广告
カナカナ……カナカナカナ……キキキキ……
ひぐらしの鳴き声がこだまする夏の夕暮れ時、僕ー久松 正春(ひさまつ まさはる)ーは屋敷の縁側にひとり腰掛けて、夕焼けの空を眺めながらぼんやりと佇んでいた。
いつもは家族と奉公人で、ひと気の絶えないこの屋敷も、今日ばかりはガランと静まり返っている。
家族のみんなは、朝方に東京旅行に出発したし、それに合わせて奉公人のみんなにも暇を出してしまっていたから、この屋敷には今は僕しかいない。
本当だったら、自分も今ごろ東京にいた筈だったのだけど、おじいちゃんを怒らせてしまったので、罰としてひとり留守番を命じられてしまっているのだ。
「はぁ……東京タワー、見たかったなぁ」
「なんや?その東京たわあ、っちゅうのは?」
「えっとね、東京タワーは……って、うひゃあっ!?」
物思いに耽る僕の耳に、ふいに野太い声が聞こえてきたかと思うと、いつの間にか山のように大きな人影が、夕日を遮るように目の前に立ちはだかっていたので、驚きのあまり情けない悲鳴をあげてしまった。
「ガッハッハ!えらい素っ頓狂な声を出しよって。相変わらず肝っ玉のちっこい坊やなぁ」
「えっ?……だ、大門さん?」
夕日を背負って影になっていたせいで、すぐには気が付けなかったけれど、その声は、昔からウチの庭師をしてくれている大門(だいもん)さんのものだった。
声の主が大門さんだとわかって、少し落ち着きを取り戻すと、それまで影を纏っていた姿が、段々とはっきり見えるようになっていった。
山のように大きくて、お相撲さんみたいに太くてどっしりした体。
その体を覆っている黒茶色の体毛は、昔に比べて色がくすんでしまったせいか、枯れ葉みたいな色合いになっている。
達磨さんみたいに厳つい顔は、白茶色の眉毛がとても太くて、半月のように鋭い三白眼をしている上に、大きな口からは太い牙も覗かせているものだから、ちっちゃい子が見たら泣いてしまいそうだけど……そんな風貌とはあべこべに、心根のとても優しい人だということを、ちっちゃな頃から可愛がってもらっている僕は知っている。
大門さん……今日も凄く格好いいなぁ。
「なんや?ポーッとしよって……マサ坊、だんないか?」
「えっ?……あっ!だ、大丈夫だよ。なんでもない!」
ついつい見惚れてしまっていたけれど、心配そうに僕の顔を覗き込む大門さんに声を掛けられて、ハッと我に返った。
「そうか?だんないんやったら、ええんやけど……」
「う、うん……って、あれ?こんな時間にウチに来るだなんて、なんだか珍しいね……もしかして何か忘れ物?」
「いや……忘れ物っちゅうかな」
いつもは明るい時間に来るのに珍しいな、と思って訊ねてみると、大門さんは、なんだかばつが悪そうに視線を逸らして、ポリポリと頬を掻き出した。
そういえば……よくよく見てみたら服装も、頭に手拭いを巻き、年季の入った藍染の半纏を羽織って、股引きと皮足袋を履いた、いつものビシッとした仕事着じゃなくて、色褪せた紺の甚平にぺったんこの草履の、ゆるりとした普段着の格好をしている。
「そのな、これは大旦那さまには内緒なんやけど……実は奥さんに頼まれて、お前さんの様子を見に来たんよ』
「えっ!?お、お母さんが?」
「そや。マサ坊を一人でウチに居させとるさかい、こっそり面倒を見てやってくれんか、っとな」
「もう……お母さんったら。僕、もう子供じゃないのに……」
「ガッハッハ!なに言うとるんや。まだおちんちんに毛も生えとらん小僧が、いっぱしに大人振りよって!」
「だ、大門さんこそ、なに言ってるの!僕、ちゃんともう生えてるよ!」
「ほんまかぁ?ついこないだまで、寝小便しとったやろうが!」
「そ、そんなのは、もう大昔の話でしょ!僕はもう16なんだから、立派な大人だよ!」
「ガッハッハ!そかそか……ほんで、その立派な大人のマサ坊は、なんで一人だけ置いてけぼりを食らうて、留守番をさせられてしもうとるんや?」
「そ、それは……その……」
いつもの調子で僕をからかって豪快に笑う大門さんに、それまではちゃんと言い返せていたのだけど……本当に痛い所を突かれた途端に、なんて答えたらいいのか分からなくなってしまって、逃げる様に顔を俯かせ、そのまま黙り込んでしまう。
どうしよう……大門さんになら、話しても大丈夫かな?
でも、こんな事を話したら……やっぱり笑われちゃうかも。
そうやって、あれこれ思いを巡らせていた時、ふいに小さく息を吐く音が聞こえてきたかと思うと、少し遅れて、今度は縁側の床がギシリと軋む音が耳に届いてきた。
その音に顔を上げてみると、いつの間にか大門さんがすぐ隣に腰を掛けて、僕の顔を覗き込んでいた。
少し体を動かせば、お互いの体が触れ合ってしまうぐらいの距離に、とてもドキドキしてしまいながらも、恐る恐る視線を返してみる。
すると、大門さんは目元を緩ませて、ニッコリと優しく微笑むと、大きな手のひらで頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。
「だんない!いっぱしの男が、そないな顔をしとったらあかんで!もしなんか悩んどる事があるんやったら、おっちゃんに話してみぃ」
「……うん」
ちっちゃな頃と変わらずに弱虫なままの僕を、いつものように慰めて励ましてくれる。
そんな大門さんの優しさに甘えるようにして、僕はポツリポツリと、一昨日の出来事を話し出した。
………
………………
………………………
一昨日の夕方、晩ご飯を食べ終わった後、僕はお祖父ちゃんから、村外れのお堂へ行くように言われた。
そのお堂は、ずっと昔に廃寺になった建物で、普段は青年団が寄り合いに使っているのだけど、お祭りとかの行事の時にも使われていたから、青年団に入っていない僕にも馴染みのある場所ではあった。
だけど、やっぱり元がお寺なせいか、昼はともかく夜ともなると、今にもお化けが出てきそうなおどろおどろしい雰囲気が漂っていて、怖がりな僕は、暗くなってからはなるべく近寄らないようにしていた。
そんな不気味なお堂に、こんな日の暮れる時間に行かされるだなんて、本当は物凄く嫌だったのだけど、おっかないおじいちゃんに逆らう事も出来ず、渋々ながらもウチを出ると、懐中電灯の灯りを頼りにお堂へと向かった。
カエルの声がゲコゲコと鳴り響く畦道を通り、裏手の山道をトコトコと登って……そんな長い道のりを歩いて、辺りがすっかり真っ暗になってしまった頃、ようやく御堂にたどり着くと、青年団の半纏を羽織った人が、提灯の灯りを手に、お堂の前で立っているのを見つけた。
「おっ、久松さまの所の倅だな?」
「は、はい!」
「よく来たな。もう中の準備は整っているぞ。あんまり待たせちゃ悪ぃから、早く中に入んな!」
「えっ?待たせるって……お堂の中に誰かいるのですか?」
「んっ?……なんだお前、なんも知らねぇでここに来たのかよ?かかかっ!久松さまもお人が悪ぃや!」
「えっ?そ、それはどういう……」
「かかかっ!まぁ別になんも悪ぃ事じゃねぇから安心しな。それどころかよぉ……おっと、無駄話してたら間に合わなくなっちまう。とりあえず中に入んな……しっかりお務めを果たすんだぞ?」
「は、はい!」
なぜかニヤニヤしている青年団の人は、そう言って僕の肩をポンッと叩くと、提灯の灯りを手に山道へと向かって歩き出し、そのままお堂から立ち去ってしまった。
なんだかよく分からないけど……お務めとか言ってたし、何かの手伝いに呼ばれたのかな?
