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ある春のよく晴れた午後。
一組の男女が、その手に握るものを凝視しながら話していた。
「スプーン、だよなあ」
「スプーンしかないよ」
装飾のない平凡な銀色の洋食器。それ以外には皿もスープもない。
ここは小高い山の中を通る道路。舗装されてはいるが、両脇に並ぶのは民家でも商店でもなく、雑木林。
学校帰りという風体の彼らが、こんな場所でスプーンを見つめる理由は単純だった。
「なんでスプーンが飛んでくるんだ?」
「私に言われても……」
何の比喩でもなく、このスプーン自身が飛来し、彼らの足元に小気味良い音を立てて転がり込んだのだった。
これが空き缶だったなら、興味を示すことは無かっただろう。
あるいは札束だったなら、警察に届けようかネコババしようかと葛藤しただろう。
しかしスプーンなのである。
「うーん」
スプーンそのものに興味を示したわけではない。スプーンが飛んでくるという現象の意味がわからず、疑問を浮かべているのだ。
彼らのいる近辺に住宅は無く、車さえ滅多に通らない。
スプーンを投擲するシチュエーションだって想像できない。それも二本揃えて。
彼らは首を傾げるよりなかった。
しばらくそうしていると、少女の方から声が上がる。
「あっ、見てコタローくん。スプーンに映る顔が変わってるよ!」
それを聞いた少年、同じ代物であろう自分の手にあるスプーンを覗き込む。
奥側へ湾曲し上下逆さに見える自分。その頭のこめかみの後ろあたりに、動物的な耳が生えているのが見えた。
「なんだ。そういうオモチャだったのか」
鏡と絵を組み合わせて映すことで、まるで身体にパーツが追加されて見える。そういう機能があるのだろう。
単純なジョークグッズに関心を持たない彼は、早々に退屈そうな声を上げる。
こんなもん捨てて早く帰ろうぜ、と少女へ視線を戻しながら投げかけるはずだった台詞は、しかしその半ばで霧散した。
「サクラちゃん?」
振り向いた彼女の、頭のこめかみの後ろあたりに、動物的な耳が生えているのを見てしまったから。
呼ばれて向き直った彼女もまた、同じように言葉を失う。
「……な、何それ」
その視線は自分と合うようで合わない。少し上、髪の毛あたりを注目しているようだ。
まさかと思って手を伸ばすと、そこには柔らかく温かな物体の感触と、同時に自分の耳に何かが当たる感触。
つまりそこにあるのは自分の耳なのである。しかしそんなわけはない、人間の耳は顔の横、目と同じくらいの高さにあるはず。
そんな違和感も、目の前の光景があっという間に流してしまう。
「わ、わわわっ!」
慌てふためく少女の身体はみるみるうちに小さくなり、腰の高さくらいの背丈になってしまった。
状況を理解する暇もなく、今度は少年の身体も萎んでゆき、目線の高さが並ぶ。
「……」
余りの事態に声すら上げられない二人。
気づけば互いの瞳はぎょろりと大きく、それぞれ緑と黄に淡く色づいている。
肌が露出していて当然なはずの顔も、今や隙間なく毛に覆われて、それぞれ紺と白の複合模様に。
すっかりたわんでしまった衣服の内側がやけにもさもさして感じられ、少年が小さな手でシャツを捲れば、顔だけでなく全身が毛むくじゃらになったと知る。
そのシャツを後ろに引き伸ばし、あるところでぷるんと飛び出した尻尾が地面へ垂れると、彼らの身体の変化は大人しくなった。
しばらくの間互いを見つめながら、もうこれ以上何もないと悟るや否や、
「「わあああああああ!!」」
渾身の悲鳴と、盛大なずっこけ。
「か、変わっちまった、身体が!」
「動物、なんかの動物!」
「…………。いや、動物って」
