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くびかざりがよく似合ってる

  そろそろ茜色の住宅地で、夕刻を知らせるメロディーがどこからともなく響く。

  人通りの少ないとある路地に少年が二人、賑やかに喋りながら歩いていた。

  「だからさ、オレの手持ち的にそのジム楽勝だったわけ」

  「えー! ズルいじゃん先に行くとかさー」

  半袖短パンの体育着姿に平べったいかばんを背負う彼らは、地域の中学生であろうことが見て取れる。

  「別にズルくないだろ。ま、オレの方が早くクリアするから」

  「だめ、今いるとこで待ってろっ!」

  不満げな方が得意げな方に掴みかかろうとしてひらりとかわされ、さらに追いかける形でそのままおにごっこが始まる。

  車通りもほとんどないその地区は、道路で多少暴れても危険はない。通学路やそうでない道を、二人は軽快に走ってゆく。

  普段の登下校では通らない未舗装の小道や、見知らぬ家の庭まで入り込んで、逃げては追いかけ。

  そのうち二人とも息を切らせて足を止めると、気づけばすっかり馴染みのない場所にいた。

  「あれ……迷っちゃったか?」

  「コウが追っかけてくるから~」

  「だってテルだけずるいじゃん!」

  「むきになるなってば。あ、それじゃあポケモン交換しようぜ、レベル高いスターミーいるから」

  「ん、それならいいか」

  ひと段落して周囲を見渡す二人。

  住宅は疎らで、広めの水田や雑木林が目立つ。

  見通しはいいはずなのだが、通学路から随分離れてしまったらしく、現在地の手がかりになりそうなものは無い。

  「うわーどうしよ、帰れないよ」

  テルと呼ばれた少年は焦った様子でえーっとかわーっとか声を上げるばかり。

  一方でコウと呼ばれた少年は落ち着いて空を見上げる。くるりと半周してオレンジ色の太陽を見つけ、少し考えてから「こっち」と道のひとつを指して歩き始める。

  「え? 待って、なんでさ」

  「いつも帰るとき、太陽が右後ろにあるだろ。だからこっち」

  そう説明するコウの進路は、確かに夕日を右後ろから受けている。学校から家へ向かう方角としては正しいことになる。

  「そんなんで帰れるのかよー」

  「なんとかなるだろ。最悪どっかのお店で聞こうぜ」

  気楽そうなコウの物言いに頼りなさを感じるテルだが、それでも他にアイデアが浮かばず、仕方なくコウの後に続いた。

  しばらく会話のないまま見知らぬ地を歩く。

  時折鳴くカラスの声や、踏み慣れない砂利道が、どことなく不安を煽る。

  と、あるところまで行くと彼らは奇妙な光景を目にした。

  「なんだこれ」

  「わあ!」

  大きな家の生垣の陰、道路から少しそれた辺り。

  そんな場所に不釣り合いに置かれたテーブルと、その奥のイスにたたずむ作業服の男性。

  テーブルはつややかな紫色のクロスに覆われ、上に並ぶのは陽光を乱反射して煌めく大小様々な装飾品。

  奇妙な場所で開かれている露天商が、そこにあった。

  「きれーだな……」

  しかし疑いよりも先に、彼らの心は商品へと惹かれてしまう。幼さ故か、はたまた妖しく光る宝物の魔力か。

  近くまで寄り、揃って膝立ちになって顔を近づける。

  ネックレス、指輪、イヤリング、男子中学生には縁のないアクセサリーが視界を埋め尽くす。金属や宝石であしらわれたそれらは、子供にも通じる美しさがあるようだった。

  「すっげー……! 本物?」

  「これ、いくらかな?」

  未成年といえどこの類の商品にみだりに触れないだけの配慮はあるらしく、一定以上の距離を保ったまま覗き込んだり指さしたりしている。

  そんな様子を見てか、男はふっと小さく笑う。

  「気に入ったかい?」

  「えっ、はい。でもオレお金ないです」

  コウが残念そうに答える。それは今財布を持ち歩いていないという意味でもあり、彼の部屋にある貯金箱をひっくり返そうと大した額は出てこないという意味でもあった。

  横に並ぶテルも同じ表情を浮かべ、同じく購入が難しいであろうことがうかがえる。

  彼らが往生際悪く見つめるのは、クリスタル製の様々な紋章をかたどったペンダント。星のように小さく光る宝石や凝った金属の意匠よりも、分かりやすいシンボルの方が子供には受けが良いのかもしれない。

