リザードマンの性事情

  ザリュースは、その白と出会い目を見開いた。

  鋭利な刃が胸を貫いた瞬間、彼の世界は一変した。

  激痛が全身を駆け巡る。刹那、息を詰まらせていた。

  研ぎ澄まされた得物の一撃とは、体を不快に熱くさせ、心を騒がせる。

  当然だ。自分を害するもの命を脅かす危険があり、苦痛を味わうのだ。

  胸に焼き印をされたとき、それと似た熱が体から込み上げてやまない。

  思考は真っ白になり、止まる。時間の流れが緩慢なものに感じられた。

  だが血は一滴も流れていない。

  すべて錯覚の成せる業でしかなかった。

  実際に攻撃されたわけではないのだから。

  ただ、彼女との出会いが、それほどに衝撃的であった。

  目をつむれば、五感で得たものの全てを神経に再現できる。

  薬湯らしき香り。薄暗い空間。そこに儚く輝く、無垢なる白。

  メスらしく、するりと伸びていく四肢に柔らかな尾を思い起こす。

  衝撃を受け動くことも忘れた。白を、真紅を、紋様を、ただ眺めた。

  音が喉を貫き、口を通り抜けていった。鳴き声が終わりに向かうほど音階をあがっていき、心の琴線に触れるような震えを伴う。感情の高ぶりを表現しているかのように、一定のリズムで揺らめくオスの旋律だが、それは場違いで突飛すぎる求愛行動。

  ザリュースは我を忘れ、やってしまった。

  彼女が複数の反応をした後に慌てふきもした。

  するとクルシュは日向のようなぬくもりをもって、歯を鳴らす。カチカチと微笑んでくれた。

  向かい合っても、火急の議題でなくオスとしての本懐ばかりを考えてしまっていた。

  彼女の瞳は、深紅の宝石を思わせる艶があった。かすかな光を受けると、神秘的な輝きを放ち魅了された。見つめていると心の奥底まで見透かされたようで、燃えるように色みかかっていた。同時に、どこか温かみのある煌めきに秘めたる意思の強さを感じ取るのだった。

  日の当たる場所で覗き込めば、深みある赤色が一層に際立ち、共にいるだけで満たされる。安直な言い方をすれば、特別なメス。どれだけ言葉を取り繕おうとも、この一言に勝るものはないと感じた。しかし、そんな彼女の瞳は、ときおりに曇る。最初は気の所為だと違いの尾を振る喜びに耽り、ときに絡めあった。しかし、日に日にその曇りは明瞭になり、憂いを帯びている。視線を合わせていても、いつ逸らされるのではないと割れ物を観ている心境に陥ってしまった。

  何かがあるのはわかっているが聞けなかった。

  長らく溜まっていた罪を独白するのと異なった。

  言葉に言い表せない。何か、淀みが含まれている。

  だが、そうだとしても。きっといつか、晴れると信じていた。

  彼女は強い。深い傷を負っても、塊根があろうとも前に進める。

  ひとりでなく家族と在れば、その歩みは何倍もの力を得るはずだ。

  惚れたメスを生ある限り支え、共に歩む覚悟が、ザリュースに在る。

  