少女だった方の反応が滑稽だったのか、少年だった方は急に冷静さを取り戻す。
「ニャオニクスだよな」
「え、なに?」
宝石のような瞳。折りたたまれた長い耳。小さくとも自由に動く二足歩行型の手足。巨大な二本の尻尾。
いずれも、彼らがよく知るポケモンの一種であるそれと一致する特徴。
「あー……言われてみれば」
自分が着ていたはずのぶかぶかすぎる衣類から抜け出して、慎重に立ち上がってみる。
首から下は間違いなくその像と一致しているし、顔も改めてスプーンを見れば確認できた。
『あーっ! 遅かったか!』
不意に聞こえた声に飛び上がるふたり。
道路の先から駆けてきたのは、やや恰幅のいい白衣の人間と、猫のような紫の四足ポケモン、その組み合わせだった。
『はぁ、はぁ、いや申し訳ない……、巻き込んでしまって』
人間は息を荒らげながらふたりへ語り掛けるが、不思議なことにふたりは何を言われているのか理解できない。
「いや何語だよ」
「聞いたことも無い喋り方……」
顔を見合わせていると、今度はポケモンがさらに歩み寄ってくる。
「そうじゃなくて、あなた達がニンゲン語を聞けなくなったのよ」
「はぁ? そんなわけ」
「ほら、いま私の言葉がわかったでしょ。もうあなた達、脳みそまでポケモンなの」
反論しようとするが、何も思いつかない。
現に人間は何やら一生懸命喋っているのに、単語のひとつすら聞き取れないでいる。
『……やっぱりボクの言葉じゃダメかい?』
人間がポケモンの方へ視線を向けると、ふたりの方を見たままこくりと頷く。
肩を落として溜息をついたことだけは、言葉が伝わらなくとも理解できた。
「カレの言いたいことはね、『これから元に戻してやるからついてこい』……よ」
「ホント? 良かった~」
少女が胸をなでおろす。今日からこの身体で生きてゆけと言われたらどうしようかと内心怯えていた。
すると、そのポケモンの額にある珠のような器官が煌めく。
彼らが人間であったことを示す衣服や靴や手荷物、そして例のスプーンがふわりと宙に浮かび上がった。
超常現象――であるはずが、彼らには何の疑問も浮かばない。
「荷物運んであげるから、あのニンゲンを追いかけてね」
「ありがとう! えっと……、」
「エーフィでいいわ」
「はい、エーフィさん!」
嬉々として後ろに続く少女だったが、一方で少年は何かを考えているように人間を見つめていた。
[newpage]
二匹のニャオニクスの姿は、道路から外れた藪の中にあった。
「ね、ねぇ……だめだよコタローくん。あの人たち見失っちゃうよ」
「へーきへーき。それよりも、せっかく変身したんだぜ?」
二本の尾を揺らす不安そうな少女をよそに、少年は黄色い目を輝かせながら話す。
「元に戻る前にいろいろやってみないとな!」
「いろいろ、って?」
「ニャオニクスってエスパーだろ。《ねんりき》で物を動かしたりできるんじゃないか?」
ちょうどそばにあった片手の拳ほどの石へ両手を向ける少年。
直接石に触れるのでなく、見えない壁を押すかのごとく両腕を並行に伸ばし、そのまま何かを期待してじっと待つ。
「…………」
「…………」
当然、超能力の経験があるわけでもない彼に、望むような結果は訪れない。
「なんだよ、見た目だけか?」
少年が不満そうに腕を下ろす一方で、少女は何かを思いついたようにそっと少年の耳へ指をかける。
折りたたまれていたうさぎのような大きな耳がぺろりと開かれると、その内側から彼の瞳と同じ茜色が輝いた。
それと同時、周囲の木々がざわめき始める。
風はない。動物の気配でもない。
葉擦れの音と、耳慣れない破裂音が騒がしく鳴りだす。
「え、え、何?」
先ほど練習台にしようとした小石がふわりと宙に浮かび上がる。
