エイプリルフールにSNSでウインディにTFすると宣言したら本当にTFしてしまい、午後になっても解けなかった話

  「うわ、もうすぐ日付変わっちゃうじゃん……もう明日は4月かぁ……」

  ふと区切りのついたゲーム画面から顔を上げた俺は壁掛け時計とその脇に掛けられていたカレンダーを見てため息を吐く。

  明日からもう4月で春休みもいい加減終わりを迎える頃だ。そろそろ課題に手をつけねぇとやばい。

  課題なんだっけ、とスマホを手に取ると通知が一件。

  「ん……なんだ、シュンからか」

  メッセージアプリの主はシュン。同じ大学のダチで、よく一緒にゲームをしたりと遊んでいる。

  『明日午後から図書館で課題やらね? なんか一人だと全然捗らなくてさ~』

  全く同じことを考えていたので渡りに船だ。

  『おぉ、もちろん良いぜ。○○駅前に12時でどう?』

  『オッケ、明日エイプリルフールだからってバックレるなよ~』

  シュンは即レスでそんなことを言ってきた。

  「そうか、明日はエイプリルフールか。今の今まで忘れてたな……」

  とりあえず『そんなことするかよw』と返事をしつつ、俺は呟いた。

  エイプリルフールといえば午前中だけは嘘をついても良い日とされている。

  世の中のパリピたちはきっと周到にエイプリルフールの用意をしているのだろうが、俺はまるでそんなこと気にしていなかった。

  流れのままSNSを開く。

  「エイプリルフールって、SNSの企業系アカウントが凌ぎを削るから見てて面白いんだよな~」

  ちょうどスマホに表示された時刻が0時を指した。日付が4月1日になり、SNSがわっと盛り上がりを見せる。

  「っははは! いいねぇ、みんなぶっ飛んでておもしれ~!」

  『#エイプリルフール』というハッシュタグで検索をかけると、様々なエイプリルフールネタが飛び込んでくる。無難な路線で落ち着く企業もあれば、あまりにもぶっ飛んだ内容で全力で笑わせに来る企業もある。

  もちろん、それは個人のアカウントも同様だ。

  「ん? シュンも投稿したのか……どれどれ」

  通知でシュンが投稿したのを見た。

  シュン「やっべ!!!身体が!!!突然!!!パルスワンに変化していく……!!」#エイプリルフール

  「あいつ……w 幾ら好きだからってそんな圧倒的嘘だとわかる投稿をしなくてもなぁ……w」

  シュンは以前から変身願望があり、特に好きなキャラクターであるパルスワンという犬のようなポケモンになりたいと言っていた。

  まぁ、所詮はSNS。何を言ったって(殺人予告とか他人に迷惑をかけるものでなければ)どんなことを言ったって構わない。

  「俺もこのビックウェーブに便乗させてもらうかな」

  俺もSNSの投稿欄を開き、文章を組み立てていく。

  『あっ!!突然ウインディに変化してしまいました……! もう人間の姿には戻れないかも……!』#エイプリルフール

  「はっは、シュンのヤツも喜ぶだろう」

  良いアイディアが浮かばなかった俺はシュンの完全なパクリだ。対象は好きなウインディというキャラクターにした。

  もちろん、この瞬間まではまさか……そんなことになるとは想像もしていなかった。

  シュン「うおぉぉ、めっちゃいい! ウインディになってくれよ!」

  俺の書き込みにシュンのコメントが着いた――その瞬間だった。

  「えっ……っぐぅ……!!?」

  突然、スマートフォンを握る手が……わなわなと震えだした。その手からスマホがこぼれ落ちる。

  心臓が鷲掴みされるような強い痛みが走る。思わず手で胸元を掴んだ。それは肋骨越しに力強くドグッ、ドグッ……!と高鳴り、まるで自分の心臓じゃないみたいだった。

  「あ……っぐ……きゅ……救急車……!」

  これは心臓発作か何かかもしれない。喉からカエルが潰れたような声がした。まるで自分の声でないようだった。

  「え゛……ぁ゛……!!?」

  取りこぼしたスマホに手を伸ばす――と、その手がミシメギッ!!と音を立てる。骨が変形し、その手が巨大化する。

  「なっ……これ゛……ウイン、ディ……ッ!?」

  肌色の指から朱色の毛がブワッ!と生え、肉球が内側から膨らむ。

  手首が固定され、二の腕も服をビリビリィッ!!と突き破り、激しく膨らんだ。

  「あ゛っぐぅ゛――――――ッ゛!!?」

  メギメギメギメギィッ!!という鈍い音と共に全身を鋭い痛みが貫いた。思わず悲鳴を上げ、目を見開いた。その痛みに無意識に涙が頬を伝い、汗が吹き出す。

  ミヂブヂィッ!!ビリィィッ!!

