002-028
闘技場は円形で、その中心部に直径二百メートルぐらいの土の広間が拡がっており、それをマギガントの全長よりも高い十メートルぐらいの壁が囲んでいる、壁の上には屋根の付いた観客席が設けられている。
そして対戦する二体の側面が良く見える好位置は豪華な作りで向かい合わせになっており、整った身なりの人間が多く観戦している、中でも一番上は豪華なボックス席になっている様で、その中には興味無さそうにダインを見ていた王様がいるのかも知れない。
主審 「双方準備はいいですね、銅羅を合図に戦いを始めて下さい、マギガントの上体が先に地面に着いた側が負けです、先に戦闘不能になった方も負けです、他に聞きたい事は有りませんか?」
ダイン 「ではお伺いしたいのですが、相手の名前を聞いてもよろしいんですか、私はダインと申しますが」
ティアス 「そうですね、ダインさんの名前は名乗らなくても知れ渡っていますけど、其方の方の名前は私も知りませんよ、そこまで鎧で身を固めていれば知っている人でも解りませんよ」
黒い鎧の対戦者 「名前は申し上げる事は出来きぬが、黒騎士と呼ぶがよい」
怪しい容姿とは打って変わって、とても特徴の有る女性の声で黒騎士は答えた、映像盤に映るティアスはその声に思い当たる何かが有った様で訝しげな顔をしている、そして黒騎士の方も通信盤のティアスを気にしている様である。
ダイン 「黒騎士ですか見た目通りですね、後、名前が言えないのであればもう一つお尋ねしますが、その角は頭から生えているのか、兜の飾りなんでしょうか、飾りにしてはとても良く出来ていますので」
ティアス 「ダインさんその質問は失礼ですよ、黒騎士さんは角を付けている事で魔王の強さにあやかろうとしてるんですよ」
結局、黒騎士はダインの質問に答える事は無く、黙ったままだった、ティアスの馬鹿にした様な発言に関しては正体を推測した上でのある種の挑発の様だったが、黒騎士はなんとか耐え切って押し黙っている。
主審 「そろそろ定刻ですので始めます、双方御武運を」
双方の会話が途切れたタイミングを見計らって主審が言い終わると同時に会場に試合開始銅羅が響き渡る、それに対して双方の動きは対照的だった。
ダインのポナリア・ジーカは全くその場を動いていなかったが、観戦する為の空間で有る為か、重ねて張られた障壁は赤みが強くその強固なところが目視可能だ。
対して、黒いフーティアは少し後退りすると、天翔ける処女に魔力を注いで、青い魔力光と共に浮かび上がる。
ダイン思考 『見せ掛けでは無く、本当に使えるんですかリエルでは無いとすれば確かに正体不明ですね、ですが相手の攻撃射程よりも私の方がリーチが長いですから、この馬鹿げた武器にも感謝ですね』
ダインがそう楽観的に考えていると、黒いフーティアはダインの射程外の上空まで上昇すると、長槍を両肩に乗せる様にして収納すると、巨大な盾を両手に持ったかと思うと、盾を構成していた板がひらひらと落ちて来る。
板が外れた黒いフーティアの手には角ばった金属の塊が固定されている様だが、下部から徐々に解けて落ちて、遂には一本の長い鉄鞭、いや、鉄棍が繋がっているので多節棍と言う名称だと思われる武器が姿を現す。
ダイン思考 『アーキアの記憶には無かった武器ですね、確かにアレなら上空から低リスクで攻撃出来るという訳ですか、障壁である程度は耐えられると思いますが、早く対処法を考えないと危うそうですね』
ダインは比較的冷静に対処法を考えていたが、通信盤に映るティアスの表情は相手の武器の有効性を理解して苦虫を噛み潰したようになっている。
そして、ダインのポナリアの上空へと近付いて来た黒いフーティアは、鋼鉄の多節棍による攻撃を開始した。
一見すると華の無い攻撃だったが有効性は高く、一撃でダインの張った障壁の一つを砕いてみせると、その威力には流石にダインも驚愕していた。
ダイン思考 『唯の武器では無い様です、何らかの魔術が付与されてますね、私の障壁は鉄槌で打たれても耐えていましたから・・・なら情報を得る為に動きますか』
ダインのポナリアはそのまま右手に進んで、闘技場の壁際へと移動する、上空からの解り辛い攻撃に対して観客席を盾にして方向だけでも絞れる様に動いたのだ。