それ以外にも落ち葉や枯れ枝や、地下の大きな岩なんかも土をめくり返しながら浮上しようとする。
必然的に生じる空洞を埋めるように周囲から土砂がなだれ込んで、蟻地獄のごとく草木を切り崩し、地形が様変わりしてゆく。
「ストップストップ! 手ぇ離して!」
ハッとして少女が耳を解放するとすぐ折りたたまれ、同時に現象はぴたりと停止。木々は大人しくなり、浮いていたものは自由落下して転がった。
例えるなら、夜更かししていた子供たちが大人の気配に慌てて布団を被ったときのそれ。まるで示し合わせたかのように一斉に、しかしその痕跡を残したまま。
「びっくりしたー……」
ニャオニクスというポケモンに特徴的な、耳の内側にある目玉模様の器官。
彼らのサイコパワーを放出するための部位とされており、能力を行使する際には耳をぴんと立てて開眼するがごとく露出させるシーンが見られる。
発生した超常現象は、そのパワーによるものに違いなかった。
「すげぇな。こんなメチャクチャがひとりでできるなんて」
「確かにすごいけど……危ないよぉ」
少女が辺りを見渡す。不自然に散らばった岩石、折れてしまった枝、逃げ惑う虫たち。
人間一人が扱うには余りにも大きい規模。恐怖を覚えるのも無理はない。
ところが少年の感想は違っているようで、少女の手を二本まとめて握りながら目を見つめてくる。
「サクラちゃん、おれたちこのままでいようよ!」
「ええっ!?」
あまりに突拍子のない提案に冗談かと一蹴しようとしたが、少年の表情は真剣そのもの。
「元に戻ったら人間だ。何にも変わったところのない平凡な人生さ。でも今のおれたちはニャオニクスだぜ?」
「え……どういうこと?」
「間違いなく特別な存在だよ。だってこんなことができるんだから」
「そうかも、しれないけど」
「……それに今だったら他の誰よりも、おれがそばにいられるし、さ」
ここまで自信満々に訴えてきた少年の語気が急に弱まる。
その言葉の含みに、まさかと思いつつ続きを待つ。
「実は、前から好きだったんだ。こんな状況だけど、二人お揃いでポケモンになっちゃったの、実は嬉しい」
「コタローくん……!?」
少女にとっては予想外の告白。恋愛経験のない身には大きすぎる衝撃に、何を言えばいいか分からず口をぱくぱくさせる。
頬染めて視線を泳がせる様子に手応えがあったのか、まだ返事をもらっていないうちから一歩前へ踏み出す少年。
「ちょっ、と……!」
身体が近づき、腕が互いの胴体に挟まれる。
顔の距離が縮まるが、少女は逃げない。鼻どうしがぶつかるところまで来ても、そのつぶらな瞳が見つめ返すだけ。
そのまま、ふたりの口の先が重なる。
「っ……」
数秒間、動かずにじっと感触を味わう。
離れて、静かに熱い息がこぼれる。
「へへっ。ダメじゃない、よね?」
「う~……ずるいよ……」
キスまでされて、意識せずにいられるわけもない。握られる手が、押し当てられる腰が、心地よく感じられてしまう。
そしてそれは少年も同じ。彼女の体温を求めるように、もっと触れ合おうと身体を擦り付ける。
と、そこで違和感に気づく少年。
「ん?」
下腹部あたりに当たる固い感触。体毛越しではっきりとは分からないが、何かが挟まっているような。
すっと身体を引いて視線を落とすと、紺色の毛の中から肉色の細長いものが飛び出ていた。
「…………」
「…………」
長い沈黙。
少年はそれが何なのか見当がついている。しかしそれは自分の股間からでなく、目の前にいる女性――であるはずの子の身体から生えている。そのことに混乱している。
少女はまるで事態を飲み込めていない。それは間違いなく自分の身体の一部で、触れられた感触も伝わってきた。しかし想像しているその部位というのは、こんな風に体表から飛び出るほど大きくなったりしない。