  ザリュースは、端的に言えばクルシュと結ばれた。

  戦いに破れ復活を経て、再び、同じ刻を共に過ごしていた。

  クルシュは愛しいオスの前で喉を鳴らし、住居で仰向けになる。

  引き締まった肉体に鱗。そして、ずっと変わらない真面目な表情。

  鱗の内側を筋肉で満たす、倒れ込む。首筋や肩に指を滑らせていく。

  先ず、逞しさを感じた。次に、途方もない愛おしさが胸を焦がした。

  彼女を見下ろすザリュースも喉を鳴らす。夜の空気が、小気味よい。

  同時に心地よさ気な呼吸音をあげる。目をあわせ、口を緩めあった。

  戦いでもないのに、それ以上に心臓が脈打つ。鱗が破れそうなほどに。

  血が巡るほどに体は活性する。メスに子を産ませろと、オスの子を産ませろと。

  部屋中。白と黒が身を重ね合う。気がつけば、ザリュースは彼女を包容した。

  床から彼女の体が浮かぶ。キュウっと胸を締めつけるメスの鳴きが、耳に届く。

  クルシュの純白に蕩けるような熱視線を浴びせ、求愛に喉を震わせるザリュース。

  ひとしきり言葉を交わさず。触れあっていた。見つめあっていた。愛しあっていた。

  「いくぞ」

  手短な言葉をあげ、クルシュが尾に尾を絡めてきた。

  彼女はちいさく頷いた。そして赤い視線でイチモツを視る。

  屈強なるリザードマンのオスに相応しい、肉の得物である。

  クルシュの指五本が、そこを這う。蛇が枝で遊ぶように擦りあげていけば、ザリュースの尾が引き締まっていた。

  今夜もアルビノの白に魅了され目が眩んでいくみたいだ。

  降り積もり、だれの足も触れず残った穢れなき雪原のよう。

  滑らかなる白に指が這う。頭から首にかけて、背を撫で、引き寄せていく。

  そこに跡を刻み、鱗をすりあわせる多幸感に、ザリュースの肉体は歓喜する。

  血潮を熱く漲らせる。性を意識させる吐息をかわし、鼻先から感じあうのだ。

  あまり強くしすぎれば、それこそ雪のように形を変え、指の隙間から零れ落ちまいか不安になる。

  その勃起に指を当てながら、そっと、挿入を求める穴に引き寄せていく。

  導かれるままに腰を前進させる。名残惜しくザリュースは上体を起こして、先端を数センチ。メスの胎内へ埋没させた。顔に微かなシワをつくり、熱を孕んだ吐息に混ざって舌や頬の動きが垣間見えていた。

  「あぁ…………」

  甘い嬌声が突き抜けていった。肺いっぱいに溜め込んでいた空気が、湿地以上の湿り気を伴って、メスの淫靡な香りでオスを誘う。蠱惑的な喘ぎが耳を、しっとりした淫液の誘いを振り切るのは至難。

  「クルシュ……」

  呼びかけ、互いに荒い呼吸を繰り返す。ひやりとしているはずの体から、普段以上の熱が伝わってくる。鱗同士の密着を経て、さらなる挿入が成されていった。

  尻尾のみならず、両足をクルシュは絡ませる。粘膜が密着しあう。

  「はぁ……はぁ……ザリュース、もっと」

  

  クルシュの股間は水漏れさながらにグチャグチャになっていた。

  軽く動くだけで、ヌチュヌチュと泥を踏むのと似た音が、壁を打つ。

  アルビノの純白を火照らせる彼女の色合いは、人間のように変わることはない。

  それでも瞳から放つ感情は変化し息は乱れ水分が増し、喉を鳴らし発情を訴える。

  やがて、全てが挿入される。硬くて熱い感触に口を緩め歯を見せながら、クルシュは胎内で噛みしめる。感じ蕩けながらも、うっすらとした笑みをする。尻尾を劣情のあまりビクビクと震わせながら、幸せに目を細めてみせるのだった。

  クルシュの鼻孔が広がり、ザリュースの匂いを嗅ぎ取った。普段遣いの腰布や湿地帯に、先程に食べた魚の生臭さ。酒の甘みのある発酵臭がする。だが一番に心を束縛するように引きつけて離さないのは屈強な、オスの香ばしさ。脈を感じ呼気を聞ける、当たり前の幸せが胸をつついて、火打ち石を擦るみたいに恋の火花を散らせていった。

