正義とは、その言葉だけでは意味を持たない。
何もない場所で思想を抱き、それが正しいのだと必死に唱えても、誰も見向きもしない。
ではどうすれば意味を為すようになるか?
簡単だ。悪という対になる存在を作ればいい。
自分の行いが『正しく見える』ために必要不可欠な、簡単な攻撃対象。
正義と反対の思想を持ち、正義の行く手を阻み、正義と激しく敵対する。
“そんな風に見える存在’’が、一つでもあればいい。
それさえあれば、何処の誰とも知らない人が無意味な正義を掲げても、いずれはそれを支えようとする者は現れる。
たとえその思想がどれほど道を逸れていようが、悪という攻撃対象がいるだけで味方は自然と疑心を抱かなくなっていく。
無知蒙昧な人間ほど周りの勢いに流され、自ら物事を知ろうとしないまま集う。文字通りの烏合の衆だ。
そうして作り上げられた虚構の敵に向かって一致団結すれば、理性的な判断を下していた少数の意見は悉く踏み潰されるようになる。
終いには反逆者、そして悪の仲間だと言葉の刃を向けられ、当たり前だったはずの自分の居場所を失う。
知らぬ間に悪と看做され、蔑まれ、貶され、誰からも信じてもらえない。どれだけ声を上げても、どれだけ泣き叫んでも、自分の生き様そのものが“悪”へと変わってしまう。
生きるために必要最低限な行動も、弁解するための必死な言葉も、何もかもが地に堕ち、元に戻すのは困難だろう。
そしてそれは、今までずっと善い行いをしてきた聖人のような人であればあるほど、道端の小石を軽く小突いただけでも大罪人と同じような扱いを受ける。
これまで行ってきた善行の全てが、他者から許容されなくなっていく。
やがて無理やり作られた悪は憔悴し、誰も信じなくなり、己の掲げた正義にも疑念を抱く。
そうして唯一の味方だった自分さえも疑い始めてしまえば、擦り切れた精神が何を選ぶかは想像に難くないだろう。
正義は、勝ち残った者にしか存在しない。
こうして、誇り高く高尚な勧善懲悪の物語は穏やかな完結を迎える。
何事もなかったかのような安泰と共に。
[newpage]
「ホラ、こっちだぞ死刑囚」
目の前を歩く虎の怪物に先導、というよりほぼ強制的に歩かされていた私は、真下に広がる奇妙な赤い道に警戒しながら体を動かす。
私が直に触れている床は、言うなればそれは高級な絨毯のようにふかふかと肌触りの良いものだった。絹織物とでも言うのか、死ぬ前に数度しか触れたことのない感触を誇っている。
どこかの貴族の城にでも招かれたと錯覚してしまうほどに、その触り心地は極上だったと言えるだろう。だが、歩いている私がどうしてこのような感想を抱けるのか。
理由は至って簡単だ。しかしそれは、明らかに人としての尊厳を踏み躙っていると言っても過言ではないものだった。
「いい眺めだぜ。最初に威勢よく逆らっていたのが嘘みたいだ」
「……くっ………」
あろうことか私は、四つん這いになって道を進んでいた。まるで獣のように、無様な裸体を晒しながら手足に体重を乗せて歩いていたのだ。
もちろん、自ら望んでこんなことをするはずがない。したくもない。だが先ほどこの虎に直接命令を下され、体の自由を半強制的に奪われながらここまで来てしまった。
「従順なワンコなのはいいが、もっと早く歩いてくれれば及第点なんだがな」
「う、うぉっ…!!」
グイ、と奴が手を引くに伴って、私の首元が引き寄せられる。『首輪』と称された鞭のような鋼鉄の輪が食い込む鈍い痛みから逃げるように、私は手足を交互に前へと動かしてしまう。その窮屈さからか、この虎によって支配されているという苦い感覚が拭いきれなかった。
加えて、私の尻に入れられたままの異物が片足を前に突き出すごとに腹の中を無造作に圧迫する。虎の手から切り離されたそれは意思を持つかのように抜けそうで抜けず、腸壁を擦られる違和感に通常の歩行すらままならない状況だった。
だというのにコイツの歩くスピードは問答無用で速く、私がいくら頼んでも速さを緩めることがない。しっかり意識しなければすぐに追いつけなくなり、何度も転んでは無理やり引っ張られて喉を締められる。
窒息しそうになる本能が恐怖を感じ、急いで体制を立て直してまた歩く。その繰り返しだった。
これまでどれほど歩いたかは分からない。だが膝は既にじんじんと痛み出していたし、腕にも痺れを感じ始めていた。
予想外の疲労感によって弱っていた思考に、ふいに虎に言われた言葉が思い浮かぶ。
『閻魔様がお呼びだ───』
真意は分からないが、これから私の身に降りかかるであろう事態は予想できていた。おそらくこの淫魔と同じような淫乱なことでもするのだろうと。
だが、これ以上抵抗しても何もいいことなどない。そう虎に教え込まれていた私は、耐え抜くしかないのだろうと考える以外の道はなかった。
どれほど体を酷使しただろう。地獄といえど体に蓄積される疲労は私の精神を憔悴させ、もはや四肢を放り出して寝そべりたい一心にまでなっていた。化け物となった体の使い勝手にはだいぶ慣れたものではあるが、太くなった手足を動かすエネルギーは人間の比ではない。
いつしか前を向きながら進むこともできなくなり、さっきからずっと暗い赤色をした絨毯しか見ていない。どこまでも続く迷路を引きずり回されているような時間は方向感覚をもマヒさせ、廃れた思考の中でただ手足を動かすことしか考えられなかった。
だが、不意にその時間は終わりを告げる。前からではなく後ろから引っ張られる首輪の感覚に、私はいつの間にか淫魔よりも前を歩いていたらしい。
「オイ、付いたって言ってるだろ。聞こえないのか?」
「……な、なに…?」
威圧的な虎の言葉に体がびくりと反応する。あたりを見渡せばここは道ではなく、ある種の大きな部屋のようだった。
四方を灰色の壁に覆われ、声すらも響かないような場所なのだろうか。その質感は私のいた牢屋にも近しいものであり、苦々しい懐かしさに胸騒ぎが止まらない。
その時、忘れかけていたあの声が頭上から降り注いだ。
「誰の前だと思っている。頭が高いぞ」
「なっ……ぐがぁっ!!?」
声のした方へと目を向けようとすると同時に、私の顔が何者かに踏みつぶされる。片頬が床に叩きつけられては鈍い痛みを発し、もう片方の頬に降りかかる圧力によって挟まれた顔がミシミシと軋む。
床に叩きつけられた視界は首を切り離された時と同じようになり、心に植え付けられたトラウマが蘇りそうになっていた。
「相変わらず手荒いですね。閻魔様」
「大罪人に慈悲などいらぬからな。だが、ずいぶんと相応しい姿になったではないか…のう?」
「……ッ…!!」
ぐりぐりと圧迫される顔。敵わないと分かっていても、どうしようもなく悔しかった私は奥歯を噛み締める。
人間よりも屈強な肉体をしているにも関わらず力を抑制された体では起き上がることすらできず、ただただ侮辱に耐え忍ぶしかなかった。
そんな私を見て嘲り笑っているコイツこそ、地獄を統べる王…すなわち閻魔大王。こんなにも尊厳を踏みにじるような行為をする、およそ現実では想像もできなかった存在。
その姿は初めて見たあの時とは違い、今は狼の顔をした化け物の姿形をしていた。……心なしか私の見た目と重なってしまい、別人格の自分を見ているようで嫌になる。
しばらくの間踏み台にされた私は虎に首輪を引っ張られ、膝立ちのままでいろと命令される。見えない引力で両腕を固定され首を垂れる私は、かつて何度か目にした惨めな捕虜と何ら変わりない醜態に他ならなかった。
「さて死刑囚。この地獄は存分に楽しんでくれているか?」
「楽しむだと…!? ふざけるのも大概にしろ…!」
必死の思いで顔を上げて低く唸るように反論したところで、淫魔は私の後頭部を足で蹴り倒す。再び地に伏される体はまさに罪人の公開裁判のような光景だろうが、私は心の中に沸々と湧き上がる怒りでいっぱいだった。
先ほどまで機嫌取りのために考えていた礼儀が全て馬鹿馬鹿しくなり、結局拳を握りしめて抵抗の意を示す。
「口を慎め。お前、自分の置かれた状況が分かってねぇのか?」
「…よい。お前のことだ、それなりに虐めてきたのだろう? それでもまだこうも気概を残しているとは、稀有な存在というもの…」
そんなことなど微塵も考えていないような言い草に腹の底から反吐が出そうだった。だが淫魔はその言葉に静かに静かに頷き、足を離していく。
いくら軽々しい振る舞いを見せるコイツを黙らせるあたり、やはり本物の閻魔大王だろうか。
「では始めるとしようかの。用が済んだら牢獄に戻しておこう」
「分かりました。くれぐれも気を付けてくださいよ…俺の出番がなくなっちまわないように」
淫魔はそう言うと静かに部屋を後にする。
残された私と閻魔の間には無言の空気が流れ、次第に閻魔の方からゆっくりと私の方へと近付いてきた。
「さて、まずは場所を変えよう」
一言だけ呟いた彼はパチンと指慣らしをする。その一瞬の合図で、周りの景色が手品の如く一変していく。
さっきまで牢屋のようだった壁は宮殿のような質感のものへと変わり、妖しくも煌びやかな金色のカーテンが覆い隠す寝床が閻魔の後ろに顕現していた。
振り向いてみればどこまでも高い壁が聳え立っては囲まれており、退路は完全に消え去っている。追い付かない思考の私が次に瞬きした瞬間には、禍々しい色をした巨大な玉座に座り込んだ閻魔が目の前に現れていた。
[newpage]
照明など見当たらないのに、薄暗い明かりがその体を照らしていた。およそ生物とは形容しがたい漆黒の毛皮に艶はないが、その体は見事に完成されている。
ただ裁判をするだけだと思っていた閻魔のイメージとはほど遠くかけ離れたその肉体目の前にし、ごくりと唾が喉を濡らしていく。
「ここは特別な場所でな、儂が呼び出さなければ訪れることはできない。逆を言えば、善良な人間には一度も目にすることはないのだ。そう思うと少しは特別に思えてくるだろう?」
薄気味悪く口角を吊り上げ、私の瞳を覗き込むように呟く。網膜を通じて体内へと入り込んできそうなその異形を前に竦み、上手く言葉を発せなくなりそうになるが、なんとか堪えて返した。
「要件は何だ……どうして私を呼び出した!?」
「そう急くな。簡単なことよ、貴様がどこまで快楽に従順になったか確かめたくなっただけだ」
「は……?」
次に閻魔が体を起こした時、既にその体には覆うものが何一つ無くなっていたことに気付く。罪人を裁くと言われる閻魔の印象とかけ離れた肉体を露わにしながらひたひたと床を歩み、私の眼前まで堂々とその無防備を近づけてくる。
命令により膝立ちを解くことのできない私の目線には、手榴弾にも似た張り型をした肉棒がぶらさがっていた。
あまりにも唐突に、しかし鮮明に表れた立派な雄の象徴に、無理やり育てられた卑しい心が産声を上げる。身動きすらできない私をよそに距離は縮み、たった少し動かすだけで鼻先に届きそうなソレが鎮座していた。
漂ってくる性臭に鼻がヒクヒクと反応してしまう。閻魔の男根にも匂いという概念が存在していることにも驚きだが、近づいただけで鼻の奥が熱を帯びてしまうほど濃く凝縮された麝香に思考が絆されていく。
「まずはその口で濡らしてもらおうか」
「……っ…」
それは命令に他ならなかった。淫魔とも違う年季の入ったその声が、外からではなく直接頭の中へと響いてくるような気がした。
もしここで拒めば私はどんな仕打ちを受けるのだろうという恐怖が蘇り、苦々しい思い出が頭の中を埋め尽くしていく。
あの淫魔よりも上の存在だ、生き返る術を消すぐらい簡単にできるのだろうという確かな戦慄が口を動かす。
「ほ、奉仕させていただきます……」
「うむ、許可しよう」
悍ましい恐怖を植え付けられた私の心は無惨にも折れ、仕方なく淫魔に教え込まれた言葉を放つ。自分で自分を貶めているような気分に胃に穴が開いたような感覚を覚えるも、口に含んだ閻魔の陰茎によってそれは霧散した。
手を使えないせいで口を使って持ち上げるしかなく、歯を立てないよう細心の注意を払いながら舌を這わせていく。
勃起すらしていないというのに、十分な満足感のある太さだった。丁度よく口に収まり、舌の上をみっちりと支配するそれは淫魔のものと少しばかり違う。
捻じ曲げられた嗜好と淫紋の影響で体は熱くなり始め、籠った熱を逃がすように息が短くなる。そうすることで閻魔の股座から漂う強烈な淫臭を感じ取ってしまい、否応なしに欲情が募ってしまう。
「悪くない口使いだ…よく躾が行き届いているな」
わざとらしく言い聞かせるようなその言葉を綺麗に聞き流せても、肉棒を咥えてしまっている自分が惨めに思えるのはどうしようもなく悔しい。
同じ性器を携えている以上、コイツを同性と見なしてしまう思考をどうにか捨て去りたかった。それだけでかなりマシになっただろうに。だが私の口は止めることができず、次々に分泌される涎を潤滑油にして舐め回してしまう。
皮を被った裏筋を伝い、張り出たエラに舌を添わせ、亀頭に口づけをするような一連の流れを繰り返す。時折ビクビクと震える動きに、奉仕しているのだと言う優越感が心の隙間に滲んでいく。
無論、こんなことやりたくてやっている訳ではない。あくまでも彼を満足させ、無事にあの檻へと戻ることが私の目標。そのために必要なだけだ。
決して、彼の肉棒に魅せられてはいない。舌の上に沁みる塩味に興奮している訳ではない。そう強く暗示をかけながら続けていく。
次第に逸物はむくむくと膨らみ始め、口の中に納まらなくなってくる。先走りと唾液で何とか咥え込もうとするが、いよいよ本性を現し始めたそれは、私の予想をゆうに超えるものだった。
すぐに半分も咥えられなくなった私は苦し紛れに何度も舌で刺激を与えるも、慣れ切ってしまった閻魔にとっては足しにならないらしい。それでも全てを口に含めるなど到底無理なサイズの肉棒へ、ぐぽぐぽとむしゃぶりつくようにして拙い奉仕を続ける。
しかし、そんな苦し紛れの努力は痺れを切らした閻魔の言葉によってすぐに水の泡となった。
「貴様、それは儂が本気で満足すると思ってやっているのか? それとも、これがあの淫魔に教え込まれた舌技というやつか?」
「……いっ、いや…」
突然投げかけられた言葉に口ごもってしまう。そんなことを言われても、これが本当に精一杯なのだから反論の使用がなかった。既に頬は軽く痛み始めており、舌の筋肉も鈍痛を感じ始めている。
ただでさえ継続させるのも一苦労するのに、これ以上無理をすればどうなるか分からない。無言で狼狽えている私に直接言い聞かせるように、閻魔は言葉を続ける。
「ならば分かっているはずだ。貴様は今何をすべきかをな」
無理だと叫びたくても、ぐりぐりと自らの唾液で濡れた逸物を擦り付けられては抵抗のしようもなかった。頬の毛が濡れ、ツンとした刺激の匂いに心が惹き付けられてしまいそうになる。
それでも、必死に口を開けようとはしなかった。いや、できなかったと言った方が正しいだろうか。
見れば見るほど凶器にしか思えないのだ。大きくなった自分の手をもってしても片手では全てを掴みきれない太さのソレを、どうやって咥えればよいのかなんて分かる訳がない。
だが、私には選択する余地などなかった。
「ほう、もうあやつのモノしか受け付けぬということか? そこまで雄に心酔しているのなら、儂のも喜んで咥えるはずだろう」
「…ッッ!!? がっ……あぁ……っ!」
「その気がないのであれば、させてやるまでだ」
私の意思に反して勝手に口が開いていく。まるで見えない力で上下の顎を縛られ、両側から無理やり引っ張られているような感覚だった。