やがて、静寂は少年の一言によって破られた。
「それ、ちんこ……?」
瞬間、少女は弾けるように飛び退いて、その突起を両手で覆い隠した。
「うそ! うそうそうそ、なんで!?」
「サクラちゃん、落ち着いて」
頭の中が真っ白になる。性別まで変わるなんて聞いてない。どうしてこんなことに。
ともすればポケモンに変わってしまったときよりも動転している少女。一方で、そんな少女を目の当たりにする少年はそこまで慌てておらず。
「考えてみれば、サクラちゃんの毛色って《オス》だな」
「えっ!? あ……」
ふたりともポケモンに変わったという事実にばかり驚いていたが、少女の姿は紺をメインカラーとする体毛、流線形の毛先、瞳の色は本人にこそ見えないが淡いエメラルドグリーン。
その特徴は紛れもなくオスのニャオニクスに特有のものだった。
「そ、そんなこと言ったらコタローくんだってメスだよっ!」
「…………わお」
その言葉通り、少年は少女と対照的に白がメイン、くるんと渦巻いた形の尻尾に、瞳の色も耳の内側もそれぞれ火のような黄と赤。メスのニャオニクス以外の何物でもなかった。
ついでとばかりに手を股間へやると、男ならば当然そこにあるべきモノが確かに見当たらなかった。代わりにあったのは小さな溝、意味を考えればすぐにその正体へたどりつく。
「コタローくん……?」
少し力を込めれば簡単に指が沈み、その奥へと。少年に未知の感覚を与えた。
狭いながら指を許容する確かな柔らかさ。その壁面を擦り上げ押しのけるたびに、男の身体では味わえない浮かび上がるような快感が訪れる。
「んっ……、すごいや。本当にメスだ」
「な、何してるの……!?」
「何ってそりゃ、――あぁごめんごめん。サクラちゃんも一緒に、ね」
少年は自慰を中断して少女の方へ歩み寄る。
思わず後ずさりしようとした少女の背中に硬い感触。木の幹に退路を断たれていた。
「こ、コタローくん? い、一緒にって?」
「だってほら、もうそんな風になって、つらいでしょ」
少女の下腹部には、隠そうとする手の影からはみ出て自己主張する屹立があった。
さっきよりも明らかに大きく張っていて、先端に透明な雫を湛えている。
性対象として意識するようになった相手に官能的なシーンを見せつけられて、年頃の女の子が反応せずにいられるわけもなかった。
「わ、わわわ!」
「そんなに恥ずかしがらないで。おれが気持ちよくしてあげ――って」
少女の肩に手を乗せて宥めようとしたとき、急に神妙な面持ちになる少年。
ここまでオトコとして雰囲気をつくってきたわけだが、事実としてオスは彼女の方であることを思い出す。
つまり、どうすればいいんだろう。股を開いて誘惑……いやいや、この子はそういうタイプじゃない気がするな。
全部任せてもらって、おれが上に乗れば、この流れのままリードできる。うん、それがいい。
「ゴメンゴメン、なんでもない。さ、力抜いて」
少女の手をやさしくどかしてから、自身の腹を押し付ける。
「ま、待ってよぉ~。さっきプロポーズされたばっかり……、」
雄の象徴が、少年の手に捉えられる。
「ひゃんっ!?」
自分で刺激したこともないそこへ、他者から触れられる衝撃。少女の思考をすべて吹っ飛ばしてしまった。
もちろんそれで終わりではない。少年の、解されて蕩けた入口へ宛がわれ、
「あ、あ、……っ」
息を吞んで一拍、ぐっと体重を載せられて、内側へ滑り込んだ。
「わああ……」
「んく……やば、おっきい……」
少女が感じるのは、急所を全方向から責め立てる快楽の激流。その勢いに押し流される以外、できることはない。
