野望編 第一話 シーベアー号消失事件

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  三毛猫を遊魔に加えてから二週間、結果的に遊魔は一人も増えていなかった、ダインに激しく抱かれる事に遊魔達もだいぶ慣れた様で、今は一日に最低三人が相手する事で十分にダインを満足させる事が出来ていた。

  そして訪れた長期連休、愛耶はサプライズバカンスを企画して、遊魔達は今、大型のクルーザーに乗って目的地の無人島を目指していた。

  ダイン 「しかし、愛耶が船舶の免許を持っていたとは意外でしたね」

  遊魔達の乗る母里家所有のシーベアー号はアンカーを下ろして停泊していた、この辺りで新鮮な食材を調達して、無人島の別荘で調理するつもりなのだ。

  愛耶 「熊造は釣りが趣味なんですよ、前の海外渡航も視察といってましたけど本当の目的は釣りだったんですよ」

  七実 「正にセレブですね、七実なんて近所で外来魚ですよ」

  真夏 「ブルーギルだよね、アレは馬鹿みたいに釣れるから確かに楽しいけど」

  七実 「釣った後が問題なんですよね、穴掘って埋めたり猫にあげたりしてました」

  ニア 「それ猫の虐待では無いんですか?」

  新顔の銀髪女性はかつて三宅祥子と呼ばれた女性だ、七実の尻尾改造によって謎の留学生ニア・ミーケに産まれ変わり、今では遊魔の大切な仲間となっていた。

  七実 「でも喜んで食べてましたよ、猫が喜んでいるならいいんじゃ無いですか」

  真夏 「うちの実家の犬もセミとか食べてましたからね、本人が喜んでるなら良いと思います」

  愛耶 「ブルーギルとかセミとかゲテモノは止めて下さい、せめてアジとかイワシですね、愛耶は鯛狙ってますけど」

  ダイン 「愛耶は芸達者ですから、魚も捌けるんですよね」

  愛耶 「ちゃんと出来ますよ、ダイン様には美味しい料理を食べて欲しいですから」

  七実 「何だかんだで愛耶のアピールに付き合わされてる気がしますね、そういえばファービちゃんがいませんけど」

  真夏 「ファービは船室で寝てます、あの娘、海は初めてって言ってましたから、魚も初めは苦手でしたし」

  ニア 「なら、生きてるヤツ見ればビックリしそうです、海って結構変なの釣れますからね、ニャアはタコ釣った事有りますよ」

  七実 「アレ釣れるんですか、壺で取るところ見た事有りますけど」

  愛耶 「赤いモノに抱き付くって聞いた事有りますね、新鮮だと生でお刺身にも出来るんですよ」

  七実 「高そうな料理だよね」

  真夏 「愛耶さんは回る寿司とか行って無さそうですからね」

  愛耶 「それを言われてしまうと、確かに行った事ないんですよ」

  七実 「マジセレブだよ、まぁ七実達はデザート食べに行ったりするけどね、回転寿司デザートって安くて種類有るから」

  ダイン 「邪道でしょうけど、私も寿司の後にケーキ食べますね、寿司よりケーキの方を多く食べた事も有ります」

  真夏 「ダイン様もてなすなら、魚よりスィーツか」

  愛耶 「当然甘いものも用意してますけど、海鮮も食べて下さい手巻きパーティーの用意してますから」

  ダイン 「面白そうですね、それなら私も気合いを入れて釣りましょう、青魚以外を釣りたい物です」

  遊魔達はその後釣りパーティーを楽しんだが、結果は芳しい物では無かった、鯛釣ると言っていた愛耶は謎の魚をたくさん釣り上げて、唯一食べれそうな魚は鯖のみで、ダインは青魚を苦手としていた。