  そんな少年たちを見た男はポンと膝をついた。

  「よかったら君たちにひとつずつあげよう」

  「「マジで!?」」

  思いもよらぬ提案に、二人の驚きの声が重なる。男を見上げる四つの瞳が宝石のように輝いた。

  「そんなに興味を持ってくれたのは君たちが初めてだからね」

  「でも、こんな高そうな物、もらったらダメじゃない?」

  口がニヤけながらも、困った風にテルが零す。

  菓子程度ならもらったりあげたりしても平気な年頃だが、高級な代物の扱いは経験がない彼らにとってこのプレゼントは手に余る。

  受け取って家まで持ち帰ったところで、母親に耳を引っ張られながら男へ返す破目になる未来が容易に想像できた。

  「そんなに高そうに見えるかい?」

  「百万円とかでしょ?」

  「はっはっは、とんでもない。これみんな、おじさんがつくったんだよ」

  「マジで!?」

  皮手袋の両手を広げて語る男に、再び二人の目がきらめく。今度は物欲よりも尊敬の眼差し。

  「値段でいえば、そうだな。このあいだ出たポケモンの新作……なんていったっけ。あれよりも安いね」

  「信じらんねー……」

  急に手の届く世界になったと知ってか、ペンダントを見つめる彼らの顔がさきほどよりもずっと近くなる。黙っていれば指でつつきはじめそうだ。

  「それに、このあたりは思った通りに仕上がらなかったからなぁ」

  ちょいちょいと指さす先には彼らが惹かれていたペンダントがある。安価なうえに不良品とくればハードルも格段に下がる。

  「じゃ、じゃあ、もらっていいの?」

  「でもひとりひとつまでな」

  「やったぁ!」

  ハイタッチした二人はすぐさま唸りながらペンダントを吟味する。そしてさほど時間をかけずにひとつずつ手に取った。

  コウは太陽を表すと思われる放射状の突起をもつものを、テルは月を表すと思われる先細りの弧を描くものを、それぞれ選んだ。

  夕日の下でもミラーボールのように光を乱反射するクリスタルは、あっという間に彼らの宝物になった。

  「自分でつけられるかい?」

  そう男に言われて二人は留め具に注目するが、そこでぴたりと固まってしまう。

  テーブルを回りこんで出てきた男は二人の背後に立ち、襟足のところで留めてやった。

  大人を想定された長めのチェーンは、エンブレムを彼らの胸の真ん中あたりにぶら下げる。

  動くたびに小さく揺れながら、眩く煌めいた。

  「ありがと、おじさん!」

  「サンキューな!」

  向き直って満面の笑みを見せる二人。男もそれを見てにっこりと笑った。

  [newpage]

