魔王を討伐せよとの神託が降りて数か月。勇者一行は魔王城に最も近いモヨリ村で最後の準備を進めていた。
「へえ、辺鄙な村の割にはいい装備を揃えてるな」
背は低いが、頑丈な鎧を身にまとい、強大な筋肉の鎧をも持つ戦士は村唯一の道具屋で食い入るように品物を見つめている。
「あらほんと。こんなに魔法の道具が売ってるなんて、故郷でも早々入荷しないのに」
魔女の里出身の魔法使いは、大きな胸を揺らしながら戦士に寄り添う。
「あの、お熱いのはいいんですけど人前だってこと忘れていませんか」
女神を信仰するシスターは、目のやり場に困って顔を赤らめている。
「それじゃあ、それぞれに1つずつ装備を買ってしまおうか。この先まともな装備が得られる保証は無いし」
まだ18歳になったばかりでパーティー最年少ながらも、その実力でみんなを牽引してきた勇者が装備を見繕ってパーティーに渡していく。戦士にはベルトを、魔法使いにはイヤリングを、シスターには指輪を、そして勇者は自身にネックレスを装備した。
彼らの実力は十分であり、魔王を倒すだけの力はあった。だが、この村が魔王の手に落ちていることも、購入した装備に呪いが掛けられていたことも、この時は知る由が無かったのである。
最初の異変は宿屋で眠っていた時のことであった。全員が、何者かが自分を闇に誘う姿を夢に見た。ゆっくりと足が進み、誘われるがままに謎の人物へと近づいていく。衣服が消滅し、恥部が露わになると、無数の手が現れあちこちを刺激し始める。今まで感じたことも無い快感に、誰もが身を委ねる――そこで、夢から目を覚ました。
「「「「こんな夢…恥ずかしくて他の人に話せないな」」」」
体液で濡れたシーツと下着の証拠を隠滅しながら、勇者一行は夢の内容を話すことも無く出立の準備を進めるのであった。
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魔王城前。過酷な道を乗り越え、ついに勇者一行は怨敵のいる場所へと辿り着いた。勇者は深呼吸し、パーティーに檄を飛ばす。
「これから先は、今までの苦労なんて嘘だったかのように苦しい戦いが待っているかもしれない。だけど、僕たちはここまで欠けることもなく一緒に戦ってこれた。それは、きっとこれからもそうだ。絶対に魔王を倒してみんなで帰ろう」
その言葉に全員が頷く。勇者が城門に手をかけ、ゆっくりと押す。嫌な音と共に、門が開いていき――
全員が、別々の方向へと強い力で引っ張られていった。
「なんだ!?これは罠か!」
「みんな、なんとか後で合流しよう!」
バラバラになる勇者一行。その様子を、玉座から魔王が不敵な笑みを浮かべたまま眺めていた。
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最初に解放されたのは戦士だった。所々に悪趣味な髑髏の意匠を散りばめた鏡が配置されている部屋に運ばれた戦士は、敵を警戒して周りを見渡す。しかし、何の気配も感じられない。
「一体、ここは…?罠にしては何も襲ってこないし、この部屋には何もないぞ」
実際、この部屋には何も仕掛けられていなかった。この部屋、には。
「どうにかして合流を――ん、身体が熱い!締め付けられる!」
ベルトが怪しく光り、身体を強く締め付け始める。どうにかベルトを外そうと鎧を脱ぎ、ベルトに手をかけ力を込めるが外れる気配は無い。
「ぬうっ…筋肉が無くなっていく!」
全身の筋肉が脂肪へと変換されていく。全体的に肉付きが良くなる中、ベルトに締め付けられた腰部分だけは細くなり、くびれが出来る。
「視線が上がっていく…身長が伸びているのか!?」
どんどん身長が伸びていき、男としては小さめだった160㎝の身長は2mを超えていた。
「ふう…終わったのか?」
