野望編 第三十話 乳魔リレッタ

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  唐突なティアスの招待に対して、リレッタは王城に登城の支度を整えていた、既にルゥに掌握されていたクガトでは乳魔の意思は絶対で、お飾りの当主レボトには口を挟む権利すら無い。

  秘書官乳魔 「よろしいんですか、ルゥ様に裁可を仰がなくて」

  クガト屋敷前の玄関の前で二人の女性が言葉を交わしていた、一人は黒い衣装の使用人でもう一人は着飾った屋敷の娘の様だ、娘は馬車で何処かに向かう途中で見送りの場面の様だが、黒い衣装の女性は何処となく不安そうだ。

  リレッタ 「必要有りませんわ、ルゥ様は王都の事はリッタに任せてくれてますから、それにあの勇者ダイン、只者では有りませんから、リッタ自ら確かめる必要が有ります、敗北の償いは成果で示さないと」

  秘書官乳魔 「確かにダイン一党の情報の重要性は認識しました、リエルの様な存在なのでしょうか?」

  リレッタ 「どうでしょう、ですが油断出来ない相手です、何をするか解りませんからリエル以上に厄介ですわ」

  秘書官乳魔 「それは感じましたが」

  リレッタ 「ならば後を頼みます」

  そう言って着飾った衣装のリレッタは待機していた馬車に乗り込むと王城へと向かう、実はリレッタ自身も何故かダインに物凄く惹かれているのだ。

  ティアスの考えた作戦はリレッタにとっても渡りに船で、その機会をむざむざ逃す様な事はしたくない。

  馬車に揺られる事数十分、クガトの紋章を掲げた馬車は検閲を受ける事なく王城の目的地に辿り着くと、メイドに案内されて待機用の小部屋へと通される。

  そして、会釈するメイドと入れ変わって、リレッタを招待したティアスが宴の主役を伴って現れた。

  ティアス 「来てくれて嬉しく思います、リレッタも今日のダインさんの活躍はご覧になってますよね」

  いきなりの質問にリレッタも戸惑ってしまう、予想では感の良いティアスは黒騎士の正体がリレッタだと気付いていると思っていたからだ。

  リレッタ 「はい、拝見しておりましたわ、そちらのお方が勇者ダイン様でおられますわね」

  そんな事は通信盤で見て理解はしているが、ここは敢えて惚けてみる、乳魔の存在はまだ公にするわけには行かないのだ。

  ダイン 「はい、私がダインですが、勇者と呼ばれるのは止めて欲しいですね、勇者とは事を成し遂げた者に対しての称号だと思いますので」

  リレッタ 「今日の試合だけでそれに値すると思いますわ、ダイン様の戦いでぶりにクガト派の貴族は大慌てです」

  ティアス 「確かに黒騎士はリエル以上のクガトの秘密兵器に思えましたから、あんなに凄い騎士を何処から見出したのかお聴きしたいですよ」

  ティアスの意味深な笑みに、リレッタは黒騎士の正体が自分だとバレている事を確信する、確かにクガトの自分とポロルグを後ろ盾にするティアスでは敵対する間柄では有るが、友情が育まれない事は無い。

  リレッタ 「やっぱりティアス様は意地悪ですわ、そうですよ黒騎士の正体は私リッタです」

  ティアスも確信を持っていた様だが、あっさりと暴露されて驚いている。

  ティアス 「予想外でしたね、こうもあっさりと教えてくれるなんて、そしてその上でここにやって来た事にも」

  リレッタ 「ティアス様怖いですわ、ですがそちらのが黒騎士に興味が有るのと同様に、リッタもダイン様に興味が有りますの」

  リレッタに面と向かって言われたので、ダインも少し照れて赤くなっている、強引な方法で牝を自分のモノにするダインも、こういう対応は苦手なのだ。

  ティアス 「やはり油断出来ない人ですね、ダインさんはティアスの騎士ですから、リレッタにはあげませんよ」

  リレッタ 「ふふ、それはどうでしょうね、ダイン様の意思が重要ですわ、リッタならダイン様のお望みを拒みませんわ」

  ダイン 「ならば私も単刀直入にお伺いしましょう、リレッタさんは異形なのですか?」

  リレッタ 「イギョウとは聞いた事も無い言葉ですね、ダイン様の国の言葉なんですか?」

  ダイン 「そうですね、世界や国によって名称は異なるとは思いますが、人間以上の力に目覚めた存在の事です、私の世界では原因不明とされていましたが、他の世界の見解では魔王候補者という話でしたね」