  再び手探りの帰路へとつく二人。

  満足げに自分の胸元のペンダントを揺らしながら、迷子になった不安も忘れておしゃべりに夢中になっている。

  「ね、テルのやつ見せてよ!」

  コウのきらきらした目が覗き込んでいるのが面白くなって、テルは月の紋章を右へ左へと振ってみる。

  期待通り、それを視線で追いかけるコウ。まるで猫じゃらしを振っているかのよう。

  その様子をにやついて見ていると、あるときコウと目が合った。

  「はな」

  「……え?」

  「鼻、どうしたの」

  コウに指されるも、特にぶつけたりした記憶はない。きょとんとするテルの顔を覗き込むコウの顔は只事ではなさそう。

  「黒くなってるぞ?」

  「……んなワケないって。暗くなったからそう見えるん、」

  そう言いかけて止まったテルの視線の先は、コウの頭。正確には頭頂部。

  「頭……毛が、色が」

  「色? 髪の毛の?」

  こちらはこちらで何を言っているんだと怪訝な表情のコウ。確かめてやろうと自分を毛を一本抜こうとしてみるコウだが、なかなかうまく掴めず何度も空を掻く。

  「くっそ、抜けね――」

  「あーっ!!」

  大声にびっくりして動きを止めたコウの腕をテルが捕まえた。それをコウの目の前まで持ってきて見せる。

  そこにあったのは人間の手ではなく、犬か猫の前足のようなもの。

  「……え……?」

  理解が追いつかず、固まってしまうコウ。

  感触的にも体勢的にも、そこにあるのは自分の腕。なのに見えているのは自分じゃない何かの腕、いや、脚。

  そして今度は変化の過程にも気づくことができた。

  世界が上方向へ徐々にせりあがっている。太陽や電柱や、周りのあらゆるものが。ただひとつ、隣にいる友人を除いて。

  同じことが起きている友人が見えたから、実際は世界が上がっているのでなく視点が下がっている、自分たちの背が縮んでいるのだと気づく。

  それに伴って、徐々にサイズの合わなくなったかばんと体育着がずり落ちてくる。

  「うわっ!」

  急に立っているのが難しくなり、お互いを掴もうとして一緒に倒れてしまった。

  目の前にはお互いの足。靴も靴下もぶかぶかになって脱げ落ち、すっかり動物になった後脚が露わになる。

  いつの間にか表面に生えている絨毯のような毛が、見ているうちにゆっくりと色を変えてゆく。片方は淡い紫色、もう片方は黒色黄色の模様。

  視界の下端に映り込んでくるのは……鼻、だろうか。それにしては妙に大きい。手で触れて、ちゃんと自分の鼻だと分かる。でも同時に上顎でもあるとも感じられる、妙な感覚。

  そんな鼻も、視界そのものが大きく歪むのに合わせて再びフレームアウトする。

  「な、何これ!?」

  「身体が、変わってる」

  少年達は間違いなく人間でないものへと変化しつつあった。

  骨格も筋肉も四足で立って歩くための形に。手足はもちろん、脊椎の並びや骨盤に至るまで。

  背骨の末端からは尻尾になるであろう突起が伸び。そこからアーモンドのような太く丸っこいものや、すらっと細長く途中から二又に分かれているものへと。

  体毛は手足だけでなく全身に万遍なく生え揃い。まるで最初からそうであったかのように鮮やかに。

  自分の姿が、そして友の姿が、異形になってゆく様子を二人はただ驚きながら眺めていた。

  長いようであっという間の時間が過ぎ、あるとき変身が止まっていることに気づく。

  「……終わった?」

  先にコウが起き上がろうとして、しかし四つん這いからそれ以上に姿勢を上げられずにいる。

  ぴょこぴょこと前脚だけで地面を蹴って文字通り足掻く姿に、テルの視線が向いた。

  「エーフィ」

  「は?」

  「エーフィだよ、コウ」

  「何が」

  「コウが!」

  唐突に出されたポケモンの名前と、続けて投げかけられた意味不明な言葉に、コウの思考はしばらく混乱する。

  やがて“自分の身体がポケモンのエーフィと同じ姿に変化したのだ”と言われたことを理解。

  なるほどと納得しかけ、もういちど混乱する。

  「はあーっ!?」

  「え、じゃあボクもポケモンかな? これ、何だろ」

  コウの様子から学んでか、四つ足立ちのまま自分の姿を眺めるテル。

