展開編 第十九話 ヒューリの願望 

  005-019

  ダインが初めてエゴナを訪れてから二週間後、今日がヒューリのお披露目式の日でもあった、ユーマへの依頼が唐突であった事がエゴナの新しい権力構造が揺れ動いている事の証で、お披露目式当日でもまだ何かを企んでいる勢力すら存在していた。

  ここに来てただ傀儡の王として擁立されようとしていたヒューリに大きな変化が起こっていた、その主たる理由としてはダイン召喚前から面識の有ったフェカトと邂逅した事が大きい。

  大国の姫と併合されて王族から一貴族の娘となった二人の身分差は大きい様に見えるが、フェカトはジーカの売り込みの為にエゴナに滞在した事が有り、その時に同じ騎士として親交を深めていたのだ。

  つまり以前のフェカトの力量を知るヒューリにとって、その劇的な魔力上昇は奇跡そのものでも有り、その奇跡を自分のモノに出来れば頷くだけの傀儡の王から脱却出来る希望を見出してしまったのだ。

  その現れが直接のダインの出迎えであったが、見物に来た群衆にとっては王選定に関係のない姫が要人の出迎えを行っているだけに見えていた、だが、後に行われるお披露目式の行事でヒューリとダインの弓術対決が行われる事が通達されると、その為の顔合わせだと認識されてしまい、多くの民衆の次期王予測からヒューリの選択肢が消えた。

  ダインを案内する様に同じ馬車でお披露目の会場に向かうヒューリは、改めてダインの人気を実感していた、馬車の小さな窓から見る群衆は若い女性の姿が多く、窓からダインの姿を見て声を上げている。

  ヒューリ思考 『あの人達、ダイン王の姿が分っているんでしょうか、私だってフェカトと一緒じゃ無ければ王だとは思いませんでした』

  ヒューリがそう思うのも無理からぬ事だった、最初にエゴナを訪れた時のダインの衣装は王の衣装とは思えない程おとなしい物で、色も緑一色とまるで森に潜んで獲物を狙う狩人の様な姿だったからだ、実際、この時のダインの衣装は地球で使われている野外戦闘服を模した物で、とても王が他国で着る様な服ではない。

  そして、今のダインも形こそ変わっているものの、色は緑の戦衣に間違い無くとても王が外交で着る様な物ではない。

  ダイン 「やはりこれは無礼だったでしょうか、ですが私にはこれが一番馴染むんですよ、服の締め付けは心を締め付けられる様に感じてしまいます」

  ヒューリ 「解る話です、私もお腹を締め付けられて余り食べれませんから」

  ダイン 「それはお辛いでしょう、折角の贅を尽くした料理が目一杯食べれないとは」

  ヒューリ 「ユーマでは特に食に拘っているとのお話しでしたからね、先日のご提案もお受けする方向で進んでおります」

  ダイン 「それはありがたい、ユーマには知識と技術が有っても、人が足りていないのですよ、美味しい料理も食材が無いと作れませんから」

  ダインは以前の来訪の時に、加工食品の製造依頼をエゴナに対して行っていたのだ、ヒューリに会って行った大幅に譲歩した提案ではあったが、立場の弱いヒューリが独断で判断出来るわけもなく、まだ協議は続いている。

  ヒューリ 「私に力が有れば直ぐにでも良い返事が出来ましたが、お待たせして申し訳有りません」

  ダイン 「構いませんよ、存分にヒューリ様の手柄にして下さい、なんならまだ一つ二つはおまけ出来ますよ」

  ヒューリ 「そこまで甘える訳には行きません、ですがダイン王の提案のお陰で私の立場も良くなったと思います」

  ダイン 「その様な事を仰ってもいいんでしょうか?」

  ヒューリ 「構いませんよ、フェカトを妻に迎えているダイン王なら、私の立場もご承知でしょうから」

  実際ダインはフェカトからエゴナの国家体制の事をよく知らされていた、そしてヒューリが唯の象徴に近い事も理解しているのだが、優れた個の才能が国家体制する変えてしまう事も理解している。