  愛耶 「まぁ、こういう状況も想定して鮭を一匹調達してます、アレは色々楽しめる魚ですからね」

  七実 「流石クマだよ、自分の好物は確保してたんだ」

  愛耶 「鮭馬鹿にしましたね、愛耶が今日の料理で皆んなを鮭の虜にして上げます」

  ダイン 「それは楽しみ何ですが、この船何だか回転してますよね」

  七実 「そういえば、周りの景色がグルグルしてます」

  その言葉に、船縁から海面を覗いた真夏が声を上げる。

  真夏 「うず潮に呑まれてますよ、それでグルグル回ってるみたいです」

  愛耶 「そんな馬鹿な、ここにそんな潮流があるわけ無いですけど」

  真夏 「ですが、回転が早くなって・・・」

  ダイン 「取り敢えず船室に退避です、海に投げ出されは大変ですから、うずが消えるのを待ちましょう」

  遊魔達はダインの指示に従って、船室に退避する、うずはまだ収まっていない様で船体は揺れながら回転している様だが、船室の窓から明るい光が差し込むと揺れも回転も止まった様だ、だが、それに安堵していると船体が大きく傾いて倒れそうになるが、ガンッという大きな音と共に傾斜した船体は元の状態に戻った。

  ダイン 「どうしたんでしょう、船も揺れて無い様ですが」

  七実 「雷が落ちたみたいですよね、凄く光ましたから、でも音がしないです」

  真夏 「あの、窓の外を見て下さい、何だか変な人達に囲まれてます」

  愛耶 「海の上ですよね」

  愛耶が声を上げて外を覗き込むと、唖然としている。

  真夏 「海が無くなっているんですよ、変わりにファンタジーな鎧の兵士が周りを囲んでいます、あと鎧着た巨人もいるんです」

  ダイン 「巨人ですか、取り敢えず私も覗いて見ます」

  そうしてダインの目に映った光景はとても信じられない物だった、船体は巨人によって支えられている様で、取り囲む兵士達は威圧するかの様にダインを睨み付けている、片手に槍を掲げているが銃をこちらに構えている者はなく、その代わりに後方には弓兵が居る様だ。

  ダイン 「ファービを起こして下さい、これは多分異世界の類です、異世界人のファービなら、何か解るかも知れません」

  だが、状況は相手に主導権がある様だ、船室への入り口が激しく叩かれてどうやらダイン達を引きずり出すつもりの様だ。

  真夏 「真夏が先に出ます、皆んなはダイン様を守って下さい」

  ダイン 「駄目ですね、相手は男の兵士なので私が先に行きます、女の尻に隠れた男では悪い印象を与えてしまいます」

  七実 「ですが」

  ダイン 「これは命令ですよ、皆さんは一先ず船室に残って下さい、それに今の私に人間の槍は通用しませんよ」

  興奮で氷結した魔力が溶けたせいか、今のダインは確かに異形を惨殺した時の様な状況だ、これなら余程の化け物で無い限りダインに危害を加える事は不可能だろう。

  緊張した表情でダインは扉を開けると、頭の上で腕を組んで、抵抗の意思がない事を示す、すると兵士達はダインの腕をとって甲板に連れ出すが、ダインの静止が効いているので遊魔達も大人しくしている。

  そして辺りには低い音がしてダインに影が差す、不思議に思ったダインが上を見上げると二体の巨人がシーベアー号の上空を旋回している、これには流石のダインも度肝を抜かれて他の巨人も数えてみるが十体以上はいる様で、無用な争いは避けようと心に決める。

  そうして状況を観察するダインの前に、質の良い衣装を纏った美女がやって来ると手を拡げてダインの前に出し、何かの呪文を唱える。

  女性 「意味は解りますね、理解出来るなら答えて下さい」

  女性は理解出来ない言葉を話しているが、その意味は確かにダインにも理解出来る、ならば答えない選択は無い。

  ダイン 「貴女の言葉は解りませんが、その意味は伝わってます、会話を望むという事は危害を与える気はないんですね」

  女性 「はい、話の出来る方なら危害を加える気は有りません、私共も素性を理解して召喚出来ませんので万が一に備える必要が有りました、その事で不安を与えた事には謝罪します」