  とはいえ自分で見えるのは両前脚と、せいぜい振り返って下半身の一部程度。うーんと唸るうちに、今度はコウが答える。

  「ブラッキー」

  「あー、そっか」

  真っ黒だからそりゃそうだよな、と妙に落ち着いているテル。

  その様子になぜかいらだちを覚えたコウが声を荒らげる。

  「つーかなんでそんな平気そうなんだよ!」

  「いやそんなこと言われても……」

  「あーもう! 急にポケモンになるとか意味わかんねーよ!」

  「うわ~……ポケモンって現実に“いる”んだなー。なんかすごくね?」

  「そりゃあ、確かにすごいけど」

  「でもせっかくならもっとカッコイイのがよかったよなー。ゾロアークとかさ」

  「それ言うんだったらオレもギラティナとか――」

  と、その時ふたりの耳が同時にぴくりと震える。

  「誰か来る!?」

  「え!?」

  気づいた瞬間には走り出していたふたり。脱げた服もかばんも構わず、そばにあった雑木林へ飛び込んだ。

  草むらからそーっと顔だけを出して様子をうかがうと、少し先の曲がり角から自転車に乗った女性が現れ、ゆったり通り過ぎて行った。

  日が落ちかけて暗いせいか、残していったものを気にしている様子もなかった。

  「……セーフ」

  「よくあれに気づいたよな、オレら」

  「めっちゃ耳良くなってるかも」

  特別大きな物音を立てているわけでもなく、静かにペダルを漕ぐだけの自転車。

  気づいてから逃げるだけの時間がある程度には離れていたその気配を、彼らは会話中でも敏感に察知したのだった。

  改めて耳をすませば、この茂みにいる色々な動物や虫たちの存在にも意識が向けられる。

  「っていうか、なんで隠れるんだよ?」

  「あれ? なんでだろ」

  「助けてもらえたかもしれないのに! ふざけんなよマジで!」

  「おい、先に走ったのはコウの方だろ!?」

  「いーやテルの方だ! それに元はといえばこんなペンダントつけたから!」

  「なんだよ! 自分だって気に入ってたクセに!」

  もう近くに誰もいないと判ってか、年相応の口ゲンカに身を投じるふたりだった。

  ひとしきりの口論の後、長い沈黙が訪れる。

  夜の生き物たちの声が大きくなり、いまだ外で過ごす彼らの不安を煽り始める。

  「……このまま、家に帰れないのかな。オレたち」

  「そんなのイヤだよ……」

  「これ外したらもとに戻ったり、しないかな……?」

  コウがエーフィの前脚で太陽のペンダントをつつく。

  それを見てテルは留め具を外そうと自身のうなじに腕、もとい前脚を上げるが、骨格的に無理があるのか届きそうな気配もない。

  「うーん……ダメだ」

  「それじゃオレのを外してくれよ」

  首を曲げてテルにチェーンを見せるコウ。エーフィ特有の毛に隠れているが、こちらの方がまだ外せそうに見える。

  テルは前脚を引っかけてみる。軽く力を掛けるも、千切れる様子はない。もとより金属製のチェーンにそれを期待してはいなかったが。

  留め具はというと、指でパーツを押さえて生じる隙間から外せる構造のようだ。人間の指なら難しくない。人間の指なら。

  「……でも、この手じゃムリだなぁ」

  「なんとかしてくれよ、歯でも何でも使っていいから」

  そういえばブラッキーは牙を使ったわざを覚える――少なくともゲームの中では。

  この変身した姿がそういった特徴をも発現させているとしたら、顎の力には期待できるかもしれない。

  今度はコウの首元に腕を乗せ、留め具をがじがじと噛んで解除に挑む。時折引っかかるような手応えがあり、なんとかなりそうと思える感触だった。

  「いけるかも」

  「お! がんばれ」

  そう言われて、しばらく格闘するテル。

  疲れと焦りから若干荒く呼吸するテルに、異変が現れたのはほんの数分のうちのこと。

  それに気づいているのかどうか、不安げなコウも徐々に落ち着きなく足踏みする。

  ――テルの鼻先がコウの襟足に押し当たる。その匂いを嗅いでいるうちに、だんだん胸が切なく疼いてくる。

  ――コウの首や肩に擦れるテルの肌の感触がこそばゆく、ぞわぞわするのを自覚する。

  「うー……なんか……」