少年が感じるのは、簡単な慣らしでは備えきれなかった奥底への侵略。ただひたすら、その存在感に圧倒される。
「な、なにこれ、すごいよ……コタローくん……!」
思わずその胸にしがみつく少女、身を寄せ合うことで腰を押しつけることになり、意図せずその弱点を彼の更に深くまで預ける。
少年の内側はより抉られ、めいっぱいに押し広げられる。先端は行き止まりまで押し当てられて、なおも先を目指そうと壁を叩く。
「あうっ、ぐ……。サクラちゃん……もっと、ほしい……」
絞り出すような喘ぎが、少女の、もといオスの、燃えるような欲求を掻き立てる。
言葉だけでは済ませない。腰を浮かせ、わずかに繋がりを緩めてから、勢いよく打ち付ける。
再び最奥が叩かれ、ふたりの形がぴったりと嵌まる。
「あ……ああっ……」
そのたび、ふたりの身体に快感の電撃が走る。どうかしてしまいそうな、どうにでもなってしまいたくなるような愉悦。
引いては押して、引いては押して。
粘液に濡れた肉茎が露わになり、すぐに沈められる。
「あっ、あんっ、こたろーくんっ!」
強烈すぎる快感に囚われ、まともに言葉を紡げない。なされるがままに刺激を受け止める。
「は、はっ……さくらちゃん……っ」
少年とて初めての行為、決して余裕などない。それでも彼女に喜んでもらえるようにと、懸命に腰を振る。
身体が張り詰めてしまっている彼女の代わりに、雄槍を股間ごと咥え込むがごとく、めいっぱい打ち付ける。
ぬめりきった粘膜を擦りつけ、歪ませる。相手の形を覚えさせるように、何度も、何度も。
繰り返すだけで、ふたりの性は昇りつめてゆく。
そしてあるラインを越えたところで、少女の内側にある小さな核がとくっと脈動した。
「ひっ!? なに、なんかくる、やっ……!」
雄としての役割を果たす準備が整ったサイン。子をなそうと、雌を孕ませようと、内圧が高まってゆく。
少年なら意味をすぐに理解できる。そしてその時を迎えられることを期待して、ささやく。
「いいよ、サクラちゃん……ちょうだい?」
未知の感覚に思わず逃げようとしたその腰を両手でがっしりと捕らえて。
ありったけの力でその芯を体内に挿し込む。
もうそれ以上進めないところまで思い切りぶつかって、少年自身も意識していない最奥の入口に、刺さりそうなほどに押し当てて。
「あっ、や、だめ……き、ちゃ……!!」
ぐぐっと一回り膨張した、次の瞬間には。
どくんっ。
「きゃ!?」
大きく脈打って、その限界を突き抜ける。
誕生したばかりの雄の生殖器から送り出される新鮮な液体が、勢いよく肉棒の中を駆け上がる。
その押し当てられた雌の生殖器へ、ぴったりと繋がれた小さな管へ、そのまま注ぎ込まれる。
びゅーっ、びゅっ、びゅくっ。
「う、あああっ……!」
暴れる肉茎をくわえ込んだ肉洞が、締め付けるように収縮する。
初めての絶頂を迎えた幼い雄に、強い圧搾を耐えられるはずもない。
助長するように、より勢いよく体液を放出する。零すことなく、最奥へと溜まってゆく。
どくん、どくっ、どくっ。どっくん。
互いに経験したことのない快楽を受け止めきれず、互いにしがみつくのみ。
ありったけの熱を、確実に雌へと与え、その甘美な時間をじっと嚙み締める。
徐々にそれが収まってきて、なんとか動けると思える頃に少年は腰を上げた。
「あぅ……」
ぐぽっと音を立てて抜けたのは、白い粘液に汚れた肉竿。
それがどこから生じたものか、想像できないふたりではない。
「あ、……中で、だしちゃったんだ……」
「へへっ。おとこのこサクラちゃん、かわいかったなぁ」
「もう何よー! 急にあんなことされてびっくりしたじゃない!」
顔を真っ赤にしながらぽかぽか胸を叩く少女。苦笑しながら宥める少年は満足げに頬を掻く。