自分1人の力では不可能なまでに開いてしまった口吻へと高温の熱を持った肉の棒が入り込んでいくのが見える。それはまだ半分も入っていないのに、私の口内はほとんど開き切っていた。
「まだまだ狭いか……。今回は特別だぞ。次はないからな」
「あ゛…!!? が、あぁ゛っっ……!!」
入りきらないと目で懇願しても無駄だった。今度は塞がっていたはずの喉が勝手に押し拡げられていたのだ。
空気の塊が気道を圧迫し何度も嗚咽するが、そんなものなど構うはずもなく閻魔の肉棒が入り込んでくる。既に限界寸前だった私の目には涙が浮かんでいたが、ゆっくりと埋め尽くされていく肉鏝の凄まじさに息が詰まっていく。
「……全て入ったな。喉を開けばこのように咥えることができるのだ、簡単だろう?」
当然の結果だと言わんばかりの閻魔の言葉と鼻先に触れた閻魔の下腹部と陰毛に、一瞬の安堵が広がっていく。
だがこれは単なる苦しみの始まりに過ぎなかったことを、すぐ後に知ることとなる。
「では儂の味を覚えさせてやろう。いくぞ」
「──ンんん゛ォ゛ッッ゛!!?!?!」
口の中が壊れてしまったのではないかと思うほどの衝撃を与えられた瞬間、私の意識は一瞬飛んだ。目の前が砂嵐のように霞み、またすぐに引き戻される。
霞む視界の中で見えるのは獣毛を携えた肉体、それだけ。あとは全て口内の感覚に意識が持っていかれ、五感のうちで機能していたのは触覚と嗅覚だけだった。
「がっっ、んごお゛ォッッ……!! ぐっふっ、ンンッッ!!」
息なんてできていない。ほぼ酸素のない状態で行われる奉仕はもはや奉仕などと呼ばず、私を物以下としか認識していない扱い方だった。
ただの性処理道具、それだけの役割を果たすだけの存在。そんな意識を刷り込まれるかのように、無慈悲な責め苦が続く。拳を口に突っ込まれているにも等しい苦しみは肉棒の味を感じることすら与えず、疲弊した心を悉くボロボロに剥がしていく。
「咽せるな、吐くな、意識を手放すな、咥え続けろ。貴様の役目は儂を気持ちよくさせることだけだと、その身に刻み込むがいい」
「……ん゛ッ、う゛っ…! ぐっぶッッ……ん゛、オぉ゛……っ」
もはや自分が何をされているのか忘れそうになっていた。首が折れるほど喉を圧迫され、勢いよく引き抜かれては再び押し込まれる。
呼吸すら満足に行えない状況だというのに、無情にも体だけはビクビクと反応しては肉欲を滾らせる一方だった。こんな状態でも興奮しているだなんて嘘だと、私自身が最も受け入れたくなかった。
腰突きと共に繰り出される強大な衝撃波に耐えていた顎の関節は痛みを超えて麻痺し始め、もはや自分の力で咥えることすらもままならない。
閻魔はまだ射精していないというのに、私はもう全てを手放す一歩手前だった。
「早々に壊れてもらっては困るな。そんなものでは生き返ることなど不可能だぞ」
「……!」
ふいに聞き取ったその言葉。たったその一言で、私の意識は急浮上する。
そうだ、私はなんのためにここまで耐えてきたのだ…! こんなところで全て諦めてしまったら、これまで受けてきた恥辱も苦しみも、全てが無駄に終わってしまうではないか。
僅かに奮起した体に力が籠もり、今一度閻魔の肉棒を咥え直す。幸か不幸か、無理やり開かれた影響で亀頭が喉輪に食い込む気持ち悪さも和らいでいた。
死してなお生に縋りつく私の姿は、閻魔にとってはさぞ滑稽に見えることだろう。だが次の人生を始めるより、一刻も早くこの責め苦から抜け出したかった私は苦渋の思いで奉仕を続ける。
この苦しみから抜け出すには、それを受け入れる以外の道はないのだから。
「ふっ、んっ…! そうだ、舌を動かせ。お前はただ淫らにチンポを求めていればそれで良い。さあ、まずは上澄みだ…!」
口調は変わらずとも僅かな熱を帯びている閻魔の声と共に、口の中で肉棒がびくりと跳ねる。だが思うように動かせない私の口は一方的に穴としての役割を果たされ、意識も朧げなまま喉奥まで亀頭が捻じ込まれたことだけを感じた。
本来であれば許容してはいけない直径にまで拡がった喉への恐怖に背筋が震えるも、鼻先を埋める陰毛から漂う雄の香りにあてられた私の思考は蕩け、みるみるうちに頬の力が抜けていく。
「全て飲み干せなければやり直す、良いな。さあ出すぞ、喉を拡げよ…!!」
「──ん゛ッッ!!???」
受け入れの準備を終えた直後か、それよりも少し前か。いずれにせよ、舌ではなく喉奥めがけて熱い液体が勢いよく噴射されたことには違いなかった。
それは気道すらも塞ぐ勢いの量を誇り、何度も嚥下を繰り返す喉の動きを遥かに超えては尋常ではない量を胃に放っていく。もはや液体と言うよりも半固形物に近い子種が、どくどくと食道を通って腹に溜まっていく悍ましさに首筋が寒気を覚えた。
必死に閉じようとしても隙間から黄ばんだ精液が溢れ出し、膨らんだ頬から穴でも開いたかのように四方八方へと飛び散っていくのを感じる。
口の中で鳴り響く凄まじい放射音はあの淫魔ですらも出せない音であり、さながらそれは恐怖を超えた何かを私の心に刻み込ませている。正体は分からずとも、言葉にならない確信が本能を脅かしていた。
「……んぐ!? んっんっ、ぐ、うぶっ……!」
ある程度出し切ったところで終わるだろうと予想していたが、想像以上にその射精は長かった。故にその量も凄まじく、みるみるうちに腹の奥が重たくなっていく。
終わる兆しの見えない吐精に、喉の筋肉は既に限界を迎えていた。奉仕により疲弊していた舌は動かすこともできず、淡々と流し込まれる白濁を堰き止めきれずに飲み込んでしまう。
だが、こんな状況になっても私の体は興奮しているらしい。奴から施された淫紋から発せられる微弱な悦楽がその証拠だった。
無理やり性欲を高められているだけなのに、ごくごくと喉を鳴らして精液を飲む傍ら、痛いほどに勃起しては大量の先走りを零す自らの愚息を切り落としたくてたまらない。
しかしいくら頭の中でそう強く思えたとしても、喉から抜ける精液の匂いはどこまでも思考を酩酊させていく。どろりと蕩けた意識に口の端で込めていた力はいつの間にか解け、より多くの精液を摂取しようと嚥下が止まらない。
最初の絶頂からというもの、何度も何度も閻魔は射精し続けていく。10回以上は軽く超えていただろうか、長いようで短かったその時間は、私の中の射精という常識を粉々に打ち砕いていった。
どれほど嚥下を繰り返したか分からなくなってきた頃、ようやく肉の凶器が口から引き抜かれる。助けを求めた肺が破裂しそうなほど一気に酸素を取り、あまりの勢いに激しく咽せた。
かつて軍で少しばかり見たことのあった、水責めの拷問から解放された捕虜と何ら変わらない息継ぎに涙が滲む。俯いた頭の先に見えたのは、あり得ない量の白く濁った液体が小さな水たまりを作っている光景だった。
「……たった一発飲まされただけでコレか。随分と淫乱に変わってしまったものだな」
「っはぁ、はぁっ、ふぅっ……ぐっ……」
見下ろす閻魔の言葉に反論もできない。息も絶え絶えで、まともに話す気力も失っていた。
腹は妊婦のように膨らみ、たぷたぷとした液体の感覚が気持ち悪さを増幅させる。淫魔よりも多い一度の射精量に驚きを隠せないが、ようやく解放された嬉しさの方が勝っていた。
「…がっ!!?」
安堵しかけていたその瞬間、閻魔はいきなり私の顔を踏み潰した。精液で膨れてしまった下っ腹が揺れ、その反動で無様にも全身が床に叩き付けられる。
メキメキと頭蓋が割れてしまいそうなほどに軋む音が頭の中で聞こえ、涙が自然と溢れ出てしまっていた。
「儂からの施しを受けることはこの地獄で最上の幸福だと思え。奇跡と言ってもいい。この世界を統べる儂が、貴様のためだけに注いでいるのだからな」
「ぎぃ……ぁ……!」
「『精液を飲ませて頂き感謝致します』だ。良いな?」
語気を強めることもない。かといって命令するような口調でもない。どこまでも淡泊な、色のない言葉。
まるで飼い犬に躾けているような、そうあることが当然であるという言い方だった。
頭を踏みつける強さはどんどん増し、頭が床にめり込んでしまうかと錯覚しそうになる。それと同時に首への痛みもあり、心に刻まれた恐怖心が悲鳴を上げようとしていた。
「……せ、精液を飲ませていただき…感謝いたし……あがっ!!」
その光景は誰が見ても無様に思えただろう。まともな会話とは程遠い、まるで奴隷と飼い主の主従関係のようなやりとりである。
激しい恥辱を堪え凌ぎながらも言葉に出したのに、あろうことか閻魔はそれを遮って頭を蹴り飛ばした。振り回される平衡感覚に弱々しく体は転がり、皮膚のあちこちに床の液体が付着してしまう。
あまりの扱いに今すぐにでも暴れ出したいほどの強い憤りを感じるが、余計なことをすれば次は何をされるか分からない恐怖のせいで本心を剥き出しにはできなかった。
「…じきにその言葉も本心から言えるようになるだろう。だが死刑囚よ、全て飲み干せなかったな。従って最初からやり直しだ」
「な、なっ……!?」
唐突に言い渡された死刑宣告に、一気に血の気が引いていく気がした。まだ息も整っていない私に近づいてくるその股間は、あれだけ出したにも関わらず再び首を持ち上げ始めている。
「まさか少しくらい零しても問題ないと思っていたのか? 一滴も零してはならぬと言っただろう」
「そっ、そんな…! 嘘だ、イヤだ……っ…!」
泣きそうな声で後退りながら懇願する私を無視し、頭を掴まれては再び強引に口をこじ開ける閻魔。
その肉棒は先ほどよりも硬くいきり立っており、強大な圧迫感と嗚咽に圧し潰されながら、強制的な奉仕を施されるしかなかったのだった。
[newpage]
どれほどの時間が経ったのかも分からない。何度も何度も肉棒を咥え、精液を飲み込み、少しでも零せば休む暇もなく同じことを繰り返される。
顎の関節は外れてしまっているのだろうか。どれだけ力を入れても閉じることができないし、食道や胃はおろか、鼻や口回りまでもが生臭い精液によって塗りたくられていた。
どういう訳か、閻魔の逸物は一向に萎える気配が無かった。出しても出しても肉棒は硬さを保ち続け、放たれる精子の量も減ることがなく、むしろ増えているとすら思えた。
最初こそ信じられないという気持ちを抱いていたものの、次第にそんなことなど考えられなくなってしまう。度重なる精飲により霞んだ思考は精液を飲むことしか考えなくなり、こじ開けられた喉から伝わる閉塞感に被虐心が刺激される。
咥えては気絶して、目が覚めれば精液を飲まされ、零しては気絶する。
やり直し、やり直し、やり直し。呪文のように耳の奥にこびりついたその言葉は精神を少しずつ狂わせ、自分の口はチンポと繋がっていると錯覚を起こしかけていた。
意識も感覚も全て上の口に集約し、太く逞しい閻魔の肉棒に魅了されてしまう。濃い汗の味と先走りに混ざった液体は、ピリピリと舌を麻痺させていく。
数えきれないほどの気絶と覚醒を繰り返した末に、飲み続けた雄汁によって増した体重を支えきれなくなった足は崩れ落ちる。それでも口から離すことのできない肉棒により、顔だけが残されたまま膝立ちになってしまう。
口から零し続けた精液はいつしか白の水溜まりとなり、膝にべっとりと絡みつく生温かさが異様に心地良く感じるまでに疲弊していた。だが不幸中の幸いか、そのおかげで私の口は閻魔の巨根を根元まで咥えられるようになっていたのも事実だ。
「ようやくか。淫魔から仕込まれていたとはいえ、馴染むまでずいぶんと長かったな」
私の変化に気付いた閻魔が低く呟く。ぬらついた液体を纏う肉棒が舌の上を強引に滑り、息が詰まるほどの圧迫感に涙が滲む。
だがそんな苦しみや嗚咽すらも快感と感じるようになってしまっていた私の体は、抗うこともできずに奉仕を続けるしかなかった。
早く満足させなければ本当に解放されないという死よりも重たい焦燥感が舌を突き動かし、浮き出た血管の筋をなぞる。
開発されてしまった影響か、白濁に塗れた肉棒の感触が鋭敏に感じられて不思議と咥えごたえがあるような気がする……。歯を立てずに咀嚼してみたいという淫猥な欲望も、慣れてきたことにより心に余裕が生まれたことの現れだった。
言いようのない背徳感が、着実に私の心を打ち砕いていく。無理やりやらされているだけなのだと何度考えても、じんじんと疼く淫紋がそれを受け入れようとはしなかった。
「そろそろイくぞ、今度こそ零してくれるなよ…!」
朦朧とする意識の中、閻魔は私の喉奥に肉棒を突き入れ、両頬を掴んで固定する。文字通り流し込む以外の機能を持たないその体勢にも慣れた私は、開発された喉を開いてその液体を受け入れる心構えをした。
「ーーん゛っ!? んっ、むぐぅぅっ!!」
直後、鈴口から勢いよく放たれる白濁に全身がびくんと跳ねる。まるで閻魔ではなく私が射精しているかのようだった。
喉奥にぶつけられている粘液は今や忘却の彼方にある1回目と同じか、それ以上に濃く、大量であることに違いはないだろう。
2桁、下手をすれば3桁にまで届いてしまいそうなほど飲み込んできた私には、そんな全く必要のない感覚が芽生えてしまっていた。舌の上に溢れるその味不思議と甘く感じ始め、ついに舌が麻痺でもしたかという考えがよぎる。
腹の中はとうの昔からはち切れそうなほどに満たされているが、無理をしてでも詰め込まなければ本当に終わりはないと理解している。それは以前、奈落を突きつけられた時と似たような確信だった。
言われたことをこなせなければまた次の苦しみが待っているという、分かりきった絶望である。
ドクドクと流し込まれていく精液を味わうことなどせず、ひたすらに嚥下作業を行う。休む暇などない、そう思うよりも先に喉を動かさなければ永遠に終わらないのだから。
一心不乱に閻魔の肉棒を乳子のように吸い続け、流し込まれる白濁が止まったことに気が付いた時には腹の重みで身動きが取れないようになっていた。
「全て飲み干せたか。何回出したか覚えておらんが……よくやったぞ」
閻魔の言葉によって私は全てを理解し、今度こそ全てを投げ出して倒れてしまう。水風船のように膨らんだ腹は見るも無残だが、そんなことはどうでもいい。解放された、その気持ちだけで涙すら溢れ出しそうだったのだ。
「おい、まさかもう忘れた訳ではあるまいな?」
「……せっ、精液を飲ませていただきっ、感謝いたします……!!」
にちゃにちゃと汚らしい音を立てながらも、やっとの思いで掴み取ったこの時間を噛み締めるように言い放つ。しゃぶるという行為だけで精神をボロボロにさせられた私は、恥も外聞も何もかもを捨てて答えることしか頭の中になかった。
僅かに残っていた理性がじくりと胸の奥に後悔の爪痕を残すも、既に遅かっただろう。度重なる興奮と快楽の波に飲み込まれていた私には、正しい判断などできなくなっていたのだ。
「お前のソレは我慢ならなかったようだが…。全く、どこまでも淫乱な奴だ」
「な、なっ…!?」
言われて咄嗟に視線を股間に向けると、私の愚息は真っすぐに上を向いては先端から大量の白濁を垂れ流しているのが見えた。その量は多く、既に何本もの筋を引いてはいやらしい光沢を放っている。
それは下腹部はおろか床にまで流れ落ちているらしく、私の腰あたりには生温かい粘液が広がっていた。
「言っておくが、下にあるのはほぼ貴様が出していたものだ。気絶しながら咥えているというのにチンポだけは調子良く何度も達しおって…ここまで卑猥な奴も珍しいぞ」
「……は!?」
嘘だ…こんな量を私がいつ出していたというのだ…!?
口淫に必死で自らが達していたことなど気付いていないが、だとしてもここまで出るなんてどう考えても不可能だ。そもそもこんなにも私の精力が増しているなんて考えてもいなかった…!