だが、黒いフーティアはダインの思惑など全く無視した、一旦旋回して距離を稼ぐと急加速して鉄棍で壁際のポロルグを狙うが、流石に動きが丸分かりなので、悠々と躱されてしまう、そして、壁に激突した鉄棍はそれ程の威力を発揮せずに石壁を傷付けた程度だ。
ダイン思考 『やはり、武器の威力自体はそれ程有りませんね、対魔術障壁用の魔術付与を出来れば大した事は無い、ならば』
ダインはまた闘技場の中心部に移動して、巨大な矛を構える、黒騎士はそれを唯の悪足掻きと考えて旋回速度を上げて複雑な動きを取って、なるべく回避を難しくしようと画策している。
高速で複雑な動きをする黒騎士のフーティアに会場は圧倒されている、マギガントが飛行が出来るといっても、真っ直ぐ徐々に加速して行く程度の物なのだが、黒騎士は急旋回からの急加速を繰り返して、その動きは今まで全く無かったものだ。
その異質な動きに観客席達は歓声を上げる事を忘れて注目し、黒騎士の次の出方を伺っている。
動きの有る方に注目してしまうのは、人間の性の様な物で、ダインのポナリアは殆ど観客の目には止まっていなかった、だが、通信盤を通してダインの表情を見ていたティアスはその不敵な表情から、何かを企んでいる事を察して注目してみると、確かに武器を構えている。
加速した鉄棍が不規則な動きでポロルグに襲い掛かると、何を思ったのかダインは、矛の柄に当たる位置に鉄棍をぶつけると、勢いある鉄棍の下が矛の柄に絡み付いて行く。
そしてそのまま機体を移動しながら大きく振り回すと、矛に絡み取られた鉄棍に引かれて黒いフーティアも振り回されて行く。
その予想外の行動に、黒騎士は咄嗟に鉄棍を離して影響を止めようとするが、加速した機体に別方向の過重が掛かって制御し辛くなり、闘技場の壁に激突して落下してしまう。
ダインはこの時の通信盤に映った黒騎士の姿に注視して、その角の動きをよく観察していた、すると角は兜の動きよりも頭の動きと連動している事が解る、おまけに黒騎士は打ち付けた角を摩る動作までしていた、これはつまり黒騎士の角は兜の飾りでは無いことの証明とも思える。
闘技場内では派手な外壁への衝突に殆どの者達は決着が付いたと大歓声を上げたが、黒騎士のフーティアはまだ終わっていなかった、どうやら落下が上手く行った様で片膝立ちの状態で地上に留まっており、主審もまだ続行の判断をしている。
黒騎士はそのままフーティアを立ち上がらせるが、機体のダメージはかなり深刻な様だ、付いた右膝は大きな負荷が掛かった様で動きがぎこちなく、飛行を司っていた天翔ける処女も大きく変形して機能を失っている様だ。
ダイン 「降伏してもいいんですよ、そのダメージだと勝ち目は薄いでしょう」
黒騎士 「勝負を投げる訳には行かぬ、我にはまだ戦う意志が有る、披露してなき秘策もな」
その言葉はダインも簡単に無視は出来ない、何故ならダインにもこの場で披露したくない奥の手があるのだ、ほぼ同等の魔力を持つ黒騎士なら、ダインが隠している奥の手と同じ事が出来る可能性は十分に有り嫌な想像が頭をよぎる、だが、それは可能性が有るというだけの話だ。
ダイン 「なら続行ですね、私にも実戦で試したい事が有りますので、ティアスさんからはポナリアは壊しても良いと言われてますし」
ティアス 「確かにそう言いましたけど、今なら無茶しなくても勝てますよね、ポナリア直すのは大変なんですよ」
主審 「対戦者以外は会話を控えて下さい」
主審の警告にティアスは口をつぐんでしまうが、目は無茶をしないように訴えている、他の機体を勝手に使う様なティアスでも、自分の愛機には思い入れがあるようだ。
だが、黒騎士にそんな事は関係無い、妙に軋む右膝を何度か叩くと少し動きがマシになった様で、軽く歩を進めながら距離を徐々に詰めると激突で飛び散っていた長槍を拾い上げて両手で構える。
対するダインは矛から鉄棍を引き離して上段に構えると、また相手の動きを待つ様だ。
躙り寄る黒騎士は時より、右脚を強く踏み込んで様子を見ている様だが、軋む音の割にはまだまだ動く様だ、現にフーティアの動きは熟練者ならではの隙の無い動きで、ダメージの余り無いダインのポナリアよりも凄みが感じられる。
