野望編 第十九話 高貴な迎え人

  002-019

  ダインとフェカトが工房から闘技場に移動した時、ちょうど王都より到着したマギガントが着陸するところだった。

  複座機の為でっぷりとお腹の出た見た目であったが、その手足はアーキアの乗るフーティアと似たところが有って、派生型の様に思える。

  ダイン 「あのフレームはフーティアですよね、体型でかなり違う印象を受けますが」

  フェカト 「流石はダイン様、見た目に惑わされて普通は解りませんが、あの機体はフーティアを改造した物です、名前もザガルバって言って関係無さそうなんですけど、王の翼って意味です」

  ダイン 「正に王家の機体なんですね」

  フェカト 「実際に殆ど使われていない王家のマギガントは有るんですよ、王の偶像とは別にちゃんと動く奴が」

  ダイン 「以前に話題になりましたよね、ちょっと興味有ります」

  フェカト 「それとは別にポロルグが支援するティアス様には特別なポナリア・ジーカを送ってます、でもティアス様って飾りのポナリアで人助けとかしちゃってるんですよ、それで直ぐに王族だってバレちゃってるんです、賢いんですけど抜けてるところも有るんです、でもそこが魅力だと思ってます」

  ダインとフェカトの話がちょうど一区切り付いたころ、ザガルバが片膝を付いて駐機姿勢を取ると、お腹のハッチが開いて人が昇降装置を使って料理人が降りて来る。

  フェカト 「ダイン様はこのまま行って下さい、一度止まってしまうと再起動に時間掛かりますから、早く行けばその分早く終わる筈です」

  そのフェカトの言葉に押されると、ダインはザガルバに向かって歩き始める、途中降りた料理人とすれ違う時に挨拶するが、とても小柄な女性で料理をする様には思えなかった。

  女騎士の声 「手を出しますので、上に乗って下さい、その方が昇降機より楽でしょうから」

  凛とした声に、ダインはポーカに近いモノを感じ取るが、こちらの女性はもっと柔らかい感じもする、どちらにしてもしばらく空の旅を共にする中なので、余り気を悪くさせない様に気を使う必要が有りそうだ。

