!アタイ負けたのに良いのか?!」
「手合わせをしたら渡すと約束したろう?勝敗は関係ない」
「そうだったか?ま、くれるってんなら貰っとくぜ!ありがとな!」
そう言って受け取ると、早速包葉の蓋を捲り三角の飴を一つ、口の中に放り込んだ。
途端、先程憤っていた姿からは想像出来ないようなにやけ顔で両頬を抑え、身を捩る。
「[[rb:甘 > はんまぁ]]~い!やっぱ美味ぇ~・・堪んねぇなぁこれぇ・・」
「分かる。この飴は素晴らしく美味い」
目の前でそんな風に食べられると、口の中に広がる甘味を思い出してしまった・・
自然と腰のバックに手を伸ばした私は、中から小袋を取り出して褐色肌に渡した物と同じ三角の飴を一つ摘まみ出し、口に運ぶのだった。
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