腹が膨れて口から零れるほど飲まされたのに、これが閻魔のものだと決めつけたくても完全に否定することができなかった。
これまでの経験上、想像もしない事象であっても起こりうると考えてもおかしくはないのだ。自分の体がもはや人間のそれではなくなっているのではという疑念に、僅かながら理性が削り取られていく。
「違う…こ、これは何かの間違い……!」
「無駄口を叩くな、次に移るぞ」
「あっ、ぐぅッ!?」
あれだけ出したにも関わらず一切の疲れを見せない閻魔は踵を返して寝屋へと向かう。対して歩く気力もない私は、彼の『命令』により磁石のように体を引き寄せられてしまうのだった。
「四つん這いになって尻を出せ」
「く……うぅ…!」
ベッドの縁に座る閻魔に指示された私は、まだ完全に回復していないままで手足を床に付け、尻を突き出すように頭を垂れる。いくら力を振り絞っても意識下におけない神経に頭がおかしくなりそうだ。
思考回路を無視して勝手に動く勇ましい筋肉を備えた人外たる私の両腕だが、ガクガクと震えるそのさまはまるで生まれたばかりの小鹿のようなか弱さを思わせた。
「さて、そろそろ淫魔から仕込まれたものが消えている頃だろう」
「なっ、何を……ひぃぁっ!!?」
素っ頓狂な声を上げたのには無理もない、何せいきなり後ろの秘孔に指を突き入れられたのだ、あまりの異物感に冷や汗が滲む……はずだった。
そう思っていたのに、私は不思議とそれだけで嫌な感覚が途切れていたことに気付く。
いやそれよりも、言われてみれば淫魔によって挿し込まれたヤツの腕…あれが変化した固定具が綺麗さっぱり消えていたことに驚きを隠せない。今の今まで全く気が付かなかった……。
いつから消えていた…? 私が閻魔のチンポを咥えていた時にはもう……
「ッッくひぃっ!!!?」
だがその答えを考える余裕などなかった。閻魔が少しばかり指を折り曲げただけで、私の下半身はびくりと跳ねてしまったのだ。
一瞬何が起こったか分からなかった。あまりにも絶大な快感が脳を焼き、押し殺すこともなく絶叫してしまったことへの羞恥を感じてしまう。
そんな私の光景が滑稽だったのか、座ったままの閻魔は笑って言った。
「ほう? 効果は覿面だったらしいな。中もしっかりと熟れている、良い柔らかさだ…」
「あっ、あっ、んあぁっ!!? なっ、なんだっ…これはぁ…っ!!」
「奴に仕込まれていたアレはな、貴様の尻穴を解すと同時に体の感度を上げていたのだ。過剰なまでにな」
言っていることの理解ができない。それよりも尻穴から広がる説明不能な快楽に、私の四肢はビクビクと震えていた。もはや力もろくに入らず、頭を床に突っ伏して尻を突き上げるという、もっと弄ってくれと言わんばかりの体勢でしか堪えることしかできない。
しかし閻魔は止めることなどせず、躊躇のない指による掘削が私の神経を抉っていく。くちゅくちゅと薄気味悪い水音が耳を突き抜け、その卑しさに興奮してしまっている自分もいた。
「こんなにも緩んでしまったではないか…。はしたない汁もだらだらと垂らして、そそられるな」
「あっ、んっ! ひゃ、いぁあっ!!」
上ずった自分の声が響く度に、ぬぷぬぷと指が挿入されていく。門を異物が通り抜ける感覚、そしてそれらが肉の壁を擦っては切り開いていく違和感。そのはずなのに、全てが快感へと変わっていたことに動揺を隠せなかった。
訳が分からないのだ、まるでそこが第2のチンポにでもなってしまったかのようだった。情けなくも私は腰を震わせ、生娘のように何度も嬌声を上げてはどんどん息が詰まっていく。
「これではもう性感帯も同然だな。体の内側が快感の巣窟となった気分はどうだ?」
「あ゛っっ!!!? い、イくっ!! イってしまううっっ!!!」
いつの間にかあっさりと咥えてしまっていた3本の指が直腸内部を叩き、刺激に対して異常に過敏になっていた射精中枢が限界を迎える。私は声を上げながら無様に射精してしまい、ビュルビュルと大量の白濁を床へ放出してしまうのだった。
いつも通りの凄まじい射精の悦楽に意識が持っていかれる。あろうことか尻だけでイってしまった自らの体への危機感も薄れ、形容しがたい感情が混ざり合っては消えていく。
その中で私は、閻魔に弄られていた箇所からじんわりと広がっていく妙な愉悦を感じていた。射精のようにいきなり閾値を超えるようなものではなく、緩やかに全身を満たしてくれるかのように心地良かった。
今まで味わったことのないその感覚は、この地獄では絶対に得ることができないものだと確信できるほど優しく、全てを投げ出して身を委ねたくなってしまう。
このじんわりとした蕩けるような愉悦は一体何なんだ…?
もっと感じてみたい、もう少しだけその悦楽を知りたい……
「──あがッッ!!?」
その瞬間、私の鳩尾へ無慈悲なまでの足蹴りが入ったことで私は我に返った。あまりの衝撃に意識がどこかへ行っていたのか、普段よりもずっと痛みが強く、我慢できずに腹を抑えて横たわってしまう。
「罪人が勝手に一人で気持ち良くなって良いと誰が言った? 分を弁えろ」
「か、はぁっ…! はぁ、はっ、うぅっ……」
「……まあ良い。期待などしておらぬが、せいぜい気持ち良くさせてくれ」
身動きの取れない私を命令で寝具へと移動させ、仰向けの状態で体を固定される。両股を開かれ、文字通り秘部を外側へとさらけ出すこの姿勢はこの上ない醜態だろう。
しかし私の体は先ほどの快感を未だに忘れることができず、情けなくも尻の奥がじんじんと切なく疼いていた。
排泄目的でしか使わないその場所が満たされた時のあの圧迫感は今も残っている。淫魔によって長い間埋められていた反動か、尻穴が狂おしいほど虚しく感じるのは気のせいだろうか。
だが、それを埋めてくれる存在は目の前にいた。私と同じ獣体を晒した地獄の主は表情こそ一切変えないものの、その下腹部には恐怖すら抱いてしまうほどの幹が聳え立っていた。
動かせない体が震えている。晒した下の穴がひくひくと物欲しそうに窄み、目前にある肉槍との邂逅を待ち望んでいる。私の中に潜む欲望も、それを望んでいるような気がしてならなかった。
「さて、挿れるぞ。口の時よりも激しくしてやるからな、壊れてくれるなよ…」
「あ、あぁ……! うああぁあ………っ…!」
閻魔はそう言うと、微塵の躊躇いもなくその穴へと肉棒を挿入し始めた。口ですら気絶するほど太かった直径のそれが、口よりも小さいはずの肛門に飲み込まれていき、体中から大量の汗が滲み出していく。
しかし必要以上に解れてしまったその穴は、まるで初めからこの棒を収めるためのものであったかのように障壁なく受け入れてしまっていた。
雄が雄へと生殖器を突き入れている。それを受け入れているのが子供を作った経験のある私なのだ。
信じられない、あり得ない、どうしてこんなことができるのか想像もできないまま、肉棒だけがズブズブと体内へ入り込んでいく。
生きていた間に培われた常識が、また一つ崩れ去ったような気がした。塗り替えられ、新しい何かへと変わっていく感覚がする。
やがてそれは、肉穴の中を支配する強烈な圧迫感によって消え去ってしまう。すぐに湧き上がるのは焼き鏝のような灼熱を誇る閻魔の肉棒と、それを全て包み込んでしまった私の直腸が享受した圧迫感。
息苦しさこそあれど、それは必要最低限の程度だ。閻魔の言っていたことが本当であると、私は今この瞬間をもってその身で知ることとなった。
「ほう、なかなかに良い穴だ。これほどのモノは数百年ぶりか…?」
「ぐぅ…あぁっ! んっ、ひぃっ!」
順応する時間もなく抽挿が開始され、膨張した逸物によって肉壁が擦られる奇妙な感覚にぞわぞわと全身が総毛立つ。指よりも大きな体積のそれが体内を入ってくる気分など苦しい以外の何物でもないが、早くもその圧迫感は薄れつつあった。
それは性感帯となってしまった直腸内の肉ヒダが擦られ、言葉にできない悦楽が体の内側を襲っていたからに他ならない。射精寸前のあのもどかしい気持ちが延々と続くような感覚に、その先を懇願する心とそうならない現実が交錯する。
異物を捻じ込まれた条件反射で閻魔のチンポを締め付けてしまい、さらにその愉悦は強度を増すばかり。排泄物をひり出すための感覚を失ってしまった尻穴は焼けるように熱く、より円滑に抽挿を行うための液体がとめどなく溢れている。
弾ける水音が一定以上の速さに聞こえてきた時、もう後戻りできないところまで来ていると思わざるを得なかった。
「初めて尻を使われたというのにもう喘いでいるとは…。貴様、よほど淫らな素質の持ち主だったようだな」
「あっ、んっうっ! ちっ、ちがっ…! そんっなことは…あうっ!!」
ズンズンと腰の奥が突き上げられ、返せる言葉も返せない。何しろ出し入れされる度に肉穴から広がっていく快楽に慣れない私は、その心地良さになすすべもなく屈服させられていた。
完全に緩み切った括約筋は機能を失い、逆に激しい抽送運動を手助けしてすらいる。ぐっちゅぐっちゅと淫猥な音が弾け、その光景をイヤでも見てしまえば興奮は避けられなかった。
これではまるで本当に女のようではないのかと、少しずつ心に癒えないヒビが入っていく。
こんな事で喘いでいる自分自身が情けなく、憎い。生きていた頃の壮絶な歩みが嘘のように思えてくる。
苦痛も後悔も葛藤も混ざり、滅茶苦茶になった感情は胎内の快感に集約されてたちまち霧散してしまう。どれも全て、作り替えられたこの忌々しい体が原因だった。
「くく、良い表情をするようになってきたではないか。頬が緩んでいるぞ」
「なっ、何、をっ…!! そんな訳っ、ないだろう…!!」
「では貴様の穴はどうしてここまで緩く開いているのだ? こんなにもヨダレを垂らした穴などそう簡単に見ぬぞ? それは貴様自身がよく分かっているはずだ」
頭の中に直接語り掛けてくるような言霊が、この現状を受け入れろと強く命令しているような気がする。それに応じるかのように体は熱く火照り、乱暴に擦られる肉壁がビクビクと痙攣し力が入らない。
激しさを増した突き刺しは体の奥深くまで進み、精液で満杯になった腹までもが揺れた。それはまさに圧倒的な雄、私を屈服させるために脅威を増す閻魔の獣性。
初めて味わうはずの性交は未知の快楽であると同時に、既に出来上がってしまっていた肉体は余計に愉悦を迸らせる。疼きっぱなしだった尻が心地良く、もどかしかったあの苦しみから解放されているこの時間が途方もなく嬉しい。
もっと……
もっと、犯して欲しい……。そのチンポで、私のケツを……!
「───ハッ!!?」
弱い心が見せた欲望に自分自身で気付いた時にはもう、遅かった。とうとう私はコイツらの言いなりになってしまったという後悔と共に、閻魔がその肉棒を最奥まで突き入れる。
ズドンと腹の奥から一気に駆け昇っていく圧迫感に息をすることもできなかった。
「イくぞ…ッ! 貴様はこれで尻を犯される快楽を知り、じきに抜け出せなくなっていくのだ…しっかりと覚えるが良い!!」
その言葉と同時に胎内の肉棒がぶるりと震え、灼熱のような液体が勢いよく放出されたのを感じた。腸内の方が口で感じるよりも熱の伝導が速いのか、かあっと体の内側から発生した強烈な熱に頭が茹る。
ヒクヒクと蠢く腸壁は肉棒が擦れる度に快刺激を享受し、射精に合わせて膨張する海綿体に反応しては脳髄へと言葉にならない電気を送る。
まるで雷に打たれたかのような快感が私の理性を消し飛ばし、半ば意識を放り出して絶頂に浸っていた。
思えば、拡張はされてもその中までには射精されたことは一度もなかった。しかしたった今それは閻魔によって破られ、尻という排泄器官から液体が逆流してくる馴染みのない感覚にゾクリと全身がしゃくりあげた。
それでも、閻魔の「零すな」という言葉を聞き取った体は本能で反応し、無意識に穴を締め付けてしまう。否が応でも感じ取らざるを得ない閻魔の雄はとてつもなく鮮明で、あまりの強さに不思議と満たされたような気がしていた。
だが数十にも及ぶ射精を経てもなお尽きることのない閻魔の精力は、無慈悲にも私の直腸の容量を超え、入りきらない分がごぽごぽと接合部から漏れていくのを感じる。
やってしまった……。
今度は尻であの地獄のような時間を過ごさなければならないのかという絶望が心を蝕む。諦めからか括約筋は閉じることを忘れ、際限なく床の上に垂れ落ちていく。
高すぎる粘度の白濁から発せられる雄の匂いに、後悔や羞恥の感情さえもかき消されようとしていた。
持っていた気力をすべて失った私とは反対に、昂りを維持したままの閻魔が嘲笑うように見下ろしてくる。
「零すなと言ったであろう。まだこっちは拡がりきってはいないか」
呆れたような物言いに、私は言葉すら返せない。いっそこのまま気を失うまで犯してくれた方がマシだとさえ思えていた。
「だが…このまま続けても貴様は気を失うだけだろう。それではつまらぬからな」
「な、なっ……何を、する……!」
予想外の言動に動揺するも、抵抗もできない私は閻魔に抱えられてしまう。軽々しく持ち上げられ子供扱いされたような気分になるが、身構える余裕もないまま開きっぱなしの肛門に再びチンポが挿入され絶叫してしまった。
自重でより深く抉り込んでくる亀頭は容赦なく理性を削り取ろうとするも、尻たぶに感じる太ももの感触で私は我に返る。
肉の杭を刺され、閻魔の膝の上に固定されてしまったらしい。あろうことかこの地獄の主に背中を預ける体位に、どうすればいいか分からない気持ちでいっぱいだった。
自分の体を完全に掌握され、両足を持ち上げられて股を開くという無様な姿を晒してしまっている。生前ですら経験したことのない体勢だが、どうすることもできない恥ずかしさに顔が熱を帯びてしまう。
その時、肩に顔を置いた閻魔が低く呟いた。
「気が変わった。気絶しない程度にゆっくりやってやろう」
「は…っ? あっ、んぐっ…!!」
困惑する私に構うことなく閻魔は再び抽挿を再開する。一瞬ではあれど忘れていた快感が全身を走り、びくりと体を震わせてしまう。それは既に、私の尻穴はほとんど性感帯として機能していることを示唆していた。
宣言通り先ほどとは打って変わって執拗な責め立て方をされ、激しさよりも余計に感触が伝わってしまい興奮が止められない。強制的に性的欲求を高められているとはいえ、歯を食いしばっても自然と声を漏らしてしまう。
「ほれ、前を向いてみろ。貴様と儂が繋がっているところが丸見えだぞ…?」
「……くぅッ…!」
その言葉に反応してしまった自分が情けなかった。顔は逸らしながらも目線だけを向けるとそこには等身大ほどの大きな姿見があり、そこに映っていたのは紛れもなく私だった。
広げた両股の中心にはどす黒い肉棒が貫いており、それはまるで繋がれた鎖のように私を固定して離さない。化け物じみた太さを持つそれは未だ直上を向いており、接合している様子が何とも卑猥だった。
「目を背けても意味など無い。貴様のチンポは正直に反応しているではないか」
「ちっ……違う…! 私はこんなことで興奮など……」
「今更何を言っても無駄だろうに。どうして貴様はそこまで頑なに拒否するのだ? ただ快楽に身を任せれば良いだけだろう」
「………くぅ…!」
悔しいが、ヤツの言っていることは否定できなかった。現に私の愚息は今もヒクヒクと跳ね、大量の先走りを床に垂らし続けている。この状況を見て私が淫乱ではないと言う奴などいないだろう。
だがそれでも…どうしても認めたくなかった。私は正しい道を生きたというのに、なぜ地獄まで堕とされてこのような恥辱を受けなければならないのかと。本来罰を受けるべきなのは悪事を働いていた奴らではないのかと。
それに、私にも一介の男としての矜持がある。逆らえないことを分かっていたとしても、やはり気が狂うほど乱れたくはなかった。
私だって好きで交わっている訳ではないのだ、いつまでもこうしていたいだなんて思いたくもない。
いつまでも押し黙っている私に痺れを切らした閻魔が、ゆっくりと口を開いた。
「一つ教えてやろう。今お前を映しているのは『浄玻璃の鏡』というものだ」
「浄玻璃……!?」
「聞いたことくらいはあるだろう? 罪人の犯した罪を映し出し、善悪の判断を行うあれよ」
何を今さら、と私は思った。この罰を受けている時点で、そんなもの必要ないだろう。見返したところで私の罪が覆ることなどないだろうに。
だが、次に発せられた発言に、私は大きな選択を迫られることになる。
「では貴様に問う。真実が知りたいとは思わぬか? 己の目で、事の全てを知りたくはないか?」
「なに……?」
意味深な閻魔の言葉に思考が逡巡する。
全てとはなんだ? 私が行った犯行の全てか?
私はこの手で元帥を殺し、そのまますぐに死刑となったはずだ。まさか、私の意志を託した者たちが捕まる光景でも見せようというのか?