  「クルシュ? つらくはないか」

  「ええ。もっと、してくれていいのよ…………ザリュースを、感じさせて」

  二人の呼吸が徐々に荒くなり、湿った吐息が屋内の空気をさらに濃密にする。

  クルシュの喉から低い唸り声が漏れる。反応し、ザリュースの背筋が僅かに膨らむ。

  ザリュースの鉤爪がクルシュの胸部をなぞる。存在を確かめるような儚い触り方だ。

  鱗と鱗が、鱗と爪こすれ合う微かな音が静寂を破った。粘膜同士を絡め、腰を振る。

  彼が動いた途端に、クルシュは首筋をすくませ、ねっとりと唾液を口腔に引き伸ばしていく。我知らずの間にひらき、真紅の目を見開いてしまった。

  「あぁぁっ」

  声をあげ、堪えきれないと絶頂の鳴きが天井に跳ね返る。

  そしてザリュースの腰が激しくなり、粘液質な響きが結合部から連発された。

  クルシュの鱗の隙間に触れる度に、その体が反応し、尾が興奮で左右に揺れる。床を叩く音が外にまで響いてしまう。

  「くっ、う……締まるな。出してしましそうだ」

  

  膣が彼女の切なさを主張するように、尻尾で巻かれるような圧迫を披露する。

  やがて腰を小刻みにしながら、ザリュースは覆いかぶさるように抱きしめた。

  クルシュも負けじと、ザリュースの首筋に鼻先を寄せる。舌を伸ばし、相手の鱗を舐める。塩味がかった味にオス臭さが味覚に広がった。その感触にザリュースは思わず目を閉じ、快感に身を委ねる。また、音階を上へ上へ踏んでいくような求愛をあげてしまう。

  二人の体が寄り添うにつれ、股間の潤いが、二人の動きをより滑らかにしていく。

  分泌物の甘酸っぱい香りが、二人の興奮をさらに高める。発情の坩堝で乱れあう。

  ザリュースの爪が、クルシュの背中を優しく引っ掻く。その刺激に、クルシュの体が弓なりに反る。口から漏れる吐息が、魅惑の霧のようにオスの鼻をいっぱいにする。精神を掻き乱されるが如く。両眼にはクルシュ以外をとらえられなくなっていた。

  その動きに合わせ床が呻く。愛の営みに抗議するかのように床板がきしむ。

  二人の体が完全に重なり合い、互いの鼓動が一つになっていく。鱗と鱗がこすれ合う音、尾が床を叩く音、そして二人の荒い息遣いが、喉の震えが、番いの協奏曲を奏でていた。

  外の雨音も次第に激しさを増し、その音が二人の情熱に呼応するかのように聞こえる。

  肉棒が最奥を、ぐっ、と刺した。両者の性粘膜が、引きつけを起こした。

  その瞬間、クルシュの体が大きく震え、ザリュースもまた全身に緊張が走る。

  二人の動きが徐々に激しさを増していく。

  互いの鱗が擦れあう音が高く、粘った汁が二人の下半身を覆い尽くす。

  その光沢が、窓から差し込む閃光に照らされ、淫猥ながら幻想的に輝いた。

  ザリュースの尾がクルシュの体に絡みつき、二人の距離がさらに縮まる。互いの体温が上昇し、鱗から染みる温度も徐々に上がっていく。壁には二人の影が揺らめき、夫婦の睦まじさを語る壁画のようだ。

  クルシュの爪がザリュースの背中をなぞる。その感触に、ザリュースの体が震える。クルシュの舌が相手の首筋を舐め上げ、その刺激にザリュースは思わず低いうなり声を上げる。

  動きが次第にシンクロし始める。

  快感の嵐が最高潮に達すると、クルシュの口から大きな咆哮が漏れ、ザリュースもまた同調するように鳴く。やがて、二人の動きが緩やかになっていく。互いの体を寄せ合ったまま、肉棒が性を噴き出していた。

  「く、う、あ、熱いのが、たくさん……こんなに、ザリュースの子種が」

  ぬかるむ膣内に種を植え、愛の結晶の誕生を念ずるみたいに勃起が跳ねていた。

  新鮮な魚を陸に打ち上げたみたいに、ビクン、ビクン、とクルシュは膣で活力を感じている。

  だが、番いの夜は一度で収まる程度のものではなく、二度も三度も繰り返された。

  「あぁっ! あぁぁっ! ザリュース」

  クルシュが大口を開け、ぎゅっと腕を伸ばす。鉤爪が鱗の隙間を狙うように突き立てられて、白蛇さながらの四肢が身にまとわりついていた。また、達したのだろうとザリュースは察する。首をのけぞらせ、目を開いてしまっている。