少し腑に落ちなかったものの、中にいる人をこれ以上待たせてはいけないと思い、ひとまず気持ちを切り替えると、お堂の扉に手を掛けた。
ギシギシと軋む扉を開いて、ぼんやりとした淡い灯りに照らされた堂内に入ると、いつもの古めかしい木の匂いに混じって、やけに甘ったるい香りが鼻をくすぐってきた。
なんだろう?と不思議に感じて堂内をよく見回してみると、敷居板の向こうの広間に、綺麗な着物を纏った見慣れない女の人が、床に敷かれた布団の上に、足を崩して座っているのが見えた。
そんな思いもよらぬ光景に、とてもびっくりしてしまったけれど、相手を大分待たせてしまっている事もあって、すぐに声を掛ける事にした。
「こ、こんばんは!遅れてしまって、すみません」
「あら?ずいぶん可愛らしい坊ちゃんだこと……ふふふっ、大丈夫よ。私もちょうど準備が終わったところだから……ほらほら、そんな所に立っていないで、早くこっちにいらっしゃい」
「は、はい……」
なんだか変な感じがしたけれど、とりあえず言われるままに側まで行くと、布団の横に腰を下ろして正座をした。
「ふふふっ、そんな離れた所に座らないで、もっとこっちにいらっしゃいな」
「えっ?で、でも……」
言葉の意味が分からずに戸惑っていると、その人はクスクスと笑いながら、四つんばいで這い寄ってきた。
そしてすぐ隣にまで来ると、体をピッタリとくっつけて……なんと自分の胸を、僕の腕に押し当ててきた。
「ひゃっ!?」
「うふふっ、初心なのね。あなたみたいな可愛い男の子、お姉さん大好きよ」
「や、やめて下さい……」
「恐がらなくていいのよ。一緒に気持ちよくなりましょうね」
あまりにも突然の事に狼狽えてしまい、蛇に睨まれた蛙みたいに動けなくなっていると、その人は細く華奢な手を、僕の股座へと這わして、撫で回すようにちんちんを触り始めた。
その瞬間、全身の毛がブワッと逆立って……もう居ても立っても居られずに、その場から大慌てで逃げ出した。
ガタガタと膝が震えて、うまく足が動かせずに、何度も何度も転んでしまいながらも、死に物狂いで走って……なんとかウチまでたどり着くと、すぐに自分の部屋に飛び込んだ。
それから……恥ずかしいのだけど、布団の中で泣いていたら、しばらくしておじいちゃんが部屋にやって来て……こっぴどく叱られてしまった。
………………………
………………
………
「そうか……筆下ろしをせんで、逃げてしもうたんか」
「うん…….同い年のみんなはちゃんとしたのに、僕だけ逃げたから……おじいちゃん、赤っ恥をかいたって……」
「せやなぁ……大旦那さまには、守らなあかん面子っちゅうもんがあるさかい。昔のように庄屋やなくなったというても、久松家は今でもこの村で一番の大家や。せやのに……そこの倅が、村のしきたりである筆下ろしの務めをこなせんかったとなったら、家の威信にまで関わってまうさかい」
「そ、そんなのは言われなくたって……ちゃんと分かってるよ。でも、本当に……本当に嫌だったんだもん」
「そうか……マサ坊、これは冗談やなくて大真面目に聞くんやけど……もしかしてお前さん、ほんまに下の毛がまだ生えとらんのやないか?」
「えっ!?ど、どうしてそんな事を聞くの?」
「そのな、正吉が……お前さんのお父ちゃんが、同じぐらいの頃にそうやったんよ」
「えっ!?お、お父さんが?」
こんな話をしている最中に、急にお父さんの名前が出てきたから、物凄く驚いてしまった。
お父さんは、僕が2歳の時に病気で亡くなってしまったから、僕は顔すらも覚えていなくて、どんな人だったのかとかは、写真や人づての話の中でしか知らなかったのだけど……まさか、ちんちんの毛が生えるのが遅かったなんて話を聞く事になるだなんて……
「せや。正吉はその事でえらい悩んどってな……ワシによう相談してきとったんよ。せやから、お前さんもほんで恥ずかしゅうて、筆下ろしを出来んかったんかなと思うてな」
「ち、違うよ!本当にもう生えてるし……その……恥ずかしかったのは、確かにあるけど……でも、嫌だった理由はそうじゃなくて……えっと……」
「うん?」
「その……そ、そういう事は、ちゃんと……す、好きな人としたい……から」
「ぶふっ……ガッハッハ!!何を言い出すかと思うたら……おぼこい小僧が、生意気にいっぱしな口を利きよってからに!」
勇気を振り絞って、そう打ち明けた途端、それまで神妙な面持ちで話を聞いてくれていた大門さんが、大口を開けて笑い出した上に、僕のおでこにバシンッとデコピンまでしてきた。
「痛っ……も、もうっ!大門さんが真面目に聞いてくれてたから、僕だって正直にちゃんと話したのにっ!!」
「おっと、すまんすまん!ほんで……マサ坊には、好きな人っちゅうのが、もうおるんか?」
「えっ!?そ、それは……その……」
「ははぁ……その口振りやと、やっぱしおるんやな?」
「う、うん……」
「そかそか!ふふっ……あないにちいこかったマサ坊も、色を知るようになったんやなぁ」
「だ、大門さんっ……こ、この事は、誰にも内緒だからねっ!」
「ガッハッハ!わかっとる、わかっとる!」
大門さんは、ニコニコと嬉しそうに笑みを溢して、うんうんと頷くと、僕の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
大きな手のひらを通して、大好きな大門さんの温もりがじんわりと伝わってきて……いつもなら嬉しい気持ちでいっぱいになるのに……いまの僕の胸には、ジクジクとした後ろめたい思いが、グルグルと渦巻いてしまっていた。
お父さんと大門さんは、幼馴染の大の仲良しだったらしくて、それで『もし自分が死んでしまったら、自分の代わりに正春の面倒を見てやって欲しい』と、亡くなる前に大門さんに頼んでいたんだそうだ。
その事があって、大門さんは僕の事を凄く可愛がってくれて……今だって、僕に好きな人がいる事をこんなに喜んでくれている。
それなのに……もしそれが自分の事だと分かったら……どう思うんだろう。
がっかりさせちゃうのかな?
それとも……やっぱり気持ち悪いって思うのかな?