「貴様の行為を振り返すだけではない。貴様が見えていなかった場所、時間、人物、状況…その時間軸に起きたことの全てを見返すのだ」
ふざけるな。そんなものを見せて何が楽しい。矢継ぎ早に想起する苦い過去の記憶は、少しの間ではあるが快感を忘れさせてくれた。代わりに煮え滾るのは途方もない怒りと憎しみだが、それを閻魔にぶつけたところで無意味なのは知っている。
だから私は、無言を貫くことにした。
「実を言えば、儂の口淫に耐え切ったのは貴様が数百年ぶりでな。良い機会だ、儂の気が変わらぬうちに答えよ」
「そ、それはどういう意味…あくぅっ!!」
「深い意味など無い。あの日起きた全てを見せてやると言っているだけだ、疾く答えを決めろ」
いきなり変わった態度と提案に、妙な薄気味悪さを感じてしまう。だが真実という何か引っかかるような言葉が頭から離れず、どうしても断固とした拒否ができない。
決めあぐねていた私を急かすように閻魔は肉棒をぐちゅりと突き入れ、突然の快感に判断を早められた私はろくに考えも巡らせずに答えてしまった。
「わっ、分かった…! 見る、見ればいいのだろう…!?」
「ほう。警告しておくが、本当に良いな? 知らぬ方が良かったと後悔する可能性もあるのだぞ」
見せると言っておいてどうして否定を強いるようなことを言うんだと心の中で思ったが、答えてしまった以上引き返すのも私としては後味が悪い。正直に言えば、元帥を亡き者にした後の顛末ぐらいは知りたいという気持ちも無くはなかった。
「別に構わない。どうせなら見せてくれ」
「よかろう、心得た。…さて、どんな顔をして帰ってくるか楽しみだな」
その言葉を皮切りに、私はとてつもなく強い強風を全身に受けた。いつの間にか背中にいたはずの閻魔の体は消え、まるで嵐の中にいるような暴風に体を吹き飛ばされそうになり、堪らず地面に手をついてうずくまるように耐える。
あまりの強さにまるで体が宙に浮いているかのような浮遊感すら味わっていたが、次第にその風は弱まっていく。
「……………なっ…!?」
次に目を開けた時…そこは閻魔と私がいたはずの部屋ではなかった。四方は小汚いコンクリートの壁に覆われ、明かりも薄暗くて見えづらい。
しかし目の前に広がっている光景に、見覚えがありすぎた。強烈な頭痛が襲ったかのような眩暈を感じ、思わず声が漏れてしまう。
目の前には、あの時の私が立っていた。分厚い軍服を着た人間の姿の私と、その視線の先に直立しているもう一人の人物が対峙していた。
そして私は拳銃を持ち、その人へと銃口を向けている。
構えた手は少しも震えておらず、ただ一点をめがけていた。
私には、ここがどこなのか分かっていた。
分からないはずがなかった。
なぜならばこの部屋こそが、あの元帥がいた部屋だから。
すなわち私の、犯行現場。
私はここで、引き金を引いたのだ。
[newpage]
言いようのない焦燥感が身を包んでいく。触れられそうなほどに鮮明な光景だが、私の姿は見えていないらしい。
こんな怪物がいれば即座に私は私自身に撃たれていただろうから。ということは私は今、本当に自らの行いを振り返っているということなのか?
これが閻魔の言っていた浄玻璃の鏡によるものだとするならば、私はこの後……
『撃つなら撃て。お前がそうしたいのならな』
『……弁明はなさらないのですか』
『私のしたことなど、とっくに知っているのだろう。全てはこの国が生き残るためだ。たとえそれが、愚かな道であったとしてもな』
目の前で繰り広げられている会話に、私の思考が次々と時を遡っていく。頭の中にある微かな記憶が目の前の状況と照らし合わさり、あの時の異質な気味の悪さが蘇ってくる。
銃口を向けられているにも関わらず、元帥の口調は普段と変わらなかった。軍の長として壇上で講演を行う時も、会議で皆の意見を取りまとめた作戦の確認をする時も、何一つ変化のない声色だった。
それは恐ろしいまでに、人間を相手に話しているとは思えなかったことだけが脳裏に焼き付いている。そしてそれは、今この瞬間にも同じことが言えた。
『それが、守るべき民たちの幸せを奪うことになってもですか…?』
『お前には分かってもらえると思っていたのだがな…。民を安心させるためには、まず国そのものを強固にせねばならぬだろう? ならば初めから侵略してしまえばいいのだ。我々を狙う敵がいなくなって初めて、安泰と呼べるのだからな』
『だとしても、国の発展を担う民たちがいなければ意味などないのですよ!? そんな簡単なことをどうして貴方が……』
『だからこそだ。何としてでも、どんな手を使っても、この道しかなかった。そんな私が泥をも啜るような思いで進めてきたこの計画を、愚かにもお前は阻止しようというのだろう?』
そのために今こうして殺そうとしているのに、どうしてそこまで勝ち誇ったように言葉を並べられるのか。
やはり悪人とて軍人上がりなのか、その胆力と威厳は称賛に値するものであったと今更ながら感心してしまいそうになる。
『まあせいぜい好きにしろ。その選択が間違いであったことを、お前は後に知ることになるだろうがな』
まるで練習でもしていたかのような台詞を吐き捨てる彼に、当時の私はまだ動けていない。
忘れていた記憶を直視する度、頭の奥がズキズキと鈍痛を発する。この何もかもを見通していたような言葉の発し方は、何度聞いても胃が締め付けられるような感触だった。自らの死がすぐそこまで来ているというのに、不気味なほどに落ち着いていた。
しかしどれだけ毅然としていようと、本当にこの国のことを考えていたとしても、まさか民までもを考えない人が軍の最高指揮官と名乗れるのだろうか?
他者を大切にしない者が、これから先も多くの人々を思いやり、守り抜くことなどできるのか?
いくら冷静に考えても、それは不可能だとしか思えなかった。それは目の前にいる過去の私と変わらない答えだ。
『言い遺すことは……ございますか』
薄暗い顔をした私が呟いている。引き金に指を置き、今にも弾丸を放とうとしている。
だが元帥の表情は銅像のように皺ひとつ動かない。まるでそれは、死すらも通過点であるかのような雰囲気を思わせた。
『……また会おう、総督』
刹那、風船が弾けたような乾いた銃声が耳を劈く。一瞬のうちに空中に消えた砲音は私の耳の中に残り、鼓膜が破裂したような感覚を覚えた。
焦げた薬莢の匂いと頭の中に残り続けるその音に、浄玻璃の鏡が見せる過去の鮮明さを実感する。
そして、化け物の体となった半透明の私の足元に倒れ込んだ元帥。糸の切れた操り人形のように中身を失くしたその肉体は、ついさっきまで命を灯して生きていたとは思えないほどに「物」と化していた。
僅かに覗く皺だらけの眉間には、鉛球が貫通したであろう穴が見える。そこから大量に垂れる赤黒い血液と散大した瞳孔、そして膨張をしない胸部を見る限り、おそらく即死だろう。
私はゆっくりと顔を上げ、殺人を犯した過去の自分を見る。動揺することもなく、息があるかを確認することもなく、ただ立ち尽くしているだけの人間。
それは自分が想像していたものとは遠くかけ離れた表情をしていた。少なくとも目標は達成したのだが、それを遂行できたことによる安堵すらも感じられない。
およそ人を殺した直後とは想像もできないほど黒く塗りつぶされた、光のない死んだ瞳だった。
発砲音を聞きつけて大勢の足音が近づき、扉を開け放つ。現状を理解した幹部の1人が元帥へと近付き、息が無いことを確認すると、別の誰かが私を殴って床に伏せさせた。
1秒と経たずに加わっていく暴力に耐え切れなかった私はしばらく動かなくなり、両腕を掴まれては引きずられていく。
その光景を呆然と見つめていた化け物の私は、棒のように突っ立っていた。正直に言うと私は発砲してからの出来事をよく覚えていなかったが、あそこまで暴行されていたとは…。
だが、私はそれよりも脳裏に引っかかっている言葉があった。
それは元帥が死の間際に発した最後の言葉。
『また会おう』
聞き覚えがあるというよりも、まるでそれは私の未来を予言しているかのような物言いだった。
…いや、たまたまだろう。私が死刑になることを見越しての戯言だ。意味などある訳がない。
だが、なぜか不思議と胸騒ぎが止まらない。悪事の元凶を殺し、次の段階へ進めるための手筈も整えていた。
これで私の人生はやり切ったと思っていたのに、妙に掴みどころのない不安に駆られてしまう。
ここから先が、私の知らない領域ということなのか。
連れ出された後の室内には、元帥の正確な死を判断している幹部がいる。彼は全く動かず、静寂の中で押し黙っているだけだ。
何を…している? その行動には全くと言っていいほど焦りが見られなかった。既に死んでいるとしても相手は最高位の人物だ、少しくらいは蘇生を試みてもよいだろうと殺した私でも思う。
だというのに、目の前の人間は何もしない。倒れている人物が、殺されて当然であるべき者であるかのように。
その人間はゆっくりと立ち上がると、静かに後ろを振り返る。瞳には鈍い光が映り、その口元は微かに笑っていた。
『……まさか本当に謀反を企てていたとはな』
「─────────えっ」
息が、詰まった。全身の毛が逆立ち、背骨を引く抜かれたかのような寒気が背筋を伝った。
聴覚以外の感覚を失っているはずの私の体から汗が滲み出ているような錯覚を覚える。呼吸が乱れ、視界が狭窄する。
今の声は誰だ?
いや、聞き間違える訳などない声だった。
もうこの世に存在するはずがない声だった。
その人物は胸元から葉巻を取り出してゆっくりと咥え、それに火をつける。一切の無駄がないその動作は、軍人の頃に私が幾度か見たことのある洗練された動き。
しかしそれは、現実であればあり得てはいけないことだ。死んだはずの人間が、たった今殺したはずの人間が、生き返ったとしか言いようがないのだ。
見えているはずのない私と面を向かうようにして顔を上げたのは…私が今さっき頭を打ち抜いたはずの、元帥だった。
「……………は……?」
信じられない。何だこれは。
私はおかしくなってしまったのか? 幽霊でも見ているのか?
思考回路が停止した。これは閻魔が見せている幻覚なのではとまで思い始めていた。しかし、この顔は紛れもなくあの方のもので、彼はさっきからずっと私の視界に映っている。
私が殺したのを聞きつけた幹部の中から飛び出し、ずっとこの部屋の中にいた。すなわちこの男は、間違いなく生きているという証拠であることに他ならなかった。
『入念に計画を立てていたようだが、私はまだ死ぬ訳にはいかんのでな…』
「う、嘘だ…………そんな……」
血の気が引いていく。頭が空っぽになり、膝に力が入らない。
私が殺したのは誰だった…? 見間違えるはずがない、紛れもなく私と対峙していたのは元帥だったはずだ…!
ならば足元に転がっている死体は誰だ…!?
私が殺したあの老人は誰だと言うのだ!!
「嘘だぁああぁああ!!!」
およそ人では出せない絶叫を上げながら私はその男に殴りかかる。今見ていることが全て幻想であることを証明するために。
だが実体を持たないこの腕が彼を薙ぎ倒すことなどなく、盛大な素振りだけに終わる。動悸がする、胸が苦しい、誰でもいいからこの現状が虚構であると言ってくれ!!
だが、その願いは叶わない。どうすることもできない私は、この真実に指を咥えて傍観していることしかできなかった。
『クク……ハハハハ!!! 顔の形を変えて他人に成り代わるとはなんたる技術だ!? これは次の戦に使えるぞ…密偵など使わずとも敵地に送り込めば混乱するだろうな!!』
乾いた笑い声が無機質な部屋中を満たす。口角を上げて千鳥足で歩き回る元帥の姿は、もはや自我を失った狂人であった。
汚い息継ぎをしては笑い、灰になった葉巻を床に落としては笑い、倒れているもう一人の自分の顔を触りながら笑う。民を守るために存在する機関の長たる者が、悪魔に取りつかれたように笑い狂っている。
もはや元帥そのものが他の誰かにすり替わっていると言っても過言ではない光景だった。
「違う、違うっ……! そんなことあるはずが…いやでもどうして……一体何が…!?」
自らの口から次々に放たれる言葉。思考など介していない、心の中から勝手に漏れ出ていた。
本当の地獄だった。私が命を懸けてまで為したと思っていた大役は、全て無に帰していたのだ。
様々な感情が浮かんでは消えていく。憎悪、疑念、驚愕、後悔……負に振り切ったそれは私の心の支えを完膚なきまでに叩きのめし、胸にぽっかりと穴が開いたような空虚を覚える。
ヤツの言葉が本当ならば、倒れている元帥は別人なのだろう。影武者。噂には聞いたことがあるが、まさか本当に実在していたなんて。
他人の顔になる? どうやって? だがそれができたから、元帥は今こうして高笑いを続けているのだろう。
私の知らない所で、秘密裏に行われていたのか。死んでから気が付くにはあまりにも大きすぎた事実だった。
知ってから後悔することもあるという閻魔の言葉が無慈悲に反芻される。こんな思いをするなら何も知らぬまま快楽に溺れていた方がずっと幸せだったかもしれないと、心がどんどん萎れていく。
地位も名誉も、命までも捨てた私の意志は、無惨にも塵と化していたのだった。
『元帥様、ご無事で何よりです』
「……っ!?」
空虚な部屋を満たしたその声は、どこか聞き覚えがあった。参謀ではないことは確かだが、私が信頼を置いていた人物のうちの一人であることは確かだった。
『即興だが間に合ったようだ。これで邪魔者は勝手に消えてくれた、お前には礼を言わねばならないな』
『もったいなきお言葉にございます。彼が隠していた抜け道も見つけ、数名の保護対象を見つけました』
「…えっ?」
驚く時間も余裕もない。たたみかけるように告げられた真実に血の気が引いていくような気がした。全身から力が抜けていくのに、体だけが吊るされたように直立したまま動けない。
『妻子もさぞ肩の荷が下りたことだろう。これで、いつまでも帰ってこない父親を案ずる生活から解放されたのだからな…』
「そん……な…………」
もう、言葉など出てこなかった。湧き上がる感情がそのまま声となり、掠れた息はこの部屋の空気とも交わらずに消えていく。
扉の奥から現れた人物は、元帥に向かって忠誠を誓うかのように跪いて頭を垂れている。
それは私が一目置いていた軍部の将校だった。参謀と共に作戦を練り、別部隊としての士官を担わせていた彼が、あろうことか元帥の協力者だったのだ。
音もなく膝から崩れ落ちてへたり込む私に気付く者など、誰一人としていない。喉が潰れるほどに叫んでも、その声は響くこともなかった。
化け物となったこの手をもってしても、今も目の前で嘲笑を続ける悪魔を屠り去ることはできない。
民を想い、死と隣り合わせの日常を生き抜き、泥に塗れ血の中を進んで、必死にもがき続けた。だがその裏に隠された巨悪を暴くために身を賭した私の努力は、水の泡となっていた。
初めから腐っていたのだ、この国の軍は。民のことなど何一つ考えていない悪人に、支配されていたのだ。
地獄に堕ち、体を作り替えられ、淫らな感覚を与えられてまで得た真実に、幸せなど何一つもなかった。
自信に対する過信と正義感が、私の目を曇らせていたのだろうか。
もしかしたらなんて微かな希望を抱くことは、無意味だったのだろうか。
ずっと初めから、勝ち目などなかった。
私のしてきたことは、全て無駄だったのだ。
この狡猾な狂人の手のひらの上で、愚かに踊らされていただけだった。
民のために身を粉にしてきた私の人生は、根本から間違っていた。
私は…
私は………
何のために生きていた?
[newpage]
「悔しいか?」
唐突に、閻魔の声が頭の中で鳴り響く。鏡が見せた光景は視界から消え、気付けば私は真っ暗な空間で項垂れていた。
手足の感覚はない。頭も働かない。もう、何もしたくなかった。
「これが貴様が知りたいと望んだ真実だ。本当に恐ろしい生き物だな…人間というものは」
分かっている、そんなこと。だが私にはどうすることもできない。
ここでどれだけ悔やもうが絶望しようが無意味だ。希望は全て絶たれたのだから。
もはや生き返る望みすらも捨て去る寸前だった。あんな無意味な生を終えたというのに、どうしてまた次の生を願う必要がある?
人生を懸けてやってきたことが全て無駄に終わったと死後に告げられて、正気でいられるはずがなかった。体中に生えた無数の獣毛を掻き毟り、この目を抉り、舌を噛み千切って死んでしまいたいという希死概念が心を黒く埋め尽くしている。
だがそれすらも行えないこの場所にいる私は、こうしてただ不可逆的に与えられる激しい後悔の念に苛まれるしかない。
とうとう精神の核にまで手にかけてきた地獄の苦しみは、もはやあの奈落にすら飛び込めそうなほどに私を狂わせようとしていた。
だが…私がどれだけ悲惨な目に遭っていたとしても、どうしても理解できないことはあった。
生きる意思を失ったとて、それを知らなければ死んでも死にきれないとさえ思えるほどの理由である。
「何故、貴様が地獄に堕ちなければならないか……そうだろう?」
「………」
そうだ…どうして私は地獄に堕ちた?