戦士は自分の姿を鏡で確認する。身長が高くなり、筋肉がひと欠片も残っていないような脂肪まみれの身体。くびれたウエストに、大きな尻。体格こそ大きいが、戦えるような身体では無かった。
「これでは、まともに戦えない。どうすれば…うっ!?」
しかし、変化はまだ終わっていなかった。頭から黒い角が生え、お尻から黒い尻尾が飛び出す。
「あっ――はぁん♡」
艶めかしい女性の声が出ると、胸に一対の大きな乳房が生まれる。太い腕すら入れられそうな大きさの乳首を持ち、ピンク色に染め上がっている。
「ああん――無くなっちゃうぅ♡」
男性器が無くなり、男を誘う匂いを蔓延させる女性器が姿を現す。
戦士は、再度鏡を確認する。先ほどは無かった女の特徴。それも、強調されるかのように突き出し、存在感を放っている。そして、生えた角と尻尾を見て、戦士はある魔族のことを思い浮かべた。
「『わたくし』…サキュバスになったのねぇ」
通常のサキュバスと違い人肌のままであるが、どこからどう見てもサキュバスだ。男を誘惑し堕落させる低俗な生き物。そう戦士は認識していた。
「どうにかしてぇ――元に戻らないとぉ」
戦士は、合流を目指して歩き始める。自分が心まで変質していることに気づかぬまま。
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魔法使いは、幼児趣味の玩具や遊具がある部屋に閉じ込められていた。魔法で壁や扉を攻撃するが、傷一つ付かないのだ。
「クソっ…魔法に対する障壁でも貼られているのかしら。それにしても、なんで魔王城にこんな悪趣味な部屋が」
――戦士がいればな、そう最愛の人を想いながら座り込む。何とかして脱出する方法を思いついてやる。そう魔法使いが考えた瞬間、イヤリングが光り始めた。
「魔法がダメなら物理で…魔力を込めた打撃…いや、魔力は無効化するから無駄か…じゃあ、とにかく魔法で壁を攻撃してみよう!」
既に試したことを再び思いつき、魔法で壁を攻撃し始めてしまう。案の定効果は無いが、ムキになったのかさらに攻撃を加え始める。
「なんで壊れないの!ママ、どこにいるの、助けてぇ!」
幼い子供のように泣き叫び、魔法を使い続ける魔法使い。魔法を使うたびにイヤリングが怪しく光り、知能が吸い取られていく。
「あっ、おもちゃだ!」
そして、目的を忘れたのか部屋にあった玩具で遊び始めてしまう。数十分遊んだ後、魔法使いは疲れて眠ってしまった。
さらに数十分後、目が覚めた魔法使いは身体の変化に気が付いた。背が大きく低くなり、4歳ほどの見た目になっていた。大きかった胸は跡形も無く消えている。それだけでなく、魔法も知識も何もかもが頭の中から消え、パーティーの頭脳であった秀才ぶりは見る影もない。さらに――
「これって、男の人に付いてるおちんちん?」
股間には、女性ではありえない男性器のみがあり、しかも毛が何も生えていない未成熟なものであった。魔法使いは掴んで伸ばして遊んでしまうが、ハッとなると何故か開いていた扉へと向かってよちよちと歩く。
「――ママに会いたい」
合流しよう、という約束すら忘れてしまった魔法使いは、異なる目的を携え魔王の間へと進んでいく。
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シスターが連れてこられたのは、悪魔達の集会場のど真ん中だった。夥しい数の悪魔――下位も上位も含めて数百はいるだろう。現れたシスターの姿を見て、悪魔達は男性器を勃たせにじり寄ってくる。
「嫌…嫌ぁ!神よ、不浄なる者へと裁きを!」
神に祈るが、力が全く発揮されない。それもそのはず、この空間は悪魔達と崇拝する邪神の力で満ちていた。神の力は阻まれ、届くことは無い。
「そんな…何か、無いのですか――悪しき魔の者を調伏させる術は!」