  激しい音は着ていた服が、突然駆体の膨れ上がりに耐えきれずに破けた音と――自らの肉体の全身が骨の骨格が変化し、筋肉が膨れがありバルクアップする音だ。

  ブワサァァァッ!!

  膨れ上がった駆体は一瞬で全身を体毛が覆った。

  「あ゛……ぁ゛……っ゛……」

  こひゅぅ……こひゅぅ……

  内臓が変化しているのか、呼吸もできないままに喉が異様に狭く気道を通過するたびに空気が笛のような音を鳴らす。

  全身があまりの変化に驚いたのか、汗はフローリングの床に広がるほどにあふれていた。

  『お……俺……な……んで……ウイン、ディ……に……』

  部屋の壁際に置かれた姿見に映った自身の姿は、記憶に鮮明に残っているウインディそのものだった。

  激しく息を切らせていたが、ようやく変化も落ち着いてきたらしい。

  その現実を受け入れることができず、俺は姿見の前で唖然とする。

  ――なんで、こんな……俺が……ッ!?

  「がうぐるるるぅ……ッ!!?」

  ――えっ、俺喋れなくなってる!? 嘘だろ!?

  言葉に発しようとしたが、それは言葉にならなかった。

  ウインディの鋭いキバが覗く口の先、太い喉からは勇ましいライオンのような獰猛な唸り声しか発することができなかった。

  ど、どうする俺……誰かに助けを求めるか?

  こういうときは警察?消防?救急車……?

  「がうっ!!?」

  人間のように後ろ足で立ち上がろうとして、盛大に尻もちをついた。

  そうだ、骨格は四つ足の獣であるウインディなのだ。

  後ろ足だけでの二足歩行は絶対に無理だ。

  「がうぐるぅぅ……!」

  ――す、スマホもこんな姿じゃ使えない……!

  大きすぎる前足は床に落ちているスマホを操作するのに不適だ。

  肉球で大雑把なタップはできるが、細かいフリック操作は難しい。

  画面には未だにSNSの画面が開いている。

  何度も大雑把なタップで投稿画面を開き、カメラ機能をON。インカメラにして自身を撮影することに成功する。

  「がうぐわっ……!」

  ――投稿ッ……!

  なんとか肉球でタップ。その写真だけで投稿されたと思いきや――

  その写真にハッシュタグが添付されていた。

  #エイプリルフール

  「がぁぁぁぁっ!!!?」

  ――あぁぁぁぁぁ信憑性がぁぁぁぁぁぁっ!!!

  思わず頭を抱えてフローリングの床に伏せる。

  しかし、その直後――。

  ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブッ!!!

  凄まじい勢いでスマホが痙攣を始めた。

  もちろん、その投稿がものすごい勢いでリツイートされ、いいねされ、拡散されている。その通知音だ。

  ――バズったァ……ッ……!!!

  なんとか通知は止めようとするが、肉球の手では当然うまくいかず。

  ウインディ!

  これはフェイク……?

  巧妙にできたCGですねww

  おまwww有名人じゃんwww

  ↑いや有名ウインディだろwww

  めちゃかっこよー!

  いいなー!

  騙されんなw こんなのありえないだろwww

  ○○新聞の記者です。よければこの写真を元に取材を申し込みたいのですが……

  罵詈雑言のようなリプ欄に、もはや自身でこの流れを止めることはできないと確信した。

  明日になれば……明日になれば、きっと人間の姿に戻ってるはず……。

  俺は一切の思考を放棄し、もふもふの尻尾を伸ばして部屋の電気を消すとベッドに飛び乗った。

  ウインディの重さにベッドのバネが逝かれた音がしたので、やむを得ずフローリングに丸くなって目を閉じたのだった。

  [newpage]

  ――ん……

  

  まるで頭に靄がかかったかのようにぼうっとする。

  『くふぁぁぁ~……』

  大きくあくびをして、自然と四つ足で立ち上がる。尻を大きく後ろの空へと突き出して背骨を伸ばし、前肢と背筋の緊張を解す。

  それが終われば胸を突き出すようにして後ろ足を大きく伸ばしてやはり後肢と背筋の緊張を解した。

  そして後ろ足で頭の毛並みをバリバリッと掻く。

  ――はぁぁっ!!? 違う違うこんな動作日頃はしないッ!

