005-001
選定戦の終了後、足早にククジアを後にしたダインはテガスの新工房に籠る事が多かった。
元々、ユーマ共栄国の国家運営はフェカトが中心となって行っており、ダインが関わらなくても困る事はない、むしろダインが関わった方が思い付きで色々な事を試そうとするので政務が乱れる要因となってしまうぐらいだ。
選定戦から既に一週間以上経過おり、ククージアのユーマ駐屯地はそのままユーマ大使館として機能し始めている。
また、リボルト側として参戦した耳長達はフィセーリア、シノール、リノールの三名をユーマに残して、東方へと引き上げていた。
そんなおり、一機のクフィカールがテガスに降り立ってダインに会見を求めていた。
七実 「フォティーヌが戻って来ました、何でも経過を報告したいそうです」
ダインに報告する為に新工房を訪れた七実がダインに状況を話す。
ダイン 「早いですね、東方との行き来だけで三日は掛かると聞いていましたが」
七実 「フィセーリア程では無いですけど、フォティーヌも耳長の常識を超える魔力を得てますから、飛行速度が上がった上に疲れ知らずで、従来の三分の一で移動出来るそうです」
ダイン 「朗報ですがやり過ぎですよね、遊魔への魔進化が露見してしまうでしょう」
七実 「だからこそ一人で来たらしいです、フィリッカ以外だと置き去りなんですが、耳長の状況観察に一人は残しておきたいですから」
ダイン 「ならば急ぐ必要は有りませんから、もう少しここでやりたい事も有りますので」
七実 「意地が悪いですよ、フォティーヌにこちらに来る様に言っておきますね、例えダイン様と話せ無くても側に居られるだけで満足出来ますから」
ダイン 「気を使わせてすみません、あと少しでスカウト・ゾッフォもモノになるでしょう」
ダインはゾッフォから外した頭を何やら弄っている、元々ゾッフォは胴鎧と兜が一体化しており、頭を見る事は余り無い。
七実 「頂点部に穴を開けて、上にカメラを仕込むんですか」
ダイン 「カメラというより新しい頭ですね、首が回るマギガントをベースにすれば楽なんですが、飛行装備を装着する方が手間ですから」
七実 「でも行く行くは全てのロゥディに導入するんですよね、試験ゾッフォで試した機能はロゥディに採用されてますし」
ダイン 「それはまだ難しいですね、フィセーリアに通信魔術の研究をして貰ってますが、長距離から映像を送る為には、本体に色々と組み込む必要が有るそうです」
七実 「何だか前と仕様が変わってますけど、前は映像を持ち帰るとか言ってましたよね」
ダイン 「より効果的なプランが有れば、それを試してみるのが遊魔です」
七実 「そうですよね、もし命を落としたとしても情報が遊魔に伝われば本望ですから」
ダイン 「そう考えないで下さい、先に情報が伝わればより的確な援軍を送れる為ですよ」
それがダインの本心で有る事を付き合いの長い七実は理解しているが、いざという時には自分を切り捨てて貰う事の覚悟も出来てはいる、例え自分が命を落とす事になっても、ダインさえ生き残ってくれれば本望なのだ。
七実 「ですがいざという時の判断はダイン様の命を優先して下さいね、七実の為にダイン様が命を落としてしまっては、他の皆んなに申し開き出来ませんから、一人の犠牲で遊魔が存続するならそれが最良の選択です」
七実はそう口にしたが、実際にその状況に陥った時のダインの判断は予測出来なかった、遊魔という作品を失う悲しみよりも自己の命を投げ捨ててしまう様な危うさがダインには存在している。
ダイン 「まぁ、そうなら無い様に最善を尽くします、新しいアイデアも浮かんで居ますので」
七実 「また変な事考えているんですか、でも、フォティーヌの相手はちゃんとして下さいね」
七実はそう言って新工房を後にすると、フォティーヌのいる旧工房へと向かう、飛行型マギガントの着陸には旧工房に隣接した闘技場を使うのが普通なのだ。
そうして、伝達役の七実は十分に仕事を果たして、小一時間後にはフォティーヌがダインの元を訪れる。
フォティーヌ 「ご無沙汰しておりました、ようやく東方大陸より帰還いたしました」
ダイン 「嬉しい言葉ですね、長らく暮らした東方よりもこのユーマを家として思っているのですね」