  差し出されたザガルバの腕をスロープとして使って、ダインは操縦席へとたどり着いた、慣れない昇降機よりこっちの方が楽に上がれる。

  ザガルバの出っ張ったお腹の後ろに席が増設されていて、乗客であるダインはそこに座ればいい様だ。

  だが、その王族の為の座席は煌びやかな装飾が施されており、許しを得ずに座る事に抵抗を感じてしまう。

  女騎士 「早く座って下さいね、座ってくれませんと飛び立つ事が出来ませんので」

  ダイン 「いえ、私などには不相応な場所なので戸惑ってしまいました」

  女騎士 「そんな事は有りませんよ、異世界の勇者様をこんな手狭なところに押し込めるこちらの方が失礼です」

  ダイン 「いえ、貴女も命じられてやっている事ですよね」

  女騎士 「違いますね、私が考えて実行した事です、私も自分の為に戦ってくれる殿方のお顔は拝見しておきたいので」

  女騎士は不思議な事を言っているが、辻褄が合う場合も有る、もしこの女騎士が第三王女のティアスであれば、女騎士の言葉に嘘は無い。

  ダイン 「貴女はもしかして、第三王女のティアス様なんですか?」

  ティアス 「はい、もう隠す事も有りませんからね、私はティアス・ククジア、ククジア王国の第三王女です」

  ダイン 「でも、王女様が何故、この様な事をなさるんですか」

  ティアス 「空を飛べば人の本性が表れますからね、その意味では味方を試すにはちょうど良いと思いませんか」

  ダイン 「なるほど、面白い考え方ですね、でもご自分も危険でしょう、何せ私は得体の知れない異世界の人間ですから」

  ティアス 「あのフェカトが信頼しているなら信頼出来ます、人を見る目が有って賢い娘ですから」

  ダイン 「確かにそうですが私が騙しているのかも知れませんよ」

  ティアス 「その時は仕方有りませんよ、フェカトを欺ける人間を私がどうにか出来るとは思えませんから、ですが、お仲間と引き離した意味は解って貰えますよね」

  ダイン 「お綺麗な方なのに恐ろしい事言いますね」

  ティアス 「見た目だけ煌びやかな王族の娘ですから、権力が有るという事は恐ろしいモノと交わるという事ですよ、必要以上に利益を求める人間はそういうモノですから」

  ダイン 「それを口にして、私も取り込むんですか」

  ティアス 「はい、自分の大切を守る為には私が強くなくては行けませんので」

  そう言ったティアスの視線は映像盤に映るフェカトに向いている様だが、その映像盤のフェカトはいつまで経っても飛び立たないザガルバを訝しんでいる様だ。

  ティアス 「不信に思ってるみたいですね、ダインさんは短期間でフェカトの心を完全に掴んじゃってるみたいです、聞きましたよ、いきなり結婚を申し込んだそうですね」

  ダイン 「アレは政略婚的な意味ですよ、権力者に取り入らないと身の安全は保証出来ませんから」

  ティアス 「フェカトに会って直ぐにそう考えたんですか」

  ダイン 「まぁこの世界が絶大な権力者が居る封建社会だと解りましたからね、まぁ私の居た世界でも土地を金に置き換えたぐらいで大して代わりはないと思いますが、そう言った社会では権力者が権力者を護る構造を確立してますから、取り敢えず権力に庇護されると安全なんですよ」

  ティアス 「確かに権力者は権力者でいられる様に手を尽くしてますよね、ですが、勇者として召喚されたダインさん達は身分が保証されてますよ」

  ダイン 「どうでしょうね、『狡兎死して良狗煮られる』って言葉が私の世界には有ります、賢い兎が死ぬと良い猟犬も不要になって食べられるという意味ですが、強敵を倒す為に召喚された私達は、正に狗の立場ですよね」

  ティアス 「否定出来ませんね、だからテガスで色々やってるんですか、そして私もそれに釣られてしまったというわけですね」

  ダイン 「釣れた獲物は大き過ぎた様ですが」

  ティアス 「どうでしょうね、でも、そろそろ飛び立たないとフェカトが怒りそうなので王都に行きますね、ダインさんは王都初めてですよね」

  ダイン 「王都どころかちゃんと行った事が有る街はテガスの隣にあるロロガの街だけですよ、私的には未知の世界の探索にも興味は尽きませんのに」

  ティアス 「なら、上空からククジアの国を堪能して下さい、特に王都ククージアはこの世界有数の栄えた街ですよ」

  そうして、ようやくティアスが操縦してダインを乗せたザガルバが空へと飛び立つ、何かに気付いたフェカトが何やら騒いでいる様だったが、既に空に舞い上がってしまったザガルバを止める術などフェカトには無いだろう。

  ティアスはダインへのサービスの為か学院の上空を二度旋回すると、目的地の王都の方向に向かって飛び始める、テガス周辺の土地しか知らないダインでは有ったが、フェカトからはちゃんとした地図も渡されており、ククジア国内の位置関係はそれなりに把握している。

  ダイン 「思ったよりも速く飛べるんですね、もう学院が見えませんね」

  ティアス 「一刻(二時間)掛からずに王都まで移動出来ますから、距離的にテガスと王都は千里(400キロメートル)ぐらいですから普通なら十日の距離です」

  ダイン 「この形状で時速200キロという事はやっぱり機体自体が浮遊してますね、揚力は無いと思いますから」

  ティアスは不思議な顔をしてダインの言葉を聴いている、実際これはダインの独り言なので、ティアスに理解させるつもりなど無いので当然だ。

  ティアス 「フェカトの言ってた通りですね、人間が知らない真理を理解している様だと言ってましたよ」

  ダイン 「知識であって、私が解明した訳じゃ有りませんよ」

  ティアス 「でも、それを直ぐに応用するのは凄い事ですね、まだ私の勢力にしか知られてませんが、魔鋼を大量に作っているんですよね」

  ダイン 「それを考案したのは私じゃ有りませんけどね、ですが私を支えてくれている者ですね」

  ティアス 「それは何というか、お盛んだとは聞いてますが・・・」

  ダイン 「否定はしませんよ、でもよくそんな男と二人きりになろうとしましたね、立場の有る方なのに」

  ティアス 「王族立場なんてそれ程良いモノじゃ有りませんよ、民を纏める旗みたいなモノじゃないですかね?」

  ダイン 「旗ですか、まだまだ時間は掛かる様なので色々聞かせて欲しいですね、この世界の人間と二人で長時間話す機会は少ないですから」

  ティアス 「それにはもちろんダインさんにも色々話して貰いますよ、情報は解る人と共有する事に意味が有りますから」

  ダイン 「フェカトもそうでしたが、こちらの女性は凄く合理的なので話していて楽しいですよ」

  そうして、ダインとティアスは二時間二人で過ごす事になった、話好きであった二人の会話は途切れる事は無く、二人は互いの情報と意見を共有させていく、そしてそれはとても有意義な時間であったが眼下に広がって行く巨大な都市の光景はその終わりを告げる物であった。