  ――俺は人間だっ! 気を確かに保つんだッ!

  「ぐるぁぁっ!ぐるぅぅぅっ!!」

  

  大きく首をブンブン振って正気を保つ。

  少しでも油断をすると、まるでウインディの精神が身体を支配するように、素振りがウインディになってしまう。

  自分が人間であることを自覚しないと。

  まずは姿見を見て――そこには昨日見たウインディの姿があった。

  

  ――ウインディのままじゃん!!!?

  「ぐるぁぁぁっ!!!?」

  眠れば身体がもとに戻るだろうという儚い希望は砕け散った瞬間だった。

  ――俺は一生ウインディの姿のまま過ごすのか……?

  ――い、嫌だ……俺は人間だ! 人間に戻るんだ……!!

  「きゅーん……ぐるる……っ……!」

  気持ばかりが焦る。この状況をどうにかしなければ……

  そう思うが、もちろんいい案が浮かぶはずもない。

  そんな中、いろいろな思考を巡らせている間、前足から後ろ足から股の間からをペロペロペロペロ……と無意識に毛並みを舐め取っていた。

  そして、それに気づくこともない。

  思考と精神が少しずつウインディに支配されている。

  ブブッ!!

  ――ひえっ!!? あ、スマホ……!

  「ぐるぐぁっ!!?」

  一晩経ってある程度の落ち着きを見せたスマホが、フローリングで唸りを上げた。

  画面を覗き込むと――シュンだ。

  『おーい、こっちは着いたぞウインディw 早く来いよw』

  ――あぁっ、シュンに俺がウインディだってことがバレている!!

  「ぐるぁぁぁ――――ッ!!!!」

  もちろん自分がウインディだということはバレていて頭を抱える。

  昨日SNSでバズったのだから当たり前だ。

  ――シュンにどんな顔で会えば良いんだ……!?

  ――俺、ウインディだぞ?むしろシュンは俺のことを俺だと理解してくれるのか……?

  ――あぁっ、集合まであと5分……遅刻する!?

  ――いやでも待て……ウインディは確か時速400km/h以上で走れたはず……俺の家から駅までは約1km……ということは、約10秒でたどり着ける計算になる……。

  ――落ち着け……落ち着くんだ。ギリギリまで待てば人間に戻るかもしれない……!

  「ぐるぅっ……ぐるぁぁっ! ぐるぉ!ぐるぅ……ッ! ぐるぁ……ぐるぐるぅ……ッ……!」

  懊悩しているが、部屋の壁掛け時計は着実に時刻を進めていった。

  約束の正午まで残り1分を切った。

  ――さすがにもう無理だ、遅刻しちまう!

  「ぐるおぉぉぉ――ッ!!」

  部屋の窓を大きな手の肉球で明け、一気にベランダから飛び出した。

  地面を蹴ると――

  ――すげぇ……なんだこの速さッ!?

  「グオォォッ……!!?」

  まるで重力や風圧などまるで感じることなく、筋肉の披露を感じることもなかった。

  ウインディである俺は、風を切って凄まじい勢いでアスファルトを蹴った。

  超常的な身体能力で跳ねるように走り、歩行者を飛び越し、車を抜き去る。交差点を突破して大きく跳躍。マンションの屋上を踏み台にショートカット――。

  1kmの距離を僅か10秒程度で走り抜けるその身体能力。

  ――すげぇ、ウインディ……! 俺、この姿でも――

  憧れたその瞬間。

  俺の思考は、ぷつりと途絶えた。

  [newpage]

  「……お前、××か?」

  シュンは駅前に現れたウインディに目を見開いたまま、親友の名を問いかける。

  もちろん、駅前を歩く誰しもがその巨大な犬のような生物に驚いたことだろう。

  それでもそのウインディの表情は穏やかで、威風堂々としていた。

  ウインディはシュンを見下ろすだけで、頷くこともしなかった。

  「ははっ……ウインディじゃ、言葉は喋れないか!」

  シュンは笑みを浮かべる。

  そして、ウインディに近づくとその首元に手を回した。

  自身のスマホでインカメを起動し、そのウインディの大きな顔と自身の表情を撮影する。

  SNSを開いた。

  ――ウインディ、ゲットだぜ!☆

  #でんせつポケモン

  #まさかの遭遇

  #ガチ

  (了)