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【113】美人さんとチョコの取引をして趣味を語っちゃうゼ☆

  注文されたチョコレートを確認して、飲み物と茶菓子を用意していると予定の時間となった。

  途端、こちら側の風鈴がチリリンと澄んだ音を奏でる。

  その時間ぴったり具合で、そわそわと待ちわびる[[rb:美人さん > お姉さま]]が容易に想像できてしまいなんだか楽しくなりながら鏡台のカバーを捲った。

  すると頬を上気させ、瞳をキラッキラさせた美人さんが現れたので、あまりの予想通りっぷりに思わず吹き出しそうになる。

  やっぱこの人、めっちゃ可愛いな・・

  聞こえていないのは解っていつつも、咳込んで笑いを誤魔化してから準備に取り掛かった。

  あちら側で固定したスタンドアームをこちらに引き入れてあったので、モニターの電源を入れてから向こう側へと押し出す。

  画面にはこちらを映したカメラ映像が出ているので、美人さんは今度は驚きに目を丸くして一層強く輝かせた。

  「まぁ!魔女さんですの?!」

  「どうも、こんにちはクリスさん。ご機嫌如何ですか?」

  「これは失礼致しました。お陰様で、大変調子良く過ごしておりますわ。魔女さんは如何ですか?」

  軽く頭を下げて挨拶を返してくれた美人さんに「それは何よりです。私の方はいつも通りですよ」と定型文のように返す・・

  けど、ちょっと味気なかったかな?と思い、言葉を追加した。

  「今日も素敵なドレスですね。美しいクリスさんにぴったりで目が幸せです」

  「まぁ!実は少々気合を入れて来ましたの。魔女さんにそう言って頂けると侍女の苦労が報われるというものですわ!魔女さんのお召し物も、華やかさの中に何とも言えない妖しさがあって素晴らしく似合っておいでですわ!お顔を直接拝見出来ないのが残念ですけれども・・」

  「え、あ、ありがとうございます・・お世辞と分っていても、何だか照れますね」

  「まぁ、うふふ!事実ですのに」

  扇を広げ、ころころと笑う美人さんのペースに呑まれている事を自覚するも、不思議と不快感はない。

  顔を合わせるのは2回目だが、早くも慣れたらしい。

  我ながら美形にチョロすぎではないだろうか。

  「え~、では。早速ですがご注文の品をお渡ししてよろしいですか?」

  「えぇ!是非お願いいたします!」

  本題を告げると一転。美人さんは姿勢を正してキリッと表情を引き締めて答えた。

  そうして直ぐに[[rb:茶色 > ミルク]]が200箱、[[rb:白 > ホワイト]]が100箱、[[rb:黒 > ハイカカオ]]が300箱の合計600箱が10箱ずつ梱包された形で境目を超えて渡した板の上を滑り、あちら側へと心太のように次々と送り出される。