  「あぁ…………」

  彼女に、子種が注がれる。痙攣しながら、それを胎内にうちあげる。

  

  「ザ、りゅーすぅ……」

  たどたどしく発音をあげた直後。白い尾が力を失い、手足だけが強張り、身に張りついてしまっていた。

  そんな彼女を癒やすように撫で続け、ときおりに安らぎの鳴き声をあげて過ごした。

  まさに夫婦の時間だな。と軽く耳元へささやきかければ、ぺちっ、と胸板を叩かれた。

  

  翌日。

  夜が深まる手前。空は曇っていた。

  ゼンベルに呼び出された約束の場所。倒木に腰掛け彼を待つ。

  やがて、バシャバシャと湿地に重いものが動く。現れたのは並外れた巨体。

  二メートル数十センチにも及ぶ長身。筋肉の張り具合もザリュースを、文字通り大きく上回っていた。左右非対称の外見をしているのは、右腕が異常に肥大しているせいだ。左手の指、薬指や小指が欠損しているのもバランスの悪さに拍車をかけていた。

  彼は平べったい尻尾で湿地を打ち、如何にも上機嫌そうにしていた。

  「遅かったな。いったい何をしてたんだ?」

  ザリュースは呆れたふうに見つめた。

  呼び出しておいて遅刻しながら、こんなにも上機嫌であった。

  口が裂けたような笑みは、どこか人懐っこい悪戯小僧を思わせる。

  背負っているのは酒の詰まった革袋だろう。呼ばれた意図は不明だ。

  ゼンベルはといえば、憮然とした戦友を見つめ、笑みが堪えられない。

  「よお! 昨夜はおたのしみだったみてぇだな」

  発達した片腕をあげ、陽気というよりは、能天気に微笑みかけるゼンベルの腹部を殴りつけた。腰掛けたまま迫ってきた彼に、無言で一撃を加えたのであった。

  「いでぇな! 強烈なのをかましやがって」

  「用がそれだけなら帰るぞ。クルシュが待っている」

  ゼンベルは途端に不機嫌に倒木を尻尾で打ちはじめた。リザードマンでも随一の膂力を持ってすれば、軽い仕草でも古びた枯れ木の表面を砕いてしまうのは簡単だった。木の屑が飛んできてザリュースは手で払った。

  「さっきからなんだ。いったい、どうしたんだ?」

  「いや、なんでもねぇよ。それよりもだ、近頃に変わりはねぇか? 近況報告ってやつをやってみようとおもってよぉ」

  「おまえにしては珍しいな」

  「べつに、おれだって、あんなことがあったら気持ちが変わるくらい、あるんじゃねぇのか?」

  「それはそうだな」

  「だろぉ?」

  いまいち煮えきらない態度で、尻尾の上に尻尾を載せられて、重いので払った。

  顔をあわせようとしない理由がわからず、ザリュースは怪訝な目つきをしたが溜め息の後に革袋の酒に口をつけた。それを目にしたゼンベルは、安心したふうに二人きりの酒盛りを始めるのだった。

  深夜。月明かりが木々の隙間から差し込み、二人を淡く照らしている。

  ゼンベルの体は、ザリュースよりも一回り大きく、その鱗には戦いの痕跡が刻まれている。それは彼が幾多の戦場を潜り抜けてきた証だった。普段は頼もしく感じるその体格が、今のザリュースには威圧的に感じられた。