  「……どうしたんだよ……」

  ふたりとも、自分の異常をうまく言葉にできない。

  概念がないのもあるが、どことなく恥ずかしいことのように思えて言いづらい。

  早くなんとかしてしまおうと乱暴に噛み続けるが、かえって力が加わる途中で滑ってしまい空回りする。

  「なんか……やばい」

  そう独り言のようにつぶやいたテルが、不意にコウの首元から離れる。

  急な中断に抗議しようとしたコウだったが、今度は背中に衝撃を受けて姿勢を崩してしまう。

  「おわっ!?」

  続けてずっしりとした重み。どうやら上にテルがのしかかってきたらしい。

  引き続き首元でがちがちやっているのを感じるが、それ以上に背中側全体でその体温を感じてしまい、どきっと胸が跳ねる。

  あれ、なんだこの感覚? 苦しいけど心地いいような。

  その正体が掴めないうちに、今度は内股あたりにやけにぬるついた感触が。固く、妙に熱を持っている。

  何事かと振り向きたくなるも、ほとんど拘束されているのに近いコウの身体は思うように動かせない。

  それに、妙に力が抜ける。腰あたりからまるで自分の身体じゃなくなりそうな、危うい感覚。

  「て、テル……なんか、当たってんだけど」

  「ごめ……ボク、なんか、やばくて」

  そう返すテルはどこかぼーっとしていて、むしろより積極的に押し付けてきている。

  自分が妙に落ち着かないのは、友人の初めて見せる仕草のせいだろうか。

  整理がつかないうちに、自分の股座にも未知の感覚が。

  「っ……!?」

  それというのは、普段から意識できる前後二つの器官のどちらにも当てはまらないもの。

  いったい何が起こっているんだ。頭をぐっと下げて、自分の下半身を裏側から覗き込む。

  夕暮れの日陰でほとんど見えないが、体感と照らし合わせて、両脚の間にテルの押し当てている“それ”がぴったり当たっているようだと分かった。

  小さくぶら下がる毛皮袋とその先から覗く肉色の部位。いかに人間でなくとも同性なら“それ”が何か瞬時に理解する。

  そしてまるで、保健体育の授業でやった、女性に男性が性器を挿入するような構図。

  ――女性? いま入れようとしている相手って、

  「うええええ!?」

  男ならあるはずの“それ”がないことにコウは激しくショックを受けた。

  確かに人間ですらなくなってしまったが、テルがそうであるなら当然自分もそうだと疑問にすら思わなかった。

  まさか性別まで変わっているとは。なぜか自分だけ。

  「ごめん、コウ……ボク……」

  「まって、テル! 変だよ、オレ、女に――」

  言い終わる前に、圧迫感がコウを襲った。

  「ひぎゃ!」

  固く滑りの良いそれは、ほんの少し入るだけでも存在感を主張している。

  無意識に追い出そうと締め付ける動きが、テルの急所を握りしめるように包む。

  「あ、あぁー……」

  背中で蕩けた表情をするブラッキーは、もうまともに返事ができそうにない。

  もうペンダントを外そうとなどしておらず、ただ小刻みに下半身を揺すっている。その振動で入りかけの若い雄の象徴がずるずると雌の中へ滑り込んでゆく。

  「う、な、なんだ……これ……」

  本来あるはずのない穴。当然何かを迎え入れた経験もない。そこへ宛がわれ侵略される、未知の感覚。

  知識だけはおかしいと訴える。これは本来男性と女性で子供をつくるためにやることだと。男同士、友達同士でなんてダメだと。

  けれど、その友達がやってきている。彼の秘密の部分を一番すごいやり方で晒してまで。そのことに動揺せずにいられない。

  そして何より、自分が嫌がっていない。

  今されていることが、気持ちいい。

  そう気づいてしまったら、コウに抵抗する気力は残っていなかった。

  へこへこと腰を振るブラッキーをただ受け入れるエーフィになって、一心に快楽を貪る。

  「テル、テル……っ、あぁっテルっ」

  「コウ……はぁ……コウ」

  どう声を上げればいいかも分からず、ただ名前を呼び合う。

  自身でも制御しきれない快感の激流にさらわれて、身体が求めるままに腰を打ち付ける。

  勢いが増すにつれてコウを襲うどうしようもない切なさの正体に、あるときコウは気づく。