フォティーヌ 「はい、今回の帰郷で妹と会ったのですが、どうも家族という認識が薄れていました、やはり遊魔の家族こそが今の私の本物なんです」
ダイン 「正に遊魔の一員の証ですね、早速東方の状況を聞かせて貰いましょうか?」
フォティーヌは持参した巻物を拡げると、どうやらそれは地図の様だった、ダインは初めて目にしたこの世界の世界地図に興味を奪われた様で、じっくりと見入っている。
フォティーヌ 「お気付きの様にこれが耳長に伝わるこの世界の地図になります、この世界には居住可能な三大陸と氷に覆われて不毛な北方大陸が有ります、俗に言う人類圏がこの西方大陸、真ん中に位置するのが中央大陸で、その隣に位置するのが東方大陸になります、地図では途切れていますが、東方大陸を東に進むと西方大陸の西岸に到達いたします」
ダイン 「つまりこの世界は球体の上に存在しているという事ですね」
フォティーヌ 「多分その様に思います、北方と南方の極地を確かめた者はいませんので、確実とは言えませんが」
ダイン 「まぁ今回の目的には関係無さそうですからね、それにしても中央大陸は広いですね、東方と西方を合わせてもまだ倍以上は有りそうです」
フォティーヌ 「元々耳長は中央大陸東部に居住していました、西部には主に岩喰いが居住していて、余り交流は有りませんでしたね、ザキトス侵攻から数年は岩喰いが侵攻を防いでいた様ですが、魔獣の拡がりと共に大地を奪われた様です」
ダイン 「フォティーヌは実際にクフィカールで戦ったんですか?」
フォティーヌ 「いえ、私は戦っていません、逃げる手伝いはしましたが」
ダイン 「東岸から東方大陸に押し出された形ですね、三百年前から耳長は航海技術に長けていた訳ですか?」
フォティーヌ 「いえ、無茶無茶な航海でしたね、巨大木を河に浮かべて削って無理矢理船にしたんですよ、それを飛行マギガントで引っ張って海を渡りました、海産物もその時から食べる様になりましたね」
ダイン 「食料で苦労した訳ですね」
フォティーヌ 「はい、クフィカール使って中央大陸から輸送とかはしてたのですが、マギガントで運べる物資など少量ですので、乗員は苦労してた様です、騎士は中央大陸で食べる事が出来ましたけど」
ダイン 「ですが中央大陸との行き来自体は命懸けだったんですよね」
フォティーヌ 「はい、残った者達の顔は今でも忘れられませんね、脱出出来た耳長は全体の十分の一ほどでしたから、その後、何度か迎えには行ったのですが、助けられた耳長はいませんでした」
ダイン 「中央大陸の耳長は絶滅したという事でしょうか?」
フォティーヌ 「分かりません、ですが私も参加した探索で奇妙な事も有りました、崩壊した集落の直ぐ近くにトンネルが有ったんですよ、トンネルを掘るのは岩喰いと聞いているんですが・・・」
ダイン 「岩喰いの魔族もいるのでしょうか?」
フォティーヌ 「可能性は有りますが襲撃に使ったトンネルなら集落の中にですよね、私が見たのは大分離れていたところでしたね」
ダイン 「樹上で木の家を作るなら、土の下からは攻め難いでしょう、トンネルも木の根が邪魔しますし」
フォティーヌ 「そう言われればそうですね、確かにあの位置は森を上手く避けていたと思います」
ダイン 「トンネルを作ったのが誰なのか気になりますね、もしかして岩喰いと大陸に残った耳長は地下で生き延びているかもしれませんね」
フォティーヌ 「地下ですか、確かにクフィカールによる探索も地下には及んでいませんからね」
ダイン 「まぁ私に出来る事は、なるべく早くに中央大陸を探る準備を整える事です」
フォティーヌ 「準備といえば、魔鋼の譲渡の許可が下りました、ただ、ダイン様自ら取りに来るようにとの事です」
ダイン 「自分で持ち帰るならくれるという事ですね、いいでしょう、東方大陸にも興味は有りますから準備を始めましょう、この地図の距離が正確なら、三日も有れば到着出来ますね」
フォティーヌ 「クフィカールと浮遊母艦の速度差と同じですね、私のクフィカールが一日で来れたので間違い無い筈です」
ダイン 「休憩をせずに飛び続けたんですか、確かに遊魔の身体は丈夫ですけど無茶は控えて下さい」
フォティーヌ 「ダイン様に会えない方が辛いですから、会う為に飛ぶのは全然辛く有りませんでした」