私はただ、国の未来を守りたかっただけなのに。
私よりも狡猾で、人を人と思わず、人の道を大きく逸れた憎むべき存在。私はその暴走を阻止しただけだ。
私が何をしたと言うんだ。私は正義を全うしたのではないのか?
「簡単なことだ。貴様は『罪なき人を殺した』。それだけだ」
「………何だと…?」
言っている意味が分からなかった。そんなこと、軍に入れば誰だって嫌でもその道は通らざるを得ない。
私以外にも戦場で殺し合っている奴らは大量にいるだろう。そうなればほとんどの人間はみな地獄行きだ。
だとするならば、なにも私だけがその罪でわざわざ地獄に堕とされるなんて到底受け入れられない。萎れていた心が多少の熱を帯び、許容できない不条理に思わず怒りが込み上げてくる。
「殺したではないか、影武者を。それが誰だかも知らずにな」
「ふざけたことを言うな…! 影武者など誰でも…」
「そうだ、誰でもよかった。誰でもな。だから選ばれたのだろうな…参謀が」
「………は?」
か弱い吐息は、およそ自らの意思で発せられたものではなかった。それこそ死を迎える老骨が最期の息を引き取るようなその呼気は、空気よりも希薄だった。
背中を冷たい風が撫でたような気がする。止まっているはずの心臓を死神によって握りつぶされたかのように、胸が苦しくなる。
震えが止まらない。ガチガチと牙が擦れ合う音が耳障りに聞こえ、言いようのない気持ち悪さと吐き気が込み上げる。呼吸すら忘れてしまうほどの息苦しさが、喉を閉塞させていた。
「貴様が撃ち殺した元帥の身代わりは、参謀だ。奴は強制的にその顔を作り変えられ、演技を叩き込まれていた。たった1日であそこまで見事な芸当とは、惜しい人を亡くしたものだな」
頭の中に直接響いてくる閻魔の言葉を、ほとんど理解できない。その言葉を理解したくないと私の本能が拒絶していた。
だがそう思えば思うほど、思考は今まで経験したことがないくらいに冴えていく。意識だけが奥底に沈んで、それ以外の感覚は異常なまでに研ぎ澄まされていくようだった。
「そんな……こと……」
頭の中が、今この瞬間に感じている感覚を全て遮断してしまいたいという願望で埋め尽くされていく。そんなことが出来るのならとうの昔にやっているが。
それが叶う訳もないこの空間において、その言葉で私の心は完全に死んだも同然だった。
「そうだ、貴様はそれに気付かなかった。執念に身を焦がし過ぎた結果、自らの冷静を欠いていたのだろうな」
私は、唯一の友をこの手で殺してしまったのか…?
それも、討つべき最大の敵だと勘違いして…?
嫌だ、そんなこと考えたくもないと心が否定しようとする。見たこともないのに、閻魔から聞いただけのその言葉を信じてしまいそうになる自分も確かにいた。
相反する感情の上下に耐え切れない私は、震える手で頭を抱えて蹲ってしまう。
聡明な彼のことだ、もしかしたらきっと何らかの合図を送ってくれていたかもしれない。
それに気づけなかった私が、この上なく愚かなだったというなんとも滑稽な事実を突きつけられていた。
「嘘だとは言わぬのだな」
「…………」
「信じられないのなら、顔が作り替えられる様子を見るか? なかなかに[[rb:惨 > むご]]いものだったがな」
戯れに私を憤らせようと外道な発言をしていることは分かっている。それでも、反応する気は全く起きない。
今ここにいる自分を殺して地獄からも消えてなくなりたい一心だった。
真っ暗な空間についた手は震えている。視界は歪み、目頭が灼けるように熱い。体中を鋭利な刃物で切り裂かれるような痛みが消えない。
「もう、いい…好きにしてくれ……」
「……随分と零落したものだな。最初の威勢が嘘のようだぞ」
理由などない。もうどうでもいい。結局は私もあの元帥と同じ、罰せられるべき罪人に他ならなかったのだ。
地獄に堕ちて当然の行いを、最後の最後で犯してしまったのだから。
「なぁ、死刑囚よ。こんなにも無様に騙され意味のない死を遂げてもなお、貴様は復讐したいと思わぬのか?」
軽々しい口調で、姿なき閻魔が私に語りかけてくる。その内容は、さしずめ裏切られた私にはちょうど良いものだろう。
ボロボロになった心につけ込み、茨の道を進ませるように仕向けるには完璧な状況である。
「貴様は元帥殺害の容疑者として大悪人の烙印を押され、死んだことになった元帥自身は陰で暗躍しておる。貴様の望んだ未来など来ず、他の仲間たちも無事かどうかは分からないのだぞ」
「………」
「そこまでされても、憤りすら感じないのか? 貴様もまた加害者であり被害者なのだ。その上で命を落とし、こうして地獄で苦しんでいるというのに、貴様を死に追いやった奴らに一矢報いたいとは思わぬのか?」
唆すように紡がれていく閻魔の言葉は、あえて私にある怒りの感情を引き起こさせるものばかりだった。
もちろん嘘ではなく、全ては私を貶めるための卑劣な作戦であり、無実の罪を被らされて死んだのだ。閻魔のように、せめて何か報いを受けさせたいと思ってもおかしくはないだろう。
だが……復讐に意味などない。ただの自己満足な悲劇を他人にまき散らすだけで、憎しみの連鎖をより多く増やすだけの悪あがきに過ぎない。
「復讐など…したくはない。もし仮にできたとしても、殺してしまったあいつは報われない…!」
確かに騙されたことに対する怒りは無いわけではないが、それだけで済む話ならどんなに良かっただろうか。
どれだけ私が自らの境遇に意を唱えようとも、あれだけ私を信頼してくれていた、辛い日々を共にしてきた一人の罪なき尊い命を奪った私に…復讐をする資格などないのだ。
仇を討っても幸せになれない末路は、生きている間にずっと見てきた。そもそも生き返れたとて私はおそらく全くの別人であり、過去となっているあの時間に生まれることはできないはずだ。
「なるほど、友のためか。……フフ、やはり貴様はどこまでも興味深い人間だな。こんなにも思い通りにいかないのは久しぶりだ」
「笑うなら笑えばいい。だが侮辱するのは私だけにしろ、彼は一切関係ないだろう…!」
「勿論、理解している。だが淫罰の刑をここまで耐え抜き、己の罪を直視してなお心を保っているのも珍しいものでな」
仮に本心から感心していたとしても嘲りにしか聞こえないが、その言葉と共にいきなり何もない空間から現れたのは閻魔だった。
あまりに予想外だった出来事に、私は思わず変な声を出してしまう。
だがそれは本物というより思念体と言った方が正しいだろうか、体は青白く発光し透けていた。実体の無さそうな見た目のソイツは床も見えない暗い空間を歩き、私へと近付いてくる。
「実を言えばな、貴様を含めた全ての罪人は、時間や年代なぞ関係なく過去や未来に生まれ直すことが可能だ」
「……なっ、何を…言ってる…?」
「儂を侮るなよ。やろうと思えば生前の記憶を引き継がせることもできるが……尤も、そんな面倒で高度な転生などやらん。本来であれば罪人にはその必要など無いからな」
つまりそれは、私が今さっき見たあの事実を知りながら生まれることができるということか? 記憶を保ったままで、私は私の人生をもう一度やり直せるのか?
急に現れて何をするのかと身構えていたのに、会話の内容は何とも信じ難いものだった。受け入れるには大きすぎた衝撃に耐えられず、私は続きを促してしまう。
「いやっ待て、それはあり得ていいのか…!? そんなことをすれば歴史が狂ってしまう可能性も…!」
「仮に過去に生き返った人間が何かをしたことで歴史に変化が起きようと、所詮は些細なものだ。死ぬ人間の数なぞ[[rb:然程 > さほど]]変わらぬ。まあ、儂にとって[[rb:地上 > うえ]]の事情など知ったことでは無いのだがな」
吐き捨てるように乱雑な言葉の紡ぎ方は、閻魔が本当に現世に対して興味がないと分かるほどだった。確かに死後の世界には反乱も革命も起きることは無いだろう、そう考えれば自然なことなのかもしれない。
とはいえ、先の話は確実に私の心を繋ぎ止めていた。突然訪れた千載一遇のチャンスに、消えかけていた心が産声を上げないはずがなかった。
もし言われた通りになるならば、私はあの悲劇を繰り返さずに済むのだから。
腐った軍の内情を初めから分かっていることでより早く対処することができるかもしれないと、思い残した数々の後悔が思考を駆け巡る。
散々間違いを犯してきた自らの道を再びやり直せるという、これ以上ない贖罪の方法であった。
「魅力的だろう? 生前の記憶を持ちながら生き返ることができるのだ、貴様にとってこれ以上ない条件に他あるまい」
言い返せない。もうどうにもならないと諦めて全てを投げ出していた私にとって、その話は喉から手が出るほど欲しいといっても過言ではなかった。
提案した閻魔の機嫌を損ねないようにと、無意識に言葉が慎重になってしまう。
「そうすれば…私はあいつを救うことができるのか…?」
「まあ、そうだな。ついでに以前とは異なる道を模索する時間も得られるだろう」
罠だと思ってしまいたいほどの好条件に、様々な思考が渦巻く。私のせいで狂わせてしまった数々の人生を正しい方へと直せるならば、その話に乗ってもいいのかもしれないと誘惑に負けてしまいそうになる。
だが提示している相手を考えれば、すぐに首を縦に振ることは難しかった。
こうして僅かながらも慈悲を貰える機会が訪れることすら奇跡に近しいことは分かっているし、一縷の望みであることには違いないのだが、それを受け入れることでこの先の刑罰に変化が起きるという事を暗に示唆していると勘繰ってしまう。
「無論、承諾すれば今よりもさらに罰が加えられるが、あの虎の責め苦に耐えられた貴様なら些細なことだろうな」
「くっ…」
決めあぐねている理由を言い当てられた私は言い淀んでしまう。
やはりそう簡単にはいかないか…。どうせまた信じられないような淫乱行為を施されるのだろうが、現時点で奈落以上の恐怖を与えられたことはない。
多少の暴力や侮辱はあろうと、それ以外はすんなり受け入れてしまうのが現状だった。
もちろん逆らえないからやっているだけなのだが、そうやって冷静になればなるほど、自らの心がはしたない行為を許容するための敷居が低くなっていると考えてしまう。
それに加え、ありとあらゆる辱めにより情けなくも喘いでは精液をまき散らしてしまっているこの体なのだから、余計恥ずかしいものだった。
不意に思い出してしまった数々の快刺激により下腹部がじんと疼いてしまう。思えば閻魔の逸物を咥えさせられてからかなりの時間が経っていることに気づく。
だからといってもう一度陰茎をしゃぶりたいなどとは全く思っていないが、先にそう考えるようになってしまった自分が情けなかった。
とにかく、奴の示した提案を受け入れない場合はこれまで通り過ごすだけで、あの忌まわしい罪を全て忘れることができるのだろう。
決して楽ではないが、慣れてしまった行為と見做してしまえば簡単とも言えるものではあった。そんな判断基準で物事を決めたくはないというのが本音だが……。
「言っておくが、儂が話を持ちかけるのはこの先絶対に無いと思え。この地獄にいる時点で貴様らに情けなどかける必要性は皆無なのだからな」
「なら何故、こんなことを…」
「ここまで綺麗で残酷な裏切りを受け、罪を被って地獄に堕ち、自らの手で友を殺したと知りながらも、その友のために復讐すら選ばない貴様が面白いだけのことだ」
目の前で浮かび続ける閻魔の思念体は、依然として興味深そうな眼差しをこちらに向けている。まるで私を品定めでもしているような視線は、実態がないと分かっていてもどこか不安な気持ちにさせた。
確かに、私の境遇を振り返れば復讐の道を選ばないのは妥当な判断ではないのかもしれない。
しかしそんなことより、助けを必要としていたはずの参謀の存在に気付けなかったことだけが唯一の心残りだった。
目標達成の目前で、その最も重要な場面において、注意力を欠いていたのは私の方だったのだ。どれだけ外見が他人であっても、その中身までは絶対に模倣できないのだから。
もし仮にあの後、何かの間違いで元帥の悪事が白日の下に晒されたとしても、私は一生この罪を忘れることはできない。
きっと、どう足掻いても彼は私のことを赦しはしないだろう。私も、こんな軽々しく許してもらおうなどと乞うつもりもない。
「さあ、選ぶが良い。このまま何もせずに刑期を終えて新たな人生を始めるか、たった一人の友のためだけに再び血生臭い茨の道を歩むか……。次は二度と無いぞ」
「………」
私は、罪人だ。
たった一人の人間だけではなく、もっと多くの人々を屠り、それらに関わる大勢の人を不幸にした。
だが、もしも全て初めからやり直せるのなら…。
なかったことにするのではない、あの時よりも僅かに良い未来へと繋ぐため、そして私が犯した赦されない罪の償いとなるのなら……。
妻や子供、救えるはずだった数々の人々、そして参謀。大切な命を無碍に失わないようにするために。
それが私の贖罪なのであれば、生まれた瞬間から全てを定められた人生でも…構わない。
そのためにも、この苦しい刑罰を乗り越えなければならない。ならばこれはただの通過点に過ぎないのだと思えば、不思議と力が漲ってくるような気がした。
「分かった……その話、受け入れよう」
私は震える声を抑えて答えた。反面、これで本当によかったのだろうかと嫌な邪推がすぐに思考を遮る。
冷や汗を伝うような冷気が背中を撫でたような感覚に獣毛が逆立ち、今も緊張感が収まらない。だが今更あれこれ考えても遅いだろう。
初めから選択肢など無かったに等しいのだから、こうして与えられただけでも運が良かったと思うしかない。
「……二言は無いな?」
「その代わり約束して欲しい。本当に私を過去で生まれ変わらせてくれると、今ここでだ」
「クク…その眼差し、やはり貴様は面白い…! 承知したぞ、しかと書き留めよう」
口角を上げ、今までで最も感情が浮き出た微笑を浮かべた閻魔は、どこからか絵巻のようなものを取り出して筆を紙面に走らせていく。
これでもう後には退けなくなってしまったと嘆きたい気持ちもあるが、それを決めたのは紛れもなく私自身だ。どうせ淫魔やあの牛頭たちに誑かされるのだろう、それこそ欲に従順になっていればいいだけの話。
悔しいが、それが一番の最良な選択なのだろう。
「ではこれより、貴様には更なる罰を与えん。あとは刑期を僅かばかり[[rb:殺 > そ]]いでやろう、せっかくの機会だからな」
「なっ、そんなことは聞いてないぞ…!?」
「気にするな、単なる儂の戯れだ。嫌ならそれで構わぬが」
「いやっ、そういうことではない! それならそれでいい!」
慌てて答えを訂正し、何もない空中で手を無造作に降る。およそ閻魔と直接的な交渉を交わした直後とは思えない行動に自分が恥ずかしくなるが、途端に私の意識は昏く微睡んでいく。
気づけば光っていた閻魔の姿も見えなくなっていた。間近に迫る闇に奈落の恐怖がぶり返しそうになるが、それよりも先に気を失えそうだ。
「さぁ、もっと儂を楽しませてくれ……」
薄れていく思考の中で微かに耳に届いたその言葉は、拭いきれない熱を持っていたことだけは理解できた。
─────
「う……っ………」
ゆっくりと瞼が開いていく。手のひらに感じるのは柔らかな絨毯の感触。眩しくも暗くもない部屋の中で、少しずつ実体を得たことを把握し始めていた体は、この場所が閻魔と体を重ねた部屋であると思い出した。
地に足がついた感覚にようやく戻ってこれたという安堵感と共に、久しぶりの肉体になかなか手足の自由が利かない。だが微かに感じる雄の匂いに、早くも体の奥は疼き始めていた。
だが何だ……? 妙にその体が軽いような気がする。淫紋のせいで感覚は鈍っているが、それでもはっきり分かるほどだった。
……どうも股座の部分らしい。きっと長時間この肉体から離れていたせいだろうと軽い気持ちでその違和感を確認したその瞬間。
私は言葉を失った。
「……………は…?」
「気が付いたか? ならばその目で見るが良い。それが貴様の示した覚悟の証なのだからな…」
腹の中を執拗に這いずり回るような声が鼓膜を叩く。強烈な吐き気が喉の奥から込み上げ、底知れない恐怖が私の心を覆い隠していく。
どうせくだらないものだろうと軽々しく予想していたその違和感は、そんな私を嘲笑うかのように裏切った。
私が今見えているものは勘違いだと、まだあの空間にいるのではと強く願いたくなるほどに。
その光景は、死後の世界であったとしても信じ難いものだった。
あるべきはずのものを、失っていた。
男として生まれ持った象徴が、影も形もなく。
それはまるで私の性器が初めから存在していなかったかのように、一切の隆起もなく、ただ平坦に[[rb:均 > なら]]されていたのだった。
[newpage]
「な……っ、なん、で………?」
「先ほど言っただろう、更なる罰を与えると。それが新たな罰だ、気に入ったか?