  ティアス 「ちょっとダインさん、そんな話私も初めて聴きましたよ」

  ダイン 「実際見てもらった方が納得出来ると思いましたので、私の力の秘密もその異形だからです」

  リレッタ 「つまり、ダイン様も魔王候補というわけですか」

  ダイン 「どうでしょうね、私の考えはこの世界に存在した魔王とは別物ですから」

  ティアス 「ならダインさんの考えってどういうモノなんですか、人間の支配を企んでいるんですか?」

  ダイン 「そんな面倒臭い事しませんよ、だから人間を纏めて貰える存在としてティアスさんに期待しているんです、つまりティアスさんと私は利害が一致しているわけですが、そこに別に考えを持った魔王候補が現れると私も看過できないというわけです」

  リレッタ 「なるほどリッタが魔王候補と考えて、何を目指しているか知りたいわけですわね」

  ダイン 「そう、リレッタさんが属する勢力がどういう思惑で動いているのか知りたいわけです」

  ティアス 「勢力って、リレッタだけじゃ無いんですか?」

  リレッタ 「ダイン様はそこまで理解しているんですか、そうリッタも一部でしか有りませんから、主の全てを知るわけでは有りませんわ」

  ティアスは驚きを隠せない、王国を二分する勢力の長だと考えていて次の世の中を主導すると考えていた自分が、全く想像もしなかった人類の脅威の存在をこんな形で知ってしまう事になったからだ。

  ダイン 「主ですか、その存在は私と話し合う事は有ると思いますか?」

  リレッタ 「どうでしょね、リッタは王都方面で全てを任されているだけですから、本来ならこうしてダインさんと話す事も許されないのかもしれません」

  ダイン 「なるほど、リレッタさんの主は力を与えても支配しないタイプの様ですね」

  リレッタ 「どうでしょう、多分、興味が無いんですよ、自分が満足ならそれで良い方ですから」

  ティアス 「古の魔王の伝承とは随分と異なる印象ですね、魔王とは暴虐なモノなのでは無いのですか?」

  ダイン 「どうでしょうね、ですが私の自説では高度な知性を持つ存在は暴力に対して否定的なんですよ、ですが暴力で解決しようとするモノが多過ぎて結果的に暴力が有効になるんですよ」

  ティアス 「理解出来る話です、私もレボト・クガトにはちゃんと話が通じるとは思っていませんから」

  リレッタ 「全くその通りですわ、ですから主は力でレボトを無力化しています」

  ティアス 「それでアーキアの行いに対して、反応が薄かったわけですか、クガトは私の知らない内に大きく変化していたと」

  リレッタ 「そう捉えて貰えてよろしいですわ、王都にダインさんを呼び寄せたのはダインさんを測る為です、主は興味を持っても行動しない方ですからね」

  リレッタは複雑な表情で愚痴っている、その一点から見てもダインとその眷属達との関係性の様な絶対的な崇拝は無いのだろう。

  ダイン 「リエルも貴女方のお仲間なんですかね、テガスに現れたタイミングが計った様ですし」

  リレッタ 「クガトに居たリエルの動きはリッタの管轄外ですね、主がワザと監視を緩めたのかも知れませんが」

  ダイン 「リエルが主では無いんですね、リエルはその魔力から特別な存在だと推測していましたが」

  ダインはリエルの話題に振って、リレッタの言う主かどうか確かめようとしたが、その反応からどうやらリエルが主でない事を感じた。

  ティアス 「解らない話ばっかりです、私置いてきぼりですよ」

  リレッタ 「大丈夫なのですか、ティアス様に聞かれてしまって、この様子じゃ粛清されそうですわ」

  その問いに対してダインは不敵な笑みを浮かべて応える。

  ダイン 「リレッタさんは今のティアスを不自然には感じていませんよね」

  リレッタ 「はい、リッタの知っているティアス様ですわ」

  そう言って、ティアスを見たリレッタの表情は瞬時に驚きに変わっている、今のティアスの様子は明らかに変なのだ、そう、今のティアスはまるで恋人を見るかの様な目でダインを見つめているのだ、そして何故ティアスがそう変わったのか理解出来ない。

  ダイン 「こういう話は普通のティアスには出来ませんから既に手は打ってるんですよ、それに私はモノに出来る者は出来る時にやるんですよ、手に入れるか悩んでいるうちに失うのは愚かな事ですからね」

