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【157】ボサ髪の魔法使いとの手合わせ。

  幾つかの山を越え川を渡り、明日には目的地である遺跡に着くだろうという日。

  大きな町での宿泊となった為、野営の時より時間に余裕があるということで「不屈の砦」メンバーである赤髪の双剣使いと町外れで手合わせを行った。

  他の同行者は傍仕えとボサ髪の魔法使い。

  赤髪は近接戦闘が得意だと聞いていたので、こちらも魔法を使用せず胸を借りるつもりで木剣を構えた。

  今出せる全力で挑んだが、結果は辛くも引き分け。

  手数が多く、実戦経験の差で打ち負けた感じだ。

  流石は熟練と言われる3等級。そうやすやすとは勝たせてくれない。

  「驚いたわ。思ったより出来るのねアド。型がきれいだから騎士みたいなお堅い剣かと思えば、あたしたち冒険者に近い動きね」

  そう言って襟足のみ長い髪を背中に払い、僅かに乱れた呼吸を整えこちらに手を伸ばす赤髪。

  未だ呼吸が荒く、息を整えられぬ私とは鍛え方が違う。

  分かっていた事ではあるが、改めて修練不足を目前に突き付けられた形だ。

  己の不甲斐なさに苛立ちはあるものの、それを表に出す事無く差し出された手を取り立ち上がる。

  「良い、手合わせだった・・感謝する」

  「こちらこそ。いい運動になったわ。ほら、ここ数日は野盗どころか魔物も出て来なかったし」

  複数の[[rb:迷宮 > ダンジョン]]が点在する皇国。

  目的地である遺跡は2つの迷宮に挟まれる位置に存在していた。

  そして今滞在している町はその2つの迷宮からの恩恵で発展したらしい。

  迷宮攻略は皇国存続の要故、国からの支援が厚いのだろうと推測した。

  人の住む地盤が出来て行き来が活発になり、周辺に漂う魔力の消費量が上がって魔物が生きるに難しい濃度まで下がった事で出没頻度も下がったというわけだ。

  深く呼吸を繰り返し、こめかみから伝った汗を手の甲で拭うと、すっと傍仕えから清潔な布を差し出される。

  受け取り、礼を言って首と顔を拭いて返し魔法による洗浄も受け身綺麗になったものの、またすぐに汗が滲んできた。

  休憩を兼ね、皆で傍仕えの用意したカップで水を飲みながら、今行った手合わせについて意見交換をする。

  と、こちらの呼吸が落ち着いたのを見計らったように、徐にボサ髪の魔法使いが声を掛けて来た。

  「アド。今度はわたしと魔法で勝負」

  ふんす!と鼻息荒く身の丈程の[[rb:杖 > スタッフ]]を構えて見せるボサ髪。

  「勝負するのは構わないが・・それは手合わせする、という解釈で良いのか?それとも的中てのような魔法練度の勝負か?」

  「勿論手合わせ。わたしも冒険者。それなりに動ける」

  「デラには負けるけど」と、最後は少しだけ自信が陰った様子で話すボサ髪。

  赤髪と手合わせした直後の私としては『それはそうだろう』と同意せざるを得ない。

  「そうか。しかし魔法での手合わせとなると少々危険が伴うが」

  「承知の上。無論、手加減はする。それと、回復薬も用意した。抜かりはない」

  そう言って、ボサ髪は端の擦り切れたローブの内側から、青い中身が薄っすらと透けている小瓶を取り出して見せた。

  死に瀕するような重篤な傷も治す事の出来る高品質の回復薬だ。

  「リルベル、あなたそれどうやって手に入れたの?」

  「魔石集めて買った。頑張った」

  驚いた声を上げる赤髪に「褒めろ」とばかりに薄い胸を張るボサ髪。

  しかしそれを聞いた赤髪は頭痛を堪えるように額に手を当てる。

  「まさかとは思うけど、組合を通さずに直接買い付けたんじゃぁ・・」

  「そのまさか。これは旅の途中で買った。近くに組合は無かったから、仕方のない事」

  堂々と言い切ったボサ髪の言葉を聞いた赤髪は、両手で顔を覆い上を向いて動かなくなってしまった。

  仲間をそんな状態にしておきながら、ボサ髪は「些末な事」とばかりに赤髪を放置してこちらに詰め寄って来る。

  「よし、やるよ。やろう。今やろう。直ぐやろう。さぁ魔法で勝「この馬鹿!」ぶっ!」

  ごちんっ!と脳天に落とされた拳にのたうち回るボサ髪。

  先程までとは立場を逆転させて、今度は赤髪が痛がる仲間を放置して溜め息を吐く。

  「もうっ!4等級までは組合を通さない直接売買は減点対象なのよ?!リルベル!あなた折角3等級に上がれそうだったに、また依頼主から推薦貰いなおさないといけなくなったわよ!」