[uploadedimage:18013736]
呆然自失とする私は、未だ状況を飲み込めずにいた。いや、飲み込めるはずがなかった。
本来ならば陰茎と玉袋があるべき場所なのだ、そこは。この体になって人間の頃よりも一回り大きくなり、淫魔のせいで常に勃起しっぱなしだった肉の棒があったはずなのに。
目下に広がる股座の上には何もなく、腹と同じ色をした毛皮が申し訳なさそうに短く生え揃っているだけ。どうか幻であってくれと思って震える手を近づけるも、指は虚しく宙を掠めていく。
背筋を伝って冷気を感じる肉体とは裏腹に、頭の中は沸騰しそうなほどに熱を帯びていた。信じたくもない光景を見せられれば当然のことだろうが、もはやその次元が異質なのだ。
淫紋を刻み込まれてふっくらとした盛り上がりをしている歪曲した股間はおよそこの世の物とは思えないほど精巧で、不気味なまでの奇観に目を離すことができない。
男を男たらしめるに最も重要な象徴を奪われてしまったことを悟った私の心には、既に癒えないヒビが入り始めていた。
「うっ、嘘だ……どうして、こんな……!」
「今更戻してくれなどとは言ってくれるなよ。契りの放棄は認められぬぞ」
閻魔の言っていることに気を向かせることすらできない。なぜ、どうして、一体どうやって失くしたというのだと頭の中がぐちゃぐちゃになり、激しい眩暈に見舞われてしまう。
だがどれだけ願ってもこの光景が変わることはなく、明らかに狂った状況の中では正気を保つことすら困難だった。体が鉛で固定されたかのように手足が動かせず、呆然とした掠れ声を漏らすことしかできない。
「さて、具合はどうか見てやろう」
「なっ、何をする……!? やめろっ、触るなぁっ!!」
あまりの衝撃ゆえか、私の言動は稚拙な幼児のようにみっともないものとなっていた。
羞恥心すら超えた辱めの感情に支配された挙句暴れようとするも、閻魔は私を命令で動けなくさせるとゆっくりと股間へ腕を伸ばしていく。
そしてまだ私も触れてすらいないその膨らみへと手を添え、優しく撫で始めたのだった。
「……? ……なっ、あっ……?」
「ふむ…よく出来上がっている。最初ばかりは少し気持ち悪いだろうが、すぐに忘れるだろう」
「そっ…そんなっ、こと……あう、ぅっ…!?」
閻魔の指が被毛に覆われたその部分を撫でる度に、ゾクゾクと背筋が震えるような甘い快感が迸る。それはまるで絶頂直前のあの感覚と等しく、体は正直に腰を砕かせてしまう。
混乱する私を楽しみながらも、閻魔はその手を止めない。そこに男根は無いのに、激しく扱かれているのと全く変わらない感覚に頭がおかしくなりそうになる。
そして唐突に、股間…であったはずの膨らみを握り潰されたその瞬間、全身が砕け散ったかのような快絶が私の脳を焼き切った。
「あ゛っ!? なっ、ああぁっっ!!?」
絶叫の直後、下腹部から勢いよく精液が放出される。見なくとも精液だと分かるのは、その快感が射精のそれと何一つ変わらなかったからだ。
だが肝心の吐精を行うための器官は存在していない。鈴口も尿道も見えないのに、どうしてそれを感じてしまっているのか。
途轍もない焦燥と羞恥心に駆られた私はすぐに自分の股座を見る。目に映ったそれは、あまりにも受け入れ難い光景だった。
「なっ、えっ!? なんだこれは……っ!?」
閻魔の掴むその皮膚には、一筋の割れ目のような筋が縦に走っていた。体の正中線を真っ二つに区切るように位置するその線分から、大量の白濁が漏れ出していたのだった。周りの毛皮はドロドロの粘液に塗れ、真下には小さな白濁の水たまりが出来上がっている。
その量は、明らかにこれまでの射精量とは比にならないほど多かった。
「ほう、悪くない感度だな。せっかくだ、中身も見せてやろう」
「ん゛ひィっ!!?」
そう言うと閻魔は両手を私の股に添え、出し切れなかった精液を漏らすその筋に力を込める。
たったそれだけでも2度目の絶頂を迎えてしまいそうなほどの悦楽が体に走るのだが、身動きの取れない私は声を漏らして受け入れることしかできない。
やがて力を込められた指の先で、ぱっくりと縦に割れた穴が開いた。中から除くのは透明な液体に煌めいた桃色の肉で、先ほど私が噴出した白い粘液が両壁に渡って垂れ下がっている。
そこは既にかなり濡れているらしく、ぬらぬらと妖しげな光沢を放つ生々しい肉壁の見た目に酷い悪寒を覚えた。
「なっ、何なんだ…これは………」
「新しく生まれ変わった股間は気に入ってくれたか? それは数ある淫罰の刑の内で、儂が許した者にしか施さぬ特別な代物だ」
そこは正真正銘、私の体の一部であった。性器を失った代わりに与えられた、歪なものだった。
あまりの衝撃に開いた口が塞がらない私を無視し、股間を押えていた閻魔が太い指をいきなりその隙間の中に突っ込む。ぐちゅりと卑しい音を立てた挿入の直後、私の頭の中には激しい火花が飛び散った。
「ひぎ────ッッ!!!???」
一瞬、時間にして一秒にも満たないだろうが、確実に私は気絶していた。ブシッと少量の水が放出されたような感覚を覚えるが、それを確認するために割く意識はほぼ無かった。
糸が切れたように体の力が抜けて倒れ込みそうになるが、なんとか意識を取り戻して持ち堪えようとする。しかしその余波はあまりにも強く、腕や足はガクガクと震えて四つん這いでいるのも精一杯なほどだった。
一体何が起こった? 私は今何をされた?
必死に状況を理解しようとする思考回路とは反対に、体の奥で疼く淡い感覚は消えてくれない。むしろそれは私の身に起きた事象を、事後であろうと鮮明に教えてくれていた。
「指を挿れただけで失神するとは、随分と気持ち良かったようだな」
「ああっくぅ!?」
そう呟いた閻魔が再度隙間から指を抜く。たったそれだけで指が触れていた部位から快感が瞬く間に広がり、自分でも驚くほどの奇怪な声を上げて背中をピンと伸ばしてしまった。
目線の先にある指から伸びる真っ白な粘液のかけ橋は、私の股間へと繋がっている。やがてそれは溶けるように千切れると、閻魔は指に付着したそれを見せびらかすように舐め取っていく。
長い舌先が全ての粘液を掬い取ると、まるで喜ぶかのように微笑を浮かべて唸った。
「ふむ……美味いな。やはり貴様はこの刑罰に選ばれるべくして選ばれたらしい」
「さっきから何を言っている…! わ、私の…その、男根…はどこへいったのだ…!? これはもう戻ることはないのか…!?」
「無いな。それは貴様が更なる罰を選択した証であり、枷なのだ。受け入れる以外の選択肢などないぞ」
「…そっ、そんな………!!」
わ、私はこれからこんなもので射精をしなければならないのか…?
男性器とは思えないこの縦割れの場所から…?
嫌だ…これは、これではまるで……
「くく…そうだ、まるでメス同然だろう? 貴様はこれより、それが性器の代わりだ。ああ、ちなみに肉棒を擦るなんかよりも遥かに感度は高いからな、最高の淫罰に酔いしれるが良いぞ」
雌。そう、これはもはや女の体と一緒だ。男である象徴を取られた私は、逆に女の象徴を与えられてしまったのだ。
これは何かの間違い。こんなことはあり得ないと逃避しようとする負の感情が大きくなっていく。だがこれまで施されてきた数々の淫行によって徐々に矯正されていた体は、その変化に鈍くなっているようだった。
いや…むしろ敏感になっていると言った方が正しいのだろうか。
「見てみろ、さっき出したばかりなのにもうはしたない汁を垂らしているだろう? それほどまでに貴様のナカは熟れ、貪欲に雄を求めようとしているのだ」
そう言われて初めて、いつしか私の太ももには生温かい液体が伝っていたことに気付く。慌てて下を見れば、足元には既に小さな水たまりまでできている。
閻魔の言う通りこれが我慢汁だというのなら、以前よりも尋常ではない量に違いなかった。
「くっ…………なっ!? 手が…」
これでは発情した雌と何ら変わらないのではないかと、あまりの恥ずかしさに思わず両手で割れ目を隠そうとするが、私の両手は股座に触れる一歩手前でぐにゃりと方向を逸らされてしまった。
まるで磁石の同極が反発しあうように、押し勝てそうで勝てない苛つきが募る。持てる力を全て振り絞ってみても、謎の斥力は皮膚にすら触れることを許さなかった。
「ああそれと、体の自由は戻してやったが、そこには貴様は指一本たりとて触ることはできぬようにした。これでもう、自らの手で絶頂することは叶わぬ」
「は…!? なっ、何故そんなことを!?」
「尤も、これが淫罰の刑における最上の罰。時間を超えて生き返るとは、それ相応にして対価も大きいということ。だがその分刑期も減ると言っただろう? つまり実質的な刑罰の変化はない、これまで通りに過ごせば良いだけだ」
これまで通り…? 自分の手で射精出来ない上に、こんなものを付けられてこれまでと同じく過ごせる訳がない…!
今もその割れ目は膨れ上がり、心なしか勃起しているかと思わせるほど赤らんでいるように見える。止めたくとも勝手に溢れ出てくる我慢汁を抑えきれず、トロトロと流れる液体を隠せない羞恥に心が張り裂けそうだった。
「ずいぶんと欲しがりな穴だな。これでは淫魔に初めから激しく突き刺されて耐えられるかどうか……。どれ、少し慣れさせてやろう」
「はっ!? いやっ、もういい! これ以上はもうやめてくれっ!!」
「五月蠅いぞ。やはり性器を変えたとて減らず口は変わらぬようだな」
「がっ、んぐぅっ!!?」
大きな手に口を塞がれ、想像を絶する怪力によってあっという間に床へと伏せられる。蔑むような態度からは考えられないほどの力の差は、思い知らされる度にどんどん離れているような絶望感が体中を覆っていく。
「───ッッ!!!」
間髪入れずに私の股間にできた隙間へと指が突っ込まれ、先ほど味わったばかりの強烈な快感が脳内に光る。会陰を下から蹴り上げたかのような衝撃に私の意識は再び彼方へと飛びそうになるも、私は必死の思いで絶頂を堪えた。
「……ん? どうした、出さないのか。我慢するだけ無駄だろうに」
確かにそうかもしれない。こんなにも異常に感度の高い性器を与えられておいて、快楽に身を委ねない方が苦であると言ってもいいだろう。
だがそれでも、出来ることなら射精はしたくなかった。この割れ目での快感を覚えてしまったらもう、以前と同じではいられなくなるというある種絶望にも似た確信があった。
それほどまでに、あの快感は危険なものだと一回の射精で理解させられたのだ。
そう悟った私の体は、幸いにも指を挿れられただけでイってもおかしくないその快感を抑制することを可能としていた。火事場の馬鹿力とでもいうのか、出自不明の原動力が耐え忍ぶことを手助けしてくれていた。
「さて、その虚勢はいつまで続くか見ものだな」
「あぁっ!? んひぃっ……あっぐぅ…っ!」
閻魔の指がぐちゅぐちゅと容赦なく割れ目を掻き分ける。それに反応して私の割れ目は否応なしに痙攣し、大量の我慢汁を湧き水の如く垂れ流していく。
足元に感じる生暖い温度は、興奮している私を表しているようだった。
端的に言ってしまえばこれは穴を解されているだけで、なにも男根を突っ込まれている訳ではない。割れ目の内側にある肉壁を異物が擦っただけなのに、それだけで射精寸前の愉悦が意識を刈り取ろうとする。
臍から下が途方もない熱を帯び、やがて火がついて燃えてしまいそうだった。これまで感じていた快感の価値観が無理やり書き換えられ、新たな性器による悦楽の刷り込みが行われていく。
それでも私は、負けじと耐え抜くことに必死になっていた。
微々たるものだろうが、その中でも私は必死にその割れ目を閉じようと力を込めることで抵抗していた。
締め付けることによって一時的に高まった射精の欲求さえ我慢できれば、なんとか持ち堪えられる。だがどうしても喘ぎ声だけは耐えられず、閻魔の目の前で漏らしてしまう自らの嬌声に心が歪みそうになる。
とはいえギリギリ絶頂を免れているのは事実で、綱渡りの状態には変わりない。
「あっ…うっ、くひぃっ…!! んっあっ、ああぁっ!!!」
故に、限界はすぐ迎えようとしていた。むしろここまで耐えられたことが奇跡だと思ってしまいたくなるほどだ。
割れ目から広がる強烈な快感は、まるで射精を無限に続けているような感覚に近かった。もはや痛みにすら近くなっていた快感が数分単位で続いてしまえば、気絶寸前まで追い込まれるのは確実だろう。
「我慢せずに放ってしまえばいいだけの話だろう。何故そこまで抗う必要があるのだ」
「ッッぐあぁ!!!」
閻魔の指がさらに奥の肉を切り開き、雷に打たれたかのような火花が脳内に散らばっていく。許容できる悦楽の強度を軽々と超えた電撃に、息すら忘れてしまいそうになる。
このままでは確実に壊れる…!
だが割れ目から広がる快感が途轍もなく気持ちいい…もっと奥深くまで挿れてぐちゃぐちゃに掻き乱して欲しい…!
「この快感を覚えれば最後、貴様は普通の性交などでは満足できん体になるだろう。だがそれが貴様の選んだ茨の道だ、それが嫌なら今ここで狂ってしまうほかないな」
イってもイかなくても心の中のどこかが狂ってしまうのは確実だった。どちらにせよ悪い結果しか残されていない事実に、私の心は擦り切れる寸前まで追い込まれている。
もう、なにもかもかなぐり捨てて気持ち良くなってしまいたい……。心にできたその隙間を埋めるように、耐え切れない悦楽への欲情がムクムクと膨らんでいく。
嫌だ…もしこのままイってしまったら私は絶対に狂ってしまう気がする…!
でも、イきたい……射精したい…! 早くこの苦痛から解放されたらどんなに心地良いだろうか……!!
「……っあ゛あ゛ぁッ!!?」
強大な肉欲にとうとう圧し潰されそうになったその瞬間、股間がまるごと引っ張られたような感覚に私は絶叫する。微かに白濁を漏らしてしまったらしいが、射精まではいかない量だった。
あまりに一瞬の出来事に困惑するも、次第に私を苛んでいた苦しみの波が引いていることに安堵が広がっていく。割れ目の中にあったはずの指の感触も消え、見ればそこに閻魔の手はなかった。
「……やはり簡単には屈さぬか。どうも貴様は興味深いな…」
溺れかけた人のように激しく喘鳴を繰り返す私に、反論する余裕などない。だが、初めて閻魔の思い通りにはさせなかったことで、絶対的な存在に一矢報いることができた高揚を僅かながら感じていた。
しかしそれがたったひと時の喜びであったことを、すぐに知ることになる。
ようやく平穏を取り戻したはずの股間が、先ほどから妙におかしい……。弄られた時の痛みにも似た感覚の残滓とでも言うのか、ムズムズとした違和感がずっと下腹部を覆っている。
原因場所が分からないむず痒さのように、どこを触れば収まるのかを把握できないもどかしさが募っていく。それは初めて淫紋を施された時よりも強く、神経のより深い場所へと侵入して来る厄介な疼痛だった。
不安を感じながらも自らの股間を見ると、そこはぷっくりと腫れて薄桃色に充血していた。男根が勃起するように、コレも血が集まるとこのようになるのかと背中にぞわりと戦慄が走る。
閻魔によって激しく扱われた影響かヒクヒクと何かを埋めるように蠢き、その気色悪さは度を超えていた。
筋の周りにある被毛は雨に濡れたように先走りで濡れており、改めてみるその奇怪さに余計目が離せない。
股間の感覚に意識を向けてしまった私の脳内は次第にぼんやりと霞み始め、下腹部だけだった疼きが全身へと広がっていく。
それに伴い股間の割れ目のむず痒さはさらに増し、頭が煮詰まるような息苦しさに呼吸が乱れてしまう。
「……はぁ、はぁっ…はぁっ、うう…!」
体が灼けるように熱い…! 股間に触りたい…何でもいいからこの痒みを消し去りたい…!