大門さんにそんな風に思われちゃうのは……いやだな。
「あっ、しもうた!つい話し込んでもうて、仕事の方をすっかり忘れとったわ」
「えっ?お仕事がどうかしたの?」
「実はな……こないだ来た時に、大旦那さまの松の手入れをうっかり忘れてしもうとったんよ。こないな不始末を大旦那さまに知られた日には、えらい大目玉を食ろうてまうさかい、お前さんの様子見がてらやってまおうと思うてな」
「そうだったんだ。でも、いつもの仕事着じゃないのに大丈夫なの?」
「おう。チョチョイと古い葉を摘むだけやさかい、鋏も要らんぐらいなんよ。それを済ましたら一緒に晩飯にするさかい、マサ坊はそれまで、部屋で勉強でもしながら待っとってな!」
「えっ?大門さん、ウチでご飯を食べていってくれるの?」
「そや!夜に一人で居るのは心細いやろう?今日はワシが泊まっていってやるさかい、安心しぃ」
「そ、そんな事ないよ!僕はもう大人なんだから、一人で平気だよ!」
「ふふっ。そないな事言うて、ほんまは一人じゃ小便にも行けへんのやないか?」
「そ、そんな訳ないでしょ!?もうっ、大門さんなんか嫌いっ!!」
「おっと!……ちと、からかいが過ぎてしもうたか。すまんすまん……さてと、そんじゃワシは一仕事してくるさかい、マサ坊はちゃんと勉強しててな!」
「ふんだっ!」
大門さんはそう言って立ち上がると、抗議の意思を込めてプイッと横を向く僕の頭を、ポンポンと軽く叩いてから、庭木の方に向かって歩いていった。
まったくもう、いつもいつも僕の事を子供扱いして……
大門さんが、本気で僕の事を馬鹿にしている訳じゃないって事ぐらいは、もちろん分かっているけど……それでもあんな風にからかわれたら、やっぱりむかっ腹が立っちゃう!
もっともっと大人になって、いつか大門さんにギャフンと言わせてやるんだから!!
心の中でプンプンと怒りながらも、とりあえずは言われた通りに、部屋で勉強をしてこようと立ち上がった……その時。
バキッ!!ドスーンッ!!!!
突然、何かがへし折れるような音とともに、まるで大岩が衝突したような地響きが、すぐ近くから聞こえてきた。
びっくりして音のした方に慌てて目を向けると、なんと大門さんが、松の木のそばの地べたに大きく尻餅をついて、倒れ込んでしまっていた。
「だ、大門さん、大丈夫っ!?」
「ぐぅっ……だ、だんない。ちと足を滑らしてしもうただけやさかい、どうって事あらへん……って、どわぁっ!?」
「えっ!?ど、どうしたの?」
「ま、松が……お、大旦那さまの大切な松を……お、折ってしもうた」
青ざめた顔で、わなわなと声を震わせる大門さんの視線の先を追うと、なんとおじいちゃんの松の枝が、ひしゃげるようにして折れてしまっていた。
「わわっ!?こ、これ、おじいちゃんに見られたら大変だよ!!」
庭には松がいくつも植えられているのに、大門さんが折ってしまったのは、よりにもよっておじいちゃんが一番大事にしている松だった。
それは大昔からウチの庭に植えられている、とても歴史のある松らしくて、特に念入りに手入れをするようにと、おじいちゃんが大門さんに言っていたのを覚えている。
「ど、どないしたらええんや……こないな事をしでかしてもうたら、商いが……いや、商いどころやない。大旦那さまをほんまに怒らせてしもうたら……ワシはもう、この村に居れんくなってまう……」
ボソリボソリと独り言を呟く大門さんは、普段の男らしい姿が嘘のように、オドオドとまごついていて……今にも泣いてしまいそうだった。
初めて見るそんな姿に、なんて声を掛けたらいいのか全然分からなくて、オロオロと狼狽えてしまう。
そんな時、ふいに大門さんがハッとしたように顔を上げて、僕の事を見たかと思うと、いきなり慌ただしく立ち上がって、足をもつれさせながら駆け寄ってきた。
「マサ坊、すまんっ!!後生の頼みや……この松は、勝手に折れた事にしてもらえへんやろうか?」
「えぇっ!?」
必死の形相で言われたその言葉に、僕は驚くとともに耳を疑った。
大門さんは昔から、この手の嘘や誤魔化しが大嫌いだったからだ。
「この松は……ほんまにいつ自然に折れても、おかしくないぐらいの年寄りやった。大旦那さまもそれを分かっとったから、ワシに丹念に世話をさせとったんやさかい。せやから……もしお前さんが、自分の知らん間に勝手に折れとったんやと言うてくれたら……大旦那さまも変に勘繰ったりもせんで、きちんと納得してくだはる筈やさかい……せやから」
「で、でも……」
「マサ坊……聞いてや。もし大旦那さまの怒りを買うてしもうたら……ワシみたいなもんは、この村で生きていけんよなってしまうんよ……お願いやさかい、どうか聞き入れてもらえへんやろうか……この通りや」
大門さんはそう言って、庭の砂利の上に両膝をつけると、縁側に立っている僕に向かって深々と頭を下げてきた。
そんな事をされるのは初めてで……とても戸惑ってしまい……なにより凄くショックだった。
大門さんとおじいちゃんは、この縁側でいつも一緒にお茶を飲んで、楽しそうにお喋りをしていたから、二人はとても仲良しなんだと思っていたのに……本当は全然そんな事なかったんだ。
「ほんまに……ほんまに頼む。もし聞いてくれるんやったら……ワシもお前さんの願い事を、何でも聞くさかい……せやから」
「えっ!?……ほ、本当に?」
色んな事がありすぎて、頭の中がぐちゃぐちゃにこんがらがってしまっていたけれど、大門さんの口から出てきた『なんでもお願いを聞く』という言葉を聞いた途端、ハッとして思わず聞き返してしまった。
なんでもお願いを聞いてもらえるなら、僕は……で、でも……それは……
「せ、せやっ……ワシはこんなんやさかい、マサ坊にしてやれる事なんて、そないにあらへんけど……ほんでもワシに出来る事やったら、ほんまに何でもしたるさかい!」
そう威勢よく言い切った大門さんだけれど、力強い声とは裏腹に、その面持ちは恐れの色に染まったままで、太い眉を八の字に寄せて、縋るような眼差しで僕の事を見つめていた。
さっき浮かんだお願いは……流石に言えないけど……でも、こっちだったら……ギリギリ大丈夫かも……
多分、変に思われちゃうし……それにもしかしたら……嫌われちゃうかもしれない。
でも……それでも、これを逃したら……こんな機会は、きっともうやって来ない。
恐れや不安、期待、呵責……たくさんの色んな気持ちが綯い交ぜになって、胸の内を渦巻いて、体も心もブルブルと震えてしまう。
だけど、どうしてもこの機会を逃したくなくて……勇気を振り絞って、震える自分を鼓舞すると、意を決して口を開いた。
「わ、わかった……僕、大門さんの言う通りにする」
「ほ、ほんまかっ!?マサ坊……ほんまにおおきになぁ!」
「う、うん……それで早速なんだけど……僕、大門さんに……その……お願いしたい事があって」
「おっ、なんや?」
「えっと……こ、ここじゃダメだから……とりあえず僕の部屋に、一緒に来てもらっても良い?」
「そら勿論構わんけど……ワシは力はあるが、勉強の方はてんでダメやさかい。宿題の手伝いやらは無理やぞ?」