  「―・・うそん」

  むくりと起き上がったボサ髪はぽつり言って、口を半開きに暫し呆けた後。

  「別にいいか」と呟き立ち上がりローブに着いた土を払った。

  「初見の魔法の前では些細な問題。さ、やろうアド」

  無表情のまま、言葉だけはきりりとして改めて手合わせを請うボサ髪。

  このまま受けて良いものかと赤髪に視線を向ければ、盛大な溜息と共に頷かれた。

  「・・良いのか?」

  「・・・過ぎた事ですもの。手合わせには関係の無い話だし。あなたが良いなら構わないわ」

  「そうか。ならば受けるとしよう」

  普段からボサ髪に振り回されているのだろう。

  また「はぁ・・」と吐かれた溜め息に呆れと諦めが込められている気がして、赤髪を少しばかり不憫に思う。

  「それでは、危険が無いよう念には念をということで「E」「J」」

  傍仕えがパチっと指を鳴らすと、その背後に傍仕えの姿を模した半精霊が2体現れる。

  「お2人に直撃しそうな攻撃はこの子たちに防いで貰いましょう。結界が張られた時点で当り判定という事で」

  「如何でしょう?」と胸に手を当てた傍仕えに全員が頷いた。

  「それで問題ない。先に当たり判定3回で負け。良い?」

  「分かった。それで良い」

  勝敗の条件が決まったところで、赤髪が開始の合図を買って出る。

  地を這う草が広がる見晴らしの良い場所で20歩程間を開け、ボサ髪と真っすぐに向き合った。

  互いに呼吸を整え、ボサ髪は杖を構え、私は自然体で立つ。

  頃合いを見た赤髪が、すっと静かに息を吸った。

  「それでは。「不屈の砦」リルベルと、アドの魔法勝負・・始め!」

  開始の言葉と同時に魔力を放出。

  掌握した空間から水分を集め、水の礫による攻撃を―

  瞬間。掌握領域に攻撃魔法が触れた事を感知して、咄嗟に左に上半身を傾ける。

  一瞬前まで頭があったところを不可視の刃が通り抜けた。

  体勢を整えながらボサ髪を確認すれば、何か光る物を投げ捨てている。

  「外れた。次、煙幕」

  ボサ髪は腰の後ろに手を回し、取り出した何かを足元に叩きつけた。

  立ちどころに湧き上がった濃い煙が、その姿をすっぽりと覆い隠す。

  『見えずとも、魔力感知で把握は出来る』

  周囲に漂う魔力を自身の魔力で塗りつぶし、掌握した空間では視界に頼ることなく相手の動きは筒抜けに―・・

  風でこちらにも流れて来た煙を警戒していたところ、またしても予兆なく飛んできた攻撃を横に飛んで避けた。

  受け身を取り、すかさず立ち上がって警戒の度合いを引き上げつつ思考する。

  魔力感知が鈍い?・・いや、これはあの煙に阻害されている?

  『ならば、風で払うまで!』

  ごう!と強い風を起こせば、一気に視界が開けた。

  だが、ボサ髪の姿はどこにも無い。

  「どこ、にっ!?」

  気付けば、足元の草が不自然に伸びてがっちりと足首に絡みついているではないか!

  『まずい!』と焦るも時既に遅し。

  半精霊の結界が発動して、耳元で甲高い音を奏でた。

  『先手を取られたか』

  だが、まだ後2回ある。

  草の水分を凍らせ、足を動かし崩して拘束から逃れると、再び魔力感知を試みる。

  開けた場所で姿を隠すとなると、魔法による隠蔽・・・否!

  「下か!」

  地中にまで押し広げた魔力感知に反応があり、そこ目掛けて水の礫を放った!

  と、着弾の間際に地面から飛び出し避けるボサ髪。

  「もう見つかった。残念」

  届いた声に反応することなく、次の礫を放つ!

  が、着弾より先。半精霊による結界が発動したのは自分の背後。

  その場から飛退き、確認すれば・・

  地面から槍の穂先に似た形で、土が伸びていた。

  「次で詰み」

  勝利が近いボサ髪の、それでも淡々とした声音が場の全員の耳に届いた。

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