  美人さんは用意してあった配膳カートのような台に、自らの手でテキパキとチョコレートを乗せて行った。

  鼻歌が聞こえそうなくらいウキウキで作業する姿にほっこりしつつ、梱包された60個の塊を無事渡し終える。

  「「ちょこれいと」を3種、600箱。確かに受け取りましたわ!こちら受領証と代金になります。ご確認くださいませ」

  「ありがとうございます」

  板に乗せらせたハガキくらいのサイズの紙を引き寄せ受け取るも、文字は読めないままなので隅の方に『チョコ600箱』と書き足した。

  続いて代金だが、重い革袋をずずっと板ごと手繰り寄せ、その口を広げて見れば中にはキンきらリン☆と輝く金貨、金貨、金貨・・

  「・・多くないですか?一体チョコレートに幾らの値を付けられたのです?」

  「1枚につきこれほど」

  美人さんはにっこりと微笑み、口元を扇で隠してレースの袖から伸びる指をすっと立てて見せた。

  『え・・1箱21枚入りで600箱だから、ひぃふぅ・・』と計算してはじき出した金貨の枚数に軽く眩暈がして頭を振る。

  「・・高すぎやしませんか・・」

  「全力で値付けさせて頂きましたわ!」

  鼻息がしそうなくらい得意気に胸を張って見せる美人さんに圧され、自分の口からは「おぅふ・・」と小さく音が漏れた。

  言葉らしいものは欠片も気配が無い。

  え、えぇ~・・

  あっちの一般的な月収とかって知らないから一概には言えないけどさぁ・・

  こっちでの換金額で考えるとすんげぇ事になるんですが。

  普段使いの通帳残高の桁が変わりそうな勢いである。いや、確実に変わる。

  「あの、流石に高額過ぎて申し訳ないので、せめて今の半―「まぁ!何を仰るおつもりですか?!」・・え?」

  言葉の途中で無理矢理に割り込まれて驚き、続く台詞が引っ込んでしまった。

  その隙を突き、美人さんは怒涛の勢いで言葉を紡ぐ。

  「神の手で作り組み上げたとしか思えないような豊潤な香り、心地よく陶酔する舌触り、そして何より甘美な夢に誘われるかの如き味・・別の世界で作れられているので当然ではありますが、「ちょこれいと」は最高で最上級の希少品です!これでも魔女さんが頷かれるであろう最低額を提示したつもりですのよ?!ですが、やはりご不満のご様子。となれば今の額の倍―「あーっ!!大丈夫です!分かりました!この金額でお売りしますので!どうかそれ以上はっ!」・・あら?左様ですか?」

  「はいっ!お代は今頂いた分で十分です!ご購入ありがとうございます!!」

  必死に金貨の袋を持ち上げて示して見せれば、美人さんはケロリ「分かりました」と口元を扇で隠したまま、目を嬉し気に細めて頷いた。

  うぅ・・完全に手のひらの上で転がされている感・・

  途轍もなく心苦しいが、取引額を了承してしまった以上、別の事でお返ししていくかな?

  よーし、顔を合わせる度に高級お菓子なんかでおもてなししちゃうぞ☆

  あと美人さんが好きな物とか欲しい物とか、興味がある物とか・・

  現時点ではチョコレートとしか言いそうにないけど、他にも情報が欲しいな。

  「クリスさん。付かぬ事をお訊きしますが、ご趣味は?」

  「あたくしですか?観劇ですわ。最近仕事が忙しく、中々劇場まで足を運べておりませんが」

  「ほぅほぅ・・どんな話がお好きですか?」

  「淑女らしく「淡い恋物語」を、と申し上げたいところですが・・」

  そう言い辛そうに視線を伏せた美人さんだったが、敢えて空気を読まずに「ですが?」と言葉尻を繰り返し、じっと返事を待つ私。

  ほんの数秒無言の時が過ぎると、諦めからか小さくため息を吐いた美人さんはぎこちなく口を開いた。

  「・・その、あたくし、本当は男女の恋物語より男性同士の友情のお話の方が好みなのです・・」

  「ほほぅ!例えばどのようなものが?」

  若干食い気味で訊ねると、美人さんは挙動不審になりながら恥ずかしそうに教えてくれた。

  「えぇと・・互いに助け合って危機を乗り越え、友情を育む冒険活劇・・ですとか」

  「ふむふむ!」

  「いがみ合いつつも、気が付けば協力して窮地を脱する推理物、でしたり・・」

  「良いですねぇ!」

  「敵対し、争う中で互いが幼い頃の友人であったと気付く悲劇、などでしょうか?」

  「何それ切ないっ!」

  「概ね、そういったような様々な形の友情物語が大好きなのです」

  「大変良いご趣味かと思います!」

  鼻息荒く肯定すると、美人さんは頬を染めつつも「誠にそう思われますか?」と少し不安そうに訊いてくる。

  もしかしたら今まで同意してくれる人が居なかったのかもしれない・・

  よし、ここは少し語るとしようか!

  「勿論ですよ!こちらでも観劇はありますし、友情物語も山の様に作られていますから!」

  「まぁ!山の様に、でございますか!?」

  「はい!物語の媒体も観劇の他に文字、絵、音、映像・・動く絵の事ですが、今言ったように多岐にわたります!」

  「まぁ!まぁ!なんて素晴らしいのでしょう!つまり、魔女さんは色々な形で友情物語を楽しまれているという事でございますか?!」

  両手を組み、頬を上気させてずずいと前のめりにモニターに顔を寄せる美人さんに「そういう事です!」と頷くと、「羨ましいですわぁ・・」と盛大なため息を吐かれたのだった。

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