「う、うん。勉強の事じゃないから、大丈夫だから……と、とにかく来て!」
「お、おう!」
ドギマギしてしまいながらも、なんとかそう伝えると、大門さんはすぐに草履を脱いで、縁側から家に上がってくれた。
それから僕は震える手で、大門さんに手招きをすると、自分の部屋に向かって、一緒に縁側を歩き出した。
***
そうして部屋に着いてから、まず大門さんを招き入れると、僕は障子戸の間から顔を出して、キョロキョロと辺りを見回し、本当に家には他に誰もいない事を確認してから、そっと障子戸を閉めた。
「ふぅ……」
カチコチに緊張してしまっている自分を落ち着かせる為に、こっそりと小さく深呼吸をしてから、ゆっくりと振り返ると、大門さんはすでに畳の上に腰を下ろして、どっかりと胡座をかいていた。
でも、その顔色はなんだかとても暗く、僕の事を心配そうに見つめている。
「マサ坊、えらい気を張っとるけど……だんないか?」
「えっ!?な、なんでもないよ!」
「ほんまか?そのな……ワシ、さっきはえらい動転しとったさかい。ついあないな事を頼んでしもうたけど……お前さんが、そないに気に病んどるんやったら……やっぱし大旦那さまに、正直に打ち明けようと思うんよ」
「そ、そんな大丈夫だよ!僕、全然気に病んだりなんかしてないよ!」
「……ほんまか?お前さんは優しい子やさかい……ワシの為に、えらい無理しとるんやないかと思うてな」
「……大門さん」
もしおじいちゃんに知られたら大変な事になるって、さっき自分で言ったばかりなのに……それでも僕の事を心配して、慮ってくれる大門さんの優しさに……今も頭の中がいやらしい事でいっぱいの自分が、情けなくて堪らなくなる。
だけど……それでも目の前には大好きな大門さんがいて……僕のお願いを何でも聞いてくれるって、言ってくれている。
しかも誰もいない家に二人っきりでいて……それなのに……やっぱり我慢できない。
「だ、大門さん……その……」
「うん?」
「ほ、本当にお願いを、何でも聞いてくれるの?」
「そうやけど……なんや、えらい念を押しよって。そないに言いづらいお願いなんか?」
「う、うん……ちょっと」
「ははぁ……さてはワシに、助平な本を買うてきて欲しいんやな?」
「ち、違うよ!そうじゃなくて……その……」
「なんや、ちゃうんかいな……マサ坊、そないに気後れせんでええさかい。おっちゃんにお願いがあるんやったら、遠慮せんで言うてみぃ」
「う、うん……」
なかなかお願いを言い出せずにいると、大門さんは諭すように言葉を掛けて、話すのを促してくれた。
その優しさに甘えるようにして、僕は胸の中に留めていた願いを、恐る恐る口にした。
「ぼ、僕……その、大門さんの……は、裸が見たい!」
「へっ!?ワ、ワシの裸が見たいって……や、藪から棒に何を言い出すんや!?」
僕のお願いを聞いた大門さんは、目を丸くして、びっくり仰天していた。
その驚きように、思わずたじろいてしまいそうになるけど……後一歩で、大門さんの裸が見られると思うと、絶対に諦めたくなかった。
「だ、だって……僕のお願いなら、何でも聞いてくれるんでしょう?」
「た、確かにそうは言うたけども……」
「もしかして……さっきの約束は、嘘だったの?」
「そ、そないな事は断じてあらへんっ!!ワシは口先だけの約束をするような、卑怯な男やないで!」
「それなら……僕との約束を守って、ちゃんとお願いを聞いてくれる……よね?」
「ぐぅっ……わ、わかった。ワシも男やさかい、交わした約束を破るような真似はせぇへん……」
とても狼狽えていた大門さんだったけれど、やがて腹を決めたのか、ぐっと唇を引き結ぶと、甚平の紐に指を掛けて、着物を脱ぎ始めた。
上衣を脱いで、続けて指を掛けた下衣が、畳の上にストンと脱げ落ちる。
そうして褌一丁になると、やっぱり恥ずかしいのか、大門さんは頬を赤らめ、ばつが悪そうに目を泳がしたり、手のひらを開いたり閉じたりと、そわそわしだした。
だけど、やがて観念したように、忙しなく動いていた両手がダラリと力無く下ろされると、僕の方を向いて、気を付けをするようにジッと立ちすくんだ。
そうして、ついに目の前にあらわれた大門さんの体は、まるで重戦車みたいにどっしりしてて、とても格好が良かった。
毎日の力仕事で鍛えられた腕は、まるで丸太みたいに太いし、白茶色をした三日月形の模様がある分厚い胸は、ちょっと垂れてるけど、筋肉の張りがしっかりとあって凄く逞しい。
デンッとせり出した大きな太鼓腹には、これまた大きなデベソがデンっとついていて、そこから下に向かって、白茶色の毛がもっさりと深く生い茂り、それは赤い褌の中へと続いていた。
その褌はだいぶ年季が入っているのかボロボロで、前垂れも擦り切れて短くなってる上に、ヨレて縮んじゃった前袋はちんちんは隠せているけれど、その左右からは白茶色の濃い股毛を、わんさかとはみ出させてしまっていた。
大門さんとは長い付き合いだけど、僕は裸どころか褌姿も今まで一度も見た事がなくて……あまりにも刺激的なその姿に、僕のちんちんはパンツの中で痛いくらいに張り詰めて、今にも爆発しちゃいそうだった。
「ど、どうや?約束通り裸になったさかい……もう着物を着てもええか?」
「えっ?で、でも……褌をまだ脱いでないよ?」
「なっ!?ふ、褌までは脱がんでもええやろうが!」
「ダ、ダメ!ちゃんと褌も脱がないと、本当の裸じゃないもん!」
「そないな殺生な……マサ坊、あんまし意地悪をせんでくれ」
「い、意地悪じゃないよ!僕はただ……約束を、ちゃんと守って欲しいだけだもん」
厳つい顔を弱々しく歪めて、今にも泣き出しそうな大門さんから、取り縋るように見つめられると、心がズキズキと痛んで……居た堪れなくなった僕は、逃げるように顔を俯かせた。
「……わかった。男に二言はあらんへんさかい、約束はちゃんと守る。せやけど……頼むから、笑わんといてな」
少しの間を置いて聞こえてきた声に、俯かせていた顔を上げると、大門さんが褌の前垂れに手を掛けていた。
そして、そのまま前垂れを持ち上げると、褌の結び目に太い指を掛けて解いていく。
その光景を固唾を飲んで見つめていると、ついに結び目の紐が解かれて、赤い褌がパラリと脱げ落ちていった。
そうして露わになった、夢にまで見た大門さんのちんちんは、想像よりもずっとちっちゃかった。
ずんぐりとした里芋みたいなちんちんが、ちょこんと前に突き出しているのだけど、ほとんどが股座の茂みに隠れちゃってて、すっぽりと皮を被った先っぽだけが顔を覗かせている。
ふっくらと丸っこい玉袋も、大男の大門さんの股座にぶら下がっているモノとしては小ぶりで、僕のよりは大きそうなのだけど、なんだかちっちゃく見えてしまう。
山のように大きな体をしているから、ちんちんの方も物凄く大きいんだと、勝手に思い込んでいたので、正直とてもびっくりしてしまったのだけれど、不思議とそれでがっかりしたりとかはなかった。
それどころか、ずんぐりと丸っこいちっちゃなちんちんは、見れば見るほどにかわいくて、ますます夢中になって見入ってしまう。
「マサ坊……気ぃ済んだか?」
「えっ?」