  「近いぞ?」

  「わりぃかよぉ」

  側面から密着されている上に、腕まで絡みつかれている。

  むちゃくちゃにムサ苦しいので、さっさと離れてしまいたい。

  悪酒が入っているのか、さっきからずっと、この調子なのだ。

  「あぁ、考えるのは頭が痛くなるったら、ありゃしねぇ! めんどくせぇ」

  「どうした? 今日は、なんだか調子が変なんじゃないか?」

  甲高い鳴き声をあげられた。

  段々とあがっていく、その独特なものは、間違いなく求愛のものだった。

  ザリュースは首を傾げることも出来ず、真顔でそれを聞き終え酒を一口した。

  「そうか、恋の悩みか」

  「おれはなぁ、おまえが気に入ってんだよ…………そういう、気持ちを伝えに来た」

  「ゼンベル、冗談はよせ」

  「おれがそんな冗談を言うようなやつにみえるかってんだよ!」

  自棄糞気味に発達した右腕に掴まれる。

  仮に冗談だったとしても、この巨体に掴まれれば、如何にザリュースでも一筋縄ではいかない。

  「俺は男色の趣味はない」

  ザリュースはきっぱりと言った。

  「俺には妻がいる。そういった関係は望んでいない――んぐっ?!」

  ゼンベルの動きは突然だった。大きな手がザリュースの首筋を捉え、引き寄せる。

  ザリュースが息を呑む間もなく、ゼンベルの口が彼のそれと重なった。心を通わせた友に口づけをされた。妻のある身で男との接吻など、何かの間違いだと身震いした。

  指を欠損させた左手が、その背にあてがわれ一層に距離を狭められる。

  生気のない倒木の上。雄々しく豪快なゼンベルとは想像もつかない切なげな、恋を訴える呻きが、喉からひっきりなしにあげられる。あたかも傷つけられた子供を思わせ、守らねばと本能が思ってしまう。

  「や、やめっ、俺にはクルシュが……むぐっ?! もぐぅっ!?」

  最初は柔らかな触れ合いだったがいや、密着しより押し込んでくる。手を泥に沈めていくかのように、口を口に、押しつける。舌が動き出し、ゼンベルが口周りをなぞりあげると湿った感触がして、くすぐったさにザリュースは口を開けてしまった。

  ゼンベルの舌が滑り込み、ザリュースの舌と絡みあう。新鮮な魚の脂や内蔵が香る。

  常飲する酒の発酵臭。今日ばかりは特に甘く、魚の脂とオスの唾液が混ざり塩っぽさがあった。

  長い舌がふたつ、尻尾をそうするかのように捻じれ、あわさっていく。

  締めつけられる感覚に舌を引こうとしても、ゼンベルは逃走を許さない。

  唾液が混ざり合い、酒の甘酸っぱい味が二人の口内に広がる。

  ザリュースは驚きと戸惑いで体を強張らせるが、ゼンベルの巧みな舌の動きに次第に力が抜けていく。というよりは、暴れていたが右腕に後頭部をつかまれ、疲れてしまったに過ぎない。

  「ゲホッ! ゲホッ! わるい、冗談だ…………ぞ……?」

  

  唇と唇が離れる瞬間、銀色の糸が二人を繋ぐ。ザリュースの目が潤み、頬が熱を帯びる。ゼンベルの瞳には、欲望の炎が宿っていた。

  「これでも、冗談に思えるってんなら鈍感ってレベルじゃねぇぞ」

  勃起が漲っていた。それも、ザリュースの肉棒より、二回りほどもあって先走りがヌチャリと垂れ落ちているではないか。酒の発酵臭とは異なる、オスの汚れが鼻をついた。

  「おれは、おれは、強さを尊んでいる」

  「そ、それとこれに何の関係があるんだ?」

  「おまえに…………こっちの意味でも惚れ込んじまったんじゃねぇか、わかれよ!」

  「わかるわけがないだろう、うわっ」

  

  口周りの唾液を、興奮しながら舐めあげるゼンベルは、引っ込みがつかなくなっていた。その目には普段とは異なる熱が宿っていた。

  「ザリュース、おれたちは命をかけあった戦友だ。お前への想いを、もう抑えきれない。あんなにクルシュとやりまくりやがってよぉ! 責任とりやがれってんだ!」

  「無茶苦茶だ!」

  「ああ、無茶苦茶なくらい、おまえと、ザリュース!」

  力任せに抑え込まれてしまう。

  この腕に握られてしまえば逃げ場はない。

  また、喉から求愛が流れる。受け止められない。

  欲情でなく不安に心臓が激しく鼓動を打ち始める。

  