  ダイン 「ここはやはり異世界ですか、ルヴァルテという世界なんですか?」

  女性 「ルヴァルテですか、私には聴き覚えは有りません、そういう国も街も聞き及んでいませんね、この世界は私達にアーグルと呼ばれている世界です、ここはアーグルのククジヤ、アーグルでも大国と呼ばれる国です、私はククジアの地方領主の娘フェカト・ポロルグと申します」

  ダイン 「私はダイン、本名では有りませんが仲間達ですら本名は知りませんのでダインでお願いします、仲間は女性ばかり五人で彼女達に危害を加えるなら相応の報いを覚悟して下さいね」

  フェカト 「話の通じる相手に武力を行使する様な真似は致しません、私共も訳あって皆様を招いた訳ですから、誠意を尽くすのは此方の方です」

  ダイン 「丁寧な対応ありがとうございます、私としましても先ず精査するだけの情報を欲してますから」

  フェカト 「こちらの文字伝わるならば文書をお渡しいたしますが魔術で意識は繋がっても文字の解読は不可能なのです、もし許されるのであれば私が皆様の元にお邪魔して説明いたしますが、お招きした手前、私共が誠意を示すべきですからね」

  フェカトの提案に側に控えている護衛役であろう屈強な男の顔が引きつっている、どうやら領主の娘という説明は嘘ではなかった様だ。

  ダイン 「私が怖くはないんですか、余りに軽率な行動とお見受けしますが?」

  フェカト 「正直申しますと、私が異界の船に興味が有るんですよ、私達の知識ではこの船体が何で出来ているのかも解りませんから」

  ダイン 「それなら私もあの巨人が気になりますね、息をしていないので生きた巨人でも無いようですが」

  ダインは上空を旋回する巨人の一体を指差すが、フェカトはそれに不思議そうな顔をしながら答えた。

  フェカト 「そうなんですか、これ程の船が作れるなら、マギガント程度の物は造作も無いと思いますが」

  鎧から見るに、この世界の金属加工の技術はそれ程高くは無いようだ、鎧の表面はそれ程滑らかには出来ておらず、鉄板を鋲で繋ぎ合わせている様だ、これはつまり金属溶接の技術が存在しない為で、兵士の鎧に均一感が無いのは金属プレスで同じ形状の金属板が作れない事を意味しているのだろう。

  ダイン 「世界によって進んだ技術の方向が違う様ですね、私が居た世界には魔術の類いが無かったんですよ、ですから巨人をあのように飛ばす事も無理でした、ちゃんとした物理法則で飛ぶ機械は在りましたが」

  フェカト 「ブツリ法則?聞き覚えの無い言葉です、話の内容から察するに魔力の他にも世界に関与している力が存在するというわけですね」

  ダイン 「例えばこれは船なんですが、実は金属で出来ています」

  フェカト 「金属で船ですか、そんな事無理ですよね、金属が水に浮くわけ有りません」

  ダイン 「鉄でも薄く延ばして隙間の無い箱を作ると浮くんですよ、最もこの船はアルミという鉄より軽い金属で出来ていますが」

  フェカト 「ダインさんの話凄いですね、ですが正直他に広がって欲しく無い話でもあります、書記官を同行させて改めて中でお話したいと思いますが、来訪をお許し願えるでしょうか?」

  ダイン 「構いませんよ、ですが兵の数は減らして欲しいですね、大勢に囲まれていると落ち着きませんので」

  フェカト 「この数はもしもに備えての数です、話が通じる方ならばこれ程の兵力は必要ありません、ですが皆様の警護の兵はお許し下さい」

  ダイン 「それは当然ですよ、ナニも知らないこの地では、身の安全は土地の方に任せるべきでしょうから」

  フェカト 「ご理解感謝します、では後程改めて伺いますね、何か御入り用の物が有りましたら遠慮なく仰って下さい」

  ダイン 「なら遠慮なく申しますが、下で跳ねている魚を捕まえてもよろしいでしょうか、私達が船に居た理由の一つにアレを釣って料理する事がありましたから、アレは食べるととても美味しい魚なんですよ」