その声に目線を上げると、唇を噛み締めて、顔いっぱいに悔しさを滲ませた大門さんが、僕の事をギロリと睨みつけていた。
「ワシを甚振って、赤っ恥をかかして……木偶坊の獣人を使うて、憂さ晴らしが出来たんやさかい……さぞかしええ気分やろうが?」
「そ、そんなっ!?ち、違うよ……僕、そんなつもりじゃ……」
なんとか大門さんの誤解を解きたくて、続く言葉を必死に探すけれど、何て言えばいいのか全然わからなくて、言葉を詰まらせてしまう。
どうすればいいのかわからなくて、狼狽えてまごついてしまっていると、大門さんがハッとしたような顔をして……それは見る見るうちに、とても悲しそうな表情へと変わっていった。
「すまん……言い過ぎてしもうた。長い付き合いなんやさかい……お前さんが、そないな子やない事ぐらいわかっとる。せやけど……他でもないお前さんに、こないなえげつない真似されてまうやなんて……」
大門さんは言葉を詰まらせると、グスンッと鼻をすすって……声を殺しながら、さめざめと泣き始めた。
大門さんが泣く所だなんて、これまで一度も見た事がなかったから、本当に驚いた。
でもそんな驚きもすぐに消え失せて、入れ替わるようにして、今度は激しい後悔の念が、胸をいっぱいに埋め尽くしていった。
いつも僕を可愛がってくれた大門さんに酷い事をして、こんなにも傷つけて……自分が取り返しのつかない、とんでもない事をしてしまったんだと……今更ながら気が付いた。
考えれば考えるほどに、胸がギリギリと締め付けられて、心がグチャグチャに潰れてしまいそうで……すごく苦しくて、情けなくて、申し訳なくて……もう堪えられなくて、駆け出すと……必死で大門さんに抱き付いた。
「大門さん、ごめんなさいっ!!僕、大門さんが好きだから……どうしても裸が見たくて、それで……」
「……マ、マサ坊?」
「だから……大門さんが嫌いだから、こんな事したんじゃないの。大好きだから……大好きだけど、そんなのはダメだから……だから、僕……」
大門さんに酷い事をしたのに、その大門さんに助けてもらおうとするなんて、本当に身勝手で情けないけれど……それでもなんとか分かって欲しくて、わんわんと泣いてしまいながらも、自分の気持ちを必死になって伝えた。
「マサ坊……」
すると、泣きじゃくる僕の背中に大きな手が触れて、それから優しく撫でてくれたかと思うと……そのままギュッと抱き寄せてくれた。
「阿保たれが……いっぱしの男が、メソメソ泣いたりしたらあかんで」
そう言いながら、僕の頭に大きな手のひらをポンっとのせると、わしゃわしゃと撫でてくれる。
そうしてもらっていると、ちっちゃかった頃に同じように慰めてもらっていた事を思い出した。
「うぅっ……ごめんなさい……本当にごめんなさい」
まるでちっちゃな頃に戻ってしまったように、わんわんと泣きじゃくりながら、何度も何度も謝った。
大門さんはそんな僕を、ずっと優しく抱きしめて慰め続けてくれた。
***
「マサ坊……だんないか?」
ようやく涙は止まったものの、まだ鼻をグスグスすすってしまっている僕の頭の上から、大門さんのとても心配そうな声が聞こえてきた。
その声に応えるために、ズズッと強く鼻をすすると、まだおぼつかない口をゆっくりと開いた。
「う、うん……もう落ち着いたよ」
「そかそか。それやったら良かった」
「大門さん、その……ごめんなさい。僕、あんな酷いことしちゃって……」
「ふふっ……だんない。まぁ正味な話、えらい肝が冷えてもうたけどな……」
「……本当にごめんなさい」
「ええんよ……それよりも、お前さんが話しとった事なんやけど」
「えっ?……あっ!」
その言葉に、一斉に血の気が引いていった。
さっき自分が言ってしまった言葉を思い出したからだ。
「マサ坊の好きな人っちゅうのは……ワシの事やったんやな?」
「……うん」
躊躇いはあったけれど、これ以上嘘をついたらいけないと思って、正直に答えた。
「……そうか。ふふっ……こないなでかいだけの木偶坊の、どこがええんや?」
「だ、大門さんは木偶坊なんかじゃないよ!それに体が大きいところだって……僕は凄く格好良いって思うし……」
「ガッハッハ!格好ええやなんて、初めて言われたで。お前さんも物好きやなぁ」
大門さんは、なんだか嬉しそうに笑うと、いつものように頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。
それがとても嬉しくて、体をもっと寄せて大きなお腹に顔を埋めると、スリスリと頬擦りをしてみた。
僕の涙と鼻水のせいで、ベチャベチャに濡れちゃっているけど、ゴム毬みたいに弾力のある柔らかなお腹は、ポカポカと温かくて、ずっと顔を埋めていたくなる。
そのままスンスンと鼻をならすと、ほんわかした木と土、そして汗と獣臭さの入り混じる、大好きな大門さんの匂いが胸いっぱいに広がる。
でも、いつもよりずっと濃いその匂いをかいでいると、ちんちんがうずうずと疼いてきちゃって……我慢出来ずにこっそりと腰を動かして、大門さんの体に擦り付けてしまう。
それが本当に気持ちよくて、何度も何度も腰を動かすと、ビリビリっと電気が走るような感じと一緒に何かが込み上げてきて……それが何かはすぐに分かったのだけど、もう止める事ができなかった。
ピュッ!!ピュッ……ピュッ……
「あっ……!」
「んっ?どないした?」
思わず上げてしまった声に、大門さんが不思議そうにたずねてきた。
でも僕はそれに応えられずに、ガクガクと膝を震わせながら、あまりの気持ち良さに堪えられなくて、小刻みに腰を動かしてしまう。
「あっ……んぅっ……んっ……あっ……うぅっ……」
そうして、あられもない声を上げながら、快感に身を震わせつつ、出し終えると……途端に猛烈な羞恥心に襲われた。
恥ずかしくて恥ずかしくて……しゃべる事も顔を上げる事も出来ずに、隠れるように大門さんのお腹に顔を埋めてしまう。
「マサ坊、出し切ったか?」
すると、頭の上からそんな声が聞こえてきて……やっぱり気づかれていたんだと思うと、顔から火が出そうだった。
けれど、だんまりしているわけにもいかないので、おずおずと口を開いた。
「う、うん……ごめんなさい」
「なんも謝らんでええ。お前さんは年頃なんやさかい、しゃあないでな」
大門さんはそう言って、ゆっくりと体を離すと、恥ずかしさに顔を俯かせたままの僕の前に、どかっとしゃがみ込んだ。
「どらっ、拭いたるさかい。下穿き脱がすで!」
「えっ!?ま、待っ……」
慌てて止めようとするも、すぐにズボンに両手を掛けられて、そのままパンツごと、ズルッと引き下ろされてしまう。
すると大門さんのすぐ目の前に、いまもピンピンに上向いたままのちんちんが、ブルンっと飛び出してしまった。
「ガッハッハ!今しがた出したばっかしやというんに、元気やなぁ!」
「うぅっ……」
恥ずかしさで顔を真っ赤にしていると、大門さんが僕のちんちんをしげしげと眺め始めた。
「うんうん。お前さんの言うた通り、ちゃんと生えとるな。形もええし、いっぱしのええちんぽこや!」