股間のむず痒さはとうとう耐え切れないところまで至り、私はもじもじと太ももを擦り付けるような動きを始めてしまう。
そうやって初めて分かったことだが、中の肉はみっちりと隙間なく膨れ上がっているようで、たった少し擦り合わせただけで言葉にならない絶頂感が体中を駆け巡った。
他者から弄られるのはまだしも、私自らが行うことは駄目だと分かっているのに。それでも、このむず痒さをどうにかしなければ気が狂ってしまいそうな恐怖に負け、内股で割れ目を擦るという醜態を晒しながら続けてしまう。
にちにちと粘液を圧迫するような淫猥な音が余計に欲情を煽る。両端の肉壁が曲折する度に身を焦がすような快楽が襲い、ガクガクと膝が震えてしまう。
せめて手で周りをさするだけでもマシになっただろうに、いくら近づけたくても股間にすら触れられなければこうするしか方法はなかった。
「うっ、くぅ……あっ、んんっ……!」
閻魔の目の前で生娘のような声をあげて、いったい私は何をしているのだという理性も、少しずつむず痒さが消えていく解放感には抗えない。
完全とまではいかなくとも何度か繰り返してようやく耐えられるまでに収まりを見せ、両足で立てるくらいには回復することができたが、不恰好な姿を晒している事には変わらなかった。
「随分と苦しんでいるようだが、そんなにいやらしく足をくねらせては女のようだぞ」
「……! いっ、言うな…!」
「フフ…疼くのだろう? 燃えるように熱いのだろう? 当然だ、そうなるように作られているのだからな。貴様が感じているその苦しみを消し去ることができる方法は…一つだけだ」
そう言うや否や、閻魔は屹立した自らの肉棒を見せつけた。真っ黒な皮膚に浮かび上がる筋は性欲の強さを表すように太く、根元にかけて太さを増すそれに思わず釘付けになってしまう。
遠い昔のように感じる激しい口淫の記憶が蘇り、否定したくとも体が反応しては熱を籠もらせる。
気が付けば収まっていたはずの疼きが下腹部で広がり始めており、早すぎる再発に私は慌てて内股の姿勢を取るしかなかった。
これで股間を両手で覆えれば完璧なのだが…
「まずは濡らしてもらおう」
「……っ…」
今すぐにでも逃げ出したくなるその言葉だが、前回の口淫で閻魔との絶対的な差を植え付けられた私の体はゆっくりと膝を折り身を屈めていく。目と鼻の先まで迫ったその男根を前にして、股間はおろか全身がじんわりとした熱を発してしまうのが何ともやるせない。
だがここで抵抗したとて意味はないのだろう。憶測に過ぎないが、私の逸物を戻す方法を隠し持っているという一縷の望みを捨てきれないのも正直なところだった。
[newpage]
結局諦めることを優先した私は、膨らんだ割れ目の肉が擦れないよう細心の注意を払いながら身を屈める。
なんとか快感を感じない程度に抑えられたが、目の前に鎮座する立派な雄棒を前にして、その股間が反応しないはずもなかった。
「……チ、チンポをしゃぶらせていただきます…」
「よし、許そう」
ほぼ完全に刷り込まれてしまった開始の合図を呟き、私は閻魔の肉棒を頬張っていく。
やはり一本丸ごとは咥えきれない太さは相変わらずだが、無理やり突っ込まれた影響もあり自然と苦しくはなかった。またも改造されてしまった自らの体を自覚して嘆きたくなるが、徐々に思考を奪われ無意識的に根元や亀頭を舐め回してしまう。
だが、思えば閻魔の逸物は常に綺麗であった。牛頭たちのような獄卒とは違い丁寧に手入れされているが故の滑らかな舌触りは、他のものでは味わえない特別感に近かったかもしれない。
…いや、こんな淫猥な行為そのものは全否定するが。
「命令せずとも従うようになったな。そうだ、貴様はただ言われるがままにしていればいい」
頭上から投げかけられる無慈悲な言葉が、僅かながらも私のプライドを削り取っていく。かつては男としての生を全うしていたはずなのに、どうして死んでからこんなことをしているのだと。
だがそれも、閻魔の股間から漂う濃厚な雄臭によってかき消されてしまう。敏感になった鼻はヒクヒクと動き、求めるようにその匂いを吸い込んでは脳髄を痺れさせる。
麻薬にも似たその作用に流されてはいけないと思っていても、口元に広がる肉厚な棒と関連付けされてしまっては抗うことが困難だった。
次第に私の口は喉輪を最大まで開かせ、口全体を使って奉仕するようになる。閻魔によって叩き込まれた過去の動作を本能が思い出し、ひたすらに前後運動を繰り返していた。
およそ口に含むものではないはずなのに、舌の上に広がる塩辛く濃厚な雄の味が妙に病みつきになってしまう。
立派な肉棒に奉仕しているという達成感と陰毛から匂う強烈な淫臭に思考は蕩け、もう少しだけ続けていたいと舌先が……
「随分と美味そうにしゃぶってくれるではないか、よほどチンポが好きになったようだな」
「…………はっ…!!」
その言葉に一瞬で我に返った私は咄嗟に口を離す。同時に、自らに起きた変化に落胆した。
以前であれば抵抗できないから渋々行っていたはず。しかし私は今、自ら進んで奉仕していたのか…?
その間の意識がはっきりとしないのも、それだけ夢中になっていたということなのだろうか。
「何も言わずとも自ら進んで舐ってくれるとは、淫魔の躾も相変わらず見事なものだ」
「いやっ、違うっ! これは言う通りにしただけで…」
「言い訳など無駄だ。上のみならず下の口からも涎を垂らしていては説得力も無いぞ」
「………な!?」
言われてすぐさま下を見れば、私の足元は透明な液体が広がっていた。その根源は言うまでもなくあの割れ目であり、蹲踞の姿勢を取っていた太腿を伝ってとろとろと壊れた蛇口のように今も液体を垂れ流し続けている。
もはや先走りを排尿しているのと変わらない光景だった。
止めようと思っても勝手に溢れ出す粘液に、あまりの恥ずかしさに耳の先まで熱くなり、近づけることはできなくとも股間を覆い隠そうと必死になる。
それがどれだけ滑稽に見えても、失くした逸物を晒すよりも心に刻まれる傷は少しばかり軽い。
しかし、たった数分男根を舐めただけでここまで体が反応するのも異常なことで、自らの体の変化に驚きを隠せないのもまた事実だった。
「くそっ、どうしてこんな…!」
「何も隠すことはないだろう。これは淫罰の刑なのだ、貴様はただ楽になって欲に従えば良いだけだと言っているだろう?」
そう言うと閻魔は私を無理やり立ち上がらせ、肩を掴んで動きを抑制した。抵抗できないのは分かっているが、それでも顔を直視したくない私は下へと目を逸らす。
しかし見ると、そこには屈強な肉体から伸びた極太の肉棒が私の割れ目へと一直線に向かっていた。
私も同じ雄であるはずなのに、象徴を奪われた自らの下腹部には何一つない。臍の下に刻まれた淫紋と1本の筋しか残っていない寂しい股間がひどく情けなく思えてしまう。
だというのにその部分は、すぐ近くまでやってきた男根に求愛の反応を示しているようだった。
始めは痒い程度だった疼きはズキズキと鈍い痛みを発するほどに酷くなり、腹の底から渦巻く強すぎる肉欲が私の思考を歪ませていく。
見下ろすその肉棒の艶やかな包皮や張り出た雁首、そして鈴口から少しずつ零れ始めている透明な液体の淫猥さに、肉壁のむず痒さは激しさを増す一方だった。
今すぐにでも股間を掻き毟らなければ頭が狂ってしまいそうなのに、届かない手のもどかしさが精神を蝕む。意識すればするほど体の奥が焼き尽くされるような焦燥感が募り、私の理性はボロボロに引き剥がされていた。
「ほら、貴様の割れ目は儂のを求めて悲しく震えているではないか……。これを挿れればどうなるのだろうな…?」
「はっ、はっ……くぅう、あぁあ……!」
自らの唾液で濡れたその肉棒が割れ目に押し付けられる。それだけで強烈な快楽が広がり、抗うための力すら入れられずに膝から崩れ落ちそうになってしまう。
だが閻魔は私を離さずに固定し、わざとらしく焦らすように亀頭の先端だけで筋をなぞっていく。指とは比にならない本物の雄を擦り付けられた割れ目は歓喜するかの如く震え、どぷどぷと淫らな液体を垂れ流していた。
「挿れて欲しいか? コレを挿れれば貴様のその疼きは消えるぞ。絶大な快楽と共にな」
「………くぅっ…!」
い……挿れて欲しい…! 早くそのチンポでぐちゃぐちゃに掻き回してこの忌々しい疼きを消して欲しい…!!
頭の中が単純で淫乱な思考に埋め尽くされていく。息が荒くなり、体は火照り、下腹部を襲うむず痒さに発狂するまで時間の問題だった私は、おずおずと自ら股間を突き出してしまう。
「……ほう、それが貴様の答えか」
ここまで焦らされて挿れない方がもはや拷問に等しかった。指だけでイきかけるのに、それよりも二回り以上太く立派な剛直を目にして耐えられる訳がなかった。
あんな凶器を捩じ込まれたら、おそらく1分と経たずに壊れてしまうだろう。だがそれ以上に下腹部の疼きは強くなり、胃が痛くなるほどのもどかしさを消したい一心で縋りつくようにソレを求めてしまう。
「……あっ、あぁっあっ、はぁあ…!」
もはや体裁なんてどうでもいい。作り替えられてしまった股間への羞恥心もなく、止めどなく湧き上がる肉欲に従おうとしていた。
ぐちゅりと、どす黒い雄棒が快楽の門を開いていく。欲情に濡れた隙間から甘く蕩けるような香りが漂い、全身の感覚が泡となって消えてしまいそうになる。
「ならば儂は、こうするとしよう」
「──ん゛ひい゛いぃっっ!!?」
しかし、手の届く所まで近づいていたその願望は、一瞬にして悉く砕け散るのだった。
あと少しで極太な根元までが割れ目の内側へと飲み込まれようとしたその瞬間、閻魔は一気に肉棒を引き抜いたのだ。
形容し難い絶頂の波に意識を攫われ、視界が白んで狭窄する。脳内で激しく火花が弾けたような強い衝撃に全身から力が抜け、耐え切れずに両腕をついて跪いてしまう。
気絶しなかっただけ奇跡だ。今まで感じたことのない快感に体中から脂汗が噴き出し、頭がうまく働いてくれない。だが、目前まで迫っていながらぱったりと途切れてしまった強大な愉悦が私の顔を歪ませていた。
「はぁっ、はぁっ、なっ…なぜ止めた…っ!?」
「何故? 貴様がそうしていたからだが。必死に耐え忍ぶことが好きなのだろう?」
「……ぐ…ッ…!」
閻魔の言葉に口ごもってしまう。この割れ目での快感を覚えてしまわぬようになんとか堪えようとしていたのに、いつの間にかそれを無意識に求めるようになっていた自分が恥ずかしくなってくる。
その言葉に従うように私の割れ目はじんじんと疼き、あと一歩のところで切り離された欲望を求めて貪欲に蠢いていた。本当であれば見たくないはずなのに自然と視線を移してしまうのは、ソコがあまりにも淫猥で惹かれてしまうからなのだろうか。
誰がどう見ても、それは雄を受け入れるためにしか存在していない穴であった。
「ということは、貴様は後ろだけで十分だ。せっかく作ってやったのに使わぬのは勿体無いが、これもまた余興というものよな」
閻魔はそう言うと、収まりがつかない割れ目の主張に狼狽えていた私の後ろに回って腰を掴む。ガッチリと固定するその手は慄くほどに大きく、もう逃げられないのだという絶望感が全身を包んでいく。
数秒もしないうちに尻の穴にあてがわれた焼き鏝に、全身がビクリと反応した。
「ひっ…!」
「力を抜け。抵抗するな、息を止めるな、ただ受け入れろ」
命令ではない、当然のことだと言わんばかりの吐き捨てるような言葉にも従ってしまう自分の体が憎くて堪らない。それなのに股間の奥は今も疼き続け、この先を促すように下半身を突き出させる。
「くっ、はあぁあ……!!」
一切の躊躇なく無理やり押し拡げられていく肛門に避けようのない痛みを感じるも、長く太い雄棒が侵入してくる途轍もない圧迫感の方が勝っていた。
やがて私の尻に肉の板がぶつかったことで、中へ全て捻じ込まれてしまったのだという実感が湧き起こる。意識した途端に腹の中が膨張するような感覚を覚え、強烈な息苦しさに呼吸は浅くなっていた。
「少し前に慣らしておいて正解だったな、すんなり入ったぞ」
「はっ……がぁ…!」
「前の穴ではもっと強い悦楽を得られたというのに。……だがそれでも満足はさせてやろう」
ゆっくりと尻穴の中にある逸物が動いていく。腸壁が擦られる違和感に逃げようとしても体は動かず、抜けそうになったところで再び挿入される。
あまりの太さからくる窮屈さに声も出せず、後ろの穴がみっちりと満たされている感覚を嫌でも覚えさせられていた。
浄玻璃の鏡で真実を見るよりも前に一度経験していたはずなのに、今はやけにその感触が鮮明に感じるような気がする。意識していなくとも閻魔の肉棒の熱が直腸内を広がり、体に抵抗する力が入らなくなっていく。
「あっ、あっ、んっ! あっぐっ、あっ、んぅっ……!」
次第に後ろで出し入れされるスピードは上がり、とめどない先走りによってびっしょりと濡れてしまった接合部の滑らかさに驚愕した。抜ける寸前で止まっては再びズンと奥深くまで侵入を許し、その度に腰の奥から感じる妙な快感に声が漏れてしまう。
一連の流れに伴って弾き出される淫らな衝突音にどうしようもなく耳が反応してしまう。
それが自らの尻から発せられていると思うと一気に羞恥の心が思考を奪い、止めてくれと言いたくても言えない自分に嫌気が差してくる。
だが、そこで私は妙な事態に気が付いた。
今も尻へと堆積している形容しがたい快感。今までは尻の奥で感じた後に消え、それで終わっていたはずだった。
しかし今、その感覚は消えずに残り続けているのだ。もちろん絶え間なく尻を犯されているというのも確かにあるのだろうが、それだけでは説明がつかないほど長く私の体に居座り続けている。
しかもそれは後ろではなく前の方へと移っているような気さえする。あの割れ目を与えられた時に感じたもどかしさと似たような疼きに変わって……
いや違う……!
犯されているのは尻なのに、割れ目の方で興奮し疼きが高まっている…!?