  ティアス 「名残惜しいですが王都に入りました、直ぐに王宮ですね」

  ザガルバの飛行速度は着陸の為に遅くなっている様で、より詳しく上空から王都の観察が出来る、城塞都市ではなく今も自然と広くなっている様に感じる都市で、この都市構造から見ると本当に戦争を行わない世界の様だ。

  ダイン 「外縁部では家を建てている様子でしたね、この都市はまだまだ成長するんですね」

  ティアス 「そんなところに注目してるんですか、普通の人は王宮に釘付けなんですけど」

  ダイン 「凄い建物だとは思いますよ、ですが私的には一般的な暮らしに興味が有りますね」

  ティアス 「不思議な事言いますね、王宮は国の自慢ですけど」

  ダイン 「本当の国の素晴らしさとは一番末端にいる人間の生活だと私は思います、上空から見たところ貧民街に相当する地区は無いように見えましたが、街ごと貧民を集めているのですか」

  ティアス 「いいえ、そういう事は無いですね全ての民に適した仕事を与える様にしてますので大体魔術で解るんですよ、それよりもダインさんの考えに感銘を受けましたよ、確かに一番貧しい者の暮らしぶりが国の判断基準というのは納得です」

  ダイン 「怒らないのは意外でしたね、最初から権力を持つものはそれが当たり前だと思ってますから」

  ティアス 「普通はそうかも知れませんね、でも私って空からのお散歩が好きなんですよ、そして気になったところを調べているうちに普通というモノが解ってきたと思うんです」

  ダイン 「確かにこの速度で低空を飛ぶマギガントならば民の暮らしもよく解りますね、私もククジアがよく解りましたし、緑が多くて綺麗な国ですね」

  ティアス 「王でも空のお散歩は経験してませんからね、本来王ならば自分の国の事をよく知るべきなんですけど」

  ダイン 「この複座マギガントはそういう用途で使われていないんですか?」

  ティアス 「多分、飛んで話をして周りを見てる者何て殆んどいないと思いますよ、飛ぶのには馴れがいるって話ですし」

  ダイン 「そもそも処女じゃ無いと自由に国中を飛ぶ事が出来ないんですよね」

  ティアス 「それも問題ですよね、男性には国をちゃんと知る権利が無いみたいです、だから他人の言いなりになるんですよ」

  ダイン 「ティアス様は次の王座に興味が有るんですね」

  ティアス 「はい、実際私がフェカトにお願いして、ダインさん達を召還して貰いましたから、勇者リエルにこの世界の人間が太刀打ちできないのはポーカ学長で証明されてしまいましたし」

  言葉には出さないが、ティアスがダイン達を無理に召喚した事に引け目を感じている事をダインは察知していた、ならばそれなりに譲歩を引き出せるとダインは考え、ティアスの置かれている立場を見極める事にした。

  堕液を使って堕とす事も可能だが、現状でそれを行ってしまうとティアスが支持されている理由の根幹を潰してしまいそうな気がするのだ。

  おまけ

  マギガント解説004 フーティア 元々王のマギガントの為に用意された名前で今フーティアと呼ばれている機体はシスィ・フーティアと呼ばれる試作機だった。

  試作機のシスィが予想以上の高性能機で有った為に満を持して王のマギガントが製作されたわけだが、1.4倍に拡大された機体は魔導工学技術の壁に阻まれ失敗作となってしまった、一例を上げるならフレームの問題で、通常サイズのフーティアならフレーム全体を上質魔鋼で作製可能なのに対して、1.4倍サイズのフレームでは中央部分魔鋼のの上質化が不可能で結果的に重量が増大して、想定された機体へ遠く及ばない物が完成したので有った。

  この本来のフーティアは今ではムゥディ(無駄な)・フーティアと呼ばれ、フーティアの名前は高い完成度を誇ったシスィ・フーティアに与えられる事となった。

  フーティアはククジア王国に置ける上位マギガントと呼べる機体で、普及機のゾッフォ系とハイ・ローミックスで運用されている。

  中空の装甲が採用されており、見た目は背の高いゾッフォに見えるが、重量は大幅に軽減されている為に見た目からは不似合いな素早い動きが可能である、装甲の振り分けで重心が低い為に安定性が高く、コスト以外は理想的なマギガントと言われている。

  またゾッフォ系には不可能な天翔ける処女の運用が可能で、王族の移動様にザガルバという複座型も少数生産されている。