その願いを聞き届け、指輪が光りだした。充満している禍々しい力を取込み、その力をシスターの身体へと流し込んでいく。
「何ですかこれは…うげっ――ウゴゴゴ」
身体が肥大化し、黒く染まっていく。身体が筋肉質になり、大きな翼が生えてくる。角が生え、牙が生え、髪が抜け落ち――ここにいる悪魔のような見た目へと変貌していく。
「ウッ、ナニカ出ル!ワタシガ、ワタシガ出チャウ!」
咆哮を上げると、女性器が消え醜悪な男性器が姿を現す。先走りが止まらず、床を濡らし続ける。
「アア、漏レ出チャウ、大切ナモノガ、ウオオオオ!!」
そして、勢いよく射精をすると取り囲む悪魔達を精液で濡らす。悪魔達は歓喜の声を上げ、何かを祝福している。
「アア、スッキリシタゾ。『ワレ』ハデーモンロード。魔王様ニ忠誠ヲ誓ウモノ」
シスターの意識は、もう何処にも無かった。
「魔王様ニ、謁見シナクテハ」
デーモンロードは、ひれ伏す悪魔達を横目に魔王の間へと向かう。魔王を守るために。
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勇者は魔王の間にて、玉座に座る魔王と対峙していた。剣で斬りかかり、魔法で攻撃するが傷を負う気配は無い。
「どうした、まだ私は全力を出しておらぬのだが」
魔王が挑発するが、その声に勇者の心が揺さぶられる。魔王は、力をその1割も発揮していない。なのに攻撃されても傷を負っていないのは、勇者のほうが力を発揮できていないからだった。
「魔王『様』、傷つけたくないんです、降伏してください!」
魔王を討ちに来た勇者とは思えない発言に、魔王は満足そうに笑う。
既に勇者は、呪われたネックレスの効果により魔王への強い愛情と、支配を植え付けられていた。愛情が力を奪い、手元を狂わせる。勝ちの目が無いことは明白だった。
「降伏してやらんこともないぞ、お前の選択次第だがな」
有利な状況でありながら、ありえないことを魔王は勇者に語り掛ける。その言葉を聞いて、勇者は嬉しそうな顔で次の言葉を待っている。
「お前は雌のドラゴンとなり、我のために子を成せ」
意味不明な条件を突きつける魔王。しかし、勇者にはもう正常な思考は不可能だった。
「はい♡『妾』は雌のドラゴンとなり、魔王様の為に子を産みます♡」
承諾した瞬間、身体が徐々に巨大化し、牙が、爪が、翼が、黒い鱗が――人間の要素を捨て、生まれてくる。
「グルルルル…♡こんな、醜い雄の象徴なんて外しちゃわないと♡」
股間に鎮座していたドラゴンのモノと化した男性器を引き抜くと、引き抜いた場所に生まれた女性器に突っ込む。入れて、出すたびに体内が雌のモノへと変化し、卵を産む準備が出来ていく。
「ああ、『妾』のチンポから、精液が流れ出て、卵が出来ちゃうぅぅ!!」
精液で体内が満たされると、男性器を引き抜きお腹をさする。すると、瞬く間にお腹が肥大化し、女性器から勢いよく複数個の卵が飛び出してきた。
「よくやった勇者よ。約束通り、私は降伏することにしよう」
魔王の言葉に、勇者が首を振る。
「いいえ、いいえ。『妾』達は魔王様に敗れ、情けない姿へと変えられた卑しい身分…そのような身分の者の言葉を聞き入れる必要は無いのです」
その時、魔王の間に姿の変わった勇者一行が集結する。肢体をくねらせ誘惑する戦士、状況が飲み込めず母親を探す魔法使い、魔王の僕と化したシスター、そして熟れた雌のドラゴンと化した勇者。そのうち3名が首を垂れ、魔王への忠誠を誓う。
「…?何故、魔法使いは魔族へと変貌していない?」
魔王から、疑問が漏れ出る。モヨリ村で店主に化けて売りつけた、呪いのアイテム。このアイテムには人間を魔族へと変換する能力が付与されていた。魔法使いには、トロルに変換し知能を極限まで低下させる魔法が仕込まれていたはずだったのだ。