そう言って、とても嬉しそうに顔を綻ばせると、そばに脱ぎ捨ててあった甚平のポケットをゴソゴソと漁って、いつもの手拭いを取り出した。
そして僕のちんちんを片手で摘むと、なんとその手拭いで子種を拭き始めた。
「だ、大門さんっ……んぅっ……手拭いが……あっ、あっ……汚れちゃうよぉ」
「構へん構へん!他でもないお前さんの子種やさかい、汚くなんかあらへんよ」
……大門さん。
その言葉に、心が嬉しい気持ちでいっぱいになっていく。
「んっ……あぁっ……あっ……うぁっ……」
だけど、大好きな大門さんに、初めてちんちんを触られながら、手拭いで拭いてもらって……そのあまりの気持ちよさに、僕は言葉を返す事も出来ずに、膝をガクガクと震わせながら、恥ずかしい声を漏らし続けてしまう。
「よしっ、こんなもんでええやろう!」
大門さんは手拭いを下ろすと、大きな手で僕のお尻を、ちっちゃい子にするみたいにペチンッと叩いて、お終いを教えてくれた。
「あ、ありがとう……」
「おう。ほんにしても……お前さんのちんぽこは、ほんまに元気やなぁ。こないにヒクつきよって、全然収らへんわ」
そう呆れたように呟くと、ピンピンに上向いたままのちんちんを、太い指でピンッと弾いた。
「んうっ!!」
ほんの戯れのような行為なのに、それだけで凄く気持ちよくて、思わずまた恥ずかしい声を上げてしまう。
しかも、それが一際大きな声だったものだから、またいつもみたいに笑われちゃうんじゃないかと、ドキリとする。
だけど、当の大門さんは笑うどころか、なんだか真剣な表情で黙り込んだまま、僕のちんちんをじっと見つめていた。
笑われちゃうのも恥ずかしいけど、そんな風にまじまじと見られてしまうのは、もっと恥ずかしくて……堪らずに両手でちんちんを覆い隠すと、大門さんがハッと顔を上げた。
「すまんすまん。ちぃとばかし、お前さんの……お父ちゃんの事を思い出しとった」
「えっ?お父さんを?」
「せや。お前さんのちんぽこがな……あいつのもんにそっくりなんよ。親子なんやさかい、当たり前っちゅうたら当たり前なんやけどな」
「そ、そうなんだ……」
お父さんと僕のちんちんがそっくりだなんて言われて、ちょっと変な感じではあるけど……なんだか嬉しい。
「マサ坊……いきなりこんな事を言うたら、お前さんを驚かしてまうと思うんやけど……ワシがお前さんの、筆下ろしの相手になったろうか?」
「えぇっ!?」
「そのな、お前さんみたいな若いもんは知らん事なんやけど……昔は、村の筆下ろしの相手役を、ワシら獣人の男衆が務めておったんよ。ワシらは見ての通り体もでかくて丈夫やし……なにより男やから、妊娠させてまう心配もなかったさかい……お前さんの生まれるちょいと前ぐらいには、そういうんもようやっとなくなったんやけどな」
「ぜ、全然知らなかった……」
「せやから、ワシがお前さんの筆下ろしの相手を務めた事を伝えれば、大旦那さまも納得してくだはるし……お前さんも、無理しておなご相手に筆下ろしをせんでようなるさかいな」
「で、でも……本当にいいの?」
「ガッハッハ!ワシから言い出したんやさかい、ええに決まっとるやないか?」
「だけど……どうして大門さんは、僕にそこまでしてくれるの?」
「なんでって……そらワシがお前さんのお父ちゃんから、お前さんの事を頼まれたからやって、前に話したやろうが」
「で、でも……いくら友達に頼まれたからって、そこまでしてくれるなんて……やっぱり変だよ」
「せやな……ほんまおかしな話や。そのな……これは誰にも言わんで、墓まで持ってくつもりやったんだけど……ワシは、お前さんのお父ちゃんに……惚れとったんよ」
「えぇっ!?だ、大門さんが?」
「そうや……せやからお前さんのお父ちゃんは、ワシにとっては親友なだけやなくて……ずっと恋焦がれてきた相手なんよ」
「そ、そうだったんだ……」
「せやけど……こうしてお前さんの為に、あれこれしてやるんは、お前さんのお父ちゃんに頼まれたからだけやない。お前さんはな……あいつによう似とるんよ。見た目云々だけの話やない……お前さんはあいつとおんなじように、ほんまに優しい心根を持っとる。せやからワシは……お前さんの事も、おんなじように好きになったんや」
「えっ!?そ、それじゃあ……僕と大門さんは……りょ、両想いってこと?」
「なっ!?ちゃ、ちゃうちゃう!そうやなくて……その……と、とにかく今は筆下ろしの話や!マサ坊はワシとしたいんか、しとうないんか、どっちや!?」
「し、したいっ!!僕、大門さんと……したい」
「そ、そかそか!それやったら……とりあえず布団を敷かなあかんな。ワシが敷いたるさかい、マサ坊は上も脱いで、裸ん坊になっときぃ!」
あたふたと慌てた様子の大門さんは、真っ赤な顔でそう言うと、勢いよく押し入れを開けて、ドタバタ慌ただしく布団を敷き始めてくれた。
それなのに、僕は言われた事もせずに……その姿をぼんやりと眺めながら、大門さんの言葉の一つ一つを、何度も頭の中で思い返していた。
***
「なんや、マサ坊。まだ脱いどらんのか?」
「あっ……ご、ごめん」
物思いに耽っていた僕は、大門さんに話しかけられて、ようやく我に返った。
畳に目を向けると、きちんと布団が敷かれてて……いつも使っている布団なのに、なんだか見てるとドキドキしてくる。
「しゃあないなぁ……どらっ、ワシが脱がしたるさかい、万歳しぃ!」
「う、うん」
そう促されて、両手を上げて万歳をすると、ちっちゃい子にするみたいに服を脱がしてくれた。
でもそうして丸裸になると、途端に猛烈な恥ずかしさが込み上げてきてしまい、慌てて内股になりながら、両手で股座を覆い隠した。
「ガッハッハ!なんや、今更恥ずかしがりよって」
大門さんは大口を開けて笑うと、無防備に丸出しになっているお尻を、大きな手のひらでペチンと叩いた。
「だ、だって……大門さんの前で裸になるのなんて、ちっちゃい頃以来だから……」
「ふふっ……そういやそうやったなぁ。あん時は脇にも毛の生えとらん、ほんの子供やったっちゅうんに……お前さん、ほんまにいっぱしになったなぁ」
大門さんは目尻を緩ませて、とても優しい笑みを浮かべると、僕の頭をそっと撫でてくれた。
その大きな手のひらからは、大門さんの温かい気持ちがじんわりと伝わってきて……嬉しさと照れくささで、胸がいっぱいになる。
「ほら、いつまでもそないなとこで、突っ立っておってもしゃあないさかい、布団に行くで!」
「う、うん!」
僕は頷くと、背中に手を当ててくれる大門さんに促されて、布団まで歩いていき、その上に一緒に腰を下ろした。
恥ずかしさに身を縮こめて正座している僕と違って、大門さんはどっかりと胡座をかいている。
両手も膝の上に置かれていて、股座を隠そうとしない堂々とした姿は、男らしくてとても格好がいい。
だけど座ったせいなのか、さっきまで顔を出していた里芋みたいなちんちんが、茂みの中に隠れてしまい、大きなお腹の下をどんなに覗き込んでも、股毛と丸っこい玉袋しか見えないものだから、なんだか不思議な感じがする。
「そないに熱心に見られてまうと……流石に恥ずかしいで」
「えっ?」
その声に顔を上げると、大門さんが恥ずかしそうに頬を染めて、そわそわと目を泳がしていた。