「ごめんごめん。大好きって気持ちがいっぱいになって、もう止まれなくて」
「う……は、恥ずかしいよ」
少年の胸のふわっと巻いた毛に顔を埋めた少女を、少年はやさしく抱きしめた。
[newpage]
身体の火照りを落ち着かせていると、近くに大きな気配が動くのを感じた。
「えっ、何!?」
「しっ……」
身を屈めるよう合図した少年を見て、小さく縮こまる少女。
茂みを掻き分けてくる何かが正体を見せる前に、低木をぴょんと飛び越えて出てきた紫のシルエットがあった。
「いたいた。ついてこいって言ったじゃない」
呆れた調子で声をかけてきたのは、先ほど白衣の人間と一緒に現れたポケモンだった。
「エーフィさん!」
「どうやってここが?」
「あてもなく探し回ったに決まってるでしょ。あーもう今月分歩いた」
そう零してエーフィは仕事をやりきったというように地面に座り込んでしまう。
ちょっと遅れてガサガサと枝葉の間から白衣の人間も登場。
『見つかってよかったー! これで戻してあげられるよ』
疲れているのはこちらも同じようで、全身が汗でぐっしょり濡れている。
それでも座り込むことなく、手に握る棒状の物体を二本、ニャオニクスたちへと差し出してきた。
「……割り箸?」
「割り箸よね」
この流れで何かを渡されるというなら、人間に戻すための道具、なのだろう。
それにしても、スプーンで人間をやめたと思ったら、割り箸で人間に戻るというのか。
違和感を禁じ得ないながらも、もとより彼らにその理屈を知る術もない。
深く考えずに各々受け取り、じっと身体が戻るのを待った。
「………………」
「………………」
「どう?」
「まだ何も」
『あれぇ? すぐ戻るハズなんだけど……アッ、まさか!?』
白衣の人間がエーフィと顔を見合わせる。
険しい面持ちになったエーフィがふたりを見て、それから周囲の地形へ目をやった。表情が曇る。
「……あんたたち。どうやら当分そのままね」
「「ええっ!?」」
ここにきて手のひらを返され、納得いかないと食い下がる少年に呆然とする少女。
「見てない間に《その身体でしかできないこと》をしたわね? それはその身体があんたたちに馴染むトリガーなの」
「この身体でしか……?」
「そう。《サイコキネシス》とかね」
エーフィの二又の尻尾がぴんと伸びて、抉れた地面を指摘する。
無意識的に、あるいは暴走ともとれるが、確かに超能力で物を動かしたのは事実。少年の顔から血の気が引いた。
「で、でも! それ――」
弁明しかけて慌てて口を噤む少女。
わざを使ったのは少年だけだし、自分だけは元に戻れるはずじゃないか。そう口を滑らせそうになった。
実際は、オスのこの身体でしかできない《射精》をしてしまった。彼だって下手をすると子供が、タマゴができたかもしれない。
下手なことを言って探りを入れられ、バレてしまったら。そう思うと、黙っているしかなくなってしまった。
「さて。もう生涯ニャオニクスとして過ごすか、それともどうにかして人間に戻りたい?」
エーフィの目がふたりを射止める。
やっぱり人間に戻りたいと答えたら、何と言われるのだろう。
「そ、それは……」
口篭もる少年の視線は少女へ向く。
元々このままでいようと言い出したのは少年の方。しかし少女が望まない生き方を強引に選ぼうとまでは思っていない。
もちろんそれは少女も同じ。人間へ戻りたい気持ちはあるが、少年の言っていたことに共感する部分もある。
「コタローくん。どうするの?」
少年の小さな手を握って、静かに問う。
「……それじゃあ――」
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