  ダインそう言って指差した先にはピンクの真鯛がピチピチと跳ねている、それはフェカトからすれば不思議に見えたのであろう、キョトンとした表情で跳ねるピンクの魚を見つめている。

  フェカト 「綺麗な色の魚ですよね、こちらでは見たことも無い魚です」

  ダイン 「海水と一緒に巻き込まれたんでしょうね、アレを釣る予定で釣れませんでしたから私には好都合です、嫌で無ければご馳走しますよ」

  フェカトは何とも言えない顔をしている、出された物を食べる事は友好な関係を築くのに効果的ではあるが、不思議な魚を直ぐに食せるかといわれれば難しい問題でもある。

  ダイン 「自分で捕まえたいので、下に降ろしていただけるとありがたいのですが」

  フェカト 「ならマギガント使って下さい、今指示しますね」

  フェカトは一番近くにいた巨人に向かって言葉を掛けると、巨人は腕を出して手の平を拡げている、その際指の何本かを立てているので、それに捕まれという事なのだろう。

  意図を察したダインは巨人に手の平に乗ると、その立てた指を掴んでバランスを取る、そしてその様子を確認した巨人の腕がゆっくりと動いてダインを地上へと降ろす。

  地面は海水で少しぬかるんでいたが、元々サンダルを履いていたダインは気にせず降りて、ピンクの真鯛を捕獲する、他にも何匹か食べれそうな魚もいるが、今はこれで十分だろう。

  そして、もう一度巨人の手の平に乗るとちゃんと上まで送り届けてくれる。

  ダイン 「ありがとうございます、他にも食べれる魚がいますので捕まえて食べてみてはどうですか、網で塩焼きにすると美味しいですよ」

  フェカト 「異世界の魚を塩焼きですか、確かに興味深いですね」

  ダイン 「私はこれを手みあげに戻りますが、来訪のおりは扉を叩いて下さい、そうすればお迎えしますので」

  フェカト 「解りました、では後ほど」

  こうして遊魔と異世界人のファーストコンタクトは呆気なく終わる、何事も起こる事は無かったので展開していた兵士達は何処かに去って行き、シーベアーの周りには元の一割程度の警護の兵しか残らなかった。

  オマケ

  シーベアー号消失事件

  某県沖で、近隣県より出港して宿泊地へと航行していたクルーザー“シーベアー号”が消息を絶った、当時の天候は快晴で波による沈没などは考え難く、残骸、遺骸の発見も出来ず

  船体は未だに見つかっていない、捜索活動をした海上保安庁も何故忽然と姿を消したのかは原因不明である。

  だが、同日近くの海域で操業していた漁船の乗組員によると、GPS でシーベアー号が消息を絶った付近に光の柱を見たとの証言をしており、何らかの説明不可能な現象が起こったのではとオカルトマニアの興味を引いている。

  その後、ネットに流出した、情報によるとなんとシーベアー号にはイレイサー二人が乗船していたらしいのだ、そしてシーベアー号の所有者は異形による被害を受けていたと言われる人物で、問題の異形と推測される人物と所有者の娘は高校時代の同級生という事で、その人物はシーベアーへの乗船が確認されてるいる。

  一連の情報と今回の事件との関連は不明だが、乗船していたと思われるイレイサーのヴァルカンとツイングレイブのその後一切の目撃情報が途絶えており、シーベアー号に同乗していた可能が高い。

  この事に付いて、ネットではさまざまな憶測が流れたが、肝心のシーベアー号が発見されていない事から、真相を求める人々の探求はまだまだ続く事だろう。