「ご、ごめんなさい!」
「べ、別に謝らんでもええけど……ワシのもんがこないにちっこくて、えらいがっかりしたんやないか?」
「そ、そんな事ないよ!僕は大門さんのちんちん、かわいくて大好きだよ!」
「か、かわええっ!?」
「うん!」
「そ、そかそか……ちと複雑な気分やけど、お前さんがそう言うてくれるんやったら……ちいこいのも、そないに悪くあらへんな」
そう言って、照れくさそうに笑う大門さんの笑顔に、緊張でカチコチに強張っていた僕の顔も、釣られるように綻んでいった。
「よしっ……ほんじゃ、そろそろ筆下ろしを始めよか!」
「う、うん!」
「お前さんのはそないに太ないし、軟膏やら塗らんでも平気やとは思うけど、いちおう唾はつけといた方がええでな。ちと股を開いて、ちんぽこを出しぃ」
「わ、わかった」
そう言われて、正座を崩して足を開くと、恥ずかしさをグッと堪えて、股座を覆っている両手をパッと離した。
すると、大門さんは自分の手のひらにペッと唾を吐き出し、軽く両手を擦り合わせると、僕の股座に太い腕を伸ばして、大きな手のひらでちんちんを包み込むように握った。
「んぅっ!!……あっ、あっ……うぁっ……」
汗と唾で湿ってヌメッた、ゴツゴツした手のひらの感触と、それを塗りたくるように揉みしだく手つきのあまりの気持ち良さに、堪らずに体がプルプルと震えて、口から恥ずかしい声が漏れてしまう。
「こんなんで出すんやないぞ。もし出したりでもしてみぃ……おっちゃん、承知せんさかいな!」
「は、はいっ!……ひぅっ」
いつもの朗らかな声とは全然違う、ドスの効いたどら声で脅かされると、たちどころに怖気付いてしまい、お尻の穴がキュッと窄まった。
とても恐いのに、それでもちんちんを触られると本当に気持ちよくて、恐怖と快感の両方にせめぎ立てられながら、拳をギュッと握りしめて、出さないように必死に堪え続ける。
「んっ……んぅっ……あっ、あっ……」
「……………………」
ただ唾を塗るだけなら、もう終わってもいいはずなのに、大門さんは、まるでせんずりをかくみたいに手を上下に動かしたり、くすぐるように指先を裏筋に這わしたりして、ちんちんを執拗に弄り回してくる。
あまりの気持ち良さに、激しく体を震わせながら、家中に聞こえてしまうんじゃないかというぐらいの声を上げても、それでも大門さんは手を動かすのを止めてくれない。
「も、もう……だめぇっ……!!」
もう限界で、目に涙を滲ませながら音を上げた時、パッと大門さんの手が離れた。
「おっと……あかんあかん。ほんまに出さしてまう所やったわ」
「ふぅ……ふぅ……も、もうっ、大門さんひどいよ!」
「すまんすまん。お前さんが、あんましかわええもんやさかい。つい意地悪してしもうた」
太い眉を八の字にして、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべると、詫びるように頭をポンポンと叩いてきた。
悔しくはあったけれど、それ以上に『かわいい』って言ってもらえた事が嬉しくて、思わず顔が綻んでしまう。
「よしっ、準備も済んだことやし、いよいよ筆下ろしを始めるで!」
そう言うと、大門さんは布団の上にゴロンっと仰向けになり、それから両手で丸太のような太ももを抱えると、まるで赤ちゃんがオシメを替えてもらうような体勢で寝そべった。
大門さんのちんちんだけでなく、お尻の穴までもが丸見えで……目の前に広がる光景に、興奮のあまり頭がクラクラしてくる。
「マサ坊、こっちおいで!」
「う、うん!」
その言葉に促されて膝立ちになると、大門さんの股の間までドキドキしながら進んだ。
そうしてそばまでやってくると、こんもりとした股座の茂みから、太短いちんちんがぴょこんと立ち上がって、顔を出している事に気がついた。
それは先っぽまですっぽりと皮を被っているけど、ビクビクと脈打ちながら、ぷっくりと膨らんでいて……大門さんが、僕を相手に大きくなってくれている事が、堪らなく嬉しかった。
「こ、こらっ!いつまでも、ひとの股座を覗いとらんで、早うちんぽこを入れてみぃひんか!」
「あっ!ご、ごめんなさい!」
あんまりジロジロと見過ぎたせいか、耳まで顔を真っ赤にした大門さんに、せっつくように叱られてしまった。
慌てて謝ると、大門さんの太い腕が伸びてきて、そのまま僕の手を掴むと、自分のお腹の上にあてがった。
「ほれっ、このまんま股座をくっつけてみぃ!」
「う、うん!」
僕は両手を大門さんのお腹にのせると、言われた通りに股座をもっと近づけていった。
そうしてちんちんとお尻の穴が、今にもくっついてしまいそうな所にまでくると、ピンピンに上向いたちんちんを指で摘んで、恐る恐る、お尻の穴へとあてがってみる。
ピトッ……
そうしてお尻の穴の表面に、ちんちんの先っぽが触れると、そこからは温かくて湿った感触が伝わってきた。
それだけで、もう気持ち良くて、思わず体がブルッと震えてしまう。
心臓が爆発しそうなぐらいバクバクと鳴り響く中、ゴクリと大きく唾を飲むと意を決して、ヒクヒクと小刻みに震えているお尻の穴に、ちんちんを差し込んだ。
「うぁっ……あぁっ…….んっ……」
中に差し込む程に、おでんのこんにゃくのような温かくてねっとりした感触が、ちんちんをどんどん包み込んでくる。
そのあまりの気持ち良さに、すぐに出してしまいそうになりながらも、唇を噛んで懸命に堪え、ちんちんを根元まで入れていく。
「マサ坊、ちんぽこ全部入ったか?」
「う、うんっ……」
「よしよし!ほんじゃ今度は腰を振ってみぃ。あんまし早う気をやらんようにな!」
「わ、わかった!」
そう言われて、何度か大きく深呼吸をして自分を落ち着かせると、いよいよ腰を動かし始めた。
「ふぅっ……んっ……あっ……あぁっ……」
ゆっくりと腰を入れたり引いたりする度に、ちんちんを包み込む温かな感触が、キュウキュウと締め付けてきたかと思うと、今度はやんわり柔らかく揉んできたりと、まるで意思を持った生き物のようにまとわりついてくる。
さっき手で触られた時も、凄く気持ち良かったけれど……こっちも同じか、それ以上に気持ちいい。
そのあまりの気持ち良さに、猿のように夢中になって腰を振り続けてしまう。
「そうそう……その調子や。マサ坊、上手やで!」
その声にハッとすると、大門さんが顔を綻ばせて、僕の事を見つめていた。
あられもない声を上げながら、一心不乱に腰を振る自分の姿を、ずっと見られていたのだと思うと、猛烈な恥ずかしさが込み上げてくる。
それでも今の僕には、腰の動きを止める事なんてもう出来なくて、ぶんぶんと大きく頷いて返事をしながらも、快感を貪るように腰を振り続けてしまう。
早々と出してしまうのが惜しくて、グッと唇を噛んで堪えながらも、さらなる快感を求めて、奥へ奥へとちんちんを突き入れ、中に擦り付けていく。
「んぁっ……!!」
その時、自分のものではない野太いうめき声が聞こえてきた。
何事かと思って目を向けると、大門さんがびっくりしたように目をまん丸にして、両手で口を塞いでいた。
大門さん、どうしたんだろう?