  「考え直せ、ゼンベル。俺たちは戦友だ。それ以上の関係になるべきじゃない」

  ゼンベルの勃起が近づいた。穴の内側に、先走りたっぷりのそれが突き立てられる。

  灼けた薪が、鱗のない粘膜を貫通する。口をパクパクと動かしながら、悶える他ない。

  ザリュースの頭の中で、様々な思いが交錯する。妻との誓い、戦友との絆。だがその戦友は自分自身の本当の気持ちを訴えるべく、腰を動かす。喉を振動させるのだった。呼気が荒々しい。初体験なのだろう、キスに比べ腰の動きは粗雑で、暴力的だった。思いの丈を腰に込めて、遮二無二されてしまう。粘膜がギチっと広げられて、目を見開いた。

  「ぐっ! あっ!」

  未体験の摩擦熱。穴が広げられていき、体内で炎をまとった大魚が暴れ回ればこんなふうになるだろう。

  「ゼンベル、聞いてくれ。俺たちの関係は大切だ。こんな形で壊したくない、ぐっ!」

  しかし、ゼンベルの決意は固かった。大きな手でザリュースの肩を掴んだ。その力強さに、ザリュースは身震いした。

  「逃げるな、ザリュース……! おれの気持ちくらい、受け止めてくれたっていいじゃねぇか!」

  夜の湿地。その空気が張り詰める。

  ザリュースは自分の鼓動が耳に響くのを感じた。苦しそうに目を閉じる。

  「ゼンベル、頼む。俺たちはこれ以上進むべきじゃない」

  その言葉とは裏腹に、ザリュースの体は微かに震えていた。それは恐れなのか、それとも抑えきれない感情なのか、彼自身にもわからない。ゼンベルは優しく、しかし力強くザリュースを抱きしめた。

  「とまれるわけねぇだろ! 惚れちまったんだから、おれの頭が、どうにかなりそうになってんだよ!」

  正常位から抱きしめる性行為。それはクルシュに普段からしているのと同じ動き。

  もしかしたら、常に覗いていたのではないかと邪推してしまうが、穴が拡張され熱されていくと思考までも解れてしまって、中々に考えが回らない。そればかりか、股間が体温の上昇にひきつれ勃ってしまっていた。

  「なんだ、おまえも、いいんじゃねぇか!」

  絶望の戦いで、光明がさしたとばかりにゼンベルは舌なめずり。

  ザリュースは抵抗しようとしたが、その力は弱々しかった。妻への義務感と本能が激しくせめぎあった。

  「や、やめろ、これは、何かの間違いで、俺にはクルシュが…………」

  

  ゼンベルは優しくザリュースの頬に触れた。

  「今はそれを忘れろ。ここにいるのは、おれとおまえだけじゃねぇか」

  ザリュースの心の中で、最後の抵抗が崩れ去ろうとしていた。震える息を吐き出し目を開けた。

  

  「ゼンベル、聞いてくれ」

  言葉が終わる前に、ゼンベルの唇がザリュースの言葉を封じた。勃起が逞しい腹筋にサンドされる。ぬめりけがあるのは、先走っているせいだ。そしてゼンベルの魂で何かが弾けた。長らく抑え込んでいた感情が、堰を切ったように溢れ出す。

  「しょうがねぇだろ、惚れちまったんだから!」

  

  すきあらば抵抗しようとするザリュースであるが、鱗と鱗がこすれあうたび、妻としているかのような錯覚を覚える。勃起が刺激を求め腹筋にすりつけられる。ザリュースの尾が、思わずゼンベルの脚に絡みつく。引き剥がそうとするためであるが、求愛をされたように、ゼンベルは気をよくする。

