ヒーリング・スポット(あっさりお昼寝編)

  「うう~ん……。」

  草むらに横たわったまま思い切り伸びをする。

  心地よい日差しはこの季節には珍しく適度に体を温めてくれるし木陰を駆ける風の音が心地よい。

  背中ごしに感じる地面の暖かさはちょっとした温熱マッサージみたい。

  そしてわたしの体と地面を挟む草の感触はちょっとひんやりして体を刺激してくれる。

  木々に囲まれた森の中、そこにあるこの広間はわたしだけの貸し切りのリラックスルーム。

  空を見上げればすがすがしい青空。うつぶせになって見れば静かな木々に囲まれた静かな空間。

  あぁ……ホント・ホントに気持ちいい。

  ちょっと歩いて道に出たら人が暮らしている場所があるなんて信じられない……。

  そんな場所で、人の気配を断って誰にも遮られる事なくこうしてくつろげる。

  気持ちいい……ホントに素敵……。

  サワ……

  「あ……」

  風が吹き軽く草むらが揺れる。

  それがわたしの肌を直接なでてしまう。

  背中とお尻から暖められていた体がちょっぴり冷めた感覚が気持ちいい。

  思わず腰骨に手を当ておなかからそっと胸に手を運ぶ。

  「あん……」

  指がちょっとだけ柔らかい胸元に触れる。いつの間にかピンと張っていた胸の先がかわいい刺激を与えてくれる。

  その動きの中に余計な触感は何にもない。そう、一枚の薄布の感覚さえも。

  そう―今のわたしは……は・だ・か・ん・ぼ♡でこの草むらに横たわっている。

  「は・だ・か・ん・ぼ……きゃんっ♪」

  つい口に漏らしてしまい恥じらってしまう。

  こんな事普通は言えない。こんな事普通じゃできない。

  この森の中、暖かい日差し、気持ちの良い風に青々と茂る草むら。

  その全てがわたしの心を、そして体を解き放ってくれる。

  そしてこの生まれたままの体いっぱいでそれらを感じ包まれる。

  これって素敵。これって最高。

  癒やしどころか生まれ変わるってこう言う事なのかも―そう思える一時。

  そう思いながらわたしの手は胸元から鎖骨を通り首筋・そして顔まで伸びる。

  この気持ちよさに浸っているであろうわたしの顔に。

  [newpage]

  でも…わたしの手はそれに触れる事はできない。

  何一つ身につけていないはずのわたしの体にあるただ一つの異質な触感。

  それは顔全体を覆う青と緑の仮面。顔かたちこそ無表情だけどその青と緑の色合いを交えたデザインはまさにこの場所を示しているみたい。

  その色合いに惹かれてわたしは迷う事なくその仮面を求めた。

  そしてこの仮面がわたしに勇気をくれた。この場所で全てを解き放ち包み癒やされる勇気を。

  だって…この仮面のおかげでわたしはさらにもう一枚「脱ぐ」事ができたのだから。

  今のわたしは人間じゃない。体は人間の女性だけど……もっと別の……もっと違う……。

  そんな存在に生まれ変わった様な気持ち。

  あぁ……いい……さ・い・こ・う……♪

  裸になって顔かくして森の中で寝転んでいるだけなのにどうしてこんなに癒やされるのだろう。

  普段服と一緒にまとっている色々なものがみんな洗い流されるみたいな感じ。

  顔中に出ている色々なものがみんなかき消えるような感じ。

  この暖かい日差しとそれが暖めている地面のぬくもりが、時折吹いてくる風や草むらの軽い刺激がわたしをここまで癒やしてくれるなんて…。

  「ふぅ……あん……ああ……」

  癒やされてる・心地良い―気持ちいい。

  わたしの顔は心から癒やされる悦びほころんでいるのがわかるけどそれは顔にかけた仮面により表には見えない。

  だからこそ余計感じちゃう。

  顔を隠し普段のわたしとしての色々なものを遮った事でより裸になったわたしにより深く・広く・自然に全てがしみこんでくる。

  あぁ…満ちてる……満ち足りてるよぉ……。

  全身が悦んでいるのを感じる。癒やされ・満たされ・悦んでる。

  心と体の疲れが抜け落ち入れ替わりに何かが満ちていく気持ち。

  いい……やっぱりここに来て良かった。こうしてよかった。

  そう思うとわたしは改めて大きく伸びをする。

  まるで体いっぱいがこの森全体まで広がるような気がした。

  [newpage]

  そのまま何度か軽く寝返りも打ってみる。

  体が地面に転がる刺激が気持ちいい。

  そしてそのまま軽く体を丸めてみる。

  言うまでも無いけど―お母さんのおなかの中にいる赤ちゃんみたいに。

  「うふふ……」

  仮面の下でつい顔がほころんでしまう。

  心と体が癒やされすぎて赤ちゃんの頃まで戻っちゃったみたいな気がするのかも。

  でも―仕方ない気がする。

  「生まれたままの姿」で「ゆりかご」の中に抱かれているのだから。

  わたしだけどわたしじゃない命ある存在。

  もしくは別の生命に生まれ変わる途中の存在。それが今のわたし。

  素顔を隠す仮面は裸のわたしにそんな事を感じさせてくれるかのようだ。

  そしてそう感じられる心と体がさらに心地よく感じられてくる。

  その心地よさがわたしを少しずつ眠りに誘う。

  曲げていた膝は自然と伸びながら草むらに降りる。それを押さえていた腕も解かれて同じ様に地面に添えられる。

  もし目が覚めたら別のわたしになっているのかも…どんな姿でどんな産声を上げるのか……。

  そんな事を思いながらわたしは仮面の中でそっと瞳を閉じる。

  風と草むらのざわめき・肌の震えと胸の鼓動が子守唄の様にわたしを包む中心と体を森に預けて……ウトウトと……。

  [newpage]

  「うっ、う~ん……今日もすっきりと気持ちよかったぁ……」

  太陽が大分傾いた頃、目を覚ましたわたしは名残惜しげに家路につく道の上にいた。

  久しぶりに体を包む布の感覚と遮るものない素顔全体で感じる日差しと風の感覚と共に。

  あの森で仮面にはだかんぼで癒やされたあとこうして服を着て素顔でいる時もちょっと気持ちいい。

  これがリフレッシュ感って事なのかも。

  この感覚を覚えちゃうと悔しいけどあのままずっと森にいたいとも思えないし……ちょっと複雑な気持ち。

  仮面を被ってしまうのはもしかすると無意識のうちに「区分け」をしているのかもとも思ってしまう。

  仮面を被り裸になって過ごす事で「その姿の時だけ」あそこで癒やされる事ができる。

  それ以外は素顔に衣服を着て日常を過ごす。

  それがわたしをより癒やしてくれるのかも知れない。

  ふとそんな事も考えてしまう。

  とりあえずはひとまずはいつもの日常を頑張ろう。そして時が来たらまたあの場所であの姿になって体と心いっぱいに癒やされよう…。

  そう思う内にその足はついちょっとお値段高めの新作スイーツの広告の貼られたコンビニに向かっていく。

  今度は「いつものわたし」として癒やされる為に……。

  了