ダイン 「嬉しい事を言ってくれますね、フォティーヌの努力は無駄には出来ませんから、早々に東方遠征の準備を始めましょう、フェカトは渋い顔をするでしょうが長期的に考えれば浮遊母艦を増やす方が有益な筈です」
こうして、ダインの意思が示された後のユーマの行動は素早い、ダイン最優先こそがユーマの基本原則で、渋い顔はされても決して否定される事はないのだ、予定が狂う事でフェカトはまたスケジュールを練り直す必要が有るが、元々ユーマの仕事は人類圏の常識に当て嵌まらない速さなので、文句など言われる筋合いは無いのだ。
フォティーヌ 「私が言うのも変かもしれませんが、いきなり東方大陸への遠征は危険じゃ無いですか、耳長も一枚岩では有りませんから、今回の事に反発している者も大勢いるんですよね」
ダイン 「呼び出されて邪険にされるのは嫌ですね、ですが私自身が興味が有るんですよ、いざとなれば向こうで眷属も増やせますからね」
フォティーヌ 「また耳長の遊魔を増やすのですか?」
ダイン 「それも選択肢の一つです、使える手札は多いのに越した事は有りません、あと、耳長の情報共有を今一度フィセーリアを加えてやりましょう、人物視点などは複数の方がいいですから、いっその事リノールとシノールも加えましょうか、まだ時間は掛かりますがね」
フォティーヌ 「それは危険かもしれません、私は魔力の大きさで懸念を持たれてますから、遊魔に魔進化すると魔力増えて隠すのが難しいですから」
ダイン 「魔力の大きさは人類圏では利点なんですよ、マイナス面は余り無かったのですが、耳長は魔力を警戒しているんですか?」
フォティーヌ 「私も良くは分かりません、ですが幹母が恐れていました」
ダイン 「幹母とは聞きなれない言葉ですね、どう言った存在なのですか?」
フォティーヌ 「子供を多く産んだ母親の事です、耳長では武力は処女、内政は母親が担っているんです、今は東方移住で種族の絶対数が減ってしまったので、子供を多く産んだ幹母の権限が特に強いんですよ」
ダイン 「それは大問題ですね、私は他の男に抱かれた女を遊魔にはしたく有りませんから、子を産んでいるという事は相手の男が居るわけですよね」
フォティーヌ 「はい、幹母を頂点とした社会構成は耳長の伝統ですから、どうしょうも有りません」
ダイン 「まぁ、処女が武力を司っているのは暁光です、ですが耳長が保有している戦力を考えると一人、二人を遊魔にしても意味は無さそうですね、三百機のクフィカールが相手ならどうしょうも有りません、やはりここは技術で籠絡するしか有りません、ムジカと面白い事を考えていましたが、実行に移す時かもしれませんね」
妖しげな笑みを浮かべたダインにフォティーヌは抗えない魅力を感じていた、変化の少ない耳長の社会において、ダインの様な何をしでかすか解らない者は存在しないのだ、そして、その様な傑物と共に歩める事にフォティーヌの胸の高鳴りは収まらない。
おまけ
ククジア王国 魔王ザキトスが制圧していた地域を領土として建国された国家、ザキトス戦役で功績を立てた者達の子孫が国家運営を行なっている。
大国と言われる国家で人類大陸の東側に位置している、もっとも東に有るクガト領からは混沌大陸へと流刑者を送る船が出ている。
人口は約一千万人、農業生産力は七百万石ぐらいだが、海産物や牧畜を加えると国内で十分食料自給を満たしている、穀物以外の食料の割合が高い為に料理の種類が豊富で有る。
人類型マギガントを産み出したクガト領を有している為に、マギガント保有数は大陸最大の五百機以上を誇るが、ゾッフォ以前のゾゥティの数も多い。
ユーマ同様に戦闘目的の兵士はおらず、警察機構の様な役割を担った者が十万人程存在しているが、各地域の安定を見守るだけで軍隊ではない、そもそも今のアーグルでは軍隊を運用するノウハウが失われており、兵站が確保出来ないのだ。
戦力と言える存在に魔術士と言った者達が居るが、実際に人間同士が争う事は無いのでどの程度の戦力を持つのかは不明で有る。
新女王ティアス・ククジアに代替わりしたばかりだが、ユーマの恩恵を十分に受けており、国内は徐々に変わりつつ有る、特に王都ククージアではユーマの技術供与を受けた浮遊母艦工房の建築も始まっており、その変革が周辺国家に焦りを与えている。