  ザリュースの脳裏に妻の笑顔が浮かんだ

  急に我に返り、ゼンベルを強く押しのけた。

  しかし、そんなものは巨体には通じないのだ。

  ぐり、ぐり、と腰を左右に振るわれ穴が、ひろげられる。

  口を封じたまま、舌が舌に絡みつき、尻尾が尻尾に巻かれた。

  両腕が背をしっかりと捕らえ、勃起が灼熱を穴に与えていった。

  ぬちゅり、ぬちゅちゅり、ぬちゅぅぅ、じゅぅうぅうるるるる

  一方的な愛情表現に濃厚な接吻が、月夜に唾液をきらめかせる。

  ゼンベルの大きな手がザリュースの首筋に触れ、ザリュースの全身に電流が走ったかのように震えが走る。呼吸が徐々に荒くなり、屈強なるオス同士の体臭が濃密なものになっていく。

  キスをされながら、舌や歯に求愛のリズムが刻まれて、勃起が反応してしまった。

  ザリュースの言葉は途切れ、ゼンベルの口が抵抗を封印する。そのキスは時間が経つに連れて情熱的になっていった。ザリュースは抵抗しようとしたが、ゼンベルの力強さに圧倒されていく。

  ゼンベルの舌がザリュースの歯をなぞり、その感触にザリュースは思わず口を開いてしまう。二人の舌が絡み合い、唾液が交わる。その甘美な味に、ザリュースの理性が揺らいでしまう。

  漏れる低いうなり声だけが響いていた。

  ザリュースの尾が、思わず枯れ木を叩く。

  やがて、体に――――ゼンベルの子種が放たれた。

  肥大化した手が肉棒を掴み、強引に射精をさせられ、二人の腹筋はクルシュに捧ぐ筈だったもので粘つく。絆が白濁に染められていった。

  あれからというもの、ザリュースは度々に密会をするようになった。

  クルシュは不審がっている。邪推する赤い目が、鱗に突き刺さっていく。

  それでも「悪いことをしているわけじゃないのでしょう。たとえば反乱とか」と実に率直な物言いを受けるが、天と地がひっくり返ろうともありえないと愛に誓った。

  しかし、クルシュとの関係を続けながら、ザリュースとの関係も続けているのは辛い。

  

  住処で、妻とつながっていた。

  だが、満たされない。後ろの穴が疼いてしまう。

  そしてベンゼンと繋がれば、勃起が満たされない。

  欲求不満を抱え、日々を重ねて、苦悩に鳴くばかり。

  「また、出すぞ……!」

  

  すでにかなりの時間が経過しており、まぐわった刻を証明するかのように床でオスとメスの汁が滲む。体にへばりつき糸を引いてさせいた。それでも飽き足らず、身を丸めながらクルシュの首筋を舐めながら、最奥に先端を埋めて――――真っ白い汁を胎内に粘つかせる。

  「あんっ、最近は、どうしたの?」

  「いや、なに、酒の相手をしろとゼンベルがしつこくてな」

  ドアがいきなり開いて、ゼンベルがあらわれる。

  息を荒げながら、振り向けば、勃起を月夜で見せびらかしているではないか。

  ぎょっとするが興奮のあまり意識が朦朧としているのだろう、喉を鳴らし、妻と密着し逃れようのないザリュースに目掛け――――押し入りを果たすのだった。

  「あっ! あぁぁ!!」

  ザリュースは吠え、妻に身を捧げながら、白い体に身を絡ませながら射精する。

  それに対し、尾と肢体を夫に寄せていたクルシュは悟った。なぜ、後ろめたそうにしていたのか、なぜにゼンベルがしつこかったのか。

  「あ、あなた…………やめて、ザリュースは私の、私の夫なのに!」

  「うるせぇなっ! おれだって、こいつに惚れてる、惚れ込んじまってるのに、ちくしょう! 見せびらかしやがって!」

  ザリュースの呻きは震えていた。

  友と妻の間に挟まれ、棒と穴を同時に責め立てられてしまった。

  これはいったい何の冗談なのか、わけがわからないのであった。

  グルル、と自分の喉が発情の呻きをあげて、二人の目が身にささる。

  それが拒絶なのか、それとも欲望なのか、ザリュース自身にもわからない。

  ゼンベルの舌がザリュースの首筋を這う。その湿った感触に、ザリュースは思わず身を震わせる。唾液の跡が月明かりに照らされる。負けじと、クルシュの手が頬に伸び口を奪われた。甘い唾液に酔いしれると、腰がいきなり、前後に振られた。