  ダインが遠い目をして何かに想いを馳せている様だが、実は恋愛の辛い記憶ではなく、悩んでいて買い逃したレアプラモの事だ、しかし、そんな事だと理解出来ないリレッタは何やら根深いモノだと勘違いしてしまう。

  リレッタ 「何だか悲しい事を経験したようですわ、それでティアス様は手離したく無いという事ですね」

  ダイン 「私も自分の世界に居た時から同種存在は予期していましたから、リレッタさんが処女なところや主に対する絶対的な敬意がない事を鑑みるに私のやり方とは違うようですが、この国での私達の後ろ盾でも有るティアスは渡しませんよ」

  そのダインの意思表明に対してリレッタは少し悲しそうな顔をする。

  リレッタ 「ティアス様がお綺麗で優れた方なのは重々承知していますが、もっとリッタも見て欲しいですわ、リッタを負かせた殿方にはとても興味が有りますの」

  ダイン 「確かにそうでしょうね、得体の知れない相手と対峙するのは怖い物です、私もリレッタさんの真意や力が全く読めなくて困ってますよ」

  そのダインの告白にリレッタは笑みを浮かべて答える。

  リレッタ 「ダイン様は物事を深く考え過ぎてますね、リッタは乳魔としてリッタに勝利したダイン様に興味を抱いてますわ、そして、本当のダイン様のお力を拝見したいのですわ」

  ダイン 「本当の力ですか、私達遊魔とリレッタさんの乳魔では力の捉え方が違うという事ですか」

  リレッタ 「いえ、リッタの考えが乳魔を代表しているのではなく、リッタが強い殿方を求めているだけです、そして、乳魔として産まれ変わったリッタには普通の男では満たす事が不可能なんですよ」

  リレッタの表情は真剣だ、そしてダインの中にはリレッタをニアの時の様に遊魔へと変質させる事が可能なのではという野望が芽生えている、何せリレッタはダインが眷属とする条件を十分満たしており、また、乳魔という種族の情報すら内包している、超優良素材なのだ。

  ダイン 「つまり、雄としての私に興味があるわけですね、そして私はまだ条件を満たしていないと」

  リレッタ 「はい、マギガントで勝っただけではリッタより強い雄とは言えませんから」

  その言葉にダインはリレッタの言わんとしている事が理解出来た、リレッタは雄としてのダインの強さを試してみたいのだ、この思考はニアで経験した牝異形と同じ様な考えの様で、強い雄の支配を本能的に望んでいるのかも知れない。

  ダイン 「では、リレッタさんは私にどうしろと言うんですか、この部屋では戦う事なんて出来ませんよね」

  リレッタ 「はい、ですから後でザガルバを借りてお散歩に出掛けましょう、王都周辺には夜人気の無い森も沢山有りますわ、今のティアス様を使えば容易い事ですよね」

  ダインはこの面白そうな提案に乗る事にした、堕液を注ぎ込んだティアスは言いなりにも出来るし、何より角の生えた牝はダインの大好物なのだ。

  そんな牝が賞品だと考えるとダインは自分が本気を出して戦える事も理解しており、状況によっては今まで以上の力も発揮出来そうだ、そう、ダインの持つ魔王の力とは欲望を成長の大きな原動力としているのだ。

  おまけ

  ポロルグ併合 二十年前に起こった出来事、ククジア王国内のクガト家の台頭に危機感を持った王家の奇策とも呼べる。

  王族同士の戦い以外の協定戦を禁じられている王家は、協定戦で勢力を増していたクガト家に対して徐々に権力を圧迫されていた。

  ポロルグに対する圧力もクガトと主導で行われており、マギガントを開発したクガトのゾッフォ系以上の性能を持つジーカの存在を疎ましく思っていたのがその要因でも有った。

  対するポロルグはウウル・ジーの開発に手を貸すなどの対抗手段を講じていたが、グガトの圧力によって窮地に立たされていた、その状況を打開する為に考えられたのがククジアへの併合で有った。

  ポロルグ王国の領土そのままの領地を約束されたポロルグ家はクガト一強であったバランスに大きな変化を与え、またジーカ系マギガントを他貴族に供給する事でクガト家に対して報復を行った。

  また、王家もクガトとポロルグのバランスを取り持つ事で権威を向上させ、結果的にクガトの一人負けという状態へと導いたので有った。