  「し、しっぽ……離、して……」

  のしかかられた際にテルの腹の下に敷かれ、圧迫されたまま揺さぶられているのである。

  脊髄をまるごと突かれているかのような電流が、ピストンと同時に叩きこまれている。

  喘ぎに掻き消えそうな声を絞り出したはずだったが、背中を降りてくれそうな気配はない。むしろ、どんどん速度を増している。

  「テル、ってば……あぅっ」

  「あー……コウ……。あ、……や、やば、あっ」

  急に動きが止まったブラッキーに顔を覗き込むが、すぐに理由を知る。

  どくん、と腹の底で何かが脈打った。続けて、どくん、どくん、繰り返す。

  その動きを、人間の少年だった頃の自分は知っている。

  「ちょ、なに中で出してんだよ……!」

  体内に流し込まれているそれを想像すると、かえって胸の奥が熱くなるのを感じてしまう。

  喜んでしまっている。彼の精を与えられることに。

  「あ、あ、あ~……」

  情けない声を上げながら、しかしブラッキーは再び動き出す。より強く押し付けるように、より奥へと入り込むように。

  すると、これまで感じなかった感触。入口のところで引っかかる何かが、それごと入ってこようとしている。

  今挿入されている部分と同じくらい固く熱く、そして相当デカいことがわかる。

  「て、テル? そんなの、むりだよ?」

  制するが、聞いている様子はない。ぐりぐりとずらしながらねじりながら、無理やりにでも入ろうとしている。

  若干の痛みを伴いながらも門は押し開かれ、あるところまで行くと一気にずぼっとはまり込んだ。

  「なぁっ!?」

  「やばー……これ、やばいよ、コウ……」

  さらに続けるのかと思いきや急に背中を降りたブラッキー。

  ぐるんと向きを半回転すれば、無理やり入れられたそれが杭のようにはまって抜けず、エーフィと股間同士で繋がったままになってしまう。

  「と、取れな……!」

  動けば動くほど、内側の凶悪な存在感が暴れる。不思議な快感が手足の力を奪ってしまう。

  じっとしていると、たった一か所触れ合っているそこから、脈動がずっとずっと繰り返されて伝わってくるのが分かる。

  あれ、さっきから、ずっと出し続けているのか。

  そう考えると、頭がぼーっとしてくる。

  もっと、もっと出して、ぼーっとさせてほしい。そう思ってしまったら、自分からゆるゆると擦るように結合部を前後させ、搾り取るように彼を圧迫した。

  「あー、コウ~……」

  嬉しそうに身体を捩るブラッキー。中でぴゅっと弾けるような感触。

  ヒトとして射精したとき、勢いがいいと普段より気持ちよかったことをエーフィは思い出す。いまの彼もそうなのだろうか。

  胸の中の熱いものを味わいながら、腹の奥の熱いものを受け止めながら、もっともっと、そう心の中で訴える。

  やっと解放された尻尾を、なぜか動かし方を理解しているその部位を、相手の同じ部位に絡みつかせる。

  それをぎゅっと締めつければ、自分にもゾクゾクする感覚が訪れる。一拍遅れて体内に食い込むそれがぐんっと膨れる。

  ああ、彼も同じように打ち震えているに違いない。そうであってほしい。

  だらしなくよだれを零して、胸のペンダントを揺らして、ブラッキーは期待に応えるように体液を送りつけた。

  日が沈んで暗闇になっても、二匹の獣は番い合った。

  柔らかな月光と、それを受けて淡く輝くブラッキーの明かりの下で、欲望のまま、ひたすらに。

  やがてどちらも精力が尽き、言葉も交わすことなく眠気に任せて草の上にぱたぱたと横たわる。

  互いの体液でべとべとに汚れた下半身をどうすることもなく、ぐったりと脱力してしまう。

  ほどなくして何かを聞いた彼らの耳がわずかに揺れる。それでも起き上がることはなく、やがて寝息を立て始めた。

  そこへふわりと落ちる影。

  こつん、こつん、と二匹にそれぞれぶつかって、跳ね上がる。

  眠い目をうっすら開けたブラッキーが見たのは、ぼやけた視界の遠くに作業服の人型のシルエットと、すぐそばで赤白半々のボールがぱっくり口を開くところだった。

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