  粘膜が拡張される。

  膣が締まって勃起が反応する。

  頭に稲妻の魔法を受けたみたいに、痴呆を起こしそうだった。

  ゼンベルの手が、ゆっくりとザリュースの体を撫で下ろしていく。その触れ方は、戦場での荒々しさとは正反対の、驚くほど繊細なものだった。しかし、その指先には抑えきれない欲望が滲んでいる。

  クルシュの舌が口の中どころか、喉にまで触れる。恋敵の出現で愛液がプンっと濃密なる香りを発した。

  三人の体が密着し、三種の鱗が音色を奏でる。

  ザリュースの喉から、思わず甘い声が漏れてしまった。

  その声に、ゼンベルの動きがさらに激しくなる。穴がめくれてしまう。

  刺激が強すぎる。膣が勃起を挟み、残った子種を、びゅるりと注いだ。

  

  ゼンベルの舌がザリュースの後頭部を舐めあげる。その感触に、ザリュースの尾が思わず床を強く叩く。湿った吐息が耳に当たり、全身に震えが走る。

  「や、やめぇ」

  ザリュースは言葉を絞り出すが、その声には力がなかった。その言葉とは裏腹に、体は熱く火照っていた。ゼンベルは一瞬動きを止め、ザリュースの目を見つめた。

  「本当にそう思うのか?」

  「そっちを見ないで!」

  再びゼンベルの口にクルシュのそれと重なる。今度のキスは、さらに深く、さらに熱を帯びていた。唾液が二人の顎を伝い落ちる。その感触に、ザリュースの最後の理性が揺らぐ。皮肉にもゼンベルに穿られた穴が、力いっぱいに彼を締めるのだった。

  ザリュースの舌が、二人の舌が再び絡み合い、部屋に甘い音が響く。

  膣内と肛門内の勃起が互い違いに跳ねる。そして振り回される。

  ゼンベルの手がザリュースの背中を這い、鱗の隙間に触れる。その感触に、ザリュースの体が弓なりに反る。口から漏れる吐息が、部屋の空気をさらに熱くする。

  ザリュースの手が、おずおずとゼンベルの胸に触れる。その傷だらけの鱗に、これまでの戦いの記憶が蘇る。二人が共に戦場を駆け抜けたのが、走馬灯のように頭をよぎる。

  ザリュースの心の中で、最後の抵抗が崩れ去ろうとしていた。彼は震える息を吐き出し、ゆっくりと目を開けた。ゼンベルの熱のこもった眼差しが、彼を見つめていた。

  「ゼンベル、俺は、俺にはクルシュが」

  言葉が喉元でつかえる。しかし、もはや言葉は必要なかった。

  ザリュースの体が、全てを物語っていた。怯えたように震え射精する。

  胎内に彼のものが飛び散り、クルシュは愛情を含む唾液を喉に送りつける。

  何度も鳴き、夫が遠ざかるのを恐れるかのように体が痛いくらいに絡んでいた。

  二人の唇が再び重なり、より深く、より激しいキスを交わす。唾液が混ざり合い、その甘美な味が二人を陶酔させる。もはや後戻りはできない。入り込む余地などありえない。

  それを見つめ、勃起を引き抜き、ゼンベルは全てを悟るのであった。

  「…………おれは」

  

  逃げるように立ち去った戦友。クルシュを一瞥すると、彼女は納得した。だから背を追いかけ、声をかけた。

  「おい、バカヤロウ」

  「ザリュース……おれは」

  汚れた形跡を隠しもせず、草臥れた様子でいた。

  溜め息をつき、胸の模様をひっかいてから、伝えた。

  「おまえのことは、一番の戦友だと思っている。それは何があろうと、これからも変わらない。オスの中では、おまえが誰より、一番だからな」

  筋肉が密着してした。精液臭くて、嗅げたものではない。

  しかし、突き飛ばすことも出来なくて、しばらくそうしていた。