「…むずかしいこと、わかんない。ママはどこ?」
魔法使いは答えることは無く、魔王へと近づき抱き着く。その瞬間、魔王の魔力が魔法使いに吸われ、力が抜けていくのを感じた。
「何!?これは一体」
魔王といえど、無尽蔵の魔力を抱えているわけではない。魔力を吸われていく毎に力が衰え、その影響は状態異常耐性に表れる。
「私に何故…このような胸が!?」
魔王は、雌雄など無い完全なる存在であった。だが、魔力が低下した結果、自身が生み出した呪いの蔓延するこの部屋の影響を受けてしまい、身体が変容していっているのだ。
「クッ…離せ!ああん、これが快楽!?こんな、痺れるような感覚…経験などしたことない」
耐性が落ち、本来受けないはずの快楽を感じるようになる魔王。
「ママだ!」
魔法使いの声に、魔王がハッと意識を取り戻したときにはもう手遅れだった。魔法使いが胴体にしがみつき、胸を思いきり吸い始めたのだ。
「ああああ!!こんな、何かが出てる!魔力じゃない何かが出る!」
魔王の胸から、母乳が生成され魔法使いに供給されていく。生成され、吸われる度に魔王の身体が小さくなり、魔法使いの身体は大きくなっていく。
「こんな、こんなことで私は負けるのか!馬鹿なァァァ!!」
そして、その場には魔族の赤ん坊へと姿を変えた魔王と、元の身体以上の魔力と、女性を虜にする魅力的な身体を持った男魔族が残った。
「うふふ…呪いに気づいて咄嗟に内容を一部書き換えたけど、何とかなったわね」
魔法使いは、知能が無くなる寸前に呪いに2つ術式を刻んでいた。『呪い進行阻止』と『魔力吸収』の術式は正常に作用し、魔王の力をほとんど取り込むことに成功した。
「これじゃあ私が魔王ね。でも――」
新たな魔王の誕生を、祝福するかつての仲間たち。最早彼らに勇者一行であった記憶は無いが、突入前の誓いだけは魂に刻み込まれていた。
――みんなで帰ろう。姿が変わり、魔族へと変質してしまったが。それでもまだ生きているのだ。
「帰りましょう、あなた達。歓迎はされないかもしれないけれど――故郷に」
甘える元魔王を抱え城を出る新魔王とその側近。悪逆の限りを尽くした魔王は、もういない。平和となった大地。魔王一行は、ハジマリノ王国への長い道のりを歩み始めた――
[newpage]
人類と魔族との講和が成立して100年。王都では平和が訪れて100年を祝い、祭りが開かれていた。
「魔王様、遊びに行かないんですかぁ?行かないなら、わたくしだけで男漁りにいっちゃいますよぉ♡」
元戦士は、男を魅了しては悦ばせ、幸福へ導く存在となっていた。かつての恋人だった元魔法使いと性行為を共にすることもあったが。
「魔王様、近頃貢ギ物ガ少ナイノデ、倹約シテ頂カナイトイケマセン」
元シスターは、元魔法使いの執事兼財務管理、悪魔達の統率役を任されていた。
「妾は、子供たちの育成に時間が取られて祭りなんていけそうにないわ♡」
元勇者は、何十匹もの子ドラゴンに囲まれ、大変だけど幸せな生活を送っていた。育児が忙しすぎて、もう80年はみんなと会っていないが、こうやって念話で時々会話しているようだ。
「パパは魔王なんだから、お祭りに出なきゃダメだよ!」
成長した元魔王は、年齢を経ても甘えん坊なところが変わらず、元魔法使いを父として慕い続けている。
「はあ、もう少し休ませて欲しいのだけど…」
元魔法使い、現魔王は魔族から立て続けに来る嘆願書や、一部でまだ起きている人間との小競り合いに頭を悩ませていた。平和になっても、悩みの種は付き物である。
「今日の分は確認終わり。じゃあ、行きましょうか」
魔王は娘の手を取り、祭りの中心地へと向かう。人と魔族が同じ火を囲み、嬉しそうに腕を組み合う姿を見て、魔王はひとり思う。
「想像していた世界平和とは全然違うけど、これもまあ…いいか」