黒騎士の動きは高い魔力でマギガントを動かしているダインやアーキアとは違い、ポーカの様なこの世界でマギガントの操縦を身に付けた者の動きに通じている、つまり黒騎士はこの世界に元から居た騎士が何らかの事象によって異形化した存在だという推測が成り立つ、そして天翔ける処女を使っていた事から、まだ処女であるという事だ。
ダイン思考 『出来れば無傷で正体を確かめたいですね、ですがマギガント戦で兜を脱がす事は不可能ですね、幸い装備していた天翔ける処女は破壊しましたので直ぐに飛んで逃げられる事はなくなりましたが・・・』
ダインは黒騎士の動きを観察しつつも思考を巡らせている、経験から来る直感で黒騎士が自分の意表を付ける様な奥の手が無い事は既に理解していたので、後はどう情報を引き出せる様に勝つかが重要だ。
そして、無機質なフルヘルムで通信盤では全く表情の読めない黒騎士が仕掛けて来る、右膝に不調が有るとは思えないスムーズな動きでダインの間合いに入ると、ダインからの攻撃が無い事を読み切って、自身の槍の間合いへと踏み込むと、鋭い連撃を放って来る。
ダインの方は、その威力を確認する為に障壁で受けるが、連結鉄棍の様な対障壁魔術は生じていない様で、予想よりも障壁へのダメージが少ない。
その確認が取れた上で、ダインは矛を横に薙ぎ払って再び自身の有利な間合いへと距離を取ると、今度は矛を連続で繰り出して黒騎士のフーティアの障壁を削って行く。
ダイン 「流石ですね、経験の浅い私の攻撃などお見通しの様です」
黒騎士 「この技量で経験浅いと言われては困惑します、技量としては十分に普通の騎士を上回ってますよ、それにこの一撃なんて普通の騎士なら一撃で勝負が付いてますよ」
黒騎士はダインの猛攻に耐えるのに必死で演技が出来なくなっている、どうやらまだ若い女性の様だ。
ダイン 「ならば、それで大してダメージを受けずに戦い続ける黒騎士さんは只者では無いですね」
黒騎士 「それはお互い様ですよ、先程から観客は黙りこくって試合に魅入ってくれてます、私としてもとても嬉しい事ですよ」
ダイン思考 『つまりそれは黒騎士が闘技場での戦いの経験が有るという事ですね、やはりアーグルの人間ですね』
試合時間もそろそろ十分を経過して決着の頃合いだろう、黒騎士のフーティアは長槍を構え直して研ぎ澄ました一撃の体勢に入っている、ダインのポナリアはそれに気圧された様に後退り、打ち捨てられた鉄棍を踏んだところで少し体勢を崩してしまう。
そして、その隙を見逃すほど黒騎士は甘く無い、今まで以上に俊敏な動きでポロルグに向かって突進するフーティアで有ったが、ダインの隙は敢えてダインが演出したモノだった、大袈裟に下がったダインのポナリアは鉄棍が足元へと来る様に位置を整えて、転がる鉄棍を蹴り上げて更に下がる。
予想された移動位置に障害物を配置されたフーティアであったが、決めるつもりで全力で踏み込んでいた為に静止など不可能で、上手い具合に拡がった連結鉄棍が機体に纏わりついてしまう、そして、高度な技術が有る故にその状態は致命的でもあった。
研ぎ澄まされていた筈の一撃は凡打となって、悠々とダインに見切られてしまう、そしてそれだけでは無く、矛を捨てたダインに腕を取られて足を掛けられ盛大に一回転して地面に背中から落ちてしまう。
フーティアの背が地に落ちたところで主審のマギガントが右腕を上げて決着を宣言すると、銅鑼が鳴らされて試合終了が告げられた。
ダインは何とか黒騎士に勝利する事が出来たのだ。
おまけ
マギガントの武器 基本的に人間が使う物を大型化した物である、剣よりも矛や槍、斧槍などの大型の両手武器が多く破壊力を重視するのが一般的だ。
今回、黒騎士が使用した対地多節棍はアーグルでも初めて使われた武器で、そもそも飛行するマギガントで攻撃する事自体が勇者リエル登場以降に始まった事で、アーグル人にはそもそも拡がっていない。
遊魔達はテガス工房でマギガント用の槌を使用しているが、これは元々武器として存在していた物でより頑丈な武器が好まれる傾向がある。
魔鋼を使った武器も一部存在するが、魔鋼の重量を軽くする効果は武器としては不向きな事も有り、盾として使われる事が多い。