「…気が付いたか。そうだ、貴様は今後ろで感じているにも関わらず、その割れ目すらも気持ち良くなっているだろう? それ程までに感度が高まった貴様の体がそうさせているのだ、そして……」
「……あ゛っっ!!?」
突如として私は悲鳴を上げた。それは痛みが原因ではなく、絶頂した訳でもない。ただ尻の奥にある何かに閻魔の肉棒が擦れただけだ。
しかしその瞬間、私の体には電撃のように鋭い感覚が駆け巡っていった。それはすぐに快感だと分かるも、じんじんと今も尻穴に強く残り続けるほど強力な余韻に理解が追い付かない。
だが、閻魔は執拗にその部分を狙い続けた。
「あっ! やっ、あっぐぅっ!? んぎっ、ひぁあ!!」
「分かるか? 前立腺だ。雄にしか存在しない快楽の起爆剤、さらなる欲を生み出す魔法のような部位である。貴様の性器はメス同然だが中身は変わっておらん、故に射精と同様の絶大な愉悦を感じられるのだぞ」
前立腺…! 淫魔から軽く聞かされたような覚えのあるその言葉に多少の把握が進むも、同時にその部位の感度の高さに絶望してもいた。
尻を使われ始めてからそう時間も経っていないのに、いきなりこんな度を超えた前立腺での快感を味わってしまった体が次に何を求めるかなど目に見えている。
ズンズンと突き上げられる度に迸る快感は、自らの男根を手で慰めるより何十倍にも思えるほど心地よかった。
あまりの快刺激に思わず腰を浮かせて逃げようとしてしまうが、そうすると掴まれた腰を深く押し込まれ、余計に鋭い電撃が迸って逆効果に終わる。
何度も擦られてきた腸壁も徐々に慣れ始めているらしく、もはや痛みは消え熱へと変わり、じわじわと妙に暖かい液体を分泌させていた。
ぐっちゅぐっちゅと肉同士が衝突する音に合わせて中にある前立腺が悲鳴を上げる。連続絶頂にも等しい快感を無理やり施され、もはや呂律も回らないほどに憔悴していた。
「あっ、んあっ……やっ、やめっ…! やめて、くれ…ぇ…ッッ!!」
「儂に指図する気か? チンポも玉もないメス風情が? 滑稽にも程があるだろう」
「…ん゛ひぃあ゛ぁ゛っっ!!?」
指図ではなく懇願だ。これ以上続ければ本当に狂ってしまうと本能で察した私の、精一杯の願いだった。
だがどれだけ涙ながらに言っても肛交の激しさは増すばかり。全身を殴打する巨大な快感と、むさ苦しい雄の匂い、そして情けない自らの嬌声が部屋に響き渡るのみ。
雄が雄を犯すという想像すらしなかったこの事態に、私の心の中で何かが崩れ去っていくような気がした。
私は男で子供を孕ませた経験もあるのに、どうして今尻穴に男根を挿れられて感じているのだと、頭が煮え滾るほど悔しくなる。
だが、体は正直に反応している。どうしようもなく悦んでいる。
その事実がどんどん心に傷をつけ、否定すればするほどにそれは深く鋭利に刻まれてしまう。
もはや抗う意味などなかった。せめて閻魔を満足させれば離れる機会が訪れるかもしれないと、被食者にも似た逃避思考が体を脱力させていく。
そんな私の弱い心に反応するかのように、赤く腫れた股間の割れ目はじゅんと疼き震えていた。
「限界が近いようだな? 安心しろ、経験したことのない悦楽を今から施してやろう…」
「ん゛ぎぃ゛ッ!!?」
ズドンと極太の肉棒が最奥を穿つ。快楽の塊に腸壁が圧し潰された反動で息が詰まり、背筋が硬直した。
みっちりと栓をされた私の尻穴は反射的に中の逸物を締め付けてしまい、炎のような熱の強さに肉壁が委縮する。
直後にそれは激しく痙攣し、直腸を押し拡げるかのように暴れ回ると、口淫で得た経験から射精する直前なのだと悟った。
「出すぞ…! 全て受け止めろとは言わぬ、今はただその愉悦に溺れるが良い!!」
次の瞬間、爆弾が爆ぜたかのような勢いで私の体内が灼熱を帯びた。ホースを尻の穴に直接挿入されて放出されていると錯覚してしまうほどの熱い水流が暴れ回り、ゴボゴボと臍の下で濁った音を立ててかき混ぜられていく。
みるみるうちに溜まっていく閻魔の精液は尋常ではない量で、下から押し上げられる感覚に吐き気がこみ上げてきた。
だが、それを瞬時にかき消したのは私自身の射精。閻魔に子種を注ぎ込まれる度、それを右から左へ受け流すかのようにビュルビュルと勢いよく割れ目から白く濁った液体が漏れ出ていく。
感度の高くなった縦割れの肉壁を精液が通る度に言葉にならない快絶が襲い、閻魔の肉棒を強く締め付けながら弓なりに背中を沿ってしまう。
肉棒という方向を決めるものがないせいか、白濁は破裂した風船のように四方八方へと飛び散り、私の体はもちろん顔にまで降りかかった。
閻魔よりは薄いが、それでも感じる雄の匂いにイったばかりの体が反応してしまう。鼻腔から脳へ巡り、首筋から広がっていく興奮が新たな熱を産出する。
その快感は、快感という言葉の定義を塗り替えるほど強大だった。生きている間にこれを経験したらおそらく確実に死んでしまうかもしれない。
手淫なんかで得る刺激が塵芥に思えてくるその愉悦に、私の肉体がまた一つ何かを失ったような気がしていた。
しかし、閻魔の射精は1回で収まらない。二度三度と鎌首をしゃくりあげては大量の精液を何度も吐精し、その度に歪められた腸壁が感じ取る快楽に体が否応なく反応してしまう。
固定された腰は何度も情けなく折れ、入りきらなかった分が接合部から漏れ出してボタボタと落ちていった。
「くく…言葉も失うほどの快楽であっただろう。貴様の尻と割れ目はそう答えているぞ」
「……ぃっ!! ひ、ぁぁ……っ!」
未だ抜ける気配が無い尻の中の肉棒は、吐精を止めたにも関わらず硬さを保っている。答えを急かすようにぐりぐりと押し付けられても、それだけで下腹部が淡い快感に覆われてしまい返答どころではなかった。
奥深くまで突き入れられるのを恐れてピンと伸びた足先が何とも情けない……。
目線の少し先には私が出したのであろう大量の白い水溜りが見え、足元には射精の反動で今も垂れ続けている先走りの生温かさを感じていた。
「随分と派手に出したようだな…。潮吹きとも射精とも言えぬ絶頂の気分はどうだ?」
心なしか気分を高揚させたような声音の閻魔が呟く。耳の奥に絡みつくようなその響きに、未だ射精の余韻が抜けない私の体がゾクリと震え、まるで声だけで興奮しているような反応をしてしまう。
朦朧とする意識を保てず、力の抜けた体を支えられているのが何とも情けなかった。
「貴様はこの先、淫魔や他の獄卒からこのように施しを受ける。それらを堪え凌げば罪は赦され、現実で犯した全ての間違いをやり直すことができよう。…だが、本当に耐えられる気がしないというのならば、今であれば引き返せるぞ」
「……!」
だが、その言葉に私の意識は急浮上する。ここにきて願ってもない提案に、死にかけていた心が息を吹き返した。
こんなもの耐えられるはずがない。たった1回の性交でこうなってしまうのだ、ここで解放されてもまた淫魔によって滅茶苦茶にされるのは目に見えている。
ならばいっそ、元に戻してもらった方がいいのではないか…?
男根も失い、このまま売女のように淫らに狂っていく自らの姿なんて想像もしたくない。終わりの見えない快楽の沼への恐怖に全てを放棄してしまいたくなる。
だが……。
「…いや、断る……っ…!」
「………………ほう」
閻魔の言葉で、今の今まで忘れそうになっていたことを思い出すことができた。
私がこうなったのは、私自身の責任だ。私が清算しなければならないのだ。
起こしてしまった間違いと悲劇をなかったことにして、少しでも良い未来へ導くために必要なことなのだと。
ならば、私はひたすらに耐え忍ぶしかない。失わずに済んだ命を、無駄にした時間を、そして私が奪ってしまったものを取り戻すためなら。
たとえ行き先が地獄だとしても、飛び込まなければならないのだろう。
「覚悟は揺らがぬか……クク、貴様は本当に興味深いな。ますます気に入ったぞ」
未だに肉棒を抜こうとせず後ろから抱きついたまま、わざとらしく全身を撫でて品定めするような微笑をする閻魔が心底恐ろしかった。
だが敏感になってしまった汗まみれの皮膚は、その圧力を次第に心地良く感じてしまい始めていたのも事実。
臍の下に刻まれた淫紋を爪先が軽くなぞり、完全に満たされない違和感が余計に興奮を誘う。
その手はゆっくりと平らな股間へ向かっていく。本当は一刻も早く振りほどきたいのに、金縛りにでもあったかのように私の手は動かない。
尻穴も開いているせいか、ろくな力すら入れられなかった。
「いつもの威勢はどうした? 儂は何の命令もかけてはおらんぞ」
「……ッ…!」
「言い当ててやろう。貴様は今、その穴に指を挿れて欲しいと密かに願っている…違うか?」
「ちっ、ちが……はうっ!?」
言い返す暇も与えず、閻魔の指が股間の筋を撫でる。しとどに濡れた割れ目を指の腹が触れる度にゾクゾクとした甘い快感が股間を埋め尽くし、再び体中が熱くなるほどの疼きが襲い掛かった。
先ほどの射精による解放感のおかげで忘れられていたのに、こうなってしまえばもう私は抜け出せない。
絶頂するまで延々とこのむず痒さを受け入れるしかないのだと、少ない時間の中で[[rb:理解>わか]]らせられていた。
ぶり返したもどかしさに眉を顰めては歯軋りをして耐えようとする。しかし閻魔が指圧を上げればその筋からとろりと新たな先走りが垂れ、後ろの穴とは遥かに違う悦楽のレベルに、抵抗し難い欲望の種が芽吹いてしまう。
「うっ…はぁっ、く…ひぃっ…!」
「持ち主に似て強情な穴だ……。では、その穴には少し罰を与えてやらねばな」
「!! やっ、やめっ…んあぁ゛ぁ゛!!!」
決死の叫びも行う暇も与えず、閻魔はその指をつぷりと割れ目へと突っ込ませた。
その瞬間に感じるのは途方もない快刺激、そして待ち望んでいたように左右の肉壁はきゅううと指を締め付ける。条件反射ではない、ただ植え付けられた肉欲が強制的にそうさせていた。
「───いぎぃぃッ!!?」
さらに閻魔は躊躇なく指を折り曲げ、ぐちゅぐちゅと割れ目の中を蹂躙する。その間の私は、まるで人間が出すようなものではない絶叫を上げながら体を痙攣させていた。
体内の快感中枢を直接的に撫でられているかのような感覚に堪えきれず、生娘のような奇声を上げながら内股になって抵抗しようとする。
これでは本当に性器を弄られて泣き喚く女ではないかという自分の姿があまりにも恥ずかしく感じ、悔し涙が目元を滲ませた。
「苦しいか。だがそれ以上に気持ち良いだろう? 気が狂ってしまいそうなほどに射精欲が高まっているはずだ、なぁ!」
「っくはぁあぁ!! あっあっ、あーーっ!!」
捩じり、突き刺し、強く圧してゆく割れ目の中の指。尻の中にある肉棒の感覚も消え去り、前面にある股間に意識の全てが持っていかれる。
敏感になりすぎた縦型の肉壁はその証左にどくどくと体液を排出し、それが会陰を伝って流れ落ちる感触すらも快楽と成り代わっていた。
「イきたいか? 早くこの疼きから解き放たれたいか?」
悪魔のような囁きに私は無我夢中で首を縦に振った。もはや限界を超えており、言葉の主の反応にすらも気を配ることができない。頭の中はもう射精のことしか考えられなくなっていた。
早く、早くイきたい…! このままでは本当に頭がおかしくなる……!
股間が焼け爛れて無くなってしまう…!!
「では、貴様の口から[[rb:希 > こいねが]]え。あさましく宣言してみろ」
その言葉を聞き、ほんの僅かに残っていた私の理性がそれをする意味などないだろうと声を上げる。
しかしもう手遅れだ、そんな悠長なことを考えている暇があるなら雄としての矜持などどうでもよくなっていた私は、せめてもの抵抗で目を瞑ってから言葉を紡いでいく。
「………イっ、イきたい…です……! イかせて、ください…!!!」
「…フフ、よかろう…! だが射精は一度したからな、今度は異なる快感を味わってもらおうか」
「なッ、なにを……あぎぃッッ!!?」
言い終えた反動で一瞬気が緩んだ私に、前後から衝撃が加えられる。一方は前から、1本しか入っていなかった指が2本に変わり、割れ目をさらに切り開かれては乱雑に蹂躙される快感に息が止まった。
もう一方は後ろから、入りっぱなしだった閻魔の肉棒が再び硬くなってはいきなり動き出し、ゴリゴリと前立腺を抉られたことによる愉悦に全身が痙攣する。
意味不明なほどに器用な閻魔の絡め手に私の意識は焼き切れる一歩手前までに陥り、ついにその瞬間を迎えてしまった。
「あっ、あっ…イくっ!! イってしまう!! イッ…ぐあぁああ゛ぁ゛あぁ!!!」
瞬間、私は下腹部から何か巨大なエネルギーが放出されたのを感じた。
身を焦がすように絶大な快楽と共に割れ目から飛び出したそれは、自分の魂と等しいと言っても過言ではないほど凝縮された何かであった。
必死に押し留めていた堰がぶち壊され、何もない宙の彼方へと放り投げ出されたかのような途轍もない解放感が全身を包む。
体の中に溜まっていた穢れた膿が浄化されたような気分が瞬く間に広がり、あまりの心地良さに大口を開けて愉悦に浸っていた。
絶大すぎるその快楽に馴染みなどあるはずもなく。射精とは全く異なる緩やかに広がっていく快感に肉体の許容が追い付かず、ただその悦楽に身を委ねることしかできない。
自慰とも性交とも違う未知の快感に力の抜けた頭は項垂れ、見えた下の方には異様な光景が広がっていた。
股間に埋め込まれた割れ目から、まるで破裂した水道のようにぷしゃあっと放出されているそれが、白い濁りを備えていなかったからだ。
もはや尿に近いほど水っぽく、それでいて生温かいが、尿ではないのだろうという確信はあった。それは尿を催す時の感覚ではなく、特有のアンモニア臭もしないからだ。
これらの点から思い当たるのは、一つだけ……
「潮を噴いたか。射精などでは到底敵わない気持ち良さだっただろう?」
「う………あぁ……」
やはりそうなのか……。男であるはずなのに、失くした男根の代わりに付けられた割れ目から放出したモノ。
それが本来メスが行うものであるという事実を知らされた私に、絶望の重圧がのしかかる。
先ほどの射精よりも多くの量を誇っていたそれは、一頻り床にばら撒かれた後もトロトロと流れ続けては足元に水たまりを広げていく。かくいう私は放出の反動から途方もない虚脱感に襲われており、あろうことか閻魔に身を預ける形で体を支えられていた。
恥ずかしさに顔を隠すこともできない私は、ただ茫然と顔を伏せることしかできなかった。
今も獲物を咥えている二つの穴は引き攣り、特に前に至っては指を離すまいとヒクヒクと蠢いている。それを思い切り引き抜いた閻魔は私の肩の上に置いた顔へと持っていき、ぺろりと指を濡らした液体を舐め取った。
その光景すら見る余裕もない私は、指を抜いただけの軽い衝撃で再びイってしまったことに悲観してしまう。
「……ふむ、実に美味い。だがその疼きはまだ消えておらぬようだな」
「あっ!! はぁっ、くぁっ…うぅ……!」
脳が溶けてしまうのではないかと錯覚するほどの快感を認識したにも関わらず、閻魔の言う通り下腹部の疼きは消えていない。むしろ別種の快感に触発されて余計に射精欲は高まっているようで、じんわりとした熱が体中を覆っていた。
その状態で再び股間を撫でられてしまっては抵抗も何もできたものではない。もどかしいむず痒さに悶えながら、再び腿をくねらせて疼きを逃がすことしかできなかった。
「そうだ、貴様はただメスイキしただけで射精には至っていない。つまり快感を得ても射精できぬ苦しみを味わっているということだ」
言われてみればそうかもしれない。射精よりも快感は強かったのに今も下腹部で渦巻いているこの感覚からして…おそらく射精はできていないのだろう。
あまりにも酷い仕打ちだと思いたくとも、潮吹きの余波が強すぎて何か行動を起こすための気力はとうに失っていた。するとようやく後ろの穴が解放され、立つことすらもない私はべしゃりと水溜りの上に倒れ込む。
生温かいその液体は妙に嗅いでしまいたくなる甘い香りを発しており、心地良いぬるま湯に浸かっているような心地に急激な眠気が襲い掛かる。
「貴様はこれより、その体を噛み締めて刑罰を受けてもらう。だがそれすらも乗り越えるのならば、儂は敬意を込めてその罪を赦そうぞ……」
強すぎた潮吹きの反動に、暗い底へと意識が沈んでいく。今もなお股間の疼きはむず痒さを増し続けており、今すぐにでも割れ目を弄りたい気持ちでいっぱいだった。
しかしあまりの疲労感に心と体が追いつかなかったのか、視界はどんどん黒に染まっていく。瞼が落ち、聞こえる呼吸音は遠のき、体の感覚が溶けていくように力が入らない。
私はこれからどうなるのだろうか…?
本当に耐えていけるのだろうか…?
変わってしまった自らの体をまだ受け入れられない。受け入れたくもない。
だが、いくら後悔しても遅いのだろう。たとえ実現はできても、気まぐれに閻魔がそうするとは思えない。
そして知ってしまった真実と私の罪。その引き換えに失い、与えられたモノ。
振り返ろうとしても、一度で全て理解できる訳がない。矢継ぎ早に迫られた選択肢を選び続けた結果がこれだ。
雄としての象徴を取り払われ、代わりにメスと同然の体にされてしまった。常識の範疇を遥かに超越した異常事態が故に、途方もない不安で押し潰されそうになる。
だが希望は絶たれた訳ではなく、むしろ恵んでもらえた方なのだろう。
たとえどれほど快楽に狂おうが、この地獄で生きてさえいればそれでいい。それさえ出来れば、私の故郷を、大切な民たちや家族を守るための道を作ることができるはずだ。
そして、参謀も……。
顔を作り替えられることも、私が撃ち殺すこともない、穏やかな未来を掴み取るために。
私は…耐えなければならない。
あの虎にも、獄卒にも、閻魔にも。
絶対に。何があろうと。
じくじくと股間を蝕む疼きを残り僅かな気力で押さえつけ、胸の内でそう強く決心する。
静かに嘲笑う地獄の主を見上げて睨んだのを最後に、私の意識はなんの前触れもなく途切れていくのだった。