  ダイン 「そう卑下する事も有りませんよ、ヒューリ様が英雄たる才を示せば立場はついて来る物です」

  ヒューリ 「今のダイン王が正にその言葉を体現させていますね、ですが私には荷が重いです、ダイン王に認めて貰うだけの才など有りませんよ」

  ダイン 「人の才能とは生まれ持った物だけでは有りませんよ、教えられて身に付く物の方が多いです、私の家族達も私と接する事で大きく才を延ばしてくれました」

  ヒューリ 「確かにフェカトは変わりました、元々私など及ばない才女でしたが、今はそれに輪を掛けています、歴史に残る名宰相でもいずれは霞んでしまいそうです、それにククジアのティアス様、あの方も凄いお方だと思っておりましたが、絶世の美しさと明晰な頭脳、今やククジア建国王の再来とも噂されています」

  ダイン 「当人達を良く知る私にとっては、噂が一人歩きしている様にも思えますが、一つだけ確実なのは二人共以前とは比べられない程の魔力を手に入れました、これは私と交わった事が原因なのですよ、世間で言われている様に私は抱いた女性に魔力を与える事が出来る様なのです」

  正直ヒューリもそれを十分に理解している、だが、自身に自信の無いヒューリには自らダインに迫る事など到底無理な行為でもあった。

  ヒューリ 「やはり噂は本当だったのですね、魔力を与えれるなんて夢の様なお力です」

  ダイン 「もう隠しきれませんしね、それに私が愛する女性には幸せに生きて欲しいので重宝させて貰ってます」

  ヒューリ 「確かに魔力が高いだけで幸福に生きれますからね、それにダイン王のお側にいる方々は何方も凄いと評判ですよ」

  ダイン 「皆んな私を楽しませるのに頑張ってくれてますからね、競い合う事でより互いを高めてます、そして私も負けていられませんからね」

  ヒューリ 「つまりユーマは個々の自己研鑽によって、急速に発展しているわけですか、私が頑張っても何も変わらないのに」

  ダイン 「なら、自身で目標を立ててみては、私で良ければ達成のお祝いをしてあげますよ」

  ヒューリ 「ダイン王のお祝いってだけで、何か凄い事になりそうです、なら私が協定戦で負けなければ祝って貰えますか?」

  この場合のヒューリの負けないとは、全ての的を射抜く事である、射抜き勝負では予め多数の矢が番られた弩弓が用意されており、それを選んで五回同時に的に放って勝敗を決めるのだ。

  通常のマギガントによる射撃はかなり困難な事で、五本の矢を全て的に当てるにはかなり難易度が高い目標である。

  ダイン 「私に出来る事であればなるべく叶えて上げましょう、ですが、浮遊母艦とかは無理ですよ、あれはユーマの戦略に欠かせない物ですから」

  ヒューリ 「欲しいのは物じゃ有りませんから安心して下さい」

  ダイン 「まぁ可憐な少女にねだられてしまうと何でもあげたくなってしまいます、一応ユーマでも送り物は用意してますので」

  ヒューリ 「それは楽しみです、ユーマで作られた物は何もかもが優れていると言われてますから」

  ダイン 「そういう自負は有りますが、ヒューリ様に気に入って貰えるかは難しいんですよね、ですがエゴナの国益にはかなうと思います」

  ヒューリ 「なるほどエゴナの国益ですか、エゴナ王への贈り物ならばそれが一番だと思います、私への贈り物だと思って期待しちゃいました」

  ダイン 「ヒューリ様への贈り物も別に用意してますよ、もっとも私の思考は変わっていると言われますので、余り期待はしないで下さい」

  ダインとヒューリは二人だけの空間でしばし交友を深めた、ヒューリにダインの接待を任せているのは、ヒューリを押す者達の思惑で、ヒューリが王候補から遠ざかる様に見える事が目的でもある。

  実はエゴナの国王選びは大規模な賭け事の対象になっており、ヒューリの配当が高ければ高いほど、裏で暗躍する者達の利益になるのだ。

  そうしてお披露目会場に到着した二人は、厳重な警備の騎士に護られて個々の控室へと移る、ダインの控室には先に到着していたユーマの参列者が勢揃いしており、機嫌の良いダインの様子を見て出迎えのヒューリとの間がダインの思い通りに進んでいる事を理解した。

  七実 「この世界のダイン様はモテ過ぎですよね、昔はナナが独占してたのに」

  フェカト 「当然ですよ、そもそも女は子供に期待して魔力の高い男性を求めてますから、でもダイン様のモノにされると自分自身が強大な魔力を得る事が出来る、この魅力に抵抗出来る女性なんてほぼいないでしょうね」