不思議に思いつつも、我慢できずにまた腰を一振りすると、途端に大門さんの大きな体がビクンッと跳ね上がり、くぐもった善がり声が両手の隙間から漏れ聞こえてきた。
もしかして……大門さん、気持ち良くなってくれているの?
そう思って股座を覗き込んでみると、茂みから顔を出している太短いちんちんが、ビクンビクンと上下にしゃくりながら、先っぽの口から透明な粘液をドクドクと溢れ出させていた。
凄い……!!
大好きな大門さんが、こんなに気持ち良くなってくれてて……しかも、自分がそうしてあげられている事が嬉しくて……気持ちが昂ってジンジンと胸が震えてしまう。
もっともっと気持ち良くなって欲しい……気持ち良くさせたい!!
沸々と込み上げてくる熱い迸りに突き動かされるままに、これまで以上に激しく腰を動かしていった。
「んぅっ……ぐぅっ……んぁっ……」
必死に声を押し殺す大門さんだったけれど、もう抑えられないと諦めたのか、口を押さえていた両手も、力なく布団の上に落ちていった。
腰を一振り、ちんちんを一突きする度に、大門さんのあられもない声が、部屋中にこだまし、窄まった先っぽに溜まっていた粘液がトロリとこぼれ落ちて、股座の茂みを濡らしていく。
「んぁっ!!ぐっ……あ、あかん……これ以上は、もうあかんっ!!」
腰の動きに合わせて、大きな体が一際大きく跳ね上がったかと思うと、突然、大門さんが血相を変えたように慌てふためき出した。
しかも、ジタバタと上体を起こして、僕から逃げ出そうとしている。
「だ、だめっ!!」
急いで両手を大門さんの胸に当てると、全身で覆い被さり、絶対に逃すまいと必死に押さえつけた。
すると大門さんはそれに抗おうと、何度も体を起こそうとしたり、捻ったりするけど、すぐにペタンと布団の上に崩れ落ちてしまう。
どうやら力がうまく入らなくて、逃げようにも逃げられないみたいだ。
「ぐぅっ……や、やめぇ」
こんなに大きくて、村の誰よりも力持ちの大門さんが……こんな弱っちい僕に抑え込まれて、手も足も出せない。
その事に言い知れない興奮を覚えると、もう遠慮も気遣いも忘れて、大門さんの体を力一杯に押さえつけながら、欲望の赴くままに何度も腰を打ちつけてしまう。
「あ、あかん……ほんまにあかんっ……マサ坊っ、もう堪忍しとくれぇっ!!」
大門さんが切羽詰まった大声を上げながら、イヤイヤをするようにジタバタともがくと、お尻の穴がキュウッときつく閉まっていき、その引き絞るような動きに、とうとう堪えられなくなってしまう。
「大門さんっ……僕、もうだめぇっ………あぁっ!!」
「あかんっ……出てまうっ……ぐっ……んがぁっ!!!!」
ピュッ!!ピュッ……ピュッ……
ドピュッ!!!!ピュッ!!ドプッ……ドクドク……
堪えに堪えた末に達した僕のちんちんは、まるで堤防が決壊したかのような勢いで、お尻の中に子種を吐き出していった。
大門さんのちんちんからも、間欠泉のような勢いで子種が噴き出されて、お互いのお腹の間を、熱いものでドブドブと満たしていく。
せんずりとは比べ物にならない気持ち良さに酔いしれながら、出しながらも緩やかに腰を動かして、余韻を楽しんでいたけれど、とうとう子種を出し切ってしまうと、急に疲れがどっと押し寄せてきた。
すると、もう体を起こしてもいられないぐらいヘトヘトになってしまい、堪らずに大門さんの上に倒れ込んでしまう。
すると、太い腕が僕の事を受け止めてくれて、そのままギュッと抱きしめてくれると、そっと頭を撫でてくれた。
***
チャポーンッ……ザプッ……ザプッ……
「ふぅ……ええ気持ちやわぁ」
たっぷりの湯船に浸かる大門さんは、大きく息を吐き出すと、人心地ついたようにそう呟いた。
「……うん」
そのすぐ隣で湯に浸かりながらも、気恥ずかしさと申し訳なさから、僕は大門さんの顔をまともに見ることが出来なくて、チャプチャプ波立つ湯面をぼんやりと眺めていた。
「まったく……お前さんには、ほんまにえらい目に遭わされてしもうたわ!」
「ご、ごめん……」
「ガッハッハ!冗談や、冗談!」
大門さんはいつものように豪快に笑うと、僕の頭にポンと大きな手をのせて、わしゃわしゃと撫でてくれた。
「大門さん……本当にごめんなさい」
「ええんよ。お前さんのお願いを聞くって言うたのも、筆下ろしの相手をしたるって言い出したのも、どっちもワシやさかいな……そないに気に病んだりせんでええ」
「で、でも……」
「だんないっ!いっぱしの男が、いつまでもウジウジしとったらあかんで!」
そう言うと、僕のおでこにバシンッとデコピンをしてきた。
「痛っ!……も、もうっ、大門さんったら!!」
「ガッハッハ!ええぞ。いつものマサ坊になってきたやないか?」
「ふ、ふんだっ!」
悔しさに頬を膨らませる僕の頭に、またポンッと手がのせられたかと思うと、今度はさっきとは違って、労るように優しく撫でられた。
「なんにしても、お前さんは筆下ろしの務めを立派に果たしたんや。堂々と胸を張りぃ!」
「う、うん……!」
ニコッと目元を緩ませて、優しい笑みを浮かべる大門さんからそう言ってもらえると、自分が本当に一人前の男になれたんだという実感が、遅まきながら湧いてくる。
すると、なんだか勇気もいっぱい湧いてきて……そのせいか、あの時には言えなかった、本当に大門さんにお願いしたかった事を……今だったら言えるような気がしてきた。
「だ、大門さん……?」
「んっ?なんや?」
「その……あとひとつ……もうひとつだけ、お願いしたい事があって……」
「ふふっ……しゃあないなぁ。どないなお願いか、おっちゃんに話してみぃ」
「えっと……ぼ、僕……大門さんと……その……うんと……あの……」
「なんや、煮え切らへんなぁ……男やったら、バシッと言わんかい!」
「ぼ、僕っ……大門さんと……こ、恋人になりたいっ!!」
「へっ!?な、なに阿保な事を言うとるんや!?」
「だ、だめ……?」
「駄目もなんも……そないな事、大旦那さまが絶対に許さへんで……」
「そ、そうだよね……ごめんなさい」
さっき反省したばかりなのに、また大門さんを困らせてしまった。
本当に……僕ってダメなやつだ。
あんなに浮き立っていた気持ちが、嘘のように暗く沈んでいき、また顔を深く俯かせてしまう。
そんな時、ふいに僕の肩に太い腕がまわされたかと思うと、そのまま胸元にグッと抱き寄せられた。
驚いて顔を上げると、そこには照れくさそうに僕の目を見つめる、大門さんの真っ赤な顔があった。
「お、大旦那さまと皆んなには……内緒やぞ」
广告