  真夏 「人の価値が魔力で決まってますから当然ですね、ですがこの解りやすい価値観が有る社会ですから、遊魔が繁栄出来てますよね」

  ダイン 「解りやすい価値観というのは重要ですよ、何かを企む人間は物事を解り難くするものです、詐欺で良くある手口ですよ、解ったふりをしていても解ってない者は多いですからね」

  プルル 「世の中、解らなくても遊魔みたいにちゃんと教えてはくれませんから、先ずは理解させるという遊魔の姿勢には助けられてます、ダイン様の考えは解りませんけど」

  七実 「それは無理な話ですよ、ナナですら全部は解りません、でも解らない事が解る瞬間って嬉しいですよね」

  ダイン 「理解する喜びと理解される喜びは特別だと思います、特に遊魔の社会では」

  七実 「まぁ、新しい娘を増やそうとするダイン様の気持ちも解るんですよね、その分ナナの時間は減ってしまいますけど、新しい娘との時間も始まりますから、結構刺激的なんですよ、耳長なんて根幹が違う生き物ですし、まだまだ謎もたくさんあります」

  ダイン 「遊魔の楽しみという意味では耳長は最高の素材です、新たな探求も与えてくれましたから」

  フェカト 「耳長達に直接聞かせたい言葉ですけど、部屋を分けられてしまいましたからね」

  ユーマ共栄国の控室には耳長は一人も居ない、耳長は独自に控室を与えられてエゴナとの交渉も行われている、もっともどの様な交渉が持ち掛けられてもユーマには全てが知らされる事になるのは言うまでも無い。

  その後、しばし待たされた後に案内役がやって来て、ユーマ一行をお披露目の会場となる王宮の大広間へと導いてくれる。

  遊魔一行に与えられたテーブルは、新興の小国には不釣り合いとも言える程の上段の一等地で、周囲にはエゴナと近い関係の強国が配されている、ククジアはエゴナとの交流がそれ程親密では無い為に中段に置かれている事を考えれば、正に別格の扱いとも言える、居並ぶ強国の代表達は不機嫌な様子など全く無く、むしろ好奇に満ちた目をユーマの面々に向けており、これから披露されるエゴナの新王よりも興味が有る様だ。

  だが、重要な新王の披露に当たって交流など出来る筈も無く、ユーマの面々は好奇な視線に晒されていたのだが、隣の空いた所に耳長達がやって来ると、ユーマへの関心も少し薄れた様だ。

  そして、全てのテーブルが招待された人々で埋まると、会場で演奏されている音楽が変わる、次に一幕目が開かれてまだ十分に若い女性のエゴナ現国王が壇上に現れると会場の空気が静まり返り、その言葉を待っている。

  現国王は形式的なスピーチを行い来場者に礼を述べると、いよいよ次の国王が発表される段階になる、現国王が退場して壇が傍にずらされると、厳かに幕が開いて行く。

  ダイン達は次の国王について知らされているので、落ち着いてその様子を眺めていたが開いた幕の中にはヒューリは当然の事ながら他にも別の女性の姿が有った。

  その状況に会場から響めきが上がると、ヒューリが言葉を発する。

  ヒューリ 「エゴナ新王はまだ決まっておりません、私ヒューリとこのエリリナで決戦の勝負がこれから行われます、幸いこの後予定されておりましたダイン王と私の勝負にエリリナが加わる事となり、勝った方がエゴナ新王となります」

  全く予期出来なかったヒューリの発表であるが、ダインはそれを嬉しく感じていた、そう、ダインはこういう意表を付いた展開が大好きなのだ、そしてそれに巻き込まれる事に喜びを感じている。

  そして、ダインの嬉しそうな表情を見たヒューリは微笑みを返して、益々ダインを惹きつけるのだ。

  おまけ

  マギガント射撃武器 協定戦が主な戦いである人類圏マギガントの主な武器は白兵武器であるが、射撃武器を運用する機体も少なからず存在する。

  実際、普及機でもあるゾッフォでも弩弓は運用可能であるが、それは予め矢が番ている弩弓を使用出来る程度で、自身で矢を装填する事は不可能である。

  だが、上級機に至っては長弓を使用する事も可能であるが殆ど使われた事は無い。

  耳長は森で生活する事が一般的で文化的にも長弓を使う事が多い、それ故にクフィカールでの弓術は耳長騎士の必須技能とされており、標準的な装備として長弓が用意されている。

  そして、ユーマ共栄国では銃器の開発に力が注がれており、実際に実用化もされている、だが、射出機構などはまだまだ模索が続いている段階で複数の方式の銃器が混在している。